さて、お友達づきあいして、どう進展するかな?
というか、付き合ってみたら「楽しかった」と思うんですよね。
そんなわけで、第2話です。書いてみたら、思った以上に1話より長くなったのは・・・謎です。ヤンロビの道は、まだ始まったばかりですv
イズモンダル観光局と冥王星観光局とのタイアップ企画
恋のパワースポット冥王星と結婚の惑星イズモンダルの『ハッピーブライダルプラン』は、
「月の王子に心ときめいていた冥王星の娘が、幼馴染の青年からの真実の愛の告白を受け、大どんでん返しの末についにイズモンダルでハッピーエンド!」という筋書きのラストのCM効果もあり、それはそれは銀河を揺るがす大反響となった。
「私も冥王星に行きたい!」
「俺も! 冥王星で彼女に告るんだっ!」
♪恋をするなら、結婚するなら~~冥王星とイズモンダル~~~♪
金をかけまくった広告会社ドンツーのCMなんぞ軽く蹴飛ばし、その年のCMグランプリに輝くことになった話題性のお蔭で、現在、ロビーの手元には気軽に使えるお小遣いがたんまりあった。
「じゃあな、イック」
地球で適当な場所にナガヤボイジャーを停めては、ふらふらと遊びに出かけるロビーに、今日もウサギ型サポートロボットはその愛らしい顔をしかめて答える。
「・・・つか、またヤンと遊びに出かけるのかよ?」
「おう! あいつ金持ちの癖にB級グルメもいけるのな。だから、俺のお勧めラーメン屋制覇の次は、ホットドッグかクレープか・・・」
ま、ネオ・トーキョーで一番うまいポテトは、もう食わせたから、今度はどうすっかな~~~
鼻歌交じりに出かける支度の主に対し、イックは深い深いため息をつく。
「あのな、ロビー」
「なんだ? イック?」
金ならあるぞ?
「冥王星からの払いが良かったからな~~~~。結婚式の費用もかからなくて済んだとかで、こっちが祝儀払うはずが、あっちからプロデュース料上乗せしてくれるんだもんな!」
気前イイよな!
「それに、ドンツーに前に、ほとんど詐欺まがいで巻き上げられた分も、ヤンの弁護士が取り戻してやったから、その分も潤ったらしいし。いや、ほんっと、イイ稼ぎしたもんだ。キャッシュで払ってくれた後で、追加でも振り込んでくれるとはな~」
「・・・つってもお前のスマブレ、まーだ、止まったまんまだけどな」
「そりゃ、仕方ねーだろが!」
口をへの字に曲げて、アラサ―とは思えない少年めいた顔でロビーは盛大に拗ねてみせる。
「サポートロボットに『本人が使えないよう、振り込まれた金については厳重に支出管理されてる』ってコトで、俺の信用、スマブレ回復する程戻ってねえんだからよお!」
なあ、イック。いい加減、俺の支出管理やめねえ?
「そもそも、その機能だって俺がガキの頃に『こづかい貰うとすぐ使っちまうから』ってんで、どーしても貯金しなきゃ買えねえ奴のためだけに、お前に設定した口座と機能じゃんか」
「その機能のお陰で、お前がおねーちゃんたちに騙されては、文無しになっても入院費だの食費だの俺様が生活全般の費用を賄えたんがな」
「え? そーだったのか?」
初めて聞いた、との顔にイックは、両耳をぴんと立てて、むうむうにまくしたてる。
「たりめーだっ! お前! 家出してから、稼いだってすぐに文無しになるの繰り返しだったじゃねーか! そんなお前の食費だの光熱費だの薬代だの入院費だの、どこから出てたと思ってたんだよ!」
「・・・借金で・・・・」
で、それを踏み倒して生きてたと思ってた、との言に、イックは「この馬鹿があああ!」と叫んだのは言うまでもない。
「お前が生きてくために、俺様が・・・俺様がどれだけ今までサポートしてきたと思ってやがる!」
「あ~~、でもよ! ほら、今回はマジでホントに金あるし・・・」
「相手がおねーちゃんじゃねえから、お前が投資話に引っかかることもねえとは思うがな・・・」
「そーだぜ、ヤンとメシ食ったり、競馬しに行ったりしても、俺が金を出すことほとんどねえんだぜ?」
「・・・お前がヤンに奢る以上に、ヤンのがお前に金出してくれてるもんな・・・」
「っていうか、あいつが金がかからなすぎるんだよ! 一体どーなってんだか、あいつの金運・・・」
パチンコに誘えば、いきなりフィーバー。競馬では、あっさり万馬券。
「競馬、競輪、オートレースに、パチスロ、麻雀喫茶・・・・」
なんで金持ちの社長様が、賭け事までツキまくるんだか!
「俺が、すってんてんになってる脇で、じゃらじゃら玉出しまくってんだぜ?隣の台だってのに!」
「根本的に、お前とは金運が違うのと、お前がダメすぎるだけだと思うがな」
「あ! ひでえ! 主人差別だ!」
ぷりぷり怒りながらも、こんなのはいつものやりとりなので、それについてはイックは別に気にならない。
気になっているのは、別の意味でのことである。
「あのなロビー・・・ヤンとでかけるの・・・楽しいのか? お前・・・」
恐る恐る聞いているイックの様子に頓着することなく、返事は実にあっけらかん。
「おうっ! 思ってたより、ずっと楽しいぜ! あいつイイ奴だな! 気前いいし、玉分けてくれるし!」
「・・・・・そこかよ・・・・・」
思わずがっくりと両耳をうな垂れさせてしまうイックをよそに、じゃな、とロビーはひらひらと手を振り扉を開ける。
「じゃな~~~~~」
そんなロビーに、思わずイックは大声で怒鳴る。
「こらああああっ! 俺様の話、まだ終わってね・・・・」
って、どーしてこう逃げ足だけは速いんだか。
『まあ・・・一応・・・』
どこへ出かけるかは事前にこうして聞いているし、万が一の時は、サポートシステムにある「主人救出システム」で駆けつけることもできる。
今まで、マフィアの情婦にほだされた挙句に、金は取られる命は狙われるなどあっても、なんだかんだとロビーの命が無事だったのは、すべてイックがぎりぎりで助けてきたからである。
『イセカンダルへ行って、無事帰ってもきたしな・・・』
自分さえいればなんとかなる。そう思うが、どうにも心配がぬぐえない。
それは、ロビーは自覚していないようだが、イックははっきり覚えているからである。
―――私はお前を愛しているのだ!―――
「なんだって、ヤンみてえに厄介な男に惚れられちまってんだよ、ロビーの馬鹿野郎・・・」
高利貸の金融業。表看板は優良企業のヤンズ・ファイナンス・ホールディングスだが、裏の稼業はヤクザもびびる裏金融の帝王である。
「あんな・・・命がいくつあっても足りなさそうな野郎に、惚れられちまったら・・・」
危険度は、マフィアの情婦だった巨乳美女に、ちょっとうっとりしていた時の比ではない。
いつ何時、巻き込まれてどうこなってもおかしくないのに、ロビーは飽きもせず、気にもせず、こうして今日も気楽に出かけていく。
「てかなあ・・・これ・・・ヤンにとっちゃ『デート』になってるって・・・・」
ロビーの奴、認識・・・してっか?
「ぜってー分かってねーな。うん」
せいぜい気の置けないメシ友が出来たぐらいの認識だろうとイックは確信している。
しかし、周囲はどう思うか?ヤンを狙っている者が、ヤンが最近常に蕩けそうな瞳で見つめている者について気が付いたらどうなるか?
「アタマ痛え・・・・・」
そのあたりは、月の王国ルナランドに帰ったハッチも心配はしているらしく、何かとイックに連絡してくる。
―――イック、もし必要なら・・・―――
ルナランドの精鋭SPをロビーにつけようか? とまで言ってくれたのだが、流石にそこまですれば、ロビーが煩がること確実なので断ったのだが・・・。
「やっぱ、ハッチに頼んどけば良かったかな・・・・」
最初は、すぐにロビーが飽きるか、ヤンが仕事で忙殺されるなどして「縁など切れるだろう」と思っていたのだ。
ところが、予想に反して、至極、ロビーは楽しげなのだ。
そして、ヤンもどうやって時間のやりくりをしているのか、甚だ謎だが、何かと時間を作ってはロビーを誘うし、ロビーもまた最近では自分からヤンを遊びに誘ったりしている。
ついこの間も、火星にオープンしたばかりの絶叫マシーンを堪能してきたばかりである。
「火星も観光局長に俺、顔が効くんだぜ。招待券貰っちまった。だから、一緒に遊びに行かねえか?」
ロビーから連絡を取っている姿を見た時のイックの衝撃は、それはもう筆舌に尽くしがたいものであったのは、もはや推し量ることすらできないレベルであった。
「でもまあ・・・なあ・・・」
困ったことに、いつもの巨乳美女らと違って「金をむしり取られる」わけではないので、妙に長続きしてしまっているのである。
金の切れ目が縁の切れ目なロビーなのに、その「金」が切れない。よって、縁も切れない。
「このまま『交際』続けてどーする気だよ、あの馬鹿野郎・・・・」
イックからすると、ロビーがヤンに深入りしているようにしか見えない。
どうしても、そうとしか見えない。
だが、付き合うなと言っても、本人がへらへらと楽しく出かけてしまうのを止める権限まではない。
いくらイックが、ロビーのサポートロボットといえど、そこまで主人を拘束する力はないのだ。
実害がないから、付き合いが続いてしまうのだ。
だが・・・本当にいつまでも無事なのか??
「ロビーのばかやろが・・・」
主の居ないナガヤボイジャーに残されたイックの独り言は、ただただ空しく消えるばかりであった。
★★★
そんなイックの心配を余所に、ヤンは日々幸せな時を過ごしていた。
何せ、あれだけ追いかけても捕まらなかった恋しい人が、自ら誘ってくるのである。
「よ! また、いい店見つけたんだぜ~~!」
ちょっと出てこれねえか?
その誘いを断るなど、あろうはずがない。
そう、どんな大口契約を前にしていようとも、である。
「いってらっしゃい、ヤンさん!」
「後は任せてください、ヤンさん!!」
アロとグラの2人は、このところヤンのサポート役として更に急成長し、今やヤン本人がいなくとも相当な契約なら任せられる程になっていた。
「すまんな、お前たち」
私用で抜け出すボスのことなど、呆れてもいいだろうにと思うのだが、この2人は呆れるどころかヤンの恋路をひたすら応援してくれる。
「ヤンさんのためっス!」
「そうっス!」
「気にしないでくださいっ!」
忠義者を配下に得たものだ・・・。
その己の僥倖にしみじみと感謝をしつつ、社長室からうきうきと出かけるヤン。
そのヤンが大事にしている宝箱の中は、「みるくいちごキャンディの空袋」に始まり、ロビーと出かけた先でのラーメン店の箸袋だのパチンコの玉だの雑多なものが次第次第に増えていっているのだが、そんな上司を温かく見守るアロとグラだった。
「ヤンさんが元気になって、本当に良かったな・・・」
「本当っス・・・」
一時期、心底落ち込んで、いつも暗い瞳をしていて。挙句の果ては、ほんのちょっとロビーに似た雰囲気の明るい茶色の髪の男が差し出した芋ようかんを頬を染めて受け取っていた時など、どうしたものかと心底案じたものだった。
「でも、もう大丈夫っスね」
「そうだな。俺たちのヤンさんだからな」
業績はヤンがちょくちょく抜けだそうが、大口取引前に、その契約を蹴ってまでロビーのところへ出かけてしまおうが、現在、全銀河連邦中の支店の業績がうなぎ上りである。
「冥王星とイズモンダルへの融資が、ヤンズ・ファイナンスを更に有名にしたよな」
「あのCM効果絶大だったっすよね~~~」
それまで、どちらかというと裏稼業の方が有名だったヤンズ・ファイナンスの「表の顔」である「優良金融企業」としての業績が、突如として空前の景気に沸いたのは、確かにあれ以来なのである。
♪幸せな夫婦のための低金利融資や新婚生活費のサポート、困った時にはヤンズ・ファイナンス♪
今や、CMソングまでヒットするぐらいである。
もちろん、このCMもまた、ロビーが「イズモンダルで結婚したカップルの面倒も見てやれ!」と、冥王星の観光サポートの一環として、ヤンに要求した結果として『ついで』に作ったものなのだが、それが思いっきり銀河中にいつでも聞かれる流行歌となろうとは。
「ロビーは、ヤンさんにとっては福の神かもしれねえなあ・・・」
アロがしみじみと言えば、グラも頷く。
「ヤンさんのこと、嫌わないで欲しいっスよね・・・」
「そうだな・・・」
仮に、ヤンの『愛』が報われないとしても、手ひどい失恋だけはさせないで欲しい。
心底そう願う2人であった。
そうなのだ。この時点では、まだアロとグラすら、ヤンとロビーの関係はいつか終わると思っていたのである。
『ロビーは女好きだからなあ・・・・』
いつか、本命の女が現れたら・・・・終わる。
その日が来ないことを・・・いや、せめて・・・・少しでも、その日が来るのが遅くなることを、ただ祈るしかできなかったのであった。
イックがまったく逆に、なんとか早く縁が切れてくれと祈るのと同じように、いずれは終わることだけは、信じたままに。
★★★
そんな周囲の心配など露知らず。
ロビー本人もヤンも、至極友好な関係を築いていた。
何しろどこへ行っても「楽しい」のだから仕方がない。
パチンコ、競馬、競輪、麻雀、高級クラブに、居酒屋に。
ヤンとしても意外だったのは、どんな高級店へ連れていっても、どこの店員からも、常にロビーは、それはそれは丁寧に対応されることだった。
「・・・この店はドレスコードが煩いことで有名だったのだが・・・」
「そっか?」
ある時など、夜景と味が評判の高級レストランへ連れて行った時など、流石に着替えをさせなければダメかと思っていたのに、店側はジーンズ姿のロビーを実に丁寧に迎えたのである。
『銀河の英雄・・・あるいは、私の連れだからか?』
だから、何か遠慮したのか? とも思ったが、すぐにそれは違うとヤンは気づく。
単なる遠慮ならば、心のこもった接待などしない。
人間観察に優れているヤンだからこそ、表面づらかどうかなどすぐにわかる。
『ああ、そうか・・・』
窓際の一番良い席に通されて、夜景を喜んでいるロビーの姿をウエイターがにこにこと見つめている。
料理が運ばれた後にはシェフがわざわざ挨拶に来る。
それはロビーがあまりに自然体でいるからだったのだと。ヤンは気づいた。
「美味かった! 流石だね~~~」
「お褒めに預かり恐縮です、ロビー様」
「様は、よせって」
「いえ、ロビー様の舌が確かなのは、我々シェフが一番知っておりますので・・・」
「褒めても何もでねえって。あ、でも、あのサーモン。焼き加減、もうちょいと工夫すると若い女には、もっとウケるかもな。見た目って奴の好みの問題と、舌触りが・・・」
「なるほど・・・! 確かに」
老練なシェフが、実に素直に頷くのだ。だがその光景は不思議なほど自然なものでもあった。
『そうか・・・ロビーのこの空気か・・・』
どこにいても自然体で、肩肘張らない不思議な空気。
その雰囲気こそが、どんな豪奢な衣装以上に、ロビーをその「場」に馴染ませてしまっているのだと。
昔来たことがある店とかいうわけでもなくとも、一見様お断りの店さえも、ロビーを断る店はどこにもなかった。
『ああ、思えば・・・』
私もそうだったな。
初めて会った時のロビーをヤンは思い出す。
莫大な借金を抱えているのに、自分を前にして、ごくごく平然と笑っていた不思議な男。
きらきらとした青い瞳を輝かせて、無邪気なまでに投資話の成功の確実性を語っていたロビー。
絶対に詐欺だと分かっていたのに。
ロビーに貸し付けても、返済がされないことなど分かっていたのに。
すでに、自分のところがまとめていたロビーへの借金分だけでも、十分にロビーをその場で捕えて『身体で払わせる』ことだって出来たのに。
どうしてだか、貸したくなったのだ。
ロビーの喜ぶ顔が見たかったから。
そして、そんな自分にロビーは「みるくいちご」キャンディの大袋をくれたのだ。
それが嬉しくて。
だから、ロビーを失ったと思った時、どこか似た笑みを浮かべた青年が、芋ようかんを差し出した時・・・彼にロビーの面影を見て、ぽうっと僅かに心が和んだのだ。
だが、彼とロビーの違いは明らかで、あの青年はヤンの投資を元に大成功を為し、借金の返済はもとより現在も融資を続けてやっている「優良顧客」に成長した青年実業家となった。
その彼から密かに熱い眼差しを向けられたこともあったが、気づかぬ振りをしたのも自分である。
彼はロビーではない。ロビーではない以上、手に入れても空しいだけだと分かっていた。
そんな彼に『身代わりでも・・・いいんです』と言われた時には、流石に少しだけ哀れにも思ったが、それだけである。
ロビーはこの宇宙に一人しかいないのだ。
愛しいロビーは・・・そして、自分をこうも恋に狂わせる存在は。
しかし、そんなヤンの心を知ってか知らずか、無邪気にロビーはヤンを親しい友人として接してくる。
共に出かけたり、観光したり、バーや居酒屋で飲んだり、ヤンが万馬券を当てた時など『すげえっ! 初めて見たっ!』と自分のことのように喜んで抱き着いてきたりするのである。
その「親しい友人関係」が時に胸にちくりとした痛みを伴うものであろうと、それでも良かった。
逃げずに・・・自分が触れられる距離にいてくれる。
そう。ヤンでさえもそれで満足していたのである。
だが、意外にも転機は妙なところで訪れた。
★★★
その日、ロビーからの誘いは高級百貨店での買い物だった。
「何か欲しいものでもあるのか?」
珍しい、と思って尋ねれば、ああ、とロビーはあっさり説明する。
「ほら、あの冥王星の観光局長の美人娘のこと覚えてるか?」
「ん? ああ・・・あの」
イズモンダルで幼馴染と結婚した・・・と言うと、そうそうとロビーは頷く。
「あの娘さ、ハネムーンベイビーご懐妊らしくてさあ~~~」
いや。すごいわ、これでまた冥王星観光の御利益百万倍だな!と笑いつつ、ロビーが向かったフロアは、新婚夫婦へのお祝いのギフトコーナー。
「結婚祝いは、結局、なんか遠慮されちまったからよ。ご懐妊祝いっつーか、まあ、おめでとさんって気持ちだけでも何か贈ろうかと思ってさ」
ああ、こういうところだ。
小遣い稼ぎでプロデュースしているとか言いながら、そうして入った金を、惜しむことなく祝い事に使ってしまう。
「本当にお前は・・・」
「ん? 変か? おめでた祝いって・・・」
「いや、そうではなくてだな・・・」
そうではない。ヤンは、ただ感心したのだ。
今までヤンが知っていたほとんどの人種は「金」というものの魔力に負けるものばかりだった。
己が稼げは稼ぐほどに、人は金に執着し、そして、より浅ましくなる。
なのに、ロビーは違うのだ。ロビーだけが、不思議なほど、どれほど借金を背負っていても、逆に、大金を手にしても、金の魔力という負のオーラにまるで浸食されないのである。
最初は単に考えなしなのかとも思っていた。だが、今は違うと分かっている。
そうなのだ。ロビーは、信じられないほど「金に汚くない」のである。
「一攫千金~~~」など言いながら「働かずに、ウハウハ~~~」とか言いながら。
その実、まるで頓着していない。
その癖、霞を食べて生きている仙人のような「浮世離れ」したわけでなく「世俗まみれ」この上ない。
こんな不思議な存在、他にヤンは見たことがない。
そして、だから惹かれるのだ。
その気前の良さに。
己の才能も、財産も、失くしても気にしない大らかさに。
そして、何があっても陽気な、その笑顔に。どこまでも深く澄んだ青い瞳に。
『それにしても、まるでこれでは・・・』
ギフトコーナーとは言っても、周り中、ベビー用のいろいろなグッズに溢れている店内で、ああでもない、こうでもないと2人で吟味していると、まるで、自分たちこそが新婚夫婦のようではないか。
実際、あちこちで仲睦まじいカップルが、あれこれと友人の子供用にと選んでいるのだから、ヤンがそう思うのも無理はない。
そして、実際、男同士であろうとも、最近では子供も得られるし結婚もできるご時世だ。
こうしていると夫婦に見られているのではないか? との夢想さえしてしまう。
だが、肝心なロビーはまるで気にせず、「なあ、これどうだ? いや、どっちかってーと・・・」
と、あれこれ手に取っては、また戻し、吟味に真剣そのもので。
『ロビー・・・』
愛しい。心からそう思う。それが自分のただの欲望でも夢想でも、今こうしていられればそれでいい。
「なあ、ヤン?」
そんなヤンの心など素知らぬ風で、ロビーはあっけらかんと聞いてくる。
「今日、時間、まだ大丈夫か?」
「は?」
時間など・・・そんなものロビーが望むならいくらでも都合をつけるのに、何をまた? との不思議そうなヤンに対して、ロビーは「あのさ」と、ベビー服を手に問いかける。
「これ選び終わって、発送手続きしたら・・・一緒に、俺の気に入りのキャバクラ行かねえか?」
「キャバクラ??? 私と・・・か?」
女と遊びたいなら、自分は邪魔ではないのか? と聞きたげなヤンに対してロビーは「無理か?」と再度問いかける。
「いや、俺はキャバクラって好きなんだけどさ。ハッチの野郎は、どーも苦手みてーで・・・」
誘ってもノリが悪かったとかで、以後、誘わなくなったのだとロビーは愚痴る。
「でもよ、楽しいんだぜ? で、せっかくなら、あんたも一度ぐらい『高級クラブ』じゃなくて、庶民の楽しみって奴を一緒に楽しんでくれたら、俺も楽しいかな~~って」
思ったんだけど。
「分かった」
「マジ!?」
「お前の誘いを私が断るはずがなかろう」
「いや、気乗りしないなら・・・」
少々躊躇するロビーに対し、ヤンははっきりとそんなことはないと言葉を続ける。
「お前が誘ってくれたのは、『私』も楽しめるだろうと考えてくれたからなのだろう?」
「・・・・うん。まあ・・・趣味じゃねえかもって、少しは考えたんだけどな」
イックなんかに聞いたら、絶対「お前は、馬鹿か! 誰もがお前みたいな下種野郎じゃねーんだよっ!」って絶対言うだろうし、とのロビーの言には、思わずヤンもまた吹き出してしまった。
「こら! 笑うなよ! 一応・・・考えたんだぞ? あんた、いっつも俺のこと高級店につれてくからさあ」
「遠慮は無用と言ったはずだが?」
「俺が気になんだよ! あんたが俺を喜ばせたいなら、俺だってあんたにお返ししてーんだよ!」
それが対等な関係の礼儀ってもんだろーが!
ああ・・・なんという・・・・
眩暈がするほどの、この無邪気さは・・・・!!!
『だからこそ・・・惹かれてしまうのだ・・・決して金にたかるのでも、それでなびいてくれないからこそ!』
それどころか自分を楽しませてくれようなどと、一体、この宇宙のどこにそんな見返りなしで考える者がいようか?
「ああ、喜んで付き合おう。私も一度は行ってみたいと思っていた」
「そっか? そりゃ良かった!」
心底嬉しそうなロビーの笑顔に、ごく自然にヤンもまた笑みを浮かべる。
「今後の投資の参考にもなるだろうしな」
「そうこなくっちゃ!」
で、今回は俺のおごりでな!
「え?」
それこそ、何故? の顔にロビーは、ぷうっとむくれて反論する。
「おねーちゃん達の手前、俺にだって恰好つけさせろよ!」
あんたが本気で金出したら、全員、あんただけに夢中になるだろうが。
「今日は、俺があんたを誘う側! で、あんたは俺に奢られる側! いいな!」
「ああ」
不思議な約束だな。
そう思いはしたが、悪い気はしない。
ラーメンやら、バーガーやらを『奢ってもらった』のも楽しかったし、火星ツアーの優待も良かったが・・・今回は、ロビーが何よりも大好きな「キャバクラ」を奢るというのだ。
その特別だけでも、ありがたい。
『また一つ・・・大切な思い出が出来そうだな・・・』
それが、どれほど大切な思い出になろうとは・・・この時は気づくこともなく。
ただ、ヤンは百貨店で幸せに浸っていた。
新婚夫婦のような空気に包まれているそれだけで。
★★★
結局、あれこれと選んでいる間に随分と時間がかかってしまい、ロビーの行きつけのキャバクラへ着いた時には、すでに夜の時間帯になっていた。
「やっほ~~~! 今日は、同伴者ありだぜ!」
「やだ、ロビーってば!」
「なに、羽振りいいの?」
「やだ~~~~! どうしたの! こんな渋いオジサマ・・・・・」
「社長さんでしょ!? 社長さんっ!!」
素敵~~~~! きゃ~~~~~♪
黄色い声が飛ぶ中、店の奥のソファーへと通されれば、店中の女の子達がやってくる。
「社長さん、社長さん! ロビーのお友達?」
「っていうか、意外~~~! ロビーって、可愛い年下の子だけじゃなくて、年上の渋いお友達もいるのね!」
「意外って、なんだよ~~」
「だって、ロビーの友達って、ロビーより絶対にお金持ちでしょ? 不思議で当たり前じゃない」
「ひで~なぁ~~、俺だって金があるから、遊びに来てるんだぜ?」
あははっ! と軽く笑い返しているところからすると、そうした会話はいつものことなのだろう。
そして、思いの他、店の雰囲気はヤンにとっても悪くなかった。
女の子たちの「社長さん、社長さん」の営業トークはありきたりのものだったが、ヤンの素性を詮索するわけでなく、ロビーとヤンの関係を聞いてくるわけでもない。
『あくまでも、楽しく・・・か』
客は客、ヤンの方が絶対に金回りが良いことなど見て分かるだろうに、ロビーの前ではロビーをちゃんと尊重している。
『そういうところが・・・』
ロビーがこの店を気に入っている理由か。
そして、自分を連れてきたのも、ヤンが金に群がられることがないとの確信があったからなのだろうとも。
『この店は、繁盛するな』
客を金ヅルとしか見ない店は、所詮長くはもたないものだ。
その点、小さいながらもこの店の教育は実に行き届いている。
「それに・・・水割りの味も悪くない・・・」
「あ! さっすが! 気づいたか、ヤン!」
女の子を両側にはべらせながら、まるで自分のことのようにロビーは得意満面の笑みを弾けさせる。
「ここ、いい酒出すんだよ! 利益考えたらもっと、水みてえな水割りとかだってありうるのにな!」
それに水割りも下手な奴が作るのと、上手い奴が作るのとで全然違うんだぜ?
「高級クラブだの、バーだの言ったって、敷居ばっか高くて気取ってるだけで、全然な店いくらでもあるじゃん?」
「確かにな」
「その点、ここは女の子も酒も最高っ! ママの教育がいいからかな? な、ママ?」
ロビーの声の先には、胸を大きく開けた扇情的な赤いドレスでありながら、どこか清楚にも見える不思議な女性が微笑んでいた。
「ロビーに褒められるなら、うちも一流ね。社長さんも、ロビーのお客さんだもの。もちろん、ちゃんと接待させて貰うわよ」
「あはは! 頼むぜ! たぶん、こいつ普段はもっと高いトコばっかで、こーゆーところ知らねーだろうからな!」
「やだわ、うちが安い店みたいじゃないの」
「良心的な店! って褒めてんだけどな?」
「あらあら・・・」
気兼ねのない会話が心地いい。
『ああ・・・ロビーの空気と同じだ・・・・』
猥雑なキャバクラのはずなのに、不思議と心地いい。
それは、そうか・・・だからロビーが気に入っているのか。
『本当にお前は・・・』
見る目があるのだな。
その癖、イックが嘆くほどに「巨乳美女の詐欺」に引っかかりまくっていたのは、どうしてやら。
それでもヤンもまた、いつしかキャバクラの遊びに興じていた。
ちょっとしたゲームに、手品や、会話術。
どれもが、至極楽しいものだった。
そんなヤンの様子に女の子の一人がふと思いついたように言い出す。
「ねえ、ロビー? 社長さんも一緒に王様ゲームってどう?」
「ん?」
既にかなり飲んで、薄っすらと頬が染まったまま、ロビーは問い返す。
「王様ゲーム?」
「そ! ロビーのお客さんなら、変な命令出さないでしょ?」
「ああ、そういうことか。なら、大丈夫! こいつのことは俺が保証するぜ!」
『おいおい・・・何をそんなに・・・』
私がいつもお前にどれだけの情欲を抱いているかの危険性は、まるで感じていないのか? ロビー・・・
ヤンの内心はまるで感知されず、さっさと王様ゲーム用のくじが用意される。
「ん~~と、この箸の先に番号と王様マークがあってだな。王様を引いた奴が命令できる。ヤン、分かるか?」
「・・・それは分かるが・・・」
だが、どういう命令になって、どうなるかは・・・と言うよりも前に、ロビーはさっさと仕切りだす。
「ママ! それじゃあ、ママがくじ持って。で、全員同時に引く!」
「いいわよ、はい! じゃあ」
いっせーの、せっ!
きゃ~~~~~! あ、残念。あたしもだわ。あら? あ、これ・・・
全員が引いたくじから、一人の女の子が手を挙げる。
「あたし! あたしが王様よ! ほら王冠マーク!」
「あ~~~。くじ運なら、ヤンが強いから、ヤンに行くと思ったんだけどな」
なんだか残念そうなロビーの声に、そんな強運の人いるわけないでしょ?と何も知らない女の子たちは無邪気にはしゃぐ。
「じゃあ、どうしようかな? 王様の命令・・・」
「あんまり、きっついのはヤメテよ~~~?」
「そうそう、無理のないのでプリーズ!」
拝む他の女の子達に対して、『だめだめ! それじゃ面白くないでしょ?』と王様役の女の子は却下する。
「さあて・・・ここは定番の・・・」
「ええええっ! 一番の定番いっちゃうの~~~!?」
「だって、あれが一番盛り上がるじゃない」
「そんなこと言ったって~~~~~」
彼女たちが騒ぐのも無理はない。王様ゲームで一番盛り上がると言えば、ポッキーゲームとか、何番と何番がキスをするとかいう手合いだ。
「女同士だと不毛よ、それ~~~~~」
「そうよ~~~~~」
むうむうとした抗議をものともせず、うふふと、王様の彼女は、にっこり笑って命令を出す。
「はい。そこまで! 抗議は受け付けません! 王様の命令です!」
ごくり・・・
一瞬の静寂の後、軽やかな声が店に響く。
「2番の人が、6番の人にキスをする! あ、ちゃんと唇にね?」
「ええええええ~~~~~~っ!?」
「ちょっと、あたしは・・・あ、良かった違った・・・」
「あたしも、違う・・・・良かった・・・・・・」
「ん? あれ? ロビー? 社長さん???」
どうしたの?
騒ぎの中で声をかけられた2人はおもむろに手にしたくじの番号を見せる。
「俺・・・・2番・・・」
「私が・・・・6番だ・・・・」
し~~~んとなった後、きゃああっ! と黄色い歓声が上がったのは、至極当然の帰結。
「はいっ! ロビー! 当たりがいいわねえ~~。替わって貰いたいぐらいだわ~~」
「そうよ、ロビーってば! あたし、ひそかに社長さん狙ってたのに・・・」
きゃあきゃあと叫ぶ女の子達の中で、困惑しているロビーの様子に
『それは酷というものだろう・・・』
そう思ったヤンが、ゲームの中止を申し出ようと立ち上がった・・・やおらその時だった。
ふわり・・・何かが自分を優しく包み込む。そして、この・・・感触は???
柔らかい・・・そして、しっとりとした・・・・これは・・・これは!!!
反射的に己に触れた『それ』を、渾身の力で抱きしめてしまったのは、恋する男なら仕方なかったろう。
『ロビー!! お前・・・構わなかったのか? 私だぞ? 私なのに!?』
触れただけでは足りず、触れられた唇をこじ開けそのまま中へと舌を滑らせる。
「っ・・・!」
びくりと震える肢体に情欲は更にそそられ、もっともっとと更に己の欲するがままに舌を絡める。
『ロビー・・・ああ・・・』
幾度、あの甘い『みるくいちご』のキャンディを貪りながら、この味を夢見たことだろう。
何度、夢を見て。そして、夢であったことに失望し、絶望し、打ち砕かれてきただろう。
『ロビー! ロビー! ロビー!!!』
あまりに夢中で、ヤンが気づいた時には、既に腕の中の肢体は完全に力を失っていた。
「・・・・? え・・・? あ・・・・」
私は・・・一体????
己の狼藉に思わず正気に返るも、時既に遅し。
周りの女の子達は、すっかり目が点になっている。
「えっと?」
「あの・・・?」
「社長・・・さん?」
恐る恐るといった風情に、しまった・・・と思ったがどうしようもない。
『私は・・・またしても・・・』
ハママⅡで己を見失ったあの時と同じ過ちを!! どうして私はっ!
だが、悔恨のヤンへの救いの手は、思いも寄らぬところから来た。
「まったく・・・・キスも上手いって・・・・反則だろが・・・」
「ロビー?」
見れば、へなへなと腰砕け状態でソファに座り込み、両隣から女の子達に介抱されているロビーは、真っ赤に染まった顔を片手で覆って、ぷうぷうと文句を言っている。
「そうなの? ロビー、社長さんそんなに上手なの?」
「テクニシャン? どんな感じ?」
「ねえってば、ロビー~~~~」
彼女らの問いに、はああああ・・・・と盛大にため息と共に、アルコールのせいではない真っ赤な顔で、ロビーはヤンに潤んだ瞳で抗議する。
「お前さあ~~いくら何でもできるからって、キステクまで熟練って・・・・」
あ~~腰ぬけたわ・・・
「ねえ、ロビー、それって・・・」
「そんなに良かったの?」
興味深々といった女の子達に、むうっと膨れてロビーは答える。
「めっちゃ・・・気持ち良かった・・・・・・・・・」
きゃあああああああっ! 社長さん、素敵っ!!!!
黄色い歓声が舞い飛ぶ中、その後、どうやって店を後にするまで過ごしたのか、ヤンの記憶にはない。
覚えているのは、あの柔らかな唇と・・・甘い吐息。
それだけであった。
★★★
王様ゲームでひとしきり盛り上がった後、会計を済ませて店を出たロビーは、酔い覚ましに・・・と、ヤンと近くの公園まで誘った。
「あ~~~遊んだ遊んだ!」
風が気持ちいいぜ・・・・・
少々足取りが覚束ないもののしっかり意識のある状態で、ヤンの前を歩いていく。
夜の公園は、昔も今もデートスポットだ。
あっちこっちでカップルが抱き合っていたり、場合によっては、茂みの中でかなり際どい行為まで行っていたりするのだが、ロビーは気にならないのだろうか? と、むしろヤンの方が気を揉んでしまう。
キスは・・・あのキスは・・・・あくまでもゲームのもので・・・
ロビーは、場を盛り上げるために、ああしただけなのだろう。そうだ。それ以外に・・・
だが、考え考え歩いているヤンの前に、いつの間にか、くるりと反転した青い瞳が、それこそ正面からしっかと射抜くように見据えていた。
「あのさ・・・ヤン・・・」
「な、なんだ?」
やっぱり嫌だったか!? もう金輪際友人づきあいも断るとかか!?
そんな絶望的な考えがぐるぐる廻っているヤンの耳に飛び込んできたのは、予想だにしない言葉だった。
「あれ・・・気持ち良かった・・・・」
「は?」
何を言われたのか分からず、間抜けた声を出してしまった自分に対し、そっとロビーはその両腕を伸ばしてくる。
「・・・もう一度・・・って・・・ダメかな・・・」
「・・・分かって・・・・言っているのか?」
掠れ声の問いへの答えは、重ねられた唇で返された。
「俺・・・キスって・・・あんな気持ちいいって・・・・知らなかったから・・・・」
触れるだけの軽いキス。そうか、ロビーにとっての口づけとは・・・まさか?
「お前・・・」
「悪かったな! 経験なしで!!」
ぷうっとむくれて横を向くロビー。そんな顔をされてしまっては、私はどうしたらいいのだ。
「ロビー・・・」
そっとその頬に手を寄せ、自分へと引き寄せる。
「もう一度・・・な」
「ん・・・」
そうっと触れた唇は、店でよりなお一層甘美に感じられた。
甘くて・・・柔らかくて。そして、酒が抜けてきたせいか、微かな緊張感で震えていて。
「緊張するな。私に・・・合わせろ・・・」
「こう・・・か?」
誘うままにたどたどしく伸ばされてくる舌先を、ちろちろと絡め取る。口腔の鋭敏なところを、ゆっくりと怖がらせることがないように慎重に慎重に刺激していく。
「ん・・・」
瞳を閉ざして身体そのものを預けてくる。その重みが愛おしい。
抱きしめれば、そっと細い腕が自分の背へと回される。
「ロビー・・・」
「やだ・・・もっと・・・」
口づけをねだる様は、まるで親鳥に餌をねだる雛のようであり、なのに、次第次第に吐息は甘く官能的な色を帯びてくる。
そうして、二人して抱き合ったままどれほどの時が過ぎただろうか。
月に照らされた公園でこんなことをしているなど、あの王子は知る由もないだろうになどと埒もないことを考えてしまう。
だが、口づけが終わってもロビーはヤンの胸から離れることはなかった。
そのまま、じっと・・・ただじっと、何かを考え込むように、しばし顔を埋めていた。
そうして、ややもして聞こえてきた声は、ヤンにとって実に回答困難な問いを伴っていた。
「なあ・・・」
ヤンの広い胸に顔を埋めたまま、くぐもった声でロビーは問う。
「キスして・・・こんなに気持ちイイって感じるのって・・・」
これって・・・「友達」・・・なのか???
どう答えればいい? 何が正解なのだ?
困惑するヤンに対して、問いは更に続いていく。
「一緒にいて楽しい。メシ食って楽しい。こんな風にくっついて・・・キスして・・・全然嫌じゃねえ・・・」
つか、むしろ・・・
「気持ち・・イイ」
それでも、俺とあんたは・・・・「友達」・・・なのか?
これに対するヤンの声は、既に緊張で乾き切っていた。
「・・・私は・・・・もしも・・・『そうでない』のなら・・・・嬉しいが・・・」
そうでないと願っている、と心からの望みを告げる。
すると、腕の中の男にしては細身の身体は、それでも嫌がらず、ぎゅうとヤンの背中を抱きしめる。
「・・・だったらさ・・・」
緊張しているのか震えているのが身体に伝わる。
そんなロビーの言葉を待つのに、どれだけの時間が過ぎたのか。
やっと続きが紡がれたそれは、それこそヤンにとっては破滅か幸運か?
どちらとも分からぬ問いかけだった。
ロビーはヤンに問うたのだ。
「だったら、もっと近づいたらどうなるんだ?」
と。
「俺・・・あんたとだったら・・・」
皆まで言わせず、ぎゅうと抱きしめ問いに答える。
「・・・試して・・・みるか?」
「うん」
あんたとなら・・・いい。
その言葉こそが、鍵だった。
今まで、ヤンの前にそびえていて、決して開かれることなどないと思われていた・・・
許されざる扉を開くための鍵だった。
(第2話おわり)
一応公約通りといいますか、予告通り、8/30日の日付が変わる前にアップ!
あ、前回の第1話は、後で見返したら、ちょこちょこ誤字とかあったので、今回の話をアップする前に手直ししたり、ヤンさんのイラストを後書きに入れたりしています。
よろしければ、また見てくださいませ(^_^)/