ちょっと、第4話を大幅に加筆改訂していたら、新婚さんへのハッチとイックのリベンジ編の5話が遅れてすみません。
ちなみに、しばらく新婚さん話が続く予定です。
ロビーさん、専業主婦話とか、結婚式(といっても撮影会?)とか、せっかくなので新婚旅行とか!
あ、うちのヤンさんは、仕事が「出来すぎるほどできる男」なので、ロビーを追跡していたイセカンダルへ金シャチホコで移動していた時も仕事してたし、隙間時間で、十分にできるシステム作りしている「経営者の理想」のような人です。
招かれざる客が、やっと去り。
いや、最後の最後まで、やたらと仰々しくも慇懃無礼な態度だった『あのじいや』については、本当の意味で「去った」と言えるかも怪しいものだが、とにもかくにも、ヤンの邸宅からは出ていきロビーの視界からは消えた。
「それにつけても、・・・ハッチ・・・」
お前らさあ・・・俺に『結婚おめでとう』の一言もねーの?
「イックといい・・・なんつー友達甲斐のない・・・」
俺は悲しいぞ! こら!
そんなロビーのブーイングに対し、それまで半ばへたりこんでいたイックとハッチは、それこそ同時に盛大に叫んだ。
「何言ってるのさ! それはそれ!」
「そうだっ! これとは別だっ!!」
「別って・・・何だよ・・・」
あのじーさん、ハッチ・・・『王子』のお前のことまで忘れてったのか知らねーけど・・・
「勝手にわけわかんねーことほざいた挙句に、お前とイックのこと、周りは気にしてたっぽいのに、じーさんが怒り狂ってるから、全員ぞろぞろ、じーさんについて帰ってったじゃねーか?」
普通、『お仕えしてる王子様』を『じいや』が置いて帰るか???
「やっぱ、あれさあ・・・ボケてるか、おかしくなってるか・・・じゃねえの?」
年取るといろいろあるって言うしなあ・・・
どこか他人事のようにのどかに言うロビーと対照的に、きりっと、立ち上がったのはウサギ型サポート・ロボットの方だった。
「ちっが~~っ! 俺様は、そもそもお前とヤンの結婚なんざ、これっぽっちも認めてねーんだからなっ!」
「は????」
さっきまでの涙目はどこへやら。いつものイックに戻ったのはいいが、何で反対?? と首を傾げるロビーに対して、ウサギは宙にひょいひょいと浮かびながら、一気にまくしたてる。
「そもそもだ! いきなり『無断外泊』とかだな!」
「だから、連絡しただろ?」
「連絡があったら『無断外泊』にならねーんじゃねーんだよ!」
俺様の了解があったら! って言っただろが!
「お前の家出の時! お前の親からの捜索に引っかかるとまずいってんで、俺様、お前に約束させたよなっ!」
「ああ・・・1、帰宅は遅くならないこと。2、夜遅くなる時は連絡すること。3、ナガヤボイジャー以外に宿泊する時には、イックと一緒。そうでない時には、事前に相談の上・・・」
「そうだ! 今回はお前、俺様に何の相談もなくっ!」
「・・・だってよお・・・あの約束は、俺が十代のガキだったからだろ???」
世間知らずのガキは、夜はちゃんと家に帰らないと危ねえってお前が心配したからで・・・。
「でもよお、俺、もう三十路男だぜ?」
いい加減、夜の一人歩きが危ない年でもねーだろ?
「第一、ちゃんとお前には、遅くなるって電話で連絡したし」
だから、いーじゃんか・・・というロビーに、ぎりりとウサギは顔をしかめる。
「だからっ!」
言いながら、だが唐突に再びウサギの赤い瞳は涙で潤む。
「だからよお・・・・ロビー・・・・俺様に『相談』しないで、外泊なんてしやがった結果が・・・・『これ』なんだろが! この馬鹿っ!」
びしいっ! と、パジャマ姿で、今もヤンに半ばもたれて大きなベッドに横たわっているロビーの姿をイックは、指し示す。
「・・・俺様が・・・お前が、ガキの時から守ってきた・・・お前の貞操が・・・・純潔が・・・」
よよよ・・・と、またもベッド脇で泣き崩れるウサギ型サポート・ロボット。
「おいおい・・・・イック・・・」
幼い頃から世話になっているサポート・ロボットだが、毒舌はともかく・・・
『何も泣かんでも・・・』
俺は、どこのお嬢様だよ。おい・・・
そんなロビーの困惑を前に、ハッチもまた、きっと言い向ける。
「あのね、ロビー。そもそも『結婚』を『事後報告』された段階で、オレもイックも大ショックだったんだよ?」
普通はさあ、『今度、結婚しようと思って・・・』とか、友達や家族には言ってくれるものじゃないの?
「なのに・・・唐突に、外泊します宣言の後、音信不通。どこにいるかは、イックのサポート・ロボットのマスター探知権限でも分からない。これで心配するなって方が無理だよ。・・・本当に・・・心配したんだよ・・・?」
うるっ・・・と、ハッチまで泣きそうな顔をする。
「ロビーの行方が分からないってイックから連絡を貰った時・・・どれだけオレとイックが心配したか・・・」
ルナランドの衛星機能と最新の探査機器使いまくって、それでも分からなくて。
「今度こそ、ヤンに売り飛ばされたか・・・とか、もう臓器取られて海に沈められたかとか・・・」
「おいおいおいっ! ヤンは、んな物騒なことしねーよっ! お前らだって、イズモンダルで俺がヤンと『友達』になろうって約束したの知ってるだろ?」
今更、借金もねーのに、こいつが俺に何するってのさ?
呆れた、と呟くロビーに対して、小柄なウサギは跳ねまくりながら猛抗議する。
「現に、『されて』んじゃねーかっ! この馬鹿っ!」
「へ?」
なんのこっちゃ? と、ぽかんとするロビーに対して、イックは半ば泣きながら毒舌を撒き散らす。
「友達の振りして、そのうちお前のことを『食い物』にしてやろうと絶対にコイツは狙ってた! 俺様は、それが心配で心配で・・・」
「んと? いや、いい友達だったぞ?」
楽しかったし。うん。嫌なことは、何一つなかったし!
しれっと言う主人に、ちが~~うっ! とウサギの抗議は止まらない。
「だったら! 友達のままでいやがれっ! なんだって、こんな・・・こんな・・・」
またしても、わっとベッドサイドで泣き伏すものだから、ええと・・・と困ったようにロビーは言葉を探す。
「なんつーの? 流れ・・・?」
「どーゆー流れで、『友達』とメシ食ってたら、おめーが『食われる』羽目になってんだよっ!」
騙されやがって・・・・馬鹿が・・・・
「お前・・・・ほんとに馬鹿・・・・」
どこまで馬鹿なんだよ・・・・馬鹿・・・馬鹿・・・
「この抜け作の大馬鹿野郎がぁああああ!!!」
「おーい、それはちょっと・・・」
流石にそこまで馬鹿を連呼されて、あのなあと反論しようとするロビーよりも先に、今度はハッチが発言を制する。
「だって、ロビーは『女の人』が好きなはずだよね?」
「ん? 今も女の涙と谷間にゃ弱い自覚あるぞ?」
「・・・・だったら、なんだってさあ・・・・」
百歩譲って・・・ヤンと「友達」になるのまでは・・・まあ・・・いいとして・・・
「入籍とかさあ・・・こういう『身体の関係』までしちゃう『友達』って・・・」
それが「騙されての末のこと」ってオレたちが思うのって、そんなに変??
ごくごく真面目に翡翠の瞳で問われれば、う~~んと困ったようにロビーは自分の背を支えてくれている『伴侶』となった男へと振り返る。
「ごめん、ヤン。俺、なんか間違ってたか?」
それに対し、金色の瞳の男は蕩けるような笑みでこれに返す。
「いいや。私は、最初からお前に求婚していただろう? それに対して、お前が承諾してくれた。それだけだ」
「・・・だったら、いいんだけどさ・・・」
じゃあ、なんでイックもハッチも、納得しねーんだよ???
「さあ?」
しれっと答える余裕の様が、余計にイックの癇に障ったらしい。
「ヤンっ! てめー、ロビーになんか一服盛ったんじゃねえのかっ!」
「それとも、洗脳したとか・・・」
「おいっ! こらっ! お前ら!」
むっとするロビーを脇に、少年とサポート・ロボットは思いっきり「ヤン」に対して抗議する。
「だって納得いかないよっ!」
「そうだ!」
「あれだけキャバクラ好きで、女の人しか興味ないですっ! みたいなロビーがっ!」
「そーだ、そーだっ!」
「何か変なことされた・・・としか考えられないじゃないっ!」
「そうともっ! でなきゃ・・・俺様が育てた・・・チビの頃から守ってきたロビーが、そう簡単に『ベッド・イン』なんか、するもんかああああああっ!!!!!」
わ~~~・・・ベッドインて・・・・なんつー恥ずいこと言ってくれるんだよ、主人の前で・・・
その単語一つで、首まで赤くなっている新妻をそっと抱きしめ、壮年の男は『では?』と柔らかに提案する。
「君たちはロビーのことが心配なあまりに、あらぬ妄想にかられているのだろう? ならば・・・」
「妄想じゃねえだろがっ!」
「そうだよ、現にロビーがヤンの家に連れ込まれてるじゃないっ!」
ごうごうと続く抗議を、すっと片手で制し、金の瞳の帝王はにこやかに笑う。
「だから、だ。私の潔白を証明するため・・・というより・・・」
ロビー? お前が私を思ってくれた、ということの証明かな?
との囁きにまたしても新妻が赤くなるのを、愛しく見つめて抱きしめつつ、ヤンは2人へと言い向ける。
「君たち、好きなだけ『調べたいこと』があるなら、調べるといい』
納得するまでな?
その一言で、今度は、新婚さんの寝室は『尋問室』にと変わったのだった。
ロビー的には『・・・なんで、そこまで・・・・』とひたすら恥ずかしい時間の開始であり、他方、ヤンにとっては結果的に大層幸せな、そしてハッチとイックにとっては絶望のみもたらしたやりとりは、かくして始まったのだった。
★★★
何でも聞いていいぞ? と言いつつも、その前にヤンは「そうそう」と軽くロビーの耳元へと囁く。
「ロビー? せっかく私の家で迎えた『2人の朝』だというのに、ある意味雰囲気はないが・・・」
夜明けの珈琲には遅いが、朝食が入るようなら用意するがどうだ?
その問いに、ぱっと嬉しげにヤンの新妻は弾けるような笑顔を返す。
「うんっ! なんだろ? すっげー腹減ってる! 朝メシ食いてえ!」
「では、用意しよう。その間は、イックとハッチと語らっているといい」
「ん~~・・・でも・・・」
どうした? との問いに、ごにょっと小さくロビーは答える。
「早く戻ってきてくれよ・・・なんかさあ・・・・」
あんたと離れてたくないんだよ・・・まだ。
その一言だけで、うっかり昇天しそうになった・・・というのはヤンから後に散々聞かされたアロとグラの談であるが、『昇天している場合ではないっ!』とすぐに三途の川から戻ったのは、流石のヤンと言うべきか。
「ああ、すぐに戻る」
「ん・・・」
頷きつつも、ひょいとヤンの襟元を引っ張りそっと頬にキスするロビーの動作は、いつ学んだものなのかすっかり馴染んだ自然なものだった。
「約束・・・な?」
「ああ・・・」
すさまじく甘い空気が部屋を圧する。
『ねえ、イック・・・・』
『言うな、ハッチ!』
『っていうか・・・・何これ・・・』
『だから、言うなっ!!』
完全に部外者扱いされているのか、気にされていないのかな扱いの親友とサポート・ロボット。
こちらは、もうひたすら『なんなんだ、これ~~~~っ!』である。
仕方あるまい。
何しろ認識が違いすぎた。
ヤンにとっては『愛する新妻と迎えた初めての自宅での朝』
イックとハッチにとっては『騙されて強姦された上に、入籍までしてしまったロビー』の説得と救出。
だが、ともあれこの部屋の・・・というか家の主人が、寝室から姿を消して、ようやく金縛りが解けたように、イックは、ロビーに再び駆け寄る。
「ロビー! お前っ! やっぱり変だぞ!」
「は?」
どのあたりが?? と、己の行動に自覚のない新妻は、匂い立つ色香そのままに首を傾げる。
「まず、だな」
びしいっ! とウサギ型ロボット特有の手で、イックはロビーを指示して断言する。
「お前から、ヤンに・・・・その・・・き・・・『キス』・・・・とか、だなっ!」
本当は「キス」の単語も言いたくないと顔をしかめるイックに対して、はて? とロビーは首を傾げる。
「何言ってんだよ、イック。あんなのキスのうちに入るか? キスってのはな・・・もっとこう・・・」
思い出すのは最初のキャバクラでの衝撃。そして、次にねだった公園での月明かりでの口づけ。
甘くて・・・包まれるようで・・・・全身から力が抜けていくようで・・・でも心地良くて・・・
「そだな・・・うん」
最初のキスも良かった。次はもっと良かった。その後は・・・・数えきれないほど・・・ねだる度に触れられる唇の感触が・・・絡まる舌のぞくぞくする感じが・・・もう・・・どう言えばいいのか・・・。
無意識に、ぽうっと赤く頬を染め始めるものだから、そんなロビーにイックが切れたのは当然だろう。
「何で、『キス』ひとつ聞いただけで、うっとりし始めるんだよっ! お前はっ!」
情けねえ・・・なあ、ハッチ?
横目で月の王子に視線をやりつつ、ウサギは耳を垂れてよよよと泣き崩れる。
「これが・・・『何もされてねえ』なんて言えると思うか?」
「無理だね」
少年の答えは実に簡潔明瞭。
「おいおい・・・お子様とロボットにゃ分かんねーかもしんねーけどなあ・・・」
大人の関係ってのは・・・とロビーが言おうとする視線の先で、ハッチとイックの2人は、いつ持ち込んだのか知らないが、かちゃかちゃと何やら組立て始めているではないか。
「お~~い? お前ら何してんだ???」
ぽかんとしているロビーの目の前で、天才少年と万能サポート・ロボットの2人は、さっさと作業を進めていく。
「お前がな、ヤンと籍を入れちまったからには・・・それを『無効』にするには、お前が『騙された』っていう証拠が必要なんだよ! だからだな」
どんっ! と、小型のディスプレイのような機械をベッド脇に置き、イックとハッチは互いに目を合わせる。
「ヤンと一緒だと難しいと思ってたから、最初は、どうやって各個撃破するかの方法が一番悩んでたんだけどね」
「あちらさんが、お前を一人にしてくれたんだ。このチャンスを有効活用しねーでどうするっ!」
「おい、おい、おい・・・・まさかそれ・・・自白強要機器・・・とかじゃねーよな??」
思い出すのは、ヨッカマルシェで、祖父のヒザクリガーマニアだったオタクなヨッカマルシェ人に『幻の12話がロビーの脳内記憶にはあるなら、それを人格崩壊してでも取り出す!』と拘束された挙句に、記憶と人格破壊の危機に晒されたあの恐怖。
あの時、もしもヤンが飛び込んでくれなかったら・・・と思うと今も背筋が寒くなる。
『うん・・・あの時も・・・・』
助けてくれたんだよな、あいつ・・・。
今となっては、本当に自分のことを『ずうっと・・・大事に想ってくれていたんだなあ・・・』と、懐かしくも甘い思い出となっているあの事件。
だが、「記憶を無理に脳から取り出す」技術そのものへの恐怖は当然ながら消えていない。
そして、ハッチも天才なら、イックもそのハッチの祖父である天才『ロック・キタ』がヨッカマルシェ産サポート・ロボットに更に手を加えた傑作である。
この2人がかりなら、あのヨッカマルシェ人がやろうとしたことも可能・・・・ってことは?
「待て! 俺の記憶とか人格操作する気ならっ!」
その反応に、むっとして反論したのはロビーの相棒を自認しているハッチである。
「あのさ、ロビー。オレとイックが、ロビーに危険や害を及ぼすようなことすると思うわけ?」
「そうだっ! お前を助けようとしてるのに、逆のことするわきゃねーだろっ!」
「でも・・・なんかよ・・・ディスプレイってあたりが・・・・」
俺の記憶を再生・・・とかじゃねえの? なんか、コードとかもあるし・・・
というロビーの指摘に対し、あ、これ? と難なくハッチは明るく答える。
「ドーピング検査機器だけど?」
「ドーピング????」
はて? と首を傾げている主の腕に、ぷすっと素早くイックはコードの先端の針を突き刺す。
「痛っ! こら! 何してっ!」
外そうとするロビーに対して、友人とサポート・ロボットからの凄まじい「圧」がかかる。
「ロビー・・・あのね、血液成分の検査だけだから」
「そうだ。すぐ終わる。これで・・・お前が何か盛られてたら・・・・」
『どういう疑惑だそりゃ・・・』
と思ったが、目の前の2人の迫力があんまりだったので、とりあえず黙る。
かちゃかちゃかちゃ・・・・・・・ちっちっち・・・・カタカタ・・・ピピピピ・・・・
機械を操作する独特の音だけが部屋に響く。
『ヤン~~~~~・・・頼む・・・・もう戻ってきてくれよ~~~~~~っ』
時間にすればほんの少しだったのかもしれないが、親友とサポート・ロボットの圧に耐えきれずに思わず叫びそうになるロビーとは対照的に、目の前の少年と小柄なウサギの2人からはますますどす黒いオーラが・・・見える。気のせいではなく、たとえでもなく・・・なんというか・・・おどろおどろしい空気が文字通りに『見えて』しまう。
「何してんだよ、お前らっ!!!」
もういいだろっ! これ外すぞっ!
腕のコードを取ろうとしたその矢先、イックの赤い瞳がロビーを射抜く。
「ロビー・・・」
「はい?」
思わず動きが止まったのは、ウサギの迫力があんまりだったので。
でも、それ以上に、ハッチとイックの方は、既に別の意味で蒼白になっていた。
『イック・・・なんで・・・?』
『おかしい・・・さっきもヤンの野郎にべたべたしまくってたから・・・』
『そうだよ! 何らかの意識操作系の薬とかなら、効果がまだ残ってるってことで・・・反応がある筈なのに!』
『あと・・・俺様が元から持ってるロビーのバイタル・データと、このデータ・・・精神作用系の機器を使った場合の副作用で絶対出るはずのモノが何も出ねえ・・・』
『おかしいよ? イック・・・これじゃあ・・・・』
ぎぎぎ・・・と、ちょっと歪んだひきつった笑顔で、ウサギと王子がベッドの新妻に問いかける。
「あのさ・・・?」
「ちょっと・・・・確認なんだけど・・・」
ほんと・・・にさ・・・・
「妙なものとか・・・飲まされたりとか・・・」
「そうだ! 『キス』で赤くなってたな! お前、そんとき何かされた自覚ねえかっ!?」
「何なんだよ、だから・・・」
心の中では『ヤン~~~~~、戻って来てくれよ~~~もう朝メシいいから~~~~っ!』な気分で泣きそうになりつつ、ロビーは半ば引きつつ懸命に答える。
「そもそも・・・俺、昔っから親のトコにいた時にさ。セレブ連中相手のパーティとかに散々引っ張ってかれて、そんな時、しょっちゅう妙~~~~なもん・・・アルコールに混ぜて飲まされたりしてたじゃんか・・・」
思い出したくもないが、一流セレブの仲間入りをしたい一心だった『成金の両親』は『ドラッグもまた嗜み』という上流階級連中の言葉を鵜呑みにして、幼いロビーがそうしたものを飲まされたりすることについて、一切守ってくれなかったのである。
「飲んだら身体が動かなくなる奴とか・・・変に身体が熱くなる奴とか・・・」
幼い身体では抵抗したくともろくに抵抗も出来ず、変態セレブ達に舐めまわされたり、触られまくったりした遠い過去。
「そんなだから、イック・・・お前に最初に頼んだの・・・・解毒とかだったじゃねえかよ・・・」
金持ち学校に行かされている間も、上級生やら教師やらに、いつどこでどういう薬やらを盛られるか分かったものじゃないというので、ロビーと出会ったイックが早々に作ったのが『いつでも飲める汎用解毒剤』と、スマブレに仕込んだ『体内に異変を起こす物質の侵入を感知した時、自動的に緩和ないし分解する』特殊機能だった。
もちろん、宇宙からの特別な物質について、全てを防ぐことは出来ず。だから、十代の頃にはラブ・ドールのラブ子ちゃんを与えて『体内からとにかく害悪となりそうなものは排出させる』ことまでしてきたのだ。
幸いにして、家出してから・・・特に、ここ十年ぐらいは「親や学校の手前、どうしても拒めない」という状況になる前に逃げることができていたので、ラブ子ちゃんのお世話になるほどの事態にはなっていなかったのだが、それでも、イックとしては
『あのヤンなら! 俺様もまだ分析できていない妙なもんを!』
何らかの形でロビーに与えて・・・と思っていたのである。
ところが、どう調べても・・・ない。
わざわざルナランドで、ハッチと三日もかけて必死に考えて、組み上げたプログラムに何も引っかかってこない。
最新式の・・・宇宙でも・・・銀河でも・・・・『ルナランド』にしかない『探知用素材』をも使っているのに!
「何でだっ!!!」
騒ぐウサギの耳に、柔らかなトーンの男の声が静かに届く。
「満足したかね?」
ハッチ、イック。
振り返れば、器用にも朝食用プレートだの何だのを両手で持った男が、ベッドサイドに簡易テーブルを設えつつそこに新妻への朝食を並べているではないか。
「い、いつの・・・間に・・・」
「私の家なのだが?」
何か? と言うその瞳は、どこか・・・笑っているようだった。
「ヤン~~~~~~・・・おせーよっ! 俺が、どんだけっ!」
ベッドから必死に手を伸ばす新妻の肩を抱き寄せ、ぽんぽんとあやすように、明るい茶色の髪を撫でてやる。
「さほどの時間はかけてはいないのだがな。まあ・・・こうでもしないと、お前のイックやハッチは納得しないだろう?」
『全部・・・』
『見透かされて・・・た?』
ルナランドの侍従たちの荷物と一緒に、この機械のパーツを持ち込んでいたことも。
そして、彼ら『だけ』を帰したのも、こうしてヤンに『油断』させて、ロビー一人にする作戦だったことも。
「ハッチ? 王子を放っておく間抜けがルナランドでは重臣なのかな?」
そんな子供だましに私が引っかかるとでも? との言外の言葉に圧倒される。
駄目だ。敵わない! この人は・・・オレ達でも・・・! でも!
それでも、ハッチは声を絞り出し、銀河の裏社会の帝王に向き合った。
「あなたが・・・どれだけの力があるのかはオレやイックでも・・・・もう分からない。でもっ!」
「でも?」
なんだね? と、ロビーにまずはフレッシュジュースのグラスを渡しながら問いかける男に少年は食い下がる。
「オレも・・・イックも・・・ロビーが大事なんだよ! ロビーが大事で・・・大好きで・・・だからっ!」
「心配だったのだろう?」
ベッドサイドに自分もまた腰を下ろし、悠然と淹れたての珈琲の香りを楽しみつつ、ヤンは微かに笑む。
「お前たちは、あのルナランドの連中とは違う。分かっているとも」
私がロビーを愛しているように・・・お前たちもまた、ロビーのことをこの上なく大切に思っているのだろう?
「だから、お前たちだけにしてやったのだ。お前たちだけは、私抜きでロビーと居ることを許したのだ」
「え? ヤン?」
何の事さ、それ???
冷たいフレッシュジュースのトマト味に、少し気持ちが落ち着いたばかりのロビーが首を傾げるものだから、ははと軽くヤンは笑う。
「つまりだな、ロビー・・・」
かちゃりと、コーヒーカップはサイドテーブルへ置き、困惑した様の新妻の耳に何事か小さく囁けば、一気にロビーの顔は真っ赤になる。
「馬鹿っ! イックもハッチも・・・んな誤解してたのかよ! あんたが・・・あんたが、オレに変なことしてるって・・・それも・・・・薬物とか・・・機械とか・・・・」
「それ以外に、考えられなかったからだっ! おめーが・・・何だって・・・急に・・・!」
「つか、で、ドーピング検査とか言い始めたわけかよ! 『俺』が『うっかり』にも妙なもん飲んだとかの疑いなら仕方ねーかとも思ったが、そーじゃなくて、本気で! マジで! こいつを・・・っ! 『ヤン』を疑ってたのかよっ!」
お前らっ!
いつも笑い飛ばすロビーの珍しく本当の剣幕に、びくりとする少年とサポート・ロボットに対し、新妻を宥めたのもこれまた『疑惑の渦中のヤン』本人であった。
「だからな・・・それは仕方がないのだ、ロビー」
「仕方なくなんかねえっ! あんたは・・・・俺が嫌がることは何一つしなかった! そんなあんたのことを・・・いくらイックとハッチでも、そんな風に・・・・卑怯な奴だって疑うなんて!」
俺が許せねえんだよ! ヤンっ!
かんかんに怒る青い瞳も・・・ああ、どうしてこんなにも美しいのか。
つい、うっとりとその様を見詰めてしまえば、愛しさがこみあげてしまうのも当たり前のこと。
「お前が私のために怒ってくれるとはな・・・」
「ったりめーだ! こいつら、あんたに濡れ衣着せたんだぞ! あんたも怒れよっ! なんだよ!」
なんで笑ってやがんだっ! この馬鹿っ!
「ハッチ! イック! 俺は馬鹿かもしれねーが、こいつは馬鹿じゃねえ! それに、俺の身体を好きにしたいだけなら、なんで籍まで入れる必要があるんだよ! 冷静に考えやがれっ! この馬鹿っ!!!」
ぜいはあと息も荒くまくしたてるロビーなど・・・滅多にお目にかかえるものではない。しかも、本気で怒っているのだ。それも、『私』のために・・・。
「ロビー・・・落ち着け・・・」
ぎゅっと抱きしめ宥めるように髪へと口づけすると、でも・・・と青い瞳はまだ何か言いたそうだったが、既に落ち込んでいるらしいサポート・ロボットと少年の様子に、ほら彼らも反省しているだろう? とヤンは言い向ける。
「まあ、そもそも私のような闇社会にも属している者には、お前は相応しくないと思われても仕方がない。そういうことだ」
だが、これに猛抗議したのは、ロビー本人だった。
「んなこと、関係あっかよ! あんたは、借金まみれの俺に、追加融資してくれた『たった一人』の債権者だった! それに裏も表もあるか! 俺が借金を返せなくて、つい逃げちまったからあんたは俺を追いかけた。そんなの当然の権利だろう! だけど、借金なしでの『付き合い』の間・・・あんたは、俺が楽しくなることだけしてくれたじゃんか! メシ食って楽しくて、一緒に遊んで楽しくて、何してても楽しくて!! それ、俺だけか!? 俺の大事なあんたが・・・なんだって『記憶人格改ざん』の犯罪者容疑かけられなきゃなんねーのさ!」
「ああ・・・ロビー・・・」
愛している・・・心から・・・
囁きは妻にだけ。だが、効果は覿面で、すぐに赤くなって口ごもる。
「だって・・・よ・・・」
そんなロビーの左手を取り、そっとヤンはその薬指にとリングを落とす。
「へ・・・・?」
朝日の中、きらきらと輝く黄金色・・・・これは? との問いに囁きで答える。
「マリッジリングだ。結婚指輪とも言うな」
本当は、もっと雰囲気がある状況で渡したかったのだが・・・
「お前があまりに私を喜ばせることばかり言うものだから、堪えきれなくなった」
「・・・男って・・・結婚指輪するっけ???」
方向性が明らかに何か違う問いもロビーらしいと、苦笑してしまう。
「しない者もいる。だが、私はお前に贈りたかった。受け取ってはくれまいか? ロビー・・・」
言われて、自分の左手を改めて宙にかざす。
きらきらときらめく黄金色。ヤンの瞳に似た色で・・・
「これ・・・普通の『金』じゃねーだろ?」
妙に鋭い問いに、くすりと笑ってヤンは答える。
「当たり前だ。ずっとつけていて欲しいという私の願いを込めて作った特製だ」
合金の成分比から、内部構造まで全て私の手作りだ。
「ずっと・・・外さずにいてくれると嬉しいのだが・・・」
その問いに、手をかざしていたロビーは、きゅっとそのまま手を握りこむと、にっと笑った。
「成金趣味な『金』じゃねーってのが気に入った! つか、シンプルだけどキレイだなあ・・・これ」
こんな金属見たことねーわ。
「お前って、趣味でアクセサリーまで作るのか? つか、ひょっとして、お前が付けてるリングとか・・・」
全部、お前の手製? との問いに、当然だと金色の瞳は得意気に笑う。
「私の仕事上、身の安全のためには色々仕込みも必要だからな」
特殊金属に、更に、特殊な装置も埋め込んであるとの説明に、この結婚指輪も? と聞けば、当然だとの答えが返る。
「私のと対で作ったものだ。お前に何かあった時・・・確実に・・お前を守ることが出来るように・・・」
位置追跡機能の他、ああそうだ。と思い出したようにヤンは言う。
「イックがお前のスマブレを細工していたのと少しかぶるが、私のリングも、お前が妙な薬物汚染されないよう解毒効果機能も与えてあるぞ?」
「うわ~~~~・・・すげ~~~~~~こんなキレイなのに・・・・超高性能・・・・」
貰っていいのか! だったら、貰うっ!
子供がおもちゃを与えられたかのような無邪気な笑み。
ああ、これを独占できる喜びは・・・どう伝えたらいいのだろう。
だが、ロビーときたら、そんな雰囲気もなんのその。
「ところでさ、俺のための朝食って・・・これもあんたが調理したのか?」
「そうだが?」
「・・・・オムレツが・・・すげー綺麗に焼けてるから、びっくりしたわ~~~」
一流シェフかよって思ったぞ?? でも機械だとこういう焼け方はできねーし。
「あ、じゃあ。これから一緒に暮らすんなら、朝メシはあんた担当でいいか?」
毎日、あんたの作ったもん食いたいっ!
にこにこと無邪気に言う。こんな最強なおねだりがあるだろうか?
「ああ・・構わないとも・・・」
本当に、ロビーには驚かされてばかりだ。
金銀や財宝、どんなものでも望めば与えてやれるのに、そんなものより「合金」のリングを喜び、そして、私の作る朝食を望む。
「うん、やっぱ俺・・・あんたのコト好きだなあ・・・」
うっとり、そのままヤンに身を預けるロビーのえも言われぬ色香と風情に、慌てたのはすっかり放置されてしまったハッチとイックである。
「ちょ、ちょっと・・・ねえ、ロビー?」
「何だよ・・・男がリングしたら変か?」
またしても何か違う反論に、慌ててハッチは違うと首を横に振る。
「そうじゃなくて! 本当に、本当に・・・・・その・・・ヤンのこと・・・『好き』なの???」
今更の問いに、がっくりとうなだれ、ロビーは答える。
「あのな・・・『好き』でもねー相手と結婚する馬鹿がどこにいるよ!」
あ、でも『愛してる』は、まだ良く分かってねーんだよなあ・・・。
「ごめんな、ヤン・・・それは、おいおいあんたに教えてもらうってことで・・・妥協して貰えねえか??」
困ったような問いかけが・・・ああ愛しい。どうしてこんなにも奇跡的な存在がこの世にあるのか!
「妥協でもなんでもない。私は、最初からお前を愛している。そして、お前とハッチが結婚すると勘違いしたイズモンダルで、『私を選べ』と言ったのも私の方だ」
つまり、最初から私がお前にプロポーズしていたんだが?
「でも・・・なんつか・・・俺の方は、あんたと『初体験したくて』みたいな・・・・」
ごめんっ! あんたの心利用して、あんたの身体目当てだったわ、俺っ!
そんな理由で・・・えと?
「それでも・・・・いいか?」
恐る恐るといった問いかけに、口づけで「無論、問題などあるわけがない」の意を返す。
「私がお前を求めているのだ・・・。お前が嫌でないのなら、私に何の異存もない」
瞬間、ぱっと明るくなる表情。ああ、なんとくるくると良く変わる・・・。
うっとりとしたヤンに抱きしめられたまま、ロビーはと言えば、何やら脱力しているらしいハッチとイックへと得意げに宣言する。
「ほら見ろ! 俺もヤンも、至極、正常な精神状態で結婚する気満々だぞ!」
だから、お前らっ!
「疑うより、おめでとうはっ!?」
「う・・・・」
「それは・・・・」
それでも未だに素直に言えないのは、親友を取られたショックやら、大事な保護対象を他に奪われたショックというかなもので、ある意味仕方がないかもしれない。
これについてだけは、「初体験に、人生で初めて結婚できたんだぞ! 親友なら喜べよおっ!」と思っているロビーとの温度差なのだから、どうしようもない。
それでも・・・どうしたものかと思いあぐねている間に、ヤンは甲斐甲斐しく、ロビーに朝食のオムレツを食べさせてやったりしている。
こんな見事な「返り討ち」があるだろうか?
『イック・・・ロビー・・・なんかさあ・・・』
すっごく幸せそうに・・・見える・・・。
それに・・・・と、小さく少年は、小柄なウサギ型ロボットへ問いかける。
『なんか・・・ロビーって・・・こんな・・・色っぽかった・・・っけ??? それに綺麗っていうか・・・』
語彙が微妙なのは、思春期を「プログラム教育」のみで過ごさせられた「帝王教育」の副作用だろう。
だが、ロビーを大事に育ててきたイックからすれば、ただもう泣きたいだけである。
「勝手にしやがれ~~~~っ!!!!」
「あ、イック・・・少し待て」
またしても飛び出しそうな勢いのサポート・ロボットに対し、ヤンは声をかけて制止する。
「何だよ・・・あんたを疑った俺様に何か制裁か?」
胡乱げな赤い瞳のウサギに『主人想いも困ったものだ』と苦笑しつつ、銀河の裏金融の覇者は、ひょいと小さなチップを投げて渡す。
「この家の全権限だ。ナガヤボイジャーは、既に私が手配して格納庫に収納してあるが、そこへの出入りの他、この家の監視カメラの設定。あとセキュリティーに関する一切の権限をお前にやる」
「・・・あんたを疑った俺様にか?」
つか、これウイルスじゃねえって保証は?
と、疑念を向けるウサギ型ロボットに対し、豪邸の主人は、その必要が? と肩を竦める。
「お前と、ハッチは、私を除けば『誰よりもロビーが大事で、ロビーにとっても大事な存在』だろう?」
そのお前たちならば、私と同じだけの権限をこの家について与えても、むしろロビーを守ることになる。
「違うか? イック、ハッチ」
「は? イックだけじゃなくて、オレも?」
目を点にするハッチに対し、ヤンは『どうせ、イックに権限を渡したら、イックからお前に渡すこともできるのだから』と簡単に返された。
「私は・・・ロビーが大切なのだ・・・何よりも・・・誰よりも・・・」
そのためなら、胡散臭いルナランドと浅からぬ縁のあるお前たちであろうとも使える者は使うし、遠慮もしない。
「まあ、それよりもその方がロビーが安心して喜ぶと思うんだが・・・」
違ったか? との問いに、腕の中の青い瞳はまたしても見開かれる。
「あんたは・・・どうしてそう・・・」
「お前に『甘い』とでも?」
たりめーだっ! もっと自分の身を大事にしやがれ!!!
「俺は、ハッチもイックも勿論信じてるさ。けど、あのルナランドの変なじじいに、こいつらが何か仕込まれてるかもとか、俺はともかく、あんたは疑う権利あると思うぞ?」
少なくとも、こいつらは、あんたのこと散々疑ったんだからな。
そんなロビーに対し、くすくすとヤンは幾度も幾度もその髪へと口づけを落としながら囁いた。
「自分の身は守れる。それぐらいの自負心はあるのだが?」
「・・・・ったく、敵わねーなあ・・・・」
ほんっと! 自信家で、なのに俺には激甘で・・・・。
「そだな・・・。俺は、あんたを信じる。イックとハッチだって、俺が嫌がることはしねえって信じる」
それと、こいつらのこと信じてくれて・・・
「ありがとな・・・」
ハッチは俺にとって相棒で親友だし、イックは俺がガキの頃からの育て親みてえなもんだし。
「二人とも俺には大事なんだよ。あんたとは・・・その・・・意味は違うかもだけど・・・」
「そんなことは分かっている。だからこそ、信用するのだ」
正直なところ、あのルナランド政府やらロビーの両親やらが、今後も何かかかわってこないとも限らない。
何があろうとも自分が守る自信はあるのだが、敢えて『敵の敵は味方』という言葉もある。
「私にとっても・・・いや、ここにいる全員、お前が一番大事なのだよ?」
「はは・・・! 俺って、運もツキもねーのに、変なとこでラッキーだな! けど・・・」
あんたに会えたのが、最高だったかも。
その囁きで、思わずまたしてもつい昇天しかけた・・・というのは、ヤンの内心だけの話。
「まあ、そういうわけでだ」
ドーピング検査機器傍らのハッチとイックに対して、ヤンはゆっくりと言葉をかける。
「お前たちも色々とまだ考えたいこともあるだろうしな」
この家の客間でも応接室でもキッチンでも好きに使え。
「ハッチ・・・腹が減ったなら、キッチンでイックに何か出して貰え。その権限はもう与えてある」
「はいはい・・・。なんか・・・ほんと・・・あんたって・・・」
「私は大人で、お前はまだ子供だ。だから、食事ぐらいの配慮はするぞ?」
「敵わないね。今は・・・」
「そうだな、『今』は」
その微妙なやりとりに気づいているのは当人らのみ。
朝食で何やらまた眠気が戻ってきたらしいロビーは既に、うつらうつらし始めている。
「ロビーが眠そうなのでね」
それは「眠らせてやりたいから、出ていけ」との意味。
だが、同時に聞こえてきたのは「・・・どこも・・・行くなよ・・・なあ・・・」
それが『誰』を指しているのか? 分かりたくないけど、分かってしまう。
そんな少年とサポート・ロボットに構わず黄金の瞳の帝王は、金と赤の混じった髪を揺らして愛妻にと囁く。
「私はここにいる。それに・・・イックとハッチもいるからな?」
「ん・・・・」
それで安心したように眠りにつく様は、まるで幸せなおとぎ話の光景のようで。
「ヤン・・・分かった。でも・・・」
「ああ、分かっている。だが、しばらくは待て」
ロビーが眠ったらな?
その言葉通り、すっかり寝入った後に、ヤンはイックとハッチと共に、ダイニングルームへと出向き、改めて彼らの懸念について全て回答していったのだった。
無論その間も、監視モニターでロビーが眠りから覚める気配がないかを、常に注意しながら。
ちなみに、そんなヤンの屋敷に、夕刻『お祝いしに来やしたっ!』と、アロとグラの2人が連れ立って、パーティグッズのクラッカーなど色々もってきたりしたのは、ほんのささやかなおまけ話。
「ロビー! ヤンさんを・・・ヤンさんを・・・っ!」
「幸せに・・・頼むっス!!」
滂沱しまくりの2人が、万歳三唱を何度繰り返したことか。
その騒ぎのお陰で、あれ? と後で、ロビーは気づくことになる。
「・・・俺・・・まだ、ハッチとイックから『おめでとう』言って貰ってねえような???」
だが、パジャマ姿のままで行われた、ヤンの屋敷での『結婚祝いパーティ』の後、寝室で二人きりになってしまえば、そんな疑問よりも目の前の男の身体に甘えたくなる気持ちの方が強くて、疑問は自然と後回しになる。
「ヤン・・・あのさ・・・」
贈られたシルク地のパジャマを脱がされる時の衣擦れさえもが、ぞくぞくする感覚に悶えながら、掠れ声でロビーは懸命に自分が選んだ伴侶に伝えた。
「俺と結婚してくれて・・・ありがとな・・・」
その一言が、これまた金融界の帝王の理性を吹っ飛ばしたのは・・・・
そして、ウサギ型サポートロボットが、ナガヤボイジャーに籠って、月の王子と2人で色々な意味で悲嘆にくれたのは・・・・。
それこそ、言うまでもないだろう。
誰よりも大事な存在だから。
だから、言えないこともある。
そんな苦い味は、ハッチにとっては初めてだった。
いや、そもそも、『特別』な存在自体が初めてだったのだ。
「今更かな・・・イック・・・」
ナガヤボイジャーの中の「ハッチ用」の部屋でイックに言えば、ウサギ型サポート・ロボットは、いいや! と赤い瞳を光らせる。
「俺様は・・・ロビーのためのロボットだからな。ロビーを万が一にでも『不幸』にしやがったら、絶対にあいつ・・・許さねえっ!」
「うん・・・そだね・・・」
「だから、めでてえなんて、言ってやるもんかっ!」
「そうだね・・・言えないね・・・」
豪邸の寝室と格納庫。
同じ邸宅で、かくも異なる時が流れていったのは、宇宙だけが知っていた。
天空の彼方、きらめく銀河の星々を包むように。
大宇宙は、ただそこに存在しているのだった。
奇跡の出会いと愛を内包して。
(第5話おわり)
お待たせしました~~~
じいやが爆誕したせいもあって、大幅加筆改訂していた4話の次が、ちょっと遅くなりまして。
さて、第5話は少し軽めな話でしたが、いかがでしょうか?
・・・誰か気に入ってくれてる人いるのかな???いたら嬉しいなあ・・と切実に思っております・・・・(今のところ相方しか切望してくれていないような・・・)