銀河道中夢語~ギンガドウチュウユメカタリ   作:二子屋本舗

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えっと・・・7話の後書きで「次は新婚旅行」とか書いていたの、誰でしたっけ???
そして、活動報告で「長いから、前・中・後編」とかにしようかなとか言ってたのは・・・
すみません、思いのほか長くなったのと、構想が拡大して、色々変更になったのですが、分割して掲載するのが(やり方が良く分からなかったので)、全部掲載です。
・・・・長いの苦手な方は、ゆっくりお読みください。
ここからが、更に色々展開していく、当方のヤンロビ(で、ハッチも入る三角関係)です!


第8話:好きは、別れのプレリュード?

結婚式騒ぎが一段落して、ヤンの「自薦最高の写真集」限定一冊(※本人だけのためのもの)の作成も終わった頃、季節はなんとなく少し肌寒い頃になっていた。

宇宙時代になってクリーンエネルギー技術がもたらされたお陰で地球温暖化の問題もなく、ここネオ・トーキョーでも日本の四季は「昭和」と呼ばれた時代のまま残されている。

「こういう時は、やっぱ鍋かな」

「すっぽんにするかい?」

茶目っ気たっぷりの八百屋のおかみに対して、前回のアレを思い出し思いっきり首を横に振るロビー。

「却下っ!! ・・・俺がおかしくなってあいつに迷惑かけるだけだから・・・・」

真っ赤になってぼそぼそ言うところは、まあ可愛い新婚さんだこと! と目を細めつつ、おかみは白菜やら春菊にネギににんじんと、鍋に定番の野菜をひょいひょいと見繕ってやる。

「海鮮鍋もいいし、日本酒に合わせるんなら牡蠣の土手鍋なんかもいいけどね」

「ん~~~~~・・・そうだなあ・・・・」

別にまださほど寒くはないし、ヤンの邸宅は空調も効いているからなおのこと別に鍋にする必要はない。

ただ、野菜のラインナップから考えると冬野菜の季節は、ゆずのポン酢で食べるぷりぷりの牡蠣と合うだろうなともロビーは考え、商店街での鮮魚店で確か三陸直送の殻つき生牡蠣を扱っていたことを思い出す。

ちょっとだけ温めたぬる燗の辛めの日本酒と、ぷりぷりでクリーミーな牡蠣。

「うん。決めた」

家出してからずっとイックと暮らしていた頃も、その前も。

ロビーにとって「家族と食卓を囲む」という思い出は、ほとんどない。

微かにあるのは、幼い頃に祖父の膝に上で抱っこされて、ヒザクリガーのアニメを見ながら、一緒に食べた煎餅がとても美味しかった・・・ぐらいである。

 

にわか成金の実家では、ロビーの両親は毎晩のように社交パーティーだのなんだので「夕食を一緒に」もなければ、朝食だって一緒だったことなど一度もない。

イックは、学校から帰ってきたロビーと一緒にいてくれたが、何せロボットなので「一緒におやつを食べる」ことだけは出来ないのは仕方なかった。

 

だからかもしれない。ロビーが、キャバクラで綺麗なおねーちゃん達と一緒に騒いでいるのが好きになったのは。

 

寂しいという想いは自覚していなかったが、ハッチと共にイセカンダルへの旅へ行く間に「一緒に食べる相手がいる」生活を送り、その後、ヤンと「友達」となってからは何かと一緒に食べ歩きをするようになってから、だんだんと「一人でない食事」が楽しくなっていたらしく、結婚して以降現在では、一緒で食べることが毎日楽しみで仕方ないようになっている。

 

朝はヤンが作ってくれたのをロビーがまだ寝ぼけている寝室までワゴンで運んで持ってくる。

その分、夕食はロビーがヤンのために腕を振るう。

昼食については、お互いに時間があればヤンの本社ビルでロビー手作りサンドイッチを食べたり、あるいは、ちょっとしたカフェへでかけたりと、朝昼晩と「伴侶」相手に食事することがすっかりロビーの日常となっていた。

 

お陰で、イックが「どーせ、俺様は電気のみだからなっ!」と少々拗ねては、月のハッチに愚痴通信をする有様だったりもするが、少なくとも生まれて初めて本当の意味での「帰る家」があって、そこで「一緒に暮らす相手がいて」そして、その相手と「日常を共にする」という「平凡」で落ち着いた日々にロビーはいつしか、すっかり満ち足りていた。

 

「やっぱ・・・家族っていいよな・・・」

「やだね、のろけかい? ロビーちゃん!」

はい! おまけ! しめじ茸もつけとくよっ!

笑いながら八百屋のおかみはロビーの買い物袋へ、ひょいひょいと追加していく。

「あんまり言うと、ロビーちゃんのことが大事大事なサポート・ロボットが拗ねちゃうよ?」

「・・・・ま、そうだな・・・」

苦笑しつつ、でも、イックのそれはハッチとの旅の途中でもしばしばあったことなので、あまり気にしてはいない。実際、イックも口で言うほど拗ねているわけではなく、単に、今まで長い間「ロビーとイック」だけだった日常が一変したことへのそれは愚痴にようなものだろうとロビーは理解していた。

 

「あいつもなあ・・・」

いい加減、俺とヤンの結婚おめでとうぐらい言ってくれてもなあ・・・・・

いつまで経っても『俺様は認めてねえからなっ!』と、2人の食事時になると必ず姿を消してしまい、ヤンの豪邸の地下格納庫のナガヤボイジャーへ籠ってしまうウサギ型サポート・ロボット。

イックもまたロビーにとっては大事な家族なのだから、家族にこそ認めて貰いたいのだが、こればかりは何故かいつまでも成功しない。

商店街のおばちゃん達はみんなして笑って

『まあ、そんなもんだよ』

『大事な一人娘を嫁にやりたくない頑固親父的な思考って奴かねえ?』

『そうそう、素直には言えないもんだよ、特にロビーちゃんてば、急に結婚しちまったからね・・・・』

『今更、認めるなんて言い出すのも間が悪いってのもあるかもよ?』

などなど慰めとも何とも言えない励ましをしてくれるが、やっぱりロビーとしては納得いかない。

 

それでも、今日も夕食の準備をして、さあ出来た! という絶妙のタイミングで主の帰宅を知らせるインターフォンの電子音が響けば、思わずぱたぱたとエプロン姿のまま玄関先まで駆けてしまう。

 

「おかえり、ヤン!」

「ただいま、ロビー」

言いながらどちらともなく、伸ばされる腕と交わされる口づけ。

しっとり包んでくれる唇の感触は、なんで「甘い」と感じてしまうのか? そして、どうしてこうも離れがたくなってしまうのか。

いつもついつい玄関で、朝も夕も2人でいつまでも口づけを交わしているものだから、イックから『おまえらっ! 毎日毎日、飽きねえのかよっ!!!』俺様のセキュリティチェック画像に、やたらそんなんばっか増えてて目のやり場に困るわっ! との抗議が来た程である。

 

無論そんな抗議は「見なければいいだけだろう? 私の家のセキュリティは、お前のチェックが漏れても万全なようにしてあるぞ?」とのヤンからの反論で、ますますイックの怒りの炎に油を注いだことになったのだが、それもまた既に日常の一部であった。

 

そんなこんなな、いつもの夕食。

イックはもうナガヤボイジャーに籠っていて、ダイニングには2人きり。

お互いに鍋を挟んで徳利に入れた純米酒を差しつ差されつ、新鮮な具材に舌鼓を打ちながら、今年の人参は甘味があるとか、いや、牡蠣が絶品だとかたわいもない会話が交わされるいつもの夕食時。

 

しかし、いつもならロビーの話を楽しげに聞いているヤンの表情が、今日は何故か微妙な影を落としていることに『どうした?』と、徳利から猪口へと注ぎながら小首を傾げれば、予想以上に深いため息が相手から零れる。

 

「すまん、ロビー・・・」

「だから、どうしたんだよ?」

 

徳利を持ったまま、側へと寄って話を促すも、それでも、思いっきりの渋面でやっとぽつりぽつりと酒を口へと含みつつヤンは言葉を紡ぎ始めた。

 

「それがな・・・・以前のアウター・スペースからのテロの事件を・・・・覚えているだろう?」

「ああ、それが?」

 

イセカンダルから地球へ帰還してみれば、どういうことだか、地球はまさに滅亡の危機に遭遇していたというあの事件。

一方的に地球を破壊しようとしたテロリストの強大な武器を、ナガヤボイジャーの機体で封じ、自分たちはヒザクリガーで脱出したら、なんとロビーとハッチとイックは『地球を救った英雄』になってしまっていた。

 

「あれかあ・・・・」

幸か不幸か、その後、銀河連邦へのアウター・スペースからの第二次、第三次の攻撃はない。

よほど、最初の攻撃機が木端微塵にされたのが衝撃だったのだろうか? と、思わなくもないが、一度攻撃に来た連中が、二度と来ない保障はどこにもない。

 

そんなわけで、その後について考えていなかったわけではないのだが、有名人に祀り上げられるのが苦手なロビーは、祖父のヒザクリガーの名誉が地球で回復するまではメディアへの露出も厭わなかったが、その後、ヒザクリガーブームが去ったと告げられ版権放棄して一文無しとなってからは、またも行方をくらましたものだから、『銀河の英雄ロビー・ヤージ氏は今・・・どこに』など、たまにメディアで特集される有様である。

 

だが、ヤンの保護下にあることもあり、また、商店街のおばちゃん達の結束のお陰もあって、現在ロビーの居所は、ごく一部を除き秘中の秘とされている。

 

「で、それが??」

今は、銀河連邦で、アウター・スペース対策会議やってる筈だろ?

「あの時、何で地球がターゲットにされたのかもわかんねえし、そもそも連邦に所属してない外宇宙からの侵略者の連中じゃ次の行動も読めねえしな」

でも、テロで無辜の市民が惑星ごと犠牲になるのは、当然避けねばならない。

連邦としては、全銀河を挙げて『次までに、万全に対策を』となったのは、当然の帰結である。

 

だが、それと目の前の伴侶の渋面との因果関係が思いつかず『で???』と、再度、言葉を促すロビー。

「・・・私は、どうかと思ったのだがな・・・」

ため息交じりに、ヤンが言うのには、せっかくの会議だったが良くある話で『会議は踊る、されど・・・』な状態で、肝心な対策も議論もまったく進んでいなかったらしい。

 

「いたずらに時間ばかり無駄にして、と苦々しく思ってはいたのだが・・・」

そんな折に、全銀河にルナランドに黄金の雨を降らせた荘厳なシャチホコ号の軍勢の威容が報じられるや、途端に、彼らは『そうだ! ルナランドのハッチ王子も、ヤンズ・ファイナンスのヤン総帥も! あのお2人ならば、連絡がつくではないか!』と、嬉々として、こんな時だけあっさりと全会一致で『ハッチ王子とヤン総帥! お2人を対策会議に招き、彼らを主軸にして新たに組織ごと改革しよう!』となってしまったのだという。

 

「本来なら、ハッチとお前、そして私・・・というところだったらしいがな」

銀河の英雄ハッチ・キタ王子と、ロビー・ヤージ。そして、その英雄のおわすルナランドをも制圧しうるだけの力を持つヤンズ・ファイナンス。

「ヒザクリガー・・・ナガヤボイジャー・・・そして私の黄金のシャチホコ艦隊・・・・」

これらの技術と、あの時地球を救った機転。

「何より、英雄というのはシンボリックなものとして丁度いいということでな」

「はあ????」

つか、あれほとんど偶然だぞ!?

「別に俺とハッチは、狙ってアウター・スペースに連中の射出口へナガヤボイジャーで突っ込んだわけじゃねえし、結果的にそれが奴らのエネルギー照射を塞いで自爆させることが出来たのは、ヨッカマルシェでナガヤボイジャーもヒザクリガーもメンテして強度アップしてたからであって・・・」

「分かっている・・・」

苦々しくヤンは、くいっと猪口に残る酒を飲み干し、ため息を零す。

「だが、人は英雄を欲する。そして、ハッチはルナランドの王子として立場がある。だから、より適材とされたのだ。そして、私はと言えば・・・」

「そのルナランドの制空権を思いっきり制圧しちまったせいで、目立っちまった・・・ってとこか・・・」

ロビーの言葉に、重々しくヤンは頷く。

「まさか、あの件については、お前とハッチとの親同士が勝手に決めた婚約破棄のためとは説明もできまい?」

「ルナランド側は、ヤンズ・ファイナンスからのハッチへの英雄的行為へのサプライズだったとかなんとか意味不明な説明してたけどなあ・・・」

「だが、映像として燦然と輝くヒザクリガーと同じく、黄金のシャチホコもまた目立ってしまったのだ」

「で? それで???」

 

まあ、そういうこともあるだろう、とまだロビーはヤンの苦々しさの真意が分からず首を傾げる。

「ハッチはもともと王子だし、英雄だしな。担ぎ上げられることもあるだろうし、あんただって、表の金融の経済力だけじゃなくて、裏の軍事方面についても知る奴は元々知ってただろうから、そりゃ、会議へのオファーぐらい来るんじゃね???」

それっくらいは別に・・・

とのロビーの言葉を悲痛な叫びが遮った。

 

「会場がどこだと思う! 銀河連邦安全保障理事会の極秘衛星だぞ!!!」

「それが??」

まだ分かっていないロビーに対し、ヤンは苦々しく説明する。

「極秘、と言っただろう。ワープのためのハイパーゲートはなし。それぞれの代表が、極秘裏に集まるだけでも今時、数日はかかるというそういう会場だ・・・・」

「は??????」

 

ロビーが目を丸くしたのも無理もない。

今や銀河の端から端までだって、ワープ技術の進歩のお陰で、ハイパーロードさえ作ってしまえば、ほぼ一瞬。

実際、私企業のドンツーが作っていた極秘ハイパーロードなど、地球からイセカンダルまで数か月もかかった航路が、僅か数分もかからずに行き来できる代物だった。

私企業でさえも物資の運搬などの都合でそんなものが出来るのだ。

公的な安全保障理事会なら、当然、各惑星のそれぞれの重鎮が訪れるのだから、そうしたものが整備されていると思っていたら、何と、ヤン曰く逆なのだという。

 

「ゲートを作ってしまえば、そこに、テロリストが入り込んだら最後、簡単に辿り着けてしまう。だから、そう簡単には到着できないよう、敢えて直通のハイパー・ロードはないのだ」

 

その代わり、常に移動する衛星の位置については、会議毎に、出席者に暗号で知らされ、それぞれの最新の宇宙船で出席する・・・という方式らしい。

 

「はあ・・・・それで、数日もかかるのか・・・・」

で、それが???

まだ呑み込めていないらしいロビーに対して、今度こそヤンは悲痛な叫びを上げる。

「お前と! それだけ長期間!! 離れていなければならないということなのだぞ、ロビーっ!!!」

「あ、そうか・・・・」

きょとんとしたまま徳利を持ったままの新妻に対し、ぎゅうぎゅうにその身体を抱きしめヤンは唸る。

「一週間・・・・いや、往復の航路と会議の時間を考えれば・・・・・」

数週間以上、お前と離れていなければならないのだぞ! こんな苦痛があってたまるか!!!

「ヤン・・・・」

徳利をテーブルへと置いて、座ったまま自分の腰を抱きしめる伴侶の金色と赤の混じった頭を、そっとロビーも抱きしめる。

「まあ・・・仕方ねえんじゃねえかな・・・」

そもそもあんたは大企業の社長なわけで。

「俺と、こんなにも毎日一緒に居られる方が、不思議だったんだよ」

「私にとっては、その方が重要なのだ!」

「ん・・・あんがとな・・・・」

 

そうか、とロビーはふんわりとした何か温かい何かが胸にこみ上げるものを感じていた。

当たり前の日常だと思っていた。

朝食をヤンが用意して、昼は昼で2人で過ごしたり色々して、夜はこうして2人で食卓を囲む。

毎日の日常を一緒に過ごす。それがどんなに素晴らしい「平凡」だったかということを。そして、そのためにヤンが時間をどれだけ自分に割いてくれていたのかということに。

「ん・・・ほんと・・・・」

あんたってば、俺のことばっか考えすぎ・・・・

自分の都合優先して構わねえのにさ。とのロビーの言葉に、何を言う! と、烈火の反駁がなされる。

「私にしてみれば、お前と過ごす時間の方が、よほどに重要だ! ・・・まったく・・・せっかく、お前との新婚旅行に、どこか秘湯めぐりでもしようかと考えていた矢先に!!!」

「え? んなこと考えてたのか?」

それこそ目を丸くするロビーに対し、当たり前だ! とヤンは唸る。

「折角、結婚式を行ったのだ。次は、新婚旅行だろう!」

どういうプランがいいか、色々と考えていたところに、この横槍だ!!!

「ロビー・・・」

ぎゅうと腰あたりを抱きしめたまま離そうとしない男に対し、うんと優しく抱きしめ返しながら、そっとロビーは答えを返す。

「ほんっと・・・あんたの世界ってば、まるで俺が全部みてえだなあ・・・」

冗談で言ったつもりだったが、当たり前だ! の即答で返される。

「私にとっては、お前が全てだ! お前以外どうでもいいわっ!!」

だというにっ!!

「でも、ま」

ほら、実際あんなテロリストに、また地球やどっか銀河連邦の星が侵略されても困るだろ?

「で、あんたにはそれを防ぐ力がある。まあ・・・ハッチも・・・かな???」

 

地球へやってきたアウター・スペースからの侵略者撃退後、その残骸などの分析から、彼らの武器の分析から、対策としてのヨッカマルシェ産の技術の有用性などを論文にして提出した有能な天才科学者でもある年若い、まだ未成年の少年でもある「親友」で「相棒」の小生意気な姿。王子様と言われて憧れの対象として十分な美少年をロビーは脳裏に想い描く。

「あいつはほんとに天才だからさ・・・」

艦隊としてのルナ・ガードはまだまだ改良の余地あるし、その点では、あんたのシャチホコ艦隊のが実戦的だとは思うけど。

「あんたとハッチの力があったらって、まあ・・・期待されても仕方ないだろうなあ・・・」

「それが、お前と離れ離れになることになってもか!?」

泣きそうな声に、くすりとロビーは甘く笑う。

 

「永の別れって訳じゃなし」

ちょっと・・・いや、まあ・・・結構・・・寂しいけどさ・・・・一人で寝るのとか・・・もうすっかり、あんたと一緒が普通になっちまったから・・・

 

「でも、今後もきっとこういうこともあるだろうし。うん。俺も我慢するから」

「私が耐えられんっ!」

「駄目だぜ? それがノブレス・オブリージュって奴。あ、いや、あんたの場合は高貴な云々って前に、大企業の公的責任とかいう奴かな?」

そういうことまでちゃんとやりぬくのが天下のヤンズ・ファイナンスの総帥様だろ?

「俺は、イックとこの家で待ってるからさ」

「・・・危険なことはするなよ?」

「ん~~~・・・・退屈しのぎに、久しぶりにキャバクラめぐりでもしてるかもだけど・・・」

でも、あんたがいないんじゃ、きっと味気ねえから、何してもつまんねえだろうし。

「まあ、冥王星とイズモンダルのキャンペーンCMとか、そうそう、ヤンズ・ファイナンス用の新しいCM作りでもして、家に籠ってるさ」

映像でも音源でも、この家で全部手配できるしな。

「そんなことしてりゃ、あっという間だろうさ」

「・・・そうか・・・」

まだ苦々しそうな伴侶の様に、これが天下の大企業の総帥様かねえと苦笑しつつ、ロビーはふわりとヤンの耳元へと囁きかける。

「後は、あんたが居ない間に俺が欲求不満にならねえぐれえに・・・」

 

会議に行く前まで、いっぱい相手してくれよな? の一言で、大層熱い夜になったのは、まあ当然のこと。

 

「ロビー・・・ロビー・・・私を・・・忘れるなよ・・・」

「ばっか・・・」

あっさり寝室へ連れていかれて、そのままベッドへなだれこんだ後、幾度も幾度もヤンが言うものだから、互いの汗が混じった肌を合わせながら、ロビーもまたうわごとのように繰り返す。

「忘れるわけ・・・ねえだろ?」

それに・・・

「帰ったらもっと、な?」

もっと、もっと・・・だぞ?

「約束・・・だからな」

「ああ・・・たっぷりと・・・お前を愛おしもう・・・愛そう・・・お前に私の愛を注ぎ続けてやる!」

「ん・・・」

くすりと小さく笑みつつ、そっと自ら己を求める伴侶の唇にと唇を重ねれば、貪るような愛撫が口腔へと返される。

「ん・・・、あ・・・ん・・・、は・・・ぁ・・・ん・・・」

「ロビー! 私のロビーっ!」

いつもの余裕はどこに行ったのか? あまりに必死すぎる様の男に対し、そっときらりと光る金色のリングを嵌めた左手でヤンの頬を撫でつつ、ロビーは小さく喘ぎつつ答える。

「ん・・・俺、あんたのだから・・・」

だから、もっと・・・あんたのもくれよ・・な?

 

熱い夫婦の宵。それは、まさに幸せと情熱の高まりと絶頂の繰り返し。

その幸せの余韻が、まだ身体に疼くままに、ヤンの出立の日まで2人は互いを求めあった。

もっともっとと・・・・。

これが、最後の別れではないと分かっているのに、何故か離れがたくて、求め続けあったのだった。

 

よもや、これが本当の別れの前奏曲になろうとは・・・。

どちらも予想だにせぬままに。

 

★★★

 

アウター・スペース

宇宙時代となっても、そして、銀河連邦が成立してもなお宇宙は果てしなく広い。

よって、当然、銀河連邦だけで全宇宙を制圧できるものでもなく、宇宙の果てのその果て、「外宇宙」とも言われる文明の根幹からして異なる宇宙においては、何がどうなっているのか、そもそも前提の情報すらない。

 

だが、現実としてのファーストコンタクトは、よりにもよって「太陽系第三惑星地球の破壊」を目論んでの攻撃である。

となれば、今後も平和的な関係は、期待できない。むしろ、目的不明なままに今後も突発的な攻撃行動に出ることがある可能性は十分にある。

 

そんなアウター・スペース対策会議は、ハッチとヤンが参加することにより、目覚ましく議題に進展を見た。

 

「そもそも・・・」

少年とは思えぬ王子としての威厳と理知的な滑舌で、さらさらと相手方の武器とその使用方法などから、今後の傾向と対策について根本的な指針について理路整然と述べるハッチの姿は、それはそれは、全銀河を感動させる中継となった。

 

「あいつも立派なもんだなぁ・・・」

 

今回は、銀河の英雄とヤンズ・ファイナンス総帥が参加するというので、議場そのものがライブ中継されるというので、地球の自宅リビングにてロビーもまた伴侶と親友の姿を画像で眺める日々を過ごしていた。

「なあ、イック。あいつ・・・ほんっと子供の癖に、子供じゃねえなあ? こういうとこ」

感心したようなロビーの言に対して、辛口のウサギ型サポート・ロボットはしれっと言う。

「可愛げはねーけどな」

俺様からすりゃ、お化けが怖いとか言って布団に籠っちまうあいつの方が年相応でいいわ。

「あはは! ああ、あれか! 科学で説明できないもんの方が怖いとかなんとか・・・」

「大体、あいつ。ナガヤボイジャーでお前が提供した部屋で、ラブ・ドールと目線が合うだけで怖いだとか言ってただろが」

「そーだな。ああ、ラブ子ちゃん・・・・ハッチがせっかく見つけてくれたのに・・・・」

アウター・スペースの馬鹿野郎がっ! お陰で再会したラブ子ちゃんとは永遠の別れになっちまっただろが!

そんなロビーに対して、お前・・・問題はそこか? 

「この下種ヤローが・・・」

と定番の呆れ顔のサポート・ロボットに対し、くっくと笑いながらその頭を耳ごと撫でる。

「ま、いーじゃねえの。相棒と俺の伴侶が立派に働いてるんだ。良い絵面じゃねえか」

「・・・まぁな・・・」

 

実際、もともと迫力のあるヤンもそうだが、容姿端麗なハッチも王子衣装で毅然としていると『ああ、こいつってばホントに王子だったんだなあ』と、英雄様にはぴったりだなとか感心するぐらいカメラ映りがいい。

 

他の今まで『踊る会議』しか出来なかった大臣級の連中が、見事に霞むそれはいっそ壮観とさえ言えた。

 

「ただ、なあ・・・」

「なんだよ?」

少々憂い顔の主に対し、ぴこんと耳を揺らしてウサギ型サポート・ロボットは訝しげに問う。

「いやさ・・・気のせいならいいんだけどよ・・・」

この会議・・・中継とかして、ほんっとに大丈夫なのか???

「もともと場所も機密で、出席者だけが参加できる上、場所も都度移動して、更には、暗号化までしてるってのに・・・・」

こんな風に中継してたら、アウター・スペースの連中じゃなくても、位置特定してテロとかして来る可能性ねえのかねえ???

そんな主の心配そうな声に、ああ、やっぱこいつ頭はいいんだよなあ、と内心だけで思いつつ、相変わらずの辛口でイックは答える。

「んなこと最初っから考えてるだろうが。ライブ中継つったって、単純に配信先がどこか分からねえように、あれこれ防備してるに決まってるだろ?」

「とは思うんだけどよ・・・」

 

それでも、地球そのものを簡単に破壊するだけの力のあるアウター・スペースの連中である。その科学力は計り知れないし、そうでなくともそもそも「ライブ中継」そのものが、テロなどというものを考える存在からすれば、これほど恰好の「アピールできる場」はそうそうない。

 

「俺なら、狙う」

断言するロビーの横顔は、本来の端正な面持ちがそのままに、毅然として彫刻のよう。

そんなロビーに思わず見惚れかけ、いやいやと、イックは首と耳を横へ振って、辛口で言い返す。

「じゃ、どうやってだ? そう簡単に出来るもんじゃねえぞ?」

「・・・人間が集まるとこってのはさ・・・特に、人目が集まるところってのは・・・・」

昔から、盲点が絶対にあるんだよ。

 

声は至極真面目だった。

「俺がテロリストなら、ハッチとヤンの2人を殺るだけで、十分効果的だと考えるな。この会議にあの2人が招聘されてるって、最初から喧伝しまくってる時から、どうもそれが気になって・・・」

「それでお前、ヤンが出かける寸前まで引き止める口実考えたりしてたのか?」

「・・・・不発に終わったけどな・・・・」

 

出発前に、ちょっと自分が発熱するとかだったら出かけるのやめてくれるだろうか? などと子供じみたことを言って、逆に『そうか! なら、私は出立をやめよう!』と本気でヤンが『引き止められる嬉しさ優先』しそうになったのを思い出す。

 

現実問題としては、ヤンだけでなくハッチのことも心配ではあったので、あの2人が一緒の方がまだ安全だろうかと考えたので止めなかったが、同行する権限もないのにヤンのシャチホコにこっそり密航しようとの衝動を抑えるのにどれだけ苦労したことか。

 

「杞憂なら・・・いいんだけどな・・・」

「ほとんどは杞憂だぜ? 天が落ちる落ちるって心配しまっくった杞の国の男の心配事って故事成語の通りにな」

「でも、ケネディ事件は・・・地球で最初の衛星中継の時に起きたんだよ・・・」

 

アメリカ大統領が公衆の面前で頭を吹っ飛ばされるという、前代未聞の暗殺事件。

あれは、日本とアメリカの衛星中継が初めて行われ、世界中の人間が見ていた華やかなパレードの最中に起きたのだ。それも白昼堂々と。警備はもちろんしてあったはずだったのに。

 

「考えすぎ・・・かな・・・」

ぼそりと呟くロビーの顔が真剣そのものなので、イックも思わず黙り込む。

本当はイックだけではなく、ヤンもハッチもライブ中継については反対していたのだ。

だが、英雄を迎えて成果を見せたい会議の主催者らの意向に、結局押し切られた。

 

「まあ・・・何があっても大丈夫と・・・言ってたけどな・・・あいつ・・・」

出立前、ロビーに最後のキスを贈りながら、耳元で『帰ったら、しばらく離さないからな』と、赤面ものの宣言をしていったヤンである。

どう考えても殺しても死にそうもないと評判の銀河の裏の帝王とも言われるヤンに何かがあるとは思えない。

それに、ハッチにしても、自分の身を守る特殊訓練を受けているぐらいである。

2人とも確実にロビーより強い。それは分かっている。でも・・・。

「それでも、なんか・・・」

 

ロビーがそうつぶやいた、まさにその時だった。

 

「おいっ! ロビー!」

画面にきらりと何かが光った、刹那、途絶える映像。

 

「え?」

「・・・・放送事故か???」

 

それならいい。だが、その前に一瞬見えた・・・閃光と・・そして・・・。

「イック! この映像録画してるはずだろうっ! 今の巻き戻せっ!」

言われ、今や邸宅の全権限を持つサポート・ロボットは瞬時に動く。

そして、絶句した。

 

超スローモーションで再生した「映像が消失する直前」に映っていたのは・・・。

 

「ヤン・・・・・っ!」

きらめく閃光から、一瞬早くマントを翻してハッチを庇うように動いた金の髪。

 

その次の瞬間、映像はブラックアウトしたのだ。

 

これが何を意味するか??

 

「イック・・・」

もうそれ以上言葉は必要なかった。長年の友であり家族であるサポート・ロボットは、以心伝心。

「ああ、ロビー」

 

そして、わずか一分も経たずに、ロビーとイックは、ヤンの邸宅から飛び立っていた。

最新のエンジンに改良に改良を重ねた、新生ナガヤボイジャーで。

一縷、ただただ目的の地のみを目指して、宇宙の彼方へと消えたのだった。

 

★★★

 

『ボウエイカイギシュウゲキサル』

 

銀河連邦防衛会議が何らかの攻撃を受けた、との報は一瞬で・・・

ではなく、最初はライブ中継の「配信上の問題か?」と、会議の模様を放映していた各プラネッツの報道局のコメンテーターは首を傾げ、次には、それぞれの防衛大臣を派遣していた星の政府らからの「重大異変があった模様」との公的な緊急速報の段階でようやく「何かがあったのか?」「うちの大臣は大丈夫なのか?」「事故なのか? 事件なのか?」との騒ぎとなり。

最終的に防衛会議が「アウター・スペースのテロリストによる襲撃を受けた」との「事実」について伝わったのは、あろうことか、ライブ放映を閲覧していた各惑星の市民たちによる独自解析と見解が、銀河中にあまねく様々なデマも含めた形で光より早くに拡散された後だった。

 

その原因が、極秘会議の性質上、襲撃情報についてまでアナログ式暗号かつアナグラムで分解し、その上、古典的モールス信号のアレンジ版かつ受信できる相手は、銀河連邦議会の議長のみ・・・と『無駄に懲りすぎた』結果だったためというのは、どうしたものだか。

 

後世において『安全会議のための機密情報を扱うスットコドドッコイとんでも事変』と揶揄されることになったのも、こうした肝心要の「第一報」からしてまともに機能していなかったのだから当然であろう。

 

だが、世の歴史というのは、比較的皆の記憶にもまだ残る「第二次大戦」における「大日本帝国」がアメリカ合衆国へ真珠湾攻撃をする「前」に「宣戦布告」をするはずだったのが、当時の外務省の手落ちで「攻撃後の宣戦布告」となり、世界中から「卑怯者のジャップ!」「リメンバー・パールハーバー!!!」などとボロカスに言われる口実をアメリカ合衆国大統領ルーズベルトに与えたことでもわかる通り、色々と偶然やら『ポカ』やらの結果の積み重ねだったりもするのである。

 

そうそう、豊臣秀吉が明智光秀を討つために毛利軍相手に「本能寺の変」を知られる前に急遽反転できたのも、毛利軍に本能寺の変による信長の死を知らせる間諜が秀吉の手に落ちたから・・・とか言われているが、これも実際のところ本当にそうだったのかは、謎である。単に、毛利が抜けていたからではないか? との説は未だ、ネオ・ナガトと名を変えた旧山口県での屈辱とされているとかいないとか。

 

まあ、そんなこんなな御託はさておき、そうは言っても、世は宇宙時代である。

 

光を遥かに超える速度での移動が可能となったワープ理論が、銀河連邦のどこにでも行きわたっているのだから、タイムラグは致し方ないとしても、最終的には、『アウター・スペース対策会議が襲撃を受けた』との公式声明は、銀河連邦の中央から緊急速報として全銀河政府へと通達された。

 

その暗号を解読した原文が「ボウエイカイギシュウゲキサル」なわけだが、これを後に地球型の惑星の人間型生命が多く存在するプラネッツの学校で習った子供たちが大概突っ込んだのが「襲撃するサルって、サルに襲われたの??」と、言うのだからもう、その当時のパニックぶりときたら何をかを言わんやである。

 

「どういうことだ、一体!!」

「うちの大臣は!!!」

「いや、うちは第二王位継承権者を出しているんだぞっ!!」

「何を言うか! こっちだって!!!」

 

もともと「平和だから」それなりに外交でお互いに尊重し合ってはいるものの、本来文化も進化系も何もかもが異なる星に属する者らである。

 

同じ星に住んでいてさえ内乱とか紛争など、まだまだあるというのに、銀河規模で本当の意味で「仲良く」などあるわけがない。

誰だって自分が一番かわいいのだ。

 

「安全保障は・・・・!」

「その会議自体が襲われるとは・・・っ! これで、どうやって防衛するというのだ!」

「いや、そもそも誰に襲われたのだ? 陰謀では?」

「内通者か!?」

「ならば、銀河連邦を覆そうとするカルト集団の・・・・」

「レッド・カナリーとかか!!」

「いや、インコ教団かっ!」

「いや! 今、一番騒がしいのは貧乏星の・・・・移民連中じゃないのか!」

「そうすると、あれか!? 機械皇帝をも倒したとかいうマルベリー8紛争移民かっ!!」

「そうだ! そうに違いないっ!!」

 

ならば、犯人はマルベリー8にありっ! あやつらを撃滅せねば!!!

 

と・・・・まことに勝手な推測だけで、あわや「生身の人間にも人権を!」と革命を起こしたばかりのマルベリー8の初代大統領ホシロー率いる革命軍は、銀河連邦の派遣する連合軍に総攻撃される憂き目に合う寸前にまで話が進みかけたのは、後世の歴史家らが皆『情報の混乱ほど恐ろしいものはない』と語るところである。

 

ちなみに、イセカンダルまでの旅路でロビーとハッチが出会った少年ホシローに「革命」の概念を教えたのはロビーだったし、彼らの革命を後押ししたのはヤンである。

 

よって、そもそも彼らがハッチやヤンも参加しているアウター・スペース対策会議にテロを仕掛ける動機がないことについて、早々にヤンズ・ファイナンスから公式に見解が表明され、ホシロー自身も

「ヤンさんに、そして、ロビーさんとハッチさんに! 彼らのお陰で今がある僕らは、今ほど、自分たちが何も出来ないことに・・・! 無力なことに! その上、冤罪をかけられる屈辱に・・・怒りを覚えたことはありません! 僕らは、祈ることしか出来ません。ヤンさん! ハッチさん! ああ・・・せめてロビーさんが居てくださったなら!!!」

 

慟哭と共に銀河中に中継されたホシロー少年の姿。

これが、銀河の皆の心を動かし、後に「マルベリー8への援助活動」に繋がるのは、このすぐ後のこと。

 

実のところ、マルベリー8については、ヤン自らがホシローの革命に手を貸した縁もあって、ヤンズ・ファイナンスがその後も全面的にバックアップしていたことから、ホシロー達への冤罪騒ぎを逆手に取って、これ幸いと、マルベリー8への投資やら発展やらの呼び水を作るために色々とイメージ操作をしただけなのだが。

しかし、実際これで、ヤンズ・ファイナンスは当初の投資の数万倍もの利益をマルベリー8関連で得ることになるのだから、銀河の金融帝国スタッフ連の素早さは、ヤン仕込みの見事なものと絶賛され、社長賞の栄誉に輝いたのはほんの裏話。

 

そんなことより、銀河連邦のほぼ全域では、当時はもう・・・何が何やらになっていた。

 

地球が以前、アウター・スペースに襲われていた時は、ただもう「地球滅亡までのカウントダウン」を見守るしかできなかった銀河連邦。

 

奇跡の英雄、黄金に輝くヒザクリガーが現れ、その悪夢を撃退した時の様は、銀河中にどれほどの安堵と希望と夢を与えたことだろうか。

 

だが、奇跡とは滅多に起こらないからこそ奇跡なのである。

そして、奇跡ではなく「今度は、防衛実績にするのです」とのハッチの提言の通り、そのためのアウター・スペース対策会議だったのだ。

 

「なのに・・・」

「ああ! その功労者のハッチ王子が!」

「銀河の金融帝王のヤン総帥まで!」

 

と、銀河中の者が、まったく埒の明かない「どういうことでしょうか?」「情報が・・」「みなさん落ち着いてくださいっ!」ばかりの報道に、ただただ息を呑むばかりだった、まさにその時だった。

 

「おい・・・あれ・・・」

「光・・・・・?」

 

未だろくに回復しないという銀河連邦安全保障会議との通信。

だが、ライブ中継用衛星は生きており、そこに、きらりとした一筋の光が皆の目に飛び込む。

 

「あれは・・・・!」

「あの・・・・・光はっ!」

 

宇宙、それは本来暗闇の中。

そこを切り裂く黄金色の輝き。

 

その光景は・・・かつて見たものと同じ。

そう・・・かつて! 皆が見た! あの! 輝ける金色の光を纏った姿はっ!!

 

「ヒザクリガー!!!!!」

 

全銀河が叫んだ。

歴史家は、皆そう綴る。

 

誇張ではなく「事実」として。

 

★★★

 

銀河連邦安全保障会議が何らかの攻撃を受けた・・・の報の次が、金色のヒザクリガー。

 

「ヒザクリガーだ!」

「銀河の英雄だ!」

「救世主!!! 伝説の!!!」

 

文字通り宇宙が揺れるほどの大熱狂の中、別の意味で、大混乱を起こしていたのは、常には何があろうと冷静沈着、的確な判断が揺るぐことなど絶対ありえない「ヤンズ・ファイナンス」本社の中枢部であった。

 

「・・・・っ! おいグラっ! どういうことだ、あれはっ!」

「そんなの俺に分かるわけないっス! ヤンさん! ヤンさんはっ!!!」

 

本社のオペレーターに問えば、無言で首が横に振られる。

「社長との回線は、ライブ画像中断の時から依然回復していません。無論・・・ご無事だとは・・・」

鎮痛なオペレーターに対し、かっとヤンの側近であるアロとグラは同時に叫ぶ。

「当たり前だろうっ!」

「ヤンさんは、不死身っス!!!」

「ですが・・・・」

 

ライブ中継が唐突に遮断された折は、別に、アロもグラもそしてヤンズ・ファイナンスの誰も心配などしていなかった。

 

何故なら、最後の画像解析をする限り、あれはヤンがいつも纏っている特殊防御フィールド発動装置つきのマントで、近くのハッチごとシールド展開する瞬間であった。

「あのヤンさんが自ら開発した防御フィールドは、その気になれば衛星の一つぐらい軽く守れるはず」

「なら、問題ないっスね」

 

と、むしろのんびり会話していたぐらいなのである。

 

ところが、そのヤンズ・ファイナンスの中枢がパニックになったのは、その「ヤン」の「私邸」の地下格納庫から突然、ナガヤボイジャーが発進し、宇宙の彼方へ消えたとの報である。

 

「は?」

「へ?」

 

ナガヤボイジャー・・・・って・・・まさか・・・・

 

「ロビーとイックが!」

「ヤンさんに何かあったとか勘違いして!!!」

 

飛び出したっ!?!?!?!?!?

 

そっちの方が、よほどにヤンズ・ファイナンス中枢にとっては「大事」だったのである。

 

「ちょっと待て! 行先・・・ロビー達、分かって・・・ないよな???」

「行先は、参加者のみの守秘義務ありやすし・・・・」

 

けど、とアロとグラは顔を見合わせる。

 

ライブ中継。

どれだけ誤魔化そうとしても、どこが配信元なのか? それを解析することは不可能ではない。

「・・・・イックの性能と・・・・」

「ハッチが更にバージョンアップさせたとかいう新生ナガヤボイジャー・・・」

それに、ヤンの私邸自体が軍事基地並のスーパーコンピューター標準装備である。

 

「しまった・・・! ロビーが飛び出すのは考えてなかった!」

「つか、ヤンさんなら無事だって・・・分かってそうなもんなのに!」

 

だけど、考えるよりも先に飛び出してしまったのだろう。

そう思うと、軽率だというよりも・・・

「ヤンさん・・・愛されてるっスね・・・・」

「そうだな・・・・」

 

などと、つい感慨に耽ってしまう方が先に立つ。

 

だが! それでも、この時ですら、まあ目的地へ着く前に連絡して、ヤンさんの無事を知らせれば大丈夫だろう、などとアロもグラも、まだ左程慌ててはいなかった。

 

何しろ行先までは、通常のワープをどれだけ駆使しても数日かかるのだ。

そしてワープの途中途中では、必ず通信できる隙がある。

 

「ナガヤボイジャーにも、今は、こっちから連絡できるようになってるしな」

「ヤンさんにしてみれば、ロビーが心配で迎えに来てくれたら感動! ってトコっすね!」

などと呑気な会話をしていたぐらいなのである。

 

なのに、なぜ、目の前の画像にヒザクリガー!? ナガヤボイジャー搭載のロボットが、どうしてまた!?

 

そして、目の前の画像からは、今度は毅然とした少年の声が響く。

「全銀河連邦に告ぐ。脅威は去った」

まだハイトーンの少年特有の・・・この声は!

 

唖然とするアロとグラやヤンズ・ファイナンスの面々を余所に、ヒザクリガーから中継回線をジャックして配信しているらしい声明はまだ続く。

 

「まずは落ち着いて欲しい。僕は・・・ルナランド王太子、ハッチ・キタはこの通り無事だ」

 

おおおおおおおっ! と、銀河がどよめく。多分、物理法則を無視した体感だろうが、それはこの際置いておく。

 

「そして、急襲してきたのは、アウター・スペースのテロ集団だ。彼らを捕縛することは出来なかったことは残念だが、その目論見は失敗し、こうして僕は生きている」

 

おおおおおおおおっ!!!!! 更に、どよめきは全銀河を揺らす。・・・きっと体感のものだが・・・

 

「ただ、通信について、多少の困難があるため続報は待って欲しい。今は、慌てずに。それだけを願う」

 

ハッチ王子! 銀河の英雄!

「ヒザクリガーだ!!」

「やっぱり、英雄は・・・・奇跡の英雄なんだ!!!」

「ってことは!」

 

ヒザクリガーの搭乗員が、ロビーとハッチの2人であることは、イックが執筆した「地球を救った男たち」で、つとに広く知られている。

 

「ずっと行方不明とされていた、ロビー・ヤージ氏も!」

「ハッチ王子と共にいらしたのか!」

 

何という友情! 何という奇跡! ああ、ヒザクリガーよ永遠なれ!!!

 

その時の銀河中の感動は、既に信仰に近かった。

「ああ・・・・金色のヒザクリガー・・・・!」

「地球だけではない! やはり、銀河の英雄!!」

 

ハッチ王子! ロビー・ヤージ氏!

万歳! 万歳! 万歳!!!

 

 

その騒ぎの中、逆に、面食らっていたのはむしろアロとグラの方である。

「おい・・・ヤンさんとの通信・・・まだ回復してねえよな???」

「ねえっス・・・・」

 

なのに、ハッチからの「安全宣言」にも近いあれは???

 

いや、あの声明自体は、銀河連邦がパニックならないようにとの配慮だろう。現に、マルベリー8支社からは、あわや、革命政府がテロの犯人扱いされる寸前だったとの報告もあったぐらいだ。

 

知的生命体の集団において、パニックほど恐ろしいものはない。

だからこその、ハッチの「為政者」としての行動は正しい。

正しいのは・・・分かる。だが。

 

「ヤンさん・・・は???」

「それに・・・・」

 

相棒のはずのロビーの声は何も発せられなかった。

これが何を意味するか。もはや嫌な予感しかしやしない。

 

「駄目だ! 俺たちも出る!」

「アロさんっ! グラさんもっ!」

慌てる本社の幹部連には、自分たちがイセカンダルまでヤンとの旅に同行していた時と同じ体制でいればいいと、冷静に告げる。

 

「・・・・ヤンさんに何かある筈がないだろう・・・」

「それは、そうなのですが・・・・」

 

でも、奥様は???

 

皆の言わんとして、呑み込んでいる言葉の問いたい視線を感じつつ、敢えてアロもグラも彼らを振り切る。

 

「とにかく! いいから、お前たちはヤンズ・ファイナンスを動かしていればいい!」

 

それだけを言い置いて、ヤンのシャチホコ号よりも二周りは大きい戦艦タイプの黄金のシャチホコを起動させる。

「発進!」

ヤンさんの元へ!!

 

そして、黄金の巨大シャチホコもまた宇宙へと消えたのだった。

ただし、山のような小型シャチホコ軍勢も引き連れて。

 

★★★

 

アロとグラの予感は的中していた。

無論、悪い方向で。

 

「ロビー・・・・」

ナガヤボイジャーのリビングにて、ぐったりと茫然自失でソファにもたれる相棒の柔らかな髪ごと、そっとハッチは自らも膝をついて震える身体を抱きしめる。

「ロビーよぉ・・・」

小さなウサギ型サポート・ロボットもまた、その小さな手をそっと伸ばして、主の震える膝の上にその手を置く。

 

だが、応えはない。反応がない。言葉どころか、視線すら虚空でも眺めているかのような、ただ焦点の合わない青色の瞳が見開いているのみ。

 

「イック・・・」

「ハッチ・・・」

 

まずいな、これは・・・・とは、言葉にするまでもなく、両者の共通見解だった。

「ロビー・・・」

ぎゅっと、懇親の力で抱きしめながらハッチは嘆く。

「こんなことになるなんて・・・」

「ああ・・・」

 

しん、と静まり返ったナガヤボイジャーの中。

少年とサポート・ロボットの嘆きだけが、ただ響く。

「ロビー、ロビー・・・」

だが、どれほど呼びかけても応えはない。

「・・・どんだけだよ・・・」

地を這うような低い声で、イックは唸る。

「どんだけ・・・! どんだけっ!!」

「イック・・・・」

少年の方は、ただもうぽろぽろと涙を零す。

「ロビー・・・」

 

脳裏にだけ、いつもの相棒の明るい声がこだまする。

―――なんだよっ! ばーか!―――

 

けれど、それはただの幻聴。

目の前の彫像からは何も答えは返らない。

 

そして、その生ける彫像に、2人はいつまでもただ縋り付く。

そうしていれば・・・いつか、彫刻に命を吹き込んだというピグマリオンの伝説の如く、動き出すのではないかとの祈りのように。

 

ただただ、嘆き祈るしかなかったのだった。

 

 

他方、その頃軍事機密衛星に黄金のシャチホコ軍団と共に辿り着いたアロとグラもまた、唖然茫然の体をなしていた。

 

「はいいいいいっ!!!!!」

「なんすか! それっ!!!」

2人の目の前には敬愛する、いや崇拝する黄金の瞳の帝王が、がっくりとうなだれてへたり込んでいた。

そして、その手の中には、きらめく金色のリングが一つ。

 

「・・・ヤンさん???」

「それ・・・」

 

聞くまでもない。ヤンの瞳の色にも似た、簡素なデザインでありながら特殊な輝きを示すそれは、ヤンがロビーの左薬指へ「結婚の証」として嵌めたはずのマリッジ・リング。

 

敢えて金細工ではなく、ヤンしか作り出せないオリジナル合金で造られたそれは、何があろうと決して伴侶の指から抜け落ちるなどということはない・・・はずだったのでは??

「なのに・・・なんで・・・・」

「どういうことっスか・・・・」

 

アロとグラにすれば、何が何やらで当然である。

ヤン特製のあのリングは、ロビーの身の安全を守るための位置情報確認システムはもとより、特殊フィールドの展開他、数々の機能が搭載された科学技術の粋を極めたものであり、かつ、ヤンのリングと「対」となっているものである。

 

それが、何故? どうして、ヤンの手の中に???

そもそも、アロとグラが艦隊を率いて、極秘裏に隠されていた防衛会議の議場である人工衛星へ辿り着くのは、無論急ぎに急いだのだが、元が「場所が特定できない」仕様の衛星の位置を割り出し、その上で、ハイパー・ロードもない空間をひたすら無茶なワープを繰り返して、通常なら数日はかかるところを強行突破して2日かけずに辿り着けただけでも表彰台ものなのだが、ロビーとイックは、アロとグラの地球本社での経過時間で換算すると、それこそ「飛び出したと思ったら、数時間後には、ヒザクリガーが現れていた??」な状態である。

 

とすると、あの謎の襲撃があってから、まだ何の情報もない中、ロビーとイックのナガヤボイジャーは文字通り「光よりも早く」に到着し、そして、ハッチを回収して「ヒザクリガーが登場」となった・・・ということになるわけだが・・・。

その肝心なロビーもイックも・・・そしてハッチの姿もなければ、ナガヤボイジャーもヒザクリガーも見当たらない。

その上、目の前の社長は、茫然自失の体である。

 

「ヤンさんっ!!」

アロは、がくがくとへたりこんでいる神にも等しい恩人の両肩を掴んで思いっきり揺さぶる。

「ロビーは!? イックは!?」

「そうっス! あの2人は!?」

てか、何がどうして、どうなっってるんスかっ!!!

ハイトーンのグラの声も響き渡る。

 

映像に映っていた攻撃が派手だった割には、実際に辿り着いてみれば衛星に損傷はほとんど見当たらない。

せいぜい、外部からの熱光線攻撃により、一部、内部にも大穴が空いている程度だが、外装は既に自動修復機能で塞がれているし、内部の方も衛星の核となる部分に損傷があるようには思えない。

この程度で済んでいるのは、それこそ、ヤンが己のマントでのフィールド展開をしたからだろう。

 

実際、今は通信回路も復旧し、各大臣らが、それぞれの母星へ己の安否報告などを行っている真っ最中である。

そうこうするうちに、場所を嗅ぎ付けたマスコミ連中が来るとも限らない。いや、そんな連中については、そう簡単に衛星に着艦できないよう既にシャチホコ艦隊を周囲に展開しているが、それでも、いずれ事の顛末についての発表は求められるだろう。

 

なのに、肝心なヤンがこの有様で、ハッチは行方不明。

そして、ロビーとイックについては、何がどうなったのかまったく分からない有様という体たらく。

 

アロとグラが泣きそうになったとしても致し方あるまい。

何が・・・何があったというのだ、一体!!

 

そんな2人に、虚ろな声でやっと回答がもたらされた。

 

「別れると言われた・・・・・・・・・・」

 

言葉の意味が脳内に到着して・・・・。

そして反応へと転換されるまで数瞬以上はたっぷりと時間がかかった。

 

が、その次の瞬間、2人は盛大に叫んでいた。

「はいいいいいいっ!?!?!?!?!?」

「なんっスか!?!? それっ!?!?!?」

 

後にヤンズ・ファイナンスの「社史編纂部」がこのくだりについて

『まこと、真なる危機とは・・・・』

人の心なり、との名言を残すことになる事件は、かくしてアロとグラに伝えられたのだった。

 

驚愕と、そして、動転と惑乱の全てと共に。

 

★★★

 

ヤンズ・ファイナンスは全銀河に支店を持つ、金融部門を中心とした巨大企業である。

そうである以上、常に社長であるヤンの命を狙う者は後を絶たず、よって当然ながらこれに対する対策もまた万全になされている。

 

指のリングの全てに多種多様な機能が当然されているのは当然のこと。

一見するとただのファーにしか見えないそれが、羽の一枚一枚に精密な通信機やらエネルギーフィールド攻撃が可能なものが仕込んであったりとか、今回活躍したマントに至っては、最初から地球を襲ったアウター・スペースからの侵略者の熱光線対策仕様へバージョンアップされていた優れものである。

 

だからこそ、アロとグラは、最後の映像でヤンがマントを翻している様を見て「ああ、これなら大丈夫」と思っていたわけだが、何故かロビーはイックと共にナガヤボイジャーで飛び出してしまった。

 

それは、てっきり「無事だと分かっていても、それでも居てもたってもいられなくて」という「新妻心」故のものだろうと、ある意味ほのぼのと思っていたのだが・・・。

だが? この状況は? もしか・・・して・・・?

 

おそるおそる2人はヤンへと尋ねかける。

「あの・・・ヤンさん・・・・」

「もしか・・・しなくってもっスね・・・・」

 

ロビーに、ヤンさんの装備について実は・・・詳しく言ってなかった・・・・とか??

 

その問いに、がくりと敬愛する社長は、床にへたりこんだまま更に深くうな垂れる。

「別に・・・言うまでもないと思っていたのだ・・・」

私の身に何かあるなど! そのようなことは、百万分の一の確率もないのだから!!

「いや、ヤンさん・・・・」

「それは・・・・」

無理っス!!!!

2人が叫んだのは、ほぼ同時。

「あのっスね!!」

「俺たちだってっ!」

ヤンさんが絶対大丈夫って信じていたって、通信がいつまでも復旧しなくて心配がまったくなかったわけじゃないんスよ?

「まして・・・ヤンさんの装備のこと知らなかったら・・・」

「そうっスよ・・・」

 

閃光と共にフェードアウトする画像。最後の一瞬は、ハッチを庇うかのようなヤンの姿。

 

「あれ・・・・心配すんなっつー方が・・・・」

「無理っっ!!!! 無理っス!」

 

だから飛び出したのだろう。そして、だからこそ・・・どれだけ心配したのだろうかと、ロビーの心中を想うと2人の胸の方が痛くなる。

 

「そもそも・・・どうやって、あんなに早く『ここ』までナガヤボイジャーが到着できたのかも不思議ですが・・・」

「ああ、それか・・・」

 

アロの問いにヤンはため息と共に答える。

「イックとハッチが、新生ナガヤボイジャーを発注した時、2人で更にまだ一般には公開されていない『亜空間制御装置プログラム』を開発して搭載したらしいのだ」

「は?」

「へ?」

側近の2人の「???」の顔に、ヤンはぽつぽつと説明する。

「つまりだな・・・」

 

宇宙時代の今、光の速度を超えての「ワープ航行理論」は巷に普通に知られているし用いられている。

「だが、ワープは、あくまでも光を超える速度・・・つまりは『速度』についての理屈の一環だ。これに対して亜空間は、時空間そのものが変容する。これを応用するなど無茶も極まりないのだが・・・」

 

その無茶をどうやら、あの天才王子と、王子の祖父が手ずから高機能に仕上げたサポート・ロボットは「空間と時間そのものを変容させ、理論上の到着時間を亜空間を利用することで限りなくゼロに近いまで」に利用するというプログラムを開発した上、それの実践版をナガヤボイジャーに組み込んでいたらしいのだ。

 

「ただ、一つ難点があってだな・・・」

亜空間の制御による利点について、科学者らが思いつくことは皆ほぼ同じ。だが、どうしても乗り越えられない問題点があった。それは・・・

「時間、というものは『意識』のある者にとっては、極めて主観的なものだということとの整合性だ」

「・・・?」

「???」

だから??? という側近2人にヤンは分かりやすいように言葉を添える。

「有体に言えば、外部でのお前たちにとっては、ほとんど時間が経過していないように感じているとしても、亜空間を通過することを選んだロビーやイックにとっては、歪んだ時間経過体験となる・・・つまり・・・」

その時点で、あっ! と叫んだのはグラだった。

「つまりっ! ロビーにとっては、すっごい時間かけて到着したのと同じってコトっスか!?」

「・・・まあ・・・そういうことだ・・・」

「え? じゃあ・・・」

ヤンの肯定の意に、慌てたのは金髪のアロだ。

「どんだけか知らねえっスけど!!! それ、むっちゃくっちゃ時間かけて、その間ずっとずっと心配し続けてたってコトじゃないっすか!!」

「そうっス! あ! だから!」

2人ははたと顔を見合わせ、同時に頷いた。

「めっちゃくっちゃつらい想いを、とんでもなく長期間させ続けたってコトじゃないっスか!!!!!」

「ヤンさん! ちゃんとフォローしたんですかっ!」

 

いや、それが出来ていないから、今現在がこの体たらくなのだろうが、それよりも何があったのかをまずは聞かないとと、側近2人は息せききってヤンに叫ぶ。

「俺らだって通信が途絶えてて・・・」

「でも、ヤンさん、無事って信じてたから・・・」

それで何とかこうして平静保ってますけど!!!

「散々心配かけたなら、もちろんフォローしないと!!」

2人からの詰問にヤンは答える。

「ロビーへの・・・私が無事だとのアピールは無論したとも」

だが、それがどういうわけか・・・。よもや「あれ」は・・・逆効果だったのだろうか・・・

 

「どういうことなのかは、私にも分からないのだ」

と、枯れた声が下から零れる。

 

「私は・・・ロビーたちが、この衛星に到着した折、ちょうどアウター・スペース連中が空けた穴から下の階層へ落下していてな・・・・」

「は?」

「・・・・何してんですか・・・・・」

肝心な時に、との言葉は呑み込み、アロとグラはヤンの続きの言葉を待つ。

「落下といっても、重力装置で制御できる程度だ。ただ・・・」

落ちた先が、折悪しく第一撃で無駄に積んであった段ボールの山が崩れ落ちた倉庫内。そこに埋もれてしまったのだとヤンは状況を説明した。

「たかが、紙ごみと言ってもだな・・・機密文書を敢えてデータにせずに箱づめしていたものだったのだ。その重量は・・・いや、崩れた時の収拾のつかない状況ときたら・・・」

さながら、箱と紙の海に溺れたような感覚に一瞬陥ったのだと言う。

「それで・・・」

「いや、いいっス」

「大体、それで分かりやした」

「いや、私はまだ説明していないが??」

不思議そうに見上げてくる上司に対し、思わず噛みついたのは、もう反射的なものというか何というか。

 

「言わなくっても分かります! 要するに、ロビーが蒼白で『ここ』に辿り着いた時、ヤンさんの『姿』がなくて、『アウター・スペース連中の最初の一撃の反動で、詳細不明』状態だったってコトですよねっ!」

「詳細不明・・・いや、紙に埋もれていただけ・・・」

「んなこた、どーでもいいんです! 大事なのは・・・・肝心なのは・・・」

うるうると既に涙目のアロとグラ。

「ヤンさん・・・俺らだって・・・着いたらヤンさんが居なかったら・・・肝冷やします!」

「そうッス!!」

「なのに・・・ロビーは・・・ロビーは!!!」

 

心配して、心配して、心配して・・・。

情報も何もない中、不安に押しつぶされそうになりながら、どれだけの時間を体感することになっていたのだろう? 遠い昔の「大陸の向こう」で何があったかなど、数か月の旅を経ても分からない頃の・・・そんな折の時代の人々と、それはきっと同じぐらいどうにもならない不安だけの時間。

それでも、必死に・・・それこそ歯を食いしばって、そんな気持ちを押し殺して必死に辿り着いてみたら、伴侶が行方不明。

そんな悲劇があるだろうか?

「ヤンさんは、馬鹿ですかっ!」

この2人が、崇拝するヤン相手に「馬鹿」呼ばわりしたのは後にも先にも、多分この時だけだろう。

だが、それしか言いようがなかった。もう自然にその単語が出てしまっていた。

「馬鹿っス! 大馬鹿っス!!!」

大騒ぎするアロとグラ。

「何を言う! むしろ、私は、すぐにロビーの声に気づいてこのリングの重力装置を用いて、あの大穴から浮かび上がったのだぞ?」

それも神々しく演出するバックライトつきでだ!!

「普通、そこで夫婦の再会の抱擁! クライマックスシーンとなるはずだろうが!!」

「・・・じゃ、なんでそーなってないんっすか・・・」

突っ込むアロに対し、ヤンはそれが・・・と、苦悶に言葉を濁す。

「ヤンさんっ!」

更に追い打ちをかけるグラの声に、ようやく絞り出すような声は、2人への解としてもたらされる。

「・・・それが・・・ロビーは・・・・」

「ロビーは?」

「それまで、ハッチの肩を掴んでいた手を離して・・・」

「で?」

「私へ向かって・・・・・」

「んで???」

「・・・・・・・リングを投げつけたのだ・・・・」

そして、もうやだ、別れると離婚宣告されてしまったのだという。

 

『あ~~~~~・・・・・やっぱり・・・・・』

『ヤンさん・・・・・』

 

お・ば・か・・・・・・・・・・・・

 

がっくりとなるアロとグラ。

もうロビーの気持ちが手に取るように分かる分だけ、脱力するばかりである。

『・・・そりゃあなあ・・・・』

『必死で辿り着いて・・・・』

『で、安否不明告げられて・・・・』

『更に心底真っ青になったとこに・・・・』

 

タカラヅカの歌劇団よろしく、光と共に神々しく舞台の下から上がってきま~~す! みたいな演出されたら・・・

 

『誰だって・・・・なあ?』

『反動で・・・・』

 

心配で心配で心配で。なのに、相手が妙な余裕綽々な演出をしてきたら、そんなもの逆効果に決まっている。

 

「きつかったんだな・・・ほんとに・・・」

ほろりと涙ぐむアロ。

「そう・・・っスよ・・・・」

こっちはもはやボロ泣きのグラ。

 

「ヤンさんっ!」

常にはない気迫で、がっしと上司の肩を揺さぶり、アロとグラは2人がかりで思いっきり叫ぶ。

「ぼーっとしてる場合じゃないっス!!」

「そうっス!!」

「今すぐ、行きますよっ!!」

「行くっス! ヤンさんっ!」

 

そのまま、ぐいぐいと上司の手を引き、背中を押してヤンをシャチホコへ押し込む2人組。

 

「ヤンさんのシャチホコも収納しやしたから、このまま行きますよっ!」

「シャチホコⅡ、母艦出撃! 他は、マスコミ対応他待機!!」

目指すは・・・・

 

「ナガヤボイジャー!」

「ロビーのとこっス!!!」

 

新婚の総帥夫婦の離婚など、いや、そもそも・・・

 

「このままじゃ、ロビーが可哀想すぎるだろがっ!!!!」

「見損なったっス、ヤンさんっ!!」

 

と、かくして、防衛会議衛星からは、各大臣らが己の通信に必死になっている間に、ヒザクリガーに続いて今度は、黄金のシャチホコが一隻消えたのだった。

2人組の罵詈雑言付きで。

 

★★★

 

亜空間

そこは、時間も空間も、全てが「通常空間」とは異なる宇宙の隙間。

 

そこにたゆたうナガヤボイジャーの中で、ハッチとイックの声さえも遠くにロビーはただ意識を遠く遠くへ拡散させていた。

 

聞こえていないわけではない。見えていないわけでもない。

ただ、「感じられない」のだ。

まるで、水の中に沈んでいるような、あるいは、ガラスの迷宮の奥にでもいるかのように、ただ、ぼんやりと・・・遠くにあるようなないような蜃気楼を眺めているような感じしかしないのだ。

 

『もう・・・いいや・・・』

 

終わったのだ。全部。そうだ、自分が終わらせた。

 

最後に覚えているのは、指輪を投げつけた時のヤンの顔。

驚きに金色の瞳を見開いて・・・

 

だが、それでも言葉は止まらなかった。

もう嫌だと。別れると。

 

その後のことは覚えていない。

なんとなく、イックが手を引いてくれていたような感じや、ハッチと一緒にヒザクリガーの搭乗席に座っていたような感覚だけはしなくもないが、それが何だったのかも何もかも分からないし、知るつもりにもなれない。

 

『終わったんだな・・・・』

 

心に刻まれているのは、自分が打った終止符のみ。

終わった・・・もう終わった。全部、終わった。

 

ただそれだけのこと。

 

なのに、どうしてこんなに・・・・・・

「胸が・・・痛い・・・」

「ロビー?」

「おい! 今・・・」

 

微かな唇の動きと共に、見開かれた青い瞳からは、はらはらと涙が零れ落ちる。

「ロビー! ロビー! しっかりしてよ、ロビー!!」

「おいっ! なあ、ロビー! そうだ! キャバクラ行こう! 綺麗なおねーちゃん達のとこ行こう!」

だから、泣くなっ! なあ、ロビーっ!!!

 

必死なイックの励ましも、何の効果もなく時を止めたような生ける彫像は、ただ涙を流すのみ。

 

「痛いんだ・・・・」

「うん・・・」

ぎゅっと相棒を抱きしめ、ハッチはただ頷く。

「痛てえ・・・すごく・・・・」

「うん、うん!」

この応答に意味がないことなどハッチは無論分かっている。

分かっていても、答えずにはいられなかった。

「痛くて・・・苦しくて・・・」

そうして、どこかへ心まで飛ばしてしまったたった一人のハッチの相棒。

大事な魂の半身、命よりも大事かもしれないことを教えてくれた年上の親友。

 

その苦しみも悲しみも、自分ではどうにもできない。

どれほどの科学力があろうとも「心」だけはどうにも出来ない。

 

「俺様が・・・」

ぽつりと小さなウサギ型サポート・ロボットがうな垂れながら歯噛みする。

「もっと・・・」

「イックのせいじゃないよ! これは!」

ハッチの言葉に、いいや、と小さなウサギは首を横に振る。

「俺様がついていながら! 何のためのサポート・ロボットだ!!!」

最初っから、あのヤローはロビーを狙ってた! 分かってた! なのに!!

「むざむざあいつの手に落ちるまで俺は何も守れなかった。コイツが・・・楽しそうだったから! けど!」

「でも、イック! それならオレだって!」

「そうだな・・・俺様と、お前。2人で、もっと・・・もっと反対すりゃ良かったな・・・」

ロビーがこんな風にボロボロにされる前に。

「お前と、俺様と・・・3人で・・・どっか・・・ずっと遠くに・・・旅にでも出ちまうか?」

「そうだね。ルナランドは、オレがいなくたって、後始末ぐらいは出来るだろうし」

それに、こんなロビーを放ってなんかおけないよ、と少年は相棒を抱きしめながら涙する。

「オレはさ・・・ルナランドに帰ってから、ロビーとあまり会えなくなったけど・・・」

でも、ロビーはいつでも楽しそうに連絡くれたりしたから、何も言わなかった。言えなかったよ。

「でも、イック・・・ほんっと、オレたち同罪かもね・・・」

 

ヤンが裏も表も、すさまじい影響力と富を持っている銀河の大富豪であると同時に闇の帝王であることは、ロビーよりも、ハッチやイックの方が、そんな相手を伴侶にすることへの危惧は最初から抱いていた。

 

それでも反対しきれなかったのは、ロビーがヤンの傍にいて笑っていたから。

嬉しそうに・・・なんだか幸せそうに。

 

「幸せ・・・そうに見えたんだ・・・悔しかったけど・・・ね・・・」

相棒の自分には見せない笑み。満ち足りたような、穏やかな。

「でも・・・もう、許せない」

「ああ、それに離婚はロビーの意思だしな」

 

リングを投げつけたロビーの行動には、ハッチもイックも驚いたのだが、そのままロビーが崩れ落ちるのを支えてナガヤボイジャーまで連れて行くのに必死で、ヤンへの怒りも何も沸く余裕すらなかったあの時。

 

だが、今は違う。

「イック・・・オレと開発した、亜空間制御プログラム・・・」

「ああ、いきなりのぶっつけ本番だったが・・・」

ライブ中継配信元探索で絞り込んだ宙域への亜空間を利用しての時空間ジャンプ。

一歩間違えば、永遠にどこの空間とも接続できないかもしれない危険さえも、あの時は何も考えなかった。

いや、考えるよりも前に、ロビーは言ったのだ。

 

―――イック! テロなら、アウター・スペースの連中に決まってる!! ―――

ハッチへの逆恨みで衛星ごと破壊するつもりなら、救援は一秒も無駄なんかできねえっ!!

 

その一言で、飛び込んだ亜空間ルート。

結果、主観的には数か月分もの時間経過を体感することと引き換えに、出現ポイントにいたアウター・スペースの連中の戦艦に文字通り不意打ち的体当たりにて、彼らを潰走させることに成功した。

 

だが、人間の精神に「数か月」の不安は重すぎた。

そして、ハッチの無事は、着艦と同時に確認できたから良かったものの、ヤンは・・・・『居なかった』のだ。

 

大穴の向こうに・・・落下したと・・・・聞かされた時の絶望。

それなのに、次の刹那に、光と共にばかばかしい演出と共に昇ってくるのだ。

 

「あれは・・・・ねえよなあ・・・」

「うん、オレもそう思った」

 

そもそも、無事だの一言ぐらい、落下した直後に連絡してくれればいいのにっ!

「まあ、別にどうせ無事だろうぐらいには思ってたけどさ」

あの人、無駄に丈夫だし。

 

ちなみに、連絡ぐらいくれても良かったじゃないですか! のクレームは、アロとグラからもヤンは糾弾されていた。

 

「ライブ中継してたぐらいなんですから、無事なら無事と連絡ぐらい!」

「そうっスよ! 特にロビーに! なんでしなかったんです、ヤンさんっ!」

 

これに対して、すいっと見せられたのは指のリングの一つに微かに入った「ひび」だった。

「・・・思った以上に、あやつらからの熱量の防御フィールドに力を使ってしまってな・・・」

その反動で、僅かだが通信機能のコアの一部に支障が出たのだと言う。

「にしても! ヤンさんなら、他にも通信手段山ほど用意してるはずでしょうが!!」

この問いへの答えは、もうなんとやら。

「・・・私の結婚指輪が・・・ロビーと対となっているリングが・・・・」

ロビーが近づいていると知らせてくれて・・・

「胸がときめいてしまってな・・・」

「・・・・で、忘れたっ!? 連絡を!?!?」

「すまん・・・感動の再会シーンが脳内展開していて・・・・つい・・・」

 

「つい、じゃないでしょうっ!!!」

「ヤンさんっ!!!」

 

乙女思考も、時と場合を考えてくださいっ! 古典的少年マンガみたく『主人公死なず!』じゃないんですよ!

「つか、むしろ・・・昔の少女マンガとかだと、結構恋人との死に別れネタ多いじゃないっスか!!」

「ロビーが飛び出して・・・事故って・・・何かあったらとか・・・少しは考えてください!!」

マンガの世界だって、「生き返り設定だろう」とか油断してたら、連載最後まで生き返らなかったキャラとか色々あったりするのは、ヤンさんのがよっぽど詳しいでしょうが!

「いいですか? ヤンさん・・・・あの有名な名作『ヤマト・ワキ』の『はいからさんが通る』だと、ヒロインの紅緒自身、関東大震災で死にかけてたんですよ!!! いや、もちろん『主人公死なず』をヒロインに叫ばせるヤマト・ワキ節炸裂で、目いっぱい無事でしたけど! 

「でも、あれだって思いっきり周囲は、紅緒が死んだんじゃないかとか心配しまくってですね・・・」

「そうそう! ヤマト・ワキなんか、まだいいですよ! もっとハードなのは・・・少女マンガの女王と呼ばれた『イチジョウ・ユカリ』原作の『砂の城』とか・・・・」

あの作品なんか、主人公のナタリーが不幸にも恋人に死なれるとこからスタートみたいな話で、最後は、「ナタリーは死んでやっともう苦しまなくて良くなったのでした」的な、謎なハッピーエンド? ですよ!?

「あの話・・・ナタリーに死なれて、残されたフランシス・・・・どうなるんだか・・・」

ヤンさんからのお勧めで必須教養ですから、俺もグラも、ヤンズ・ファイナンス全員読んでますけどね! ええ! このデータ全盛の時代に古典的にも贅沢な「紙媒体」コミックスで!!

「泣きましたよ・・・あの話・・・」

で、あの話を愛読してるヤンさんが、なんだってまた・・・

「自分が死なない前提しか考えてないんですか! つか、自分が生きてたって、相手が心配のあまり飛び出して交通事故死とかって、昔の少女マンガの定番でしょうがっ!!!」

 

何故かたとえが少女マンガ、しかも古典的なものが題材となっているのは、一重にヤンの趣味だからなのだが、だからこそ、確かにアロとグラの抗議の趣旨は、実に正確にヤンの胸を貫いた。

 

無論、この緊急時を「古典的少女マンガ」にたとえて通じるのが、果たして良いのかどうかは・・・・

この際、置いておくとして・・・

 

だが、確かにそうだ! と、言われて、はたとヤンは我に返る。

「そうか・・・私は『自分が死ぬ』などとは毛程も思っていなかったが・・・・」

「そうっス! ロビーになんかあったら、ヤンさん生きていけるんスか!?」

「・・・・無理だ・・・・」

 

軽く死ねる。その断定に

「だったら、ロビーだってヤンさんの安否心配することについても、ちゃんと配慮してくださいっ!」

と、アロとグラだけではなく、後にヤンズ・ファイナンス全社員、特に結婚式でロマンスを堪能した女性社員らから、散々ブーイングの嵐が来たのは後日談。

 

だが、今はそれどころではない。

 

ナガヤボイジャーとは依然通信不能という。

「多分・・・あっちが通信拒絶してるんでしょう。後は・・・亜空間あたりに退避してるかと・・・」

冷静なアロの声に、そうか、とヤンは呟く。

「亜空間っスよ! ヤンさん! どーすんですか!!!」

 

しかし、これについては、平静を取り戻した銀河の帝王は、実にあっさりと決断を示す。

「ならば、我々も亜空間へ飛び込むまで!」

 

普通「死ぬ気ですか?」と止めそうなものだが、まったくそうしないのが、ヤンさん絶対主義のアロとグラ。

「じゃ、行きやす!」

「人工亜空間ゲート生成プログラム発動っス!」

 

そして、黄金のシャチホコもまた亜空間へと突っ込んでいったのだった。

ヤンのオリジナルプログラム・・・ただし思いっきり「未完成」な代物を起動させて。

 

★★★

 

時空間の全てが、通常空間の理屈では測れない。

それこそが亜空間の亜空間たるところなのだが・・・逆説的に言うならば「何でもあり」でもあったりする。

 

というか、意識的に都合良く制御できないのが難点なのだが、そもそもがワープどころでなく「空間ごと捻じ曲げる」のだから、時間も空間も関係なく、文字通り「一瞬で、どこかへ放り出される」のがその最大の特徴である。

要するに、制御プログラムもなしに飛び込むのは、運を天に任せるだけ・・・でしかない自殺行為。

 

だが、ヤンの強運は、普通ではなかった。

 

「わっ!」

「な、なんだっ!」

 

何もないはずの空間で、突如の振動。

それも・・・何かにぶつけられたような衝撃つき???

 

揺れるリビングで、ロビーを守るように抱きしめたままのハッチとイックを余所に、気づけばナガヤボイジャーは黄金のシャチホコ内に呑み込まれていた。

 

「は?」

「へ??」

 

ハッチとイックの驚愕は、いきなりナガヤボイジャーのドアを蹴破って飛び込んで来た黒のファーに独特のマントを翻したヤンの姿を目に映すや、文字通りの大絶叫となった。

 

「何しに来たんだよっ!」

「てか、どーやって!!!」

 

既に、位置追跡も兼ねたロビーの結婚指輪は、ここにはない。

それに、亜空間に漂う存在は、その「存在」そのものが揺らぐのだから「探知」など絶対に出来るはずもない。

 

だが、現実に目の前に・・・ヤンはいた。

金色の双眸をかっと見開き、つかつかと、少年とサポート・ロボットが必死に守ろうと庇っている存在の傍へとやってくる。

「おいっ!」

立ちふさがるのは、小柄なウサギ型サポート・ロボット。

イックは、小さな両手を最大限に広げ、そして叫ぶ。

 

「出てけっ!!!」

てめーの面なんざ、金輪際見たくもねえっ!!!!

 

ゆら・・・と、イックの背から蜃気楼のようなものが立ち上って見えるのは、錯覚でも何でもなく、文字通り怒りのあまり高度な集積回路がヒートアップしすぎての冷却機能のために、背面から湯気が立っているせいだろう。

 

「誰のせいで・・・! こんなことになったと!!」

 

そんなイックの前に、ヤンは跪くと深く深く頭を垂れる。

「すまない・・・」

「謝って済むことかっ!!!」

当然の反応に、それでも、ヤンはたじろがずただ懇願する。

「それでも・・・私は、ロビーに詫びるしかないのだ。無論、お前にも、イック・・・」

「俺様なんざどーでもいいさ! けどな! けどなぁっ!」

もはや半狂乱のウサギ型サポート・ロボットの泣き声に、だが、その時以外な声が響いた。

 

「イック・・・・」

「え?」

くるりと振り返ったそこには、相変わらず虚空のみ映す瞳の主の姿。

だが、聞こえた。確かに、自分を呼ぶ声が!

「ロビー!!」

どうした! 俺様を呼んだか!?

その声に呼応するかのように、ゆっくりと彫像の腕はソファーの上から、小さなウサギの頭の上へと移動する。

「・・・心配・・・するな・・・」

ほわり、と浮かぶ笑顔はあまりに儚くて、透き通るようで。

それが余計に悲しくて、イックは、わっと涙を零す。

「ロビー! お前っ! こんなになっても、俺様のこと!!」

ばかやろっ! 大変なのは、おめーの方だ!!

「俺様より・・・お前のが・・・大変だっつーに!!!!」

なのに、いつもいつもロビーは、こうして当たり前のように他者を案じる。心配かけまいと明るく振る舞う。

こんなになっても。もう「心」さえも、ここには無いというのに!!

 

「・・・イック・・・これは・・・」

その様に、茫然と立ちすくむヤンに対し、ぎっとイックは真紅の瞳で睨みつける。

「見りゃ分かるだろが! ロビーは・・・ロビーはよぉっ!!」

言葉がもう続けられなくなり、しゃくりをあげるサポート・ロボットの代わりに告げたのは、大切な相棒を抱きしめた月の王子だった。

「ロビーはね・・・心が壊れちゃったんだよ・・・・」

 

亜空間通過という無茶に加えて、ヤンが所在不明だったという負荷。

そして、そんなにも案じた相手が、まるで自分を茶化すかのように登場した「その」衝撃に。

「ロビーの心はね・・・耐えられなかったんだ・・・」

ぎゅっと、相棒を抱きしめて少年は切なく、絞り出すような声音で語る。

「痛いんだってさ・・・胸が・・・」

心はここに無いのに、痛いって。

「誰のせい?」

澄んだ翡翠の双眸が、銀河の帝王をも鋭く射抜く。

「オレ・・・あんたのこと見損なったよ、ヤン」

言われ立ち竦むヤンに対して、月の王子は更に続ける。

「オレはね・・・ロビーが『楽』になれるなら、もうこのままでもいいとも思ったよ。でも・・・」

ロビーは痛いって泣くんだ。

「誰のせい?」

分かってる? 分かっている? 本当に?

「ロビーは・・・優しいんだよ。優しくて・・・だから・・・」

誰の事だって大事にする。それなのに!

「結婚までして! 愛してるなんて、歯が浮くようなこと散々言っておいてこれっ!?」

ハッチの腕の中のロビーの瞳は誰も映していない。

ただ、涙だけが虚ろな青に浮かんでは零れる。

心が壊れてしまったのだと、ハッチは言った。

「つらくて、痛くて、苦しくて・・・」

それは、人間が極限状況に追い込まれた際に生じうる自閉症の一種。

医学の博士号も持つハッチは、淡々と続ける。

「心を閉ざした人にも色々いる。それで楽になる人もいる。でも・・・」

ロビーは、痛いままなんだ。

「よりにもよって! あんたのことを『想って』苦しんで!」

ぎりっと歯噛みして、少年の翡翠の双眸は更に険しさを増す。

「もう・・・近寄らないでよ! あなたが! あなたこそが!」

ロビーを苦しめる原因なんだから!!

 

正確すぎる糾弾に、どうして反論できようか。

だが、それでもヤンは、ゆっくりと前へと進んだ。

「ロビー・・・」

「聞いてないのっ! 来るなって言っただろ!」

ハッチは、更にロビーをしかと抱きしめる。

「そうだ! それ以上こっちに来るなっ! この最低最悪下種野郎がっ!」

イックもまた、行く手を遮る。

それでも、ヤンはふらふらと・・・ただ、想い人へと手を伸ばす。

「ロビー・・・私の・・・」

「ちょっ!」

「おいっ!」

ハッチとイックが、必死に2人がかりでロビーを庇うも、一瞬だがヤンの手がロビーの腕を掴む方が早かった。

「ロビー・・・頼む・・・!」

祈るように掴んだ左手を握り額へと当てる。

「私が悪かった・・・だから・・・」

「って、何を!」

「あっ!」

ヤンの所作から察して、『それ』を止めようとしたハッチとイックだったが、ふっと零れた小さな声に一瞬、気を殺がれた。

「ヤ・・・ン・・・・?」

ぼんやりとした分かっていない声。それでも、その瞬間を逃さず、するりと左手薬指へと、ヤンの手から金色のリングはするりとロビーの指へと落とされる。

「・・・頼む・・・!」

そのまま祈りの姿勢を取るヤンを突き飛ばし、イックは慌ててロビーの手を取る。だが、思わず驚愕に叫びを上げる。

「ばかなっ!」

「何を! えっ!?」

イックの慌てようにハッチもまた、茫然とする。

ロビーの左手の薬指に嵌められた金色の指輪は、ヤンの所作からして、簡単に嵌められるもの。

ならば、簡単に抜けるはずであろうに、どんなにイックが引っ張っても、ロビーの指から取れないのだ。

「なんでだ!」

「どういうこと!?」

まさか、今度こそ拘束するつもりで何か仕掛けを? との疑いの視線にヤンが答えるよりも先に、小さな小さな声が零れた。

「・・・俺・・・これ、してて・・・いいの・・・かな・・・」

「ロビー?」

正気に返ったのか? おいっ!!

イックの問いに対し、そのままハッチの腕の中へと崩れ落ちる上半身。

「・・・イック・・・ロビー・・・・」

意識、飛んでるみたいだ・・・・。

 

だが、その左手はいつしか固く握りしめられていた。

まるで、もう離さないとの意思表示でもあるかのように。

 

★★★

 

ヤン特製の特殊合金で造られた結婚指輪は、『想いがある限り、外れることがない』という独特の仕様が施されていた。

 

そのことはヤンは知っていたが、イックやハッチが知るわけもない。

ロビーもまた、なんとなく結婚当初に聞いてはいたが、「もののたとえ」ぐらいにしか考えていなかったし、現に別れると叫んだあの時は外れたのもまた事実である。

 

「ということは???」

 

まずは、この忌まわしい指輪を外せ! と散々亜空間で揉めまくった後、最終的には「それより、ロビーをまずは専門医に見せる方が先だろう」とのヤンの言により、渋々ながら一行は現在、銀河連邦でも遥か彼方のとある王国の庇護下に入っていた。

 

理由は、その王国が非常に鎖国的で、滅多に外の者との接触をしない特殊な星域であり、ある種の聖域的存在でもあったこと。そして、その王国付きの医師が、精神科医として銀河連邦で随一の名医であることだった。

 

この名医もまた、かつては、闇社会にその手腕と研究成果故に目をつけられたことがあり、それを、ヤンがこの王国付きへと推挙することで匿った経緯があったことから、通常ならば、まずもって入国自体認められないその星域の王国の医療惑星へとナガヤボイジャーを格納庫に呑み込んだまま、黄金のシャチホコの入港は許されたのだった。

 

そして、アウター・スペースからのテロ騒動が、散々にマスコミに取沙汰され、そして銀河の英雄2人への賛辞と、2人の熱い友愛と絆に全銀河が感動の嵐に包まれ、ついでに、ルナランド広報などは、ロビーがハッチの肩を掴んでいたシーンを意味深なものに意図的に改変したものまで流すなどして、銀河中に「王子と英雄のロイヤルロマンス!」の印象操作をしたりもしたのだが、これが出来たのも、何しろ当事者が全員、行方不明だったからに他ならなかった。

 

勿論、ヤンズ・ファイナンスもルナランドも表向きは、王子と総帥については現在、更なるアウター・スペース対策のための協議中であり、ロビー・ヤージ氏も共に居るが、安全面のためそれ以上のコメントは控えさせてもらうとのスタンスを貫いていたが、本音のところでは、しばらくの間「どうなってるんだ!」とかなりパニックだったというのは、内緒の話である。

 

特に、ヤンズ・ファイナンスの広報担当は、「なんだってルナランド側のステマもどきの『ハッチ王子とロビー奥様が、まるで、あっちが恋人みたいなロマンス広告』を許してるんですかっ!」と相当怒り心頭だったし、ルナランドはルナランドで『王子がまた家出!?!?!』とステマをしながらも焦ってはいたらしい。

 

だが、ハッチの家出は前にもあったことだし、と悪い意味で慣れていたルナランドと、社長がロビーを追いかけて何か月も本社をほったらかしだったことに、これまた『既に慣れていた』ヤンズ・ファイナンスである。

 

最初こそは、内心で相当色々な思惑が交錯して、それぞれに案じたり色々あったらしいが、結局、最終的には「自分たちが出来ることをするしかない」という、組織人として大変正しい結論に落ち着いたのは、流石というか何というか。

 

そんなこんなで、ある意味被害も少なかったこともあり、次第次第にマスコミ報道も収まってくるようになった頃。

この辺境の医療惑星で、ロビーは皆に囲まれて過ごしていた。

 

「イック! やっと家から出られて、ほんっと良かったなあ!」

「ああ、そうだなロビー」

「それに、ここは静かで空気もいいや!」

じーちゃんと一緒に、近くの丘まで散歩したりお弁当食べたりしたの思い出すなあ・・・。

「にしても・・・なんだろ、これ??」

ロビーは自分の左手の薬指の金色のリングを、引っ張っては首を傾げる。

「なあ、イック? これさあ・・・きついわけでもねーのに、どうしても取れねえのはなんでだ??」

「さあな」

たまたま、知恵の輪みたく嵌っちまったんじゃねえの??

「そっか・・・。まあ、キレイだしいいんだけどさ」

「そうか・・・」

嫌じゃないのか、との問いを飲み込み、ウサギ耳を垂らして、イックは首を横に振る。

「んなことよか、寒くねえか?」

毛布とか要るか? との問いかけに、ぷっと笑ってロビーは答える。

「変なイック! おれ、寒がりじゃねえよ!?」

「・・・そうだな・・・・」

 

微妙な会話を湖畔でしている様を、少し遠巻きに眺めている長身。

「ヤンさん・・・」

心配そうに問いかけるアロやグラからの視線に、平気だと小さく低くヤンは答える。

「ロビーが笑っている。それでいいではないか」

「でも・・・」

 

そんな2人の問いかけの最中でも、今度は、ロビーは嬉しそうに違う方向へと手を振っている。

「わ~~~! ハッチ! おべんと、もってきてくれたの!?」

「うん。ロビーの好きなもの・・・シェフに作ってきて貰ったからね」

「じゃ! ピクニックだ! ハッチも食べよ! ほら、すわって!!!」

湖畔の芝生を叩いて、きゃっきゃとはしゃぐ様は、無邪気な子供そのものである。

 

「ロビー・・・」

ぎゅっと、ハッチがその細長い腕で抱きしめれば、きょとんとされるがままにいる。

「どうかした??」

「ううん・・・」

ちょっとね・・・。少し泣きそうになったのを堪えて、サンドイッチや紅茶をランチョンマットの上へと並べる。

「あはは! ほんっと! おれの好きなのばっか! あ、オムレツもある! これ大好き!!」

 

「ヤンさん・・・あれ・・・」

「ああ、そうだ」

 

ハッチに持たせたバスケットの中身は、ほとんどがヤンの手製のもの。

ロビーが好きだと言っていたオムレツに、サーモンサンド。それに、特製マヨネーズで和えたベーコンレタスサンドは、自家製ピクルス入り。

そして、紅茶もスコーンも・・・クロテッドクリームも何もかも。

 

『おお! お前の作る朝食って最高だな!!!』

 

毎朝、ロビーが寝室で目を輝かせて、ぱくついてくれたものばかりである。

 

しかし、ロビーの記憶の中に、今、それはない。

 

「でもさあ、イック?」

「どうした、ロビー」

はむはむと、齧りながらロビーは小首を傾げて幼馴染でもあるウサギ型ロボットへと問いかける。

 

「やっと学校や、パーティーとかから逃げられたけど・・・」

おれ、どうやって家出できたんだっけ???

 

きょとんと尋ねられれば、そりゃ、俺と一緒に逃げたんだよとサポート・ロボットはそつなく答える。

「そっか・・・」

でも、その際にちょっと無茶をしたから、色々と記憶が飛んでしまって、今ここで養生しているんだとの説明に、そうだったかなあとロビーは、左手の薬指を弄りながら問い返す。

「なんか・・・すっごく大事なこと・・・忘れてる・・・ような気がさ・・、っ!」

「あ! こらっ! ダメだろ!」

っ! いたっ! と共に頭を抱える様に、慌てて痛み止めを飲ませれば、ふうと小さなため息が零れる。

「うん・・・おくすり飲むと・・・楽になるんだけど・・・」

なんなんだろう・・これ???

 

木陰で見守るヤンが、今にも飛び出しそうなアロとグラを抑えていたのは、ただただ、それしかないと理解していたから。

だが、アロとグラからすれば堪らない。

「でも、ヤンさんっ!」

「ほんとに・・・これで・・・・」

いいんですかっ! 構わないんっスか!!

 

問いへの答えは明確だった。

「良いわけがないだろう。だが・・・」

 

銀河一の名医は、ロビーを診察した後、鎮痛な表情で皆に告げたのだ。

 

『外的および内的な衝撃が強すぎたようです。しばらくは・・・・』

 

一部の記憶を封じ、少しずつ自然に回復するようにするしかないでしょうと。

 

「ロビーの自我が、傷ついたままならば致し方ないだろう。そして・・・」

 

少年期の頃までに催眠療法で遡ったロビーは、イックのことはすぐに認識し、ハッチのこともまた「家出した後に出来た親友」と認識した。

 

だが、ヤンとのことだけは、ヤンを見ても『誰?? このおじさん』との反応のみだったのだ。

 

「それでもロビーは、私のリングを・・・してくれている・・・」

意識してではないだろう。それでも、無意識のどこかで私を想ってくれている。その証であるかのように、ロビーは決して、左手薬指のリングを無理に外そうとしないし、取ろうともしない。

 

時折不思議そうに眺めている様を見ていると、抱きしめたくてたまらなくなるが、医師からは「伴侶がいるとの認識は、少年期の精神には厳しいでしょうから」と止められ、こうして、遠くから見つめるだけの日々を、今は余儀なくされている。

 

それでも・・・それでも・・・それでも、リングは今もロビーの左手薬指で輝いている。きらめいている。

 

「だから・・・待つとも・・・」

 

もう一度・・・ロビーが「私」を思い出してそして・・・

「叶うならば、許してくれることを・・・」

「ヤンさん・・」

「・・・ヤン・・さん・・・・!」

すすり泣くアロとグラを脇に、かくして、ヤンズ。ファイナンス総帥はしばし隠遁の日々を送ることになったのだった。

 

家出王子のハッチと共に。

 

ロビーの想いを再び掴むことができる・・・ほんのわずかな希望のみ抱いて。

 

銀河の覇者も英雄も、今は、ただ「まどろむ幼子」のようなロビーを見守るのみ。

 

「イック! あそぼ!」

無邪気な声が、ただ、切なく響く。

 

何事についても不可能はないと言われた天才王子も、銀河の闇の帝王も。

たった一つ、何もできない。

それを突きつけられた事件であった。

それもまたロビーの中にあった「好き」の想いが故のものだとすれば・・・。

人の想いほど難しく、そして残酷なものはないと言えようか。

 

穏やかな陽光の中、ロビーはかつて見たことがないほど、明るく笑う。

幸せそうに。嬉しそうに。でも、どこか時折、何かを探すかのように首を傾げて。

 

(第8話おわり)




不穏に終わってごめんなさい~~~~~!!!
いちゃらぶ期待していた人、更にごめんなさい~~~~!!!!

でも、書いていたらそうなってしまったのですよ!!!

・・・ロビー・・・無意識にヤンさんのこと「本人が思っている以上に」好きだから・・・・・

さて、次は? 冬コミ後ですね。新年からアップできるといいな!!!
(ここまで構想拡大しといて、後始末しないことはありませんと約束します。ええ、します!!)

あ、分割掲載の方が良かったとか、そういうご意見募集してます。活動報告へのコメントなどにて、よろしくお願いいたします。

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