雄英高二のモラトリアム・ヒーローアカデミア   作:笹林

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受験とは、当日よりもそれまでの日々の過程が重要である。


というわけで始まります。



オリジン2

真っ暗な部屋に、LEDライトのスタンドが勉強机だけを照らしている。勉強机の上には筆記用具やら付箋やらが散乱し、問題集と参考書が机の周りにコの字型の壁を作っている。窓はシャッターが閉められていて、外の様子を知ることはできない。シャーペンのカリカリという音と、ボロクーラーのゴーゴーという、勉強机に25℃の冷風を吹き出す音とがユニゾンして、なかなかに不快に仕上がっている。

 

 

そんな部屋で、俺は過去問集の数学をやり続けている。第一志望の雄英とは違うが、雄英のコピー学校として業界では有名なヒーロー科のある私立の過去問だ。露骨なパクリから教育委員会にたびたび指導を受けているが、毎年懲りずに前年度の雄英入試のマイナーチェンジを繰り返している。

そのせいで世間ではよく「雄英の小判鮫のなり損ない」、「雄英の記念受験の代替品」、「生徒を金で買って定員埋めてる」、「ヒーロー科が足を引っ張っている唯一のケース」、「"英雄(ヒーロー)"を歪ませる社会のガンだ」など非難や中傷の的になっている。

 

 

あまり積極的に情報を集めるわけではない俺でも、この過去問を解くまでは、本当に誰が受けるんだ?と思っていたぐらいだ。たぶん結構な数の人間にそう認知されているだろう。

一応、擁護するなら、教育内容もパクり、定員がなぜか埋まるので金があるから建物もパクりパクりと、体育祭以外はほとんどすべてパックマンしているので教育環境はそこそこいいらしい。

一部の人からは、その功績を称えて「プロの雄英フォロワー」の称号を送られている。

ちなみに体育祭はセメントスとリカバリーガールがいないと成り立たないからパクれないそうだ。

 

 

しかし、(負でも)知名度があるお陰で雄英受験者が雄英の過去問を始めるまえの肩慣らしに利用されているらしい。

講師にこの話と共に「試しにどうだ」と過去問を勧められたときには、(こいつ金でも貰ってんのか)と癒着を疑ってしまった。自分から力試しの試金石がないかどうかを相談しにいった手前断ることもできず、しぶしぶ持って帰ってきたわけだが………

 

 

結論から言うと、すごくよかった。

とりあえず得意な数学からでもやろう、と低いモチベーションでパラパラとページをめくり、数学の問題を見た瞬間、椅子に何気なく座っていた背がまっすぐ伸び、脊椎にビリビリと電気が走った気がした。まるでオールマイトを初めて見たときのような、

……言い過ぎた、そこまでじゃない。オールマイトとの出会いと比べるのは間違っていた。冷静になって考えたら、道鏡のち○こが一尺(約30cm)と知ったときぐらいの衝撃だった気がする。

 

 

話を戻すと、問題は素晴らしい出来だった。プロの雄英フォロワーの本気を垣間見た。

俺も雄英入学を希望するたまごっちの一人、雄英の過去問を講師には秘密でやったことがある。その時の記憶と照合しても本当に良くできている。

 

 

雄英とそっくりの問題の文体。図の配置やその有無まで同じ。

雄英の問いたい意図をしっかりと把握しつつ自分の学校のレベルに落とし込んでいる。雄英の問題が全体的に難しかったときは題意に沿うようにして大幅に変更するという大胆さも兼ね備えている。

試験時間が雄英より10分短いこととバランスをとってなのか、少しだけ計算が簡単になっている。

 

 

雄英の過去問は1年分しかやっていなかったので、比較はあまりできなかったが、それでもこれだけの工夫を発見した。たぶんまだまだ俺のような若造には見つけられないテクニックがあるはずだ。今なら雄英志望が落ちたら行く理由が分かる。滑り止めにはぴったりだ。なんせ専用の受験勉強をしなくてもいい。

 

 

ところが俺は文章題の解答を書いていると、そこで最も大事なファクターを逃していることに気がついた。思わず手を止めてしまう。さて、果たして俺の考察には何が足りなかったのか。

情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ! ではなく、もちろん速さでもない。タイミングのよさが抜けていた。

 

 

このリスペクト過去問は確かに役に立つ、裏表のない素敵な本だった。駄菓子菓子(だがしかし)、これを解くタイミングがもし雄英対策が始まったあとだったら、完全に質の悪いダビングになる。また、もっと早くて雄英の過去問を知らないままで解いてもありがたみは感じなかっだろう。このタイミングは考えれば考える程にベストだ。

 

 

………ベストだ、けどそれでも認めたくはない、なぜなら、

 

 

 

 

「それって雄英の過去問に手を出したら、全然解けなくて不安になって、相談したのがばれてんじゃねぇかああああ!!?」

 

 

深夜テンションで、持ってたシャーペンを壁にダーツして叫んでしまった。壁にシャーペンが突き刺さる。しかし、そんな些細なことよりも、、

恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいぃ。やべえよやべえよ、むちゃくちゃカッコつけて「いい本、知りませんか」キリッ みたいな感じで聞いちゃったよ。え、あればれてたの?明日塾休もうかなぁ。

 

 

コンコンガチャ

 

 

借用(しゃくよう)、何時だと思っている。近所迷惑だ」

 

 

バタン

 

 

落ち着いた。父さんの厳格な声はいつも心をピシャリとしてくれる。素数を数えるより効果ある(当社比)。父さんは明日も仕事があるんだ、静かに寝かせておいてあげないと。そんな優しい気持ちになれました。ふと、時計を見るとてっぺんを回っていた。もう今日の話じゃないか、HaHaHa………なんかごめん。

 

 

気持ちを切り替えて、とりあえず書きかけの解答だけ完成させて、答えあわせをしよう。訂正と復習は明日やると決めて、壁に投げたシャーペンを引っこ抜く。芯が、折れてやがる。マジかよ。新しいシャー芯を突っ込もうと筆箱のなかをいじる。すると、空のシャー芯ケースが出てきた。マジかよ。

 

 

せめて、と赤ペンで丸付けだけしていく。ヤってすぐのリカバリーが大事なのに残念だが、睡眠時間確保のために仕方がない。割りきって、なるはやで終わらせた。

 

 

あとは風呂場で手の黒鉛を落とし、消しカスを片付けて寝るだけだ。部屋を出ていき、風呂場までの廊下の途中で飾ってある家族全員の集合写真を見る。家をバックに、俺と父さんと母さんが笑ってピースサインしている。母さんの満面の笑顔と、父さんのぎこちない笑顔とピースサインが対称的だ。

 

 

「俺は最高のヒーローになるよ、母さん」

 

 

俺は毎日言っている言葉をまた、宣言する。手を合わせる、祈るなどの特別な形はない。ただ自分の始まり(オリジン)を意識して、力が湧いてくる。この記憶と経験がある限り俺は立ち止まらない、ずっと折れずに前を向いて歩いて行けるだろう。そして、いつか……

 

 

 

とは思いつつも、眠たいので宣言したらすぐに手を洗って、消しカスを小型ちり取りで処理して布団に入った。

 

:

:

:

:

LEDライト消すの忘れてた。一度布団から出る。

 

 

バチッ

 

 

おやすみ

 

 

 

 

 

 

 

テ~レ テ~レ テッテ テ~

 

 

 

 

 

 

起きた。5時アラームで起きた。夢の中から戻ってきた。なかなかの悪夢だった、まさかせっかく入学した雄英高校から初日で二十人もの退学者が出るなんて。まぁ所詮は夢だ、リアリティーがない。ヒーロー科の偏差値が78、79帯で、それ以外の科も準じて偏差値の高い天下の雄英高校に初日で退学する問題児が入れるはずがない。スパルタ指導で何人か自主退学するって話も聞くけど、初日なんて入学式ぐらいしかない。それも一人ならともかく二十人も、あり得ない。ないない尽くしだ。

朝食の席での話題にしよ。

 

 

乱れた布団から出て、風呂場に顔を洗いに行く。

蛇口を捻って水を放出し、掬って顔に叩きつける。これで目が冴えて、頭がスッキリする。そして、昨日の過去問の解答解説を読むのをスッカリ忘れていることを思い出した。

 

 

が、とりあえず日課のジョギングを優先する。ジャージを着て、靴ひもを絞め、ドアを開けて走り出す……ことはできずにまずは階段を降り始める。マンションだから仕方がないことだが、一度はドアを開けた勢いのまま駆け出してみたいものだ。別にこれもトレーニングになるから不満があるわけではないんだが。一軒家と比べてしまうのはマンション住みの習性だろうか。

 

 

階段運動も始めた当初は辛かったが、今では苦にもならず、どうでもいいことを考える余裕がある。焦らずとも確実に努力は実を結んでいるのだと実感する。俺は雄英という壁を背負いすぎていたのだろう、自分を分析する余裕を失っていた。気づかせてくれた過去問、ひいては紹介してくれた講師、いや恩師には感謝しなくてはいけない。今日塾に行ったら伝えよう、言葉にすることは大切なことだ。

 

 

マンションの自動ドアを抜けて、いつものコースを走る。そこそこ広い公園を終点とする、片道約10kmのコースだ。今では20分ぐらいで着く。日の出直後の太陽とキラキラと輝く鱗雲を流し見ながら、腕で風を切り、コンクリートを踏みしめて走り、坂を駆け上る。心臓バクバク身体ガクガクになったころ公園に到着する。地面に倒れ込み、

 

「ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、休憩!」

 

と全身から呼吸をしながら、けじめをつける。今日初めてまともにしゃべった気がする(独り言だが)

 

 

汗をタオルで拭い、家から持ってきた水を飲む。少しボーとし、そのあと公園で『個性』の練習を開始する。まずは簡単に腕を鉄、木、土、もとに戻すと変換していく。これは慣れたもので一瞬でできる。次に身体全体をそれらの素材にしていく。これが難しく、便秘の時並みに力まなければ変換できないのが現状だ。

これも訓練し始めた頃に比べたらましになっている。最初も最初は3分ぐらい「ウオオオオオオォォォォォ!!」と気合いを込めないとなれなかった。ウルトラマン帰っちまうよ。

 

 

誰に説明するわけでもないが、この『素材変換』という『個性』は扱いづらい。

近くのものと同じ素材になれる。これだけ聞くと変形系最強の『個性』だと認識されそうになるが、ひどい勘違いだ。

 

まず、変形ができない。木に変換するなら身体が木になるだけ、伸ばせたりはしない。鉄に変換するなら身体が鉄になるだけ、剣を生やしたりできない。常に等身大の自分であり、ぶっちゃけ一番硬い鉄以外使わない。

 

次に、変換しても俺の身体だと言うことだ。木の身体で焼けるともとに戻っても火傷。水の身体なんかになったら、殴られて水が飛び散り、もとに戻ると血が飛び出す。ぶっちゃけ一番硬い鉄以外使えない。

 

しかもだめ押しに重さは反映されるから、鉄では重たくて俊敏に動けない。

 

利点は変換されたらもとに戻さない限り戻らないから、持久戦に強い点くらいだ。

だから、今できる最善の戦い方はアイアンマン(素材)に変換して持久戦に持ち込む、だ。

 

 

圧倒的に地味。こんな体たらくでは理想のヒーローになるどころか、雄英にも合格できない。だから全身鉄でも速く動けるように公園で練習しているわけだ。しかし今のところ日常の動作ができる程度の成果しか得られていない。

あと『個性』の違法使用なので警察に見つかったら注意されてしまうが、鉄で沈まない私有地を持っていないので見逃してほしい。

 

 

公園でみっちり50分練習した後は、帰りまた10kmを走る。身体も疲れているが、下り坂が多く、跳ねながら走れば楽に帰ることができる。25分ぐらいで帰った。もちろんちゃんと階段も上がる。走る距離を伸ばし続けていることもあるが。

 

 

「ただいま」

 

父さんからの返答がない。おそらく朝食を作ってくれているのだろう。さすがに無視はないはずだ。

 

あまり気にせずに、シャワーを浴びに風呂場へ急ぐ。風のない屋内にいると、外では気持ちよかった汗がむっとうっとおしくなってくる。ジャージを雑に脱いで洗濯機に叩き込み、さっさと浴室に入る。

 

 

男のサービスシーンに価値はない、カット。

 

 

 

風呂から出たら、制服に着替える。リビングに行けば父さんが新聞を読みながら待っていた。前には二人分の朝食が置いてある。

 

「父さん、待たせたかな?」

「いや、今完成したばかりだ」

 

 

食卓のご飯と味噌汁から湯気が出ている。嘘ではなさそうだ。それにしてもやり取りがデートの待ち合わせみたいだな。

父さんが新聞を畳み、俺が席に着く。そして同時に「「いただきます」」と言って食事が始まる。父さんは食事中にしゃべる人ではない。俺も父さんに合わせている。自然と会話は食後のコーヒータイムの時になる。

 

 

食べ終わり、各自が片付ける。同時に父さんがコーヒーをいれてくる。父さんはこの時代になっても紙媒体の新聞を読み、朝食に純和食を選ぶ人だが、なぜかコーヒーはインスタントだ。

椅子に座り、コーヒーが運ばれてくるところを見て、そんなことを今更発見した。

 

 

「どうして和食のあとにインスタントコーヒーなんだ?」

 

突然の息子からの質問にビックリした様子だったが、父さんは少し考えて、

 

瑞渡(みずと)さんの影響かな」

 

と懐かしそうに母さんの名を答えた。軽い気持ちの質問で、こんなしんみりとした空気にするつもりのなかった俺は、焦って話題を探し、さっき見た夢の話をした。

 

 

「そういえばさ、今日面白い夢を見たんだ」

それから俺は身ぶり手振りをいれて、空気をごまかそうと、面白い夢の詳細を語りだした。父さんも空気を変えたかったのか、積極的に聞いてくれた。

俺も止め時が分からず、体感時間30分後に「そろそろ学校に行く時間じゃないか」と父さんが言ってくれて、会話が終わった。助かった、最後とか「夢って?」「ああ!」とか意味不明な会話をしてた。

 

 

俺は部屋に制カバンを取りに戻る。解説は学校で読もうとカバンに突っ込む。そして、玄関で靴を履いていると父さんがやって来た。

 

「父さん、いってきます」

 

玄関のドアノブを握り、振り返りながら言う。父さんも珍しく冗談を交えて、

 

 

「いってらっしゃい。夢は話すと正夢になるそうだ。気を付けろ」

 

と返事をくれた。俺は父さんの慣れない冗談に笑いながら、

「気を付けるよ」と返した。

 

 

ドアを開ける。外からの空気が心地よく、雲からの光が俺を祝福しているような気がした。これからもこの素晴らしく大切な日常を過ごし、ヒーローになって守る側になろうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

〈雄英入試まであと10ヶ月〉

 

 

 




次は入試ぐらいを予定しています。

受験勉強・勉三です。 またお会いしましょう。

〈人物紹介〉
約条 義理(やくじょう よしのり)
主人公の父親。考え方が古い家出身。一人立ちしてから東京に越してきた。実家とは絶縁状態に近い。
"個性"約束
相手に意識させたことを強制させる。
強く意識させたら強制力が上がるぞ!
ただし、相手がやりたくないは強制できない!
"個性"の使用を国に認可されており、働いている銀行で融資の契約をするときのみ使用できる。
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