現在の主人公の格付けすらできてしまう。
更に、雄英入試の妄想を自然に垂れ流せる。
そんな理想的な舞台装置、その名は、、そう!!?
「夏休み合宿?」
「ああ、正確には士傑・雄英ヒーロー科入試対策セミナーだな。毎年同規模の塾二つと合同で開催している。勿論、主催は我が塾だ」
授業が終わり、帰る寸前で塾長先生(以下恩師)に学長室に来るように呼び出され、いつの間にか机を挟んで一対一でソファーで対面していた。
そこで急に夏休み合宿に興味はないかと話を切り出され、おうむ返しにしてしまった。が、特に触れられず逆に取っ掛かりに、書類を出しながらどんどんと説明が進んでいく。
「期間は7月28日から8月10日までの約二週を予定している。開催地は長野県
目的には同じ目標を持つ仲間でありライバルと互いに刺激を受け、意識を高める。私有地しか使用できない"個性"の練習、集中的な学習など、能力の向上がある。施設の設備については後でこの
手渡されたパンフレットにざっと目を通す。施設紹介として至って普通の内容が並んでいる。恩師の言葉に従い、後で読んでから質問で良いだろう。すると、そもそもの疑問は、
「どうして夏合宿の参加を個人的に話すんですか?」
そう。わざわざ密会みたいにしなくても、全員に同時に話した方が楽なはずだ。別に雄英を目指している生徒が俺だけという事情もない。
「それは次の話に直結する。他に質問は?」
「ありません」
「よろしい、では話そう」
恩師は、さっきのパンフレットとは違う紙を机に置いて指で示した。
「これは申込用紙だ。ここに書かれている通り、定員は100名、それを共催の三つの塾で平等に分け合うと、うちでは34名しか参加できない。そこから更に塾支部に分配され、各支部2名ずつ推薦する権利を得ることになる。例年通り私たち教師が成績や授業態度を基に会議をした結果、君が今年の推薦者の片方に選ばれた」
「過分な評価をありがとうございます、恩師」
「そう謙遜することはない。君の頑張りは教師間でもよく話題になる。個人的にも
確かに2名しか参加できなく、推薦で決まるというなら無駄に嫉妬を煽らないために内密という形にしても納得はできる、のか?
…いや、わざわざ呼び出す必要はないだろう。話を自分から脇に逸らしながら、反対に早く会話を終わらせようとする恩師の態度も変だ。妙だな… なにかを誤魔化そうとしているのか?
考えても思い付かない。俺は
「参加を検討していますが、何分急なことでスケジュール調整ができるかどうかわかりません。いつまでに返答すれば良いですか」
「そこは考慮しよう。だが時間があるとは言いがたい。三日後の日曜まで待とう」
「ありがとうございます」
『個性』の練習ができるというのは大きい。そろそろ
しかし、ここで一つ壁が出てくる。俺は父さんに志望をヒーロー科に変えたことを報告していない。ぶっちゃければスケジュール調整なんて芸能人じみたものはない。時間をとったのは父さんを説得するためだ。
簡単に言うと、メロス(俺)は三日以内に父さんを説き伏せて、王城(塾)に戻らなくてはいけない。
こんな感じだ。
下手な状況整理は置いて、
「俺は明日家庭の用事があるので来ません」
「聞いている。だから今日二人同時ではなく、君一人に話した」
図らずとも、何を誤魔化そうとしていたのか知ってしまった。家庭の用事への配慮だったのか。真実はいつも一つ!
「では、明後日返答します」
「ああ、色好い答えを期待しているよ」
机に広がった資料と申込用紙を回収して学長室を出る。そのまま外に出ると、すっかり空も暗くなっていた。父さんが寝るまでには帰れるはず。家の扉を開いたら開戦だ。
絶対父さんなんかに負けたりしないんだから(フラグ)。
中学校生活最後の夏が到来した。今年も暑い季節がやって来た。セミがミーンミーン,ジージー,ツクツクボーシと鳴いているのを聞くと、そう実感する。
いつもの学校からの帰り道で急に、(そう実感する。)なんて格好つけて考え出したのは、空の太陽とコンクリートの照り返しで頭が熱され、おかしくなったことも多分にあるだろうが、夏休みを二週間前に控えた今、正確には昨日未明に塾の恩師から提案された
そうだ、俺は素面で(そう実感する。)なんて考えられるほどのナルシスト力は持ち合わせていないのだ。春辺りに「良い本、知りませんか?」キリッとかなんとかイキッてた気もするが、あれも素面ではなかったのでノーカウントだ。
そんな
ともかくこんな相談をすることは初めてなので少し緊張していたりする。つまり今も素面では(以下略)
「ただいま」
鍵を開けて、家に入る。父さんが「おかえり」と迎えてくれた。見ると、父さんはすでに黒のスーツに着替えている。
「父さん、もう行くのか?」
父さんは頷き、
「お前も早く帰れた方が都合がいいだろう」と言ってくれた。
確かに時間を空けてやるよりも帰ってから集中した方が勉強も捗る。それに
「なにか準備する?」
「花は行き掛けに買っていく。塾への定期券だけでいい。服はそのままで、
「わかった」
父さんの言葉に了解し、カバンを置いて靴を履き直して外に引き返す。父さんも紙袋を持って、すぐに追って出てきた。
電車に揺られて5分で隣の区の、俺が授業を受けている塾への最寄り駅にたどり着いた。俺と父さんは別れて、俺は駅沿いの道にある花屋でいつもの花を買いに行く。予約していた花を受けとるだけだったので、お金を渡してぱっぱと出る。そして、花束を抱えて慎重に駆け足でロータリーに向かう。案の定、父さんがもうタクシーを捕まえて待ってくれていた。
一緒にタクシーの後ろに乗り込む。目的地は有名な場所なので、一言で伝わる。タクシー運転手は配慮なのか、世間話を振ってこなかった。車内は熱が籠って蒸し暑く、父さんも話す気が起きないらしく少しの間沈黙が続く。ぬめっとした汗が額からダイレクトに手の甲に落ちてきた。すると、それを見たらしい父さんがハンカチを差し出してくれる。父さんも違うハンカチで汗をずっとぬぐっていた。夏に黒スーツは相当暑いだろう。ないと分かっているが、花が萎んでくるような錯覚がする。
タクシーの中、横に並びでひたすらに汗をふく。途中坂道も挟みつつ、エンジンが止まるまでの30分間ハンカチが顔にくっついたままだった。ハンカチも席も汗でグチョ濡れで、今から帰りのことが心配だ。
タクシーには屋根つきの駐車場で待っていてもらって、それぞれドアを開けて車外へ飛び出す。小高い丘の上は風が吹いていて、なけなしの小型クーラーがあっただけの車内より断然涼しい。タクシー運転手が待っている間に熱中症で倒れないかが気になってきた。
「運転手さん、水とか買って来ましょうか?」
「いいですよ、客からは受け取れない。それに"個性"がありますから」
「そうですか」
この時代、"個性"があるから大丈夫だと言われたら引き下がるしかない。断りの常套句だ。そういう"個性"があるにしろないにしろ、あまり気を払われたくはないという意図の発言だ。ただ、おじさんのくすんだ目には、にぶい自信のようなものが写し出されていて、もしかしたら本当にそういう"個性"を持っているのかもしれなかった。
どちらにしろ断られたことに代わりはない。
水の勢いは、ダダダッとバケツに反射して飛沫が服にかかるぐらい強く、一気に満杯に近くなる。これは重たそうだ。
「俺が持つよ」
一方的に言い放ち、バケツの手持ちを握って歩き出す。結構重い、二年前までの俺なら確実にふらついていただろう。突然だった俺の行動に父さんはなにも言わず、水汲み場の横に掛けてあった柄杓を掴んで追い付いてくる。…柄杓忘れてた、危うくバケツから直に掛けないといけなくなるところだった。
こんな調子じゃ、受験の日に受験票を忘れたり、名前を書き忘れたりとか、どうしようもないミスをしそうだ。
右手と胸で抱えている花束に自然と力が入る。
俺(反省中)を先頭にしながら、間隔が狭い石畳の道を進む。父さんのご先祖が昔この地域で地元の名士?をしていたらしく、結構奥の方にご立派様がある。敷地も広く取られており、母さんもそこに骨を寄せている。
細々とした石柱の群れを抜けて、開けた空間に出た。群れ石柱4個分くらいの中ボス石柱が脇に二つずつあり、真ん中の道をまっすぐ進んで階段を上った最奥には、魔王石柱がドンッを背景に威風堂々と佇んでいる。その巨大さは、大きいことストーンヘンジの岩の如しと言わんばかりだ。
こう言うと、さっきのフリもあって魔王石柱を所有していると誤解するかもしれないが、残念ながら用があるのは一番右端にある中ボス石柱。魔王から見たら左腕の外側、倒された暁には他の中ボスに「所詮やつは四天王最弱の数合わせにすぎぬ」とか嘲笑される立場にあるやつだ。名士ぐらいならこんなものだろう。
ふざけて気を紛らわしている間に、正対する位置にまで辿り着いていた。
一見してまず思うことは、ボロボロということだ。隣と比べてはっきり分かるぐらい差がある。それもそのはず、三世代前に引っ越したときに納められていた骨壺も共にお引っ越ししており、父さんが見つけるまで半ば放置されていたのだ。
それを、父さんはお婆さん(父さんからはお義母さんに当たる人)の骨を納める場所を探して、見つけ出したらしい。引っ越しをしたのが八十年前なんだから相当リサーチしたはずだ。そして、なんとか綺麗にして体裁を整えた頃に亡くなってしまい、母さんと父さん、俺の三人で葬式を行った。
つまり今は中にお婆さんと母さんの骨しかない。おそらく父さんと俺も入ることになるだろう。
将来のお家に敬意を称して合掌をし、その後掃除を開始する。水汲み場近くの貸し出し店で買った雑巾で石に付着した汚れを落とす。もちろん柄杓で水を掛けながらだ。そのまま擦ったり、たわしや歯ブラシなど固いものを使用すると、石に傷がついて艶が落ちてしまう。お父さんが初めて見つけたときに何時間も費やして磨いたので、手際は慣れたものだと自負している。
バケツの水はこのあとも使うので、今は雑巾を洗わない。よって地面に置いておく。手にはゴム手袋をしているからはずすだけでいい。これも店で買った。
俺が将来のお家を掃除している間に、父さんは家の庭みたいなフリースペースを掃除し、去年の花を片付けていた。 母親(骨)の家を掃除する父親という絵は、単身赴任している父親の家に通い妻する母親の図の逆転みたいで不思議な日常感がある。
お互いに掃除が終わったタイミングで、バケツから柄杓で水を汲み石に打ち水をして清める。清めると言うからには綺麗な水でなくてはいけない。しかし、もう一度水を取りに戻ることは面倒だ。だからさっき雑巾をそこら辺に放置した。
が、次に水鉢(石の根本にあるくぼみ)に水を入れ、花立にも注ぐ。これで水の役割は終わり、ゴム手袋ごと雑巾をバケツに浸しておく。
あとは故人の好きな花を花立に、好きな食べ物をお供えしたらデュエルスタンバイだ。父さんが花立に母さんが好きだった青いエゾギク、お供え物にパンケーキを供えた。唯一持ってきていた白い紙袋の中身だ。
最後に一人一人線香をあげて合掌をする。パンケーキ以外は手ぶらで来たので、線香も貸し出し店で買ったものだ。基本、お参りは故人と近い間柄の人からするらしいが、うちでは俺が先だ。父と息子は同じくらいの近さだし、父さんはお参りが長いから最初の時に決めてそうなった。
お参りとは、故人や先祖を供養し連綿と受け継がれてきた命の繋がりに感謝する共に、大切な故人との記憶に想いを馳せ、偲ぶ行為だ。
線香に火を付け、口ではなく手で振って消す。そして、線香を立て、手のひらを合わせて合掌する。たったこれだけで俺は昔に意識が持っていかれる。
目の前には線香の煙と青いエゾギクだけがゆらゆら揺れていた。
墓参りとは自然に過去回想に入れる理想的な舞台装置である(デジャヴ)
ちなみに墓に水を掛ける派と掛けない派はどちらも正しいらしいです。
入試まで書いたら伸びたので分割です。
〈人物紹介〉
宝戸 心太朗(たからと しんたろう)
主人公の行っている塾の学長。授業も担当しており、伸び悩んでいた主人公にある過去問集を勧めたところ恩師と呼ばれるようになった。
"個性"ココロスキャン
目で見た相手の心が色でわかるぞ!
緑が平常心! 黄が困惑! 赤が動揺! 青が意識な
し!
寝ている生徒、授業に着いて来れていない生徒が一発で分かるぞ!
発動型じゃないから常に見えてしまうのが欠点だ!
発現当初は目が騒いで夜も眠れねぇーよー状態だった。