僕のヒーローアカデミア-J 作:小林
「無個性ヒーロー!?」
その日、僕の人生は大いに変わっただろう。無個性でも、ヒーローになれると知ったのだから。お母さんからそれを聞いた時は大いに驚いた。
「名前は!?」
「えーと……神拳だっけ」
しかし、彼の活躍する映像は無個性とは程遠かった。衝撃波を発生させ、遠くの敵に当てる。壁をすり抜ける。一発のパンチであらゆる物を壊す。オールマイトにも似た、パワータイプのヒーローだった。
僕は、落胆した。いや、最初から希望を持っていたかも怪しい。無個性ではヒーローにはなれないと、知っていたのだから。
どうせ、と僕はまた、諦めてヒーローノートにその事を書き記そうとしたとき。
「ちょ、ちょっと出久!コレ!」
「え?」
お母さんに呼ばれ、テレビを見る。そこには、家の近辺が写っていた。それよりも、神拳がいるのだ。事務所を構えていない、フリーなヒーローではあるが、まさかここまでやって来るとは。
「ちょっと行ってくる!」
制止の声も無視して走り出す。警察のサイレンを頼りにして、無我夢中に走る。神拳に、何を期待しているのか、何を求めているのかわからないのに。
「ハァ……ハァ……!」
到着した。そこにはヴィランと対峙する神拳の姿があった。ヴィランの"個性"は恐らく、体を硬化させたりするタイプの"個性"。
「決着を着けよう。行くぞ、財団神拳!」
「死にさらせぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「共振パンチ!!」
放たれた拳は、ヴィランの胴体へと命中し、その硬化した肌を割った。しかし、血が出ること無くヴィランは倒れ、神拳は勝利を納めた。
「では、私はこれで」
帰ろうとする神拳を追い掛ける。
「待って!神拳!待ってください!」
その背中は止まり、振り返った。
「サインかな、それとも握手かい?」
穏やかに話す彼は、つい先程まで戦っていたとは思えない人物であり、しかし、何処か覇気の様な物を纏っている。だから、僕は、少しだけ希望を抱いた。
「いえ。ハァ……あなたが無個性だと聞きました」
「ああ、私は無個性だとも」
「僕も……僕も……無個性なんです」
「……そうか」
「どうやったら、どうやったら貴方みたいに、ヒーローになれますか!!」
「……良いだろう、その心意気や良し。今から時間はあるかい」
「え?あ、はい!」
「ついておいで」
神拳が運転する車に乗り、付近の山の中へ、それも、かなり深くまでやって来た。小屋へと入り神拳はそれを手渡してきた。
「これを来なさい」
「道着……?」
柔道や空手の道着のような物を渡され、身に纏う。
「今から見せるのは門外不出の財団神拳」
小屋を出ると、数人が修行していた。丸太に向かって正拳突きを放つ者。壁に向かって、変な歩き方でぶつかり続ける者、ジャンプしては小石を地面へと投げつける者。鉄の棒へと落とした手刀を高速で擦り付ける者等々。
「君は、これから財団神拳の使い手となる」
それ以来、僕は文字通りに血が滲むような修行を続けた。共振作用が起こるその振動数を目測するなんて事は、無茶だと思った。しかし、だからこそ僕は、諦めなかった。ヒーローに、オールマイトのようなヒーローになりたいから。
「共振パンチ!いったぁい!?」
「甘い!個体振動数を見極めろ!」
「は、はい!」
「はいじゃない!押忍だ!」
「お、押忍!」
初歩中の初歩、しかし、それは僕からしてみれば果てしなく高く、同時にどこまでも先の見えない修行の旅であった。学校が終われば、この山へとやって来ては道着を身に纏い、神拳がいれば直接指導を、いなければ自身で考えて修行する。
半年ほどの歳月を掛けた、ある日の事。
「共振パンチ!」
丸太へと、拳を放つ。すると、当たった途端に丸太が弾けとんだのだ。しかも、拳は全く痛くない。
「え、え……!?」
「おめでとう緑谷くん。君は共振パンチを習得した。さ、次はこれに共振パンチだ」
神拳が出してきたのは、車のスクラップ、そのドアに当たる部分。深呼吸を一つ、スクラップを見つめ、その振動数を見る。
「行きます!」
拳を握り、スクラップへと正拳突きを放つ。
「共振パンチ!」
当たった。しかし、僅かに痛む。だが、ドアは粉々に砕けている。
「え、すごい……!」
「やるじゃないか、緑谷くん」
それから、中学三年生の一年間を、受験勉強と財団神拳の習得に費やした。
「共振、遠当て!」
「甘い!まだ迷いがあるぞ!」
「押忍!」
「爆風うわっ!」
「甘い!爆風の波形を正確に把握しろ!さもなくば、貴様の言うかっちゃんとやらには勝てんぞ!」
「押忍!」
「量子もつれ……?量子もつれって……?」
「緑谷!深く考えるな!目の前のソレを破壊しろ!」
「お、押忍!」
「遅い!」
「押忍!」
数々の財団神拳を習得した。
そして、受験前日。
「今日が 受験だったな」
「押忍」
「……今日、君は財団神拳を以て雄英高校を受験する。無個性でありながら、ヒーローを目指した者よ。君は、ヒーローになれる」
僕は、その言葉に泣きそうになりながら、返事をする。ようやく、誰かに言って貰えたんだ、ヒーローになれるって。
「押忍!」
「良い返事だ、緑谷くん」
神拳は、腕を組んで満足げに頷いた。
「なら、今日は君が財団神拳を生み出す番だ」
「へ?」
「財団神拳は、無個性でもヴィランに立ち向かえるように、人々を救うために作られた。何れヒーローになる者よ。財団神拳とは、即ち自らが完成させる物。君の道を歩め、君のなりたいヒーローになれ。そして、無個性でもヒーローになれると知らしめろ」
「押忍!」
「行けぇ!」
僕は走り出した。ヒーローになるべくして。胸には財団神拳、この身に宿るは先人達の技。
「はいスタートぉ!」
誰よりも早く、誰よりも強く。ヒーローになるその第一歩。だから僕は、仮想敵に向かって拳を振り上げて、こう叫ぶのだ。
「共振パンチ!!」
私が、ほんの少し書ければこの緑谷は――学校に通い、友達を作って、財団神拳と共に暮らしただろう。でも、そうはならなかった。ならなかったんだよ。だから――この話はここでお終いなんだ