追手も数人きたがグランとカタリナさんに返り討ちにしてもらいながらなんとか隠れ家に着くことができた。逃走中でも傷口は抑えていたものの血が少なくない量は出ている。どうやら内臓までには達していないもののかすり傷とはいかなかったらしい。着いてすぐカタリナさんに治癒をしてもらったおかげで止血はできたが、あまり無茶をするとまた開くと注意を受けてしまった。
俺は包帯を巻いて今はクレイに異常がないか身体を解析されている。おいやめろ、下半身は全く傷ついてないだろ。
休息のため腰を落ち着かせているがラカムは仏頂面で椅子に腰かけていた。これはどうにも話しかける空気にならないな。だからといってここで変なこと言いたくないんで沈黙するしかない。
「さっきは助けてもらいありがとうございます。ラカムさん」
グランがお辞儀をして礼をするとラカムはバツが悪そうに頬をかいた。
「ま、成り行きみたいなもんだ」
「成り行き?」
「そいつがな、船に乗り込んで何かしてたんでな。捕まえていたら偶々あんたらの逃走を手伝うことになっちまったのさ」
グランは顔を上げてこちらを見る。そんなジト目で見ないで。
グランに非難の視線を浴びている中、逸れた雰囲気を窘めるように咳をしてカタリナが口を開いた。
「んんっ!まずは助太刀してもらったことに感謝する。だが我々は貴方にどうしても頼みたいことがあるのだ」
「大方、そこで包帯撒いてるやつに事情は聴いてるぜ。あんたら操舵士を探しているんだってな」
「はい!街のみなさんが教えてもらいました。凄腕の人が一人だけいるって!」
事情を察してはいる様子のラカムにルリアが前のめりになって説得しようとする。俺も説得に加わるべきなんだろうけどなー。あーなんだか考えすぎたせいで頭が痛い。あ、これ貧血の症状か。
俺ができることといえば応急処置用に用意していたキュアポーションを飲むことくらいだ。だからビィ、グランの代わりに俺にそんな呆れたような目を向けるな。空気を読まず呑気にしてるわけじゃないんだよ?
体力の回復と幾ばくかの増血作用を期待している立派な貢献行為だぞ!
「なるほど、街の奴らからか。たくっお節介な奴らだぜ。期待させて悪いな嬢ちゃん。そこにいる奴にも言ったが俺の返答は断る、だ」
「えっ!」
「な、なんでだよぉ!操舵士ってのは特殊な技術が必要なんだろ?あんたは操舵士になりたかったんじゃねーのか?」
「ごちゃごちゃとうるせぇな、俺は空を捨てたんだよ、それだけの話だ」
「空を…捨てた、とは?」
それからは俺のおおよそ知っている通りの話だった。グラン達は驚いていたが俺は驚くふりなんて器用な真似はできない。ただ黙って聞くことに徹した。だからだろうか、目の前にいるラカムのその表情からは今も苦しんでいることはありありと伝わってきた。何よりも目が深い失望に染まっている。
それは飛ぶことを諦めた自分自身にか、飛べると信じてやまなかった過去の自分にかはわからない。たとえそれが分かったとしても意味なんてないだろう。
そんなことを思っていたら話はもう既にすんでいた。
「さて俺のくだらない昔話はもういいだろ。さっきの帝国の話が本当だとしたら伝えに行かなきゃなんねんじゃねーか」
「…確かに、そうですね。今はそっちの方が重要だ。フルト、動けそう?」
「ん、おう。問題ねーよ、眩暈もしないし」
「フルトの問題ないは当てになんねーかんなぁ。クレイの見方だとどうなんだ?」
『解析上異常なし』
「うーん、なら大丈夫か」
立ち上がって腕を回し、調子を確認しておく。まだまだここでダウンなんかはしていられない。本戦はこれからなんだ。みんながラカムの隠れ家から出ていく中、俺は最後に残っていた。単純に装備のチェックをしていたというのもある。
「なにやってんだ、他の連中はもう出てるぞ」
「悪いな、すぐ出るよ」
隣を歩きながら、何でもないように声をかける。
「ラカムさんよ」
「あ?」
「あの船はすごい大事にされている。それがあの船を見て一番思ったことだよ。されていたじゃない、されている、だ。船底の補修、動力部の整備一つ見ても丁寧に施されていた」
「・・・・・・・・それは俺が未練がましいだけだ」
「あれが未練だけでできることじゃない。小型艇だが同じ船を持っている身として断言できる。あんたはグランサイファーを心の奥底から大事にしている」
そうだ、あれを捨てきれないなんて未練でできることじゃない。俺が自分の船にやるのと同じ、いやそれ以上に丁寧に整備されていた。しかもあんな大型船をだ。
あんなもの見せられたら伝わるんだよ、嫌でも。あんたの憧れが、想いが。だからよ、だから―――
「そんな男がよ・・・空を捨てたなんて寂しい言葉を言わないでくれよ」
こんな余計な言葉が口をついて出てきちまう。
その後、俺は一度も言葉を交わすことはなくグランたちと合流してラカムと別れた。別れる際にひと悶着があったが、それもグランがとりなして問題なかった。そういうわけで俺たちは段々雲に覆われる空と荒れる風の中、襲い掛かってくる魔物をグランとカタリナさんが片付けながら街へ急いでいた。
「はぁ~い、そこの一行さん。そんなに急いでどうしたの~?良かったら僕たちとお茶してかない?」
なんでこいつら、ここにいんだよぉ
主人公は記憶曖昧なんで普通にガバったりします