青い髪をした軽薄そうなエルーンの男と赤い髪のドラフの女が俺たちの前を遮るように阻む。そうドランクとスツルムだ。あれ、この段階でこの人たちは介入してくるんだっけか。全く覚えていなかった。目的はおそらく現時点のグランの実力を確認か?
スツルムさんとは是非とも仲良くなりたいがドランクを相手にしたくはないな。ああいうタイプは異様に頭の回転が早い。恩も売れてないこの状況で変に目を付けられると予想しない展開に繋げてしまうかもしれない。
しかもただでさえ実力が圧倒的に離れているならなおさらってことになる。全くあの二人とも余裕が見えるだけあってかなり強いってのが佇まいで伝わってくる。俺が1発当てることすら難しいな。
「あれれ、みんなだんまりだとお兄さん傷ついちゃうな〜。ほらアメさんあるよ?ね?」
「僕たちは今急いでいる。退かないのなら押し通らせてもらいます」
無言でカタリナも剣を構えた。むこうは2人のみだとしてもこちらもまともに戦えるのは2人のみ。数的有利はないとして更にこちらには守る対象がいると。
もうぼんやりとしか覚えてない筋書きを思い出すにおそらくここでラカムの助力がないと突破はできないはず。そして今、ラカムはこの場にいない。
腰にある銃に手が触れる。あいつらはまだ小手調べの段階だろうな。
「ありゃりゃ、こりゃ〜呑気にお話ししてくれる雰囲気じゃないね〜。別行動の1人には僕たち向かってないから帝国兵の諸君を派遣してるしってイッタ!!」
「相手にペラペラと情報を喋るな。お前がバカだと思われるのは勝手だが私まで同じに思われるのは心外だ」
「ひっどいなぁ、スツルム殿。でも別にいんじゃなーい?この子達にはここで退いてもらうんだしさ」
スツルムが溜め息をはき、剣を構えていく。肌で感じる気迫はよりも鋭い。おそらくカタリナに相対しているならこのような感じがするのだろう。
「そういうことだ。お前たちを通さないことが私たちの仕事だ。街に行くのは諦めてもらおうか」
「なら仕方ないな。お前たちを手早く倒して先を急ぐとしよう」
「ほう?できるなら、、やってみろッ!」
瞬間、ギンッ!という音色と共にカタリナとスツルムは剣をあわせた。それとほぼ同時にグランはドランクに向かっていく。コンビネーションを危険視しての各個撃破、カタリナとスツルムの剣戟に俺が無駄な横槍を入れるとかえって味方の邪魔になる。狙うとしたらドランクの方になるがとりあえず2人を後退させることが先だな。
「カタリナ、グラン!わ、私はどうしたら…」
「落ち着け、ルリア。2人が簡単に倒されることはないよ。ビイと一緒に後ろに下がってるんだ」
「今オイラたちはなるべくあいつらの邪魔にならねーことが1番だぜルリア」
「は、はい!」
フォローは上手く言えてるのだろうか。そう言っている間にもグランが斬りつけるがひらりひらりとかわしている。ドランクの隙が見つからない。
「はあああ!」
「ほいっと!君良いねぇ〜、僕ちん結構危ないところ多いよっと!」
「くっ!水晶玉!?」
なんだあれは、厄介にも程がある。変則的に動いてくるせいでグランも翻弄されている。
射線がグランに通らないように撃つがドランクは見てもいないのに水晶玉であっさりといなされる。
後ろに目玉でもついてんのかこいつ。
「やっと、そこの彼も参加してくれたね。実は僕、感心してるんだよ。さっきの包囲突破の時に相当上手く立ち回ってたからさ。君の実力がどのくらいか知りたかったんだよねっと!」
喋りながらグランの斬撃をまたも避ける。そしてパチンッ!と指を鳴らすと水晶が淡く光った。
「アッ!っっがああ!」
身を捩って直撃を避けたが完全には避けきれなかった。というか先程までパックリ開いていた傷がある方で受けてしまった。身体が吹っ飛ばされる。脇腹痛い、こんちくしょう。
「ありゃ?よけられるかなと思ったんだけどッ!」
痛いというよりも熱い。グランがなんとかカバーに入ったおかげで追撃はないがそこそこに効く、だがすぐに立たないと加勢できない。
身体を起こそうとしてると頭の上から機械の駆動音が聞こえてくる。
『質疑。敗北の可能性高』
「クレイ、危ないから下がってろ」
『命令却下。何故なら貴方の生存が私の最優先事項である』
「だからってお前は戦闘力俺より皆無なんだから引っ込んでろ」
ここでクレイが壊されるのは本格的に不味い。本筋がわからなくなる、俺にとって最大の武器が無くなるに等しい。
『貴方の判断次第だが、、ここを切り抜けられる方法提示可能』
無機質な音が耳に響く。淡々と告げられたその言葉に、目をむけると点滅する一眼の球体がこちらを観察するように浮かんでいる。
「なに?」
『本機との接続提案。戦闘を補助可能』
「で、判断ってのはなんだ」
『リンクの生体試行経験なし。貴方の脳波、神経網、魔力全て把握。しかし異常が発生する可能性有』
なるほどね、多少リスクを背負うわけだ。だがこんなところで躓いてる場合でもない。
「それ、できるなら最初から頼むぜ。まったくよ」
ガラスのようなレンズの点滅が返ってくる。
『危険性高、本機としては推奨しない』
なんとか身体を起こして膝をつく。揺らぐ頭で良くこんな呑気に会話できるなと思いながらこたえる。
「はいは、、いっつつ。じゃあ頼むわクレイ」
『許諾命令を』
「今ので、、いいだろ別に」
『否、明確に命令を』
「仕方ねぇ。実行を許す、クレイ」
『了解、干渉制限2段階目解除。禁則機能解放、同調開始』
何かが身体中に走る感覚がした
開きかけた傷も先程受けた痛みも目眩も全て消える
感覚の不自然な広がりに不思議と全能感を感じながら傍らの相棒は作業を継続する
『周辺視知覚拡張クリア。痛覚神経掌握クリア。同調率40%、対象の拒絶反応異常なし。命令を実行します』
脳に不可思議な言語が流れてくる
これは唄なのだろうか、ひどく気分がいい
『ラスシイス・モチスニラミイカカイ』
◇
ドランクは自身の思い違いにわずかな違和感を感じていた。今、剣をふるってくる少年の腕前は手を合わせてわかる。まだ自身には及ばないが底知れない実力を秘めていることがだ。
だからこそそこまで魔力の使い方も戦い方も未熟な彼に興味が湧いたのだ。この以前の戦いは見ていて中々に面白かった。煙幕を使った目眩しに司令官を撃つことによる団体への足止め、正直あそこまで上手く場を操作したのは少し感心していたくらいだ。
自身の技量をあまり高く評価するわけではないが先ほどの一撃は牽制も含めた軽い一手だった。それを考えると彼はあまりにも手ごたえがなさすぎる。
(でもこういう正面から戦うときはもろに実力が試されるしね~。彼は支援役としての役割が強いのかな、とにかく1人では危険視しなくてもいいね)
早々に彼を戦闘脅威の点で評価を他2人から一段階下げた。だからといって意識を完全に逸らすことなどはしないが。それにグランという少年の剣筋が彼が倒れたところから鋭さが明らかに増している。守るものが多いほどこの少年にとっては集中力が上がるのだろう。
すでにグランの剣の対応とそこからの実力の引き出しに思考を移しかけた時に異変が起きた。機械的な甲高い音と共に起きた異変にドランクはなぜか鳥肌が立つ。
いや魔力の量も外見が大きく何かが変化が起きている様子はない。だがフルトに異変が起きていることを傭兵の直感が告げていた。
(何か仕掛けてくるのかな?、、なんにせよ少し警戒しておくかな)
フルトがグランの延長上に移動した。グランの猛撃は未だ止まるところをしらない。
これではグランの攻撃を捌いている間は真後ろにいる自分を攻撃できないと考えたのだろう。
(なるほど、悪くはないかもだね~。だけど、僕ちんの技は割と応用が効くんだよねぇ。その位置じゃあ僕に銃弾を撃つことはできないよっと!)
あえて彼らの作戦にのってわざとグランとフルトが重なる状態を維持させる。グランの剣戟は激しいがこれがずっと続けられることはない。
ある程度偽りの膠着状態を保てば相手の自滅という形で決着はつく。
だがここでドランクはもっと考えなければいけなかった。はたしてそのようなことをなぜする必要があったのかと。
グランが間近にいるにも関わらず自身の肩を銃弾が掠る。
(ッ!!正気かい!?彼は!)
フルトの方に視線を向ける。彼は躊躇なく銃の引き金を引く。それも全くためらいがない。
その全てが正確にドランクに襲い掛かる。というよりもグランを避けて通っているかのように攻撃されている。
ドランクは起こった異変にやっと理解が追い付いていた。最初の実力からはこの射撃はありえない。あの異変はこれだったのだと。
(面白くなってきたって言いたいところなんだけどこれはちょっと不味いかもね!)
そう全て自分に攻撃をするために撃っているだけならまだドランクも対応の仕方はある。それは連携というより2人分の攻撃にしかならない。
しかしフルトの撃ってくる銃弾の軌道はグランの斬撃をよけられないようにするものとグランの斬撃のいなした隙をついてくるものとで巧妙に分けられている。
ドランクはここで撤退することを判断した。そも雇い主からの命令は様子見を含めた探りの部分が強かったのだしここで命を懸けるほどの戦いはするつもりがなかった。
「そんなにこっちに近寄ったら彼が危ないよ?蒼の少女の片割れくん!」
水晶玉から魔力弾を曲げて放つ。
「っッ!フルト!」
「残念、狙いは君でしたっと!」
慌てて後ろに引いたグランに対して軌道を変えた攻撃が迫る。
しかしグランに襲いかかる6つの魔力弾は全てフルトの銃弾によって相殺される。その隙を見てドランクは距離をとるとスツルムも併せたようにこちらに引いていた。
「スツルム殿~、僕ちんもう引いてもいいかなって思ってるんだけど?」
「ふん、腹立たしいが十分だな」
「だよね〜!一応仕事はこなしたし、問題ないでしょ〜」
「待て、お前たちの目的はなんだ。どうしてここで僕たちを捕らえようとした」
「んーそれは帝国兵なら当然なんじゃな〜い?君たち一応追われてる身でしょ?」
「それなら何がなんでもここで捕まえるはずだ。あのフュリアスって奴の部下なんじゃないのか?」
「まぁねー、特別に教えてあげちゃおっかな」
「おい、お前、、、」
「大丈夫だよ、スツルム殿。ほんのちょっとだけヒントをあげるだけさ」
訝しげなグラン達ににこやかな笑顔でドランクは応える。
「実はこっちとしては時間稼ぎってのが本当のところだったんだよね」
「へん!そんなの言い訳にしか聞こえねーぜ!」
「どっちに捉えてもらっても構わないよ。うちの上司はそもそも捕まえる気なんかなかったってことさ」
「それはどういうことだ!」
「そこまでは教えたら処罰されちゃうし言えないな〜。ほらうちの上司気に入らないとすぐ怒るの見たでしょ?ま、長話もここまで。君達も先を急いだ方がいいよ?じゃ、また縁があったらよろしくね〜」
「ふん、ここを生き抜ければの話だがな」
そういうだけ言うと2人は引いていった。
♢
な、なんとか撃退できた。なんか結構やり合っちまった気がするけど大体は予想通りに進んでくれている。
今はとりあえず街への道をひたすら急いでいる。もう街も見えてきているし、直ぐに着くだろう。
というより今、最っ高にhighって気分なんだが一言も声が出ないのはなんなんだこれ。おいこら、クレイこれ解いてくれません?
《了解。戦闘状態解除、同調維持、急なリンクに言語機能が一時的に混乱していると考えます。しばらく待っていて下さい》
なんか脳に直接言葉が流れ込んでくるんだけど、、しかも解除する気無さそうじゃねーか
《当然です。完全解除の際にも貴方の脳や神経にかかる負担は少なくない。何度も出来る機能ではないので今の状態を維持し続けるのが最良だと提案します》
なんかいきなり視野が広いし、なんなら真後ろの気配もわかるしですごい違和感があるな。それにさっきまで感じてた痛みも疲労感もないのはクレイがその機能?ってやつで治したのからなのか
《というよりも傷口を軽く繋ぎ直して痛覚神経を麻痺させているだけです。思考加速と行動最適化は特に負担が大きいので今はカットしています。貴方の理想の行動を寸分違わず再現できるように末端神経も細かく操作してました》
俺、お前に身体完璧に管理されてるじゃないか。どっちが主人か全く分からんぞ
《そこは安心してください、貴方の意思を管理することは不可能です。それにこの状態でも貴方の命令は私にとって絶対です》
「それにしてもお前は本当に2人で話す時だけ随分と砕けた話し方になるよな、いつもメカって感じなのによ」
《・・・忠告、肉声発言が回復しています。今後注意》
「おーい、聞いている?フルト、こっから僕がルリアをおんぶして急ごうとおも、、、大丈夫!?」
「あん?おう問題ない問題ない。ちょっと独り言がだな」
「いやそうじゃなくて!とんでもない量の鼻血出てるけど」
え、まじじゃねーか。全く気づかなかったぞクレイ!
《てへぺろ》
機械音で言われても可愛くもなんともないな、なんで?
《先程、神経系の操作などを多少抑えたのでその負荷が出てしまったのだと推測します》
なるほど、確かに頭が心なしかふらふらするような感覚あるしこの状態は結構繊細なのか。
「いやさっきのスツルムって言うドラフ女性を思い出して、、な。想像以上だった」
「き、君はあんな戦況で良く観察してるな!」
「オイラはむしろ今いつも通りなことに安心したぜ」
「よし!元気みたいだから、ペース上げていくよ!」
楽観的になりたいほど風は強くなっている。こんな状態になってることもある、最後尾でついて行こう。今なら追手の気配にも俺が1番反応できそうだし。
「フ、フルトはグランより前に行って下さい!」
やめてくれルリア、その言葉は俺に効く。
《至極当然のことなのに無駄に傷つかないで下さい》
およそ1年空いていることに戦慄してます