間に合わなかった。グランの目から生気がなくなっていく。ヒドラはグランをもう用済みだと言わんばかりに打ち捨て、ビィが泣きながら近寄っている。この光景を見たくなかったから来たっつーのに馬鹿か俺は。それでも後悔や反省は今は全て切り捨てなきゃいけない。
やるべきことはこれ以上状況を悪化させないことだ。銃に弾を装填はしといた。カタリナはルリアを守るため下手に動けない。なら狙いはヒドラだ。
いつもなら最悪だと思うんだろうが今回ばかりは本当に好都合だと思う。あの魔物にはどでかい風穴開けなきゃ気が済まない。
ヒドラのデカさは想定より大きい。だが俺の用意した狙撃銃なら胴体でも問題なく貫ける。弾数は2発、煙幕は1つだけ、この状況で二発目を準備するのは難しいな。となるとやっぱり一発で仕留めるのがベストだ。
幸い俺はこの広場に出ていないおかげでデカい狙撃銃構えてるのに他の奴らにも気づかれてはいない。おそらく既に残っている脅威のカタリナを始末するために集中しているからだな。さすがっす、カタリナパイセン。まぁこっちが一方的に知ってるだけだが。
ん?なんだかすげぇ自慢げにちょび髭が話してやがるな、自慢話か?男の自慢話とか聞いてもうっとおしいだけだからやめてほしいがこの際気づかれてないからまぁ良しとしよう。
というかなんだっけ、あいつ。たしかポンムルンとかいったっけ。生で見ると一発ぶん殴りたくなる顔してるな。
さっきもこんな状況でなんか不意打ちしてるみたいだが確実性が高いなら願ったりだ。あとは標的に狙いを定める。
―――撃鉄を起こす。
弾に魔力が集まっていく、最大火力まで溜めるためているせいで銃自体に魔力が宿るかのような錯覚が走る。周りはやっと魔力の高まりで気づいたみたいだがこっちの方が早い。そして俺は引き金を引いた。
「あ・・・」
それと同時に思い出した。
そういえばこの銃、反動調整まだ完了してなかったと・・・。
轟音が響く、体に重い衝撃がかかり、なんとか抑えようとしたが銃口がぶれた。あまりの衝撃に目がちかちかするぞ。くそっ、誰だこんな威力だけバカ高いポンコツ作ったのは!
「グガアアアアアアアア!」
朦朧とする意識の中で怪物の雄たけびが聞こえる。うるせー、おかげで意識飛ばさなくて済んだけどよ
状況を確認すると俺自体も銃の衝撃で後ろにぶっとんでた。銃は―――よし!離してない。なんか肩が鈍い痛みを感じるけど今はどうでもいい。肝心なのはあの五つの頭もってるデカ物を射抜けたかが問題だ。
確かに弾は確かにあいつを貫いていた。だけど、貫いたのは胴体じゃなくて五つあるうちの一つである首を跳ね飛ばしている。
「チっ!やっぱり狙いがずれたか!」
銃口は――焼ききれてないな、だけど最大火力のせいでかなり歪んでる。なら次はもっと近い位置で!
まだ熱がこもる銃に次弾を装填する。急げ、まだヒドラは頭が無くなったダメージで動けていない今が近づくチャンスだ。ヒドラに向かって全力で走る。
「そこのあんた!あいつのブレスたのむ!」
「っツ!わ、わかった!なんとかしてみせよう!」
やっぱりカタリナさんは頼りになるな。この状況で無駄な情報を聞こうとしないところとかさすが騎士って感じだ。そこに痺れる、憧れるぅ!
向こうにいるちょび髭も正気に戻ってきてるけどあいつは憧れませんな。というかもうちょい動揺してろっ
「たとえ首を飛ばされたとしても無駄ですネェ!この力を使えばまだ動くのですヨォ!」
「グオォオオオオオオオオオ!」
「知ってるんだよそんなこと!いちいち言うんじゃねぇ!ぶん殴るぞちょび髭!」
「な、なぁ!今私を愚弄しましたネェ!ヒドラ!向かってくる小僧を黒焦げにしてしまいなさい!」
くそっ!あんまりにもむかつくからつい煽ってしまった!ヒドラの四つの口から火があふれている。だが走る速度は下げない、もっと近づけ!あと少し―――
そう思った瞬間に視界が灼熱に変わった。やけに炎がゆっくり俺に迫ってきてるように見える。これ、もしかしなくても死の直前のなんちゃらというやつじゃねーの、くそう!まだドラフの胸も触れてねぇっつーのに!死んでたまるかっ
「ライトウォール!」
その直前、後ろにいるカタリナさんからサポートが入った。体の周りにバリアが張られたような感覚がする。
よし!これでだいじょう・・ばないっ!
あぁぁつぅぅい!これ焦げてる!服燃えてる!こんちくしょう!
「うがああああ!」
やべぇ!障壁が薄れてやがる、その前にこのブレスの届かないヒドラに懐に入ってやる。
「抜けろおおおおおお!」
炎の中を突破する。と同時に皮膚が焼けるような痛みと開放感が身体を突き抜ける。
やっとこれた、ヒドラがブレスをやめて迎え撃とうとするが遅い!狙いをつける必要もなくほぼゼロ距離に近い位置で構える。
俺のなけなしの魔力も全てつぎ込む―――――銃が有り余る魔力で紫電を発生させる。俺の身体にも魔力の暴走が伝わるがそんな痛覚はもう感じない。
そして俺は引き金を引いた。
カタリナは確かに見た。凄まじい威力の銃弾がヒドラの胴体を穿ったのを。そしてそれと同時にこちらに何かが吹き飛んでくるのを反射的に受け止めた。
「グっ!」
それは当然さきほどの青年だったが、彼は意識がないらしく力なく横たわるだけだ。突然のことの連続でまだ理解が追い付かないが向こうでヒドラが屍に変わったのをみると彼が命懸けで私たちを守ってくれたことは明白だ。その理由がおそらくもう失ってしまった友人のためだとしても。
「わ、私のヒドラが・・・たかが小僧一人程度に倒されるなど・・。あ、ありえませんネェ」
ポンメルン大尉はまだ呆然としているが、危機は去ってはいない。
「どうした!ポンメルン大尉!奥の手のヒドラが倒されたのだ、ここは大人しく引いたらどうだ?」
「くっ!こうなれば仕方ありません!どれだけの被害を被ったとしてもそれは返してもらうとしますネェ!」
カタリナはまだ向かってくるポンメルンに迎え撃つ態勢をとる。向こうも部隊を構えて一斉に来ようとするがまた不可解なことが起きた。
ルリアとグランがまばゆく光り輝きだす。
そして収まった瞬間、カタリナは驚愕した。完全に死んだと思っていた青年がルリアと共にそこには立っていた。
「始原の竜・・・闇の炎の子・・・汝の名は―――バハムート!」
ルリアの詠唱に呼応するように口や両腕を拘束された異様な黒銀の竜が現れる。圧倒的な威圧感を放つ黒銀の竜は口の拘束を破り、極光の咆哮でヒドラの亡骸と帝国兵たちを吹き飛ばした。
「・・・あ、あんなものが出てくるなんて聞いてませんネェ!撤退です!全軍撤退しますヨォ!」
ポンメルンは先ほどの勢いと打って変わって怯えながら撤退命令を出す。
カタリナは必死の態で撤退していく帝国兵を未だ唖然としながら見ていたがルリアが崩れるのを見て慌てて二人に近寄る。
ルリアの介抱をしながらカタリナは、なぜ自分が生きているのか困惑しているグランとグランに泣きついているビィ君、そして突如飛び込んできた青年を見つめながらとりあえず今は窮地を脱したことに感謝しつつ今後のことを考えることにした。