体がなにかあったかいものに包まれている、俺は・・・死んだのか?だが頭にはなにか柔らかい感触を感じるんだが。こ、これはもしかしてグラブルの天国では天使が膝枕してくれてるのでは?これはこちらも目を覚まさなければ・・・失礼というもの。
さあ!こい!ドラフ天使ちゃんの下パイっ!
「おはよう、屑兄貴」
あれ?おかしい。目を開けたらとても不機嫌そうな妹の顔が見えるのだが・・・。ふかふかしている原因は妹の枕で寝てたからか俺の枕うっすいからこんなに気持ちいいはずないもんなー。というかなぜ俺は妹のベットで寝てるの?馬鹿なのか、変態なのか?
仕方ない、もう一度目を瞑ろう、そうしたらドラフ天使ちゃんが起こしてくれるに違いない。
「今起きたように見えたのは気のせいだったみたいね、うんうん・・・さて殴るか」
「おはようミイナ、今日も相変わらず可愛いな。本当に俺とお前が血を分けた兄妹か心配になっちゃうレベルだぜ」
「私も本当に血が繋がっているのか疑ってるわよ」
「まてまて、お前はきちんと母さんの遺伝子を受け継いでるぞ?母さんと同じ髪色で綺麗なストレートヘアに二重の瞼に整った顔立ち!どこをどう見ても自慢の妹だ。ただ・・・疑う気持ちもわかるぞ?ミイナ、お前母さんほどお胸が発達してな」
「だ・れ・があたしと母さんの血が繋がってないって言ったのよ!このくそ兄貴ぃ!」
「ぐげぁ!悪い!悪かった!許してくれミイナ!」
ミイナの腕が滑らかに俺の首にまわされたせいで反応が遅れてしまった。こ、この妹どこで締め技なんて覚えたんだ。身体に力が入らないせいでミイナの腕力に負けてしてしまって中々抜け出せない。だが俺は見逃さなかったぞミイナよ、お前が密着したことで感じるこの柔らかい感触、さっきの言葉はどうやら撤回しなきゃいけないみたいだ。
「チっ!このままだと意識落としちゃうか、しょうがないわね」
・・・危なかった、許してくれるみたいだ。だが俺はミイナが意識が飛ぶか飛ばないかのギリギリを見極めていることに戦慄が隠し切れなぐはっ!
「な、なぜ思い切りビンタを?許されたのでは?」
「さっきのは余計に怒らせた分だからっ。このビンタは嘘ついた分・・・それと、許してるわけじゃないから」
ミイナは今度はまじめな顔でこちらを見据えてる。あーあこりゃマジ怒りだなどうすんべ。
「・・ところで、ミイナ。爆乳ドラフは何処に?」
「露骨に話題を変えようとすんな。ドラフなんてこんなとこにいるわけないでしょ。そんなので私がほいほいのるとおもった?馬鹿なんだね、知ってる」
「さらっと兄を元々阿保みたく言うんじゃありません」
「ううん今回ばかりは私もお兄ちゃんは真正のバカなんだと思うよ。カタリナさんっていう人から聞いたから。どんな無茶したのか」
「・・・・・・聞いちゃったか―」
「すまねぇな、余計な心配させちまってよ」
「別に、心配なんてしてないから。お兄ちゃんは無駄に頑丈なのが取り柄だし」
「それでも、だ。悪かったな」
お詫びに頭をなでてやろう。あーやっぱサラサラしてんなこいつ。俺と全然違うぞ、ほんとに血繋がってるよね?おいおい、顔を逸らすなマイハニー。人と話すときは目を見なさいって母さんも言ってただろーに。
さてミイナがいるからもうわかっちゃいたが俺は現状死後の世界にいるわけでもないってことだ。カタリナさんに助けてもらったとはいえよく生きてたな俺。まぁおおよそシナリオ通りだ、問題はない。
「なーに、安心したみたいな表情してるの?兄貴。ママはもう怒髪天の勢いで怒っているよ。言っとくけど私みたいに会話できると思わない方がいいからね」
ジト目でこっちを見てくるな、そして兄の思考を読み取るな。ニュータイプかお前は。というか母さんが怒ってんのか。諭すことはあっても怒るなんてよっぽどじゃないとしない人なのに、あれ?これは相当まずいことなのではないか?
「ぐ、具体的にはどのくらい怒ってらっしゃるのでせう?」
飯抜きぐらいですむといいな、あ、トイレ掃除とかも覚悟しておこう。
「兄貴の遊び場壊しに行こうとするくらい」
やめてぇ!俺のオアシスがなくなってしまううう。こんなとこで寝てらんねぇ、今からでも止めに行かねば。
「うおおお、脇腹が痛えええ」
起きようとすると体に鈍い痛みと重さが走る。魔力切れなんて初めてだけどちょ、ちょっと意外と痛いじゃない身体。すげぇ倦怠感あるしぃどうなってんのスタッフ!
「はぁ、言ってなかったけどカタリナさんが治してくれたとはいえ完治したわけじゃないからね。火傷は2、3日したら治るけど肋骨のひびは自然治癒だってさ。魔力枯渇で体力も完全ってわけじゃないみたいだよ」
「いちちち、それならしゃあねぇな。それで?俺の楽園は無事だったの?」
「・・あーうん。と、父さんがなんとか止めてくれたから安心しなよ。さて、と。とりあえず意識戻ったし父さんと母さん呼んでくるから上手い言い訳考えておいた方がいいよ」
「あいよ、ベッド借りて悪かったなー」
まったく思春期には困ったもんだぜ。だるい身体を起こしてミイナを見送っていると途中でミイナの足がとまった。ん、なぜ途中で止まるの?も、もしかしてお礼を求められているのか。いやぁ流石に妹のベッドで寝てありがとうございますは兄妹間でも犯罪臭しないか?
「あのさ、兄貴。どうやってとかどうしてとかもう兄貴のすることだからそんなの気にしないけどさ」
「おい、そりゃどういう」
「グランを助けるために、向かったのはすごく・・その、兄貴らしいなって思う」
「そんだけ」
・・・・・おいおい、やべぇわ。血が繋がってなかったら惚れてたぞ。よかったー妹で。
「あら、ずいぶん元気そうね、フルト?お母さん安心したわ」
・・・・・おいおい、やべぇわ。血が繋がってなかったらそく逃げる準備してたわ。よかったー母親で。いや、よくねーわ。
なぜ母上がこんなすぐきてるの?あ、さっきのごたごたでもしかして気づいたのか。どうしてくれんだミイナってもういねーし!。
「うーん、困ったわ。なにもしゃべらないなんて頭でも打ったのかしら?しかも話してる最中によそ見なんてしてお母さんとっても悲しいです」
HAHAHA、母さんずっと微笑なのがすごーい怖いのですけど。目を逸らしたくなっちゃうくらい。
「母さん、だいじょうぶだよ。あなたの息子がそんな柔なわけないじゃないですかー」
「ええ!そうね。だから無茶しちゃうのね・・・やっぱり壊した方が良いかしら?」
「皿洗いでもトイレ掃除もするんでそれだけは何卒勘弁してくださいぃ」
「うふふふ、フルト?いい機会だから知っておくことね。世の中には勘弁してあげられないこともあるのよ?」
あれっれー?おかしいぞ、いつもの優しいママンじゃなーい。どうすればええんだこの状況。こうなったら誠意を示すために土下座でもするか?
「土下座でも許してくれない?」
「許しません」
「靴をなめるって言っても?」
「その行為そのものをまず許しません」
母さんは微笑みながらそれでもその表情には怒っているという強い意志がびしびし感じられる。まったくミイナは誤魔化せたのに母さんはそういうとこしっかり言わないと許さない人だったわ。もとはといえば自分の行動で招いた結果なわけだし俺は腹をくくることにした。
「俺はグランを助けようとしたことに後悔はないし反省もしてないよ母さん。それになにも言わなかったのも俺だけの判断ってことにしておけば家族には迷惑はかからないって思ったからだし・・・だから謝るべきことはしていない」
母さんはじっと見つめてくる。そしてその目は一瞬悲しげに歪んだ。辛そうな母さんの顔は久しぶりで俺はこんなところ親父にでも見られたら顔面に一発痛いのが入るだろうなって見当違いなことを考えてしまった。
「とにかく傷が治るまで安静にしていなさい。そうすれば私もあの倉庫を壊すなんて面倒なことはしません。いいですね?」
「はい母さん。ぜったいに無理はしないよ」
「・・・フルト。ひとつだけ答えなさい」
母さんは笑顔ではなく今まで見たことないくらい真剣な表情でこちらを見てくる。
「本当に後悔はしていませんね?」
「さっきも言ったよ。誓ってしていない」
ふぅとため息をつかれた。どうやら見逃されたのかな?かな?
「まったく困った子です、あなたは。こんな時にそんな表情をするなんてお父さんに似たのね。これじゃあ私は問い詰められないわ」
親父に似ていると言われてもあんまり嬉しくないのだけども許してくれるなら是非もない。だが俺はここで気を抜くほど馬鹿じゃない、すっごい申し訳なさそうにしておくことでチェックメイトよ。
「まぁそれはそれとして・・・」
あれ?なんでまたすごい良い笑顔に?
「無茶をしたことへの説教はしないとね?」
それから二時間近く俺は母さんに正座でお説教された。そもそもあなたもグラン君も大人に頼らないのが悪いなどたくさんお小言を頂きました。
ああ~やっと解放された。怒られてたらいつの間にか夜になってたけど、遅いけど明日旅立つグランにあいさつ行ってきなさいと母さんに言われちまったしな。グランの家着くの遅くなったの俺のせいじゃないのに。ぐすん。
寝てないといいけどな、あいつ。ドアをすこし強めにノックする。
「はいはーいってフルトじゃないか!大丈夫なのか?ケガは」
「大丈夫じゃないと来てらんねーよ。心配すんな。お前の方こそ元気そうでよかった」
「うん、フルトになんの挨拶もなしにお別れは嫌だったから嬉しいよ。中に入れよお茶出すから」
ほんとこいつは恥ずかしげもなくそういうことぽんぽん言うからすげぇな。俺としても確認したいことと話したいこともあるからありがたく上がらせてもらった。
テーブルの席に座って待ってるとすぐに奥からグランが二人分のコップを置いて席に座る。さてなにから話したもんやら。
「・・・どうしたのさフルト?僕とお前の間に言いよどむことかあるのか?」
「まぁ色々あるけどな。身体は無事なのかよ、俺には風穴空いてるように見えてたんだけどな」
我ながら白々しい言い分だ、吐き気がする。ああと言ってグランは俺が倒れたあとの経緯を話してくれた。といっても俺はそれが知っているシナリオと一緒か確認するためだったから驚くふりをしなきゃいけなかったが。
「グランも魂が半分だかなんだか知らねぇけどさ不憫な体になっちまったな」
「俺としてはルリアが会えたおかげで旅に出る決心ができたよ。むしろ感謝してるよ」
本当に良いやつだグランは。恨むわけでもなくこんなことが言えるんだもんな。だからどうしても俺はグランに聞かなきゃいけない。
「なぁ、グラン。そういや今までそんなに深く聞いてはなかったからよ。聞かせて欲しいんだが・・」
「お前はどうしてそんなに空に出たいんだ?親父に会いたいからか?名声を得たいからか?教えてくれ」
グランはきょとんとした表情で俺の質問を聞いていた。そして我慢できないというように笑い始めた。おいこらぁ!人が真面目に聞いているのに笑うとは許せん。ぶん殴ったろうかこいつ。
「あはは!いや!ごめんごめん!だってフルトはてっきり気づいてるものだとばかり思ってたからさ。確かに父さんに会えたら嬉しいしそれはそれとして会えたら1発ぶん殴ってやろうとか思うけど」
「僕は結局のところ憧れなんだよ。空の果てと言われてるイスタルシア!そこには何があるのか、それまでにどんな出会いがあるのか。そう考えるとワクワクしてこない?」
「死ぬことは考えてないのか?お前がどれだけ力をつけても人間なんてちょっとしたことで死ぬ。それは怖くないのか?」
「それは怖くないといったら嘘になるよ。だけどさ今は一緒に旅をする仲間がいる。ビィにルリア、カタリナさんみんなとならなんとかなるんじゃないかな。だからさ僕はお前とも行きたいんだよ。フルト、僕に負けないくらい憧れているお前が一緒に付いてくるならこれからの危険だって乗り越えていける」
随分と俺の評価高いのなんでなんだよ。悪い気はしねぇけどお前の方がよっぽど凄いのによ。
「僕からも質問させてくれ。フルトはどうして行きたくないの?実力とかそんなものは関係ない。自分で騎空挺を作っちゃうくらい空が好きなのにさ」
「・・・ありゃあ言っちまえばただの趣味だよ」
「それは嘘じゃなくても本当じゃないだろ。騎空挺の形を模すだけならずっと前からできていた。お前はそれを飛ばそうと苦労して改良していたじゃないか。そんなやつが空に憧れていないなんて嘘だ」
うるせぇな、どんだけ俺のこと見てんだよ。お前はおれのファンかなんかか。それに俺がたとえどれだけ憧れても空に旅立つってことは家族を置いていくこと同義だ。
そうだ、俺はもう二度と―――
「俺は今度こそ家族を置いて先にいくなんてことしたくねぇんだよ。空に憧れるのとおんなじくらい俺は家族も大切なんだ」
「それがフルトの空に行かない理由なのか・・・。そっか家族か、いや考えてみれば当たり前だった」
グランは噛み締めるかのように俺の言葉を呑み込んでるようだった。それはその理由がとても大切なことは理解しているのに実感として感じれないことを悔やむように。くそ、ふざけんなまるで俺がお前から逃げるためにこの理由を用意したように思えてきちまうじゃねーか。やめてくれよそんな表情するのは。こっちもむかむかしてくる。
そんな俺の気持ちを察したようにグランは顔をあげた。
「はぁぁ~やっとフルトの本心が聞けた。すっきりした!悪いな今まで無理やり誘うようなこと言ってさ。で、わざわざ僕のこと試すようなこと言ってフルトのモヤモヤは晴れたのかな」
お見通しか伊達に長いこと付き合ってるだけある。俺がなんで悩んでるのか、か。そうだな、今わかった。俺はお前のことが自分自身知らない間に想像以上に大切になっちまってたってことだ。まったく馬鹿げた話だ。お前がこれからの旅で心強い仲間ができても明かせないかもしれない気持ちを俺が支えてやりたいってそう思ってしまったんだから。
「ああ、俺もたった今すっきりした。俺は家族が大切だ。親父を、母さんを、ミイナを悲しませるようなことはしたくねぇ」
グランは納得したかのように聞いている。まぁいっつも断ってきたもんなお前の空への旅。
「だけどな!それとおんなじくらい俺はどうやらお前が空に出ることを見過ごすことはできねぇらしい。だけど俺はお前より弱い、お前を力づくじゃあ止められない」
「・・・え?」
「約束しろグラン。俺はお前のことを俺のできること全部で支える。だからお前も俺に空の冒険を見せてくれ。それで生きてまた故郷に帰ることを約束してくれ!」
「ほ、本当に言ってるのか?フルト」
「聞き返してくるなよ。考え直したくなっちまうだろうが」
「ああ!ごめん、約束する。絶対に守ってみせるさ。本当に嬉しいよ!改めてよろしくフルト!」
俺との話を終えてもグランは嬉しそうにしていて食器を片付けて家から出るときもニコニコしながら見送りやがった。どんだけ嬉しいんだあいつは。俺だって今さっきの気持ちに、決意に嘘はない。少しだけヒドラを倒したから調子に乗ってるのかと自分でも思うけどな。
それでも今、こうして帰り道を歩きながら見上げる夜空はいつもより何倍も綺麗に見えた。
グランの気持ちはビィがいるから寂しくはないと思うのですが一般的な家庭というものを実感してないという意味でこういう描写?にしてみました