あ、六周年おめでとう!ぐらぶる!
騎空挺に向かっていると、村のみんながどうしたとでもいうように近づいてきた。今更気づいてもおせぇやい。村のみんなが思い思いに言葉をかけてくる。
「おいおい!まじでフルトも一緒に行くのかよ!」
「てっきり酔っぱらってたから空耳かと・・・」
「すまーん!俺も嘘だと思ってたー!」
「え、じゃあミイナちゃんはどうすんの?」
「任せてくださいお義兄さん」
「信じてなかったのかよ、お前ら」
あと最後のやつ、顔覚えたからな。今度会った時真っ先に試験作の実験台にしてやる。小型騎空挺に着くとグランたちが待っていた。どうやらもう別れはすんだみたいだ。
「悪いな、待たせちまったか?」
「いいや、全然待ってないよ。それよりもう良かったの?親父さんとかミイナには挨拶しなくて」
「いーんだよ、母さんがうちの代表見送り役。それで充分だ。それにどうせ戻ってくる、惜しむこともねぇだろ」
グランはふと笑うとそれもそうだねと返してくる。グランは俺たちを見渡して力強い声で旅の始まりを告げる。
「それじゃあ行こう!」
「はいっ!」
「へへっついにオイラも騎空士かぁ!」
「ああ」
俺も頷きながら、頭の中のスイッチを変える。さてやるとしよう。
◇
ハッチをあげて全員が俺の船に乗ったところで俺も操縦席に乗るとするか。おっと忘れそうだった、俺の装備も積まないと。グランに荷物を両手で投げる。
「うえあっ!危なっ!取り損ねたらどうすんだよ、しかもこれ結構重いし」
「ナイスキャッチー、取れたんだからぶつぶつ言うなよ。それよ、お前の後ろにある格納庫に入れてくれ。あんまデカくないけど、お前の剣も入ると思うから入れてもいいぞ?」
「いやいいよ、なんかフルトの武器と一緒に入れるだけで怖いし」
「確かにあながち間違いでもねぇよなぁ」
「おいおいビィ、そんなにお前も格納庫に入りたかっのたかよ。遠慮すんな。入っていいぞ?」
「冗談じゃねぇ。狭いけどこっちで我慢してやらァ」
そりゃあ本来2人乗りなんだから狭いのは当然だろ。なんでこういう場合を考えなかったのかなぁ俺。まぁそん時はついて行く気なんてさらさらなかったせいだけど。あととりあえず全員にエチケット袋を持たせておく。グランが酔うとも思えないが念のためだ。
「ビィはルリアの上に乗ってくれ。フルト、安全運転で頼むよ」
「任せとけ、最高に安全な操縦してやるよ」
「フルトのそれはまったく信用できないやつじゃないか」
失敬な。
「ビィさん!どうぞっ」
ルリアがビィを抱き抱え、もう一つの席でベルトをつける。カタリナとグランは挺内の取手を掴み、即席の固定具で身体を固定させている。
カタリナが不安そうに尋ねてくる。
「本当に大丈夫なのか?なんなら私が替わっても良いのだぞ。操縦はしたことないが、騎空挺にはある程度は乗っている。やり方はなんとなくだがわかるぞ」
な、なんとなくで操縦されたらたまったもんじゃない。この人はなぜこんなに自信ありそうな顔してんだ?
「心配しなくても俺は結構回数重ねてるんで問題ないですよ。それに相棒もいますし」
「むう、そうか」
『エンジン、機体ともに異常なし。予想よりも風力若干の誤差有り』
「OK、問題なしだな。重量予想もいけるな」
『貴方の予想よりも5キロ程余裕あり。カタリナの重量を多く見積もりすぎたのが原因と推測する。やはりマスターはこちらの予測に従うべきだった』
「おいこら、余計なこと言わなくて」
後ろから金属が歪む音が聞こえたんだけど!メキャアッって変な音が!
「ははは・・でもクレイって意外とおしゃべりなんだね。僕たちがいる前だと全然話さないからもっと機械的なものだと思ってた」
「しゃ、しゃべる機械さんもいるんですねー」
「それには訳があんだが…聞きたきゃ後でたっぷりしてやるよ。今はしっかりつかまってろ」
スタンバイが終わった。ゆっくりとエンジンをかけていく。俺にとっては慣れた駆動音が身体を揺らして周りの風景をただの色彩に変化させていく中、こちらにかけてくる人影が見えた。
兄として見間違えるなんてことはありえない。あれはミイナだ。
やっぱりお兄ちゃんがいなくなるのは悲しいんだな。俺のためにあんなに必死で走ってくれるなんてっ。それだけで胸がいっぱいになっちまうぜ。
『音声傍受可能。再現しますか?』
「頼む」
『帰ってこなかったら兄妹の縁切ってやるーー!』
「そりゃあ怖い!…本当に怖いなぁ。というかなんで声まで再現できるん?」
『会話データ収集の際、ミイナ様の音声振動を記録することで再現は容易であると回答する』
わーうちの相棒無駄にハイスペックー(棒)。おかげでなんとしても帰らなきゃいけなくなっちまった。
操縦桿を傾けて機体を浮上させていく。離陸は問題ない。あとは島を囲っている山脈を抜けて浮力が発生する高さまでたどり着かないといけない。この島を抜けるのは存外難しい。周りを山脈が囲っているようにあるせいか風が不規則に変わっちまう。それが利点として働いてる部分もあるんだろうが。
ぶっちゃけ今回はちょっと不味い。この上がり方だとおそらく山にぶつかってしまうのでは?
『問題発生。現状では十分な上昇が不可。速度低下による船頭傾斜上昇を進言』
だよね!くそったれ。シュミレーションは大丈夫だったのになぁ!
「いや!だめだ。今速度下げたら高度上昇も遅れる。それこそ間に合わねぇ!」
『了解。プランBに変更。速度を維持、左翼の帆角度やや調整』
「うわわわ!フフフフルトォ!これ大丈夫なの!?」
「問題はねぇ!黙ってみてろ!」
今まで何回ここらを試験運用で飛んだと思ってんだ。それこそ数えきれないほどやってるっつーの!そろそろだ、クレイが提示したルートで山脈に近づくここは絶好のポイントなんだよ。
機体の揺れから気流をつかむ。
待つ、まだだ。
額から冷や汗が沸き上がる。
その時気流に変化が生じた。
今ッ!!
機体を右に傾け、山脈の上昇気流を掴んだ。その瞬間にブーストを掛けた船ははすさまじい勢いで右上がりに上昇していく。これ解決策としては間違っていないんだが今気づいた。
圧がとんでもなくかかるうえに操縦がうまくきかねー!なんでこういうところシナリオでちゃんと書いておかないんだ。おかげでラカムの凄さを今肌で感じてるぞくそったれ。
『危険を報告』
まだあんのかよ。目線で促すとクレイはくみ取ったように報告する。こいつ俺の視線に気づいてんのかね、どこで知覚してんのか俺でもわかんねーぞ。急いでる時ほどこういう無駄なことに意識が向いてしまうこと、あると思います。
『船底が山頂に擦れる可能性大。接近まであと10秒』
「ふんぬううううう!」
上がれバカヤロー。渾身の力を込めて引いたまま突っ込んでいく。
そして山頂を過ぎる瞬間、何かが擦れる衝撃が走る。くそっ、ミスったか!
「クレイ!船の損害はどうなってる。もしかしなくても穴でも空いたか!」
『分析完了。離着陸時に使用する降着装置の一方が衝突により破損。飛行に問題なし』
よっしゃああああ!ブーストを掛けたまま上空に上がっていき、雲を抜ける。ここまでくれば浮力が安定するし気流にある程度乗れば燃料を節約していけるな。
やっと文字通り山場を越えられた。後ろのみんなはどうなっているんだろうか。操縦に集中していたからまったく声が聞こえなかったんだが。
「大丈夫かー、大丈夫なら返事してくれー」
「こ、これが大丈夫…なわけあるか。馬鹿者ぉ」
「だからフルトの安全って言葉は信用ならないんだ。うぅ」
「はわわ頭がくらくらしますぅ」
「無事抜けられたんだからそういうなよ。落ち込むなーなぁクレイ?」
『無理がすぎると当機は考えていました』
「おい、なに自分は反対でしたみたいに言ってんだ。お前と俺は共犯だからな!」
ん?ビィから返事が聞こえねー大丈夫かあいつ。どうやらルリアが気づいたみたいでビィに声をかけている。
「ビ、ビィさーん?大丈夫ですか?」
「お、おうルリア。悪ぃ、オイラちょっとダメみたいだ。うぷっ!」
「え?」
その日、門出である艇内では少女の悲鳴とリンゴかをり漂う出発となった。
くちゃい
タグにガバガバ設定付けたそうかな・・・。