チートで転生!イレギュラーくん   作:Colore

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標的I 転生者来る!

 この世には夢とロマンに溢れた作品が数多く存在する。男のロマンを描く熱い漫画や、とんでもない未来を予想するSF作品、そんな世界に憧れて自己投影したキャラクターを冒険の世界へ送り込む小説。起こり得ないからこそ、人々は渇望し手を伸ばす。

 そういった人々は多く存在し、現代日本に生まれた俺もまた、その一人であることは否定できない。特別異世界転生が好きなわけでもないし、異世界転移が自分の身に降りかかったなら、小心者である俺は足をすくませ身動きの取れないまま死ぬ予感がする。なのに、面白いと思った作品は異世界転生に集中してしまうのが俺の性格で、日常を非日常にする憧れは心の奥底に深く存在した。

 その憧れを実現させる機会は突然降りかかってくるもので、風呂に入っていた俺は突然の頭痛に襲われた。頭が痛くて痛くて締め付けられ吐き気を催し、視界は段々と赤く染まり何も見えなくなっていく。痛みで呼吸は速くなり心拍数も上昇する。何とかして助けを呼ぼうとするが、助からないのは心のどこかで分かっていた。それでも痛みから逃れようと必死にもがいて脱衣所に這い蹲る。もう既に視界は赤く染まり何も見ることはなかった。痛い、痛い、死角を奪われたために更に酷くなる頭痛は、人生をまともに平凡に生きてきた中で最も苦しい拷問だった。俺が何をしたと、世界を呪う。死ぬ間際は脳内麻薬で痛みを感じないと、どこかで聞いた覚えがある。なのにどうしてこんなに痛いんだ、全くの嘘じゃないか。畜生。まだ見てないアニメも、やってないゲームも沢山あるのに。何で俺が。何で。痛い。苦しい。痛い。

 徐々に精神を可笑しくさせて、最後に聞こえたのはばあちゃんの叫び声だった。この時は既に痛みしか感じない。死ぬのはあまりにも怖すぎて、人生のすべてを凌駕するほどの恐怖で。この世界を呪いながら俺の短い人生は幕を閉じた。18歳だった。

 

 

 

 俺が前世の記憶を取り戻したのは物心がついた直後だった。膨大な記憶に熱を出した俺は1週間ほど寝込み、18年を約168時間で経験した。やっと現実の世界で目を覚ました俺は既に前世の人格と融合していて、それ以前の人格はどこかへ消えてしまったらしい。それほど衝撃的な記憶だった。

 起きた直後は混乱し、死への恐怖に歩くこともままならないほどだった。死というのはあまりにも怖い。いつ唐突に襲ってくるか分からない。今の両親へ怖い怖いと泣きながら抱きついて、必死に安心を得ようとして、今生へ縋りついた。

 ようやく幼稚園へ通えるようになったのは、それから1ヵ月後のことだった。精神が18歳で幼稚園へ通うという違和感を何とか押し殺し、前世で後悔したことは今生で全部やってやろうと思った。俺の決意は、さながら異世界転生主人公だ。

 所謂現世転生で、俺の住んでいる"ナミモリ"という地名には全く意識を向けずに生活していたある日、幼稚園の隅で虐められている男の子を見かけた。明るい茶髪に、大きな瞳。どこかで見たことある容貌だなと思いつつ、余計なことに関わりたくない俺はそのいじめを静観していた。お遊戯タイム終了のチャイムが鳴り、いじめっ子たちはそそくさと教室に戻る中、男の子は暫く泣いたままその場を離れなかった。その様子に声をかけようとも思ったが、時間に遅れると面倒くさいので放置し無視を決め込んだ。

 退屈な幼稚園の一日が終わると、今度は集団退園が待っている。多くの子供は集団退園で家まで帰るのだが、一部の子供はそのまま園に残り保護者が迎えに来るのを待つ。俺は普段は集団退園で変えるのだが、今日は親がたまたま用事が入ってしまい、迎えに来るまでじっと待つことになった。虐められ泣いていたあの男の子もまたその一人で、寂しげな表情でじっと遊ぶこともなく保護者を待っている。

 暫くして現れたのは初老のおじいさんだった。優しげな瞳に、真っ白な髪の毛。掘りが深く、どう見ても日本人には見えない涼しげなおじいさんはにっこりと微笑んだ。

「おじいちゃん!」

 静かだったクラスに大きな声が響く。明るく声を発したのはあの男の子だった。男の子が小走りに駆け寄って、何度か転んでやっとおじいさんの元へ辿り着くと、おじいさんは「綱吉」と優しげに声をかけて男の子を抱き上げた。

 綱吉、その名は徳川将軍の一人で、15代目の元服名。しかしそれ以上にしっくりと馴染む男の子は、紛れもなく漫画の主人公沢田綱吉そのものだった。俺が目を見開いたのも知らぬまま、二人は楽しそうに家に帰っていく。

 その後、俺の母親が迎えに来て俺も家に帰ったが、眠るまでずっと落ち着かないまま過ごした。

 沢田綱吉がいるこの"ナミモリ"は並盛であり、リボーンの世界のメイン舞台である。多くの人が行き交う並盛商店街に、いずれ多くのマフィア幹部が入院を繰り返すことになる並盛病院、今は大人しいがいずれ不良校としてその名を轟かせる並盛中学校。今入ってきたチラシには、隣町黒曜の大施設、黒曜ランドの宣伝が大きく描かれている。この世界が漫画の世界であると確信するのに、そう時間は掛からなかった。

 俺は物語の主人公ではなかった。まず始めの衝撃はそんなどうでも良いことだった。前世だって主人公じゃない、そんな事は分かりきったことだったのに。どこか転生というだけで慢心していたらしいことを今になって理解する。

 その次の衝撃は、俺が主人公の側で生活している事実だった。つまり、俺が大胆に動けば俺は物語に介入し、マフィアとしての非日常を手に入れることが出来る。ぬか喜びしたのもつかの間、もう一つ大きな問題に直面した。俺はただの一般人で、家系も普通、能力も普通、特徴があるわけでもなく、このまま沢田綱吉に考えもなく接触したら俺は間違いなく死ぬ。

 そう頭で考えたら、克服したと思っていた死への恐怖が再び蘇る。死にたくない。前世のように何も出来ずに死ぬなんて絶対にいやだ。両手で身体を抱きしめ何とか震えを止めようとする。死にたくない。落ち着かなきゃ。呼吸を調整して、何とか震えを抑えるが、死への恐怖は精神に深く刻み込まれている。考えを変えなきゃ。死にたくない。なら死ななきゃ良い。

 

 今から、何かできることはあるだろう。

 

 そんな時、ふと誰かの顔が頭を過ぎる。真っ白な髪で、沢田綱吉にも似たシルエットを持った男。前世で好きだったキャラクター。誰だったか、どんな容姿だったか思い出せないが、この世界に間違いなく彼は存在する。俺が男の心で惚れたキャラクター。

 彼に会うまで、俺は絶対に死ねないし、死なない。そう決意すると、手から暖かなぬくもりを感じて見やった。特に変な様子はない。ただ、暖かくて、何か血液以外の存在を感じることが出来た。

 思い出したのは死ぬ気の炎。俺にも炎の能力はあるはずで。しかしその命の炎を灯すには、死ぬ気の覚悟を強くイメージしなければならない。死への恐怖心がある俺にそんな事が出来るのかと失笑するが、死なない可能性が増えるなら、どんなことでもしたかった。一度死を体験した俺は、誰よりも死が怖いが、誰よりも強い耐性を持つこともまた可能だと思っていた。

 俺の死ぬ気の決意。男の意地。俺は彼についていきたかった。この身を挺してでも寂しそうな彼を救いたいと心から願った。誰よりも強く、必死に生きてきたが、人の温かさを無視したまま孤独になった男。彼の強さと冷酷さと、内に秘めるどこか弱いところにたまらなく惚れてしまった。その後の決意した表情も大好きだった。俺は彼のためだったら死んでも構わない。

 しかし彼の側にいられるようになるまでは絶対に死ねない。死に切れない。俺は死ぬ気で、彼に従う。

 

 俺は心の底から強く決意して、小さな拳に全神経を集中させた。

小説中の文章量についてですが、心理描写に傾いているため多くなってしまいがちです。このままの量で進めても良いか、減らすか、アンケートにご協力ください。

  • このままでもいい
  • もう少し一文を短く
  • 減らして、会話文を入れテンポ良く
  • SSレベルに無くす

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