何度か練習して、小さな炎が出せることを確認した俺は息をはいて休憩することにした。その間に、幾つか死ぬ気の炎について復習しようと思う。
ごろごろと部屋を転がりまわってやっと得た色鉛筆とらくがき画用紙を使い、属性とそれに対する色を描いていく。
大空…橙
嵐……赤
雨……青
雷……緑
晴……黄
雲……紫
霧……紺
大空は調和、嵐は分解、雨は沈静、雷は硬化、晴は活性、雲は増殖、霧は構築。
我ながら良くここまで覚えていたと驚く。人物なら、メインキャラクターであればある程度思い出せるものの、細かいところは記憶の欠損が激しい。それだけ昔のことである。こんなことなら、死ぬ前に全巻予習しておけばよかった。後悔したって無駄な前世はもう忘れることにする。
ここまで思い出して、ふと気になることが出てくる。俺の炎は色が無かったように思えた。いやそんな事はあるはずが無い。あまり長時間燃やすことが出来ないから、記憶がまだ完全に作られていないのだろう。そう思って、俺はもう一度拳に炎を灯す。
……やはり、無い。くすみ過ぎているのかもしれない。しかし、こんなにまで綺麗に色が無い……いやねずみ色とでも形容するべきか。そんな小汚い色の炎が拳の上を不規則にチリチリと燃やす。
集中力を切らし、輝く星が光に照らされ溶ける様に見えなくなるが如く散っていった炎は、確かにアニメで見たどんな炎よりも異様な姿をしていた。
その炎をらくがき画用紙に書き込もうと色鉛筆を持ち上げたところで、母親が俺をご飯に呼ぶ。
「はーい!」
死ぬ気の炎を出したことにより疲弊した体力は素直で、俺はいち早く母親のご飯が食べたかった。食卓へ向かってみれば、並んでいるのはから揚げに鳥のスープ。普段は一度に出てこない組み合わせに瞳を輝かせ、母親が椅子へ座るのを今か今かと待ちわびる。
今日父親がいないのは、どうやら残業を押し付けられたらしく、いつに無く母親は寂しそうだった。だから俺は寂しさなんて吹き飛ばせるように笑って、から揚げを一つつまみ食いする。
「こーら、お行儀が悪いぞ!」
困ったように笑いながら注意する母親は、一息吐いて椅子へ座った。
「いただきます」
二人でそう声をそろえてご飯に手をつけ始める。今生の母親のから揚げもこれまた美味しく、胸肉を使っているのにジューシーに揚げるのがとても上手いのだ。口の中いっぱいにから揚げを頬張ると、火傷してしまって大変なことになる。
ひたすら美味しそうに食べる俺を見て、母親は少し落ち着けたらしい。若い奥さんに寂しい思いをさせる男は俺が忘れさせてやる。その意気込みでモグモグ食べる。美味い。
明日のお弁当用に揚げておいたというから揚げも、あっさりと俺は平らげ腹を満腹にする。父親用のから揚げをまた揚げる時に、明日の分も揚げて置くというので、その言葉に甘えてしまったのは不覚だった。いくら今幼稚園児といえども、中身はそろそろ自立を促される年だ。流石に大人気ない気持ちで罪悪感が襲う。
しかし、平らげてしまったのはもうしょうがないので、次から気をつければ何も問題ない。
それから一人で風呂に入って、死ぬ気の炎を灯そうとしたが、今日はもう体力の限界でガス欠だったようだ。ただ小さな拳が俺の前にあるだけで、何が灯ることもなかった。
死ぬ気の炎を出した夜は、普段以上にぐっすり眠ることができる。今日もまた同じで、死んだように眠りについた。
今日も同じように幼稚園へ通って、朝から綱吉は少し不貞腐れていた。昨日の帰り際、見送れなかったのがそれほどいやだったらしく、可愛い怒りだと笑って謝った。綱吉は勿論そんな程度じゃ許してくれなかったが、今日もこうして会えるから心配ないと思ったと伝えると、少し納得したようにまた心を開いてくれた。
こうして俺たちは着々と仲良くなっていき、小学校に上がるころにはコンビと認識され、いつも仲良く過ごしていた。
俺と綱吉のクラスが離れた時には、綱吉の気の弱さに付け入っていじめが起こっていたことも多かったが、できるだけ守るようにして、綱吉の心に少しでも負担をかけないようにしていた。
しかし、そういった虐めは綱吉が少しでも気が強くならないと解決しないため、たまには心を鬼にして注意することもあった。その度にビビッて無理だよ、と口に出す綱吉だったが、少しは心に留めてくれているのか、俺が注意した後はいじめの勢いが衰えることが多かった。
綱吉の心の強さを他の人が感じ取っているのに他ならないと、俺は思っている。
綱吉は大空で、かつボンゴレの直系の血を濃く引く子孫だ。かつてのI世のカリスマ性を引き継いでいてもなんら可笑しくないのだ。そうやって少しずつ成長していく綱吉に、俺は保護者的な視線を向けていたのかもしれない。
そんな多少難はあれど穏やかな生活も、勿論タイムリミットは来る。
いつしか俺たちは十二歳になり、小学校の卒業を迎えた。殆どの児童は、中学校も変わらず同じようなメンバーでやっていくためにそれほど危機感は覚えなかったが、俺はどうしようもなく落ち着きをなくしていた。
物語が始まるのは、中学一年生の夏頃だ。つまり、綱吉が早くて後二ヶ月でマフィアになってしまう。それを考えるとどうしようもなく寂しかった。そして、俺も決意しなければならない時が来た。
俺は未だに平和な生活を送っていて、幼い時にボンゴレIX世を見たといえど、あの方は全く俺に威圧感を与えることも無く日本を去っていった。だからマフィアという存在に対しての危機感が全く無いのだ。危機感は無くとも、命が危ないことだけは十重に知っている。綱吉とかかわっていけば、確実に巻き込まれ、命が幾つあっても助からないような状況になるだろう。その上、俺の憧れのあの人にも近づくことは出来なくなってしまう。
最近は、綱吉の率いるボンゴレに入ろうかとも思っている節がある。それでも良いのかもしれない。7年間以上を綱吉と共にし、親友の地位まで築き上げて、このまま綱吉が怪我するのを見ていられるだろうか。迷いが捨てきれずに、中学に入ったところで俺は毎日ボーっとするばかりだった。
幸か不幸か、綱吉とは同じクラスで、しかも隣同士だった。「お前と一緒で嬉しい」と言ってくれた綱吉には激しく同意するが、それが意味するのはリスクが上がったという事。素直に喜んでいる暇も無い。
家に帰っても気分が晴れないまま、俺は机の上に置いた石を眺める。たまたま石を売っているフェアで見つけたもので、この石は死ぬ気の炎を灯すことが出来る存在だった。俺が死ぬ気の炎を出す訓練をしているとき、最近はこの石にお世話になることが多い。
集中して石を持つ。体内に流れる管をイメージして石へ注ぐと、そこから以前よりもいくらか大きくなったくすんだねずみ色の炎が燃え上がっていた。見たことの無い炎。この炎が意味することも分からない。
俺は何年もこの世界で生きてきて、いまだ何一つ分かってはいなかった。
この炎を灯す覚悟、それは今でもあの方に向いている。そのはずだ。未だ見たことの無い彼に想いを馳せる。
――綱吉と、彼、どちらに想いを寄せた方が上手く灯るだろうか?
ふとそんな考えが頭を過ぎる。今までは灯すだけで疲れてしまうため、あまり連続して灯すことは無かったのだが、最近は余裕が出てきたのか数回連続で燃やしても体力が残っているほどだ。やってみる価値は、あるのかもしれない。
彼を思い出す。もうぼんやりとしか覚えていなくて、上手くイメージできないけれど、それでも今の俺の性格を形成してる大部分を占めている。彼が俺の死を望んだとき、俺は死ねるか。考えが鈍る。結局、炎が灯ったのは最初よりも小さい炎だけだった。
では、綱吉はどうだろう。意識を向けて、もう一度集中する。綱吉が虐められているだけで腸が煮えくり返るほどに腹立たしいし、弱虫だけど優しいところが最高の長所で。俺が涙を抑えているときに、支えてくれたのも綱吉だった。綱吉が俺の死を望んだときに、俺は死ねるか。応えは簡単、絶対にありえない。でも、守る。死なないけど綱吉は守りたい。そう思って力を込める。
その時、初めて炎が音を出した。
炎というのは、突然着火すると音を出すことがある。それは小さな炎では到底聞こえない小さなものだが、炎が大きくなればその音もまた聞こえるようになる。
そう、俺の石にはいつもよりもずっと大きな炎が灯っていた。漫画で見るような立派なもんじゃ決して無いが、今の俺にできる精一杯だと思うととても誇らしかった。
俺が喜び頬を上げたとき、ズキリと鈍い痛みが頭を襲った。これはただの頭痛じゃない。俺が死ぬときと同じくらいの痛みが頭を襲う。呻いて這いずってどうしようもなくて、助けを呼ぼうにも両親は出払っている。強烈な痛さを記憶に刻み、俺の意識は途絶えた。
のだろう。気づいたときには痛みも無くなり、真っ暗な空間に閉じ込められているようだった。現実じゃない。それだけは確実に分かる。
暫くすると、俺の記憶に侵入してくるように知らない記憶が頭に流れる。……それは、炎に関してのことだった。
頭のイメージを文章にするのなら、このようになる。
始めに、地球があった。そしてそれを包み込むように覆う手があった。
次に現れたのは、花の形の石と、それを囲む様に並ぶ石の原石。どこかで見たことがあるのは、多分リボーンの漫画のどこかに登場したからだろう。
その石がおしゃぶりという形になり、そしてリングへと変化した。これはつまり7³のことだろう。
そうして世界が進んでいく中、一つの光が地球へ落下した。
覆う手は何度も拒もうとしたが、拒みきれないそれはどこかの国へ落下した。
落下した場所には白い炎が灯り、7³のイメージをかき消していった。
白い炎は地球を真っ白に染め上げ、その地球自体が炎と化し、手から零れ落ちてしまう。
何も無くなった空間に、再び地球と手が現れた。それは同じ時を繰り返し、そして白い炎も訪れた。
その炎が地球を訪れた隕石に漂着し、地球の周囲を回る衛星となった。
衛星は海を管理し、地球は平穏を保った。
白い星は7³に近づいても、拒まれてしまう。そして巨体となった白い星は、覆う手の外側をいつまでも回り続ける。
イメージはここまでだった。このイメージから汲み取ったものを、全て言葉にしようとすればあまりにも難しく、抽象的な表現が多いために何を表しているかも良く分からない。
ただ、確かに言葉として頭に浮かんだのは、月の炎と月のリング。
汲み取れたのは、その炎の玉自体が7³と同等の力を持ち、しかし7³に及ばない存在という事。世界から省かれたイレギュラーだという事。所謂転生特典というものだろう。
思い身体を動かして目を開けると、持っていた石はどこかへなくなってしまい、変わりに二つの石がはめ込まれたリングだけが落ちていた。世界からのたった一つの贈り物、どこからかそう聞こえた気がした。
暫く休んで、体調を見てリングを填める。俺の右手の中指にしっくりくるサイズのそれは、まさしく俺専用の指輪とみて間違いは無いらしい。ここに来て唐突のサプライズだった。
集中して、死ぬ気の炎を灯す。光り輝くそれはねずみ色でこそあるが、先程よりも断然大きな炎を灯している。リングの上直径500円玉くらいはあるんじゃないだろうか。
炎を消して、開けた窓から外を眺める。何も変わることの無い、穏やかな空が広がっていた。そらには、まだ明るいというのに白い月がぽつんと、何も無い空に浮かんでいた。
未だにマフィアの世界に入るのか、入ったら誰につくのか、何も分からないままだが、幼少から気になっていた事柄の一つは無事に分かったのが嬉しかった。
この炎は俺の炎。月の炎。特性は未だ分からないが、それだけ判明しただけでも素晴らしかった。
疲れ果てた俺は、この後母親が起こしにくるまで眠っていた。
小説中の文章量についてですが、心理描写に傾いているため多くなってしまいがちです。このままの量で進めても良いか、減らすか、アンケートにご協力ください。
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減らして、会話文を入れテンポ良く
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