オルガとミサトは、それきり車内で話さなかった。空気が悪くなったわけではない。オルガが考えこみ始めてしまったからである。
(ここは地球だとミサトは言った。ギャラルホルンも鉄華団も知らねぇとも。ここはどこだ?よく考えたらクーラーが快適だと思うほど外は暑かった。そして何より…夕方だったはずの空が、青い)
「オルガくん…あまり考え込みすぎないほうがいいわ」
「分かってます」
「…ほら、地下に入るわよ」
「地下?」
オルガの目に飛び込んできたのは、巨大な地下空間であった。天井からは無数にビルが逆側に生えてきている。地面には木々が生い茂り、湖は空間全体を淡く光らせる照明を反射させていた。
「ここは…?」
「ジオフロント。ネルフの基地よ」
やがて車はリフトに乗せられ回収、車から降りた二人は可動式の歩道を、基地の中心に向けて進んで…進んで…はいなかった。
「おい、なんかここ数合わなくねぇか?」
「おかしいわね、確かにここだと思ったんだけど」
ミサトを先頭に別れ道やゲートをくぐっていた二人は、今や自分たちが基地のどこにいるのかも把握してなかった。
「あんた、ここの職員なんだろ?」
「ゴメンっ!実はあたしもちょーっち曖昧で」
「ちょっと…か?」
訳もわからず乗ったエレベーターの中でそんな会話を交わしていると、不意に扉が開いた。
現れたのは妙齢の女性。整った顔立ちにショートカットにした金髪、左目に泣きぼくろがある。女性はミサトを一目見ると小さくため息をついて、
「呆れた。また迷ったのね?」
「あら、リツコ」
「私たちには人手もなければ時間もないのよ…それで」
リツコと呼ばれたその女性は、ミサトの後ろで壁に体重を預けているオルガに視線を飛ばす。
「その少年が、例の」
「そう。ファリド准将ご指名の…第3の少年よ」
リツコ同様、ミサトもオルガを見る。オルガは二人に視線を向けられ、怪訝な顔をした。
「…なんです」
「ファリド准将がお呼びよ」と言ったのはリツコ。
「マクギリスのことか?」
「そうよ。マクギリス ・ファリド…」答えたのはミサトである。
リツコはミサトの方へ向き直ると、口を開いた。
「とにかく急ぐわ。准将のもとへ」
そこから先は早かった。おそらく最短ルートであろう経路を通り、リツコは淡々とゲートをくぐっていく。オルガは終始ミサトへ冷たい視線を送っていた。当のミサトはその視線に気付きながら、ばつの悪そうに視線を頑なにそらす。
「ここよ」
十数回のゲートの末、一つの扉にたどり着く。これまで通過したゲートとは違う、小さい扉だった。リツコは扉の横にピ、ピ、と暗証番号を入力。やがて開いた扉に、二人を誘導する。三人が部屋に入ったところで、扉が閉まった。
「真っ暗じゃねぇか…」
部屋の中は灯りひとつなかった。オルガはキョロキョロと首を回したが、何も見えるはずはない。
数秒後、パッと照明が点灯した。
突然の眩しさにオルガは目をつむる。すぐに目を開くと、オルガは自分の目の前にある『それ』に驚き、そして圧倒された。
「なんだこりゃあ…!?モビルスーツ…か?」
オルガの眼前に鎮座していたのは、巨大な『顔』だった。吊り上がった目に牙のようなもの、そして角。紫色のそれは、見るものに恐れを抱かせるには十分過ぎる容姿だった。
驚くオルガの横にリツコが進み、告げる。
「これは使徒殲滅のために作られたものよ。ヒトが作り出した究極の汎用ヒト型決戦兵器…人造人間エヴァンゲリオン、その初号機」
「これでモビルアーマーを…これがあんたらの仕事か?」
「そうだ」
オルガの問いに答えたのは、ミサトでもリツコでもなかった。
見上げてみると、男がひとり、上階のガラス張りの窓の向こうに立っている。サングラス越しに冷たい視線を向けられたオルガは、
「あんた…誰なんだよ」
と、そう聞いた。
返答は無かった。構わずオルガは追求する。
「それよりも…あんたが俺を呼び出した『要件』を聞こうか」
「…出撃」
サングラスの男は短くそう告げた。その言葉を聞いて、ミサトは顔を青くしてリツコの方へ首を回す。
「出撃!?零号機は凍結中でしょ…まさか、初号機を使うつもり!?」
「そうよ」
「そうよ、って言ったって…レイは治療中…パイロットがいないわよ!」
「さっき届いたわ」
「…マジなの」
二人の口論とも取れるやり取りを眺めていたオルガ。零号機やらパイロットやらのわかりそうでわからない単語のオンパレードに、ついに
「正直ピンときませんねぇ」と漏らした。
「オルガくん」
突然オルガの名を呼んだのはリツコ。オルガは少し焦って「はい」と応えた。リツコは続ける。
「あなたが乗るのよ」
「はぁ!?」
モビルスーツに乗ったことはある。シュミレーションでだが。モビルワーカーの操縦はできるし、動かそうと思えばロボット一機ぐらい動かせるのかもしれない。いやしかし。
「待ってくれ!俺は確実に殺されるぞ!?」
「座っていればいいわ…それ以上は望みません」
オルガの最大限の拒否反応を、リツコは冷たく砕いていく。
「乗るなら早くしろ…でなければ、帰れ」
サングラスはそんなことを言う。しかしオルガにとっては好都合である。乗らずに帰れば…
オルガは入り口の方を向いて、短く呟いた。
「さてと…帰るか」
それを制したのはミサトだった。オルガの襟を掴んで固定し、しっかりと見据える。
「あんたまだ生きてんでしょ!?だったらしっかり死なさい!」
「ひでぇじゃねぇか…」
「いや、すまない。こちらにも少し非があった…詫びよう」
「!?」
突然の第三者の声に、オルガは声のした方へ首をもたげた。リツコ、ミサトもそれに習う。
「…あんた」
「葛城二佐、苦労をかけた。後はこちらに任せてくれていい」
その乱入者の男は、金髪を揺らして再びオルガの方へ向いた。
「久しぶりといったところか…オルガ団長」
「マクギリスじゃねぇか…」
更新がおそすぎる