「…で、なんだこの状況は」
オルガが今いるのはネルフ基地内の一部屋。デスクが一つと、その前に低い机、それを挟むように二つソファが置かれている。
ソファに座ったオルガは、身を前に乗り出してもう一つのソファに座った男を…マクギリス・ファリドを睨んだ。
「君も気づいているだろう?ここは私達がもといた世界ではない」
マクギリスは前髪をいじるくせがある。
「ここはまだ地球以外に人類が住んではいない。月にも、もちろん火星にも。厄祭戦より過去に来たのかと思ったが、そもそもこの世界には私達の世界にはないものがある」
それを聞いたオルガが、目を伏せて呟く。
「使徒、か」
「そうだ。私たちの世界には、あんな生物は存在などしていない」
「しかし」
「ああ、分かっている。あれはどうやらMAとも呼ぶようだな…しかし考えても見てくれ。私たちと君たち鉄華団で戦ったあのMA…ハシュマルとは似ても似つかないだろう?」
オルガは黙る。少し間をおいて、思い出したように話しはじめた。
「あんたはどうなったんだ?ここで何をしている?」
「私、か…私は」
マクギリスは自身の金色の前髪から手を離す。目を閉じてまた口を開いた。
「私は死んだのだ」
「は?」
オルガは心底奇妙なものを見るような目を目の前の男に向けた。
「私にもわからない。あの後アリアンロッドの包囲網を突破した私は、ラスタル・エリオンを討つためにバエルでスキップジャック級に単独突入した」
「…そこで、死んだのか」
「いや、正確にはそのスキップジャック級の内部でだが…まあいい。そして確実に死に至った私は」
「…」
「ここの、司令官だった」
「…は?」
「この世界には、ゼーレと呼ばれる巨大な組織があるようだ。私はそこにも在籍していた」
みなまで聞き終わらないうちに、オルガが机に手を打って乗り出した。
「待ってくれ!俺を呼び出したのはあんただろ!?」
マクギリスは興奮するオルガを手で制すると、
「ああ。君を呼び出したのは確かに私だ。そういう手筈になってしまっていたからな」
「手筈?」
「私の所持していた『汎用人型決兵器人造人間エヴァンゲリオンのパイロットに関する報告書』に、君の名前があった」
「その…なんとかってやつはMSなのか?」
「どうやら違うようだ。名前にもあるようにあれは『人造人間』…天使のコピーという存在」
「じゃあ、阿頼耶識も何も…」
「オルガ団長、いや、オルガ・イツカ。ここからが最も君の耳に入れておきたい事なんだがね」
「なんだ」
「この事実が私に、この世界と私たちの世界との関係を示したのだ」
「だからなんなんだよそりゃぁ!」
「この世界にも、『ガンダムフレーム』は存在している」
「!?」
オルガに再度困惑が走る。厄祭戦で生まれ、以後300年に存在していたガンダムフレーム。それがこの地球しか生存圏がないという旧世紀に存在しているとは。
マクギリスはオルガの表情を一見、そしてまた話し始める。
「つまり、この世界と私たちの世界はどこかに繋がる点があるということだ。その点を見つければ、私たちは元の世界に帰ることができるかもしれない」
「…なるほど」
「だからオルガ団長。頼みたい。エヴァンゲリオンに乗って、使徒を倒してくれないか」
オルガは足元に視点を移し、少し黙る。
「…で、なんで俺なんだ」
マクギリスはフ、と微笑み
「EVAは…MSと違い『搭乗できる人間』が限られている」
「それが俺だと?」
「ああ。君は…EVAに選ばれたというわけだ」
「うさんくせー…が、やるしかねぇか」
「頼む、オルガ団長」
「お前のためなんかじゃねぇぞ」
「ああ」
「俺の、俺たちのためだ」
______________
『第三次冷却終了、フライホイール回転停止、接続を解除』
『補助電圧に問題なし』『停止信号プラグ、排出終了』
オルガは言われるままにEVAのコックピットに座る。すぐに俺の知ってるコックピットと違うんだが…、と表情を曇らせた。
『エントリープラグ挿入』『脊髄伝導システムを開放、接続準備』
『第一次コンタクト!』
『エントリープラグ注水!』
「…あ?」
見れば、オルガの足元から何やらオレンジ色の水が流れ出ている。とどまることを知らないそれは、水かさを増してあっというまにオルガの全身を包んだ。
(…水!?やべぇ息が…)
「待ってくれ!待てって言ってんだろうが…ぅ、ぅごご…」
自らの溺死を悟ったオルガは、彼の『かつての』最期の言葉を口にする。だからよ、止まるんじゃねぇぞ…
『進路クリア。オールグリーン。発進準備完了!』
ミサトはコックピットの状況を一べつもせずに叫ぶ。
「発進!」
「…こんくれぇなんてことはねぇ…」
オルガは何とかして死へと向かう意識を引き揚げると再びコックピットに座り直した。
さっきのオルガの溺死の原因たるオレンジ色の水は今は彼の肺を満たし、呼吸を可能にしている。なんだよ…結構息できんじゃねぇか。
EVA初号機は地上に上がるためのエレベーターに乗せられ高速でその身を押し上げられている。勿論通常のエレベーターのようにゆっくり止まるわけではない。やがて地上のハッチが開いて、初号機の姿が現れた。
慣性の法則をご存知だろうか。動き続ける物体は急には止まることはできない。車が急ブレーキをかけると乗っているものの身体が前のめりになるアレである。もしこのままエレベーターが止まったら、中に乗るオルガの身体は先程までと同等の速度を保ってコックピット天井に激突するだろうことは容易に想像できる。
しかし普通、コックピットやら車の席やらにはシートベルトが存在している。彼が頭を強打する必要はないのだ。
勿論彼のコックピットにシートベルトなどない。
「ヴヴゥッッ!!!」
案の定頭部を強打したそのパイロットは再び呟く。だからよ、止まるんじゃねぇぞ…
再開するよ〜