イルとスフレはアルヒタウンを出発し、14番道路に来ていた。
アルヒタウンがフラウ地方の玄関口ということもあり、道がちゃんと整備されている。街道の周りには背の高い草むらはあまりなく見通しが良い、草むらの奥には木々が生い茂り林になっている。
草むらでは野生のポケモンが走り回っていたり、何人かのトレーナーがバトルしたり、ポケモンをゲットしようとしている。
イルとスフレは街道を歩いていた。
「今日は天気もよくて、本当に旅日和だよね。」
「うん。ブイとピカも気持ちよさそうにしてるね。」
ブイとピカは2人の側で一緒に歩いている。
「それにしても、この道ってちゃんと整備してるんだね。」
「フラウ地方に来るほとんどの人は、アルヒタウンの港からフラウ地方に入ってくるの。この街道は多くのトレーナーや旅行者が通るからちゃんと整備してるって聞いたことがあるよ。」
「そうなんだ。それにしても見晴らしが良いから、ポケモンがいきなり飛び出してきても大丈夫だね。」
「ポケモンも捕まえていかないとだね。」
「あ〜、あたしまだモンスターボール持ってないんだよね。イルはモンスターボール持ってる?」
「私も持ってないよ。」
「アルヒタウンで買おうと思ってたんだけど、ショップに行ったら売り切れてたんだよね。」
「この時期はこの地方に来るトレーナーの人が多くて、すぐに売り切れちゃうの。でもロッタシティは大きな町だから、モンスターボールを買えると思うよ。」
「じゃあ、今はポケモンと戦うことしか出来ないね。ピカ、いっぱい戦って強くならないとね。」
『ピカ!』
スフレの言葉にピカは返事をする。張り切っているスフレとピカを見て、イルとブイは笑いあった。
イルとスフレは野生のポケモンとバトルしながら、街道をすすんでいた。
「ピカ、“でんこうせっか”!」
『ピカ!』
ピカの“でんこうせっか”が当たり、相手のジグザグマが戦闘不能になる。ジグザグマが倒れたのを確認して、スフレはピカに話しかけた。
「やったねピカ。」
『ピカ。』
「スフレちゃんとピカ絶好調だね。」
イルがスフレに近づいて話しかけると、ジグザグマは立ち上がり草むらへ走っていく。その様子を見ながらスフレは残念そうに言う。
「あ〜あ、ちゃんとモンスターボール買えてたらな、そうしたらゲットしたりできたのに。」
「仕方ないよ。ロッタシティにつけば買えると思うから今は我慢しようよ。」
「しょうがないか〜。ところで結構歩いたけど、ロッタシティまで後どれくらいかかるの?」
「後30分くらい歩けば町の入り口が見えてくるはずだよ。」
イルの言葉を聞いて、スフレは歩調を早めた。
「じゃあ一気にロッタシティまで行って、モンスターボールを買いに行こう。」
「そんなに急がなくても大丈夫だよ。」
早く行こうとせかすスフレにイルが苦笑していると、少し遠くから「ハァ! セイ!」と声が聴こえてきた。
少し歩くと、スポーツウェアを着たイルやスフレと同い年ぐらいの水色の髪でショートヘアーの少女と、人型のポケモンアサナンが格闘技の練習をしていた。
イルとスフレが近づくと、少女は2人に気づいて話しかけた。
「貴方達はポケモンを連れているところを見るとポケモントレーナーですよね。」
少女が話しかけるとスフレが返事をした。
「そうだけど。」
「わたしはリーナ、こっちはアサナンのチャムです。今トレーニングをしていまして、ちょうどバトルの相手を探していたんです。あたし達とポケモンバトルしてくれませんか?」
リーナの申し出にスフレはピカの方を見ると、ピカは頷いた。
「うん、いいよ。」
「ありがとうございます。そういえばまだ名前を聞いてなかったですね。」
「あたしはスフレ。こっちはピカ。」
スフレが自己紹介をしたのを見て、イルは慌てて自己紹介をする。
「私はイルっていいます。この子はブイです。」
「スフレさんとイルさんですね、よろしくお願いします。ところで、バトルの相手はスフレさんで良いのでしょうか?」
「そのつもりだけど、イルはそれでもいい?」
「うん大丈夫だよ。」
イルの答えを聞いたスフレは、リーナに返事をした。
「あたしがバトルするよ。」
「では、そこでバトルしましょう。」
そう言って、道から少し離れたところにあるひらけた場所を指差した。
町の中で好きなところでバトルすると他の人に迷惑をかけるため、ポケモンバトルのためのバトルフィールドが用意されているが、街道などのバトルフィールドがない場所では、他人に迷惑をかける場所でないかぎり自由にバトルすることを許されている。
今回のバトルフィールドは大きな石などの障害物が何もない草原のフィールドである。
スフレとリーナはバトルの邪魔にならないように離れて向かい合っている。イルはスフレの後ろでバトルを見学している。
バトルフィールドの中ではピカチュウとアサナンが対峙していた。
スフレが位置につくのを見てリーナはスフレに話しかけた。
「お互いにポケモンは一体ずつ。戦闘不能になるか降参したら負け、このルールで大丈夫ですか。」
「うん、いいよ。」
スフレの返事を聞いてリーナは、
「では、先行はそちらからどうぞ。」とスフレに先に指示をするように促す。
「よし、いくよピカ!」
スフレの言葉にピカは、『ピカ!』と返事をした。
「ピカ、まずは“しっぽをふる”!」
ピカは“しっぽをふる”でアサナンの防御力を下げる。スフレはすぐに次の技を指示した。
「次は“でんこうせっか”!」
『ピカピー!』ピカは、まっすぐにアサナンに突撃する。
「チャム、防御を。」
リーナがアサナンに指示を出すと、アサナンは身体の前で腕をクロスさせて、ピカチュウの“でんこうせっか”を正面から受け止めた。アサナンは技の衝撃で後ろに下がるが、しっかりとピカを受け止めた。
「ピカ! アサナンから離れて!」
「チャム、“はっけい”です。」
スフレが指示を出すのとほぼ同時に、リーナはアサナンに攻撃の指示を出した。
『アサ!』アサナンが掌底を放ち、それをピカはギリギリで避けて、アサナンから距離をとった。
(見てるだけなのに緊張するな。)
ピカが攻撃を避けるのを見て、イルは小さく息を吐いた。
(ピカ、あの攻撃を避けるなんてすごいな。)
イルがそんなことを考えていると、ピカが走り回ってアサナンをかく乱していた。
(それにしても、ピカってやっぱり……。)
イルはスフレとピカに会ってから感じていたある疑問が確信に変わっていた。
「今だ、ピカ“でんこうせっか”!」
アサナンの周りを走り回っていたピカは、スフレの指示でアサナンに攻撃をしかけた。
「チャム“みきり”です。」
リーナが技を指示すると、アサナンの目が少し光りピカの攻撃を身体を逸らして避けた。
「ピカ、スピードを落とさないで。」
ピカは動揺して足を止めようとしたが、スフレの言葉でスピードを上げた。
「もう逃がしません。チャム“ねんりき”です。!」
アサナンの目が光り、ピカに向かって目と同じ光りを纏った腕を伸ばす。するとピカの身体がアサナンと同じ光りに包まれた。
『ピ、ピカ。』ピカは抜け出そうともがくが、アサナンの腕の動きに合わせて浮き上がっていく。そしてアサナンが腕を勢いよく下げた。
『ピカ⁉︎』ピカは地面に叩きつけられた。
「ピカ! まだいける?」スフレの言葉を聞き、
『ピ、ピカァ……。』ピカはゆっくりと起き上がる。
ピカが立ち上がるのを確認してリーナはすぐに指示を出した。
「これで決めます! チャム“はっけい”!」
アサナンはピカとの距離を一気に詰めて掌底を繰り出した。
掌底はピカのお腹に当たる。掌底の威力は強くないが掌底から放たれた衝撃波がピカを襲った。
『チャ〜。』ピカは目を回して倒れ戦闘不能になる。
ピカが戦闘不能になったことにより、アサナンの勝利でバトルは終わった。
「ピカ、大丈夫?」
スフレがピカに走り寄って話しかけるが、ピカは目を回して気絶している。
「はぁ、また負けちゃった。」
スフレは、呟きながらピカを抱き上げる。そうこうしているとリーナがスフレに近づいてきた。
「バトルありがとうございました。ピカチュウは大丈夫ですか?」
「気絶してるだけだから大丈夫だよ。リーナのアサナン強いんだね。」
「いえ、私なんてまだまだですよ。もっと強くならないとね。チャム。」
『アサ!』
リーナの言葉にアサナンが頷く。
「私ももっと頑張らないと。」
スフレがピカを見ながら呟くと、リーナは気まずそうに話しかけた。
「私なんかが言うことではないと思うんですけど、もっとピカチュウにあった戦い方があるのではないですか?」
「…そうだね。」
スフレは、リーナから目を逸らして返事をする。
スフレの様子を見て、リーナは慌てて謝罪した。
「すみません、偉そうな事を言ってしまって。」
「ううん、気にしないで。私もそう思うし。」
スフレとリーナが話していると、イルが2人に近寄って話しかけてきた。
「2人ともお疲れ様。どうしたの?」
イルは気まずそうにしている2人を不思議そうに見る。そんなイルにスフレは「何でもないよ。」と少しぎこちない笑顔で答えた。
「それではスフレさん、イルさん、私達これで失礼します。」
「うん。リーナさん、チャムもまたね。」
「リーナまたバトルしようね。」
「はい。是非お願いします。」
リーナの言葉にイルとスフレはそれぞれ返事をすると、リーナはロッタシティの方へ去っていった。
リーナが去ってから、2人は近くのベンチに座りピカが目を覚ますのを待っていた。スフレは膝の上のピカを撫でており、ブイはイルの隣で丸くなって眠っている。
しばらく2人は黙っていたが、イルは聞きづらそうに話しかけた。
「スフレちゃん言いたくないのなら別にいいんだけど、一つ聞いてもいい?」
「うん、別にいいよ。」
「ピカって、でんきタイプの技を使えないの?」
イルの質問を聞くと、スフレは動きを止めた。そして気まずそうに笑いなから、イルの方を向いた。
「えへへ……、やっぱりばれちゃうよね。まあ別に隠すつもりはなかったんだけど。」
「じゃあやっぱり。」
「うん、そうだよ。まあ、正確には使えないじゃなくて、使わないんだけどね。」
「え、使わないってことは、何か理由があるんだよね?」
「別に大した理由はないんだけどね。」と前置きしてから、スフレはピカを見ながら話し始める。
「正直言うとくだらない事なんだけどね。お父さんが格闘技好きで、良くテレビで観てたんだけど、ピカも一緒になって観ているうちに好きになったんだ。特に[P-1]って番組が好きなんだけどね。イルは知ってる?」
「うん。私は観たことないけど、店に来たお客さんが話してるのを聞いたことがあるよ。確かリング上でポケモンが物理技だけで戦うんだっけ?」
「そう、ピカはそれに憧れて自分もそんな風に戦いたいみたいなんだ。」
「じゃあそれで。」
「ピカがでんきタイプの技、というか特殊技を使わないのは、そういう憧れというか拘りがあるからみたいなんだ。」
はあ〜。とスフレは大きなため息をつく。
「なんていうか大変だねスフレちゃん。」
「もう! ピカがもっと普通に戦ってくれればこんなに苦労することないのに、変なところで頑固なんだからあんたは!」
そう言いながらスフレはピカの頰を上下左右に引っ張り顔を揉みくちゃにする。
『ピ、ピカァ〜。」
ピカはたまらず声を出すが、スフレは気にせずに引っ張り続ける。
「スフレちゃん、ピカが起きちゃってるよ。」
「別にいいの!というかもう起きてたくせに気まずくて寝たふりしてただけでしょ!」
スフレはピカを弄りながら答える。
「え!」『ピカ!?』
イルとピカが、驚いた声を出す。
「ピカ!あんたが小さい時から一緒にだったんだから、それぐらい分かるんだからね。」
「ピカのことよく知ってるんだね。」
イルの言葉にスフレは少し呆れたように答える。
「まあね、実力があるわけじゃないのに拘りだけは一人前なんだから。」
「でもピカの戦い方を変えないんだね。」
スフレはピカをいじるのをやめ、ピカと向き合うように抱き上げる。
「うん。折角パートナーになったんだもん、ピカが満足できる戦い方をさせてあげたいと思ったんだ。」
「そうなんだ。」
「でもやっぱり無理なのかな、あたし達じゃ。」
『ピカァ…』
落ち込んだスフレとピカを見てイルは何か声を掛けようとしたが、何も言うことができなかった。
イルが何を言おうか考えていると、隣で寝ていたブイが起きて街道の方を見る。そのことに気づいたイルはブイが見ている方に顔を向けると、街道を一体のマッスグマが歩いてくる。何かを探しているのか辺りを見渡している。
イルがマッスグマを見ていると、気になったのかスフレが話しかける。
「どうしたのイル?」
「うん、ちょっとあのマッスグマが気になって。」
「マッスグマが?でもジグザグマがいるんだから、マッスグマがいてもおかしくないと思うんだけど。」
(あのマッスグマってもしかして。)
スフレの言葉に反応せずイルが考え込んでいると、マッスグマがイル達の方を向いた。
イル達を見つけるとマッスグマは嬉しそうにアルヒタウンの方を向いて一声鳴いた。イルとスフレが不思議そうにマッスグマの行動を見ていると、アルヒタウンの方から誰かが歩いてくるのが見えた。
「マッスグマ見つけたのか?」
そう言いながら近づいて来る人物を見て、イルは思わず声を上げた。
「お兄ちゃん!」
考え込んでいたイルが突然大きな声を出したと思ったら、マッスグマのトレーナーらしき人の元へ走りだしブイも続いて走っていった。スフレが呆然のしているとイルと男性が会話を始めた。
イルにお兄ちゃんと呼ばれた男性は黒髪でスフレよりも4、5歳年上に見えた。
「お兄ちゃん帰ってきてたの?」
「ああ、昼過ぎの便で帰ってきたんだ。」
「そうなんだ。マッスグマも久しぶり。」
『マッス!』
イルがマッスグマに声をかけて撫でると、マッスグマは嬉しそうに返事をする。
「お兄ちゃん、お母さんのところには行かなかったの?」
「行ったさ。そこでイルがもう出発したって聞いて追いかけてきたんだ。」
「どうして?」
「ちょっと渡したい物があってな。」
「渡したいもの?」
「ねえイル、ちょっといい?」
2人の近くに来たスフレが話しかける。
「あ!ごめんねスフレちゃん。スフレちゃんに紹介しないとダメだったね。この人は私のお兄ちゃん、ポケモントレーナーで旅をしているの。」
「イルの兄のレツだ、よろしく。」
「あたしはスフレです。このピカチュウはピカです。」
スフレは挨拶をするとピカを足元におろす。ピカはマッスグマとブイの元へ行き、2匹と話し始めた。
「あのマッスグマってレツさんのポケモンですか?」
「ああそうだよ。もしかしたらまだこの辺にいると思ってさがしてもらっていたんだ。」
「そうなんだ。」
「2人がまだここにいるってことは、ポケモンもゲットしようとしてたのか?」
レツの質問にスフレは気まずくなって黙ってしまう。そんなスフレをレツが不思議そうに見ていると、イルがスフレに話しかけた。
「ねえ、スフレちゃん。ピカのことお兄ちゃんに相談してみない?」
「え!」
イルの提案にスフレは驚くがイルは話を続ける。
「お兄ちゃんはもう何年トレーナーをしているから良い案を出してくれるとおもうんだ。今の私たちじゃ解決できないし、聞いてみない?」
「そうだね。良い方法が聞けるかもしれないしね。」
2人の様子を見ていたレツにイルが話しかける。
「お兄ちゃん、聞いて欲しいことがあるんだけど。」
イルはレツにスフレのピカについて話し、良い案がないか相談した。一通り話を聞くとレツが口を開いた。
「なんて言うか、まだ新人トレーナーなのに大変だな。」
「やっぱり、そう思いますか?」
「そりゃあ、自分達で戦いの幅を狭めているようなものだしな。」
「ねえお兄ちゃん。なんとか力になってあげれないかな?」
(正直強くなりたいなら、時間を掛けて特訓でもすれば何とでもなると思うが、今聞きたいのはそう言う事じゃないんだろうな。)
「お兄ちゃん?」
レツが黙ると、イルとスフレが心配そうな目でレツをみつめる。
(こんな時、なにかアドバイスするのもトレーナーの先輩の勤めだよな。)
「別にアドバイスするのは構わないけど、俺にも用事があるからあまり多くは教えられないけどいいか?」
「うん!頑張ります!」
『ピカ!』
スフレとピカは気合を入れて返事をする。
「それで何をするの?」
「ピカに新しいワザを覚えさせるんだ。そうすればやれる事が増えるし、今よりは戦いの幅が広がるし、どう戦えばいいかも見えてくるかもしれない。」
「そうすれば、私たちもっと強くなれんですか?」
「それはスフレとピカ次第だろうな。でも今よりは少しは前に進めると思う。それでもやるか?」
「やる!ピカのやりたい戦い方ができるようになるなら頑張る。」
『ピカ!』
スフレとピカは明るく答えた。
「なら、夜まで時間はあまり無いから、さっさと始めるとするか。」
「お願いします。」
『ピカ!』
「スフレちゃん、ピカ頑張って!」
こうして、スフレとピカの特訓が始まるのだった。