〔1番道路〕
スフレとイルはゲートを出て、ロッタシティの南側にある1番道路に来ていた。
ゲートを出て左側は森になっており、右手には休憩スペースが設けられた広場がある。
まだ朝早いからか広場には人はおらず、数匹のポケモンがのんびりと過ごしている。
そんな1番道路の真ん中に立ち、スフレは大きく伸びをした。
「う〜ん。いい天気だ!」
「うん。絶好の旅日和だね。」
「よし!ここから本格的に旅が始まるんだ。イル、張り切って行くよ!」
そう言って、スフレが足を前に出そうとすると、草むらから飛び出して来た何かに飛び付かれ、押し倒された。
「きゃあ!?」
「スフレちゃん!?」
イルが倒れたスフレの方を向くと、オレンジ色の身体に黒い縞模様の付いた、犬ようなポケモンがスフレの上にのしかかっていた。
「スフレちゃん、大丈夫?」
「もう、何なのわぷっ!」
スフレが身体を起こそうとすると、犬のようなポケモンは、頭をスフレに擦り付けてきた。
「わっ!ちょっとくすぐったいよ!あっ、でも毛並みがフサフサで気持ちいいかも。」
(スフレちゃん、楽しそうにしてるから大丈夫そうかな?)
スフレも飛びついたポケモンをモフり始めたので、イルはリュックから図鑑を取り出して、飛びついてきたポケモンについて調べ始めた。
「え〜と、名前はガーディ、こいぬポケモン、ほのおタイプで、とても人懐っこいポケモンみたい。」
「それは今、すごい実感してる。」
スフレはガーディの頭を撫でながら答えた。
ガーディは大人しく撫でられながら尻尾を振っている。
「スフレちゃん、この子に懐かれてるみたいだね。」
「それはいいけど、どうしようかな。」
「スフレちゃん、ゲットしないの?」
イルの言葉にスフレはハッとしたように答えた。
「そっか、ゲットしてもいいんだ!」
「忘れてたんだね。」
イルが苦笑していると、スフレは空のモンスターボールを取り出す。
ガーディは、スフレの様子に気づいたのか、スフレから離れて距離を取り様子を見ている。
「あ、離れちゃった。」
「でも逃げてないし、大丈夫だよ。」
「それもそうだね。よし!いっくよ〜。」
スフレは気合を入れてモンスターボールを投げた。
しかし、ガーディは器用にスイッチを避けて、モンスターボールを咥えた。
「え!そんなのありなの!」
「器用にキャッチしたね。」
スフレとイルが驚いていると、ガーディはスフレの足元にモンスターボールを置いて、先程いた場所に戻って一言鳴く。
「くっそ〜!もう一回!諦めないんだから!」
「スフレちゃん、頑張って!」
その後、スフレは何度もモンスターボールを投げたが、ガーディに全てキャッチされた。
スフレは疲れてしゃがみ込み、ガーディはモンスターボールを足元に置いて、スフレの様子を見ている。
「全然捕まんないよ〜。」
「なんか、遊んでもらってると勘違いしてるみたいだね。」
「でもここで諦めるのは悔しいし。」
「バトルすればゲットしやすくなるんじゃない?」
「そうだった!バトルすればいいだ!いくよ、ピカ!」
勢いよく立ち上がったスフレは、ピカチュウのピカを出す。
「ピカ、あのガーディをゲットするよ。」
『ピカ!』
ボールから出たピカは戦闘体勢をとり、ガーディと対峙する。
しかし、ガーディは欠伸をすると、足元のモンスターボールを咥えて、林の方に早足で歩いて行く。
「あ!逃げちゃった。」
イルが驚いていると、スフレは急いで追いかけ始めた。
「ちょっと待って!ここで逃げないでよ!せめてモンスターボールは置いて行ってよ!」
『ピカ!』
「スフレちゃん!?待ってよ!」
ガーディは気にせず森の中に入り、スフレとピカもガーディを追いかけて森へと入って行った。
イルはイーブイのブイを出して、少し遅れてスフレを追いかけた。
「ガーディ、どこに行っちゃったんだろう?」
『ピ〜カ〜。』
ガーディを見失ってしまったスフレとピカは、周囲を確認しながら林を進んでいた。
『ピカピ〜。』
「そんな呆れた目で見ないでよ。もうちょっと探したら戻るから大丈夫だよ。」
『ピカ〜。』(ため息)
そう会話しながら歩いていた2人は、前方の木々の間から強い光が差し込んできているのに気がついた。
「もしかして森を抜けれるかも、ピカ行ってみよう!」
『ピカ!』
スフレとピカが森を抜けると、あまりの眩しさに咄嗟に目を閉じてしまった。スフレとピカはゆっくりと目を開ける。
「うわぁ〜〜。」
『ピカァ〜〜。』
目を開けたスフレとピカは思わず感嘆の声を上げた。
2人の目の前には見渡す限りの湖が広がっていた。
どこまでも水平線の続く湖の水面は陽の光を反射しキラキラと輝いており、時時折水ポケモン達が顔を覗かせている。
湖から吹く穏やかな風が、波の音や水面近くを飛ぶ鳥ポケモン達の声を耳に運んできた。
そんな雄大な光景をスフレとピカはただ呆然と見つめていた。
スフレとピカが目の前の光景に目を奪われていると、背後の茂みからイーブイが飛び出してきた。
イーブイはスフレとピカを見つけると、後ろを振り向き声を上げた。
『ブイ!』
「ブイ、スフレちゃん達いたの?」
ブイの声に答えながら、同じように茂みからイルが出てきた。
イルはスフレの姿を確認すると、ブイにお礼言い、スフレに近づき声を掛けた。
「ブイ、見つけてくれてありがとう。」
『ブイブイ!』
「スフレちゃん、見つかって良かったよ。」
「・・・。」
「スフレちゃん?」
イルに気付いていないのか、ただ立ち尽くしているスフレに今度は話し掛けながら肩に手を置いた。
「スフレちゃん、大丈夫?」
「うひゃー!?」
『ピカ!?』
「わっ!?」
飛び上がって驚いたスフレと、その声に驚いたピカはイルとブイの方を向いた。
「びっくりした〜。イル、いつの間にいたの?」
「ご、ごめんね。驚かすつもりはなかったんだけど。」
「別にいいよ。私が気づかなかっただけなんだから。」
「ところで、声を掛けても気づかなかったみたいだけど何かあったの?」
「別に、この景色に見惚れちゃってただけだよ。」
そう言って再び湖の方を向いたスフレの隣にイルは移動し湖を見る。
「すごい景色だよね。ねえイル、この湖って。」
「うん。ここがフラウ地方のシンボルでもあるエフロ湖だよ。」
「やっぱりそうなんだ。大きいのは知ってたけど、想像よりずっと大きな湖だった。そういえば、あの湖の真ん中ぐらいに薄っすらと見えるお城みたいなのってなんなの?」
そう言ってスフレは指を差した。
イルがスフレの指指す方をよく見ると、確かに城のような建物が見えていた。
「スフレちゃんよく見えたね。あれはレスト城だよ。」
「レスト城?」
「うん。エフロ湖の中心に島があって、そこの町に何百年も昔に建てられたお城なんだよ。」
「へえ、じゃああそこに町があるんだ。」
「うん、町の名前はレストタウンっていって私たちの旅の最後の目的地になる場所だよ。」
「え?どう言う事?」
「レストタウンの、正確にはレスト城に建てられたスタジアムで、ポケモンリーグが開催されるんだよ。」
「そうなんだ、あの場所にポケモンリーグが…。」
『ピカ。』
そう言うと、スフレは改めてレスト城に目を向ける。イルも同じようにレスト城を静かに見つめるのだった。
しばらくレスト城を見ていたスフレはイルに話し掛ける。
「ねぇ、イル。」
「何?」
「あたし今すっごいドキドキしてる。」
「え?」
「だって旅に出たばかりで、こんなにすごい景色を見ることができたんだよ。これから先もっと色んな場所で色んな景色見たり、色んな人やポケモンに出会えると思うとドキドキが止まらないよ!」
「うん。そうだね。」
イルがうなずくと、スフレはイルに質問する。
「そういえば今更なんだけどさ、イルって旅の目的とかある?」
イルは答えにくそうに答える。
「別に目的とかはないんだ。」
「そうなの?」
「うん。お兄ちゃんからよく旅の話を聞いていたから旅をしたいとは思っていただけなんだ。スフレちゃんみたいにポケモンリーグに出るみたいな目標があった方がいいかなとは思うんだけどね。」
「別に気にしなくていいと思うよ。」
「え?」
「私だって別にポケモンリーグで優勝したいと思って旅をしようと思ってなかったし。」
「そうなの?」
スフレの答えにイルは思わず聞き返す。
「うん。お母さんが言うには、目標なんて旅をしてれば自然と見つかるものだから、無理に決めなくていいんだって。でも、ただ目的もなくフラフラと旅をしていてもメリハリが無い旅になるかもしれないから、とりあえず何でもいいから目的を作って旅をしなさいって言われたんだ。」
「だからポケモンリーグを目標にしたんだ。」
「まあ、目指すからには本気で目指すつもりではいるけどね。」
「そうなんだ。」
スフレは何かを決したように話を続ける。
「ねえイル。特にやりたい事がないんだったら一緒にポケモンリーグを目指さない?」
「えっ?」
「ほら今回はタッグバトルリーグも開催されるみたいだから、2人で目標にするにはちょうど良いと思うんだ。それに一緒の目標を持って旅をした方がきっと楽しいよ。」
「私でいいの?」
「イルだからいいんだよ!イルと一緒ならきっと優勝できると思うんだ!だからあたしとタッグを組んでくれない?」
そう言うとスフレは握手を求めるように右手を差し出す。
イルはスフレの顔と差し出された右手を交互に見てから答えた。
「うん、よろしくねスフレちゃん。」
「ありがとう!イル!」
そう言ってイルが手を握ろうとすると、スフレはその前にイルに抱きついてお礼をいった。
「頑張ろうね!イル!」
(お礼を言うのはこっち方だよ。誘ってくれてありがとう、スフレちゃん。)
イルは突然の事で驚いたようだが、すぐに微笑んだ。
その様子をピカとブイは2人の足元で嬉しそうに2人を見ていた。
〔1番道路〕
イルとスフレは森を抜け1番道路に戻ってきた。
「ポケモン図鑑のおかげで迷わず戻ってくる事ができたね。」
「タウンマップとかカメラの機能もついているから、すごい便利だよ。」
スフレが話しかけるとイルはポケモン図鑑を鞄にしまいながら答える。
「大きいから持ち運ぶのには大変そうだね。」
「きっと慣れてくれば気にならないと思うよ。そろそろボーツの森につくよ。」
「次の町に行くにはその森を抜けないとダメなんだよね。ガイドブックに迷いやすいって書いてた気がするから、気をつけないとね。」
「ポケモン図鑑の地図もあるしきっと大丈夫だよ。」
2人がそんな話をしながら歩いているとボーツの森の入り口が見えて来た。
するとイルは森の入り口の前で見覚えのあるポケモンが座っているのを見つける。そのポケモン、ガーディの足元にはモンスターボールが落ちていた。
「ねえスフレちゃん、あそこにいるポケモンって。」
「あ、さっきのガーディ。すっかり忘れてた。」
「忘れてたんだ…。」
イルが苦笑しているとスフレはガーディの前まで歩いていき、立ち止まって話しかける。
ガーディはスフレを見て嬉しそうに尻尾を振っている。
「あたしたちのことを待ってたの?でも、あたしたちもう行かないといけないから遊んであげれないんだ。そのモンスターボールはあげるから元気でね。」
そう言ってスフレが去ろうとすると、ガーディは足元に置いてあるモンスターボールのボタンを押した。ガーディがボールに吸い込まれ、ボタンが赤く点滅し始める。
イルとスフレが驚いていると、ゲットの完了を伝えるようにボタンの点滅が消えた。
「ちょっと何しているの!?」
スフレは慌ててモンスターボールを拾い上げる。モンスターボールにはガーディが咥えた時についたであろう歯型が付いていた。
スフレはガーディをモンスターボールから出すと、ガーディはスフレの足に身体を擦り付けて甘えてきた。
「何で急にモンスターボールに入っちゃったの!?ゲットされたくなかったんじゃ。」
スフレが困惑していると、イルがスフレに話しかける。
「きっと、スフレちゃんと遊びたかったんじゃないかな?」
「遊ぶ?」
「うん。投げたモンスターボールをキャッチしたり、見失っちゃったけど追いかけっこしたりして、それでスフレちゃんを好きになったから自分からゲットされたんじゃないかな?」
「そうなの?」
イルの言葉を聞いて、スフレはガーディに問いかけると、ガーディは肯定するように『ワン!』と鳴いた。
「そっか、じゃあこれからよろしくね。ガーディ!」
『ワン!』
「よかったね、スフレちゃん。」
「よ〜し。新しい仲間も増えたし、この調子で一気にこの森を抜けるんだから!行くよ!イル!ガーディ!」
「うん。」
『ワン!』
こうして新たな仲間を加えたイルとスフレは、デーツの森へと足を踏み入れるのであった。
色々忙しかったのと、書くのが遅いせいで一年以上経ってしまった。(^_^;)
もっと早く投稿できるように頑張ろうと思います。