魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その10 「事情を説明してもらおうか?」

 

 

 真紅の月が照らす、動物病院。

 

 その一部を破壊された病院の残骸を踏み潰しながら、ゆっくりと姉妹達の方へと向かってくる、黒い異形のナニか。

 

 歩み寄りながら、その姿は少しずつ形を変えていく。

 

 最終的な姿は、太ったケンタウロス……上半身が人間、下半身が馬の亜人に見えない事もない。

 

 その身の禍々しさと、大型トラック並の大きさの関係で、ケンタウロスとは程遠いが。

 

「な、何々!? 一体何がどうなってるの!?」

 

 ジリジリとソレから離れながらも、なのはは腕の中のフェレットとソレを交互に見ている。

 

「姉さん、先に逃げて下さい」

 

 なのはを背後に庇いながら、無駄とは思いつつも姉を促すルティシア。

 

「何言ってるの! ルティちゃんを置いて行くわけにはいかないよ!」

 

 やはり、と思いつつもルティシアはソレから眼を離さない。

 

「(当時と姿も異なり、戦闘力もかなり衰えているようですが……ガンビットの計測データが、セイティーグの保管データと一致している。やはりこれは、神話の時代に倒され、封印されたという高位魔族)姉さん、先に外へ出て下さい」

 

 ルティシアもジリジリと下がりながら、一人と一匹を先に横の門から敷地の外へと向かわせる。

 

「(大貴族が一体、“大地”のアラケス。姉さんの前で戦うしかありませんか……しかし)」

 

「あの、キミ達は魔導師ではないのですか?」

 

「とりあえず、魔法とかマドウシ? って何? という状態なんだけど」

 

 一人と一匹は話を続けているが、敷地を出てすぐの場所から逃げる気配は無い。

 

 ソレは目の前で立ち塞がっている邪魔者と、横に移動した危険なモノを持った敵を交互に見る。

 

 先に狙う敵が定まったのか、視線は邪魔者へ。

 

 その視線の意味を悟ったルティシアも、姿勢を低く身構える。

 

「血を流せ……!」

 

 赤く光る眼を細め、唸るように言葉を発する。

 

 四足の脚で地を蹴りつけると、ルティシアにアラケスが飛びかかる。

 

 横っ飛びで、暴風のようなそれを避けたルティシア。病院の外、なのは達の前へと転がり出る。

 

 アラケスはそのまま正面にあった敷居の壁を破壊し、辺りに粉砕された瓦礫を撒き散らす。

 

 体勢を立て直しながらその様を見ていたルティシアは、背後のなのはに振り返って言った。

 

「しばらくの間だけ、囮になります。姉さんはその子を連れて、先に逃げて下さい」

 

「イヤ!」

 

「言い方を変えます。父様や兄様を呼んできて下さい。二人とも、今は携帯を置いてきてしまっています」

 

 そう言われても、なのははまだ戸惑っている。

 

 身体に乗った瓦礫をふるい落としながら、アラケスはこちらへと向き直っていた。

 

「でも……!」

 

「少しの間だけです。私もすぐ逃げます。フェレットさん、姉さんをお願いします」

 

「絶対、すぐ追いかけてきてね! 約束なの!」

 

「う、うん」

 

 二人が頷いた所で、アラケスが再び突進する。

 

 姉妹は左右――なのはは家の方へ、ルティシアはその反対へと避けたために、アラケスは正面の家屋へ自らの身体をぶちかましていく。

 

 なのはが駆けていくのを見届けてから、ルティシアは膝をつく。

 

「一撃も受けていないのに、体が……。アラケスの瘴気に、麻痺の効果があるというデータは無かったはずですが」

 

 対時したときから、ルティシアは自身の体に異変が起きた事に気付いていた。

 

 体の数ヶ所が痺れるような感覚を。

 

 なのはがフェレットと話している間にこっそり唱えた、〈麻痺治療〉(キュアパラライズ)も効果は無かった。

 

 焦りはあった。

 

 しかし、姉を逃がすまではと平然を装っていたのだ。

 

 家屋の大部分を破壊しながら、アラケスが道路へ飛び出してきた。

 

 射抜くような視線は、邪魔者へ。

 

 右手に闇が蠢き、黒い槍の形に。

 

 先端をうずくまっている少女に向けると、低く身構え――

 

「ごめんなさい、お言葉に甘えます。よろしくお願いします。“女神の護りの盾”」

 

 ルティシアの首元から黄金の光が吹き上がる。

 

 アラケスは一撃で終わらせるとばかりに、地面を抉りながら突進!

 

 その体格と速さ相応の重い一撃を繰り出す。

 

 それを下から突き上げてアラケスごと上空に弾き飛ばす、片方の角が欠けている黄金の牛。

 

牡牛座(タウラス)

 

 傷だらけの黄金の牛。

 

 しかし、麻痺の少女を護るその姿は雄々しく。

 

 天高く打ち上げられたアラケスは、ルティシアの十メートルほど後方の道路へと落下する。

 

 近くの家屋の壁や土砂が叩きつけられた衝撃で宙を舞い、土煙が巻き上がる。

 

 黄金の牛は、ゆっくりと歩みを進める。

 

 ルティシアの後方、すなわちアラケスの方へ。

 

 やがて、その体が黄金に輝き人型へと変わる。

 

 他の魚座や蟹座の聖衣同様、牡牛座の聖衣もまた幾つか足りない部位があった。

 

 しかし、威風堂々とアラケスとルティシアの中間地点まで進むと、そこで歩みを止める。

 

 その佇まいから、『ここから先には進ません』という強い意思すら感じさせる。

 

 麻痺で動けない身体であっても、タウラスへと自分の小宇宙(コスモ)を送るルティシア。

 

 一人と一体が黄金の闘気に包まれていくのを目印にして、槍を振り上げたアラケスが突進!

 

 右手に持った槍を大きく振り回し始める。

 

 タウラスは、それを悠然と腕組みをして待ち構えている。

 

 突風のようにアラケスが迫ってくる風圧で、タウラスが身に付けている純白のマントがはためき……

 

 激しい衝撃と共に突き出された槍は、その黄金の身体に触れるか触れないかという位置で、穂先が止まっていた。

 

 突進からやや遅れて両サイドのブロック塀が次々と砕け散っていくが、アラケスがどんなに力を込めても槍はピクリとも動かない。

 

 やがて、アラケスの体は先程と同じように上空へと打ち上げられる。

 

 だが、先程と違うのは上空でアラケスが体勢を立て直したこと。

 

 右手に持った槍を、大きく振りかぶる。

 

 何かを閃いたのか、自らの重みと、自由落下の速度も合わせた重い重い一撃(ベアクラッシュ)を。

 

 落下地点でこちらを待ち構えている、黄金の戦士を粉砕するべく。

 

 地上から上空へと、見下ろすかのような威圧を伴う視線を向けている、憎き相手を完全に破砕するために。

 

 アラケスは空を駆けるかのように加速し、一気に落下する。

 

「血を……流せ!!」

 

 タウラスは依然腕組みをしたまま、それを見つめている。

 

 そして、直撃の寸前に腕組みを解いた。

 

 黄金の闘気は、噴火の如く大きく吹き上がり。

 

 辺りに、閃光と震動、爆音にも近い衝撃が炸裂した。

 

 電信柱や家屋に車、全てが吹き飛んで、クレーター状に地面が大きく抉れていた。

 

 クレーター内には、肉体が半分以上削れているアラケスと、ルティシアを左手で抱き抱えたタウラスが向かい合っていた。

 

 その時。

 

 高町家がある方角から桜色の光が立ち上った。

 

 それは一度だけ、魔力感知で感じたことがあるものだった。

 

「この魔力波動は……姉さん? 多いとは思いましたが、まさか人間でこれほどとは……」

 

「……!」

 

 そちらを見たアラケスは、傷付いた身もそのままに空中を駆けていく。

 

「これは……麻痺が治りました」

 

 アラケスがその場から去ると同時に、ルティシアの身を蝕んでいた麻痺も消えた。

 

「急がないといけませんね」

 

 別れた際、なのはを護らせているガンビットとは別に、亜空庫から取り出したもう一基をこの場に残す。

 

 姉の元に向かおうとするルティシアの横に、乗れと言わんばかりに牛型になっているタウラスが寄り添う。

 

 感謝を述べその背に跨がると、黄金の牛は光となって駆け出した。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 ルティシアの言葉を受け入れ、家路を急いでいたなのは。

 

 その心中を占めていたのは、後悔だった。

 

(妹の、姉として守らないといけないルティちゃんを置いて、自分だけが逃げてきてしまった)

 

(二人で逃げられる、もっと良い方法があったのではないだろうか?)

 

 それを繰り返し、考えていた。

 

 運動は苦手と自負する自分と違って、ルティシアの運動神経は抜群だ。

 

 一緒に逃げるよりは、先に自分を逃がして後から追いかける方がいい。

 

 それは分かる。分かるが、分かりたくない。

 

 ルティシアは度々こういう感じの発言をし、それを聞いたアリサが激しく憤る。

 

『どうしてあんたはそうなのよ!? みんなで出来る何かを考えなさい!』

 

『しかし、これが一番ベストだと思います。私のことは気にせず』

 

 無表情に淡々と。

 

 自らの話し方のように必要なことだけを、言葉少なに。

 

 最近ではその回数も減ってきていたが、根本的な本質は何も変わっていなかった。

 わたしも力になりたいのに!

 

 助けてあげたいのに!

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 家と病院の往復ダッシュはなのはには辛く、ついにその足が止まってしまった。

 

 片手はフェレットを胸に抱いたまま、片手を壁に付けて荒く乱れた息を吐いている。

 

「あの……」

 

「な、何?」

 

 ゼーハー……と、息を切らしている少女の腕の中から、腹周りに包帯を巻いたフェレットが飛び降りた。

 

「すみません、巻き込んでしまって……」

 

「あ、ううん。でも、わたしを呼んでいたのはやっぱり……?」

 

「はい、ボクです」

 

 なのはの問いに、フェレットは項垂れながらもしっかり頷く。

 

「ボクの事情で、どうしても助けが必要で……呼びかけていました」

 

「そっか……」

 

 大きな震動がした。

 

 逃げてきた方から。

 

「ねぇ……」

 

 妹がいる方向を振り返りながら、なのはが口を開く。

 

「さっき言っていた魔法とかマドウシ……? の力があれば、ルティちゃんを助けられる?」

 

「はい。ボクの〈声〉が聴こえたキミには、その才能がある。でも、これ以上キミ達姉妹を巻き込むわけにはいきません。だから、今からボクが妹さんを助けに戻るから、キミは家族の所へ……」

 

 項垂れていた顔を上げて喋るフェレットを、なのははそっと制する。

 

 

「ルティちゃんは、誰かのために力になりたいって言ってた。わたしもそうしたい。それが出来るのなら、教えて? どうすれば良いの?」

 

 強い決意と意思を瞳に込めて。

 

 何かを言おうとしたフェレットも、その眼を見て言葉を飲み込む。

 

 やがて、フェレットは首にぶら下げていた赤い宝石を手に取ると、なのはに差し出す。

 

「これを掌に乗せて。心を落ち着かせて、ボクが言うことを繰り返して」

 

 受け取ったなのはは、言われた通りに宝石を掌に乗せて、眼を閉じた。

 

 父や兄、姉が道場でそうしているように。

 

 時折、似たようなことを妹がしているように。

 

 その時に四人が言っていたように、心を落ち着かせて、精神を研ぎ澄ませる。

 

「いくよ。我、使命を受けし者なり」

 

「我……使命を受けし者なり」

 

「契約のもと、その力を解き放て」

 

「契約のもと、その力を解き放て」

 

「風は空に、星は天に」

「風は空に、星は天に」

 

 二人の力ある言葉にあわせて、赤い宝石からも光が放たれ始める。

 

「そして、不屈の心は」

「そして、不屈の心は」

 

「「この胸に! この手に魔法を!」」

 

 暖かな光を放つ赤い宝石を天へと掲げながら。

 

「「レイジングハート、セットアップ!!」」

 

《stand by ready.set up》

 

 赤い宝石――レイジングハートの《声》が終わると、なのはから桜色の魔力光が吹き上がる。

 

 それは、夜空を彩る真紅の月すら霞むほどの輝きだった。

 

「何て魔力だ……」

 

 フェレットがそれを見て思わず呟く。

 

 が、すぐに自分から吹き上がる魔力光に慌てているなのはへと、意識を向け直した。

 

 

「落ち着いて、イメージして。キミの魔力を制御する魔法の杖を。キミの身を守る強い衣服の姿を」

 

「きゅ……急にそんなこと言われても……!? えーと……えーと!?」

 

 慌てながらも、必死に考える。

 

 杖……。

 

 衣服……。

 

 そして……自分を護ろうとした後ろ姿。

 

「とりあえず、これで!」

 

 屋根を順に蹴破りながら黒いナニかが迫ってくる。

 

 しかし、その巨体が急にバランスを崩して真横へと転落していく。

 

 レイジングハートが光に包まれ、赤い宝石を冠する杖の姿へと。

 

 なのはの着ていた服が消えて、イメージした服――小学校の制服に近いソレへと。

 

 その背に、濃紺のマントを羽織って。

 

 吹き上がっていた魔力光も収まっている。

 

「ふぇ!?」

 

 成功だ! と言っているフェレットの横で、なのはは(自分がイメージしたとはいえ)手に持った杖、変化した衣服と羽織ったマントを見て再度パニック状態に。

 

 そして、近くの壁を粉砕しながらと黒い何かが道路へと躍り出てくる。

 

 ただ、なのは達が最初に見たときよりもその姿は傷付いており、一回り小さくなっていた。

 

 それでも、なのはにとって恐怖の対象であることには代わり無いが。

 

 小虫を払うように槍や手を振り回しており、やがて重い音と共に近くの窓ガラスが砕け散った。

 

「血を…流せ…」

 

 そう言って迫ってくるその姿に、なのはは怯えすくむ。

 

 そして……

 

「危ない!」

 

 ソレが突進しようと身構え、気付いたフェレットが声をあげた時……

 

 ソレの右半身を突き破って、黄金の牛が飛び込んできた。

 

「え?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 三者から口から同音の声が漏れた。

 

(妹を助けようと思っていたら、妹を乗せた黄金の牛が突っ込んできたの)

 

「姉さん? 大丈夫ですか?」

 

 何事もなかったかのように、牛から降りたルティシアはいつもと変わらぬ態度で、なのはに話しかけていた。

 

 再び彼女の体を麻痺が蝕んでいたが、気力で奮い立たせる。

 

「色々、常識が駄目かもしれないの」

 

 その姉からの返事は虚ろなものであったが。

 

「あ、で、でもチャンスです。今の内に、弱っている内にあれを……ジュエルシードが生み出した思念体の封印を!」

 

「(ジュエルシードの思念体……ジュエルシードというのが、あれの核――コアみたいなモノなのでしょうか?)」

 

 フェレットの叫んだ言葉に含まれていたその名称は、ルティシアには聞き覚えのない物だった。

 

「えと、よく分からないんだけど、どうすれば良いの?」

 

 なおも突進しようとするアラケスを、黄金の牛が横にはね飛ばす。

 

 塀を突き破って、誰かの家の壁が壊される。

 

「心を澄ませて。キミの心に浮かんでくるはず。必要な呪文が」

 

 フェレットの声を聞いたなのはが、レイジングハートを起動した時と同じように、眼を閉じて集中し始めた。

 

 心の声を聞くために。

 

 ルティシアもその様子をジッと見つめる。

 

 右手は、気付かれないように亜空庫の氷雨の柄を掴んでいた。

 

 やがて、眼を開けたなのはは杖を構えて、言葉を紡ぐ。

 

「リリカル、マジカル、ジュエルシード封印!」

 

《sealing mode.set up.stand by ready》

 

 杖から放たれる魔力が帯となって、思念体へ。

 

 帯が到達する前に、黄金の牛はアラケスから離れる。

 

 帯はそのまま、もがく思念体をがんじがらめに拘束していく。

 

 拘束された思念体の額には、【 XXI 】の文字が浮かび上がっていた。

 

「リリカル、マジカル。シリアル21、封印!」

 

 なのはが呪文を唱え終わると、思念体の姿が崩れていく。

 

「血……な……せ」

 

 それがアラケスの最期の言葉となり、消えた跡には青い小さな宝石が転がっていた。

 

「(あれがジュエルシードですか)」

 

 麻痺が完全に消えたことをこっそり確認しながらも、青い宝石――ジュエルシードを見る。

 

 手のひらに乗る位の、菱形のクリスタル。

 

「さあ。レイジングハートで、ジュエルシードに触れてみて」

 

「う、うん」

 

 なのはがレイジングハートを向けると、ジュエルシードがフワリと浮かび上がり、やがてレイジングハートの中へと収納されていった。

 

 それを確認すると黄金の牛は走りだし、やがて黄金の光に包まれて空の彼方へ飛んでいってしまった。

 

 真紅の月も消え去り、辺りは、元の夜の街の姿を取り戻した。

 

 なのはの衣服や杖も、それぞれ元の服と赤い宝石へと。

 

 あれだけ破壊されたというのに、元の状態のままの道路や家屋を見て、なのはは首を傾げる。

 

「あれはあの牛が作っていたのかな……」

 

「う、うーん」

 

 訊かれたフェレットもまた、首を捻る。

 

「ルティちゃん、無事で本当に良かった! 色々心配とか、後悔もしたんだよ?」

 

「ごめんなさい。危ない所を、あの牛の方に助けてもらいました」

 

 辛そうな表情のなのはに向けて、ルティシアも素直に頭を下げる。

 

 ちなみに、タウラスは既にルティシアのネックレスに戻っていた。

 

「そういえば、あの牛さんはどこから来たの?」

 

「分かりません、気が付いたら傍らに」

 

「そっか」

 

 帰り道。

 

 怪我をしているのに無理をしたせいか、気を失ってしまったフェレットを抱えたなのはが、妹に疑問を口にしていた。

 

 

 それにはいつも通りの淡々とした口調で答えながら、ルティシアは病院に残したガンビットに意識を向けていた。

 

 月匣を張る前に破壊された、動物病院(の一部)を修理するために。

 

 ガンビットを目に、〈修復〉(レスト)の魔法を使う。

 

 元々魔晶石の消費の激しい魔法のため、遠隔作業でその消費はさらに大きくなるが、これは必要と判断したためだ。

 

「(一部だけで良かったです。全壊でしたら、私の魔晶石量では一度には直せませんでした)」

 

「目が覚めたら、この子から色々とお話を聞かせてもらおう?」

 

「そうですね」

 

 家路を行く姉妹を、月は優しく見守っていた。

 

「まぁ……」

 

「うぅ……」

 

「こうなるでしょうね」

 

 帰ってきた二人を、門の前で恭也が待ち構えていた。

 

「さて、二人共? ちょっとと言うわりには長かった、夜間外出の事情を説明してもらおうか?」

 

「えと、その……」

 

 言葉遣いこそいつもと変わらないが、その声音からは、兄の心配からくる静かな怒りがヒシヒシと感じられる。

 

 それに畏縮してしまったなのはは、どう説明しようか考えがまとまらないでいた。

 

「科学者的だと、事情の説明のためには時間と予算を戴ければと答えるのでしょうが」

 

「また何の影響を受けたのか知らないが、今は逆効果だぞ?」

 

「そうですね」

 

 こちらはこちらで、どう説明しようか悩むルティシア。

 

 そして。

 

「説明できないなら、ゆっくり道場で説教かな。正座で」

 

「ふぇ!?」

 

「はい、兄様」

 

 恭也の言葉になのはを悲鳴を上げて、あっさりと説明を諦めたルティシアは道場へと向かう。

 

「(ルティちゃん、諦めが早すぎるよ!?)」

 

 簡単に諦めてしまった妹に、なのはは心の中で叫び声を上げていた。

 

「あー、可愛い!」

 

 結局良い説明を思い付けず、妹の後を追おうとしたなのは。

 

 その背後から聞こえてきた歓声は、こっそり忍び寄っていた姉の美由希だった。

 

 なのはが後ろ手に隠していたフェレット(意識を取り戻していた)を手にしている。

 

「この子が心配で見に行っていたのね」

 

「え、あ、う、はい。」

 

 しどろもどろになりつつも、美由希と恭也の顔を何度も見ながら頷く。

 

「気持ちは分からんでも無いが、行く前にせめて説明くらいは」

 

 困惑顔の兄を、姉がとりなしてくれている。

 

「まあ、良いじゃない。普段良い子のなのはなんだし。もうこういう事はしないわよね?」

 

「う、うん」

 

「ほら。ね、恭ちゃん?」

 

「……分かった。けど、もうこれっきりにしてくれよ?」

 

 そう言って、恭也が折れた。

 

「注意はなの姉さんだけだったのですか?」

 

 道場にさっさと向かっていったものの、誰も来ないのを不思議に思い、戻ってきたようだ。

 

「「だってなのはに引っ張って行かれた(のよね)(んだろ)?」」

 

 そのルティシアからの質問に、兄姉は口を揃えて答える。

 

「ふぇ!? どうして!?」

 

「日頃の行いと、イメージでしょうか?」

 

 日頃の行いや発言は、実に大事である。

 

「なるほどー」

 

 ルティシアの言葉に、なのはが輝かんばかりの笑顔を向けた。

 

 先に部屋へフェレットを連れて上がった後、汚れを落としてきますと言うルティシアに、なのはも付いていく。

 

 しばらくして部屋に帰ってきたなのはが、ベッドの上にルティシアを放り投げた。

 

 ベッドにうつ伏せになったまま、ピクリとも動かない。

 

「ただいま。ごめんね? 待たせちゃって」

 

「あ、ううん。それは良いんだけど……妹さん、大丈夫?」

 

 

「大丈夫大丈夫。スキンシップしただけだから。それに、この状態でも聞いているのがルティちゃんだから」

 

「そ、そうなんだ」

 

 フェレットはスッキリした表情のなのはと、力尽きているルティシアを交互に見ながら、そう答えるしかなかった。

 

 なのははベッドに座り――それとなく、横になっているルティシアにもたれる。

 

「じゃ、自己紹介していいかな?」

 

「あ、うん」

 

 フェレットの返事を聞くと、なのははコホンと咳払い。

 

「わたしは高町なのは。小学校三年生。この子は妹のルティシア。わたしのことは、家族や親しい友達はなのはって呼ぶよ」

 

「ボクは、ユーノ・スクライアです。ユーノって呼んで下さい」

 

 そして、ユーノは項垂れる。

 

「すみません、キミ達を巻き込んでしまって」

 

「それはもう、気にしないで? わたしは気にしてないし」

 

「命の危機があったのですから、少しは気にし」

 

「はい、ルティちゃんは静かに話を聞こうね?」

 

 なのはは後ろ手に、ユーノに聞こえない程度の小声で呟く妹の口を塞いだ。

 

 そして、ユーノは事情語り始める。

 

 自分はこことは別の世界からきたこと。

 

 ユーノがジュエルシードを発掘したこと。

 

 それの輸送中に事故があり、この世界にばらまかれてしまったこと。

 

 回収するためにここに来たのだが、自分は失敗してしまったこと。

 

 そして、〈念波〉で呼びかけたことを。

 

 説明を聞いた後、なのはは強い意志を込めた眼でユーノを見つめながら言った。

 

「そういうことなら、わたし『達』はユーノ君に協力するよ」

 

「(私は強制ですか)」

 

 もはや、諦めて溜息を吐くしかない。

 

「え、でも、そういうわけにはいきません。これ以上、二人を巻き込むわけには……」

 

「諦めて下さい、ユーノ」

 

 なのはを止めようとするユーノだが、それを、ベッドに伏せたままのルティシアが止めた。

 

「でも……」

 

「言い出した姉さんは、もう止まりません」

 

 キッパリと言い切る。

 

「ルティちゃん。何か別の意味で聞こえるよ?」

 

 それはそれとして、となのはは咳払い。

 

「ユーノ君が困っているなら放っておけないよ。ジュエルシード探しは、わたし『達』も手伝うから」

 

「……すみません、ありがとうございます」

 

「うん!」

 

 悩みながらも頭を下げるユーノに、なのはは笑顔を浮かべる。

 

「(危険に合わせたくはなかったのですが、引きそうにはありませんね。あのクラスの危険があるのなら、私も覚悟を決めなくては)」

 

 とりあえず、探すのは明日からということで、就寝。

 

 そして、それぞれにとって大きな転機となった一日は、ようやく終わりを迎えた。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 どことも知れぬ、不思議な空間の中。

 

 ティーカップから投影されていた映像が、光を失って閉ざされる。

 

「とりあえず、スタートかな?」

 

「そうですね。未知と出会い、知り、触れ、その上で先に進む意志を示しました。スタートラインに立ったと見て良いでしょう」

 

 白い清潔なクロスのかかった丸いテーブル。

 

 その上には二人分のティーセットと一緒に、スゴロクのような盤面が置かれていた。

 

 一と書かれたマス目の所には四つの小さな人形があったが、その内の一つはつい先ほど、塵となって消えていった。

 

 一人がティーカップを手に取ると、湯気立つ液体を注ぎ入れる。

 

 黒いシルエットに包まれたまま、少女――あくまでも聞こえる声は――達の会話は続く。

 

「あの子達以外が接触出来ない様にアーちゃんがしたんだし、そうそうあそこで失敗はしないんじゃない?」

 

「いえいえ。貴女が前に持ってきた残留思念が、大健闘をしたかもしれませんよ? そうなっていれば、非力になった番人だけが残っていたでしょうね。もっとも、その時は正気を保ってはいないでしょうが」

 

「そうしたら、また全部壊してやり直そうよ」

 

「気楽に言ってくれていますが、セットするのは私なのですよ? 貴女はもっと……」

 

「あー……うんうん、気を付ける気を付ける」

 

「はぁ……全くそう聞こえない返事ですね」

 

「さ、次は何かな?」

 

「うふふ。では、これ位は乗り越えてもらいましょうか。いつまでも“そのまま”では、私達の求めるものにはなり得ないでしょうしね」

 

 そう言って、三つ並んだ人形の内の二つに割り込ませるように、新たな人形を置く。

 

 割り込まれる形になった人形は、それぞれ杖と剣を持った女の子に似ていた。

 




 
 
next
 
 
ジュエルシードを求めて探索を始める姉妹とユーノ。

次なるジュエルシードと共に、少女はその時を迎える。
 
 
なのは「お話しようか?」
 
 
 
 
(出典)
 牡牛座の黄金聖衣:聖闘士星矢シリーズより


アラケス:ロマンシング サ・ガ3 より

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