魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その11 「お話しようか?」

 

 

 なのはが〈魔法〉と出会い、知り合ったフェレット――ユーノから事情を聞いた、その日の夜。

 

 慣れない運動や、魔法に恐怖体験と消耗したなのはは、ベッドに横になるとすぐに夢の中へ。

 

 いつもの様にルティシアに引っ付いて眠るなのはだが、その腕は微妙に妹の関節を極めていた。

 

 これは偶然であり、就寝前に暴走車扱いしたこととの因果関係は、恐らく無い……多分。

 

 ユーノも、桃子が用意してくれたバスケットの中で、やはりこちらも夢の中。

 

 部屋に戻る前に、士郎や桃子に外出と帰宅を伝えた際、美由希同様に桃子もユーノの姿を見て歓声を上げていた。

 

 一人と一匹が安らかな寝息をたてている中、ルティシアは一人眠れず、思考の渦の中にいた。

 

 寝返りをした姉が自分の上にいるとか、そのまま右腕の関節を極めているせいではない。

 

 こちらに背中を向けているためその表情は見えないが、なのはは時折クスクスと笑っていた。

 

 楽しい夢でも見ているのだろう。

 

「しかし、最近寝相が酷いですね。安眠出来ているのなら良いのですが、他のものに代えてみた方が良いのでしょうか? 乙女座とか……」

 

 そんなことを呟いていたが、今はそんなことを考える時では無いと、少女は頭を左右に振る。

 

 雲に隠されながらも、月光を頼りに小さなノートにメモを書き連ねる。

 

 ここに来る前は、作業中に他事を考えることなど無かった。

 

 あの時……あの転移事故があってから、少女の思考には常に、“ノイズ”があった。

 

 それは、ただただ訓練している時はともかく、日常生活になると顕著になって表れる。

 

 拠点の医療システムで調べても何の異常もなかったため、問題は無いはずなのだが。

 

 どうにもスッキリしなかった。

 

 数年経ってもこの状態が続いているため、最近では任務を中断して、本国に帰ることも真剣に考えていたほどだ。

 

 不安定な状態での次元転移による、症状の悪化を含むデメリットや、心情の問題で決断には至っていないが。

 

「ふふふ……」

 

「う゛……」

 

 不意になのはの腕が首にかかり、弾みでボールペンが滑って、大きく字が歪んだ。

 

「姉さん、首は止めてください。本当に寝ているのでしょうか?」

 

 何とか姉の手を引き離すと、嘆息する。

 

 先程の戦い。

 

 アラケスとの戦闘で直接対峙していた際、ルティシアの身体は麻痺に近い状態になっていた。

 

 少女は最初、アラケス自身にその力があると思っていた。

 

 魔族が纏う、瘴気のせいなのだと。

 

 しかし、それは違うと判明する。

 

 合流した時に再び麻痺になった少女と違い、なのはやユーノにはその様子が無かったからだ。

 

 思えば最初に対峙した時にも、なのはやユーノからはそんな状態は見られなかった。

 

 回避行動がやっとだった少女と違い、なのははその場から普通に走り去っている。

 

 仮説:魔導師と呼ばれる者達には、瘴気が効かない?

 

 護らないといけない立場だというのに、足手纏いにはなりたくない。

 

 あのクラスのモノが今後も出るというのなら、尚更である。

 

 何のために訓練してきたのかが、分からなくなってくる。

 

 次の疑問。

 

 あの“アラケス”はどこから来たのか。

 

 少女の本国での記憶にあるのは、遥かな昔に倒されて、今は封印されているいうこと。

 

 その封印は神々クラスの力で行われたらしく、少女が転移するまでに破られたことは、一度も無かったはずだった。

 

 事実、昨日のモノは記録のモノより弱く、ジュエルシードの思念体と呼ばれるモノだった。

 

 すると、今度は何故? という疑問が浮上してくる。

 

 ユーノの説明では、ジュエルシードは“他者の願いを叶える特性を持っている”らしい。

 

 強力過ぎるが故に暴走することがある、と。

 

 それ(ジュエルシード)自体も確かに大変な物ではあるが、この場合は誰の願いを叶えたのか? ということだった。

 

 もしくは、封印されているアラケスの思念がたまたまジュエルシードにとり憑いて、という可能性もあるが。

 

 前者であればアラケスを知る何者か、後者であっても上位の魔族やそれに近い存在が、ジュエルシードに関わっているのは間違いなかった。

 

 そして、もう一つ。

 

 ノートとボールペンを亜空庫に片付けながら、ルティシアは確信していることがあった。

 

 この件のどこかで、自分は確実になのはの前で力を使い、知られる事になるということを。

 

 普通の人間ではない、竜造竜人であることを知られて恐怖されたなら、ここを出ることも視野に入れている。

 

「(気になりますし、ジュエルシードの件には関わるとしても、無事に終わればセイティーグに帰還しましょうか。それもまた、社会勉強になるでしょう。怖が……られたままなら……帰りやすい……はず)」

 

 知らず、少女の身体には震えが走っているが、あえてそれとは向き合おうとはしなかった。

 

「――を背けるな。自らの弱さと向き合い、乗り越え――」

 

 そんな、少女の首に姉の腕が巻き付いて……間もなく、意識は闇の中へと墜ちていった。

 

 そして、朝。

 

 目覚めの時を告げる、二台の携帯電話。

 

 布団の中から伸びた腕が一台ずつ止めていく。

 

 ゆっくりと身体を起こしたのは、いつも通りルティシアだった。

 

 彼女はずっと、左手で首をさすっている。

 

「おはよ、ルティシア」

 

「おはようございます、ユーノ」

 

 既にユーノも目覚めており、バスケットの中から姉妹を見ていた。

 

「姉さんも、早く起きて下さい」

 

 痛む右手で揺する。

 

「にゃー……あと、五……じかん」

 

「遅刻します」

 

「朝弱いんだ、なのは」

 

「遊びに行く時や、何かのイベントの時は早いのですが」

 

「あはは、何となく分かるよ」

 

 少しして、ようやくなのはが眼を覚ました。

 

「ふわぁー……おはよ、ルティちゃん、ユーノ君」

 

「おはよ、なのは」

 

 眠い眼をこすり、大きく伸びをしながら挨拶。

 

 姿勢を戻した時、なのははそれに気が付いた。

 

「ねぇ、ルティちゃん聞いて良い?」

 

「あ、ボクも……」

 

 一人と一匹は一度顔を見合わせると、同時に口を開いた。

 

「「何でずっと横を向いてるの?」」

 

「寝相の神秘です」

 

 と、ルティシアは溜息混じりにそう答えた。

 

「もっとユーノ君から色々な話を聞きたいな」

 

 制服に着替えながら(何故かユーノは壁の方を向いていたが)そう言ったなのはに、ユーノは〈念波〉の使い方を教えていた。

 

 魔導師達の魔力の源にして、魔力の行使に必要な器官であるリンカーコア。

 

 それを持つ者だけが行える、離れた相手に言葉を送る基本魔法である。

 

 今はレイジングハートのサポートを受けながらのなのはだが、いずれは自身の力だけでも出来るようになるらしい。

 

「凄い! これで、離れていてもユーノ君とお話出来るね」

 

「そうだね。魔法のこととかボクのこととか、空いている時間に説明するよ。昨夜は疲れていただろうし、ジュエルシードのことも、もう一度」

 

「うん!」

 

 笑顔のなのはの返事を聞いてユーノも嬉しそうだったが、ルティシアの方に残念そうな表情を向ける。

 

「ルティシアとも話せたら良かったんだけど」

 

「こればかりは、仕方がないと思います」

 

 試しても、ルティシアには念波が届かなかったのだ。

 

 これにはなのはも残念そうだった。

 

 よって。

 

「必要なことは、わたしから伝えるね。ずっと一緒だから」

 

 なのはがそう請け負う。

 

 もっとも、その妹は。

 

「(こちらの魔法とは色々違うのですね。それとも、私の魔力の源が魔導師達のリンカーコアとは異なる、魔晶石のせいでしょうか?〈遠話〉の魔法を毎回使うわけにもいかないでしょうし、互換性も含めて考えないといけませんね)」

 

 と考え中で、なのはの話を聞いていなかった。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「あは、あはは! く、首が、戻らないって!」

 

 登校した姉妹に、先に来ていた親友二人から挨拶が飛び……それを見て眼を丸くした友人二人に事情を説明した途端、アリサの笑いが止まらなくなった。

 

「あ、アリサちゃん。笑っちゃ……駄目だよー」

 

「そう言うすずかも、頬がピクピクと痙攣しているのですが」

 

 ひとしきり笑った後、コホンとアリサがわざとらしく咳払いする。

 

「とりあえず、それをどうにかしないとね。ずっとこっちを見られたまんまだと、あたしが授業に集中出来ないし!」

 

「アリサ。普段から集中するほど、あなたはまともに授業を聞いていないと思うのですが」

 

「お黙り!」

 

 そう一喝すると、アリサはルティシアの顔を挟むように両手を添える。

 

「嫌な予感しかしないのですが」

 

「私を信じなさい!」

 

「信じています。心の底から信じていますから、離してくださ」

 

 教室内に、重く鈍い音が響き渡った。

 

 それが聞こえた何人かが顔を上げている。

 

「ま、まぁこれで」

 

「お約束ですね。私が対象であることが非常に残念ですが」

 

 先程までとは、逆方向に向いていた。

 

「ルティちゃん!? アリサちゃん、酷いの!」

 

「大丈夫! 今度は、すずかも手伝いなさい」

 

「う、うん」

 

「いえ、もう放っておいてくれる方がいいと」

 

 教室内に、先よりも重く鈍い音が響き渡った。

 

 何故か上を向く一幕があったが、通りすがりの一年生の頃の担任に助けてもらい、どうにか事なきを得た。

 

 休み時間の間に昨日のフェレットが病院を抜け出していたこと、たまたま外にいたなのはがそれを見つけて、家族の了承もあったこともありしばらく預かること、ユーノと“名付けた”ことを伝えた。

 

 病院の先生には、帰りに姉妹で会いに行く予定である。

 

 家族には、病院の先生から了承を得てと言ってしまったため、話が前後してしまうが……。

 

 本当の理由は当然言えないが、それでも病院に預けていたフェレットが家にいることを、きちんと説明した方が良いと思ったからだ。

 

 預けられた病院の信用問題が云々、とルティシアは口にしていたが。

 

 そして、放課後。

 

 アリサやすずかも一緒に行くということで、四人で動物病院へ向かう。

 

 預かっていたフェレットを逃がしてしまったと謝る先生。

 

 散歩をしている時に偶然出会って今は家に居ることを報告し、そのことを伝えにくる事が遅くなったと姉妹も謝った。

 

「本当のことを説明出来ないのって、苦しいね」

 

 動物病院を出てアリサやすずかと別れた後、並んで帰り道を歩きながらなのはがそう口にした。

 

 ルティシアも首肯する。

 

「そうですね。先生には自分がミスをしたという思いは残るでしょうし。彼女には落ち度が無いわけですから、より、そう感じてしまいます」

 

「うん……」

 

 そして気持ちを切り替えるかのように、なのははユーノと(授業中に)念波で話した事を、ルティシアに説明し始めた。

 

「自分が悪いと言う話ですが……話を聞く限りではユーノは発掘しただけで、それを委託した輸送中の事故は、ユーノの責任では無いと思うのですが」

 

「責任感が強くて、真面目なんだね。ユーノ君、自分が見つけてしまったからだって」

 

「発掘したことが罪では無いのでしたら、気負いすぎとも思いますが。真面目という点は、私も同意です」

 

「おやつを食べたら、ちょっとでも探しに行こっか?」

 

「はい。落ちたのはこの街周辺らしいですが、探すとなると広いですし、少しずつでも探索しましょうか」

 

 違和感を感じたのはその時だった。

 

「(これは……?)」

 

「この感じ……」

 

 思わず足を止めたルティシアの横で、なのはも足を止めて不安そうに空を見上げている。

 

「(姉さんも感じているということは、これは)……姉さん?」

 

「ジュエルシードが発動してるって、ユーノ君が言ってる!」

 

 ルティシアは、自分を見つめるなのはに頷きを返す。

 

「行きましょう。場所は分かりますか?」

 

「うん! ユーノ君も来るって」

 

 二人は、ジュエルシードが発動したと思われる場所へと駆け出した。

 

 途中でユーノと合流し共に走りながら、ルティシアは問題の場所へとガンビットを二基放つ。

 

 

 自宅警護用の一基と、警戒用に辺りを巡回させているのを除くと、手持ちのガンビットを全て出したことになる。

 

 目的地は、高台の上にある神社。

 

 そこでは、見覚えのある青い光が輝いていた。

 

 昨日見たのと同じ、ジュエルシード。

 

 そして、それに触れて変異していく犬と、そこからやや離れた入口付近には飼い主らしき女性。

 

 二人(と一匹)は、まだ神社に続く階段の半ばである。

 

 変異を終えた犬は、大きく咆哮する。

 

 それに気付き、そちらを見た女性は驚きに大きく目を見開いた。

 

「ぽ……ぽち…?」

 

 女性はそのまま気を失ったのか、その場で倒れ伏してしまう。

 

 ルティシアは念のためにガンビットを女性の護衛に回して、彼女達を外に出すように設定して月匣を発動する。

 

 なのは達が到着したのはこの時だった。

 

 太陽の日射しが注いでいたその場所を、真紅の月が放つ光が照らす。

 

「これは……昨日と同じ結界!?」

 

「え、じゃあまた牛さんがくるの?」

 

「それは、分からないけど……」

 

 本殿の脇からこちらを睨み付ける“犬”から、空を見上げている一人と一匹を庇うように、ルティシアは前にでる。

 

 それを見た犬は大きく口を開き――。

 

「ヮオーーーーン!!」

 

 真紅の月へと大きく吠える。

 

「まずい、原住動物を取り込んでる! 思念体じゃないから手強いかも」

 

 焦りを滲ませて、ユーノがそう警告する。

 

「つ、強そう」

 

「(見たことが無いタイプですね。改造動物や合成獣の類いでしょうか)」

 

 三者三様の反応。

 

 離れた所でこちらを見ているのは、巨大な大砲を背負い、本殿よりはやや小さい程度の巨大な犬だった。

 

 牙や爪も体格に合わせて大きく、より鋭くなっている。

 

 自分を護るように立つルティシアの背中、風に揺れるポニーテールに結ばれた濃紺の髪を見つめたなのはも、表情を引き締める。

 

「大丈夫。わたしも出来るよ」

 

 自分に言い聞かせるような、一言。

 

 そのなのはの肩に乗ったユーノは、そう言った彼女を頼もしそうに見つめて、促す。

 

「なのは、レイジングハートを!」

 

「うん!」

 

 なのはは胸元から赤い宝石――レイジングハートを取り出し……

 

「…………」

 

「……? なのは?」

 

「姉さん?」

 

 取り出した姿で止まっているなのはに二人が声をかける、が、彼女は依然動かない。

 

「なのは? 早くレイジングハートの起動パスワードを」

 

 首を傾げながら、ユーノがもう一度促した。

 

「まさか……姉さん」

 

 背後にいる姉の、沈黙の理由に思い至ったルティシア。

 

「起動パスワードって何だっけ……?」

 

 犬が牙を剥き出して、ダッシュで迫ってくる。

 

「我、使命を……から始まるパスワードだよ!」

 

「あんな長いの覚えてないよ!?」

 

「もう一度言うから、ボクの後に続いて!」

 

「(間に合いません)」

 背後の二人の焦る声を聞きながら、迫る犬を見据えたルティシアは、覚悟を決めた。

 

 迫る大きな犬。

 

 獲物を前に、大きく口を開いた。

 

 そこに居並ぶ、ナイフのような牙を見せつけるかの様に。

 

 それは、眼の前の人物を一飲みして余りあるほどだった。

 

 しかし、ルティシアは微動だにしない。

 

「ッ!? ルティちゃん!? レイジングハート!」

 

《stand by ready.set up》

 

 なのはの呼びかけに、パスワード無しで起動したレイジングハート。

 

 瞬時に戦闘服(バリアジャケット)を装着し、妹を助けようと前に出るなのはよりも早く。

 

「――氷雨」

 

 囁くような一言を合図にして、参道に重い打撃音が響いた。

 

「ルティ……ちゃん?」

 

 目の前にあるのは、見慣れた妹の後ろ姿。

 

 自分の背中にある濃紺のマントと同様に風になびいている、その元になった要因の同色の髪。

 

 そして左手に持った杖――レイジングハートと対応するのは、彼女の右手にある、鞘に納められた青みがかった剣――刀。

 

 その刀を右から左へと薙ぎ払った、妹の姿があった。

 

 彼女が踏み締めた足下の石床が砕け、その表情は背後からは窺い知ることが出来ない。

 

 その一撃に、犬は鳥居の一つを砕きながら弾き飛ばされる。

 

 しかしすぐに起き上がると咆哮し、憎らしげに睨み付けた。

 

 ルティシアはなのはの横へと跳び退る。

 

「ルティちゃん? それは……?」

 

 不安そうな表情で自分を見る姉に、ルティシアはあえてそちらを見ずに視線を犬に向けたまま、だが辛そうな顔と震える声で言葉を紡いだ。

 

「……終わったら……説明します」

 

 その横顔と声から何かを感じたなのはも、犬に視線を向けるとレイジングハートを構えた。

 

「きっとだよ……!」

 

「はい、約束します」

 

「グルルルルルル……ヮオーーーーン!!」

 

 月への咆哮と共に、背中に備えられた大砲が火を吹く。

 

「なのは、大丈夫だよ」

 

「う、うん!」

 

 ユーノに頷き返したなのはが、一歩ルティシアの前に出る。

 

 そして左手のレイジングハートを、飛んでくる砲弾へと向けた。

 

《protection》

 

 レイジングハートの《声》と共に、二人の正面に魔力障壁が展開する。

 

 壁面に着弾した砲弾が爆発するが、受け止めた障壁はびくともしない。

 

 震動を伝えると共に、巻き起こった爆風が障壁を回り込み、二人の服や髪を揺らすに止まる。

 

「グルルル……!」

 

 障壁が消え、砲弾を受けても平気な姿を見せた二人に、犬は猛然とダッシュ!

 

 さらに一発、二発と撃ちながら、大きく口を開いて襲いかかる。

 

 本体より先に飛んでくる二発の砲弾に、なのはは慌てずもう一度レイジングハートを向けた。

 

「レイジングハート、お願い!」

 

《protection》

 

 

 

 再び展開した魔力障壁を前に、砲弾が一発二発と弾ける。

 

 巻き起こる粉塵の中、犬は真っ直ぐ障壁へと突っ込み、両者が接触している面が激しく火花を散らしていた。

 

 牙だけではなく爪も突き立ててくるが、やはり結果は同じだった。

 

 なのはには僅かな怯えがあるが、なのはの魔力を使用して張られている障壁は、それら全てを遮断している。

 

「(これを普通に受け止めるなんて……やっぱりこの子は凄い!)」

 

 この様子を見た、ユーノはなのはの才能に改めて舌を巻いた。

 

 ユーノも防御魔法を用意していたのだが、なのはは自身のそれで、巨大な犬の攻撃を完全に防いでいる。

 

 障壁で足を止めた犬の元へと、なのはの横のルティシアが勢いをつけることなく跳躍する。

 

 それでも軽々と障壁を……犬よりも高く跳んだ彼女は、鞘に納刀したままの愛刀を大上段に構えている。

 

「神竜剣 火竜爪牙 ≪裂断≫」

 

 背中の、大砲に守られていない生身の部分へ、力任せの一撃が振り下ろされる!

 

「ぎゃう……!」

 

 背中から左脇腹、左前足へと、斜めに。

 

 重い打撃音に苦痛の声を上げた犬が、よろけながら後退りする。

 

 ――瞬間、ガンビットで見えた、変異する前の犬の姿が脳裏に浮かんだ。

 

「…………くっ!」

 

 ルティシアは着地と同時に横に構えた刀を、その頭部へさらに叩き付けようとして、直前で無理矢理にその手を止めた。

 

≪裂断≫は、力任せの攻撃で相手を断ち裂く図からその名が付いている。

 

 主軸となる初撃から、相手の逆側への払い抜けに派生する二連撃。

 

 構成される中に含まれる一撃や、技全体の攻撃力を重視する『火竜爪牙』らしい力の技である。

 

 その力重視の技を、一連の動きの中で二撃目を放つ前ならともかく、放ちながら途中で止めるには大きな負担がある。

 

 にも関わらず、ルティシアは止めた。

 

 尻餅をついた犬にそれ以上の攻撃は加えず、なのはの横へと跳ぶ。

 

 その顔には、僅かに戸惑いの色が見える。

 

「リリカル、マジカル。ジュエルシード封印!」

 

《all light.sealing mode》

 

 レイジングハートの先端部から、桜色の翼のような光が吹き出した。

 

 さらに魔力は帯となって犬を包み込んでいく。

 

 犬の額に、【 XVI 】の文字が浮かび上がった。

 

「リリカル、マジカル。シリアル16、封印!」

 

 犬の身体が光に包まれると、その身を分解させていく。

 

 やがて、犬から分離した青い宝石――ジュエルシードが、レイジングハートの中に収納された。

 

 真紅の月が消え、太陽が照らす元の境内の姿が戻ってきた。

 

「居眠りしちゃったみたい、ごめんねポチ」と言っている女性と一緒に、元の姿に戻り飼い主の周りを嬉しそうに走り回っていた犬が、仲良く高台を下りていく。

 

 その姿を、姉妹達は本殿の物陰から見ていた。

 

「じゃ、ルティちゃん。お話……しようか?」

 

「………………はい」

 

 夕陽は、徐々に西に沈みかけていた。

 

 




 
 
next
 
 
姉妹は互いの想いを語り合う。

姉を護ると誓う妹。

妹を守ると決意する姉。
 
 
なのは「一緒に頑張ろう」
 
 
 
 
(出典)
 犬:メタルマックスより、バイオニックぽち
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