魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その15 「倒したら勝ち!」

 

 

 どことも知れぬ不思議な空間。

 

 そこに“浮かんでいる”のは、ティーセットとクッキーが盛られた大皿に、双六みたいなゲーム台を乗せたテーブル。

 

 用意された椅子は2つあるが、座っている人物は一人のみ。

 

 黒いシルエットに覆われたその人物は、優雅な仕草でカップを傾けている。

 

 ホウ……と、息を漏らした“彼女”はカップをソーサーに置くと、空いている席に顔を向けた。

 

「……遅いですね。下準備は手伝いましたし、後は簡単な筈ですが」

 

「――ごめんごめん。お待たせ、アーちゃん」

 

 空間が揺らぎ、椅子に座る形で虚空から現れたシルエットの人物その二。

 

「遅かったですが、調整は大丈夫ですか?」

 

「………もちろん」

 

 その答えに何かを察した人物その一は、小さく嘆息する。

 

「大丈夫大丈夫。そっちの方は?」

 

 気楽そうにそう言った人物その二は、早速クッキーの大皿に手を伸ばす。

 

「今の所は順調……に進んでいますね。誰かさんの遊びの関係で、多少アフターケアはしてきましたが」

 

「アフターケア?」

 

「こちらの話です……次はあの駒ですね。上手くいくと良いのですが」

 

「うん、そうだね。楽しみだよ」

 

「うふふ」

 

 二人の前に置かれたゲーム台。

 

 そこの盤面に置かれた三つの人形の前に、二回り以上大きな異形の物が置かれていた。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 土曜日の夜のなのはの部屋。

 

 部屋のベッドに座って何かをいじっているルティシアと、それを横から覗いているユーノの姿があった。

 

 風呂上りなのか、ルティシアは既に赤いパジャマ姿で、いつもポニーテールに結われている髪も今はほどかれている。

 

 プールから帰ってきて以来、ルティシアは悩まされていた頭痛から解放されていた。

 

 鍛練にもより身が入るようになり、機械弄りにも気が向くようになる。

 

「ルティシアは機械いじりも出来るんだ?」

 

「手持ちの装備の調整はある程度出来ますが、一から作り上げる技術はありません」

 

 いじっているのは、拳大の丸い物体……小型遠隔機動兵器のガンビット。

 

 元々これは[セイティーグの娘]達が使用しているモノの一つで、搭載機能重視のガンビット。

 攻撃性能重視のガンスレイブ。

 

 そして、両性能を備えたが扱いの難しいガンファミリアの三種がある。

 

 ルティシアの様に、扱えないが故にビットしか扱えない者もいるが、姉の中には多機能目的であえてこれを扱う者もいた。

 

 ルティシアが今しているのは、搭載スペースの確認である。

 

 空きがありそうなら、ジュエルシードを自動探索するシステムを構築できないかと、ルティシアは考えていた。

 

 今までのように、街中に放っては闇雲に探し続けるよりも、遥かに効率がいいからだ。

 

「良い湯加減で、気持ちよかった」

 

 上気した肌をパジャマで包んで、なのはも部屋に戻ってきた。

 

 こちらも睡眠前ということで、髪はほどいている。

 

「おかえり、なのは」

 

「おかえりなさい」

 

「ただいま……って、ルティちゃん何してるの?」

 

 なのはもルティシアの横に座りと、その手元を覗きこむ。

 

「システムに空きが有れば、ジュエルシードの探索プログラムを入れられないか試してみようかと」

 

「へ~……出来そう?」

 

 ルティシアはため息をついて手を止めると、残りの三基も取り出す。

 

「プログラムやシステムの構築は、正直ちょっと難しいですね。空きの方は、機能は四つとも同じですし、必要の無いものは削ろうかなと」

 

「それで容量確保するんだね」

 

「姉さんが機械関係に強いのは知っていますが、こう見えても兵器ですので危ないです」

 

「残念……」

 

 高町家で一番機械に詳しく、扱えるのは誰あろう、なのはであった。

 

 そのなのははいじりたかったのか、本当に残念そうに言った。

 

 そんな二人のやりとりを見ながら、ユーノも口を開いた。

 

「ほらほら二人共。明日は約束があるんだよね? そろそろ休まないと。なのはも、砲……攻撃魔法が出来るようになったんだし、明日の朝はそれの練習をするんでしょ?」

 

「うん……って、今言い直さなかった?」

 

「そ、そんなことはない…よ?」

 

 なのはから視線をそらすフェレット。

 

「やはり、不要ですね。テレビとゲーム機能」

 

「「え?」」

 

 いじりながら呟いたルティシアに、二人の声が重なる。

 

「ルティちゃん、テレビとゲームってあの?」

 

「そうですね。多分、姉さんのイメージ通りのモノです」

 

「ルティシア……それ、兵器だよね?」

 

「そのはずですね」

 

 なのはとユーノの問いにも、いつも通りに淡々と返事を返す。

 

「「何で付いてるの?」」

 

「それは、私が聞きたいですね」

 

 異口同音。同時に放たれた疑問の声に、ため息をついて返したルティシアだった。

 

「そもそも、テレビはどうやって見るの?」

 

 という質問に、ルティシアが実際に操作をしてみせた。

 

 一つが変形して、ルティシアの前に画面――スクリーンパネルが開かれた。画面に触れればチャンネル変更や音量調整も出来るし、録画も可能なようだ。

 

 画面を操作し続けている内に、やがてゲームの選択になった。選択肢はさすがに多くないようだが。

 

 コントローラーは、先程の変形したガンビットを使うようだ。

 

 画面では、デフォルメされた怪獣や超人達がサッカーをしている。

 

「ルティちゃん」

 

「何となく予想がつきますが、何でしょう?」

 

 画面を食い入る様に見つめているなのはに、ため息混じりで答える。

 

「ちょっとだけ、遊んでみていい?」

 

 

 ……一時間が経過……

 

 

「二人共~……そろそろ湯冷めするよ?」

 

「私のMSが怪獣に吹き飛ばされていくとは……」

 

「先にキーパーをなぎ倒してから、主力選手を」

 

「悪魔ですか……。スポーツは正々堂々と」

 

「悪魔でいいよ。悪魔らしいやり方で点を貰うから」

 

 のめり込んでいた。

 

「この世界のスポーツって危険何だね……」

 

「私もよく知らないのですが、ルールってこういうのでしたっけ? ……ああ、キーパーがなかなか起き上がりません……」

 

「チャンス……! 全力全開! 必殺シュート!」

 

「ようやく起き上がったキーパーが、ディフェンダーごと吹き飛ばされて……」

 

 得点が入り、勝ちどきのモーションをするなのはの黒い怪獣が率いるチーム。

 

 満面の笑みを浮かべるなのはと、悲痛な感じのルティシア。

 

 残り時間も0になり、画面内でホイッスルが鳴り響く。

 

 十二対0。初めて触れた者同士の試合は、大きな差となって表れた。

 

「ほらほら、キリが良いからここまで! 電源を切るよ!」

 

 業を煮やしたユーノが画面を操作し、電源を切る。

 

「お母さんだ」

 

「お母さんですね」

 

「ボクはお母さんじゃないから!?」

 

 姉妹にツッコミを入れるユーノの叫びが、空しく部屋に響き渡るのだった。

 

 そんな夜も明けて、日曜日の朝。窓からは朝日が差し込んでいる。

 

 二台の携帯電話からの目覚めのコール。一つは軽快な音楽、一つは内蔵されたシステムメッセージ。

 

 カーテンの隙間から射し込む朝日で目を覚ましたユーノは、軽く背伸びをすると、布団の中から携帯電話に向かって伸びている手を見つめる。

 

 そしてその手の主に、朝の挨拶を送った。

 

「おはよう、ルティシア」

 

「おはようございます、ユーノ」

 

 ユーノの予想通りの人物からの挨拶が返ってくる。

 

 なのはがすぐに起きてくることは、滅多に無い。

 

 ただ、いつもと違う点もあった。

 

 いつもは止めた後、すぐに体を起こすルティシアなのだが、今日はその様子はない。さらに、普段は両手で二台まとめて止める筈だが、今日は片手で一台ずつだった。

 

 そのことに、ユーノには思い当たることが一つあった。

 

「ルティシア。また拘束されてる?」

 

「今日は両足もですね。何故、こんなに寝相が悪いのでしょうか……」

 

「あはは。甘えてるんじゃない?」

 

「そのうち、休む場所を別に作った方が良さそうですね……。床ででも寝ましょうか」

 

 笑いながら言うユーノに向かって、ルティシアは真剣に返していた。

 

 ルティシアと、耳元ではユーノもなのはを声をかけ続ける。

 

 なのはが目覚めたら、姉妹は身仕度を整える。

 

 最後にそれぞれが互いの髪をセットすると、朝食のため階下に向かう。

 

 約束――今日は士郎が監督を務めている少年サッカーチームの試合があり、それをいつもの四人(+ユーノ)で応援に行こうという話であった。

 

 ルティシアはサッカーには興味が無いが、世話になっている士郎ならと毎回二つ返事で了承している。

 

 待ち合わせの時間までは魔法の練習。

 

 狙いを定めての砲撃。バインドと砲撃、プロテクションから砲撃という動きのリズムを中心に。

 

「砲撃の回数、多くありませんか?」

 

「ボクもそう思う」

 

「そんなことないよ? そうだよね、レイジングハート?」

 

 

《yes my master.no problem》

 

 結界に覆われた山の梺では、桜色の柱が飛び交う練習風景が広がっていた。

 

 時間になったら練習を切り上げて、友人二人と合流して試合の場所へ。

 

「あ、練習してる」

 

 河川敷にある試合会場では、既に士郎のチームが練習を始めていた。いたのだが……

 

「ねぇ……なんか人数少なくない?」

 

「うん、いつもより少ないよね」

 

「お父さんも、難しい顔をしてる……」

 

 選手らしき子ども達に何事か話をしている士郎なのだが、どこか浮かない顔をしていた。

 

「どうやら控えの選手も含めて、今日は病気や怪我で休みが多く、一人足りないようですね。父様は、一人聞いてみると」

 

「って、知っているなら先に言いなさい!」

 

「いえ。たまたま、説明が聞こえただけですから」

 

「よく聞こえたね、ルティシアちゃん」

 

『ガンビットだよね、ユーノ君』

 

『うん、近くに無いか探してるみたいだしね。それで聞こえたんだと思うよ』

 

 三人のやりとりを聞きながら、〈念話〉で話をするなのはとユーノ。

 

 これも、魔法の練習の一貫であった。

 

「試合出来るのかな? ……あ、ボール」

 

 シュートかパスがそれたのか、四人の所にボールが転がってくる。

 

 それを、一番近かったルティシアが拾う。

 

「手を振っていますし、これは父様に返せば良いのでしょうか?」

 

「良いんじゃない? 届かなくても拾いにくるでしょうし」

 

「そうですね。では」

 

 “ドン!”という音と共に蹴り出されたボールは、真っ直ぐに士郎の元へ。

 

 彼が受け止めた音が、ここまで聞こえたような気がした。

 

 蹴り終わって戻ってきたルティシアに、三人は拍手と歓声で迎えた。

 

「お~! 良く飛んだじゃない、ルティシア」

 

「格好良かったよ~」

 

「うんうんって、あれ? ルティちゃん、お父さんが呼んでるみたい」

 

 なのはに言われてルティシアが振り返ると、笑みを浮かべた士郎が手招きをしていた。

 

「何でしょうか?」

 

「さあ? とりあえず、行ってきたら?」

 

「そうですね。では、ちょっと行ってきます」

 

 士郎の元へ、走って向かうルティシア。彼女が到着するや否や、彼は手振りを交えてルティシアに話しかけている。

 

 ルティシアの方も、首を傾げたり横に振ったりしながら、何かを答えている。

 

「二人とも、何を話してるんだろう?」

 

「ここからだと聞こえないわねって……ルティシア、何か激しく頷いてない?」

 

「う、うん。なのはちゃんのお父さんも嬉しそう」

 

 何やらよろしくといったやりとりを終えて、足取りが妙に軽いルティシアが戻ってきた。

 

「お父さん、何て?」

 

「色々と省略しますが、私が試合に出ることになりました」

 

「「「え?」」」

 

 ルティシアは淡々と、しかしどこか嬉しそうな声でそう述べた。

 

 予想もしてなかった答えに、三人も戸惑いの声を上げる。

 

「今日参加すれば、チョコドリンクが貰えるそうですので」

 

「それか!!」

 

「ルティシアちゃん、チョコドリンク好きだもんね」

 

 承諾した理由に、すぐに納得もしたが。

 

「ルティちゃん。ちなみにサッカーのルール、きちんと知ってるの?」

 

「いいえ? ですが、昨日のゲームの要領でやれば良いのですよね?」

 

 こそこそっと訊ねてきたなのはに、首を傾げながら答えるルティシア。

 

 一時は欠席者多数で試合が危ぶまれたが、ギリギリのタイミングで人数を満たして試合が出来るということで、下がっていたチームの士気も上がってきた。

 

 そんなチームの練習風景を眺めている士郎の所に、赤系統のズボンと長袖の上着姿のルティシアがやってくる。

 

 近くに来た少女に、士郎は苦笑を浮かべて手を合わせる。

 

「急にごめんな、ルティシア」

 

「大丈夫です。確かに予想外ではありましたが、父様の頼みであるならこれくらいは」

 

 少女は頭を左右に軽く振ると、全く問題ない事をアピール。それに合わせて、ポニーテールに結われた衣服とは対称的な色の濃紺の髪が揺れる。

 

「それよりも、どちらのチームも男子ばかりですが、私が参加しても大丈夫なのですか?」

 

 自分のチームも相手側のチームも、男子ばかりで女子の姿はない。

 

 ちなみにチーム内にはクラスメートもいるらしいのだが、興味が無いことには意識が向かない彼女が、覚えているはずもなかった。

 

 自チームのベンチには一人女の子が座っているのだが、練習に加わっていない所を見るとなのは達と同じ応援か、マネージャーなのだろう。

 

 士郎もルティシアのその質問に、大丈夫と答えると自分の考えを話す。

 

「最近は女子のサッカーという話も聞くし、ルティシアが頑張ればそういう女の子達の励みになるかもしれないしな。それにスカートじゃなくてズボンだから、変な意味でも大丈夫だ」

 

「もし問題があっても、こちらで対処しますので大丈夫です。そんな者には、問答無用で真紅の針を突き刺しますから」

 

 冗談めかして言う士郎だが、対するルティシアは生真面目そのものだった。

 

 右手の人差し指を、何かに突き刺す仕種をする。

 

「ルティシアーー! あんたもしっかり練習しなさいよ!」

 

 父と娘の会話をしていたら、いつの間にか近くのベンチに、なのは達が移動してきていた。

 

「ルティシアちゃん、頑張って!」

 

 アリサもすずかも実に楽しそうである。

 

「ルティちゃん、相手を倒したら勝ちだよ! 頑張って!」

 

「きゅうきゅう」

 

 ユーノを抱いたなのはも楽しそうで、そのユーノも鳴き声で声援を送る。

 

「………………」

 

「……?」

 

 娘のその応援を聞いた士郎が、何やら考え始めた。

 

 その様子に、ルティシアは小首を傾げる。

 

 ややあって、ぎこちなく士郎が口を開いた。

 

「ルティシア、一つ聞いて良いかな?」

 

「何でしょうか?」

 

 何か思うことがあるようで、士郎の表情は真剣そのもの。

 

 ルティシアも、士郎の目を見つめながら待つ。

「確認していなかった僕が悪いんだけど、サッカーは知ってる?」

 

「そういうスポーツがある事は知っています」

 

「ルールは?」

 

「昨日、少しだけ知りました」

 

 士郎の中の不安感が、嫌でも増す。それが、間違いであってほしいと願いながら……。

 

「聞かせてくれ」

 

 彼の思いを知ってか知らずか、ルティシアは淡々とそれを口にした。

 

「ボールをタックルやスライディングで奪い、シュートで相手選手をなぎ倒しながら、最後にキーパーを吹き飛ばしてゴールを狙います。キーパーには高い回復力と、物理的な防御力が求められるでしょう」

 

 春の暖かな風が、二人の間を吹き抜けていった。

 

「父様? どうして胃を押さえているのですか?」

 

「く……誰がこんな酷いルールを……」

 

 胃を押さえていない方の手で顔を覆う。

 

「昨日、なの姉さんに」

 

「今すぐルールを覚え直してくれ! なのはが前に言っていたが、速読出来るんだろう?」

 

「よく分かりませんが、分かりました」

 

 士郎からルール本から借りたルティシアは、早速ページを開き……その後は凄い勢いでページが捲られていく。

 

 その様子を、ベンチから見ていた三人。

 

「なのはのお父さん、何か胃を押さえてるけど。ルティシアが、また何か言ったのかしら?」

 

「なのはちゃんが声をかけてからかな? 様子が変わったの」

 

「ふぇ? 何か間違ってたのかな?」

 

 二人の話に、なのははきょとんとした顔をする。

 

「間違いと言うよりはおかしな所なんだけど……倒したら勝ちって何よ? サッカーに、そんなルール無かった筈だけど?」

 

「ふぇ~!? 昨日ルティちゃんと一緒に遊んだサッカーゲームが、そんなのだったよ!?」

 

「あんた達、どんなゲームしてるのよ……」

 

 なのはから話を聞いたアリサは額に手を当てると、ルティシアがしているようにため息をつく。

 

「ルティシアちゃん、ルール本を渡されたみたい……読み始めてるよ」

 

「そりゃそうでしょ。倒したら勝ち、みたいなサッカーなんて殺伐とし過ぎよ」

 

「えぇーー……」

 

 何故か、残念そうな様子のなのは。

 

「『良かった。やっぱりあれがおかしかったんだよ、なのは』」

 

「『あれも結構楽しかったのに……』」

 

「『な、なのは……?』」

 

 返ってきた念話に、戦慄を覚えるユーノだった。

 

 応援席でそんなやりとりがされているとは知らず、ルティシアは読み終わった本を士郎に手渡した。

 

「父様……いえ、監督。ありがとうございました」

 

「どうだった?」

 

 胃を押さえながら期待を込めて聞く士郎に、ルティシアはしっかりと頷いてみせる。

 

「ゴールまでの過程において、大幅に違う事が分かりました」

 

「そうか、分かってくれたか! 良かった……」

 

 胃の辺りを押さえていた手を離し、心底安堵した様子の士郎。

 

「私はどこに入ったら良いのでしょうか?」

 

「空いているのは……ディフェンダーに入ってくれるかな?」

 

「分かりました」

 

「ボールを持ったら仲間にパスするんだぞ?」

 

「はい」

 

 開始の時間となり、整列のためチームメイトがいる場所に向かう娘の後ろ姿を見て、これなら大丈夫かと士郎は胸を撫で下ろした。

 

 試合は、心配された大きな事件や事故も無く、つつがなく進んでいった。

 

 前半は。

 

 ルティシアも、自分の方に向かってきた相手から難なくボールを奪い、仲間へとパスを回していく。

 

 サッカーの技術は読みかじりの知識分しか無いが、武術で培った動きでそれをカバーしていた。

 

 前半は。

 

 試合は前半が終わったところで、キーパーの奮闘もあり1ー0で士郎のチームが勝っている。

 

 その前半にボールを奪い過ぎたせいか、ルティシアがいる方には誰も攻めこまないか、彼女が動き出す手前までしか相手も寄り付かない。

 

 ある意味では鉄壁なエリアと化すことで、役目を果たしているとも言える。

 

 故に、ゴールキーパーからはルティシアに、そこから前衛へとボールが回されていく。

 

 最初こそ、少女からの“軽い”パスを受けた選手が弾き飛ばされるという珍事はあったが、日頃からなのはを傷付けぬように力加減に気を付けている彼女はすぐに対応した。

 

 男子の体力を知らない……知ろうともしなかった少女の、知識不足からくる小さなアクシデントである。

 

 やがて試合は、後半も終了という時間が近付いてきた。

 

「ルティちゃんの方、誰も行かないね」

 

「攻めこんでも、絶対にボールを取られていたから……仕方ないかも」

 

 なのはとすずかはそれで良かったのだが、それでは落ち着かない人物が一人。

 

 丁度、キーパーからボールを渡されたルティシアに、立ち上がった彼女は声を大に叫んだ。

 

「こらーー! ルティシアも、点を取れ!!」

 

「む、無茶だよアリサちゃん!? ルティシアちゃん、ディフェンダーで後ろにいるんだから……!」

 

 叫んだアリサに、すずかは慌てて仁王立ちの友人の袖を引く。

 

 それを、笑って見ていたなのはは気が付いた。

 

 こちらを見て、頷いた妹の姿を。

 

 キーパーから渡されたボールを回さずに、自陣の深い所にいたルティシアは少し前に上がる。

 

 赤いズボンに包まれた右足を大きく振り上げ――。

 

「ヴェスバーマグナム」

 

 大砲でも発射したのかという、重低音が響き渡る。

 

 蹴られたボールは、まるで弾のようにも見える程の勢いで、相手メンバーの手薄な所を突いて真っ直ぐにゴールへ。

 

 非現実的なそれに、相手のキーパーは……味方も、一歩も動けなかった。

 

 ボールが通った後に、一陣の風が巻き起こる。

 

「………………………」

 

 大歓声を上げる三人娘とは別に、フィールド内は静まり返る。

 

 そして、試合の終了を告げるホイッスルが鳴った。

 

「え、えーと……2ー0で翠屋JFCの勝利です?」

 

 疑問系で話す審判の宣言と共に、試合は終了。

 

 次は、あの子のシュートにも負けない練習を! と語る相手チームを、翠屋JFCのメンバーは狐に化かされたかのような顔で見送っていた。

 

 その後は胃を押さえた士郎監督と共に、祝勝会の為に翠屋へと移動し始める。

 

 最後のアレの関係で微妙だったチームの雰囲気も、少し時間が経てば戻り、子供達は賑やかさを取り戻していく。

 

 最後のアレについて、気になったチームメイトからは質問が相次いだのだが、ルティシアは「日頃の足腰の鍛練の成果です」と答えていた。

 

 人の姿が無くなった河川敷。

 

 なのは達が座っていたベンチ、その裏側にある草むらに一羽のカラスがいた。

 

 口の中に入り込んでしまっていた“それ”を地面に落とすと、嘴でくわえ直し、大空へと飛び立つ。

 

 抜けるような青空にも負けない輝きを持つ宝石が、キラリと陽光を反射した。

 

 




 
 
 
next
 
 
楽しい一日は、静かに過ぎていく……筈だった。

そんな日常に、ソレは突如として牙を向く。


なのは「わたしはもう逃げない」
 
 
 
(出展)
 サッカー周り:バトルサッカー1より
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