月村家の庭。
先行していたユーノが張った結界の中で、白のなのはと、黒のフェイト。
二人の魔導師が、二度目の邂逅を果たした。
一回目は遠くから見つめるだけだった。
二回目の今回は……。
木の上から見下ろす赤い瞳と、木の下から見上げる青い瞳。
二人の視線がぶつかりあう。
そんな時、ついっと視線を外したフェイトは素早く辺りに視線を這わせた。
探していたものが見当たらず、ホッと安心した後で残念そうな顔になる。
その後キリッとした表情に変わると、ジュエルシードを持つ対象――巨大化した子猫の方へと向きなおった。
右手に持った、厳つい斧にも見える棒状のデバイスを構え――。
「フォトンランサー」
《photon lancer》
雷光が集い、容赦なく子猫へと放たれる。
『二、ニャーー!?』
多少のダメージはあったようだが、子猫はまだしっかりした足腰で立っている。
「だ、駄目……! レイジングハート、お願い!」
《stand by ready.set up》
黒衣の少女が子猫を攻撃し始めたのを見て、なのはは慌てて赤い宝石――レイジングハートを取り出して起動する。
その間も、フェイトは攻撃の手を緩めようとはしない。
「バルディッシュ。フォトンランサー、連撃」
《photon lancer.get set》
バルディッシュと呼ばれたデバイスに、今度は数個の雷光の玉が生み出される。
「レイジングハート」
《flier fin》
その様子を見て、駆け出したなのはの靴に桜色の魔力光で出来た羽が生まれ、空へと舞い上がる。
そのまま一気に、子猫に向かって飛翔した。
《full auto fire》
放たれた数条の雷光が再び、子猫へと真っ直ぐに飛ぶ。
それよりも早く猫の背中に辿り着いたなのは。迫る雷光を前にしても怯むことなく、レイジングハートを構えた。
「させないよ!」
《wide area protection》
数条の雷光……それぞれの着弾場所に防御魔法が発動し、その全てを弾き飛ばす。
「なのは……いつの間にそこまで。ボクが教えられる事は、もう無いのかもしれないね」
その様子を見ていたユーノは、嬉しさと寂しさの両方が入り交じった複雑な感情を抱いた。
「防がれた? ……でも」
自分の魔法が全て防がれても慌てず、フェイトは今度はネコの足元を狙って、雷光を放つ。
雷光が命中して起きた足下での爆発に驚き、バランスを崩した子猫が倒れていく。
それから振り落とされる形でなのはも地上に降り、気が付けばフェイトもすぐ近くの木の上へと移動していた。
気絶したのか、倒れたまま動かない子猫を放置し、二人は再び相対する。
フェイトも、今度はその視線を外さない。
濃紺と黒のマント。
茶髪と金髪。
白と黒、それぞれを基調色としているバリアジャケット。
その濃紺色のマントを捉えたフェイトに浮かんだのは、同じ色の髪と瞳をした友人の姿。
それを見ていたら決意が鈍ると、フェイトは少しうつむき加減に……友人と目の前の少女の関係を考えて“忠告”する。
「私はあなたとは戦いたくない。だから、邪魔をしないで」
「どうして、こんなことをするの……?」
「キミはジュエルシードを……ロストロギアについて何を知っている!? それの危険性も――」
この場を退いてと静かに言う黒衣の少女に、なのはとユーノは叫ぶ。
「答える必要は、ない。必要だから集める、それだけ。バルディッシュ」
《scythe form. set up》
遮ると、バルディッシュの先端部が変形……そこから金色の光が吹き出して刃となった。
あの時見たのと同じ光刃の鎌を、今回はなのはに向けて両手で構える。
その静かな迫力に、気圧されたなのはの足が一歩後ろに下がるが、そこでグッとレイジングハートを握り直した。
「それは、話し合いで何とかならないの……?」
「お互いがジュエルシードを必要としている以上、私たちは敵同士」
なのはの言葉に、フェイトは静かに答える。
「だからそうやって決めつけないで! そうならないために、話し合いって必要なんだと思う! それに、もしかしたら協りょ――」
「話し合うだけでは、言葉だけではきっと変わらない……」
叫ぶなのはを遮って、話しながら顔を上げるフェイト。
そこには、譲らないという強い意思が宿っている。
「――伝わらない!」
「……っ!?」
一瞬で間を詰め、横薙ぎに振るわれた光刃を、なのはは咄嗟にしゃがんで避ける。
続けて、そこに振り下ろされる光刃。
《evasion. flier fin》
主人の危機を察したレイジングハートが咄嗟に発動させた羽で、なのはは空中へと逃れた。
ザクッと地面に刺さっていた光刃を抜くと、空を見据えながら下段に構える。
《arc saber》
振り上げられたバルディッシュから、見覚えのある――荒神の蔓を断ち切った――三日月状の光刃がなのはへと飛ぶ。
《protection》
桜色の障壁と金色の光刃がぶつかり合い、小規模な爆発が起きた。
「なのは!」
「大丈夫! でも、あの子とは私が……!」
駆け出そうとしたユーノを、爆発が引いて無事な姿を見せたなのはが止める。
あの子は一人。それなら自分も一人でやらせてほしい! そう意思を込めて。
刹那、なのはの視界が陰る。
――上。
瞬く間になのはの真上へ移動していたフェイトが、落下する勢いのままに、光刃を失ったバルディッシュを振り下ろす。
なのははそれを、レイジングハートでなんとか受け止めた。
交差する二振りのデバイスが鍔迫り合いの様相を成し、それを挟んで、二人は至近距離で視線を交わす。
望んでいない争いに心苦しいなのはと違い、フェイトの顔には何の表情も浮かんではいない。
しかしそれは、あくまでも表情のみだ。
「(この子、なんでこんなに悲しそうな目をしているの……? 好きで戦っているわけじゃ、ないのかな? 何か、理由があって)」
なのはの中に浮かんだのは、そんな想いであった。
弾かれるように、二人は大きく後ろへ飛び退る。
《device form》
バルディッシュが。
《shooting mode》
レイジングハートが。
二人のデバイスが、同時にその形を変える。
フェイトから金色の魔力光が吹き上がり、その足下には魔法陣が。
なのはからも桜色の魔力光と、魔法陣が。
それぞれを包み、描かれる。
「貫け、轟雷!」
《thunder smasher!》
「撃ち抜いて……ディバイン!」
《buster!》
金色の光の奔流と、桜色の光の奔流が、二人の中間地点でぶつかり合った。
激しく火花……魔力光を散らすその余波で、互いの衣服と髪が大きくなびく。
砲撃魔法の撃ち合いは……互角――。
「レイジングハート、お願い!」
《all light》
……否。
桜色の魔力光が増し、金色の光を飲み込みながらフェイトへと一気に迫ると……その姿をも。
「なのは……凄い」
なのはより魔導師としての経験がある黒衣の少女の砲撃を、それ以上の力で押し返した姿は、ユーノになのはの潜在能力の高さを改めて伝える。
しかし魔導師としての潜在能力が高くても、今この場では積み上げてきた経験の差が表れてしまった。
大きく肩で息をするなのはの頭上から、一気に迫ってくる影。
砲撃では負けると判断したフェイトは、すぐに切り替えて次の行動に移っていたのだ。
「なのは! 上!」
「え!?」
先程と同じように、頭上から振り下ろされるバルディッシュをなんとか受け止めたなのは。しかし、今度は鍔迫り合いにならずに押される。
『ニャオーン!』
目を覚ましたのか、ずっと倒れていた子猫が起き上がってきた。
そして、それになのはは気を取られてしまう。
それを、フェイトは見逃さなかった。
「ごめんね」
それがどんな思いで呟かれたのか、それは本人にしか分からない。
「……あ!?」
力が緩んだ僅かな隙を逃さず、大きく横薙ぎにバルディッシュが振るわれて、堪えきれずになのはが吹っ飛んでいく。
「なのは!」
森の奥へと消えていくなのはを追って、ユーノが駆け出した。
「バルディッシュ」
《thunder smasher》
なのは達の方を見ることなく、フェイトは子猫にバルディッシュを向けると、砲撃を行う。
金色の光を受けて、悲鳴を上げる猫の中から姿を現す、青い瞳の様な宝石――ジュエルシード。
「ジュエルシード、確認」
《sealing form. set up》
金色の魔力光が、ジュエルシードと子猫を包み込んだ。
《order》
「ロストロギア、ジュエルシード。シリアル14、封印」
《yes sir》
元の姿に戻り、倒れている子猫。
フェイトはそこに――その上に浮かんでいるジュエルシードに歩み寄ると、バルディッシュを向けて青い宝石をその中へと収納する。
《capture》
「……完了」
用事は終わったとばかりに、マントを翻しながら背を向けたフェイトはその場を後に――
「待って!!」
……聞こえた声に、足を止めた。
止めてしまった。
何故? 無視するのは簡単だったはずだ。それなのに止まってしまった自分自身へと、フェイトは疑問を投げかけた。
フェイトはチラリと、声の方を見る。
走ってきたらしく、近くの木に手をついて大きく荒い呼吸を繰り返しているなのはがいた。
肩にユーノを乗せ、見るからに疲労困憊といった状態のなのはだが、その目は真っ直ぐにフェイトに向けられていた。
「出来るなら、もう私の前には現れないで。次は……手加減が出来ないかもしれない」
そう……フェイトはバルディッシュの光刃を、途中からあえて使わなかった。
フェイトにとって、なのはは大事な友人の姉。
それと、自身の考えから傷付けたくは無かった。
しかしそれは今回だけであり、次は消さない。
これは警告であり、その宣言。
ツイとなのはから視線を外すと、フェイトは再び前を向いて歩き始め――。
「名前! 名前を教えて」
「フェイト。フェイト・テスタロッサ」
再び足を止め、しかし今度は振り向かないままに言葉を返す。
「わたしは――」
これ以上の会話は必要ないとばかりに、なのはの言葉を遮って、フェイトは空へと飛び立った。
「あ……」
一回目と同様にその背中に手を伸ばすが、庭の木々に隠され、もはや姿は見えない。
今回も、その手は届かなかった。
ユーノが結界を解除すると、なのはもバリアジャケットを解除し、レイジングハートも赤い宝石の待機状態へと移行する。
「なのは……」
「大丈夫だよ、ユーノ君」
落ち込んでるだろう少女にユーノが話しかけると、微笑を浮かべたなのはが大丈夫と答えた。
そして、フェイトが去った方向に目を向ける。
「戦うことになって、理由もほとんど教えてくれなかったけど」
「うん」
「名前……教えてもらったから。だから、一歩前進、だよね?」
そう話す少女に、ユーノも頷いてみせた。
「……そうだね。必要としている事は分かったんだ。また、この先出会うことになる。その時に、また先へ進められたら良いんじゃないかな?」
「うん! 頑張ろう!」
そう言って笑ったなのはは、意識を取り戻した子猫を抱き上げると、屋敷の方へと戻っていく。
一連の様子を、ジッと見つめていた手のひら大の丸い物体――ガンビット。
小さな両翼を広げた戦闘形態のそれは、いつでも飛び込める状態にあって、終ぞ動くことは無かった。
刃を交えることで、伝わる何かがあることを知る主人の意思のまま、友人と姉のそれを歯を食い縛って見つめ続けた。
やがて翼を収納し、基本の球形に戻ったガンビットは課せられた任務のため、何処かに飛び去っていく。
※ ※ ※
「ご、ごめんなさい! なのはちゃん!?」
「えっと……」
「『これは……』」
庭の席に戻ってきたなのはだが、そこには誰も居なかった。屋敷の中に戻ったのかな? と、最初に案内された部屋に足を運んだのだが。
部屋に入ったなのはとユーノが見たものは、四者四様の有り様だった。
必死で笑いを堪えるアリサ。
ただただ呆然としているすずか。
パニック状態で、部屋に入ってきたなのはに謝り続けるメイドのファリン。
何とか部屋から出ようとしたのであろう。出口の方へと手を伸ばした格好で、うつぶせに倒れているルティシア。
その上で、運動会で毎年見かける組み立て体操の様に、積み重なった猫達だった。
少女の頭の上で寝転んでいるネコに至っては、どや顔である。
「『ユーノ君……どうしよう?』」
「『えーと……どうしようか?』」
「」
ルティシアが何か呟いたようだが、ネコ達の鳴き声にかき消され、誰にも聞こえなかった。
結局その姿を、各自が携帯電話で写真を撮ってから始めた猫下ろし。
ルティシアの救助が終わったのは、帰りの時間が近付いた頃だった。
夕方、いつも練習している山の麓。
「――ということで、あの子の……フェイトちゃんの詳しい目的は分からないままだけど。名前を教えてもらえたから、一歩前進かなって」
なのはが、今日の出来事を妹に語っていた。
その様子を例え見ていても、なのはが言わない限りは、自分もそこでのことには触れまいとしていたルティシア。
なのはが語る中に抜けがあったとしても、『自分が知らなくても良いことなのだ』と判断する。
例えその中に、レイジングハートを用いての接近戦が含まれていたとしても。
「そうですか。戦いになってしまった事は残念ではありますが、会話を行えたのですし、次回に向けての大きな成果と私も思います」
それはルティシアの、偽らざる本音でもある。
二人が争うのは、彼女も望んではいないからだ。
「うん! でも、言葉だけでは伝わらないみたいな事を言っていたから……。次に出会っても、お話はしてくれないだろうな……」
悲しそうに肩を落として言うなのはに、「大丈夫です」とルティシアが言葉を紡ぐ。
「姉さんが、次に彼女とどうしたいのかがはっきり決まったときに、強い意思を込めてそれを示したら良いのではありませんか?」
「なのは、キミならきっと出来るさ」
二人の言葉に、なのはは笑顔で頷いた。
「ありがとう二人共。一歩進めたのだから、焦らず考えてみるね!」
「次は負けないように特訓しよう!」という少女に、ルティシアとユーノは顔を見合わせて、頷き合うのだった。
※ ※ ※
某所にある某拠点。
「ただいま、アルフ」
「おかえりー、フェイト」
狼形体のアルフがベッドから飛び降りて、“帰宅した”フェイトを出迎える。
「どうだった?」と、尋ねるアルフの頭を、優しく撫でる。
それに気持ち良さそうに目を細めるアルフを見ながら、フェイトは取り出したソレを見せる。
「三つ目のジュエルシードを、手に入れてきたよ」
「ん~♪ さすが、あたしのご主人様だよ!」
「ありがとう、アルフ」
「ルティシアとか、白いのは大丈夫だった?」
「白い子とは戦ってきたけど、ルティはいなかった」
再びバルディッシュの中にジュエルシードを収納すると、待機モードへと移行する。
レイジングハートの待機モードと変わらぬ大きさである、金の台座に乗った三角形の宝石型。
テーブルの上にそっとそれを置くと、フェイトはアルフと話をしながら椅子に腰かけた。
「それで、白いのはどうだった?」
「まだそこまでではないかな? でも、魔力は高そうな感じだった」
「ま、フェイトの敵じゃないさ! 実際、余裕だったんだろ?」
アルフは喋りつつ、調理場の方へと移動する。
「もし怪我をさせたらルティが悲しむかなって、バルディッシュの刃は途中でやめた。戦闘には慣れてなさそう」
「それじゃ、問題無さそうだね。ルティシアとは……色んな意味で戦いたくないけどさ」
その子と戦い続けることになれば、妹だという彼女も、やがては前に出てくるかもしれない。
二人が目的を果たすためには、邪魔をするなら戦うだけではあるが、やはりどうにも気は進まなかった。
「うん。それに出来れば白い子とも、余り戦いたくは無いかな。名前を聞かれたから教えたけど、関わらないでとは伝えた」
今になっても、足を止めた理由は分からない。
名前を教えた理由はもっとだ。
「来たら、あたしがガブッといくから! それにしても、フェイトの母さんは、何でそんな石を欲しがるんだろうね?」
『ねえ?』と、顔を向けてきたアルフに、フェイトは頭を横に振って答える。
「分からないけど、母さんが必要って言うなら、集めるだけだよ」
「そうなんだけどさ……まぁ、とりあえずご飯にしよう?」
「うん」
手慣れた手つきで、名称が書かれたタグ付きのカードと、置き去りにされていたドッグフードを準備していた。
next
家族や友人達と行くら小旅行。
楽しいはずのその旅行で
ある人物に待ち受けしは……試練
ユーノ「無理!?」