魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その20 「無理!?」

 

 

 月村家で行われたお茶会から、数日後の学校。

 

 授業と授業の間にある休み時間は、どこのクラスでも賑やかだ。

 

 もちろんそれは、四人組のクラスも例外ではない。

 

「ルティちゃん、次の授業は何だったっけ?」

 

 なのはが終わった授業の教材を片付けながら、隣の席の妹に視線を移した。

 

「ルティちゃん?」

 

 見れば、今の授業に使っていたのとは別のノートが広げられており、それにびっしりと何かを書きこんでいるルティシアの姿があった。

 

「移動教室で、図書室だったはずです」

 

 不思議に思って覗き込んでくる姉の方を見て、鉛筆を置きながらルティシアが答えた。

 

 読みますか? と、ノートを差し出す。

 

 なのはが渡されたノートを捲ると、色々な科目の内容がびっしりと書かれていた。

 

 最初から、半ばまで埋まっているノートの中身を確認するなのは。

 

「ルティちゃん? ちなみに、これは何かな?」

 

「夏休みに出ると思われる宿題を予測して、先に下書きを書いています」

 

 妹のいつもの淡々とした声を聞きながら、ノートを返したなのはは黒板の端に書かれている日付を見る。

 

 そこにはきちんと、彼女が認識している四月という字があった。

 

「早すぎるよ!?」

 

「授業の進行速度と、細かい指定までは無理ですが、科目によってはほぼ予測出来ますしね」

 

 ドリル系の予想は外れないはずです、と既に宿題用ノートに書き始めているそれを取り出してみせた。

 

「相手の先を読んで行動するのは、戦術の基本です」

 

「宿題に戦術を当てはめなくても。わたしはいつも苦労してるのに……」

 

 何故か、姉から恨みがましい眼を向けられる理不尽さ。

 

「それは姉さんが遊びに全力、それ以外は暑さでバテているせいかと。その姉さんの宿題が、いつの間にか私の方に回ってくることの方が気になるのですが」

 

 なのはと視線を合わせようとすると、サッと逸らされた。

 

 その様子に、きっと今年もですねとため息を吐く。

 

 結局は、助ける自分自身も悪いのだが……。

 

「ちょっとー、早く行かないと遅れるわよ?」

 

「なのはちゃん、ルティシアちゃんも急いで~」

 

 教室の出入口から、アリサとすずかが姉妹を呼んでいた。

 

「ふぇ? え、もうこんな時間!? 急がないと! ルティちゃんのせいだよ」

 

「え、私ですか?」

 

 慌てて持っていく教材を用意し始めた姉を手伝いながら、ルティシアは小首を傾ける。

 

 ずっと待っていてくれた二人のもとへ、急ぎ姉妹は駆け寄った。

 

「ごめん、お待たせー!」

 

「ごめんなさい、お待たせしました」

 

「ううん、まだ間に合うから大丈夫だよ」

 

「おそーい! すずかもビシッと言わないと!」

 

 喋りながら、四人はやや早足で移動する。

 

 しかし途中、前を行くすずかとなのは達から離れるように、アリサがペースを落とし始めた。

 

 それに気付いたルティシアも、それとなく速度を落とす。

 

「どうかしましたか、アリサ?」

 

 

「あんた、先週なのはが落ち込んでた理由、知ってるんでしょう?」

 

 アリサは、声を潜めて訊ねてくる。

 

「はい。ある程度、ではありますが」

 

「お茶会の後と今日の様子を見る限りじゃ少しは持ち直しているみたいだけど、実際の所はどうなのよ?」

 

 ルティシアを見るアリサの表情からは、心配と不満といったモノが感じられた。

 

「……そうですね。解決はしていませんが、好転する兆しが見えたといったところでしょうか?」

 

 ルティシアの口から全部を言うわけにはいかない。

 

 しかし、アリサ(そして、恐らくはこれに協力しているすずかも)の心配する気持ちも分かる。

 

 よってルティシアは、言える範囲で今の状況を伝えることにした。

 

 ただそれへのアリサからの反応は、ん? という怪訝そうな声だった。

 

「微妙に曖昧な感じがするんだけど、あんたも全部は知らないの? さっきも、ある程度と言ってたし」

 

「さすがに、私も全部はちょっと」

 

 正確には真実ではない。

 

 しかし、なのはからある程度の説明を聞いてはいるものの全てではないため、まるっきりのウソという訳でも無い。

 

 しかしガンビットで見た二人のやりとりは自分が言うべきことではないし、言えるようになった時にはなのは自身が話をするだろうから。

 

 その言葉を信じたアリサの表情が蔭っていく。

 

「あの子は……一人で抱えるつもりかしら」

 

「姉さんは、今回の事は自分で考えて進めていきたいと言っていました。であれば、私はそれを見守るだけです。一人で抱え込まないように、出来るだけ気を付けはしますが」

 

 む~、と不満を表すアリサをルティシアが宥める。

 

「アリサの相談してくれない、助けたいのに力になれないという気持ちは分かります。ですが、もうしばらく見守ってみませんか? 姉さんも、今は気持ちの折り合いがつかないだけで、そのうち話してくれると思います」

 

 ルティシアの顔をじっと見つめていたアリサだが、少し間を置いて「分かったわよ」と、ため息を吐く。

 

「でも、ルティシアから見て、あたし達に出来そうなことがあったら絶対に言いなさいよ? すずかも心配してるんだから」

 

「いつも通り、で良いと思います。それが、姉さんに一番良いでしょう」

 

「ん。いつも通り、ね」

 

 頷くアリサ。

 

 良い友人達です、と心の中で呟くルティシアの横で、アリサはニヤリとした笑みを浮かべる。

 

「課題は夏休みになってからしなさいよ!」

 

「それを持ってくるのですか……って、もしかして私に不満をぶつけようとしていませんか?」

 

 歩きながら器用に揺さぶるアリサに、ルティシアは確認を込めて問う。

 

「姉の代わりに、素直にぶつけられなさい!」

 

「それは理不尽です」

 

 図書室を通り過ぎていて結局ギリギリになった二人ではあるが――アリサの顔からは不満の色が消えていた。 

 

「なのはもすずかも、来ていないなら教えなさいよ」

 

 本を選びながら、先に教室に入っていた二人にアリサが文句を言う。

 

「ご、ごめん。二人が仲良くお喋りしてたから、邪魔しちゃ悪いのかなって。ね、すずかちゃん?」

 

「うんうん。二人共、ごめんね?」

 

 誤魔化し笑いをしながらのなのはと、申し訳なさそうにはしつつもニコニコ笑っているすずか。

 

 アリサとの会話の時間を作るためなのはを上手く誘導していたらしいので、こちらは確信犯だろう。

 

「お喋りは最初だけで、後は私が一方的にされていた気がしますが」

 

「でも、それっていつもだよね? すずかちゃん」

 

「う、うん」

 

 ルティシアの訴えは、軽く流される。

 

“いつも通り”が姉に届いているならと、ルティシアも納得……モヤモヤするものが残るが、することにした。

 

 すずかと共に別の棚に移動したアリサをそんな思いで見つめていたルティシアだが、手早く本を選ぶと席に戻っていく。

 

 端の席につき本を開いた彼女は、用紙を取り出すとすぐに何かを書き始める。

 

 左隣の席に、戻ってきたなのはが座る。

 

 何冊か持ってきてはいるが、上下巻本の片方だけだったりシリーズ物で間が無かったりと、適当に選んだ感じである。

 

「とりあえず、ユーノ君と魔法のお勉強を」

 

 周りに誰もいないことを確認し、そういう事を言っている位だ。

 

「姉さん、黒板」

 

 手を止めない妹にそう促されなのはが黒板を確認すると、そこには大きく『読書感想文を来週提出』の文字が書かれている。

 

「ふぇ!? ど、どうしよう!?」

 

「どうしようも何も、本を選んで感想を書くしかありません。頑張って下さい」

 

「って、まさか今書いてるのって……」

 

「感想文です」

 

 国語を苦手とするなのはにとって、読書感想文は天敵であった。

 

「ぅぅ……本を選んでくるね」

 

「はい。書きやすい本を選んで下さいね……下書きをしやすいものを」

 

 結局、何だかんだで助けてくれそうな妹に笑みを浮かべるなのは。

 

「あれ……?」

 

 しかし、そこに違和感があった。

 

 間違ってはいない構図だというのに、何かが違う。

 

 ジッと妹の手元を凝視する。

 

 開いている本は……工芸品が載っていた。

 

 次に、用紙。

 

 その一行目。――漂流記を読んで。

 

「全く違う本だよ、ルティちゃん!?」

 

 小声で抗議する。

 

 それに、ルティシアは大丈夫ですと答えると、自分の頭を指した。

 

「内容は全部頭の中にありますから」

 

 酷いとか色々言いながらも、席を立って本を探しに向かうなのは。

 

 ヨロヨロとした後ろ姿を見送りながら、向かいの席にアリサとすずかが座る。

 

「あの様子だと、読書感想文に気が付いてなかったみたいね。なのは」

 

「そうみたいだね。なのはちゃん、明日からの連休明けにすぐ提出まで、頭に入っているのかな?」

 

 なのはが聞きたくない現実を話しながら。

 

「ふっふっふ。ま、少なくとも、明日からの旅行中は書かせないわよ!」

 

 アリサが黒い笑顔を浮かべながら、そう宣言する。

 

「ア、アリサちゃん? ルティシアちゃんはもう書き始めてるんだね」

 

「はい」

 

 ルティシアのそれを見ても、図書館でよく一緒になるすずかは既に、ルティシアの速読や記憶については驚かない。

 

「ルティシアも、あんまり他人が見たら変に思うことをしないように。何で、工芸品の信楽狸を見ながら漂流記を書いてるのよ?」

 

「ちょっと懐かしさを感じまして」

 

 アリサは既に、すずかから話を聞いた上で体験済みである。

 

 今でこそ何とも思わなくなっていたものの、初めて見た時は速読術と合わせて思わず唖然とさせられた。

 

 直後に、『あんたは、もうちょっと普通に出来ないの!?』と、彼女を張り倒したというエピソードもあるのだが。

 

「そういえば、ルティシアの感想文を読んだ先生が、論文を読んでるみたいだって嘆いてたけど?」

 

「変ですね。書かれた時代やその背景などを踏まえた上で、感想を書いているのですが」

 

「やっぱりあんた、どっか間違ってるわ」

 

「ルティシアちゃんの、感想文というよりは考察文だよね」

 

 首を傾げる姿を見て、両極端な姉妹にアリサがため息を吐く。

 

 そのやりとりに苦笑しながらも、冷静にそう指摘するすずか。

 

 そして、彼女のそれは正しかった。

 

 本国に居た頃からルティシアがよく読んでいたのは戦術書であり、それが生まれた背景などを交えて考察することで、編み出された後の応用などを学んでいたのだから。

 

 そして、それと感想文を一緒に考えていた。

 

「なのはちゃんが提出している方は普通だから、それもあって気が付かれ難いのかも」

 

 無論、なのはの下書きをルティシアが書いている事は、二人はとうに知っている。

 

「どっちにしろ、そんなものを読まされる方が嫌ね」

 

 三人でそんな会話をしていたところ、なのはが本を持って戻ってきた。

 

「明日からの旅行、楽しみだね」

 

 そんなことを言いながら席につくなのはは、流れるような動作でルティシアに本を渡す。

 

「そうだね~。私もお姉ちゃんも、ノエルとファリンも楽しみにしていたから」

 

「あたしも!」

 

 笑顔で返す二人。

 

 ただしアリサは、受け取った本を見て下書きの準備を始めるルティシアに、ジト目を向けていたが。

 

 この後、「当たり前のようにしないで、自分でやらせなさい!」と、至極当然のやりとりがあった。

 

 翌日からは、連休が始まる。

 

 年中無休で営業している喫茶翠屋も、この間は特に予定がない他の店員に任せて、士郎や桃子も一緒に家族旅行に赴くのである。

 

 今回の旅行は、高町家と月村家、そして単独参加のアリサという大所帯。

 

「出発するぞー? 忘れ物しないようにな」

 

「美由希、ルティシアを忘れないようにな」

 

「大丈夫、恭ちゃん。ちゃんと、車まで抱えていくから」

 

 士郎の呼び掛けの後の兄姉のそんなやりとり。

 

「兄様、みゅー姉さん。私の扱い、酷くありませんか?」

 

 美由希に腰から抱えられているルティシア。

 

「体が水害で休みます、は苦しいと思うよ? ルティちゃん。ね、ユーノ君?」

 

「きゅ」

 

 水害というよりは、長時間水に触れていると危険、である。

 

 人数が多いため、車二台での移動となった。

 

 前の車の運転席に士郎が座り、助手席に桃子。

 

 中央の席に美由希、後部座席に四人組。

 

 後の車の運転席にはすずかの姉の忍、助手席には恭也、後部座席に月村家のメイドのノエルとファリンが座っていた。

 

 ここ最近見せていた悩んでいる表情ではなく、普通に笑顔を見せているなのはに、アリサもすずかも嬉しそうな表情を見せている。

 

 その様子に、景色を見るべく顔を外に向けているルティシアも、知らず微笑を浮かべていた。

 

 そのまましばらくは三人で会話を楽しんでいたのだが、まだ時間がかかりそうだからとすずかがウ○を取り出した。

 

「私は○ノのルールを知らないのですが」

 

「説明書あるから、ルティシアちゃんはこれを見ながらしてね?」

 

「分かりにくい所は教えてあげるわよ。ま、あんたならすぐ覚えるだろうけどね」

 

「あ、これならわたしも教えてあげられるよ!」

 

「分かりました。お手柔らかにお願いします」

 

「順番はどうしよう?」

 

「じゃあ、端のあたしから順番でいくわよ? んで、すずか、なのは、ルティシアで」

 

「カード切ったから、配るね。ルティちゃん、いくよ?」

 

「はい」

 

 ………五分後。

 

「ワイルドドロップ4の黄色にドロ2を」

 

「甘い! スキップ」

 

「あ、飛ばされちゃった」

 

「ふぇ!? ど、ドロ2」

 

「さらにドロ2」

 

「まだ持ってた!? でもね……リバース! あんたに全部返すわ、ルティシア!」

 

「スキップ2です」

 

「ん? また、ルティちゃん?」

 

「はい。そして、リバースでウノです」

 

「な……っ!? この、覚えてなさいよ! 次に、何としても……ふふふ」

 

「あ……アリサちゃんドンマイ。でも、ルティシアちゃん、宣言まで早かったね。スキップ」

 

「あ、すずかちゃん。ひどい」

 

「スキップで終わりです」

 

「ル~ティ~シ~ア~! 嫌がらせ? 嫌がらせよね? よく分かったわ」

 

「えっと、ルール合っていますよね?」

 

「ア、アリサちゃん、ごめんね? 次、ドロ二で私もウノ」

 

「ふぇー!? さりげなく酷いよ、すずかちゃん」

 

 和やかに車内の時間は過ぎていき、目的地の海鳴温泉へと到着。

 

 古き良きものを残しながら、新しいものを取り入れた佇まい。

 

 案内された部屋に荷物を置いたら、自由時間。

 

 士郎と桃子は散策にと二人で外へ出ていった。

 

 他のメンバーは、温泉に来たからには入らないと! ということで、いそいそと用意を始める。

 

 一人以外は。

 

「のんびりしようということですし、一休みしましょうか」

 

 部屋に置かれている椅子で休む気満々である。

 

 もちろん、それが許される筈もない。

 

「あんたは、本っ当に協調性ないわね!?」

 

 車内での恨みもあるのだろう、アリサがルティシアの襟首を掴む。

 

「アリサ、ゆっくり休むことも大事なことです」

 

 ルティシアは真後ろにいるアリサへと声をかけ……ていると、両サイドからなのはとすずかがやってくる。

 

 なのはの手には、浴衣を始めとするお風呂セットが二つ。

 

「アリサちゃん、抑えて抑えて。ルティシアちゃんもそう言っているだけで、一緒に行くから」

 

「うんうん。じゃあ、ルティちゃん行くよ? お姉ちゃん、お願い~」

 

「オッケー。じゃあ、みんな行こうか!」

 

 すずかとなのははアリサを宥めつつも笑顔でルティシアを見ており、妹の呼び掛けでやってきた美由希がニンマリとした笑みで、ルティシアを抱えあげる。

 

「いえ、この場合は私の意見も……」

 

 そして、女性陣は桃子以外が温泉へと向かうのだった。

 

 このメンバーで、拒否権の行使など許される筈がない。

 

 広い脱衣場の中には、このメンバー以外には二人しか居なかった。

 

 スタイル抜群の身体をバスタオルで包み、入ってきた一行を興味深そうに見つめるオレンジ髪の女性。

 

 こちらに背中を向け、薄紫色の浴衣へと着替えている少女。頭に巻いているタオルからは、輝くようなプラチナブロンドの髪が少しだけ見えている。

 

 一行も、はしゃぎながら着ている物を脱いで、備え付けのかごの中へ入れていく。

 

「『ねえ、ユーノ君は温泉に入ったことはある?』」

 

 連れて入ってきたユーノは何故か、ずっと壁の方に向いていた。

 

「『う、うん。あるよ、公衆浴場だけど……』」

 

「『温泉は良いよ~』」

 

「『へ、へ~……』」

 

 ユーノの近くにあるかごに、なのはの服が入れられていく。

 

 そちらに視線を一瞬向けてしまったユーノの全身から、ブワッと冷や汗が吹き出る。

 

「『な、なのは……? あの、ぼ、ボクはやっぱり、恭也さんと一緒に男湯の方に、に……あ!?』」

 

「『何で?』」

 

 冷や汗をダラダラ流すフェレットを、不思議そうになのはが持ち上げる。

 

 ルティシアは目立たないように、オレンジの髪の女性の近くへ移動する。

 

「ここで何をしているのですか? アルフ」

 

 服を脱ぎながら、小声で女性――アルフに話しかける。

 

「フェイトがこの近くに石ころがあるかもっていうからさ。調査に来たんだよ。そっちもアレ狙いかい?」

 

 気を利かせたアルフも小声で応じた。

 

「違います。こちらは、家族や友人達と旅行ですよ。石があること自体知りませんでしたし、姉さん達も気が付いていません」

 

「家族……ね」

 

 そう呟いたアルフは、どこか辛そうだった。

 

「ま、あたしはフェイトに接触したという白い子を見に来たのさ。宿に入ったのは見えたし」

 

「互いが互いを高めあう戦いであるなら気にしませんが、それがただ傷付け合うというのなら、私も割って入らざるを得ません」

 

「あたしも、あんたとはやりたくないんだけどねぇ。あの白い子次第だよ」

 

「アルフも怪我をしては駄目ですよ? フェイトが悲しみます。私としても、知人……知狼? が傷付くのは見たくありません」

 

「言われるまでもないよ」

 

「そうですね。出来るならば、もっと穏便な出会いをさせたかったのですが」

 

「今となっちゃ、難しいだろうね。こっちも、絶対に退けないからさ」

 

 浴衣を着たアルフはそのまま外へ出ていく。

 

 もう一人もいつの間にか姿が見えなくなっていたため、中には一行だけとなった。

 

 ルティシアも着ていたモノを脱いで、かごの中に放り込む。

 

 そんなルティシアの後ろから、バスタオルを巻いたなのはが近寄ってきた。

 

「ねえ、ルティちゃん。ちょっと良いかな?」

 

「どうかしましたか、なの姉さん?」

 

 今は美由希も近くにいるため、家族間での呼び方に変える。

 

「ユーノ君、このまま中に連れて入っても大丈夫だよね?」

 

「この旅館自体も大丈夫でしたし、入口に注意事項も無かったため大丈夫と思います。ただ、毛などは気を付けた方が良いかもしれません」

 

「だよね」

 

「ところで、ユーノはどうして白眼を向いているのですか?」

 

 なのはが胸に抱いているユーノが、遠い世界に意識を飛ばしていた。

 

「さあ? さっきからちょっと変かも、ユーノ君」

 

「そうなのですか? ユーノが邪な考えをしているようならスカーレットニードルを撃ち込むのですが、体調が悪いなら休ませた方が良いかもしれませんね」

 

「えと、スカーレットニードル?」

 

蠍座(スコーピオ)が持つ技の一つです。聖闘士達の扱う技の中で、最も慈悲深いと言われています」

 

「へ~」

 

「全部で十五発、その間に相手には降伏か死を選ばせます。一撃ごとに激痛が走るため、十五発まで保たずに倒れる事も多々あるみたいですが」

 

「じ、慈悲深い……?」

 

「慈悲深いかと。私なら十五発一気に撃ちます」

 

 淡々とそんなことを言っているルティシアの声を聞きながら、なのはの頭の中。

 

「『なのは、やっぱり無理だから!? 今からでもボクは恭也さんと!』」

 

「『あ、起きた? ユーノ君。いくよ~?』」

 

「どうでも良いけど、あんたもバスタオル巻いたらどうなの?」

 

「しかし、温泉を楽しむなら何も身に付けない方が良いと、ガイド本にありましたが」

 

「うーん、それはそうなんだけどね。もっと――」

 

 すずかと忍、なのはと美由希、ルティシアとアリサに分かれて背中を流し、温泉に入る。

 

 

 

 

 ルティシアの体質の事を知って(聞いて)いる三人は、出る時間を揃えて温泉から上がった。

 

 浴衣に着替えた四人組(+ユーノ)は、土産物を扱う売店を軽く確認すると、卓球台へ。

 

「アリサちゃん、隣の台を見たら駄目だよ?」

 

「なのはは特に、ね」

 

「ひどいよ!?」

 

 運動が苦手ななのはに合わせて、軽くゆっくりなラリーをしている横の台では……ルティシアとすずかの激しいラリーが行われていた。

 

 縦横無尽、来往自在。

 

 ラケットを、球を、体を動かし続けている。

 

 

 

 

 

 数時間楽しんだ後、再び温泉に入って汗を流すと、夕食。

 

 夕食を食べたら、布団を用意して団欒の時間。

 

「いやー、遂にすずかがルティシアに勝ったわね」

 

「偶然だよ~。ルティシアちゃんが、浴衣に慣れていなかったせいかも」

 

 上機嫌なアリサと、どこか嬉しそうなすずかを見ると分かるように、卓球勝負はすずかに軍配が上がっていた。

 

「ルティちゃんも負けちゃったけど、良い勝負だったよね?」

 

「そうですね。それに、浴衣で動く良い機会になったと思います」

 

 自身もアリサに破れ、ルティシアのまさかの敗北によりなのははとても残念そうだった。

 

「じゃ、明日も卓球は決定ね! すずか、頑張って連勝よ!」

 

「うん! ルティシアちゃんを相手に連勝は難しいけど、頑張ってみるね」

 

 あちらはあちらで、勝った本人よりもアリサの方がテンションが高い。

 

「む……明日は、わたしもアリサちゃんに負けないから、ルティちゃんも頑張って!」

 

「分かりましたが、普通に楽しむのではいけないのですか?」

 

「ふふーん。返り討ちにしてあげるわ!」

 

「あ、あはは……」

 

「『なのは。途中から時々ルティシアの動きが止まっているように見えたけど、浴衣って着なれてないとそんなに動きにくいの?』」

 

「『う~ん……そうなんだけど、ルティちゃんは戦う時に特に激しく動くから、余計かも? 学校の制服以外だと、ズボン姿か戦闘衣だし』」

 

「『なるほど』」

 

「なのはー? 今からみ・ん・な・で・ウノしない? やるでしょ? やるわよね?」

 

「あ、アリサちゃん。やるよー!」

 

 念話を中断して、みんなの方へ。

 

 人数が増した関係で、色々な駆け引きが行われる中――某人の攻撃がとある人物にばかり集中され、就寝前の時間に暴れる出来事があった。

 

 

 

 

 そして、夜も更けた頃。

 

 部屋を抜け出したルティシアは庭園から外へ、木々の枝から枝へと跳び移りながら移動していた。

 

 赤い月が照らす、月匣の中心となっている場所を目指して。

 

 ジュエルシードは発動していないらしく、なのはもユーノも目覚めていなかった。

 

 念の為にガンビットを一基残しておいたが、相手が魔族だけであるならば、二人を呼ばずに自分だけで戦うつもりである。

 

 フェイトとアルフも探索に来ているようだが、ジュエルシードの反応でなければ動くかどうかは分からない。

 

 何よりも、姉と同様にジュエルシードと無縁な敵だけであるなら、より高い危険があるこれには巻き込みたくは無かった。

 

「卓球をしていた時に、時々身体が動かなくなりました。いつかの麻痺みたいでしたが」

 

 月匣の中心地。

 

 そこに、いたのは紫色の見るからに毒というキノコだった。

 

「これでしょうか? とりあえず調査して、対処を――」

 

 木の上から確認し、観察のため降りようとした時だった。

 

「よく来たみゃー」

 

 キノコの正面に人みたいな顔が現れ、手足が生えてくる。

 

 立ち上がったキノコの周りに、デフォルメされた恐竜のような緑色のロボットが複数現れた。

 

 ルティシアは眼下のそれらを確認すると、無言で身構える。

 

 人面紫キノコは手で頭をポフポフと叩いて胞子と思しき粉をばらまきながら、その目を禍々しく赤く染めた。

 

「とりあえず、お前のマナを捧げろよにゃー? 今夜は、贄の宴」

 

 赤い月が照らす異界の森と化した月匣内で、魔の宴が宣言された――。

 

 




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普段と違う戦い


慣れぬ戦いの影に隠れ


刃は静かに狙いを定める

なのは「そんなのずるい!!」
 
 
 
 
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