魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その22 「負けない、許さない」

 

 

 青い――否、蒼い月が浮かぶ、異界と化した森の中で。

 

 確かに彼女は油断していたかもしれない。

 

 おかしな化けキノコと出会い、配下らしき無数の恐竜ロボとも戦闘になった。

 

 数を武器に戦う敵との戦闘の最中、フェイトとアルフが、なのはとユーノが駆け付けた。

 

 ジュエルシードを巡って戦った二人が、友人を……妹を助ける為に協力する。

 

 おかしなキノコを協力して倒し、一息をついた所で――それは現れた。

 

「死の定めからは逃げられんぞ」

 

 少女の身体が硬直した。

 

 全身を襲う、麻痺によって。

 

 そして唐突に、何の前触れもなく背後に現れたそれは、手にしていた漆黒の鎌を振るい――。

 

 ねじ曲がった刃は、動けなかったルティシアの胸を……貫いた。

 

「ぅ、あ………!」

 

 刃が体を貫く感覚と同時に、自分の中の何かが損傷する感覚。

 

 少女が視線を下に向ければ、半透明な刃が背中から貫通しているのが見える。

 

 出血は伴わず、纏う獅子座の聖衣にも傷は無い。

 

 しかし、体を貫かれた確かな痛みはある。

 

“スルリ”と刃が引き抜かれると同時に、少女は前のめりに倒れた。

 

 その身を覆っていた聖衣は外れ、ルティシアが首にしているネックレスの飾りの一つへと、戻っていく。

 

「ルティちゃん!?」

 

「ルティ!」

 

「ルティシア!?」

 

「ルティシア! この、よくもやってくれたね!」

 

 なのはとフェイト、ユーノがルティシアの所に駆け寄り、アルフが現れたそれに爪を振るう。

 

「――熱っ!」

 

 それの纏う炎が、アルフを焦がす。

 

 赤い炎を纏った、兜やいかつい金属鎧といった戦士装束の若い男。

 

 鎌を持つのとは別に、複数の手が炎の中に隠れている。

 

 傷痕も何も残っていないが、貫かれた場所を押さえながら頭を持ち上げると、ルティシアはそれに視線を向けた。

 

 そして、記憶にあったその名を口にする。

 

「……高位魔族、大貴族が一体。火炎のアウナス」

 

 以前のアラケスや荒神同様、封印されているはずの存在。

 

「くくく、ワシを知るものがいたか。……まぁ、何でも良い」

 

 愉快そうに兜から見えている顔を歪め、一同を眺める。

 

「お主らのマナを貰う。ワシの力の為に」

 

 鎌を構え、その身からは炎と共に瘴気が吹き上がった。

 

 迫るそれらから守るために、ユーノが半球状の防御壁を作る。

 

「ちょっと! なんなんだい、あいつは!?」

 

 寄ってきた瘴気はユーノの防御壁に阻まれ事なきを得ており、戻ってきたアルフがその相手に苛立たしげに唸った。

 

「分かりやすく言えば……かなり強くて悪い敵……です」

 

 胸の痛みと共に全身を襲う麻痺、それでもルティシアは声を振り絞って喋る。

 

「ルティちゃん! しっかりして、大丈夫!?」

 

「ごめんなさい。ちょっと麻痺で、動けません。……あと」

 

 屈むなのはに、何とか顔を向けて。

 

「……魔晶石を損傷したため、補助魔法も……この月……アビスの月の力で、聖衣の力も阻まれています」

 

 光を許さぬ魔の月が、黄金の光を阻害していた。

 

「僅かに牡羊座の回復フィールドの力は残っていますので、時間はかかるでしょうが、それで。しかし、ユーノも長時間の障壁の維持は厳しいと思いますので、私を置いて――」

 

「じゃあ、レイジングハートもユーノ君と一緒にルティちゃんを」

 

「――倒さないと」

 

 ルティシアから話を聞いていたなのは。その傍らにいたフェイトが、アウナスを見据えながら呟く。

 

「フェイトちゃん……?」

 

「……ジュエルシード」

 

「えっ?」

 

「鎧の、胸の中央辺り」

 

 慌てるなのはに、フェイトは冷静にある一点を指差した。

 

 纏った炎で見えにくくなっているが、鎧の一部にはめ込まれている――青い瞳状の石を。

 

「……ふむ」

 

 指されたそれを見て、なのはが驚き、アウナスは自らの青い石を撫でる。

 

「この石は良いものだ。ワシにとっては特に……な。無力な精神体であったワシが、肉体を手にいれることが出来たのだから!!」

 

 力を取り戻しつつある歓喜にうち震えながら。

 

「完全にはまだ戻っていないが、念願の若さある肉体を手に入れた。……後は」

 

 一同を、特になのはとフェイトの二人に視線を向けたアウナスは、ニンマリと笑みを浮かべる。

 

「維持する為に、マナを手にいれるまで……!」

 

 狂気の表情で、両手に持った鎌を真横に構えた。

 

「烈風剣!」

 

 鎌を逆側へと振り抜く。

 

「レイジングハート、お願い!」

 

《protection》

 

 ユーノの障壁と合わせて二重となったそこへ、圧縮された空気が叩き付けられると同時に、風の刃が襲いかかった。

 

「いつまで保つかな? さぁ、無駄なことをせずワシにマナを捧げよ!」

 

 フェイトはチラリとルティシアを見る。

 

 意識を失ったのか、倒れ伏している大事な友人。

 

 真っ直ぐにアウナスを見据えると、バルディッシュを構えた。

 

「絶対に負けない、負けられない。そして……許さない!」

 

 なのはは、倒れ伏しているルティシアを見る。

 いつも前に立って護ってくれているその姿は、今は立つことすら出来ないでいた。

 

 アウナスを真っ直ぐに見つめると、動揺して震える体を、心を奮い立たせてレイジングハートを構える。

 

「絶対に助けるから! 少しの間、待っててね」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 どことも知れぬ不思議な空間。

 

 水晶玉に映っている光景を見ていた人物が、近くで作業をしているもう一人の人物を気まずそうに呼ぶ。

 

「あ……。あ~……。アーちゃんアーちゃん」

 

「はい? どうかしましたか?」

 

「ごめん」

 

「はぁ……。また何をやらかしたのですか……?」

 

「謝ったら、すぐにそう言われるのは気になるんだけどなぁ。ちょっと駒が暴走してるみたい」

 

「駒が、ですか? 私が見ていない間に何をしたのですか……」

 

「あたしが直接したんじゃないよ? 前に作って捨てたのが、暴走してるだけだって」

 

「貴女のせいで合っていますよね?」

 

「……あれ?」

 

「……なるほど、アレですか。まずですね、アレを捨てた理由が既に問題です」

 

「外見が、予想と違ったからだよ?」

 

「封印される以前の外見なんか、調べたらすぐに分かることではありませんか」

 

「まあ、置いといて。そのせいで、駒の願望と上手く噛み合っちゃったわけなんだよ」

 

「誤魔化しましたね? 守護者見習いはどうしましたか?」

 

「注意一秒、怪我一生……だっけ?」

 

「ゲーム参加対象者は?」

 

「戦ってるけど、まだきついんじゃない?」

 

 黒いシルエットに包まれた片方の人物は、頭痛をこらえるかのように額に手を当てると、ため息と共に頭を横に振る。

 

「私が行くのは予定より早いですが……」

 

「じゃ、ここはあたしが行こうかな」

 

「うっかりで、ここまで進めたゲームを壊すから駄目です」

 

「じゃ、どうするの?」

 

「このまま見る、で良いのではありませんか? 本来の力ならともかく、あの程度ならギリギリ越えられると思いますが」

 

「アーちゃんの言う『ギリギリ』は、本当に危ない一線だけどね。大体、アーちゃんはまだ“見ない”でしょ?」

 

「“見たら”、本番がつまらないではありませんか」

 

「見ても見なくても、結果は一緒だと思うけどな」

 

「うふふ。……それに大丈夫ですよ? こんなこともあろうかと、保険はいくつか用意してありますから。どれが発動するかは分かりませんが」

 

 

「本当に、細かい所を用意するの好きだね。アーちゃんは。……って、ちょっと待って。こんなこともあろうかとって、なに? あたしが何かするって……アーちゃん、ちょっと」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「バルディッシュ。フォトンランサー、連撃」

 

《photon lancer. full auto fire》

 

 放たれた数条の雷光。しかし鎌の一振りで、その全てが薙ぎ払われる。

 

 アルフとユーノ、二方向から魔力で編まれた光の鎖が伸びて、アウナスを縛り上げる。

 

 そこを桜色の光の奔流が襲う。……が、それは立ち塞がる炎の壁によって阻まれる。

 

 ファイアウォール。

 

 本来は炎や冷気を防ぐだけのそれは、一種の障壁の様になっていた。

 

 衰えた力の中で、唯一つ威力を増したモノ。

 

 ディバインバスターを受けきると、今度は攻性障壁となって、逆になのはに襲いかかる。

 

 それをプロテクションで防いでいる間、死角から、金色の三日月条の刃がアウナスめがけて飛んだ。

 

 直撃した刃を受けてもものともせずに、アウナスはバインドを放つ二人に熱風をぶつける。

 

「せいぜい抵抗して、絶望とマナを捧げよ」

 

 言い放つと、歪んだ笑みを浮かべる。

 

「フェイトちゃん、まだ大丈夫?」

 

「大丈夫。なのはは?」

 

「わたしもまだ大丈夫!」

 

 アウナスからやや距離をとって、二人は並び立つ。

 

「ちょっと、きついね」

 

「うん。……でも、負けられない」

 

 

 

「それに、ルティちゃんも戦っているはず。何だかんだで、負けず嫌いだから」

 

 アウナスを挟んで反対側――。

 

 ユーノと共にいるルティシアの方を見て――二人は再度、攻撃を仕掛ける。

 

 ――なのはが預かったままのガンビットが、小さく動いた。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 身体が動きません。

 

 麻痺のせいなのか、魔晶石が大きく損傷したせいなのかは分かりませんが。

 

 周りは真っ暗で、何も見えません。

 

 みんなが戦っていることは分かっているのに。

 

 魔族を相手に、戦わなければならない私が戦えず、動けないなどあってはならないことだというのに。

 

 護ると決めた、助けたいと思った相手が、今まさに傷付いているかもしれないというのに。

 

 父様や母様、兄様、みゅー姉さんにも頼まれたというのに……!

 

 これではいつかセイティーグに帰った時に、姉様達が帰還された時に、胸を張って会うことなど出来ません!

 

 魔法が使えなくても、聖闘士達の力が制限されてしまっても、手持ちのミストを全て使えば――。

 

「――はい、隙あり」

 

「……え?」

 

 頭を衝撃と共に痛みが襲い、闇の中にはいくつもの星が飛ぶ。

 

 同時に足下の方から、派手な金属音が聞こえてきました。

 

 ズキズキと痛む頭を押さえながら、閉じていた目を開けて周りを見渡せば……室内?

 

 私は森にいたのでは?

 

 いつの間に室内に?

 

 しかしここは……どこか見覚えのある場所ですが。

 

「どうしたの? 隙だらけよ?」

 

 今度は頭の押さえているのとは別の場所に、巨大な鈍器で殴られたかのような痛みと衝撃が。

 

 思わず両手で頭を押さえながらうずくまると、さっき落とした練習用の細身のシンプルな片手剣が視界に入る。

 

 それと、歩み寄ってきた青い靴。

 

 見上げれば、私の燃える炎のような真紅の髪や瞳とは対称的な、澄んだ湖の如く青い髪と瞳の女性。

 

 私達、〔セイティーグの娘〕の初期メンバーにして長姉。

 

 会いたかった顔には、呆れと心配が半々の表情が浮かんでいます。

 

 でも、まずは――。

 

「……痛いです。アリシア姉様」

 

 私の抗議に、アリシア姉様は鞘に入った両手剣を片手で肩にかつぐと、表情を占めていた呆れが一層強まりました。

 

「鍛練中にボーッとするからですよ? 常に実戦中、常在戦場の心意気。守力至宝。大切なものを守り抜くために、油断は禁物です。ほら、早く立って、もう一度」

 

 

 

 それは過去にあった、未来に繋がる物語。

 

 




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