青い――否、蒼い月が浮かぶ、異界と化した森の中で。
確かに彼女は油断していたかもしれない。
おかしな化けキノコと出会い、配下らしき無数の恐竜ロボとも戦闘になった。
数を武器に戦う敵との戦闘の最中、フェイトとアルフが、なのはとユーノが駆け付けた。
ジュエルシードを巡って戦った二人が、友人を……妹を助ける為に協力する。
おかしなキノコを協力して倒し、一息をついた所で――それは現れた。
「死の定めからは逃げられんぞ」
少女の身体が硬直した。
全身を襲う、麻痺によって。
そして唐突に、何の前触れもなく背後に現れたそれは、手にしていた漆黒の鎌を振るい――。
ねじ曲がった刃は、動けなかったルティシアの胸を……貫いた。
「ぅ、あ………!」
刃が体を貫く感覚と同時に、自分の中の何かが損傷する感覚。
少女が視線を下に向ければ、半透明な刃が背中から貫通しているのが見える。
出血は伴わず、纏う獅子座の聖衣にも傷は無い。
しかし、体を貫かれた確かな痛みはある。
“スルリ”と刃が引き抜かれると同時に、少女は前のめりに倒れた。
その身を覆っていた聖衣は外れ、ルティシアが首にしているネックレスの飾りの一つへと、戻っていく。
「ルティちゃん!?」
「ルティ!」
「ルティシア!?」
「ルティシア! この、よくもやってくれたね!」
なのはとフェイト、ユーノがルティシアの所に駆け寄り、アルフが現れたそれに爪を振るう。
「――熱っ!」
それの纏う炎が、アルフを焦がす。
赤い炎を纏った、兜やいかつい金属鎧といった戦士装束の若い男。
鎌を持つのとは別に、複数の手が炎の中に隠れている。
傷痕も何も残っていないが、貫かれた場所を押さえながら頭を持ち上げると、ルティシアはそれに視線を向けた。
そして、記憶にあったその名を口にする。
「……高位魔族、大貴族が一体。火炎のアウナス」
以前のアラケスや荒神同様、封印されているはずの存在。
「くくく、ワシを知るものがいたか。……まぁ、何でも良い」
愉快そうに兜から見えている顔を歪め、一同を眺める。
「お主らのマナを貰う。ワシの力の為に」
鎌を構え、その身からは炎と共に瘴気が吹き上がった。
迫るそれらから守るために、ユーノが半球状の防御壁を作る。
「ちょっと! なんなんだい、あいつは!?」
寄ってきた瘴気はユーノの防御壁に阻まれ事なきを得ており、戻ってきたアルフがその相手に苛立たしげに唸った。
「分かりやすく言えば……かなり強くて悪い敵……です」
胸の痛みと共に全身を襲う麻痺、それでもルティシアは声を振り絞って喋る。
「ルティちゃん! しっかりして、大丈夫!?」
「ごめんなさい。ちょっと麻痺で、動けません。……あと」
屈むなのはに、何とか顔を向けて。
「……魔晶石を損傷したため、補助魔法も……この月……アビスの月の力で、聖衣の力も阻まれています」
光を許さぬ魔の月が、黄金の光を阻害していた。
「僅かに牡羊座の回復フィールドの力は残っていますので、時間はかかるでしょうが、それで。しかし、ユーノも長時間の障壁の維持は厳しいと思いますので、私を置いて――」
「じゃあ、レイジングハートもユーノ君と一緒にルティちゃんを」
「――倒さないと」
ルティシアから話を聞いていたなのは。その傍らにいたフェイトが、アウナスを見据えながら呟く。
「フェイトちゃん……?」
「……ジュエルシード」
「えっ?」
「鎧の、胸の中央辺り」
慌てるなのはに、フェイトは冷静にある一点を指差した。
纏った炎で見えにくくなっているが、鎧の一部にはめ込まれている――青い瞳状の石を。
「……ふむ」
指されたそれを見て、なのはが驚き、アウナスは自らの青い石を撫でる。
「この石は良いものだ。ワシにとっては特に……な。無力な精神体であったワシが、肉体を手にいれることが出来たのだから!!」
力を取り戻しつつある歓喜にうち震えながら。
「完全にはまだ戻っていないが、念願の若さある肉体を手に入れた。……後は」
一同を、特になのはとフェイトの二人に視線を向けたアウナスは、ニンマリと笑みを浮かべる。
「維持する為に、マナを手にいれるまで……!」
狂気の表情で、両手に持った鎌を真横に構えた。
「烈風剣!」
鎌を逆側へと振り抜く。
「レイジングハート、お願い!」
《protection》
ユーノの障壁と合わせて二重となったそこへ、圧縮された空気が叩き付けられると同時に、風の刃が襲いかかった。
「いつまで保つかな? さぁ、無駄なことをせずワシにマナを捧げよ!」
フェイトはチラリとルティシアを見る。
意識を失ったのか、倒れ伏している大事な友人。
真っ直ぐにアウナスを見据えると、バルディッシュを構えた。
「絶対に負けない、負けられない。そして……許さない!」
なのはは、倒れ伏しているルティシアを見る。
いつも前に立って護ってくれているその姿は、今は立つことすら出来ないでいた。
アウナスを真っ直ぐに見つめると、動揺して震える体を、心を奮い立たせてレイジングハートを構える。
「絶対に助けるから! 少しの間、待っててね」
※ ※ ※
どことも知れぬ不思議な空間。
水晶玉に映っている光景を見ていた人物が、近くで作業をしているもう一人の人物を気まずそうに呼ぶ。
「あ……。あ~……。アーちゃんアーちゃん」
「はい? どうかしましたか?」
「ごめん」
「はぁ……。また何をやらかしたのですか……?」
「謝ったら、すぐにそう言われるのは気になるんだけどなぁ。ちょっと駒が暴走してるみたい」
「駒が、ですか? 私が見ていない間に何をしたのですか……」
「あたしが直接したんじゃないよ? 前に作って捨てたのが、暴走してるだけだって」
「貴女のせいで合っていますよね?」
「……あれ?」
「……なるほど、アレですか。まずですね、アレを捨てた理由が既に問題です」
「外見が、予想と違ったからだよ?」
「封印される以前の外見なんか、調べたらすぐに分かることではありませんか」
「まあ、置いといて。そのせいで、駒の願望と上手く噛み合っちゃったわけなんだよ」
「誤魔化しましたね? 守護者見習いはどうしましたか?」
「注意一秒、怪我一生……だっけ?」
「ゲーム参加対象者は?」
「戦ってるけど、まだきついんじゃない?」
黒いシルエットに包まれた片方の人物は、頭痛をこらえるかのように額に手を当てると、ため息と共に頭を横に振る。
「私が行くのは予定より早いですが……」
「じゃ、ここはあたしが行こうかな」
「うっかりで、ここまで進めたゲームを壊すから駄目です」
「じゃ、どうするの?」
「このまま見る、で良いのではありませんか? 本来の力ならともかく、あの程度ならギリギリ越えられると思いますが」
「アーちゃんの言う『ギリギリ』は、本当に危ない一線だけどね。大体、アーちゃんはまだ“見ない”でしょ?」
「“見たら”、本番がつまらないではありませんか」
「見ても見なくても、結果は一緒だと思うけどな」
「うふふ。……それに大丈夫ですよ? こんなこともあろうかと、保険はいくつか用意してありますから。どれが発動するかは分かりませんが」
「本当に、細かい所を用意するの好きだね。アーちゃんは。……って、ちょっと待って。こんなこともあろうかとって、なに? あたしが何かするって……アーちゃん、ちょっと」
※ ※ ※
「バルディッシュ。フォトンランサー、連撃」
《photon lancer. full auto fire》
放たれた数条の雷光。しかし鎌の一振りで、その全てが薙ぎ払われる。
アルフとユーノ、二方向から魔力で編まれた光の鎖が伸びて、アウナスを縛り上げる。
そこを桜色の光の奔流が襲う。……が、それは立ち塞がる炎の壁によって阻まれる。
ファイアウォール。
本来は炎や冷気を防ぐだけのそれは、一種の障壁の様になっていた。
衰えた力の中で、唯一つ威力を増したモノ。
ディバインバスターを受けきると、今度は攻性障壁となって、逆になのはに襲いかかる。
それをプロテクションで防いでいる間、死角から、金色の三日月条の刃がアウナスめがけて飛んだ。
直撃した刃を受けてもものともせずに、アウナスはバインドを放つ二人に熱風をぶつける。
「せいぜい抵抗して、絶望とマナを捧げよ」
言い放つと、歪んだ笑みを浮かべる。
「フェイトちゃん、まだ大丈夫?」
「大丈夫。なのはは?」
「わたしもまだ大丈夫!」
アウナスからやや距離をとって、二人は並び立つ。
「ちょっと、きついね」
「うん。……でも、負けられない」
「それに、ルティちゃんも戦っているはず。何だかんだで、負けず嫌いだから」
アウナスを挟んで反対側――。
ユーノと共にいるルティシアの方を見て――二人は再度、攻撃を仕掛ける。
――なのはが預かったままのガンビットが、小さく動いた。
※ ※ ※
身体が動きません。
麻痺のせいなのか、魔晶石が大きく損傷したせいなのかは分かりませんが。
周りは真っ暗で、何も見えません。
みんなが戦っていることは分かっているのに。
魔族を相手に、戦わなければならない私が戦えず、動けないなどあってはならないことだというのに。
護ると決めた、助けたいと思った相手が、今まさに傷付いているかもしれないというのに。
父様や母様、兄様、みゅー姉さんにも頼まれたというのに……!
これではいつかセイティーグに帰った時に、姉様達が帰還された時に、胸を張って会うことなど出来ません!
魔法が使えなくても、聖闘士達の力が制限されてしまっても、手持ちのミストを全て使えば――。
「――はい、隙あり」
「……え?」
頭を衝撃と共に痛みが襲い、闇の中にはいくつもの星が飛ぶ。
同時に足下の方から、派手な金属音が聞こえてきました。
ズキズキと痛む頭を押さえながら、閉じていた目を開けて周りを見渡せば……室内?
私は森にいたのでは?
いつの間に室内に?
しかしここは……どこか見覚えのある場所ですが。
「どうしたの? 隙だらけよ?」
今度は頭の押さえているのとは別の場所に、巨大な鈍器で殴られたかのような痛みと衝撃が。
思わず両手で頭を押さえながらうずくまると、さっき落とした練習用の細身のシンプルな片手剣が視界に入る。
それと、歩み寄ってきた青い靴。
見上げれば、私の燃える炎のような真紅の髪や瞳とは対称的な、澄んだ湖の如く青い髪と瞳の女性。
私達、〔セイティーグの娘〕の初期メンバーにして長姉。
会いたかった顔には、呆れと心配が半々の表情が浮かんでいます。
でも、まずは――。
「……痛いです。アリシア姉様」
私の抗議に、アリシア姉様は鞘に入った両手剣を片手で肩にかつぐと、表情を占めていた呆れが一層強まりました。
「鍛練中にボーッとするからですよ? 常に実戦中、常在戦場の心意気。守力至宝。大切なものを守り抜くために、油断は禁物です。ほら、早く立って、もう一度」
それは過去にあった、未来に繋がる物語。
next
過去の出来事
それを元に新たな力を得る
ルティ「お待たせしました」