魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その24 「さだめじゃ」

 宵闇の世界。

 

 

 魔の蒼き月が照らす中で。

 

 

 魔族の中でも、大貴族と呼ばれたアウナスと、少女達は再びぶつかり合っていた。

 

 

「こやつら、先程までとまるで動きが違う…!?」

 

 アウナスは戸惑っていた。

 

 

 魔瘴痕を持ち、尚且つ死神の鎌で生命エネルギーを傷付けて戦闘不能だった小娘が復活。

 

 

 本来なら奪えた筈のマナが無いことは残念だったが、他の何かを貫いた手応えもあったというのに。

 

 

 さらに、光を許さぬ筈のこの世界で、光を放つ黄金の鎧を纏っている。

 

 自分の周囲を飛び回り、攻撃を仕掛けてくる二人もそうだ。

 

 

 先程までの戦いでかなりの魔力を使った筈が、まるでそれを感じさせない精度の魔法を放ってくる。

 

 

 しかも、片方は自分に恐怖していたのか震えてすらいたのに、今やその様子もない。

 

 

 動物二匹にしてもそうだ。防御魔法にしても束縛魔法にしても、消耗している筈だというのに。

 

「ーー面白い!! ワシの持てる力全てで、相手をしてやるぞ!」

 

 

 アウナスの身体から炎が吹き上がり、正面に立つ一人と一匹を睨み付けた。

 

 

   フレイムボディ

「〈炎身加護魔法〉」

 

 

 ルティシアが唱えた魔法は、炎から身を守る術。

 

 

 放たれる熱波を防ぎ、アルフの様に直接攻撃をしても纏った炎で焼かれる事も無くなる。

 

 

 加護の力を纏って、アルフは大地を疾走する。

 

 

 その爪を遮る炎は、もはや何の力も持たない。

 

 

 ヒットアンドアウェイ。

 

 

 一太刀与えては距離を取る。

 

 

 アルフが離れると同時に、雷光が、桜色の光が降り注ぐ。

 

 

「フォトンランサー。……バルディッシュ、いくよ」

 

 

《yes sir. photon lancer. get set 》

 

 

「お願いね、レイジングハート」

 

 

《all light. divine shooter》

 

 

 空を駆けながら、白と黒、二人の少女は手を休めずに魔法を解き放つ。

 

 爪に切り裂かれ、降り注ぐ魔法に撃たれ。

 

 

「ちょろちょろと! まとめて薙ぎ払ってくれるわ! 烈風剣!!」

 

 

 それでも倒れない。

 

 

 叫び、その手に持った鎌を振り回して、四方八方へと圧縮された空気を放つ。

 

 

 圧縮された空気の中は、カマイタチのような斬撃の空間。

 

 触れたモノを容赦なく斬り刻んでいく。

 

 

 木々を切り裂き、舞い上がった葉すら瞬時に分解していってしまう。

 

 

 元々なのはは、避ける事はそれほど得意ではない。

 

 

 ならば、どうするのか。

 

 

 決まっている。

 

 

《protection》

 

 

 向かってくる空気の渦を、防御壁で防ぐ。

 

 

 障壁の上から、刃物で削るかの様な音が響く。

 

 そこへ、なのはの張った障壁の上から別の障壁が現れる。

 

 

「ユーノ君、ありがとう」

 

「守りは任せて。なのははあれを!」

 

 

「うん!」

 

 

 付近を見渡せば、フェイトは迫る空気の渦を余裕を持った距離を保ちながら避けている。

 

 

 時折、何かを待つように視線を下に向けている。

 

 

 なのはも視線を下に向けると。

 

 

 アルフは低空で、回避している。攻撃の機会を狙っているようだが、乱射されているそれのせいで近寄れずにいる。

 

 

 そしてーー。

 

 

「えーい、忌々しい!! ワシの力があの時のままなら……!」

 

 

 鎌を持っていない、炎の中の手を外に出しーー。

 

 

「ーー神竜剣 黒竜爪牙 ≪幻影剣(ミラージュソード)≫」

 

 淡々と抑揚ない声が言葉を紡ぐ。

 

 

 その言葉と共に、アウナスの周囲に、牡羊座の聖衣を纏ったルティシアが数人現れる。

 

 

 本来は剣を用いて使う技を素手のままでーー。

 

 複数人のルティシアは一斉に拳を……乱打を打ち込む。

 

 

 まるで機関銃の様な連続した打撃音が、上空のなのは達の所にまで届いた。

 

 

 やがて、打撃が止まると同時にアウナスを囲んでいたルティシアの姿が全てかき消え……。

 

 

 元の位置に立ったまま、右手を高く上げたルティシアの姿が。

 

 

 その上げた右手の先には、いくつもの光点。

 

 

 それは闇を彩る星の輝きーー。

 

 

「なのは……!」

 

 

「大丈夫だよ、ユーノ君。ね、レイジングハート?」

 

 

《all light. my master》

 

 

 桜色の魔方陣と同色の魔力光。レイジングハートの先端に光が集まっていくーー。

 

 

 ふと、視点を向ければ金色の魔方陣と魔力光が見える。

 

 

 視点を下に。

 

 

 打たれても、執念で鎌を振り上げようとする姿が見えた。

 

 

 そしてーー。

 

 

「守力至宝……大いなる星屑よ」

 

 

「撃ち抜いて!」

 

 

「貫け……轟雷!」

 

 

 光が放たれた。

 

 

「スターダストレボリューション」

 

 

「ディバイィーンバスター!」

 

 

「サンダースマッシャー!」

 

 

 放たれた無数の光は流星の様な軌跡を描いて突き刺さり……。

 

 

 桜色の光は飲み込まんとばかりに包み込み……。

 

 

 金色の光の奔流は押し流さんとばかりに荒れ狂う……。

 

 

 やがて光が収まるとーー纏っていた炎がきえ、立ち尽くした格好の戦士姿の男。

 

 

 うつむき、兜の関係も あってその表情は見えない。

 

 

 その身に付けていた鎧から、ポロリと転がり落ちる青い瞳状の石。

 

 

「あ、ジュエルシードーー」

 

 

 と、なのはが声を上げた時には既に二つの影が動いていた。

 

 

 黒とオレンジ……フェイトとアルフは素早くジュエルシードへと近寄ってーー。

 

 

 視界を真っ赤に染めた。

 

 

「「……!?」」

 

 

 吹き上がる炎。

 

 

 その頭上には巨大な火球。

 

 

 炎耐性の魔法の上から感じる熱気と共に、吹き荒れる熱風により近寄っていた二人は吹き飛ばされていく。

 

 顔を上げたアウナスの目は赤く輝き、身体からは炎だけではなく黒い瘴気も立ち上ぼり始めた。

 

 

「遊ばせておればいい気になりおって……!! もう、貴様等のマナなどいらぬ! この石さえあれば、また力を蓄え、他の奴等から奪う事も可能なのだから!」

 

 

 ギラギラと輝く目で辺りを見渡し、狂笑を浮かべる。

 

 

 頭上の火球が更に大きさを増し、そこから何かが蠢いているように見える。

 

 

「貴様等にはここで燃え尽きて貰う。それが、貴様等のさ だ め じゃ!!」

 

 

「すみませんが、その運命には抗わせてもらいます」

 

 

 

 遮ったのは抑揚ない声。

 

 

「ルティちゃん……!?」

 

 

「護るべき人と、果たす約束のためにも」

 

 

 なのはの目にもはっきりと見える黄金と深紅の入り交じった光。

 

 

 見ている者に暖かな何かをもたらすーー光

 

 

「何をしようと無駄よ! ワシは大貴族、火炎のアウナス!」

 

 

 火球から産まれようとしているのは……龍!

 

 

「この一撃で……焼き尽くされて灰塵と帰せ……!!」

 

 

 火球が無数の炎の龍へと変わりーー。

 

 

  ヒュドラ

「〈百龍……〉……!?」

 

 

 解き放つ直前にアウナスの動きが止まり、今まさに放たれようとした炎の龍も霧散してしまう。

 

 

 それどころか、自身の炎や瘴気すら消え失せた。

 

 

「な、何じゃ、この曲は!?」

 

 

「曲……? ユーノ君、何か聞こえる?」

 

 

「ううん、ボクには何も……」

 

 

 突然苦しみ始めたアウナスを見て、顔を見合わせるなのはとユーノ。

 

 

「アルフ…?」

 

 

「いや、あたしにもさっぱりだよ」

 

 

 熱波から身を守っていた二人も、分からないと首をかしげる。

 

 

「ワシの力が……!? 力が!? ああーー!!」

 

 

 それでも足掻こうとするアウナスを前に、ルティシアは両手を胸の前で合わせて――!

 

 

「舞い戻りなさい、黄泉の国へ……。」

 

 

 闘気を解き放つ……!

 

「スターライト エクスティンクション」

 

 

 アウナスの足下から、凄まじい量の光が噴出しーー。

 

 

 アウナスを飲み込んだ光の柱は、空の蒼い月に迫る勢いで舞い上がっていった。

 

 

 その光が見えなくなると、蒼い月もまた消える。

 

 

「今度こそ、終わりだよね?」

 

 

「そうですね」

 

 

 確認するようななのはの呟きに、ルティシアが同意する。

 

 

 ただし。

 

 

「どちらかと言えば、終わってほしいという願いですね。さすがに疲れました」

 

 

 という補足を付けるが。

 

 

 魔晶石の再構成等、アリエスの補助が無ければこの場では出来なかった。拠点ならば可能だったが、さすがにあの状況では向かえる筈もない。

 

 

「ありがとうございました、アリエス」

 

 

 ルティシアの身体から聖衣が外れて、雄羊型のオブジェに変わると、小さくなって元のネックレスの飾りへと戻っていった。

 

「あ~……、あたしも疲れたよ。フェイト、大丈夫かい?」

 

 

「うん、大丈夫」

 

 

 確認しあった二人の視線はルティシアへ。

 

 

「本当にもう大丈夫? ルティ」

 

 

「完全に倒れた後、ピクリとも動かないから心配したんだよ?」

 

 

「はい、もう大丈夫です。傷付いた部分も治療しましたし、今日みたいなことは無いかと」

 

 

 心配したという二人に改めて頭を下げる。

 

 

「ルティちゃん、聞きたいことが二つあるんだけど良いかな?」

 

 

「何でしょう、姉さん?」

 

 

 不安そうななのはの方を見る。フェイトも視線を向けているようだ。

 

 

「あの、魔族って何?」

 

「そうですね……。簡単に言うと、自分達の目的の為なら他人を傷付けても構わない、を平気で行う存在です。支配したい、あれが欲しい。その為なら、手段は選びません。わざわざ、自分達の世界である魔界から数多の世界に行く位ですから」

 

 

「本当にはた迷惑な存在だね」

 

 

「うんうん」

 

 

 ルティシアの説明を聞いて、呆れるアルフにユーノが同意する。

 

 

「中には友好的な例外もいますが、本当にごく少数です」

 

 

 例外は例外でしかない。セイティーグで確認された友好的な魔族は、一%にも満たないのだから。

 

 

「ルティちゃんは、またああいうのと戦うんだよね?」

 

 

「そうですね。出てくる限りは戦います」

 

 

「それは、ルティがやらないといけない?」

 

 

「はい」

 

 

 なのはと、何故かフェイトまで尋ねてくるが、その両方に首肯する。

 

 

「今日みたいに危ないことがありますから、みんなは離れていて下s」

 

 

「「駄目」」

 

 

 二人同時だった。

 

 

「せめて、ジュエルシードと関係ないモノは私だけd」

 

 

「「駄目」」

 

 

「ですg」

 

 

「「駄目」」

 

 

 二人共すわった目でルティシアを見つめている。

 

 

「ユーノ、アルフ?」

 

 

「「無理」」

 

 

 支援を求めても即答で断られる。

 

 

「本当は正座でオハナシだけど、先にもう一つの質問をするね」

 

 

 杖状態のままのレイジングハートで地面を叩きながら。

 

 

「はい」

 

 

「ルティちゃんと、フェイトちゃんと、アルフさん? は、いつお友達になったのかなぁ?」

 

 

「……あ」

 

 

 妙に迫力のあるなのはの問いに、小さく声が洩れてしまう。

 

 

「(フェイトが関わらないようにしたい、と言ったのですから希望にそったほうが良いですよね……。あの荒神の後……いえ、お茶会の後の方が自然でしょうか? 探索中に出会って、喋ったことがある、で)」

 

 

 瞬時に答えを纏めて口に――。

 

 

「あたしは少し前かな」

 

「私は二年前に」

 

 

 二人が言ってしまった。

 

 

「(アルフはともかくフェイト……? あなたがそれを言ってどうするのですか……)」

 

 

「へぇ~~」

 

 

 目が笑っていない笑顔というのは怖いものである。

 

 

 無意識にルティシアは正座になっている。

 

 

「おっと、もうこんな時間だよ。フェイト戻らないと」

 

 

「そうだね。でも、ジュエルシードが……」

 

 

 さっきのジュエルシードはルティシアが拾っていた。

 

 

 フェイトは暫し考えてから、口を開いた。

 

 

「ルティ」

 

 

 正座で、何かなのはから言われていたルティシアがフェイトを見る。

 

 

 目以外が笑顔のなのはが見た時は一瞬震えがはしったが、それを気取られない様にする。

 

 

「なのはも、さっきのジュエルシード、ルティに預かってもらう、でいい?」

 

 

「ルティちゃんに?」

 

 

「そう。後日改めて」

 

 

 そう言うと二人は夜空へと舞い上がっていった。

 

 

「あ、フェイトちゃん……」

 

 

「(フェイト、アルフ。逃げましたね?)」

 

 

「集める理由とか色々お話したかったのにな、ねぇルティちゃん?」

 

 

 足早に帰った二人の背を見ていると、そんなことを言われる。しかし、視線を合わせてはいけない。

 

 

 視線を合わさない様に気を付けながら、立ち上がり埃を払う。

「今日の所は帰りませんか? そろそろ休まないと」

 

 

「あ~、うん、そうだね。また明日ゆっくり聞いたら良いんだし、ね」

 

 

 視線を合わせてはいけない。

 

 

 旅館へ戻りながら、どう説明したものか、悩むルティシアだった。

 

 

 

 

 

 

 

 それから少し前の某所。

 

 

「いや~、目が覚めた時や眠れない時はこれに限るわ」

 

 

 パジャマ姿の少女。ベッドから手を伸ばして、ベッドの脇にある車椅子の上に置かれていた小箱を手に取る。

 

 

 直方体の箱で、横に色褪せた手回し式のハンドルが付いている。 そしてハンドルを回すと、えもいわれぬ情緒豊かな旋律が部屋の中に流れる。

 

 

 チャカポコチャカポコ……。

 

 

「何か落ちつくわ~、これ」

 




next


温泉の時間は静かに過ぎてゆく


それは大事な日常


ルティシア「負けず嫌いですから」
 
 
 
 
 
(注)アウナス…ロマンシング サガ3より


小箱…元々はパタリロの初期より

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