連休明けの最初の授業。自分の提出した読書感想文を、どこか悲しそうな表情で受け取った先生に首をかしげるルティシア。
席に戻る途中に、アリサが額を押さえながら頭を左右に振っているのが見えた。
席に着くと、視線を外に向ける。
捜索中のジュエルシードは残り十個 。
なのはが七、フェイトが三、そしてルティシアが預かっているのが一個。
手持ちの超小型遠隔機動兵器のガンビット四基の内、二つを捜索に、残り二つを以前から見かけた〈魔導の目〉……ここの近隣世界の偵察機らしきものの改良にあてていた。
改良と言っても自分達の姿を確認出来ない様にする程度だが。
魔族そのものが飛ばしている可能性は低いだろうが、配下の誰かが飛ばしている可能性はある。
特に、なのはの周りで確認出来るのは問題である。警戒するにこしたことはないだろう。
今はほぼ同じものだけが飛んでいるらしく、改良したモノ以外は飛んできていない。
新たに飛ばしてくる事があれば、確保してデータを確認しようかとも考えている。
と、横の席――なのはから紙が差し出される。
(ジュエルシードとかフェイトちゃん、見つかった?)
首を軽く横に振ると、そっか…と残念そうな囁きに近い小声が聞こえる。
フェイトの目的は依然として不明。ジュエルシードを必要としている事以外は分かっていない。
協力して魔族と戦ったこともあるが、ジュエルシードを前にすればまた戦う可能性もある。
故に、旅行から戻った際に感想文を書き始めたなのはからあの言葉が出たのだろう。
「ルティちゃん、ユーノ君。お願いしていいかな?」
フェイトちゃんに負けない、ルティちゃんを助けられる練習を、と。
放課後、いつもの山の麓。
ユーノの張った結界の中で、二人の少女が向かい合っている。
一人は、左手に杖……レイジングハートを持ち、白いバトルジャケットに濃紺のマント姿のなのは。
もう一人は、制服を脱いで黒い戦闘下衣姿のルティシア。
「フェイトと戦う場合には、何と言ってもあの速度と近接能力に注意が必要ですね。懐に入り込まれて鎌を振るわれると、姉さんには非常に苦しい展開になりやすいです」
「うん、それにあの鎌は近くで使われるとちょっと怖いかな」
前回戦った際も、近くで振るわれた光刃の刃に躊躇し、最後は光刃を使わない状態で負けてしまった。
それを思い出して、ルティシアに頷きを返す。
「速度の方は……そういえば、ユーノやレイジングハートと練習した魔法がありましたか?」
「あ、うん。レイジングハート」
《flier fin. flash move》
なのはの靴から、桜色の魔力光で出来た羽が生えて、舞い上がると同時に離れた位置に移動する。
「なるほど。フェイトが使うのと似た魔法ですね」
「うん。あれを参考にしたからね」
ユーノに確認すると、首肯が返ってきた。
ルティシアは暫し考えてから、考えを述べる。
「戦闘の経験や慣れはフェイトが上です。ただ砲撃勝負なら姉さんがやや有利とは思いますが、まだ隠している魔法がある可能性は高いです」
「うん」
「そうだね。」
「その上であの近接能力です。よって、近付かせない戦い方が基本になります」
「えと、出来るのかな?」
「誘導操作が出来るディバインシューターと、バインドにもっと慣れればなのはが勝つ可能性はあると思う」
「本当は戦わない事が良いのですが、フェイトを見ていると、状況によっては戦闘になる可能性が高いですしね。魔族との戦いでも、ムーブ・シューター・バインドの三つは有効と思います」
「うん、私も分からないまま戦うのは嫌。だけど、戦う事で先に進めるなら……フェイトちゃんとお話し出来るなら、お友だちになれるなら、頑張る…!」
決意と共に、レイジングハートを握る。
そのなのはの肩にユーノが駆け上がる。
「ボクはサポートに回るね。魔法のタイミングとかアドバイス出来る事があるかもしれないから」
「うん、ありがとうユーノ君」
二人の声を合図に、ルティシアは探索に回していたガンビットを一基呼び戻した。
「ガンビットを撃ち落としてください」
「うん、でもちょっと小さすぎるかも」
「手のひらサイズですしね」
ルティシアはチラッとガンビットに視線を向けると小声で何かを呟いた。
「あ、大きくなった」
手のひらサイズから、頭程の大きさに。
「幻影の魔法ですが、幻の部分でも当たれば消える様にしていますので」
「そっか。じゃあいくよ?」
「はい……あ、それともう一つ」
始めようと構えるなのはにルティシアから声が。
「私を狙うのもありですので」
「ルティちゃんを……?」
首をかしげるなのはに首肯する。
「私の鍛練も兼ねていますので、遠慮無く」
「う、うん……」
躊躇いがちな返事を返しつつ、ガンビットに向かって構える。
ガンビットも空中で静止し――。
「始め!」
ユーノの合図で各自動き始める。
《flier fin》
ルティシアは大きく後方へ跳躍し、なのはは上空へ。
ガンビットは舞い上がったなのはを砲撃――。
《flash move》
かわしたなのははそのままシューターを放つ。
「あの攻撃、フォトンランサーに似せてるね」
「そうだね。ルティシアがそういう風にしたんだと思う」
シューターを迎撃しながら、ビットは突然加速し――なのはの後方へ。
「これも、フェイトちゃんとー―」
そのまま体当たりしてきたのをムーブでかわす。
それを幾度か繰り返し――ユーノが何か呟いたのか、なのはが小さく頷い。
「ディバインシューター!」
《divine shooter》
なのはの周りに現れる桜色の魔力の球――攻撃用のスフィアと呼ばれるモノ。
「シュート!」
一斉に放たれるそれは、光の槍となって迎撃されながらも逃げるビットを追撃していく。
撃ちながら逃げるビットに最後のシューターが落とされ――ビットを桜色の光が照らす。
下方ー―。
「シュート!」
なのはの声と共に数条の光が迫る。
ビットは光の一つを迎撃し、加速!
なのはへと一気に接近し、体当たりを……!
なのはは、杖を持っていない右手を突き出して――。
《round shield》
魔力障壁がガンビットを止める。
「止まった!」
「いっけぇー!」
弧を描いて戻ってきたシューターをビットは下がってかわし――そこで
桜色の輪に掴まる。
予め、なのはが設置していたバインドに。
先程外れたシューターは、集まって一つの球に――。
「ディバイィン ビット!」
桜色の球ー―ガンビットを模した様な形のそれは動きを止めたガンビットへとぶつけられた――。
「余り遠くまでは飛ばせないみたいですね」
ルティシアの視線は、降りてきたなのはの周りを旋回している桜色の球体へ。
「うん。それに、これかなり疲れるね」
「シューター数個分を常に維持だしね」
なのははビットを消すと、そのまま座り込んでしまう。
「それに、同時に使った分もあるしね。かなり負担になったと思うよ」
「そうですね。今日はここまでにして、また次回にしましょう」
なのはの様子を見ながら言うユーノにルティシアも同意する。
「それにしても、一つに集める まで来ましたか」
「もしかしたら、それを使って応用が出来るかもしれない」
「ふぇ…? 何の事?」
疲れてボーッとしていたなのはは、二人の会話が耳に入っていない。
むしろ、魔力の消耗による疲れから眠気に襲われていた。
「眠って大丈夫です、姉さん。おやすみなさい」
「うん、ごめ……んねルティちゃ……ん。ちょっとだけ……」
なのはを背負って、家路を歩く。
「まだ、実戦では使いにくそうですね」
「そうだね。それでも、魔法と出会ったばかりでここまで出来るなんて……」
頭の上のユーノと話をしながら、起こさない様に気をつけて。
「最後のあれは、なのはの武器になるよね」
「はい。シューターの魔力だけではなく、例えば……」
話す二人と背中の一人を、夕日が染め上げていく。
二人のこの話し合いが、後に大きな意味を持つことを――今はまだ誰も知らない。
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石の前で再び出会う少女達
二人の少女が青い石の前で出した結論は…
フェイト「譲れないから」