「見つからないね」
学校が終わった後に、習い事があるというアリサとすずかと別れてジュエルシード探しに向かった姉妹。
途中でユーノも合流し、街中を探し続けていた。
「建物内や、山や海の可能性もありますね」
「そうだね。特に海が近いから、そこにある可能性は高いかもしれない」
人通りの多い場所の為、端に寄って邪魔にならないように相談に入る。
「ルティちゃん、ガンビットはどう?」
「ジュエルシードの発する波長で探していますが、例えばそれを遮断するような場所だと見つけにくいですね」
「じゃあ、海の中を探すのも……」
「そうですね、ユーノ。中に入るのは問題ありませんが、深い所にあれば時間はかなりかかりそうです」
暫し、考え込む三人。
陽はもうすぐ沈もうかという時間帯。
「帰ったら、探索に使っているガンビットの内、一基を海底探索用に改良します」
「その分、私達が頑張ったら良いよね!」
「そうだね、なのは。見つからない状況が続いたら、山か海に切り替えようか」
方針を決めると、探しながら家への道へ……向かおうとしたらルティシアは足を止めて違う方向へと歩き始める。
「ルティちゃん?」
「ちょっと翠屋へ行ってきます」
気が付いたなのはが呼ぶと、ルティシアはなのはの方に向いていつも通りの淡々と抑揚なく答える。
「翠屋へ? 何かあるの?」
「いえ、チョコドリンクを飲みに」
「ココアだってば。でも本当に好きなんだね~」
「あちらに居た時もあるにはありましたが、その時は興味がありませんでしたしね。食事も補給という認識でしたし」
「補給って……。でも、今はそんなことないよね?」
表情を変えることなく話す妹に眉をしかめるも、家に来てからの状態を見て前と今の差に気が付いた。
「そうですね。母様の作る食事も美味しいですし、家族と食べる時間も居心地良く思う事が多いです。後、チョコドリンクは至高です」
昔は見せなかった微笑を浮かべて話す姿に、なのはも笑みを浮かべる。
「じゃ、一緒に行こう? 後、ユーノ君の分も注文してあげるよ」
「あ、うん。ありがとうなのは」
「それに、飲んでいる時のルティちゃんの表情は本当に幸せそうで良いよ~」
「へ……へぇ~…」
「私はそんな表情を浮かべているのですか? 後、ユーノ。何故、怖がるような反応なのでしょうか?」
三人でやりとりしながら、翠屋へと向かう三人。
「見つけました」
不意に足を止めたルティシアが振り返って呟いた。
視線は徐々に下へ。
「見つけって、ジュエルシード!?」
「はい」
「どこ? ルティシア。まだ起動していないならボクだけで行ってくるけど」
「下水道です」
尋ねる二人に返ってくる答え。
沈黙が場を支配する。
「ちょっと行ってきますね。二人は先に翠屋の方へ」
と、踵を返す。
「って、先にじゃないよ! 私も行くよ」
「姉さんまで一緒だと、私のドリンクの注文が……」
「「そっち優先!?」」
同時のツッコミだった。
普段が無表情で、余り他事に興味を示さず淡々としている分、この落差は大きい。
「では、下水道からガンビットで引き上げてこのまま上まで持ってきます」
「落ちてたんだ……」
「ルティちゃん、終わったらちゃんとガンビットを洗ってね」
話しながらも、自分達も向かって早めに封印しようと駆け出す三人。
「変に起動されても困りますし、月匣を張ります」
「ボクが張ろうか?」
ユーノの提案に、少し考えてルティシアは首を横に振る。
「フェイトへの合図にもなりますしね。フェイトとアルフだけが認識出来る様に張ります。預かりモノもありますし、放っておくと街中で魔法を使って探そうとしそうですから目立たせます」
ガンビットを中心に月匣を展開――!
そして。
「「大きすぎるから!」」
赤い空共に上空に浮かぶ富士山程の大きさの深紅の月。
「そうでしょうか?」
「気になるというか、不吉過ぎるというか……とにかく、もう少し小さくしよう? ルティちゃん」
首をかしげるルティシアになのはが訴える。
薄暗い中、上空に浮かぶ真っ赤な月。場所によっては、光加減で血が流れているようにも見える。
ホラーハウス風味である。
訴えを受け入れ月を小さくしておく。
もうすぐ合流という時に青い光が吹き上がる。
「起動しましたか。地上には出ていますので、ガンビットから離します」
「うん。レイジングハート!」
《stand by ready. set up》
桜色の魔力光に包まれて、それが消えた後には ……。
左手にレイジングハート、白い制服の様なバリアジャケット、濃紺のマントをなびかせたなのはの姿が。
ルティシアもまた、右拳を前へと突き出す。
「レオ」
囁く様な声と共に、右手にはめられた指輪の獅子の顔を模したそれの目が輝く。
首に着けたネックレスが黄金の輝きを放ち、そこから一つの飾りが外れると、大きな黄金のライオンの姿の鎧へ。
分解すると、ルティシアの身体へと装着されていく。
獅子座の黄金聖衣。白いマントが風になびく。
二人はジュエルシードの元へと走る。
着いた先にいるのは、グロテスクで巨大な深海魚の様な姿の怪物だった。
「ふぇ~……また変なのがいる……」
「これはまた……凄いね」
その姿を見てなのはとユーノが言葉を洩らすも、ルティシアは二人に注意を促す。
「気をつけて下さい。あれは高位魔族、大貴族が一体……、水のフォルネウスです」
「って、この間の炎のと同じって事だよね」
「はい。確か記録では、アウナスよりも強いと」
ルティシアの話で、二人は気を引きしめる。
不意打ちとはいえ、ルティシアを倒したあれよりも強い。
油断をしたら危険。
「なのは、守りはボクに任せてね」
「うん、お願いねユーノ君!ルティちゃんも、水に気を付けてね」
「はい。動きが鈍い内に攻めましょう」
ルティシアは前に、なのはは上空へ。
ルティシアは大きく右手を引き……。
その手に集うは雷光。
フォルネウスが緩慢な動きで無数の針ー―毒針を周囲に放つ。
「獅子の牙、ライトニングボルト」
飛んでくる毒針を弾きながら、雷光が巨体に突き刺さる。
「ディバインシューター、シュート!」
《divine shooter》
ユーノの防御魔法で針を防いでいる間に、なのはは桜色の魔力球……スフィアを数個設置。
そこから、槍の様に光が伸びてそれもフォルネウスへと。
さらに別の方向からも、無数の金色の魔力の矢ががフォルネウスに飛来する。
見下ろす様に滞空しているのは――。
「フェイトちゃん! と、アルフさん」
「あたしはおまけみたいだね」
黒い衣装に、黒いマントをなびかせて右手に構えた棒――バルディッシュの先端には新たな雷光が生み出されている。
横にいるオレンジ色の毛並みの狼――アルフの周囲ににも雷光を放つスフィアが数個設置さろていた。
「バルディッシュ」
《photon lancer. get set》
「ほら、いくよ!」
二人からは次々と雷光が放たれていく。
「ライトニングプラズマ」
「シュート!」
細い線の様な閃光が縦横無尽に走り、桜色の槍も降り注ぐ。
それが暫く続くも、フォルネウスはその場でのたうつ様な動きをするだけだった。
「な、何か変じゃない?」
「うん……。火のよりも耐久力はあるけど、攻撃もほとんど無いし」
なのはとユーノがいぶかしむ中も、ルティシアとフェイト、アルフは攻撃を重ねていく。
そんな時だった。
『あ……アビスの……ち、力を見よ……』
重く低く唸る様な、それでいて――死にそうな声が響いた。
『う……泡沫となって……消えよ』
「自分が消えそうだよね……」
「うん……」
三人が雷光を解き放ちー―。
『メイルシュトローム』
死にそうな重く低く唸る様で捻り出された声が響く。
雷光を放ったルティシアは、その言葉を聞いて一瞬表情を強張らせて……。
何も起こらないまま、放たれた雷光は次々に命中した。
周囲を確認しても何も変わらず。
フェイトとアルフも警戒しながらも、また攻撃の準備に入る。
フォルネウスは、その深海魚の様な身体を動かし――。
『み……みず……』
死にそうな声が響き渡った。
そして、放たれる雷光。
「えっと……」
「見た目通りなら魚……だしね」
あまりな一言で、なのはとユーノは気が抜けてしまう。
一方で――。
「バルディッシュ、いくよ」
《scythe form. scythe slash》
金色の光刃を放つ鎌を構え、フェイトが翔び。
ルティシアは危機感を強めて、闘気を高める。
『〈スコール〉』
フォルネウスから紡がれたのは魔法の言葉。
天から水が……雨が静かに降り始める。
水をその身に受けて。
『メイルシュトローム』
ガラスが割れるような音と共に、赤い空の一部が割れる。
そこから一筋の青い光がフォルネウスに伸び――降り始めた雨が巨体へと集束していく。
「守りを!!」
その一瞬の出来事にルティシアが叫び、それを聞いたユーノは慌てて防御魔法を展開する。
フォルネウスに斬りかかっていたフェイトは、高速移動してきたルティシアに連れられアルフの所まで後退。
ルーンシールド
「〈魔力盾魔法〉」
《protection》
《defenser》
ルティシア、レイジングハート、バルディッシュもそれぞれ防御壁を展開して……。
嵐の様な水が、二重三重の障壁の前で弾けた。
余りの衝撃で後方へと押される。
「な、何て威力だい!」
「防げなかったら、多分一撃だった」
「フォルネウス、最大の一撃です。これでも、かなり弱められている方ですが」
さっきまでの様子からは信じられない程の威力に驚く二人に対し、ルティシアが更に付け加えた。
「これでかい!?」
「水がありませんでしたしね」
「ということは……」
「どんどん酷くなります」
うへ~…とアルフが嘆くと、フェイトはバルディッシュを構えてルティシアを見る。
「短期決戦で決める、で良い? ルティ」
「はい。まだ降り始めたばかりで動くこともままなりませんしね、一気に攻めましょう」
頷いたフェイトは空を見上げる。
割れた赤い空は再び元に戻っている。
「ルティちゃん! フェイトちゃん! アルフさん」
「姉さん、ユーノ。短期決戦で一気にいきます。雨が酷くなると、メイルシュトロームで一気に崩されますし、月匣が保ちません」
「じゃ、みんなで一斉にいこう?」
「ボクは月匣に結界を重ねてみる」
ユーノが月匣の下にシュトロームの余波がいかないようにと結界を張る。
《shooting mode. set up》
なのはとフェイトがそれぞれの相棒を構えて、ルティシアは両手を頭上に掲げる。
「行くよ!! 撃ち抜いて!」
「貫け、轟雷…!」
「始まりの光よ、闇を祓え」
桜色の魔方陣と魔力光が。
金色の魔方陣と魔力光が。
「ディバイィィーンッ!」
「サンダー…」
それぞれの魔方陣を纏った穂先に魔力球が生まれる。
「ディヴァイン」
ルティシアが両手を正面へと振り下ろすと、三重の深紅の魔方陣が展開する。
「バスタァァーーッ!!」
「スマッシャー!」
それぞれの光の奔流が放たれー―。
「コロナ」
深紅の大光球が放たれる。
大光球に、二色の光が螺旋状に絡んでいく。
『メイルシュトローム』
再び深紅の空がガラスの様な音と共に砕け、そこから青い光が注ぎ――ユーノの結界で止まる。
フォルネウスが二色の光を纏った大光球に飲み込まれたのはこの時だった。
ルティシアは放出を続ける二人と違い、放つと同時に次の動作へと入っていた。
両手に中身が白く霞んだ小瓶。
それを、放出を続ける二人の方向に向けると中の色も変わっていく。
「竜の奏でるミストの歌で、消え去りなさい」
二つの小瓶を空に放ると、虚空から一気に抜き放った氷雨で切り刻む。
「桃金のコンツェルト」
切り刻まれた小瓶から溢れた二色の光が混じり合い、翼が生え普段の倍の長さの身体と、頭頂部からより鋭く伸びた刀の様な角を持った一刀獣の姿になる。
現れた一刀獣は、ユーノの結界をも突き破った青い光の元へと翔び、ぶつかり合って火花を散らす。
「私とフェイトちゃんの光…」
「でも、五角……。なのは、力を緩めないで」
上空の様子も気になるが、フォルネウス自身もまだ堪えている。
「じゃ、これも持っていきな!」
アルフが上空の青い光に、大量の魔力を込めたフォトンランサーを放つ。
青い光と一刀獣の押し合いに、後押しする形で下から雷光が加わりさらにもう一つ――。
「ライトニングファング」
両手から放たれたボルトが、絡み合いまるで牙を剥き出しにした獅子の様に。
二ヶ所で光が瞬き――。
激しく弾けたのは数秒後のことだった。
大きく肩で息をする三人の横で、ルティシアは素早く周りを確認する。
フォルネウスの姿は消え、光を放っているジュエルシードが地面に落ちているのが見える。
そこでようやくルティシアは一息をついた。
「ルティ、ちょっといい?」
まだ息が荒いフェイトがルティシアに声をかける。心なしか、視線はやや鋭い。
「何でしょう、フェイト?」
鋭い視線に気付いて、ジュエルシードの事かと予想してフェイトの方を向く。
「この空と月だけど」
「私の作った月匣という結界みたいなモノですが。相手が作る事は多かったですが、私が作った月匣に入るのは初めてでした?」
首を傾げるルティシアに対し、フェイトの視線はさらに鋭く。
獅子座の黄金聖衣が、外れて元のネックレスの飾りへと戻っていった。
「正座」
「え?」
言われた事に、一瞬理解が追い付かず聞き直すと、フェイトはバルディッシュで地面を指す。
「正座」
「何かしましたか?」
と言いつつ正座するルティシア。
その様子を見ながら、苦笑するアルフの所になのはがやってくる。
「あの、アルフさん。フェイトちゃんが怒ってるのって……」
「最初の月だね。しかも、血を連想させたし。色は違っても、最初に一緒になった時もこの間もこんな感じだったしね。また何かあったかと、ジュエルシード発見の為に魔法使う直前だったのをやめて来たからさ」
「やっぱり……、あの月は悪すぎだったよねユーノ君」
「ルティシア、だから言ったのに……。フェイトが魔法を使うという予想は合ってたけど」
アルフの話に予想通りと頷き合うなのはとユーノ。
数分後、なのはの近くにフェイトが立つ。
離れた所で、結果としては間違っていない筈なのに、と呟くルティシアにユーノとアルフが何かを言い――。
向かい合った少女達。
濃紺と黒のマントが揺らめく。
「フェイトちゃん……」
「譲れないから。あのジュエルシードを賭けて」
バルディッシュを構えて――。
「勝負」
next
荒れる光
少女達は力を合わせて――
三人「鎮まれ……!」
(出典)
フォルネウス:ロマンシング サ・ガ3より
ディヴァインコロナ:ナイトウィザードシリーズより
フォルネウスさんは海で出すと強すぎるから、ここで登場と相成りました。
決して、深海魚的なネタを思いついたせいでは……