深紅の月と赤い空に彩られた結界――月匣の中で。
桜色の魔力で出来た攻撃用の光の球――スフィアから放たれた魔力弾と、金色の魔力のスフィアから放たれた魔力弾がぶつかり合う。
自動追尾能力やバリア貫通能力等を付与され、牽制等に使うには最適ななのはのディバインシューター。
弾速こそ遅いが複数同時発射可能、チャージや魔方陣制御を必要としない、発射速度に優れ連射も可能とフェイトのフォトンランサーを参考に編み出された魔法である。
バスターだけでは対応仕切れない……と生まれたそれが今、フォトンランサーと真っ向からぶつかり合っていく。
「ディバインシューター、シュート!」
《divine shooter》
消されるやいなや、すぐに次のシューターを前方を滑る様に飛ぶフェイトに放つ。
大きく曲がるフェイトを追尾する桜色の魔力弾。
フェイトは自分を追尾してくる光を見やると、振り返る。
「バルディッシュ」
《scythe form. set up》
右手に持つバルディッシュの先端が変形し、そこから三日月状の魔力の刃が生まれる。
そして、自分からシューターに向かうと次々と斬り払っていく。
「あの子と戦いたい訳じゃない。でも、母さんの為にジュエルシードは必要。譲れない」
なのはへと、一瞬で距離を積めると斬りかかる。
「来た……!!」
《scythe slash》
《flash move》
光刃の一閃を高速移動で避けて、フェイトの後ろへと移動――即座にシューターを放つ。
フェイトは後退しながら、全て斬り払い……。
その姿が消える。
なのはは姿を見失い――勘で振り向いたのは、上。
深紅の月を背に背負い、マントをなびかせ鎌を振り上げている姿。
逆光と自身が放つ魔力光の関係か、黒いシルエットに目の辺りが金色に輝いている。
なびくマントのシルエットも合わさって、死神の様相を呈していた。
一気に上空から舞い降りてくるフェイトに、なのはは右手を突き出すのみ。
《round shield》
円状に展開した魔力障壁が死神の光刃を受け止め、互いの魔力が火花を散らす。
それを挟んで、視線が合う二人。
レイジングハートを持った左手が僅かに動く。
「……ッ!!」
フェイトが慌てて飛び退り、そこを斬り損ねたシューターが通過していく。
そのシューターをフォトンランサーで撃ち抜くと、距離を置いてなのはと向き合う。
互いの瞳に込められた色は――迷い。
「!……ッ、フェイトちゃん!」
「…………」
なのはの突然の叫びに、フェイトは無言を貫くが身体が微かに反応する。
「言葉だけじゃ伝わらないって言ったけど、やっぱり言葉は……話をする事は大切だと思う……! 話をするからこそ、伝わる事だってある筈だよ!」
フェイトから目をそらさずに。
「目的がある者同士がぶつかり合う事は仕方がないのかもしれないけど、理由も分からないまま争うなんて……。そんなのは私は嫌だよ!」
想いを込めて。
「私がジュエルシードを集めるのは、それがユーノ君の探し物だから。最初にジュエルシードを見つけたユーノ君が、それをもう一度元通りに集め直さなくちゃいけないから。私はそのお手伝いで……。始めたのは偶然だったけど、今は自分の意思で……ルティちゃんと一緒に集めてる!」
迷いはいつの間にか消え。
「自分の暮らしている町や人達が傷付くのは嫌だから! これが、私の理由!」
その想いの全てを、フェイトにぶつける。
その言葉と真っ直ぐな瞳に、フェイトの心は揺れていた。
母さんの望みを叶えたいから。
母さんに認めてほしいから。
笑顔が絶え、この数年で急に優しさを無くしてしまったかのように変貌した母親が、元の優しさを取り戻してまた自分に笑顔を見せて欲しいから。
その思いの中で、不意にアルフが見たというなのはの姿を思いだし……。
フェイトの瞳からも迷いが消えた。
「フォトンランサー」
《photon lancer. get set》
デバイスに集う雷光の弾。
「フェイトちゃん!?」
フェイトの変化に戸惑うなのは。
母親と、家族や友人達に囲まれていたという話。
何不自由無く暮らしている様に見えたという姿。
アウナスの後、ルティシアの話を拠点のシステムから聞いていた。
魔族を初めとする者達から、自分の暮らしていた場所を、人々を守るために戦い続ける事を。
恐らく、守るためなら自分の身を犠牲にしてでも成し遂げようとするであろう覚悟を。
ジュエルシードが関係しなければ、いや関係したとしても危険なモノから自分以外を遠ざけようとする意思を。
……最初以外は絶対認めないが。
そこは、なのはとフェイトの共通した思いだろう。
自分を犠牲にした後、、遺された者達がどう思うかを全く理解していない。
今回も、考慮や配慮の結果だろうが、それを見て相手がどう思うかまでは考えていない事が、結果としては間違っていないと言っていた一言で分かる。
心配させないようにと配慮出来る者が、何かあったと思わせる様な不吉で不気味なモノを作らないだろうし、と。
――しかし、なのはにはルティシアの様な覚悟は窺えない。
アルフがぽつりと評した甘ったれた子。
先程の言葉通り、自分の心が少し動いてしまった為多少の覚悟はあるかもだが、まだ足りない。
「見せて」
「え……?」
だからこそ、口にした。
「なのはの覚悟を」
二人の瞳が見つめ合い……。
なのはもレイジングハートを構え、桜色の光球が生み出されていく。
「私が勝ったら、話を聞かせてもらうよ?」
それには軽く頷く。
「ルティちゃん」
「ルティ」
視線を外さずに、下へと声をかける。
声をかけられたルティシアは左手に鞘に納められた氷雨を持ち、右手
で刀身が僅かに見えるくらい抜きー―。
高く澄んだ音と共に納刀した。
「ディバインシューター、シュート!」
「フォトンランサー、ファイア」
幾度目かのぶつかり合いをする両魔法。
「レイジングハート、もっと高く……! 」
《all light!》
更にシューターを放ち、靴から発生している桜色の羽を羽ばたかせて上へと移動するなのは。
右手を高く上げて――あの時見た光を思い浮かべて。
「大いなる星屑よ!」
右手を掲げた先に桜色の光点がいくつも現れる。
その輝きは夜空を彩る星の様に……。
「あれは……」
シューターを落としたフェイトはその様子を見て、バルディッシュを下手に構えて――。
「アークセイバー」
《arc saber》
振り上げると同時に、三日月状の刃がなのはへと向かっていく。
迫る刃にも慌てず――星の煌めきに似た光はその輝きを増していき。
「スターダスト、レボリューション!!」
《stardust revolution》
右手を振り下ろすと同時に、桜色の尾を引いて流星が降り注いだ。
シューターとは違い、誘導性は無いがバリア貫通能力を持ち、威力と弾速は高めている。
「……速い!」
アークセイバーをあっさり打ち消しながら迫る星屑から、咄嗟に回避したものの幾つかは身体を掠めてフェイトの魔力を削っている。
「でも、今が狙い時」
反動が大きいのか、まだ手を振り下ろした姿勢のまま肩で息をしている。
「バルディッシュ、一気にいくよ」
《photon lancer. howling shift》
なのはを取り囲む様に配置されるスフィア。
「ファイア!」
《protection》
雷光の檻の様に、縦横無尽になのはを取り囲んで放たれたそれを、オートガードに設定してあった防御魔法で防ぐ。
ガリガリと魔力を削られるも、何とか防ぎきり……。
バリアを解いた途端に拘束された。
「バインド!?」
もがくも、外れそうに無い。
風に乗って、フェイトの声が響く……。
詠唱の声が。
「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル」
詠唱に合わせて、フェイトの周囲に次々と光球が現れる。その数38、その全てが連射型のフォトンスフィア。毎秒7発の斉射を4秒継続し、総数1064発のフォトンランサーで相手を撃ち貫く、師のリニスから教わった、今フェイトに出来る最大最強の攻撃魔法。
「なのは!!」
「フェイト! それは……」
下から見て、その危険性に気が付き、もしくは知っている二人が声をあげるも……それを、ルティシアが制する。
「ルティシア!?」
「ユーノ、これは姉さんが望んだ一対一の戦いです。私達が介入するわけにはいきません」
「でも……」
「私も割り込めるものなら割り込みたいですが、それは姉さんも望んでいません。姉さんの決意に水を差すわけにはいかないのです。命に関わるものなら、恨まれても割り込みますが、フェイトを信じましょう」
「……分かったよ、ボクも二人を信じる」
ユーノが頷き、上空の二人に意識を戻す。
「けど、ルティシア。あれは本当にまずいんだよ?」
視線を二人に向けたままのアルフも口を開く。
「アルフも、フェイトを信じましょう。多分、フェイトも何か変わろうとしている様に見えます。あれは、必要な事なのでしょう」
ルティシアも空を見上げたままー―そして。
「フォトンランサー・ファランクスシフト。打ち砕け、ファイア!」
スフィアから、無数の雷光の槍が吐き出される。
レイジングハートが光を放ちながら、その弾幕に飲まれて発生した煙に包まれ姿が見えなくなる。
放ったフェイトもまた途中から肩で大きく息をして、なのはにかけていたバインドも魔力温存のため解除していた。
だめ押し用に雷の槍を作るが、それに込められた魔力は微々たるものだった。
ややあって、煙が晴れて……見えたのは桜色の光の球。
なのはを守る様に旋回している。なのは自身、若干の疲労は見えるがバリアジャケットも維持し、無傷にも見える。
「う……うわぁぁぁ…!?」
フェイトが叫びと共に槍を放つが、それは桜色の光球に吸収されてしまう。
「今度は、こっちの番だよ!!」
《divine bit buster》
光の球――ディバインビットからの砲撃。
桜色の光の奔流を、残った魔力をかき集めての防御魔法で防ぐ。
「堪えてみせる…。あの子だって堪えたのだから!」
その威力にバリアジャケットが……マントが……維持する魔力を失い破れていく。
やがて、奔流が収まると最早フェイトに残された魔力を飛行を維持する位。
そんなフェイトの視界に眩いばかりの桜色の光が……。
左手でシーリングモードに変形したレイジングハートを高々と掲げると、前方に巨大な魔方陣が展開される。
《starlight breaker》
なのはの周囲に現れた光点が閃光となって魔方陣へと収束していく。
先程とは別の、流星の光景。
自身が使用した魔力だけでは無く、他者が使用した周囲の魔力残滓さえも再利用して収束していく。
それが術者の限界を越えた威力を、一撃必殺の攻撃魔法になる。
収束して、膨れ上がった光球。
それは、見上げる者達にもその凄さ、魔力の余波がはっきり伝わる程。
「な、なのは……」
「ちょちょちょ、ちょっとルティシア!? あれは本当に大丈夫何だろうね!?」
「大丈夫ですよ」
アドバイスは以前したものの、その光景に唖然とするユーノ。
慌てたアルフはルティシアを揺さぶっている。
それにルティシアは返事を返して、間を置いて付け加えた。
「……多分」
「フェイト--!?」
「これが私の全力全開! スターライト…! ブレイカァァ---ッ!!」
桜色の光は柱となって飲み込んでいく。
消耗したフェイトが見たものは巨大な桜色の柱が自分に迫ってくる絶望的な光景。
余波で横の二人が吹き飛ばされない様に、障壁を張りながらもルティシアはジッと見つめ続けー―光が消えると同時に飛び出す。
完全に意識を失っているフェイトを横抱きで受け止めて。
「姉さんの思いが良い意味で届いていたらいいのですg」
呟いたルティシアの上空から桜色の輝きが……。
「フェイトちゃんずるい……。私もお姫様抱っこはされていないのに……」
魔方陣に、収束されていく光。
さっきよりも速く、激しく収束されていく。
「ね、姉さん? もう、勝負は着いていますが……? 何故、更に魔法を」
「る、ルティシア。今その言葉はまずいよ!?」
「あれはどこまで鈍いんだい!? ふぇ、フェイト! 起きて、逃げて!?」
「ルティちゃんも一緒に!」
据わった目に、黒い笑顔を浮かべてトリガーを引いた。
先程よりも増した光の柱が迫る。
「は、始まりの光よ、撃ち祓え! 〈ディヴァインコロナ〉!」
両手も使えず、咄嗟に放った為に展開した魔方陣は一つ。
撃ち出された大光球は 本来のものよりやや小型。
そのせいか他の要因か、あっさりと撃ち破られる。
「こんなに、あっさり……」
フェイトをアルフへと咄嗟に放り、迫る柱に左手を向ける。
集うは雷光。
「バニッシュゲイザー!」
攻撃ではなく受け止めるためのバニッシュゲイザー。
押されつつも受け止める。受け止めた場所から光が周囲へと迸る。
「このまま……」
防ぎきれる、と確信出来る。先程の一撃で、なのはの魔力も減少しているはず。
そのはずだった。
「きちんと受けてくれないんだ、ルティちゃん? 私の思い、きちんと伝えないとね。私だって心配しているのに、いつも一人でしようとして……。言葉だけじゃダメ、フェイトちゃんよく分かったよ……」
目の輝きが消えていき、更に威力が増す。
大きく、押されるルティシア。
「きちんと、伝 え な い と ね」
「え……」
膨大な魔力が柱とは最早言えない何かになって、ルティシアを飲み込み吹き飛ばしていく。
「「うわぁ………」」
その光景にユーノと、フェイトを受け止める為に人型になったアルフから引きつった声が洩れた。
「フェイト、あれに捲き込まれなくて良かったよ……」
気絶したフェイトをそう言って抱き締める。
光が彼方へ飛び去って……、ポツリとユーノが口を開いた。
「ルティシアに伝わったと思いますか?」
「いや、多分何故とかどこで間違えたとかおもってるんじゃないかね?」
充分にあり得る事に、二人は息を呑み――空を見上げた。
深紅の月と赤い空を背負い、はためく濃紺の筈のマントは陰で黒く。
レイジングハートを構えたままの姿勢で、しかし何故かその無表情だけははっきり見えた。
そして、再び笑顔を浮かべようとして――。
「「し、鎮まれ--!!」」
《subside》
二人とレイジングハートの声が辺りに響き渡った……。
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少女達が心暖まる交流を行っている中
次元の世界から姿を現す者達が。
なのは「みんなどうしたの?」