魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その30 「話を聞かせて貰おう」

「フェイト! ごめんよ……。まさかこんなことになるなんて……」

 

 

 フォルネウスを倒し、なのはを鎮めた翌日の朝。

 

 

 フェイトとアルフは報告と手元にあるジュエルシードを手渡しに、フェイトの母プレシア・テスタロッサの待つ本拠地――時の庭園へと戻ってきていた。

 

 

 外では雷鳴が鳴り響き、稲光が窓から薄暗い邸内を照らす。

 

 

 この数年間、常にこの状態だった事もあり、二人は気にすることなく真っ直ぐプレシアの待つ部屋へと向かう。

 

 

 アルフを部屋の前で待たせてフェイトは部屋の中へ。

 

 

 謁見の間に似た部屋の奥に置かれた椅子――いや、玉座に無表情なプレシアは腰かけていた。

 

 

 長い黒髪と、左目は垂れた前髪で隠れ、その纏っている黒いローブ――バリアジャケットの見た目も相まって悪の魔女の様にも見える。

 

 

 帰宅――帰還報告をするフェイトを遮りジュエルシードを求め……。

 

 

 出された三個の――たった三個のジュエルシードを見て、激怒した。

 

 

 フェイトが望んでいた優しい笑みではなく、狂気の笑みを浮かべて。

 

 

 空中から伸びた魔力の鎖に両手を拘束され、Yの字状に吊るされたフェイトに対し、杖を変化させた鞭を振るい、拳を、蹴りを叩き込み……バリアジャケットがあちこち破損していく。

 

 

「いい? フェイト。 母さんを喜ばせたかったら、早くジュエルシードをたくさん集めてきなさい。邪魔者がいるなら排除してでも。この大魔導士プレシア・テスタロッサの娘であり、リニスが鍛えたあなただもの。出来ない筈は無いわね? 彼女の教えを、努力を徒労にしたくないでしょう?」

 

 

「……はい、母さん……」

 

 

 消耗し、かすれた声で 答えるフェイト。

 

 

 拘束が解かれ、そのまま倒れ込むフェイトに対し――。

 

 

「わ……私には時間が無い。すぐに向かいなさい。可愛い私の娘、フェイト」

 

 

 そう言い放つと踵を返し、倒れたフェイトには目も向けず奥の間へと歩き去って行った。

 

 

「……はい、……母さん」

 

 

 何とか顔だけ上げ、去る母の背に向かって――それだけを告げて床に伏した。

 

 

 

 

 奥の間。何かが入った水晶の様なモノの前にプレシアは立っていた。

 両目から血の涙を流して。

 

 

「まだそういう意識が残っていたとはな。だが、我の邪魔だけはするなよ? 貴様の守りたいものの為にもな」

 

 

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「どうしてアルフが謝るの……? アルフは悪くないよ……」

 

 

 片手を抑え、片足を引きずりながら部屋から出てきたフェイトに、アルフは駆け寄った。

 

 

 触れると同時に倒れそうになったフェイトを抱き抱えて、見える範囲だけでも相当な数のみみず腫れと打撲傷を見て涙を流すアルフにそう声をかけた。

 

 

「あたしも一緒に行っていれば……! あいつ、何のつもりだい!!」

 

 

 

「母さんも悪くないよ……」

 

 

 奥へと憎悪の視線を向けるアルフに、フェイトが声をかける。

 

 

「悪いのは私。母さんの期待に応えられなかったから。これは罰。これも母さんの愛情だよ」

 

 

「そんな!? そんな馬鹿な話が!」

 

 

 ここまでされて尚、母を擁護するフェイト。さすがに今の言葉だけはアルフも受け入れられなかった。受け入れられないが……。

 

 

「私は大丈夫だから。ね? それだけ、あのジュエルシードが母さんにとっても大事なものって事なんだよ」

 

 

「分かったよ……」

 

 

 弱々しく笑みを浮かべられて言われると、頷く事しか出来なかった。

 

 

「たくさん集めて帰れば今度こそ喜んでくれる。笑ってくれる。アルフにも優しくなってくれるよ。だって、私達は家族だから」

 

 

「フェイト……。じゃあ、ルティシア達からジュエルシードを借りて……!」

 

 

 すぐにでも飛び出しそうなアルフを抑える。

 

 

「それは、最後かな。あれはなのはが集めたモノだから。まずは、残りのジュエルシードをこちらに貰えないか聞いてみる。それでも母さんが足りないと言うなら、その時なのは達に相談しよう?」

 

 

 あちらの事情も分かった。故に、心優しい少女は自身が必要としていても出来るだけ争いを避けようとする。

 

 

 

「でも、夕方にみんなと会う前にこれを見られないような服を探さないと」

 

 

 身体に付いた傷跡を見ながら。

 

 

「とりあえず、あっちに戻ろう? フェイト。何か良い薬とか有るかもしれないしさ」

 

 

「うん。そして、早くジュエルシードを見つけて母さんに喜んで貰わないとね」

 

 

 そう言って微笑んだフェイトを、アルフは無言で抱き締めた。

 

 

 

 二人は家へと転移(言うまでもなくルティシアの拠点)する。

 

 

 キーワードを唱えて、現れた茶色とまばらに緑色が散りばめられた小さな家の中へ。

 

 

『お帰りなさい、フェイト、アルフ』

 

 

「ただいま、システム」

 

 

「今帰ったよ~」

 

 

 入ると同時に声をかけてくるセキュリティシステム。

 

 

 入ってすぐのリビングにある大型でシンプルなデザインのテーブル。

 

 

 そこに備え付けられている椅子にフェイトを座らせて、アルフはシステムに声をかける。

 

 

「早々で悪いんだけどさ、長袖の服とか、後……薬ってあるかい?」

 

 

『その傷跡を隠すためですね。用意します』

 

 

「ごめんね、ありがとう」

 

 

 本来なら部外者の筈の自分達を、このシステムは何故か積極的に支援してくれていた。

 

        マスター

 理由を聞いても主の友人だからとしか答えないが、友人というだけでここまでしてくれるのかと疑問には思っている。

 

 

『先に薬の方からどうぞ』

 

 

 楕円形のテーブルの真ん中がスライドし、下から青い液体の詰まった小瓶と丸いケースがせりあがってくる。

 

 

『小瓶の方は回復薬です。飲んだり、振りかけると効果は現れます。痛みと同時に魔力もある程度回復しますが、傷跡そのものを消すには少し時間がかかります。ケースの中に入っているクリームは、塗り込めば傷跡を素早く癒します。美肌効果も多少ですがあります』

 

「ありがとう、使わせてもらいます」

 

 

「フェイト、クリームはあたしが塗ってあげる」

 

 

 痛みは自分への罰だからと思ったが、ジュエルシードとの戦闘の際にその性で失敗はしたくないため飲む事にした。

 

 

 ……思ったよりは甘い味が広がる。

 

 

「……甘い」

 

 

「どれどれ……確かに」

 

 半分程残っていた小瓶を受け取り、一口だけ飲んだアルフも同じ感想を持つ。

 

 

『こちらで良いものに出会ったと、主が薬品の味を変えました。良く飲むモノだから、無味よりは良いと』

 

 

「それは少し分かる……かな」

 

 

 システムの音声を聞きながら小瓶の残りを飲み――動きが止まった。

 

 

「今、何て言ったの?」

 

 

『良く飲むモノだから、です』

 

 

「…………良く?」

 

 

 僅かにフェイトの声のトーンが下がっている。

 

 

『はい。訓練時等、回復魔法が使える筈なのに余り使おうとせずこの薬を飲んでいましたね。魔晶石のチャージ中に敵が来てはいけないから、と。指導役が不在の時は薬とクリームを大量に持ち込んで、早くみんなの居る場所へとひたすら鍛練していましたし』

 

 

「………………ふーん」

 

 

「ほ、ほら昔の話だからね、フェイト?」

 

 

 声が下がっていくフェイトにアルフは慌てて声をかけ、明るくシステムに問いかけた。

 

 

「普通は、そんな無茶は出来ないんじゃないのかい? 誰か止めそうだけど」

 

 

『それが、主が産まれてからしばらくは激戦時代でした。出来る限り誰か一緒に居るようにはしていましたが、戦闘力の高い三王女様や隊長……あの国では隊長クラスは王女に次ぐ役職ですが、その者達も防衛に出る程でした。よって、自然と一人で居る事が多かったのです。もう一人、同時に鍛練している者もいましたが、そちらは指導者のせいで終わりが見えない魔導書の写本でしたし』

 

 

「……ルティ、一人だったんだ」

 

 

「あの子が変なのは、そういうのも関係あるのかね」

 

 

『完全に一人という訳ではありませんが、多かったのは事実ですね。指導者が居れば社会勉強までは早かった筈が、主は少し時間が経っている分なかなか馴染めないかと思っていました』

 

 

 本人が居れば確実に何か言うであろう内容を、全く気にすることなく話すシステム。

 

 

 

『こちらで出来た新たな家族と、ご友人の皆さん……少ないですが……には感謝ですね。少しずつ主も心を学んでいます。疎い部分もまだまだありますが』

 

 

「主と言う割に容赦無いね」

 

 

『照れます、余り誉めないで下さい。ウニョラー』

 

 

 その音声にアルフが誉めてない! とツッコミを入れて、聞いていたフェイトも笑みを――。

 

 

『主思いであるが故に、今でも良く薬品を使っている、と話を戻しましょう』

 

 

 浮かべて止まった。

 

 

 アルフも小さく反応をして、フェイトの様子をおそるおそる窺う。

 

 

『本来、魔族等は非殺傷等というものは使いません。ジュエルシードから出てきたあれらが何故非殺傷になっていたのかは分かりませんが。交戦すれば怪我はもちろん、死の可能性もあります。こちらではどうか分かりませんが、あちらではそれが普通でした』

 

 

 フェイトの様子を気にすることなく、先程までのおちゃらけた感じは潜め、主の様に淡々と。

 

 

『こちらに来てからも、非殺傷では無い魔族や妖魔との戦闘や、日々の鍛練中等は主は非殺傷を使っていません。よって、たまに簡単な回復魔法を使う程度で、ほとんどを薬品で治していますね。魔晶石のチャージに時間がかかるから、と』

 

 

「……………そうなんだ」

 

 

『フェイトやアルフが居るときは、こっそりガンビットに収納させて持って行っていますし』

 

 

「……………………」

 

 

 沈黙が降りた。

 

 

「(ルティシア、ご飯美味しかったよ……)」

 

 

 心の中で合掌するアルフ。

 

 

「……なのはにも教えて、じっくりお話した方が良さそうだよね、バルディッシュ?」

 

 

《yes sir! 》

 

 

『それはダメです』

 

 

 黒い何かをまといかけたフェイトを、何故かけしかけていたシステムが止める。

 

 

「ダメ?」

 

 

「言ったあんたが止めるのかい」

 

 

 二人の反応に、勿論ですと応えて。

 

 

『あなたもナノハも共に無茶をする人です。無茶をする人に無茶をするなと言われて、納得する人はそうは居ません』

 

 

「!! そうだよ、フェイト。ルティシアに文句を言うなら、まずフェイトが無茶をしないようにしないと!」

 

 

 フェイトが無理・無茶をよくする事を知っているアルフとしては、これは絶好の機会だった。

 

 

「分かった、ジュエルシード集めは母さんのためにも止めるわけにはいかないけど、終わったら無理はしないようにする」

 

 

「(あの女の関係でジュエルシード集めは仕方ない……、か。それも、あっちのメンバーが協力してくれれば、フェイトの負担は軽くなる筈) あたしはフェイトに幸せになって欲しいんだよ。だから、無理は出来るだけ控えて……」

 

 

 真摯に訴えるアルフの頭を優しく撫でながら――。

 

 

「うん、ありがとうアルフ。時間だから、そろそろ行こうか」

 

 

「あいよ」

 

 

 傷が消えたから、と服を着替えないまま外へ。

 

 

『フェイト』

 

 

 その背にシステムが声をかける。

 

 

「なに?」

 

 

『あなたがこれから進む先で、見つけた真実から眼を逸らさず、受け入れ変わる勇気を持ち、あなた自身が築いた絆を信じなさい』

 

 

「システム……?」

 

 

『行ってらっしゃい。 good luck』

 

 

 首を傾げながら二人が出ていく。

 

 

『宿命を告げる時計台の鐘は既に鳴り響いている。少女達よ、その魂を……ソウルを燃やし、希望と共に無限の空へ羽ばたきなさい。決して闇に囚われない様に……』

 

 

 

 

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 夕方の海鳴臨海公園。

 

 フェイトとアルフが待つそこに、走ってくる見慣れてしまった二人と一匹の姿。

 

 

 制服姿のなのはとルティシア。なのはの方は完全に息切れをしているが……。

 

 

「ご、ごめんねフェイトちゃん、アルフさん。待たせちゃって……」

「ごめんなさい、フェイト、アルフ」

 

 

「わたし達も来たばかりだから」

 

 

 謝る二人に、気にしていないと首を横に振り――。

 

 

「三人には伝えたい事があるから」

 

 フェイトが語り出す。

 

 

 ジュエルシードを必要としている人が居る事。

 

 

 自分にとってその人はとても大切な人で、その人の願いを叶えてあげたい事。

 

 

 出来るなら、残りのジュエルシードは自分達に封印させてほしい事を。

 

 

「どうかな……?」

 

 

 フェイトはなのはを見て、肩のフェレット―― ジュエルシード発見者のユーノをジッと見つめる。

 

 

「ユーノ君……どう?」

 

 

 そういう事情ならなのはとしてもフェイトを手伝いたかったが、あくまでもそれはユーノが了承した場合である。

 

 

 なのはもジッと、考え込んでいるユーノを見つめる。

 

 

「ボクは……」

 

 

 口を開いたユーノに二人と、何故かアルフに同情され首を傾げていたルティシアの視線も集まる。

 

 

「ボクはその人に協力しても良いと思う。その人がどうしてジュエルシードの事を知っていたのか気になる事はあるけど」

 

 

「ユーノ君……!」

 

 

「ただし」

 

 

 なのはの声を遮りながら。

 

 

「封印作業は出来るだけボクの前でしてほしい。ボクは、21個のジュエルシードを集め直すと決めて、ここに来たから」

 

 

「それは約束する」

 

 

 ユーノの意思を感じ、しっかり頷く。

 

 

「後、持っていく時にはボクも一緒に連れて行って欲しい。ジュエルシードの事で話をしたいから」

 

 

「そっちは……今は約束出来ないけど、話はしてみる」

 

 

「何せ気難しいババアでね」

 

 

「アルフ! ……気難しいんじゃないよ、ただ不器用なだけだと思う」

 

 

「ユーノ君、いいの?」

 

 二人のやりとりを聞きながら、肩のユーノを見る。

 

 

 ユーノはそれにしっかり頷いて見せた。

 

 

「良いよ。誰かの助けになるのなら。ただ、最後までは見届けたいけどね」

 

 

「うん! 私も同じ! ルティちゃんも良いよね?」

 

 

 会話に加わらずに夕陽を見つめていたルティシアも首肯する。

 

 

 その様子に、違和感を覚えるなのは。

 

 

「ルティちゃん、どうかしたの?」

 

 

「ちょっと気になるゴミが有ったためガンビットで掃除していました」

 

 

「ゴミ……?」

 

 

「はい、余り気にしないで下さい。ところでフェイト? 姉さんが持っているのと、私が預かっているジュエルシードはどうしますか?」

 

 

 ルティシアがフェイトの方に顔を向けると、あ…と声をあげてなのはもそちらに顔を向ける。

 

 

「それはそのまま持っていて。その人がどうしても必要と言うなら、改めて聞くから」

 

 

「分かりました」

 

 

「うん、でもいいの?」

 

 

「それはなのは達が頑張った分だから」

 

 

 だから今は大丈夫、と答える。

 

 

「それと、フェイトちゃんお願いがあるんだけど……」

 

 

 おずおずとフェイトの近くへ。

 

 

「なに、なのは?」

 

 

「私も、フェイトちゃんと友達になりたいんだ」

 

 

「やれやれ、これであんたが願った通りかい?」

 

 

 離れて二人を見ているルティシアの近くにアルフがやってきた。

 

 

「そうですね。二人が仲良くなってくれたら、とは思っていました」

 

 

「あたしとしては今は複雑だけどね。ま、機会としては良いかもしれないさ。しばらくは一緒に行動するんだし」

 

 

 柵にもたれて、実際複雑そうな表情をしている。

 

 

 話している二人から視線を外し、ルティシアは沈もうとする夕陽を見つめる。

 

 

 濃紺の髪や瞳が、照らされて赤く染められている。

 

 

「複雑な事情がありそうですが、きっと何とかなります」

 

 

「そうかい?」

 

 

「はい、あの二人はどこか良く似ていますから。良い友人になれると思います。今は難しくても、このジュエルシードの件が無事に終われば……」

 

 

「ルティシアが良いなら良いけどね。せいぜい頑張りなよ」

 

 

「それはどういう意味ですか?」

 

 

 談笑している所に近付いてくる影。

 

 

 杖をつきながら足を引きずり、片手を肩から吊っている上、他にもあちこち包帯を巻いているなのは達より歳上な多分男の子。

 

 

「すまないが……う……ちょっと話を聞かせて貰いたい」

 

 

「ミイラ男?」

 

 

「違う!!」

 

 

 見た目を呟いたなのはに反応し、男の子の叫びが公園に響き渡った。

 




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現れた新勢力。


少女達は決断を迫られる。


ルティシア「覚悟は出来ましたか?」
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