魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その31 「覚悟は出来ましたか?」

「艦長。間もなく第97管理外世界に到着します」

 

 

「分かったわ、ありがとう」

 

 

 次元間を航行中の1隻の船。

 

 

 時空管理局所属、次元空間航行艦船・巡航L級八番艦アースラ。

 

 

「各部の修理も順調に。2・3日もすれば完了するかと」

 

 

「長かったわね。あのたった1回の攻撃で……」

 

 

 あの無人世界で出会った少女が去り際に行ったであろう攻撃により、航行等には即影響しないものの放置するには危険というダメージを受けたアースラ。

 

 

 修理で帰還する程ではなく、かといって自分達だけの修理では時間がかかるという、実に絶妙な攻撃である。

 

 

 仕掛けたのは別人で、少女は起爆させただけという事は、アースラスタッフには知る由も無い事だが……。

 

 

 艦長席に座るリンディ・ハラオウン提督は淹れてあったお茶に砂糖を入れると一口。

 

 

 ――リンディの後ろの出入り口から執務官補佐兼管制官のエイミィが入ってくる。

 

 

「リンディ艦長、只今戻りました」

 

 

「エイミィ、ありがとう。クロノの……クロノ執務官の様子はどう?」

 

 

「目が覚めて、今はあの子のデータが無いか調べています」

 

 

 息子の様子を聞くと、最近よく見かける光景を知らせられ頭を抱える。

 

 

「僕はあの少女を倒さないと先に進めないんだ、とかそういう感じですね! ……お茶のお代わりお淹れしますね」

 

 

 笑って言いながら、リンディの湯呑みにお茶を淹れる。

 

 

「あの子ったら……。あ、ありがとうエイミィ」

 

 

 自分の席に着いたエイミィは端末をいじりデータを呼び出す。

 

 

 画面に映し出されたのは件の少女。

 

 

 黒い羽飾りの様な物がいくつも付いた薄紫色のレオタード状の軽鎧を身に付け、肩までの長さの輝く様なプラチナブロンドの髪。

 

 

 ワインレッド色の眼に、勝ち気で小馬鹿にした様な表情。

 そして、大きく書かれた unknown の文字。

 

 

「アースラにメッセージを送ってきた人物の方も不明なままです」

 

 

 危険物があるため無人世界に調査に行くようにと送られてきたメッセージ。

 

 

 実際は危険物では無く危険人物だったわけだが……、その少女の親友という人物が送ってきたものらしい事は、少女自身が教えてくれたのだが。

 

 

「どこから送ってきたのかサッパリなのですよね~。むしろ、そこに湧いて出たみたいな」

 

 

「あれだけの実力者が今まで何もしてきていないとは思えないし、もう1人の方も只者では無さそうだし……。どうしたものかしらね……」

 

 

「艦長、構いませんか?」

 

 

 考え込んでいたリンディに声をかけたのは、二人居る男性オペレーターの内の1人、アレックス。

 

 

「何かしら?」

 

 

「例の地域にサーチャーを送ったのですが、魔導士らしい人物を4人見つけた所で映像が途切れました」

 

 

 アレックスの報告に、リンディは眉をしかめる。

 

 

「途切れたというのは壊されて?」

 

 

「直前までの映像ではその可能性は低いと思われますが、故障の可能性も高いですね」

 

 

「何せ、サーチャーも軒並み壊れていましたしね」

 

 

 アレックスの報告に、もう1人の男性オペレーター ランディも同意する。

 

 

「そうね~……充分な事前調査が出来ないのは痛いわ。昨日と今日の画像出せる?」

 

 

「はい」

 

 

 画面に映し出された画像は2つ。

 

 

 1つはやや暗い時間帯。ビル街の間の細道に居る4人の姿。

 

 

 濃紺の髪をポニーテールに結い、黒く体にフィットしたモノを着ている少女。肩にかけているのは白い服だろうか? 別の肩には茶色の小動物が乗っている。

 

 

 その女の子が横抱きにしている茶髪の少女。白い服と、濃紺のマントの様なものをまとい手には杖――デバイスを持っている。

 

 その横に居る黒い服とマント、手に先端が斧状の棒――デバイスを持った金髪をツインテールにした少女。

 

 

 その金髪少女を支える様に、横から手を貸しているオレンジの髪の女性。

 

 

 金髪の少女に何か言われ、濃紺の髪の少女がオレンジ髪の女性に抱いていた少女を託し、肩にかけていた服を着ようとして――そこで途切れている。

 

 

 もう1つの方はかなり短い時間しか撮れていない。

 

 

 夕方の水辺に近い公園で、先程の4人が映っている。

 

 

 話し合っている感じの茶髪と金髪の少女達と、オレンジ髪の女性。

 

 少し離れて水辺の方を見ている濃紺髪の少女。

 

 茶髪の少女がそちらに顔を向け……た所で映像が途切れている。

 

 

「この画像はつい先程のもののため、彼女達はまだそこに居る可能性は高いと思われます」

 

 

 

 

 転移した姿を見送ってため息をつくリンディ。

 

 

「少しは弱音を吐いても良いのに……」

 

 

 

 

「すまないが……う……ちょっと話を聞かせて貰いたい」

 

 

 向かい合って話していたなのはとフェイト。海側の柵の方で話していたルティシアとアルフ、ユーノ。

 

 

 声をかけられた方を5人が見ると、そこには杖をついて腕を吊り、あちこち包帯を巻いた少年の姿が。

 

 

「ミイラ男?」

 

 

「違う!!」

 

 

 思わず洩れたなのはの呟きに、少年は思わず叫んでしまい……恥ずかしそう咳払いをする。

 

 

「時空管理局、執務官のクロノ・ハラオウンだ。事情によりこの地で起きている事について、ちょっと話を聞かせてほしい」

 

 

「「時空管理局?」」

 

 

「「時空管理局だって!?」」

 

 

 クロノに対する反応は5人の中で分かれる。

 

 

 単純に知らないなのは。

 

 

 以前誰かの話で聞いた様な……というルティシア。渡された資料に、管理局についての記載が無いことを不思議に思う。その世界に関わる重要な組織ならば必ず記載されるからだ。

 

 

「(隊長が資料を入れ忘れる……? あり得そうですが、さすがに不要なトラブルを避ける為にその辺りは忘れないでしょうし……。抜き取る……、も資料とガンビット両方から抜き取る事は出来ない筈ですし、そもそもそういう機会は無い筈。私の確認ミスでしょうか?)」

 

 

 ユーノは管理局が出てきた事に驚き、アルフは若干憎悪を滲ませている。

 

 

「ユーノ君、時空……管理局? って何?」

 

 

「えっとね……」

 

 

「え、君は魔導士だろう? 時空管理局を知らないのか?」

 

 

 ユーノに話しかけるなのはに、驚いたのはクロノ。もっとも、驚いたのはフェレットに話しかけた事ではなく、管理局を知らない事についてだが。

 

 

 ただ、その質問でルティシアの視線はきつくなる。

 

 

「ごめんなさい、知らないんです」

 

 

「彼女はこの世界の住人で、つい最近なったばかりなんです」

 

 

「そうなのか……? とりあえず、ちょっと聞きたい事があるんだ。銀髪の少女について、誰か何か知らないか?」

 

 

 2人の答えに首を捻るも、本題を切り出す。

 

 

「銀髪……? 私は知らな……知りませんが、フェイトちゃんは?」

 

 

「知らない。ルティは?」

 

 

 視線を向けると何か考え込んでいるルティシアの姿。

 

 

「ルティちゃん?」

 

 

「ルティ?」

 

 

「え?」

 

 

 2人から再度声をかけられてようやく反応する。いつもなら聞いている話も聞いていない様だった。

 

 

「えっと、この人が」

 

 

「クロノ・ハラオウンだ。クロノで良い」

 

 

「あ、はい。クロノ君が銀髪の女の子を知らないか? って」

 

 

「銀髪ですか? 特に思い当たる人は……」

 

 

「く……、手がかり無しか」

 

 

 3人の反応に意気消沈するクロノ。

 

 

「(銀髪と言うよりほぼ白でしたら3王女様ですが、管理局とセイティーグとは交流がありませんし……、王女様方が遠方に出たと言っても単独行動になることも無いですしね……。しかし……)」

 

 

 ルティシアの脳裏に1人の少女がぼんやりと浮かび上がる。

 

 

 輝く様な腰までの長さのプラチナブロンド。紫の瞳。紅茶?

 

 

「(この少女はいったい……。どこかで会ったことがあるのでしょうか? 紅茶……翠屋? そういえば、温泉にも……)」

 

 

「ルティちゃん!」

 

 

「え?」

 

 

「ルティ、ちょっと」

 

 

 気が付くと両肩をなのはとフェイトに掴まれていた。

 

 

「2人共、どうかしましたか?」

 

 

 首を傾げて2人を見ると、何故か2人の目が据わる。

 

 

「ルティちゃん、さっきから何を考えてるの?」

 

「また何か抱えてる? ルティ。正直に」

 

 

「今は特に抱えていませんが……って、どうして私は引きずられているのでしょうか?」

 

 

「「何か怪しいからオハナシしよう?」」

 

 

「ユーノ、アルフ?」

 

 

 引きずられながら2人を見ると、諦めろとばかりに首を振っている。

 

 

「さすがに、いつもと違い過ぎたよ。普段何かしながらでも話を聞いていたのに、今日はじっと考え込んでいたし」

 

 

「あたしは、その状態のフェイト達には言っても無駄だと思うからだけど。何か思い当たる事があるなら言ってみれば?」

 

「そうですね……ごめんなさい、2人共。少し待って下さい」

 

 

 とりあえず、自由を取り戻すと3人で元の位置へ。

 

 

「クロノさん、ちょっと良いですか?」

 

 

「何か思い当たる事でも?」

 

 

「その銀髪の少女の髪の長さはどれくらいでしたか?」

 

 

「肩までだ」

 

 

「なるほど……」

 

 

「君は何か知っているのか?」

 

 

 手がかりかと気力を取り戻したクロノに、曖昧ですがと断って……。

 

 

「プラチナブロンドの長髪の少女でしたら会った事があるかもしれません」

 

 

「本当に曖昧だな。記憶に無いって事?」

 

 

「そうです。会ったと思うのですが、はっきりと思い出せないのです」

 

 

「く……いや、もしかして彼女が言っていた協力者の方か?」

 

 

 ルティシアの話を聞いた後に考え込み――ややあって。

 

 

「すまない。こちらの事情を説明する。その後で、そちらへの協力とこちらへの捜査協力をお願いしたい」

 

 

 協力? と首を傾げるのはなのはとユーノ。

 

 

 思案顔になるルティシアとフェイトに、嫌そうな顔をするアルフ。

 

 

「実は……と、君も戻ったらどうだ?」

 

 

 話をしようとして、視線を向けたのはユーノ。

 

「あ、そうですね」

 

 

「え?」

 

 

 なのはが戸惑うなか、地面に下りたユーノが白い光に包まれて――現れたのはなのはと同い年位の男の子。

 

 

「え? え? え?」

 

 

 眼を丸くしたなのはがルティシアの後ろへと移動する。

 

 

「なのは達にこの姿を見せるのは久しぶりになるのかな?」

 

 

「ふぇーーー!?」

 

 

 臨海公園になのはの驚きの声が響き渡った。

 

 

「あ……あれ?」

 

 そのなのはの反応に戸惑いの声をあげたのはユーノだった。

 

 

「使い魔じゃなかったんだ」

 

 

「あたしも使い魔だと思ってたよ」

 

 

 なのはと違い、そこまで驚かない二人。

 

 

「君達の間で何か見解の相違でも……?」

 

 

「ユーノ君って、ユーノ君って……!?」

 

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 

 慌てふためくなのはに、ユーノも慌てて考え始める。

 

 

 やがて、ポンと手を叩くと――。

 

 

「そうだった! この姿になっていなかったね」

 

 

「そうだよね!?」

 

 

 ユーノの反応になのはは隠れながら答えて――。

 

 

 深いため息が聞こえた。

 

 

 なのはが隠れる先に選んだ人物――ユーノがあえて視線を合わせなかった人物から。

 

 

「残念ですユーノ」

 

 

 油の切れた機械の様に、ユーノはゆっくりと顔をルティシアへと向ける。

 

 人差し指を伸ばした右手を真っ直ぐ前に。

 

 

 その先端部には、いつの間にか赤い宝石の様に輝く爪が。

 

 

「覚悟は出来ましたか?」

 

 

「待って!? あの時は出来るだけ見ない様にしていたから!」

 

 

 クロノの後ろに隠れながら主張するクロノ。

 

 

「あ~……、君達に何があったのか知らないけど、話を進めたい」

 

 

 自分の方に向けられている不穏な気を受け流し、クロノはが口を開く。

 

 

「はい、ごめんなさいクロノさん。すぐ終わらせますので。スカーレットニードル・アンタレスで……」

 

 

「何を終わらせる気!?」

 

 いつも通りの淡々とした口調が、かえって恐怖を煽る。

 

 

「覗きは殲滅と聞いたのですが」

 

「とりあえず、続きは後で! 先に彼の話を聞こう、ルティシア」

 

 

「分かりました。遅くなっては兄様のお説教になりますし」

 

 

 赤い爪を付けたままだが手を下ろす姿に、ユーノはひとまず胸を撫で下ろした。

 

 

 それらのやりとりにクロノはこめかみを押さえていたが……。

 

 

「全く……。内容というのは……」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「……という事で、僕達としては君達と共に行動し、不穏な動きをしている者を捕まえたいと思っている」

 

 

「こっちがロストロギア……ジュエルシードを集める事は良いのかい?」

 

 怪しい少女と戦った事やその少女が告げた内容を説明したクロノに、アルフが問いかける。

 

 

「管理局としては、ロストロギアの存在等を任せたくは無いという事は本音だ。だが、あの少女の目的が分からないし、意図……つまり君達がロストロギアを集める事の邪魔をすると、何かをする可能性は非常に高いと思う。悔しいが、僕では勝てなかった」

 

 

「それで、暫くは私達と一緒に行動してその者達の様子を探りたいと」

 

 

 悔しさを滲ませるクロノにルティシアが聞く。

 

 

「その通り。ただし、その集めている人物が危険な事をしようとしているなら、管理局として介入する。後、ユーノと言ったね? 今回のトラブル自体は君の責任ではないが、何かあったならすぐに届け出てくるべきだ。次元震等が起きてからでは遅すぎる」

 

「は……はい、すみません」

 

 

 無謀な事は控える様にと注意する傍らで、大怪我をしているあなたが言っても、と母親から念話でツッコミが入る。

 

 

「もう日が暮れたし君達も考える時間が必要だろうから、明日返事を聞かせてほしい。協力出来るならそのまま今後の打ち合わせもしたいから」

 

 

 どうだろう? というクロノにそれぞれが頷いた。

 

 

 クロノが姿を消すと、フェイトとアルフは複雑な顔をする。

 

 

「管理局か……。今になって面倒な連中が来たね」

 

 

「でも、わたしは止めるわけにはいかないから。あの人の為にも」

 

 

「フェイトちゃん、私も協力するから!」

 

 

 決意を口にしたフェイトになのはが、ルティシアとユーノも頷いた。

 

 

「管理局の事と、その少女が気になりますが私達は帰らないと。今から急げばお説教は避けられる筈です」

 

 

「そうだね、急ごうルティちゃん。フェイトちゃん、アルフさんまたね!」

 

 

 フェレットの姿に戻ったユーノも含めて慌ただしく帰っていく3人を見送って、フェイト達は最初に自分達が借りていたマンションへと移動する。

 

 

 ルティシアがあの拠点を知られない様に警戒していたためである。自分達が出入りして見つかる訳にはいかないと二人で決めていた。

 

 

 管理局に対してどう対応をするべきか……。

 

 

 夜は静かに更けていく――。

 




next


力を合わせる一行


続々と集まるジュエルシード


そして、暗躍する者達も動きだす


クロノ「答えを聞かせてほしい」



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