迫ってきた炎を、空に舞うことで避けたクロノは冷静に相手を分析する。
「間違いない。あれはかつて、人の身体と機械を融合させるという計画で生み出され、問題視された存在。それが何故ここに……? 先程の巨大生物といい、いったい――っ!?」
「モヒカーン・スラッガー! がががっ!」
頭部にある赤いモヒカンに、挟む様に両手を添え――甲高い叫び声と共に、男はクロノへと投げつける。
放たれたモヒカンは鋭利な刃物となって、回転しながら迫り――展開されたラウンドシールドの魔法に阻まれ激しく魔力光を散らしている。
その間に、炎を横っ飛びでかわしたルティシアは男へと一気に接近する。
いつの間にか制服は脱いでおり、いつもの黒い戦闘衣姿に。ただ、普段と違い胸周りと腰周りに深紅のプロテクターを纏っている。
「神竜剣 火竜爪牙 ≪裂翔≫」
男の青いスーツに包まれた右肩に右手に持った刀を突き刺す。
筋肉と機械が混ざった様な複雑な感触が伝わるも――刀を引き抜くと同時に、左手で逆手に持っていた鞘を相手の顎に叩き付ける様にして真上へと跳ぶ。
跳び上がった間を縫うように、仰け反った男の体に上空から光の弾丸が一発二発……と突き刺さる。
モヒカンを弾き、弾丸――スティンガーレイを次々と撃ち込むと、ルティシアが落下に合わせて刀を構え直すのを見て男にバインドをかけるクロノ。
そして、舞い上がった子竜は獲物を斬り裂かんとばかりに舞い降りてくる。
「火竜爪牙 ≪裂断≫」
捕縛された男の左肩から真下へと――力任せの一撃が放たれ、着地と同時に横に構えた刀を振り抜いて男の背後へと移動していた。
落下分、初撃の方が威力が大きい技だがそちらも厚い筋肉に阻まれて大きなダメージにはなっておらず、斬り裂いた手応えはあっても、血も一滴も流れていない。
ミラージュダンス
「黒竜爪牙 ≪幻影舞踏≫」
背後から前へ。
前から背後へ。
速度を増しながら往復し、鞘を手放し両手で握った剣を振るい続け――高速で動き続けていることで、まるでルティシアが二人立っている様にも見える。
二人のルティシアは同時に、刀から手を離した左手を前に、切っ先を向けた刀を持った右手を後ろに引いて低く身構えた。
「火竜爪牙 ≪裂爪≫」
背後から袈裟懸けに斬り下ろし、反動で一回転した後に逆袈裟に斬り上げた。
間を置かずに、前方のルティシアも同じ動きをしたことで、両面にXの字が刻まれる。
≪裂爪≫最後の縦一閃を放つ直前――。
「……!」
男がとても哀しそうな表情を浮かべていた。
思わず手を止めてしまい、前方に居たルティシアの姿が消える。
「バカめ、かかったな!」
哀しみの表情から一転、悪辣な表情へと。
脳波でコントロールされていたモヒカンは、弾かれた後もこっそり二人を狙っていた。
クロノはスラッガーが弾き飛ばし、顔を背後へと向けると眼から怪光線を放ちルティシアを吹っ飛ばす。
頭部にモヒカンが戻り、バインドが消えると男はどこからともかく茶色の小瓶を取り出すと……。
「まんたーんドリンクっ!」
飲み干すと与えたダメージが全て消えていた。
「残念だったな。さあ、遺伝子の欠片も遺さず焼き尽くしてやるぞ! がががーっ!」
男が四方八方へと炎を乱射し始める。
放たれた炎の一部は、距離をとろうとするクロノを追撃していくが、クロノは巧みに位置を変えながら、魔力障壁で炎を打ち消している。
炎は当然ルティシアにも向かったが、火竜の血(と事故で雷竜の血)を引く彼女には余り影響はない。
刀を頭上に掲げると、彼女を取り囲んでいた炎がその先に集まり始める。
やがて、一羽の炎の鳥へと姿を変える。
「〈ファイアーバード〉」
刀を男に向けると、炎の鳥は大きく羽ばたき一直線に男のもとへ――。
向かってくる炎の鳥を見て侮蔑の表情を浮かべた男を、炎が飲み込む。
「俺に炎は効かんぞ!」
炎の中から熱をまるで感じていない男の声が聞こえる。
「では、これはどうだ?」
再度放たれた弾丸は、男が背負ったガスボンベに次々と穿たれていき――。
「始まりの光よ、闇を祓え……ディヴァインコロナ」
畳み掛ける様に、三重の深紅の魔方陣から放たれた大光球が男に直撃し爆発が起きる。
ややあって爆発が収まり、巻き上がった煙が晴れてくる……。
「まんたーんドリンクっ!」
「させません」
小瓶を飲もうとした所に刀を投げつけて、それを割ることに成功する。
現れた男の姿は、背後のガスボンベが無くなりダメージもかなりあるようだが、膝をつく事無くその場に立っていた。
小瓶を飲もうとした姿のまま――。
やがて、男の身体が光を放ち体内からジュエルシードが浮かび上がってくる。
「……止まりました?」
まだ戦闘が続くと思っていたルティシアは、警戒の構えを解かずに様子を見る。
つい先程された事を思えば当然ではある。
「分からない……が、あの姿勢で動かないままならそうとっても良いかもしれない」
クロノも杖を構えたままだったが、男が光に包まれ消えていった所でようやく構えを解いた。
「データにあったものは、これで止まる事は無い強さだったはずだが……。暴走した時は、重傷者を多数出すほどだったらしい」
「炎対策は大前提として、他の武装も直撃をすれば危ないですしね。……そういえばクロノは大丈夫なのですか?」
投げた氷雨を鞘に納めながら聞くと、大丈夫だという声が返される。
「バリアジャケットでかなり軽減することが出来ていた。本来の威力があれば、ジャケットの上からでもかなりダメージを受けたと思うが、あれが完全なモノじゃない事が幸いだった」
「完全な状態でクロノが言っていた計画が採用されて、多数のこれが暴走すれば……」
「被害は甚大なものになるだろうな。……アースラ、こちら完了した。帰艦する」
※ ※ ※
「残り6個は見当たらないね~」
あれこれ操作しつつ、エイミィが戻ってきた6人に報告する。
「やっぱり海とかなのかな?」
「そうだな、その可能性は高いと思う。エイミィ、捜査範囲を広げて」
二人のやりとりを見ていた6人にリンディが近寄ってくる。
「みんなお疲れさま。今日はもうすぐ日が暮れるから、戻った方がいいわまた、明日お願いね」
「あの……明日は日曜日だから、朝から来ても大丈夫でしょうか?」
そう言ったなのはに、勿論と笑顔で返すと。
「公園に来てくれれば、こちらに転送するわね」
そう頷いてくれた。
陽がほぼ姿を見れなくなった公園から走って帰る3人を見送って。
「もうすぐ……。もうすぐ終わって、あの人が喜んでくれる」
フェイトがポツリと呟いた。
その夜、ルティシアもこっそり鍛練に向かおうと身体を起こそうとして……再びベッドに横になる。
横で眠っているなのはの首もとで煌めく双子座を見て、ある予感を強める。起き上がろうとした事でずり下がった布団を直し、中の温もりが逃げたせいか自分に引っ付いてきた姉をそのままに。
「何か、大きな戦いが起きる……。聖闘士の方々も何かを感じている」
双子座だけでは無く、他の聖衣からも警戒感が伝わってくる。
残りのジュエルシードを集める過程か、それともフェイトが届けた人物なのか、それとも例の少女達なのか。
いずれにせよ、一筋縄でいくことは無いはず、と横で眠るなのはを見てある決意を固める。
翌朝、アースラに集まった一同。長細い机の周りに座り、エイミィが出したディスプレイを見ながら捜査結果で特定できた場所を見る。
「6個がほぼ同じ位置で、潜って行くにはちょっと辛い深さです」
表示されたデータを見ながら考える。あくまでもおおまかな座標だけで、実際に探す手間を考えるとかなりの時間が必要となるだろう。
「ルティちゃん。無理矢理潜っちゃ駄目だよ?」
「余裕があればする所でしたが、耐水用の魔法を連続で使う可能性を考えると、しばらくは私の魔法は使用不可になります」
魔晶石のチャージには時間がかかる。ここ最近、大きめの魔法で消耗した分は完全には回復していない。
「一つ方法はある」
そう言ったのはフェイト。
「ジュエルシードは魔力を流す事で起動する。つまり……」
「6個同時に起動したら危険よ? それこそ次元震が発生してしまうわ」
同じ案はリンディも考えていたが、リスクの高さ故に外したのだ。
1個でも次元震の可能性があるものを、6個同時になど……。
「あら、ですが一番簡単な案ですよ」
聞こえてきたのは8人以外の、静かで落ち着いた声。
気付かれる事無く、いつの間にか座っている少女に視線が集まる。
腰までの輝く様なプラチナブロンドの髪。赤い刺繍の入った薄紫色のローブを纏い、紫色の瞳は手に持ったティーカップに向けられている。
「いつの間に!?」
立ち上がるクロノに反応を示さず、少女は紅茶を口にする。
「こうすれば、正確な位置も分かるではありませんか。それに……」
その言葉と共に、ディスプレイに表示された6個が同時に光を放った――。
「――この程度出来なくてどうします」
next
起動したジュエルシードへの対応の傍ら
少女から話される事件の内側
リンディ「これよりアースラは――」
(出典)
前話の巨大生物:ゴジラシリーズより キングシーサー(荒神バージョン)
男:メタルマックスシリーズより テッドブロイラー(この世界では戦闘機人試作型)