魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その35 「これよりアースラは――」Aパート

「じゅ……ジュエルシード6個の起動を確認……!」

 

 

 アースラのオペレーターであるエイミィの焦りの混じった声に、アースラの会議室内は騒然となった。

 

 

 席に着いていたメンバーの中央、長机の丁度真ん中に浮かんでいたディスプレイ。

 

 

 ジュエルシードがあると思われる海域を示していたそれは、ジュエルシードの数と同じ6個の物体の魔力反応を知らせていた。

 

 

 アースラ艦長リンディは、起動から発動までの僅かな時間にあれこれ思案する。

 

 

 机に肘をつき、口元で両手の指を組んだ姿勢でいくつものパターンと起こり得る事象をシミュレートしていく。

 

 

 時空管理局執務官のクロノは、起動したジュエルシードを気にしつつも、立ち上がったままシレッと席に座ったまま紅茶を飲んでいる少女を睨みつけていた。

 

 

 フェイトとアルフに至っては席を立ち、フェイトは既にバリアジャケットを纏ってデバイス――バルディッシュを手にして、今にも飛び出さん勢いで。

 

 

 突然の事態に、ディスプレイと現れた少女を交互に見て慌てていたなのはと、席を立とうとしてリンディの様子を見ていたユーノも、フェイトが準備を整えたのを見て立ち上がる。

 

 

 ルティシアはジュエルシードよりも少女を警戒していた。霞がかかったような朧気なものではあったが、やはりこの少女とはどこかで――。

 

 

「私の事を詮索しても無意味ですよ」

 

 

「……!」

 

 

 ルティシアの思考を読んだかの様な静かな声に、更に警戒を強める。

 

 

 ネックレスに在る12の力も微かに熱を帯びていた。

 

 

「そうはいくか!」

 

 

 その少女の言葉に、両手で机を叩きながらクロノが叫ぶ。

 

 

「時空管理局クロノ・ハラオウンだ! 君は無人世界に居た子の仲間だな!?」

 

 

「そんな事を言っている場合なのですか? 後2分43秒程で海上にまで浮上し、周囲に影響を与えますが」

 

 

 紫色の瞳の目を閉じて、まるで意に介さないとばかりに少女はティーカップを傾ける。

 

 

「――この……!」

 

 

「クロノ執務官! 彼女の言う通り、今はロストロギア――ジュエルシードを鎮める事が先です」

 

 

「く……わ、分かりました」

 

 

 激昂してデバイスを構えかけた息子を一喝すると、思案していた時の姿勢のままリンディは室内を見渡す。

 

 

「なのはさん、フェイトさん、アルフさん、ルティシアさんは海上へ。ユーノさんは結界をお願いします。……エイミィは彼女達のサポートを」

 

 

「はい!」

 

 

「はい」

 

 

「りょ~うかい」

 

 

「……分かりました」

 

 

「任せて下さい」

 

 

「了解です~」

 

 

 返事をするや否や既に部屋を飛び出して言った主従コンビをエイミィが追いかけて、結界担当のユーノが出ていく。

 

 

 ルティシアは少女を警戒しつつも、席を立ち入口で待っていたなのはと共に出ていく。

 

 

 部屋に残ったのは3人。

 

 

「……それで、あなたからお話が聞くにはどうしたらいいのかしら?」

 

 

「茶飲み話でしたらお付き合いします」

 

 

「かあ……艦長! 下手に出る必要はありません!……って、付き合うのか!?」

 

 

 とんでもない! とばかりにクロノが声を荒げた後に驚愕の声を上げた。

 

 

「その歳でその状態では、将来頭髪が絶滅危惧されるか、胃炎に苦しむことになりますね」

 

 

「あら嫌だ。うちのクロノが……」

 

 

「余計な心配だ! ……って、艦長!」

 

 

「だいたい、クロノ? あの少女の仲間ならあなた勝てないじゃないの」

 

 

 良いように言われた後に、心の傷を抉られる。

 

 

「まだ、勝てないと決まったわけでは……。それに、あの少女の様な威圧感もありませんし…… 」

 

 

「してほしいならしますが、相手の力量を読み取れないのであれば、次は大怪我ではすみませんよ」

 

 

 ゴニョゴニョ呟く様なクロノにそんな言葉が投げかけられた。

 

 

「素質はありますから、盲信を無くし事象を見抜く力を身に付ける様、精進して下さい」

 

 

 殺気にも似た何かを視線に込めても、目を閉じたままの少女にはどこ吹く風だった。

 

 

「私は誰の命令も受けませんし、お願いを聞く相手も一人だけです。ましてや、後から生まれた人間の、後から勝手に作ったような決まりに従う必要も当然ありません」

 

 

「なに……」

 

 

「では、あなたも魔族?」

 

 

 言い切った少女は、虚空からティーポットを取り出して自らのカップに注いでいる。

 

 

 リンディも置かれていた湯飲みにお茶を注ぎながら、その発言内容から推察していく。

 

 

「違いますよ。あの様な者達と一緒にしないで下さい。……と言っても仕方がありませんね。そちらにあるデータは、抹消し忘れた彼等のものだけですし」

 

 

「何だって!? どういう事だ!?」

 

 

 

「………………」

 

 

 看過出来ない内容に口を挟むが、少女は相手にせず虚空から小皿を取り出し……空なのを見てため息をついた。

 

 

「……く! 艦長、お茶いただきます」

 

 

 話をする条件を思い出し、クロノも湯飲みにお茶を注いでいる。

 

 

「は~い。砂糖もあるわよ?」

 

 

「そちらは遠慮させていただきます」

 

 

「あら残念」

 

 

 空な小皿を片付け別の器を取り出し、そちらにはきちんとクッキーが盛り付けられているのを見ると、それを机の上に置く。

 

 

「お茶とお口に合うか分かりませんが、良ければどうぞ」

 

 

「だ……だれが」

 

 

「ありがとう、いただくわね」

 

 

「艦長!」

 

 

 平然とクッキーを摘まんで口に運ぼうとするリンディに、クロノは何度目かの抗議の声を上げるも彼女は気にせずそのまま口に入れた。

 

 

「……あら美味しい」

 

 

「何よりです」

 

 

 クロノはそのやりとりに憮然とした表情をうかべお茶を口にする。

 

 

「まだまだ経験が足りない様ですね。もっとも、その年齢で老獪さを身に付けていれば若さが無くなりそうですが」

 

 

「僕個人の事は放っておいてくれ!」

 

 

 それに肩をすくめてみせて、少女はクッキーを摘まむと――死角から自分のローブを引っ張る虚空から生えた手に気付き、ため息をつきながらクッキーを乗せる。

 

 

「ちなみに言葉通りの意味ですよ。知られては困る誰かが記録を抹消。よくある話ではありませんか?」

 

 

「そう……ね」

 

 

「そんな……ではやはり管理局内部に」

 

 

「落ち着きなさいクロノ。これはただのお茶の席でのお話よ」

 

 

「うふふ、その通りです。嘘か本当かも分からない、お茶の席でのちょっとした小話ですよ」

 

 

 二人はそれぞれ手に持ったものを飲みながら話を続ける。

 

 

「でも、こういう可能性もあるわよね~」

 

 

「あら、何でしょう?」

 

「抹消されたはずのデータを誰かが復元した……とか。必要になりそうなデータだけをピックアップして、ね?」

 

 

「……ゲホッ!」

 

 

 リンディの言葉にむせたクロノは慌てて正面に座っている少女を見る。

 

 

「あら、確かにその様な可能性もありますね」

 

 

 微笑を浮かべている少女は、その静かで落ち着いた声で言葉を紡ぐ。

 

 

「危険な物が多数含まれる技術や魔法等、高度な文明の遺産――ロストロギア。その様な危ない物を預かり、管理しようと複数の次元世界の協力で誕生した時空管理局という組織。その後も、その使命に共感したいくつかの次元世界の協力も得て、巨大化した組織。まるで、根先・枝先を確認出来ない大樹の様に……。隣の根は分かっても、枝はおろか3つ隣の根すら分からない程に」

 

 

 詠うように、少女は語る。

 

 

「多くの者が集まれば、その中には様々な者が居るものです。管理局の光を信じ頑張る者ももちろん居るでしょうが、堕ちている者達もまた居るのです。葉が枯れ、根が腐る様に」

 

 

「組織が巨大になれば、末端には目が行き届かなくなるもの……ね」

 

 

「『正義』の為には何をしても良いと思う者、例え他をその為に犠牲にしても。魔法至上主義からくる選民思想を持ち、次元世界を自らの技術で渡れない世界を非管理と呼ぶ、それを忘れ……理解せず自らが支配しようと企む者。ただ自らが成り上がる為に……妬み他者を利用する者。そして……それらの者達に利用され絶望した者。他の存在に気付かれる事無く、多くの負の感情が集まる世界……、彼等にとってはまさにうってつけの世界です」

 

 

 そう言って紅茶を口にする少女。クッキーを摘まんだ手を口ではなく違う所に運んでいるが、誰も気付かない。監視にも映らない。

 

 

「……まさか、今回の事件も」

 

 

 リンディはお茶を飲む手を止めて少女を伺う。

 

「散々利用され、大切なものも失い絶望した優秀な魔導師。実に良い利用者ですね? 何もしらず、ただその者を信じ、心に餓えた活用しやすい者も出来た」

 

 

 リンディも、そしてクロノも思い浮かんだのは……金髪の黒衣の少女。

 

 

「管理局に巣くっている事を認め……信じたくはないが」

 

 

 呻くクロノとは別にリンディが考えたのは別の事。

 

 

「今回の黒幕……いえ犠牲になった方ね……は、もしかしてフェイトさんの……?」

 

 

 見つめた少女は相変わらず微笑を浮かべたまま。視界を閉じ、ティーカップを傾けている。

 

 

「さぁ……? 貴女の予想通りかもしれませんし、違うかもしれません」

 

 

「あの歳なのよ? まだお母さんに甘えていたい年頃でしょうに……。それなのにあんなに必死で、形振り構わずしようとしている理由なんて……」

 

 

 それは一児の母としての視点からでも。

 

 

「君は、君達は! そこまで分かっていてどうして!」

 

 

「……しないのかと?」

 

 怒りや悲しみ無力感が入り交じった激昂に、少女は呆れの混じった声で返す。

 

 

「それは、貴方達の仕事なのではありませんか? それに、私に……私達にとっては貴方方の世界の腐敗自体はどうでもいい事ですから」

 

 

「でも、それならあなた達自身で行う方が早いのでは? あなたももう一人の子も相当な実力者でしょう? 妙に回りくどい様に思えるわ」

 

 

 静かな声で切り捨てる少女に、リンディは疑問を投げかける。

 

 

「私達と彼等の間には相互不干渉の協定があります。まあ……、あくまでも見せかけの協定ですが、その間に力を蓄える積もりなのは明白ですね。よって、表立って私達が動くわけにはいかないのです」

 

 

「だから影でこっそり手を貸してくれる、と?」

 

 

「……そうですね。私達は彼等の計画を破壊し、貴女達は闇を祓う。互いに悪くないと思いますが」

 

 

「お前達に利用されて、か?」

 

 

 リンディの問いに少女はやや間を置いて答え、クロノはまだ感情の整理がつかず暗く沈んだ声をしていた。

 

 

「利用とでも、協力とでもそれはそちらの好きなようにお呼び下さい。私達は私達の目的の為に動くだけですから」

 

 

 少女は構わずカップに紅茶を注ぐ。

 

 

「(それにこの件だけは私個人の贖罪。偶然とはいえ、ア……彼女を私の策に巻き込んだ事で結果的に私が利用された事に……。)三重に許すわけにはいきません」

 

 

「何か言ったか?」

 

 

「いえ、何も」

 

 

 何かを小声で呟いた少女にクロノが訪ねたが少女は答えをはぐらかした。

 

 

 会話が尽きて静かな時間が過ぎる。

 

 

 しばらくして、リンディは空になった湯飲みを机に置くと雰囲気を一転――仕事モードに切り替わる。

 

 

「良いわ。協力しましょう」

 

 

「うふふ、良いご判断です」

 

 

「艦長!?」

 

 

「茶飲み話の内容通りなら、フェイトさんも、その先に居る方も犠牲者よ。そして、私達は助ける立場にある」

 

 

「それは……そうですが」

 

 

 彼女達を信じるわけには行かないが、リンディの言っている事も管理局員として当然の事のため……悩む。

 

 

 二人の会話を聞き、少女もティーカップをそっと置く。

 

「では、協力者として情報を出しましょう。……犠牲者は……いえ、その前に防御を固めた方が良いかもしれませんね」

 

 

「防御だと?」

 

 

 物騒な事を言う少女に怪訝そうにクロノが問う。

 

 

 リンディはハッと表情が変わる。

 

 

「……まさか」

 

 

「うふふ、次元間砲撃魔法で沈みたくはありませんよね」

 

 

「何!?」

 

 

 クロノは慌てて立ち上がり、リンディは落ち着いてブリッジに指示を飛ばす。

 

 

 それを横目に。

 

 

「今回の犠牲者は……」 

 

     ※ ※ ※

 

 

「艦長!! ジュエルシードが……!」

 

 

 ブリッジに移ったリンディとクロノに、エイミィが慌てて状況を伝える。

 

 

 それに頷いて、リンディは指示を行う。

 

 

「これよりアースラは――」

 




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会談が行われている間の表では


「これよりアースラは――」Bパート
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