魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その37 「皆といる未来を」

「時の庭園への座標軸、固定完了!」

 

 

「武装局員の転送、間もなく完了致します」

 

 

 ジュエルシードの回収に向かっていた5人が戻ったアースラのブリッジは、出発前とはまるで違う雰囲気を持って迎えてくれた。

 

 

「時の……庭園……母さん……」

 

 

「やっぱり、さっきのはあのババア!」

 

 

 アルフに支えられたフェイトは、バリアジャケットを解除した姿で呆然とした表情で呟いた。

 

 

 胸の前で、まるで祈るかの様に両手を組んで待機モードバルディッシュを持っている。

 

 

 アルフに至っては、目の前に本人が居れば全力で殴りかかっている雰囲気である。

 

 

「フェイトちゃんの……お母さん?」

 

 

 フェイトが呟いた言葉と2人の様子から、先程の攻撃とジュエルシードを確保した人物、今ブリッジ正面の画面に映っている建物にいるであろう人物を知るなのは。

 

 

 ルティシアとユーノもまた状況を察してフェイトと、武装局員が突入した事で切り替わった内部の様子を映すモニターの両方を見ている。

 

 

 そこに、クロノとエイミィに何か指示を与えていたリンディがやって来る。

 

 

「遅くなってごめんなさいね。5人共、お疲れ様。今はその身を休ませてね」

 

 

「リンディさん、あのこれは……」

 

 

「あのババアも許さないが、あんた最初からこうするつもりだったんじゃないだろうね?」

 

 

 労いの声をかけるリンディに、躊躇いがちに声をかけようとしたなのはを遮って、フェイトをルティシアに任せたアルフが詰め寄る。

 

 

「そうとられても仕方がないと思うけど、それは誓って無いわ」

 

 

「その言葉、偽り無いだろうね……?」

 

 

「もちろん、甘い物をかけても良いわ」

 

 

「じゃ、信じるよ」

 

 

「それで良いんだ……」

 

 

 アルフの返答になのはがツッコむ。

 

 

「まぁ、正直五分五分だけどね。それよりも、あたし達……いや、フェイトを攻撃してきた事は許せないからね」

 

 

 アルフは気遣わしげにフェイトを見つめる。

 

 

 そのフェイトの目がハッと見開かれる。

 

 

 アルフが慌てて画面に視線を向けると、玉座の間に武装局員が突入する所だった。

 

 

「母さん……行かないと」

 

 

 支えていたルティシアの手を振り切ろうとしたフェイトを、アルフとルティシアが必死で抑える。

「フェイト駄目だよ! 今あの女の所に行ったら、またフェイトが傷つく事になる!」

 

 

「フェイト、少しの間だけ待って下さい。中の雰囲気が何かおかしいです」

 

 

 もがいていたフェイトと、自分も抑えようとしたなのは、行かせないように転送装置に先回りしようとしたユーノも画面を注視する。

 

 

「エイミィ、どう?」

 

 

「後……少し……」

 

 

 キーボード上に指を踊らせているエイミィ。キーを絶え間無く叩く音が聞こえてくる。

 

 

 画面の方では、武装局員が何やら説得を行っているが、プレシアの方は一言も発せず冷笑を浮かべている。

 

 

 数人は玉座の後ろにある扉の奥へ。

 

 

 その奥にあったもの――。

 

 

「…………え?」

 

 

「………………っ!?」

 

 

「……あれは」

 

 

 なのはは声を出して驚き、フェイトは目を見開き逆に驚きで声も出ず、ルティシアはモニターが映したものを見て理解する。

 

 

 映っていたもの――何かの液体が詰まったカプセルと、その中で眠っているかの様な金髪の幼い女の子。フェイトを幼くした様な少女の姿があった。

 

 

『私のアリシアに触らないで!』

 

 

 玉座から一瞬でカプセルの前に転移した黒衣の魔女が、部屋に進入した局員を薙ぎ倒す。

 

 

 何とか立ち上がった局員達が即座に応戦するも全て弾かれ、逆に反撃の柴電の雷により玉座の間に居た局員もろとも倒されてしまった。

 

 

「リンディ艦長、出来ました!」

 

 

「ご苦労様、エイミィ。でも、先に倒れた局員達を強制送還を」

 

 

「はい、そちらも既に入力済みです!」

 

 

 死者は出ていないが、今回この後の出撃に加わる事は難しいだろう。

 

 

 そのやりとりをしている後方――。

 

 

「アリ……」

 

 

「……シア?」

 

 

 ルティシアとフェイトが呟いている中、プレシアはカプセルにそっと手を添える。

 

 

『もう駄目ね、時間がないわ。12個のジュエルシードでアルハザードへ辿り着けるか分からないけど』

 

 

 画面の中のプレシアはゆっくりとサーチャー越しにこちらを見つめる。その表情にあるのは――憎悪。

 

 

『でも、もういいわ。この子を亡くしてからの暗鬱たる徒労な日々も……。この子の身代わりの人形を娘扱いするのも』

 

 

 その言葉の意味するところを理解してしまったのか、フェイトが身を竦める。

 

『聞いていて? あなたの事よ、フェイト? せっかくアリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ。役立たずでちっとも使えない私のお人形』

 

 

「プレシアさんの娘さんはね――」

 

 

 エイミィが先程呼び出したらしいデータを見ながら語る。過去に事故で娘――アリシアを亡くした事。人造生命を生み出す研究を行い、それの開発コードの名前がフェイトである事を。

 

 

『その通り。よく調べたわね。結局は徒労で終わったわ。作り物の命は所詮作り物』

 

 

 フェイトの表情が曇るにつれ、プレシアの顔には狂気が浮かぶ。

 

 

『アリシアはもっと優しく笑ってくれた。アリシアは時々我儘を言うけど、私の言うことをとても良く聞いてくれた。アリシアはいつでも優しくしてくれた。フェイト、あなたはやっぱりアリシアの偽物よ』

 

 

 ガクガク震えるフェイト。

 

 やめて、もうやめて…と呟くなのは。

 

 

 ルティシアはフェイトを右手で支えているが、左手の方は固く握り締められている。

 

 

『せっかくあげたアリシアの記憶は、あなたじゃ駄目だった。アリシアを甦らせるまでの間に、私が慰みに使うだけのただのお人形。……だから、もういらないわ。どこへなりと……、消えなさいっ!』

 

 

「お願い…、もう止めてぇっ!」

 

 

 なのはの悲痛な叫びに、画面の向こうからは高らかな笑い声が響く。

 

 

『良いことを教えてあげるわ。あなたを作り出してから私はずっとあなたの事が……』

 

 

「…………ッ!」

 

 

 ルティシアが咄嗟にフェイトの耳を塞ごうと――。

 

 

『大嫌いだったのよっ!』

 

 

 ……間に合わなかった。

 

 

 フェイトの体から力が抜け、手からバルディッシュがこぼれ落ち――

中央にあった宝玉が砕け散る儚い音が床から響いた。

 

 

「……あなただけは許せません」

 

 

 隣から聞こえてきた声に、倒れかけていたフェイトはピクリと反応する。地の底から響く様な低い声。いつもの淡々と感情が込もらない様なしゃべり方ではなく、はっきりとした怒りが込められている。

 

 

「命を……想いを弄ぶ行為などと……」

 

 

『お前も一緒でしょう? 作られたお人形。……むしろ、化物の分酷いわ』

 

「……ルティ?」

 

 

 力を失った瞳の目で、ルティシアを見つめる。

 

 

「私は……」

 

 

「違うよ!!」

 

 プレシアの嘲笑にルティシアが言い返すより早く、なのはが叫び返した。

 

 

「ルティちゃんも、フェイトちゃんもお人形なんかじゃない! 大切な妹で、大事な友達な……人間だよ!」

 

 

「なのは……」

 

 

 まだ僅かな時間しか過ごしていない友人を見つめる。

 

 

「……例え生まれが違っても、私を私として見てくれる誰かが居る限り、私は私として在り続けてみせましょう。人形ではなく、心を持った人として」

 

 

 姉を見てから、真っ直ぐプレシアを見据えた。まるで、何かを見透かす様に。

 

 

 そして――プレシアから表情が消えると同時にアースラ内に警報が鳴り響いた。

 

 

「何事!?」

 

 

「屋敷内に魔力反応多数!」

 

 

「何が起こっているんだ!?」

 

 

 リンディにエイミィが答え、クロノは幾つかのディスプレイと屋敷内の映像を確認する。

 

 

 モニターに映し出されたのは、床からせり出す様に現れる無数の鎧姿。

 

 

      リビングメイル

「あれは …動く鎧? 」

 

 

「君の世界の言い方は知らないが、こちらでは傀儡兵と言う。魔力の供給を受けて動く。……それにしても、どういうつもりだ?」

 

 

「プレシア・テスタロッサ、あなたまさか……!?」

 

 

『私達の旅を邪魔されたくないのよ』

 

 

 カプセルを浮かばせて移動させながら、最早こちらに視線を向ける事なく。

 

 

『私達は旅立つ。忘れられた都、アルハザードへ。全てを……取り戻す為に』

 

 

 最後に一瞬だけこちらに向いたその顔には――血の涙が流れていた。

 

 

 その光景に全員が息を飲んでいる間に姿が見えなくなる。

 

 

『我等を止めたければ来るがいい。貴様等の全てを否定してやろう。全ては徒労に終わる、その事実をもって』

 

 

 その声だけははっきりと聞こえた。

 

 

「くそ……! 僕が行って止めてきます!」

 

 

 クロノが待機モードのデバイスを起動させながら駆け出す。

 

 

「待ってクロノ君! 私も!」

 

 

「私も行きます」

 

 

「ボクも!」

 

 

 3人も駆け出そうとするが、その前に姉妹はアルフに抱き抱えられたフェイトの所へ。

 

 

「フェイトちゃん。私は誰でもないフェイトちゃんだからこそ、友達になりたかったんだよ。」

 

 

「あなたが築いた絆は、人形ではないフェイト・テスタロッサが築いた絆です。あなたの近くにある絆を信じて、あなたがその手に掴みたいモノを見つけて下さい」

 2人の手でフェイトに持たせたのは――床に落ちていたバルディッシュ。

 

 

「急いでくれ!時間が無い」

 

 

「はい!」

 

 

 入口で待っていた2人と合流し、姉妹も駆け出す。

 

 

「ルティシアさん!」

 

 

 ――と、リンディに呼び止められる。

 

 

「時間が無いし言わなくても分かるだろうけど、彼女を助けてあげて」

 

 

「先程の様子だと確率は低いかもしれませんが、分かりました」

 

 

「後、これは彼女から。使うべき状況になったら使いなさい、と」

 

 

 ポケットから取り出したのは、黒い霧状の何かが詰まった小瓶。良く見れば、金色や赤色も混じっているようだ。

 

 

「ミスト……? いえ……行ってきます」

 

 

 少女の事をまだ聞いていないルティシアとしては怪しい物ではあるが、今は時間が無いためとりあえず預かり踵を返して急ぎ3人の所へ。

 

 

 転送ポットがある場所へと走っていく4人を見送って、アルフは腕の中のバルディッシュと飴みたいな何かをじっと見つめているフェイトに視線を落とした。

 

 

「フェイト……これで終わらないでおくれよ」

 

 

 祈るかの様に。

 

 

「……じゃあプレシアさんは」

 

 

「魔族にその身を奪われています。クロノの話を聞くと、かなり長い時間寄生されていると見ていいでしょう」

 

 

「娘を失った事故というのも色々きな臭いものがあることが分かった。よって、何とか彼女自身は保護したい」

 

 

 時の庭園の外周部分に転移した4人。走りながら、クロノがエイミィが調べた事を簡単に説明していた。

 

 

 4人は庭園への道に立ち塞がる数え切れない程の鎧兵――傀儡兵を見据えた。

 

 

「魔族をどうにかすれば、プレシアさんを助けられる?」

 

 

「一応は。ただ、寄生された時間と寄生具合によっては何らかの後遺症が出ると思います」

 

 

「つまりボク達は」

 

 

「する事は2つ。1つ、あの傀儡兵を含め庭園に魔力を供給している駆動炉を止める。2つ、迅速にプレシアの所に向かい魔族を倒し、彼女を救出する」

 

 

 なのはとユーノが頷いて、ルティシアから受け取った飴を口に入れる。

 

 

 非常用にと持っていた魔力の実。つい先程使ったばかりの魔力を回復させる。

 

 

「――そのために」

 

 

 黒い戦闘下衣姿のルティシアが右手で虚空から刀を引き抜き、少し眉をひそめて左手で小瓶を取り出した。

 

 今取り出した桜色の小瓶、受け取った黒いのを別にすると残りは1つだけだった。

 

 

「皆といる未来を得るために、道を拓きます」

 

 

 少しだけ血に染まった小瓶を目の前に掲げて。

 

 

「竜が奏でるミストの歌と共に消え去りなさい。 white demonlords requiem」

 

 

 宙に放った小瓶に無数の剣閃が走り、小さく分断されたそれが桜色の光を放つ。

 

 

 光に一瞬目が眩み、再び目を開けると――。

 

 

「え? ちょっと……え!?」

 

 

「「うわ~……」」

 

 

 ぼんやりとした淡いシルエットだが、なのはに良く似た光が2・30程横並びで浮かんでいた。

 

 

 それぞれがレイジングハートに似た杖を向け、その先端に集束していく光。それはみるみる内に球となり――。

 

 

「ファイア」

 

 

 ルティシアの合図と共に一斉に放たれた。

 

 

 1つ1つは本家のバスターにはやや劣るものの、桜色の光の壁に傀儡兵は全て飲み込まれていく。

 

 光が消え去った後には、前にいたものが壁になったことで免れた数体のみ。

 

 

 それをクロノの光の鞭が壊していく。

 

 

 邪魔者が全て居なくなり4人は内部へと突入していく。

 

 

「ルティちゃん」

 

 

「何でしょう?」

 

 

 血に染まった左手を見せない様にしながら。

 

 

「終わったらオハナシがあるからね?……い ろ い ろ と」

 

 

「…………はい」

 




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