魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その38 「諦めない」

「次元震発生! ジュエルシードも起動したものと思われますが、規模はかなり小さなものです!」

 

 

「アースラは防御体勢を維持したまま待機! 状況が一気に変わる可能性があるから警戒を密に。私も現地に向かい、次元震に備えます」

 

 

「分かりました! お気をつけて」

 

 

 指示を終えブリッジを出たリンディは、壁にもたれて紅茶を口にしている少女を見つけた。

 

 

「あなたの見立てではプレシアさんはまだ間に合うのね?」

 

 

「あくまでも"まだ"の範囲ですが。何かイレギュラーがあれば容易に変わるでしょうね。防ぐならば、出来るだけ早く辿り着く事、これだけです」

 

 

 

 聞かれた事に簡素に答えると、徐々にその姿が揺らぎ始める。

 

 

「あの子達に任せるしかない……か。それなら私は、努力する子達が次元震に飲み込まれない様にしないとね」

 

 

「では、これを渡しておきましょう」

 

 

 少女が取り出したのは白銀の腕輪。ところどころ薄紫色と赤色の細工が入っている。

 

 

「この腕輪は?」

 

 

「短時間だけ魔力を高め、消耗を抑える事が出来ます。使用回数付きですが、無いよりは良いでしょう。もちろんそちらの技術で作った物ですから、怪しい物ではありませんよ?」

 

 

 リンディは受け取るとポケットに入れる。

 

 

「お借りしておくわ。使ったら、感想はティータイムの時で良いかしら?」

 

 

「はい。では、また……」

 

 

 転送ポットの場所へと走っていくリンディと、揺らいでいく少女。やがて揺らぎが収まると、そこにはアースラの技術スタッフの制服を着た別の少女が現れる。琥珀色の瞳と、髪をお下げにしたその少女はハッとした顔で辺りを見渡す。

 

 

「あ、あれ? ぼくどうしてここに? え~とえ~と……そうだ、震動緩和のシステム改造! 急がないと」

 そう言って、その少女も持ち場へと走っていった。

 

 

 時の庭園の館内に突入した4人。内部はあちらこちらに亀裂が入り、床に至っては割れて、奇妙な色彩の歪んだ空間が広がっていた。

 

 

 駆け抜けながら、ユーノはその空間内に見かける黒い穴を指し示す。

 

 

「2人共、そこの黒い穴には気を付けて」

 

 

「虚数空間と言い落ちたら最後、飛行魔法もキャンセルされて二度と戻って来れなくなる」

 

「き……気を付けるね」

 

「分かりました」

 

 

 ユーノとクロノの注意に姉妹が頷き、走る事しばし。見えてきた次の扉をクロノが蹴り開けた。

 中はホール状の部屋となっており、ここにも無数の傀儡兵が待機していた。

 

 

「ここからは2手に別れよう。なのはとユーノには最上階にある駆動炉の封印を頼みたい。ルティシアは僕とプレシアの所へ」

 

 

「う、うん!」

 

 

「分かった」

 

 

「……分かりました」

 

 

 2人が頷くのにやや遅れてルティシアも頷いた。

 

 

 駆動炉周辺にも魔族がいる可能性はあったが、より優先なのはプレシアだろうと判断する。

 

 

「僕達で道を作る」

 

 

《blaze cannon》

 

 

 クロノの杖――S2Uから放たれた青色の砲撃魔法がこちらに向かってきていた傀儡兵を薙ぎ倒すと、ルティシアは跳躍し空中からこちらを窺う飛行タイプの元へ。

 

 

「レオ」

 

 

 振り上げた右手の薬指にはめられた、獅子を象った指輪の目が輝き――。瞬時に獅子座の黄金聖衣をまとうと、白いマントをなびかせて更に飛行タイプの傀儡兵へと接近する。――振り上げていた右手を突き出しながら。

 

 

「聞きなさい、獅子の咆哮を……。ライトニングプラズマ」

 

 

 光閃が縦横無尽に軌跡を描く。巻き込まれた傀儡兵は次々と貫かれ、切り裂かれていく。

 

 上への道が――開ける。

 

 

「行こう、ユーノ君!」

 

 

「わっ!?」

 

 

 靴から桜色の翼を生やして飛行するなのはに腰を掴まれて、そのまま上昇していく。

 

 

 ――途中赤く輝いた右足で、眼下のやや大型の傀儡兵に落下しながら蹴りを放つルティシアとすれ違う。

 

 

 発動された障壁ごと胴体を貫き、着地のしゃがんだ姿勢から立ち上がる彼女の後ろで、大きな穴を穿たれた傀儡兵がゆっくりと倒れていく。

 

 

「ルティちゃん、クロノ君! 気を付けてね!」

 

 

 上昇しながら下の2人に叫ぶなのはに、クロノは笑みを浮かべて頷いて、ルティシアも頷くと何かを空に放つ仕草をする。

 

 

 首を傾げたなのは達の周囲を飛ぶ球状の2つの物体――ガンビット。

 

 

 ジュエルシード探索に回していたものである。

 

 

 それを見てユーノは笑みを浮かべた。

 

 

「自分の代わりに姉さんを守って、という事だろうね」

 

 

「もうルティちゃんたら……あれ?」

 

 

 ガンビットの1基に置かれた小さな黄金の輝き。独特のオブジェを持っ双子座。――睡眠前にいつもなのはが借りて身に付けているそれがあった。

 

 

「私の代わりに一緒に。姉さんとユーノも気を付けて」

 

 

「ルティちゃん、離れていても一緒だよ……後ろ!」

 

 

 見上げている妹の後ろから迫る数体の傀儡兵。それぞれが手に持った武器を振り上げて――。

 

 

 ルティシアがゆっくり振り向くと同時に、再び光速の軌跡が描かれ傀儡兵をズタズタに引き裂いていく。

 

 

 それを見て……表情を引き締めたなのはは、ユーノを抱えたまま上の階へと消えていく。

 

 

「姉として負けてられない、と言った所かな」

 

 

 下に続く道を確保したクロノがそんな事を言っている。

 

「実感が込もっていませんか?」

 

 

「僕の師にあたる姉妹もそういう感じだった。……進もう」

 

 

 ゆっくりと2人に迫っていた残りの傀儡兵を光の鞭と電撃が撃ち抜いて、2人は下へ向かう通路を進んでいった。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 アースラ内の船室。フェイトとアルフに割り振られた一室で。

 

 

「……フェイト、今はゆっくり休むんだよ」

 

 

「……………」

 

 

 室内に置かれたベッドに力なく腰かけたままのフェイトに、アルフは声をかけ続けている。

 

 

 フェイトの手の中には、落とした衝撃で欠けたままのバルディッシュがあった。近くのテーブルの上には、ルティシアから渡された飴みたいな何かが置かれている。

 

 

 他にも庭園内の状況を映すモニターがあり、そこには傀儡兵を退けながら進む4人の姿が映っている。

 

 

 危なっかしい動きをしながらも、ユーノやガンビットが足止めした相手を容赦なく砲撃魔法で破壊するなのは。

 

 

 遠中近の魔法を使い分けながら進むクロノ。

 

 

 数人に分身したルティシアが同数の傀儡兵に素手で殴りかかっている。

 

 

「……わたしが」

 

 

 モニターを見つめながらフェイトが口を開いた。

 

 

「生きていたいと思ったのは母さんに認めてもらいたいから、それ以外に生きる意味なんか無いと思っていた。それが出来ないと生きていてはいけないと……思っていた」

 

 

「フェイト……」

 

 

「今でも……捨てられた今でも、まだ母さんを信じてる。何か意味があって言っていると思う、自分がいる」

 

 

 独白する様に。

 

 

「今までのわたしは何だったんだろう……。これから、どうしたらいいんだろう……」

 

 

「……あたしは、フェイトとずっと一緒にいるよ。あたしの大好きなご主人様と一緒に」

 

 

 しゃがんでフェイトの手に触れながら、アルフがそっと告げた。それに反応したのか、これまで身動きしなかったフェイトがアルフを見つめた。

 

「……アルフはずっと一緒に居てくれたね」

 

 

「当たり前じゃないか」

 

 

「……一緒に居た時間は短いけど、ルティも支えてくれていた」

 

 

「そうだね。住む場所とか食事とか……、そういえばあたしがルティシアを認めたのも、フェイトが空腹で行き倒r「それは忘れて良いから!」……元気あるじゃないか」

 

 

 赤くなって遮る様に叫ぶフェイトに、一瞬驚いたもののすぐにニヤニヤした笑みを浮かべる。

 

 

「あれは忘れられないよ。介抱されながらお腹が鳴ったr「アルフ!」……歌を聞かせてとせがんだr……もが」

 

 

 構わず続けていたアルフだったが、首まで真っ赤にしたフェイトに口を塞がれてしまう。

 

 

「あ……あの時は意識はあったよ? 起き上がれなかったけど……」

 

 

「そりゃあ起き上がれないだろうね。恥ずかしくて」

 

 

 まだ続けるアルフを睨み付けるが、赤くなった顔では迫力は皆無だった。

 

 

「そしてなのは……。ぶつかり合う事もあった白い服の女の子。最初はちょっと魔力が強いだけだったのに、本当に強くなった。名前を知ろうともしなかったわたしの中に、何度も名前を呼びながら飛び込んできた。友達になりたいと……言ってくれた」

 

 

「ルティシアも、なのはも、フェイトをフェイトとして見てくれているよ」

 

 

「他の誰でもない、わたしをわたしとして見てくれるみんなが……いる」

 

 先程までとは別の活力が徐々に満ちてくる。

 

 

「見つけた、目を逸らしたい真実から目を逸らさず、受け入れ、変わる勇気を持って」

 

 

「あの機械――システムの言っていた台詞だね。あいつ、まさか知っていた?」

 

 

「それは分からないけど、システムもきっとわたしをわたしとして見てくれていたんだと思う」

 

 

「あいつはそんな感じだろうね」

 

 

「それに……」

 

 

 テーブルの上に置かれた飴の様な身を見て、モニターの中の黄金の鎧をまとった濃紺のポニーテールの少女を見つめる。

 

 

 引く気の感じられない、強い意思が宿るその表情からは普段の無感情みたいなものは微塵も感じられない。

 

 

(お前も一緒でしょう? むしろ、化物の分酷いわ)

 

(違うよ!! ルティちゃんも、フェイトちゃんも)

 

 

「もしかして……」

 

 

「ん? フェイト、どうしたんだい?」

 

 

「待って、アルフ何か……」

 

 

 呟くフェイトに怪訝そうにアルフが問いかけるものの、真剣な表情になったフェイトは引っかかった何かを考え始める。

 

 

「自分達の目的の為に手段を選ばない……、支配欲が強い……、相手を傷付けても……」

 

 

(ルティちゃんはまたああいうのと戦うんだよね?)

 

 

(それはルティがしないといけない?)

 

 

(あなただけは許せません! 命を、想いを弄ぶ行為など……)

 

 

(我等を止めたければ)

 

 

「…………っ!」

 

 

 フェイトの目が大きく見開かれた。

 

 

「フェイト!? いったい……」

 

 

「もしかしたら……、わたし達はまだ始まってもいなかったのかもしれない」

 

 

「え?」

 

 

 そう言うとフェイトは腰かけていたベッドから立ち上がり、テーブルへと歩み寄る。

 

 

「奪われていたのかもしれない偽りの過去を終わらせて、本当のわたし達を始める為に」

 

 

 意識を共有しようとフェイトの想いをアルフが感じている横で、フェイトはずっと両手の中にあったバルディッシュに視線を落とした。落とした衝撃で中央の宝石が割れた、師――リニスが遺した相棒を。

 

《get set》

 

 

 扱う者に似たのか、主人と同じく物静かな相棒は、意を汲んだかの様に起動した。

 

 

「バルディッシュもずっとわたしの側に居てくれたんだもんね。……お前も、このまま終わるのなんて嫌だよね」

 

 

《yes sir》

 

 

「上手く出来るかは分からないけど、一緒に頑張ろう」

 

 

 テーブルの上に置かれていた実を口に入れると、甘い味が口の中いっぱいに広がると同時に消耗していた魔力をたちまちの内に回復させる。

 

 

《recovery》

 

 

 バルディッシュを白い光が包み込み、ガラスが割れたかの様な音と共に砕け散った光の繭の中から、元通りの姿が現れた。

 

 

「……なるほどね。フェイトの予想通りなら、たっぷりお礼をしてやらないとね」

 

 

 得心したというようにアルフが言うと、バリアジャケットをまとったフェイトの足下に金色の転移用魔法陣が現れる。

 

 

「行こう、アルフ、バルディッシュ。わたしは諦めない。わたし達家族の、明日を取り戻しに」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「ディバインシューター、 シュート!」

 

 

《divine shooter》

 

 

 放たれた5発の桜色の光弾は、ユーノが捕縛した傀儡兵を次々と貫いていき、機能を停止した傀儡兵が床に散乱する中で2人はひたすら上を目指して駆け抜ける。

 

 

「後、どれくらいなのかな?」

 

 

「けっこう上まで来たと思うけど……なのは!」

 

 

「あ……!」

 

 

 残骸の下から突如現れた傀儡兵が、手に持った剣を振り下ろす。

 

 

 二基のガンビットが受け止めようとバリアを展開して受け止める。

 

 

 更に残骸の下から数体が現れ、振るわれた武器をユーノが防御魔法で受け止め――天から降り注いだ雷撃が傀儡兵を次々と撃ち抜いていく。

 動きを止めなかった個体も、勢い良く飛びかかったオレンジ色の狼によって完全に機能を止めた。

 

 

「アルフさん! じゃあ……」

 

 

 見上げると、ゆっくりと空から降りてくる黒衣の少女の姿。黒いマントが煽られている。

 

 

「フェイトちゃん!」

 

 

 なのはの横に並んだフェイトは小さく頷くと、近くの壁の方へと視線を向ける。

 

 

 ――壁を突き破って現れたのは澄んだ青色の傀儡兵。他の個体よりも大きく、巨大な剣と背には大砲――魔導砲を2門背負っている。

 

 

「大型。バリア出力も高い」

 

 

「それにあの背中……」

 

 4人が見ている前で、砲門に光が集束していく。

 

 

「普通に戦えば苦戦する……だけど2人でなら」

 

 

 一緒に戦うというその意味になのはは満面の笑みを浮かべて――。

 

 

「うん、うんうん!」

 

 

 嬉しさをこらえず数回頷いた。

 

 

 2つの砲門から集束して放たれた大光球を、ユーノの魔力障壁が受け止めて魔力光を激しく散らす。

 

 

 不規則な動きで飛び回りながらガンビットが砲門を狙ってビームを放つと、2発目を放とうとした動きを中断してピンポイントにバリアを展開。合間に剣を構えようとした所で、バリアの合間を縫うようにアルフのバインドが剣を縛る。

 

 

「なのは、フェイト!」

 

 

「頼んだよ、2人共!」

 

 

 2人の声を受けて舞い上がった2人の少女はそれぞれの相棒を向ける。

 

 

「いくよ、バルディッシュ」

 

 

《get set》

 

 

「こっちもだよ、レイジングハート!」

 

 

《stand by ready》

 

 

 広がる金色と桜色の魔法陣。溢れる2人の魔力光の輝き――。

 

 

「サンダースマッシャー!」

 

 

「ディバインバスターーッ!」

 

 

 二色の光の奔流を受け止めようとと、出力を最大にしたバリアがそちらへと展開される。

 

 

 先程とは逆の立場で魔力光が激しく散り――

 

 

「「せーーーの!」」

 

 

 勢いを増した二色の奔流は重なり、混ざりあうとバリアごと傀儡兵を貫いて、そのまま館の一部も貫いていった。

 

 

 ……それは館内に激しい震動をもたらし、下への道を進む2人の所へも。

 

 

「……はぁっ!」

 

 

 黄金の閃光となったルティシアが傀儡兵を次々と素手で突き壊していく。

 

 

 1体があえて胴体でその左手を受けて、抜けない様に固定した上でその左腕を両手で掴む。

 

 

 軋む様な音がするなか他の傀儡兵が集まり――。

 

 

「ライトニングファング」

 

 

 持ち上げた右足が雷をまとい、勢い良く床に踏み下ろされる。床が砕け散り、伝った雷が電撃の柱となって傀儡兵を破壊していく。

 

 

 残ったのは左腕を掴んでいる目の前の個体のみ。右手が深紅と黄金の闘気に輝き、手刀で相手の両手を切断するとそのまま相手に突き入れる。

 

 

 そして、両手を左右に大きく広げながら床を右足で蹴り、弧を描きながら左足で分断された上半身を蹴り上げ破壊しながら反動を利用して後方へと下がった。

 

 

 左腕を掴んだままの残骸を捨てる目の前で、下半身だけとなった傀儡兵が館内を襲った震動で倒れていった。

 

 

「今の震動は……」

 

 

「無事か、ルティシア?」

 

 

 離れて別のグループを相手にしていたクロノが駆け寄ってくる。

 

 

「大丈夫です。それよりも、今のは」

 

 

「ああ、エイミィから連絡があった。フェイトとアルフが部屋から転移したそうだ。おそらくは……」

 

 

「2人共、姉さんの所にいるようです」

 

 

 ガンビットから見える光景。2人とアルフ、そして無気力だった出発前とは違う、気力に満ちたフェイトの姿。

 

 

「無理して来られるよりは、とあえて前では相手の話をしなかったというのに。どうやら自分で気が付いて、決意を固めたみたいだね」

 

 

「想う心は、何より強いものです。自分の手で、取り戻したいものを得るために」

 

 

 そんな彼女の想いを感じて、2人は駆ける。

 

 

 目的地は目前に迫っていた。

 




next


 遂に辿り着いたその場所で


 待ち受けているもの


「徒労に終われ」
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