魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その4 「またいつか」

 

 

 満月に程近いためか、窓から射し込む光が普段よりも明るく感じる夜。

 

 電気を消してから共にベッドに入り、しばらくは二人であれこれと話に興じていた。

 

 ……と言っても主に喋るのはなのはであり、ルティシアは時折相槌を打ったりポツポツと何かを言う程度であるが。

 

 話題の多くは、始まって数日経った学校生活のことだった。

 

 授業や先生、自分達以外のクラスメート――友達について。

 

 やがて寝息をたて始めたなのははモゾモゾと寝返りを打ち、見越してうつ伏せの姿勢になっていたルティシアに、いつも通りに抱き付いてくる。

 

 なのはのパジャマの襟元には双子座の小さなオブジェが鎮座しており、月光に照らされたそれは黄金の輝きを煌めかせていた。

 

 なのはが完全に眠ったことを確認したルティシアは左手を動かし、亜空庫からボールペンを挟んだままの小さなノートを取り出すと、ベッドの上でそれを開く。

 

 左手で持ったボールペンのお尻を親指で操作し、出したペン先をノートに向けたところで、ふと少女の脳裏に過去の思い出がよぎる。

 

 ルティシアはセイティーグでの修業時代に師である姉から言われ、利き腕である右手を負傷しても日常生活に支障が出ないよう、左手だけを扱う鍛練も行っていた。

 

 それには書くことも含まれているが、当時に練習したのは彼女達が扱う言語である聖竜語だけである。

 

 修業のやり方は自分で決めるように言われた時に、それなら書き取りをすれば早く身に付くと、相談を受けた妹が本と用紙を借してくれたのだが……。

 

 綺麗に書けるまで同じページを何度も何度も繰り返すことで、確かにルティシアの予定よりも早く身に付いた。

 

 しかし、あれは彼女に与えられていた写本作業だったのでは? と、後になってから思う時がある。

 

 特にずっとベッドで寝転がって本を読んでいた彼女に、慣れてきて上手に書けた最後の一枚を回収されたことが、その思いを一層強める要因であろう。

 

 ルティシアが練習に対する礼を述べた際、「綺麗に書けるようになった記念に、これ貰うね」と、あれこれ言葉のやりとりをした末の出来事。

 

 その時は話の流れに何も感じなかったものの、今にして思えば上手く誘導され言いくるめられていた気がする。

 

 ノートに左手で書き込みながら、ルティシアはそんな過去の一幕を思い出していた。

 

 Ⅰ 目的。

 

 ①感情理解を第一とする社会勉強。これは、感情が最も発露しやすい学校生活がベストである。

 

 →システムの記録メモを見たところ、当初の狙いでは中学校か高校であった。ただし、小学校から学ぶことも、感情理解という点では自分にとってプラスになることもあると判断。

 

 →私立聖祥大附属小学校に通学開始。

 

 →項目達成出来るかは不透明。以降、学校関連卒業まで保留とする。

 

 ②この地で時折反応するという魔法の調査。

 

 →現在の所、それらしき反応は無し。

 

 ただし、偵察用の〈魔導の目〉は確認。詳しい目的や、使用者は不明。

 

 →関連は不明だが、お世話になっている高町家の次女なのはに、たまたま唱えた〈魔力感知〉( センスマナ)が反応。膨大な魔力量を確認するも、彼女自身は魔法を使えない模様。

 

 しかし、〈魔法感知〉と間違えて使った上に本人には気付かれなかったとはいえ、結果的に許可や同意を得ずに人に向けて感知系魔法を使ったことは要反省。

 

 →さらに関連が不明だが、自分が僅かな時間でも彼女の近くを離れると、それを敏感に察知する力を確認。これが魔法かどうかは不明。

 

 →察知された後の出来事は、特秘事項とする。

 

 ③ ②からの派生として、〈目〉が高町なのはを観察している可能性あり。

 

 →〈目〉の消去に踏み切った際に荒事に発展した場合も考慮し、〈次元転移魔法〉による後遺症(?)の改善を第一にした、戦力増強を必須とする。

 

 →ただし、〈目〉の破壊は悪意があるという確証が得られるまでは、保留とする。

 

 →獅子座(レオ)との鍛練は順調に経過中。

 

 →その他の聖衣については、現時点においても回復には至らず。私ではどうにも出来ないため、これまで通り牡羊座(アリエス)の回復フィールドに任せる。

 

 Ⅱその他

 

 →発音を最優先で修正すること。いつまでもこの状態で、普通に喋れないのは苦しい。

 

 →対処法として音読を実行。抑揚が無いせいか、家族のみんなからは読経と言われる。

 

 読経というものが何か分からないため、要確認?

 

 →確認。別の練習方法の必要あり? 有効な手段が特に思い付かないため、他の方法が見つかるまでは継続。

 

 →場所を変えることである程度の解決に。

 

「今はこんなところでしょうか?」

 

 ペンを止めたルティシアは、羅列で書かれたノートを読み直して確認する。

 

「ごめんなさい、姉さん。わたしのミスでつかってしまって」

 

 スヤスヤと眠るなのはの顔に視線を移した彼女は、先日の過ちをそっと謝った。

 

 目の前の人物に対して感知魔法を使うことは、相手に向かって『あなたは怪しい人ですね?』と言っているようなものである。

 

 それはセイティーグにおいても、専門の担当官以外は滅多に使わないことにも表れている。

 

 広範囲のサーチ魔法はともかく、信頼を第一に考えるのであれば、個人対象のそれは著しくそれを損なう可能性があるからだ。

 

 もちろん、戦場などのいくつかの例外もあるが。

 

 「でも、それで得たじじつもまた大きいです」

 

 なのはの持つ、膨大な魔力。それは彼女の知る一般的な人間の魔法使いとしても、遥かに多い量であった。

 

 ゆえにルティシアは願う。

 

「どうか、なの姉さんがへいおん無事にすごせますように」

 

 休むため、ノートを片付けようとした少女の手が、ピクリと止まる。

 

 そして閉じたばかりのノートを再び開くと、ボールペンを手に取った。

 

「大事なことがありました」

 

 そう呟きながら、この数日間の出来事を思い起こす――。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 入学式の帰り、経営している喫茶『翠屋』に向かう両親となのはと別れたルティシアは、一人海鳴公園を訪れていた。

 

 建前上は一人でも家と公園、翠屋までの行き来が出来るようになりたいからという理由で。

 

 家族の散歩でもよく通る道ではあるが、心配そうな顔をしつつも頷いてくれた士郎や桃子と違い、なのははかなり不満そうであった。

 

 すぐに戻ることと、両親からの口添えでようやくなのはは納得してくれたのだが……。

 

「……父さまの『ルティシアは一人ではるさがしをしてみたいんだよ』というのは、きのう見たテレビの内容でしたか。あれで納得されたわたしは、いったいどう思われているのでしょうか?」

 

 そんなに何かの影響を受けやすいと思われているのでしょうか? 等と呟きながら。

 

 公園内にはチラホラと散策中の人影があり、親子連れの中には同じ制服を着た子供の姿もある。

 

 それらには特に注意を払わずに、ルティシアは真っ直ぐに目的地へ――木々が多い一画へと足を進めた。

 

 拠点のあるいつもの木の上。

 

 今日ここに来たのはいつもの鍛練……ではない。

 

 セキュリティによるシークレットモードは解除せず、拠点の前に腰かけたルティシアは歌を口ずさむ。

 

(自分にはきっと出来ないし、必要ないと思っていた家族が出来ました。そこで学べる、感じる想いは様々で。戸惑いはまだまだありますが、とりあえず一歩は踏み出せた……と思います)

 

 ――故郷の姉妹や、仲間達へと想いを込めて。

 

 誰が歌っていたのかははっきり覚えていないが、故郷に居た頃にいつの間にか覚えていた歌の一つを。

 

 音程を押さえただけのそれは、誰に聴かれることなく、そっと木々の中へと消えていく。

 

 ――はずだった。

 

 カサッと、誰かが草を踏む小さな音がした。

 

 ルティシアは歌を止めると、視線を音が聞こえた方へと向ける。

 

 それはすぐに見つかった。

 

 陽光を受けて、キラキラと波打つ金の川が目を引くから。

 

 近くの木の陰から、そっとルティシアを見上げている金髪の少女。

 

「……え」

 

「あ……」

 

 根底にある寂しさを押し殺した、ルティシアの感情が余り感じられない濃紺の瞳と。

 

 言い知れぬ寂しさを宿した、来訪者の儚げな赤い瞳が見つめあう。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 そもそも彼女がこの地を訪れたのは、ただの偶然でしかなかった。

 

 自分のことは使い魔であるリニスに任せたまま、最近はずっと研究室に籠りがちであった大魔導師の母ープレシア。

 

 魔法の練習もそれに必要な知識も、小さい時こそプレシアから教わったものの……いつの頃からか、それらは全てリニスからの教えのみになった。

 

 理由をリニスに聞いても、彼女は辛そうな顔を浮かべるだけで口にはしない。

 

 自分がまだまだ頼りないせいだ。もっと頑張れば自分にも話してくれるはずだと信じて、少女は毎日を頑張り続けた。

 

 自分の使い魔――子狼のアルフとの契約にも成功し、今リニスが作ってくれている魔法の発動媒体――デバイスが完成すれば、もっと伸びることが出来る。

 

 母さんに認めて貰えるまで頑張ろう、と思っていた矢先だった。

 

 こもっていた研究室から出てきたプレシアが唐突に、二人で出かけるから急いで準備するようにと言ってきたのだ。

 

 久しぶりに母と話し、さらに外出まで! 驚きと嬉しさで混乱したものの、面倒を引き受けてくれたリニスにアルフを任せ、少女はプレシアと共に転移を行う。

 

 留守を預かるリニスが心配そうにプレシアを見ていたのは、きっとずっと研究室に籠っていた母さんの体調が良くないせいだと、心を痛めながら。

 

 転移した先はどこかの公園だろうか? 綺麗な桃色の花を咲かせている木々や、少し向こうには……湖? 海? もある。

 

 自分が暮らしている家は、緑溢れる自然豊かな場所にあるが、この景色はそれに負けず劣らず少女の目を引き付けた。

 

 リニス達も一緒だったら……という思いはあるものの、これは余り喋らない母さんなりのご褒美なのかもしれないと、少女は思い直した。

 

 少女にとって二人でどこかに出かけることなど、本当に久しぶりのことだったのだ。

 

 そう思って、少女が大好きな母を見た時だった。

 

 自分が背中を向けている、木々が覆い繁っている方から歌が聞こえてきたのは。

 

 聞き逃しそうな位に小さな声ではあるが、確かに聞こえる。

 

「フェイト、ちょっと聞きに行ってみたら? 多分、あなたと余り変わらない年の子だと思うわ」

 

「じゃあ、母さんも一緒に」

 

 同じ方向に視線を向けているプレシアに、そう答える少女――フェイト。

 

 一緒に聴きに行こうという娘に、しかし母は首を横に振る。

 

「こういう時は子供同士が良いものよ。あなたは友達もいないし」

 

「う……」

 

 大自然豊か過ぎて、近くには人の姿はない。

 

「友達は良いものよ。何かの時に近くにいてくれるだけで、力になることもあるわ」

 

 行ってきなさいと背中を押され、フェイトは恐る恐る森の中へ。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「……え」

 

「あ……」

 

 一人は寂しさを宿した儚げな目に惹き付けられて。

 

 一人は探していた人物が、思わぬ場所からこちらを見ていることに気が付いて。

 

 二人の口から同時に、小さな声が上がった。

 

 それからは言葉なく、二人はしばし見つめあうことになる。

 

 しかし、自分達以外の他人に余り慣れていないフェイトは、緊張の余り徐々に顔が紅潮していく。

 

「えと……あの……その」

 

「はい」

 

 何かを喋ろうとしている金髪の少女の言葉を待つべく、ルティシアはジッと視線を注ぎ……それがますますフェイトの緊張を加速化させていった。

 

「あ、あの。わたし、うたが、ここにきて、き……きこえて母さんと」

 

「……ごめんなさい。できれば、少しおちついて下さい」

 

 少女が一生懸命に話そうとしているのは分かるが、内容が分からなかったルティシアは一旦話を止めさせた。

 

 躊躇いなく数メートルの高さから一気に飛び下りると、白かった肌を緊張か恥ずかしさかでその目と同じくらいに赤くした、黒いワンピース姿の少女の元へ。

 

「だいじょうぶですから。ゆっくり、おちついて話して下さい」 

 リニスやアルフ達の話し方と比べると“何かが足りない”気がしたフェイトだが、言っている内容はきっと彼女なりに自分を気遣っていると感じる内容だった。

 

 それが伝わった時、フェイトの身体から緊張が解けていった。

 

 一度深呼吸すると、フェイトは口を開いた。

 

「わたしは母さんと一緒に、ついさっきここに来たばかりなんだ。すると歌が聴こえてきて……同じように聴こえた母さんには、一人で聴きに行って来るように言われたから」

 

「なるほど、それでここに来たのですね」

 

 納得しましたとルティシアは首肯するが、その後小首を傾げる。

 

「しかし、大声で歌ったつもりはないのですが……」

 

「風もあるかもしれないけど、わたしは……母さんも耳が良いから」

 

「なるほど。ここで練習をするなら、もっと声をおさえた方がよさそうですね」

 

「あの……」

 

 発声練習時のことを考えているルティシアに、フェイトが恥ずかしそうに話しかける。

 

「なんでしょうか? えっと……」

 

 言い澱むルティシアに、それに思い当たったフェイトは、あ……と言葉を漏らした。

 

「わたしはフェイト。フェイト・テスタロッサ」

 

「ルティシア・セ……いえ、高町・S・ルティシアです」

 

 これまでに言う機会は無く、小学校に通うことになってから言い始めた名前のためまだ慣れていなかった。

 

 ルティシアとしてはセイティグの名前は隠すことも考えていたが、士郎達にその必要は無いよと言われたため、そのままにしていた。

 

「それではフェイト。なんでしょうか?」

 

「うん。ルティ……シア」

 

「言いにくかったらルティで」

 

 ルティシアがそう言うと、申し訳なさそうにしながらもフェイトは素直に頷いた。

 

「うん、ルティ。あの、さっきの歌を聴かせてほしいんだ」

 

「歌……ですか?」

 

「ダメ……かな?」

 

 小首を傾げたフェイトに、その儚そうな赤い目で見つめられたルティシアは、拒否出来ない不思議な感覚に陥った。

 

(これは……なの姉さんとは違う意味で断れませんね。この目は、一種の武器かもしれません)

 

「……分かりました。ただ、さっきは口ずさんでいただけで、歌じたいは苦手なのです。おかしかったら言ってくださいね」

 

 結局ルティシアは了承した。

 

「大丈夫。下手とは思わなかった」

 

「そう……ですか?」

 

 フェイトにそう言われたルティシアだが、音読を読経と言われたばかりということもあり、他人が聴きたいと言うとは全く思っていなかった。

 

 しばらく首を傾げていたルティシアだが、考えても答えは出ないと判断するとあっさり疑問を投げ捨てた。

 

 やがて森の中からぎこちない歌が聴こえてきた。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 娘の姿を見送ったプレシアは、近くのベンチに力なく座り込む。

 

 うつむいた彼女の顔や手には、びっしりと玉のような汗が浮かんでいた。

 

「どうかそのまま」

 

 か細く、震える声で。

 

 

 ・・・・・・・

「帰ってこないで」

 

 まるで祈るかのように。

 

 せめて、あなただけでも……と。

 

 しかし、最後のその言葉は、ついに声にならなかった。

 

 ――それからしばらくして、強い風が吹き抜けた。

 

 風はプレシアの黒く長い髪を、長衣の服をザワザワと揺らす。

 

 依然うつむいたままのプレシア。

 

「――だな。貴様のやったことは無駄だ」

 

 その口から発せられた声は、先ほどまでと同じもの。

 

 

 しかし、全く異なるものだった。

 

 暖かみの全くない冷たさが、底にある。

 

 〈念話〉で呼べば、すぐに行きますという娘の声。

 

「世にあるのは絶望しかない」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「ごめん、ルティ。母さんが呼んでるから、帰らないと」

 

 歌を終えた頃、二人を強い風が吹きつけた。

 

 髪を押さえるフェイトと違い、ポニーテールをそのまま風に遊ばせているルティシアは空は見上げる。

 

「そうなのですか。本当に耳がいいのですね。私には何もきこえませんでした」

 

 そこまで耳は悪くないと思っていましたが……と呟いているルティシアに、フェイトは魔法だからとも言えず口をつぐむ。

 

「ルティ、また会えるかな?」

 

 代わりに、フェイトはそう問いかける。

 

「ここには……時々来ていますから、縁があればきっと」

 

「分かった。ルティ、また会おうね」

 

「はい。またいつか」

 

 再会を誓った少女達は、どちらからともなく握手を交わす。

 

 少女達のこの約束が果たされるのは、この二年後のこととなる。

 

 

 

 

 友達が出来たことを母に報告しようと、急いで戻ってきたフェイト。

 

「母……さん?」

 

 しかし彼女が見たものは、こちらを見て涙を流しながら――しかし研究室にこもる時と同じ、冷たい表情の母の姿。

 

「そこに例外はない。全ては――」

 

 先ほどよりも強い風が、辺りの桜の花を一斉に吹き散らした。

 

 居住地である時の庭園に戻ってきた二人。

 

 出迎えたリニスが浮かべた表情は、悲痛そのものだった。

 

「プレシア、やはりあなたは……」

 

 ――せめて、貴女の最期の願いは私が。

 

 しかし、そのリニスもまた姿を消すことになる。

 

 完成したデバイス――<バルディッシュ>を、フェイトに手渡してすぐに。

 

「我は全てに教えねばならない。一切の営みは――だとな」

 

 研究室に、狂気を宿す声が響いた。

 

 

 

 

 フェイトが去り、ルティシアも翠屋に向かおうとした矢先。

 

 木々がざわめき、先ほどよりも強い風が吹き抜け――。

 

「……っ!? ガンビット!」

 

 その瞬間。

 

 ルティシアは悪寒と共に禍々しい気配を感じとった。

 

 

 それも、フェイトが去った方向から。

 

 すぐにそちらへとガンビットを放ったルティシアだったが、四基全てを使って周辺を探したにも関わらず、フェイト親子を見付けることは出来なかった。

 

 あの気配もほんの一瞬で、すぐに消えた。

 

「にぶった私のかんちがいでしたら良いのですが……」

 

 フェイトとはまたいつか、必ず会える時が来るはずと信じて。

 

 

 

 そして、出会いは学校でも。

 

 なのはとルティシアに二人友達が出来た。

 

 ストレートの金髪に緑の瞳、強気な少女――アリサ・バニングス。

 

 紫色のウェーブのかかった長い髪と青い瞳、物静かな少女――月村すずか。

 

 しかし、その出会いは波乱から始まった。

 

 始まりは、アリサがすずかの身に付けていたカチューサを、悪戯で取り上げたことだった。

 

 教室でその場面に居合わせて助けようとしたなのはだったが、その方法に迷ってしまった。

 

「ルティちゃん?」

 

 当然のように自分の近くにいる妹に訊ねるなのは。

 

「……姉さんの考えているやりかたでいいと思います」

 

 しかしルティシアは、なのはの強い意思が込められた目を見て、そう答えるに留めた。

 

 既に方法は決めている、それを感じたから。

 

 それを聞いたなのははそのままルティシアの手を掴むと、二人の元へと走った。

 

「返してあげて!」

 

「嫌!」

 

 二人とも一歩も引かないやりとり。

 

 幾度か繰り返した後に、ふとアリサがルティシアが身に付けていた金のネックレスに気付いた。

 

 普段は見えないようにしているのだが、引っ張られた拍子に制服の陰から出てしまっていた。

 

 

「返してほしいなら、それと交換ならしてあげるわ!」

 

 悪戯めいた表情を浮かべたアリサが、まっすぐにルティシアのネックレスを指差した。

 

 指されたルティシアは普段と変わらない無表情で、今気づいたとばかりに制服の襟元を見ていた。

 

 その一方で、妹がそれを大事にしていることを知っているなのはもまた、浮かべていた怒りが消えて無表情になっていく。

 

 やりとりの中で、すずかのカチューシャも大事な物だと知ったなのはは、次々とそれらを指定するアリサに対して何かのスイッチが入ったようだった。

 

 その後、二人は大喧嘩を始めてしまう。

 

 途中まではオロオロしながら二人のやりとりを見ていたすずか。

 

 しかし、二人が大喧嘩を始めると必死に間に立って二人を止めようとした。

 

「確かルティシア……ちゃん、だったよね!? お願いだから手伝って」

 

 ずれていた制服を直して、事の成り行きを見守っている人物に助けを求める。

 

「しかし、ケンカは時に必要ときいたのですが」

 

「それは、時と程度にもよるよー!」

 

「そうなのですか。結構むずかしいのですね」

 

 どこかずれたことを嘆息を吐きながら言うと、ルティシアは喧嘩の間に分け入っていく。

 

 なのはを片手で宥めつつ、片手でアリサを抑えるルティシア。

 

 その彼女を間に挟んだ状態で、なのはとアリサ、すずかの三人が話し合うという奇妙な空間が出来上がる。

 

 ――学校生活は二人から、四人へと。

 

 少しずつ変化していく。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「……友達が三人出来ました」

 

 最後にそう書き込んだルティシアは、今度こそノートを閉じると亜空庫に片付けた。

 

 なのはを起こさないように気を付けながら、伏せた姿勢のままルティシアも眠りにつく。

 

 こちらでの生活を少しずつ楽しみに思いながら、やがて隣の少女と同じように安らかな寝息。

 

 ――だが、その裏で。

 

 ――少女は自身を蝕む異常に気が付いていなかった。

 

 




 
 
next
 
 
学校生活。

楽しいことも多いが、もちろんそれだけではない。

それは小学一年生といえど例外ではなく。

学生の本分はあくまでも……。

なのは「テ、テスト……」

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