魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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 今回はやや暴力表現があります。




その40 「何か方法があるはず」

 めり込んだ壁から身体を起こし、まとわりついた瓦礫を払い除けて――思わずルティシアは左腕を押さえる。簡単な治療魔法で痛みを若干だけ和らげるが、両腕の疲労は大きい。しかし、それでも気力の衰えは感じられない。

 

 

「昨日の、幻影舞踏からの裂爪は負担が大きすぎましたね。後、結果として左腕ばかり集中して狙われるのもあれですが。……今更の話ですね」

 

 

 肩の方に手を回して白いマントを外すと、それを床に放り、宙に浮かんだままのプレシアを見ながらクロノに声をかける。

 

 

「クロノ、動けますか?」

 

 

「大丈夫、だ」

 

 

 そのクロノも、額から出血していたため治療魔法を自身にかけていた。

 

 

「『念話…でしたか? と違って一方のみですが簡潔に。プレシアさんの身体の方が限界に近いです。よって、魔族がプレシアさんの身体を捨てる可能性が高いため、その際はプレシアさんの身体の確保を御願いします』」

 

 

 ルティシアにリンカーコアというものが無いため、念話が出来ないが故の弊害で、こういう時には不便ではある。

 

 

 中空に浮かんだ黒衣の魔女の周りに、無数の紫色の光球が浮かぶ。見覚えのあるフェイトと同じ魔法……フォトンランサー用の発射スフィア。

 

 

「まずは、あれをどうにかしないとな」

 

 

「……あれで済めば、まだ良い方では?」

 

 

「確か、に!」

 

 

 降り注ぐ電撃の矢を、ラウンドシールドの魔法で防ぎながらクロノは少しずつ移動する。

 

 

「ライトニングプラズマ」

 

 

 縦横無尽な光閃が軌跡を描き、電撃の矢を迎撃する為に駆け巡る。

 

 

 2人から逸れて着弾した矢は床を、壁を抉って破片を撒き散らし、弾かれ、切り裂かれた矢は力無く床に墜ちて四散する。

 

 

 その間にもプレシアと、アリシアの入ったカプセルの周りにもスフィアが次々と現れるスフィア。

 

「数で……こちらを削るつもりか……!」

 

 

 ラウンドシールドの維持で魔力はどんどん削られていく。

 

 

 それに対し、プレシアは口の端から血を流したまま、冷笑を浮かべ――

 

 

「――っ!」

 

 

 背後に現れた気配に、ルティシアは光閃をカットして背後に振り向き様に右手刀を放つ。

 

 

「〈ライトニング〉!」

 

 

「何……!?」

 

 

 真逆の方から飛んで来た紫電の雷がクロノに向かって飛んで来ていた。死角から来ていたそれを、間一髪で伏せる様にかわし――かわしたその場所に、新たに放たれたフォトンランサーが降り注いだ。

 

 

 クロノに避けられた紫電の雷は、そのまま真っ直ぐにルティシアへと向かう。

 

 

「……く」

 

 

 避けようとするよりも早く伸びたプレシアの空いている手が、獅子座の聖衣の襟の部分を掴み、自分の方へと引き寄せて闇をまとったまま脇腹へと膝蹴りを放つ。

 

 

 苦痛に顔を歪めた背後から雷の矢が、プレシアが手を離すと同時に紫電の雷が直撃してルティシアの身体は大きく吹っ飛ばされていく。

 

 

 床に叩き付けられ数度バウンドを繰り返してようやく止まると、衝撃で砕けたそれらの周りには、床の欠片に加えて小さな黄金の欠片も散っていた。

 

 

 プレシアもまた咳き込み、床に血が滴る。

 

 

 咳が収まると、口元を拭うことすらせずに、コツコツ……とゆっくりとした歩みで、煙を立ち上らせているルティシアの方へと近付いていく。

 

 

「奴等も、貴様等も、何度邪魔をしようと無駄だ。全ては徒労に終わる」

 

 煙を立ち上らせながらも起き上がろうとしたルティシアの左腕を容赦無く踏みつけ、同じく起き上がろうとしたクロノを、いつの間にか取り囲んでいたスフィアから放たれたフォトンランサーが撃ち抜く。

 

 

「我等の邪魔をしないで貰おう」

 

 

 足を離して、ポニーテールを掴み持ち上げ――

 

 

「母さん……ルティ!?」

 

 

「ルティシア!? よくもやってくれたね!」

 

 

 抜け道を使い、上階から飛び降りてきたフェイトとアルフ。

 

 

 2人が見たのは、床に倒れ起き上がろうとしてはフォトンランサーに撃たれるクロノと、口元から血を流したプレシアにポニーテールを掴まれ持ち上げられているルティシアの姿だった。

 

 

 激昂したアルフがすぐさま殴りかかるものの、突き付けられた杖に動きを止められ――そのまま後方へとはね飛ばされる。

 

 

「アルフ! ……母さん」

 

「何を……しに来たの? どこへ……なりと消えなさいと言った……筈よ」

 

 

「話と、やらなくてはいけないと思った事を」

 

 

「私には……無いわ……。早く……消えて」

 

 

 先程までと違いどこか苦しそうに話すプレシアは、持ち上げていたルティシアに視線をやると、一瞬目を見開いてフェイトの方に放り投げる。濃紺色の髪の毛が数本、掴んでいた手から落ちていった。

 

 

「ルティ!」

 

 

「フェイト、任せて!」

 

 

 猛スピードで戻ってきたアルフがルティシアを抱き止める。金属鎧の為、腕等に痣が出来そうだが気にする様子はない。

 

 

「ルティ、大丈夫!?」

 

 

 多少欠けた獅子座の聖衣、顔も埃等で汚れている大事な友人の一言目は「ごめんなさい」だった。

 

 

「フェイト達が来るまでに、プレシアさんの身体を取り戻すつもりでしたが……」

 

 

 それに首を横に振ってみせて、下ろしてもらっているのを横にフェイトは苦しそうなプレシアに視線を戻す。

 

 

「……これでは動きにくいな。これだけ長い時間堪えたのは貴様が初めてだ。誇るが良い、人間」

 

 

 プレシアから闇が吹き上がり――闇は真横に移動、その場に集まり雷をまといながら形になっていく。

 

 

 黒っぽい服に黄土色の胸当てを身に付け、逆立った短めの赤髪をした少年にも見える程の若い男が立っていた。

 

 

 街中ですれ違っても、今までに見たフォルネウスやアウナスと違って、傍目には人間と区別はつかないだろう。

 

 

「よく来た、守護者に人間共。だが、徒労だったな。何をしても、貴様等が求める結果にはならぬ」

 

 

 慇懃に男が語る横で、プレシアは顔を下に向けて佇んでいた。

 

 

 

「全ては徒労に終わる。急ごう、我等が神の復活の為に。我は全てに徒労を教えねばならぬ。全ては徒労だと教えねばならぬ。全てに例外なく教えねばならぬ」

 

 

 

「徒労 徒労 五月蝿いんだよ! この徒労男!」

 

 

「全てにだと言うのなら、お前達の行為もそうだ!」

 

 

 アルフと、フォトンランサーが消失していた隙に回復していたクロノがプレシアを目指して駆け出す。

 

 

「思い上がった人間共、魔族、竜族、神、そして奴等にもな」

 

 

 2人に構わず男は語り続け――床を突き破って、無数の糸の様なものが2人を縛り上げる。

 

 

「な……んだい、これは!」

 

 

「これは……髪の毛か!?」

 

 

 床を突き破ってきた黒い髪の毛は、良く見ないと分からなかったがプレシアから伸びていた。

 

 

「アルフ、クロノ!」

 

 

「もう1体、居ましたか……」

 

 

「世にあるものは絶望。全ての営みは徒労。貴様等に死をもって教えてやろう。我等は破壊の後に来るべき虚無、破壊神の円卓の騎士」

 

 

 男はゆっくりと身構えるとステップを踏み始める。

 

 

「一切の営みを嘲笑うものザハク!」

 

 

「……サムスン」

 

 

 うつむいたままのプレシアがポツリと呟いた。

 

 

「情況は極めて不利ですが……最後まで諦めません。まだ、何か方法はある筈です」

「母さん……わたし達の今までと、これからの為に必ず助けます」

 

 

 2人の少女も拳とデバイスを構え――黄金と金色、闇が交錯した……

 

 

 

 

 震動が断続的に起こり、その度に破片が散らばっていく。

 

 

「ディバインシューター! シュート!」

 

 

 宙を舞うなのはの周囲に浮かんだ4つの桜色の光球は、合図と共に弾丸となって飛行型の傀儡兵の撃墜していく。

 

 

「空を飛ぶタイプは……後少し!」

 

 

 下を見れば、ユーノの光の鎖と2基のガンビットが発動させている光の網が4体の難敵を足止めしていた。

 

 

 それの関係で、その他の傀儡兵へはやや弱めのバインドしか飛ばせていないが……

 

 

 残りの飛行タイプも、狙いをなのはに絞っているのか次々と迫ってくる。

 

 

 なのはは新たに4つの光球を生み出すとそれを1つに合わせていく。

 

 

《divine bit》

 

 

 光球に小さな羽が生えたかの様なフォルムになったそれは、なのはの周囲を旋回しつつ近寄ってきた傀儡兵を次々と貫いていった。

 

 

 やがて、飛行タイプのものを全て落とすと、なのはは光球を消して一息をついた。

 

 

 その瞬間を狙ったかのように、下でユーノのバインドに縛られた女が奇声を発した。奇声というよりは超音波の様なものを受けて、思わず耳を塞ぐユーノ。

 

 

 鎖の維持がゆるんだ僅かな時間を見逃さず、アラケスが鎖を引きちぎり、手に持った槍を投げつけた

 

 

「しまった!? なのは!」

 

「え?」

 

 

 反応が遅れたなのはは、下から回転しながら迫る槍を見て慌ててレイジングハートを向けて――槍が弾かれる。

 

 

 なのはの真後ろから回転しながら飛んで来た赤い何かによって。

 

 

「あ……」

 

 

「いつの間に……って、え!? あの人」

 

 

 なのはが振り向いて、ユーノは目をこらしてなのはの後方に居る人物を見つめてから、慌てて自分が縛っている対象の方と見比べた。

 

 

 そこに居たのは、赤い和服を着崩した金髪の女性。胸の谷間が見えているが、そこには青く小さな9の形をした宝石の様なものが見える。

 

 

 彼女の周囲には、厚い唇で白い男の顔が浮かび、先程の赤い何かを頭に装着――モヒカン姿になると半透明へと変わる。

 

 

 他にもう1つ飛び回るものがあり、5つ程は彼女の首回りから生えているかのように見え、それらは全て半透明だった。

 

 

「今宵はわらわ達が手を貸してやろう。下にいる者共は任せるが良い。ふっ、かつての私達を模しただけの憐れな虫けら共め。見ているだけで腹立たしい」

 

 

 女の口からは二種類の声。そして、女の首回りから生えていた5つの半透明だったものが実体化していく。……5つの緑色の竜の首へと。

 

 

「あ、あの……あなた、えと、あなた方? は……?」

 

 

 女はゆっくり下降しながら面倒くさそうに口を開いた。

 

 

「わらわはヒミコじゃ。オロチと呼ぶものもおるがの。見知りおけ。私は、元魔龍公ビューネイ。今回手を貸すだけだ、なれなれしくするなよ」

 

 

 その背中を暫し見つめていたが、なのはは目的の場所を目指す。

 

 

「とりあえず、今は味方……で良いんだよね?」

 

 

 若干、首を傾げながら。

 

 




next


戦いは最終局面へ


そして……
 
 
 
 
 
 
 
(出典)
 ビューネイ:ロマンシング サガ3より


 ヒミコ:ドラゴンクエスト3より


 ザハク&サムスン:ジルオール シリーズより


  サムスンの二つ名は“縛られしもの”。自暴自棄になった人間に憑依します。プレシアの魔力に目を付けていたザハクの言葉と、過去の事故で弱った際に憑り付いた、という設定。
 
 
 
 試作型『四魔貴族』:とある研究者が簡易的なデータを元に作成したもの。能力はかなり劣化している、という設定。

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