床が、壁が次々と砕けていく。その戦いに巻き込まれた傀儡兵もまた次々と破壊されていく。
「つまらぬのう。もっと抵抗してみせぬか。どうした? お前達の力はこんなものでは無いだろう?」
赤い和服を、胸が半ば見える程着崩した金髪の女性の口から異声同口の言葉が向けられた先には――
炎に包まれた戦士――アウナスが振るう鎌から放たれた、触れるものを切り刻む筈の真空波は、虚空からせり出したいくつもの岩に阻まれ。
残りの3体には、二種類の炎が襲いかかっていた。
1つは、その女性の首元から伸びた半透明な五つの長いもの……先に進む程大きく、実体化していく緑色の竜の口から放たれる橙色の灼熱の炎。
もう1つは、女性の周囲を漂っていた半透明な何かから伸びた赤い両手、その甲に付けられた発射口から、骨も残さず焼き尽くさんと放たれる猛火。
やがて、炎の中で3体は黒い塵となって消滅していく。
女性――ビューネイは複雑な表情を一瞬浮かべるが、すぐに視線を残っている1体に向ける。
真っ直ぐそちらへと飛び、岩を掻い潜り鎌を振り上げたアウナスと交錯……。
交錯した後、背後のアウナスが発生した赤い正四面体の中で黒い塵に還っていくのを見向きもせず。
「お前達は封印の中で眠り続けていれば良い。精神体の身に肉体を与えられた私が、お前達の分もあの戦いを汚した奴等を、今なお利用しようとしている者達を……」
この部屋にあった装置の封印を終えたなのはと、途中からそちらのサポートに向かっていたユーノが宙に佇んでいるビューネイへと恐る恐る近付いていく。
「あの……助けていただきありがとうございます」
「こちらの目的を果たす為に、お主達の手助けをする様に頼まれただけじゃ、気にするでない。勘違いはするなよ、私の目的の為だ」
頭を下げるなのはに、腕を組んでそっぽを向きながらビューネイはどうでも良さそうに答える。
「あなたも魔族……ですよね? あの4人の中にあなたの姿がありました。どうしてボク達を……?」
そう言ったユーノに向けられるのは、刺すような視線。
「余計な詮索は命を落とす行為と知れ。今のお主達は知らなくて良い事じゃ。……知りたくば」
胸にある9の字の青い宝石――ルティシアが魂(みたま)と呼んでいたそれが淡く輝く。
「わらわ達の仲間になる事じゃ。代わりに、元の世界には戻れぬかもしれぬがな」
威圧感漂わせる女性から後ずさる2人。それを見て鼻を鳴らすと同時に威圧感が無くなる。
「その程度ではまだまだ無理じゃな。いつか相対する時までに力を付けることじゃ。私達が利用出来る位に……な」
「……ユーノ君、今は下に急ごう!」
「……そうだね」
ニヤリとした笑みを浮かべた女性に聞きたい事はあったが、今は優先することがある。敵対するつもりが無いなら今は置いて、後でみんなと相談しようと決めてユーノを促す。
そのまま女性を通りすぎてエレベーターへ――
「急ぐならわらわが道を作ってやっても良いぞ? ヒミコ、何を考えている?」
ビューネイ……いや、ヒミコからかけられた声に思わず後ろを振り返ってしまう。
三者の中間に浮かぶ橙色の渦。
「そこに飛び込めば、お主達の行きたい所に出るぞ。好機を得るか、手遅れになるのを覚悟で向かうか。まぁ、どちらを選ぶかはお主達次第じゃがな」
「……手遅れ、ですか?」
ヒミコに怪訝そうに聞き返したなのは。
「例えば、命を削る行為をする者とか」
「ルティちゃん!」
「なのは!?」
ピンポイントで思い浮かんだ人物の名を叫び、渦の中へと飛び込んで行ったなのはを追いかけるユーノ。女性を睨む様に見ても、面白そうな視線が注がれるのみ。結局、ユーノもまた飛び込んでいく。
子供達が消えると、赤い渦も消え去る。残ったのは、漂っていた半透明なものが消えた女性1人。
「どういうつもりだ? なに、言葉通り時間の短縮じゃ。機を逃せば、わらわ達にも支障が出よう? 我々では無く、彼女達にとってだろう?」
端から見れば独り言だが、その表情は目まぐるしく変わっていく。
「じゃが、わらわ達がこうして動く事が出来るのも彼女達と目的が一致しておるからじゃ。ならば、それに手を貸すのも必要な事であろう? ……やむを得ない、か」
不承不承といった感じの女性は、「それにな…」と言葉を続ける。
「わらわは子供が好きじゃからな。……食べてしまいたい位に」
「アークセイバー!」
《arc saber. get set》
放たれた三日月の刃が縛り上げていた髪の毛を切り裂き、クロノとアルフを解放する。
「すまない!」
「助かったよ、フェイト!」
解放された2人は体勢を立て直すと、クロノはプレシアに、アルフは激しく拳をぶつけ合っている方へと向かった。
獅子座の黄金聖衣をまとったルティシアと、少年にも見えるザハクが拳をぶつける度に、空気が破裂するような音が響き、床や壁にヒビが入り、欠片が舞い散る。その欠片の中には、時折黄金の輝きも混じり始めていた。
「言った筈だ。貴様等の行為は徒労に終わる。無駄な事をするな」
「あなた達を倒し、助けてみせます」
格闘戦をしながら余裕を見せるザハクと違い、ルティシアには余裕が感じられない。早さは互角、力で劣り、相手は更にカウンターを得意としていた。
時間をかけて良ければ対処法はあるが……。チラリと視線を向けると、時折血を吐くプレシアの姿。顔色も非常に悪い。
プレシアにとり憑いて操っている魔族――サムスンからの攻撃はクロノが引き付けているが、攻撃を躊躇している。フェイトもまた呼びかけを続けているが、反応は無かった。
「鉄拳無敵!」
ザハクの背後から殴りかかるアルフとタイミングを合わせて拳打を放つルティシア。
ザハクから吹き上がった闇の闘気が2人を弾き飛ばす。かなり高い位置にある天井からも、ヒビと共に破片がパラパラと降り始める。
吹き飛ばされたルティシアは空中で姿勢を変え、横の壁を蹴ってザハクの元に。
右手に雷を凝縮させながら、同様に右手に闇を凝縮させているザハクも向かってくる。
「守力至宝! バニッシュゲイザー……!」
「徒労と共に散れ、シャドウオーラ」
同時に振るわれる二つの力。それは激しい轟音と共に――
黄金が砕け、どこかの大きな部位が床に落ちていく。
右胸辺りから右肩までの聖衣が砕け、打点の右肩付近は黒い下衣までが破れていた。
肝心のルティシアの拳は、相手の顔の手前で止まっている。僅かな、リーチの差。
「ルティ!?」
砕けた音に、フェイトとクロノも視線を向けてしまう。プレシア――サムスンはそれを逃さず攻撃を……
3人が見たものは、赤い血を吐きながらも両手を突き出し三重の魔法陣を展開した、微かに笑みを浮かべるルティシアの姿。
「〈ディヴァイン・コロナ〉!」
太陽を思わせる様な大光球が、至近距離から放たれた。
回避が間に合わず押し退けようとするザハク。その背中にはアルフが放つフォトンランサーが突き刺さっていく。
「小賢しい。所詮は徒労するだけの行為――」
背後からのフォトンランサーを無視して光球を押し退けようとしたところで、頭上から星を思わせる無数の桜色の光弾が降り注いできた。
「ディバインシューターのバリエーション! 大いなる星屑、スターダスト!」
《revolution》
なのはが転移してきたのは、丁度ルティシアが光球を放つ直前だった。
黄金聖衣が砕ける様と妹に悲鳴を上げかけて……その表情を見て抑えた。展開する見覚えのある三重の魔法陣に、合わせる。
「……アリ……シア……? よ…うやく、戻っ…てきたの…ね」
「ッ!」
注意が逸れていた2人が意識をプレシアに戻すと、頭を押さえながら光球を見ているプレシアの姿。瞳には意思が感じられる。
「母さん!」
フェイトの呼びかけに、プレシアが苦しそうな表情を浮かべる。
「フェイ……ト」
「母さん! 絶対に助けてみせます」
「まだ……助けられ……ては、あげな……いわ。親としてね」
その言葉を聞いて目を見開いたフェイトの前で、魔女からは紫色の魔力光が吹き上がり、その背中からは黒い何かが少しずつ押し出されてくる。
「そろそろ……、私の中から、出て……いきなさい」
闇を追い出すと同時に力尽き、倒れるプレシア。その手から杖が零れ落ちて、床に転がる。
プレシアの元に咄嗟に駆け寄るフェイトと、プレシアの杖を確保するクロノ。
闇が人の姿へと変わる。魔導師風の男。その身体を、自身の黄色の髪が縛り、まるで黄色の布をまとっている様だった。
「お前達の負けだ! こちらの指示に従って、抵抗を止めるんだ!」
クロノの呼びかけに自縄自縛の男――サムスンは何も答えず。
光球等を弾き飛ばしたザハクがサムスンの横に移動してくる。
「イクスキュア」
傷を治療魔法で癒しながら。
「負け? 我等に負けは無い。言った筈だ。我等は破壊神の円卓の騎士。絶望と徒労を教えてやる」
ザハクがステップを踏みながら身構え、サムスンが髪を鞭の様にしならせて――
「今よ!!」
プレシアの叫びに合わせて、オレンジ色、青色、紫色、そして淡い緑色の鎖が一斉に二体を縛り上げる。
念話で打ち合わせ、こっそり合流したユーノとタイミングを合わせて自身の杖を受け取ったプレシアも含めた四重の魔力で編まれた鎖。
と、同時に聞こえてくるのは――詠唱。
「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル」
詠唱に合わせて、フェイトの周囲に次々と光球が現れる。
そして、間隙を補う様に真横から突っ込んでくる黄金と深紅の闘気。かぶっている兜からは大きく角が伸びている。
「大いなる聖剣、エクスカリバー! はぁぁぁ……っ!」
レオ カプリコーン
獅子座から山羊座へと装いを代えたルティシアが、2体の方に手刀を向けながら突撃。その手刀からは白く輝く光が真っ直ぐ伸びていく。その光はまるで、刀身に光が照り返るが如く。
「動きを封じただけで勝てると? 人間とは愚かなモノだ。徒労に沈むがいい」
吹き上がった闇の闘気が、ルティシアを阻むかの様に障壁となり、さらに漆黒の雷を放つ闇の球が浮かび上がる。
闇の障壁に光の聖剣が阻まれ――
「始まりの光よ、闇を祓え!」
姉の得意としていた魔法。しかし、ルティシアの魔力電池である魔晶石は、既にその一撃を放つだけの力は残っていなかった。
「〈ディヴァイン・コロナ〉……」
故に、この一撃に全てを込める。
「〈ザ・ソード〉!」
闘気を……命を削りながら発動させた魔法は、白い聖剣に重なる様に赤い刃が重なる。
「火竜爪牙≪ 裂断 ≫」
「……っ」
硝子が砕け散るように、重なった刃が障壁を突き破り2体を貫いていく。
更に左手から伸びたもう一本の白い聖剣が、横から2体に食い込む。
だが、そこが限界だったのかルティシアから力が抜けていき……二基のガンビットがルティシアを引き離す。
「フォトンランサー・ファランクスシフト。打ち……砕け、ファイア!」
スフィアから次々と吐き出される雷光の矢。その弾幕に2体の姿が隠されていく。
「後、少し……よ」
口から血を吐き出しても、プレシアは更に鎖の強度を高める。
アルフもクロノも、ここが正念場とばかりに鎖の本数を増やす。
「なのは……頼んだよ」
ユーノは強度を増し本数も増やしながら、“打ち合わせ通り”いつの間にか端へと移動しているアリシアのカプセルの位置を確認し、自分達の周囲に結界を張る。
ルティシアはガンビットに支えられながら、見上げる。自身の闘気を託した人物を。プレシアの念話を聞いたなのはが、ガンビットに小さく囁いてくれたこの作戦、チャンスはこの一回のみ。
桜色の巨大な魔法陣を展開したなのはのすぐ近くに、見守る様に浮かぶ双子座の黄金聖衣のオブジェ。
魔法陣の中心に、流星群の様に光が集束してみるみる内に膨れ上がった桜色の光球。黄金聖衣からも、光が注がれていき……。
「全力全開! 星々の力! ギャラクシアン ブレイカァァァーーーーッ!」
ファランクスシフトの弾幕が尽きる前に放たれた桜色の圧倒するような光の奔流。
それは簡単に床を撃ち抜き、苦悶の声を上げる魔族を虚数空間へと追いやっていった。
力を使いきった一同が一斉に崩れ落ちるのを見計らって、カプセルから目立たぬ様に配色された刀が数本浮かび上がると、舞うように近くの穴から虚数空間へと飛び出していった。
next
戦いは終わった
出会った者達は、夕陽が照らす公園で言葉を交わし合う
(出典)
山羊座の黄金聖衣:聖闘士星矢シリーズより。
シャドウオーラ:ジルオール シリーズより。本来は生命力を削って闇の気で攻撃するスキル。本作品中では闘気を集束、という形にしております。元々のザハクは扱えませんが、長い時間で身に付けたという設定。
イクスキュア:ジルオール シリーズより。ゲーム的な効果は単体全回復魔法。こちらはゲーム中でも使います。
(注)
サムスンが喋らないのはゲーム内仕様です。
黄金聖衣の見た目は初期シリーズ仕様で書いておりますが、オメガ版の方が人気なのだろうか?