魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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 次に続く空白期ののんびりとした日常モード。
 
 



間章 無印~A’s
その43 「日常が戻ってきた」


 朝の日射しが差し込む室内に、目覚めの時を告げるメロディーが流れ始める。

 

 

 やがて、ベッドの中がもぞもぞと動き、枕元に置かれた2台の携帯電話へと布団の中から腕が伸びて――

 

 

 それぞれのメロディーを止めると、その腕の持ち主の少女は布団をどけながらゆっくりと身体を起こす。

 

 

 赤いパジャマに包まれた両手を真っ直ぐ真上に伸ばし――すぐに右肩を押さえる。苦痛に一瞬顔をしかめたが、声は洩らさない。

 

 

 痛みを口にする事は、相手に弱点を知らせるという事に等しい。故に、戦闘時は可能な限りそれを出さない。言葉にも、出来るなら表情にも。

 

 

 そう、今は戦闘中である。

 

 

「姉さん、早く起きて下さい」

 

 

 自分の腰にしがみついて眠る茶色の髪の少女――なのはを何度も揺する。弾みで、なのはの首から下げられた、黄金の輝きを放つ首飾りも揺れる。

 

 

「フェイトが教えてしまうから……。いえ、そもそもどうしてフェイトが知っていたのでしょうか?」

 

 

 夜間に抜け出しての自己鍛練。薬品の受け取りもガンビットを介して行っていた。その際、フェイト達にも気付かれた様子は無かった筈で。

 

 

「それとも、気付かれていない演技……そんなのは後でしたね。姉さん、起きて下さい」

 

 

「……にゃ~、後8時間」

 

 

「少し遅れるではすまない遅刻です。せめてパジャマから手を、いえ顔を離して下さい。涎が……」

 

 

 最近は、以前の様な引っ付いて眠る事は減っていたのだが、昨夜はガッチリとロックされてしまった。

 

 

 ため息をつきつつ窓の外を見やるルティシア。その動きに合わせて、結われていない状態の濃紺の髪が揺れる。

 

 

「解決していない事は確かにありますが、昨日と今日では何か違う気がしま「じゅる」す……」

 

 

 聞こえた音と脇腹辺りにの感触に、少女――ルティシアは先程よりも深いため息をついたのだった。

 

 

「……おはよう~、ルティちゃん」

 

 

「おはようございます、姉さん」

 

 

 ようやく目覚めたなのはと共に、パジャマから制服に着替える。

 

 

「それで、ルティちゃん右肩はどうなの?」

 

 

 所々着替えを手伝い、今はベッドに座らせたルティシアの髪を、黒いリボンでポニーテールに結いながら、なのはが声をかける。

 

 

「飲んだ回復ドリンクと、牡羊座の回復フィールドのおかげで、昨日よりは楽にはなりました。それでも、まだ痛みが残っているため無理は出来ませんが。魔晶石の魔力がチャージされるか、自然に痛みが引くまでは少し時間がかかりそうです」

 

 

 

「たくさん飲んでも駄目なの? 早く治るとか」

 

 

「あのドリンクは多少ですが依存性があるのです。認めたくはありませんが、私もそうらしいです……」

 

 

「飲んじゃ駄目だよ! 竜の国って、そんな危ないものを使っているの?」

 

 

「いえ、国で使用されているものには副作用等はありません。これは、魔法と研究が好きな姉の1人が、旅先で手に入れたお土産です」

 

 

「安全な方を飲んで!」

 

 

「結構落ち着くのですが……」

 

 

「駄目ー!?」

 

 

 妹のかなりダメな発言に、髪を結い終えたなのはは悲鳴に近い声を上げて正面へと回り込み――

 

 

「冗談です」

 

 

「……え?」

 

 

 淡々と言われ、思わず呆けた声を上げる。

 

 

「さすがにその様なものは使いません。貰った薬品自体は確かに副作用があるものでしたが、気付いた姉の1人がすぐに取り上げましたしね」

 

 

「じゃあ、飲んでいたのは?」

 

 

「副作用の無い普通のものです。勿論、依存性もありません。真面目な答えをするなら、傷口……砕けた骨の治療は終わっているため、後は内な痛みだけですから。例えば……そうですね、腰痛でそれを飲んだとしても効果が出ないことと同じでしょうか?」

 

 

「……どうして最初にそれを言わなかったのかな?」

 

 

 なのはの話し方が変わった事に全く気が付いていないのか、ルティシアはそれを口にした。

 

 

「疲れた心を癒やすには、軽いジョークが良いとテレビで……」

 

 

「もっと疲れたから!!」

 

 

 片手で、手近に有ったクッションを掴んでの側頭部への一撃に、ルティシアがベッドの下へと吹っ飛んでいく。

 

 

 姉の叫びに、妹は身体を起こしながら首を傾げて……

 

 

「変ですね……。間違っていましたか」

 

 

 そう呟いたルティシアの前に、両手でクッションを持ち、笑顔ななのはの姿。

 

 

 ゆっくりと両手を振り上げて……

 

 

「変なのはルティちゃんだから! もう、変な知識は忘れるの!」

 

 

 ルティシアの頭部へと勢いよく振り下ろした。

 

 

「何だろう? ボクも何か、日常が戻ってきたみたいな感じがするよ」

 

 

 姉妹のやりとりを、居住にしているバスケットの中でまどろみながら聞いていたユーノが、欠伸をしながらのんびりと言った。

 

 

「お~い、2人共~? 朝御飯冷めるぞ?」

 

 

 階下から、恭也が呼んでいる。

 

「は~い!」

 

 

「今行きます」

 

 

 2人が答えて鞄を手に取る。

 

 

「ルティシア。行く前に頭の上からクッションを下ろしていってね」

 

 

 言うと、ユーノは再びバスケットの中で丸くなった。

 

 

 朝食を終えた姉妹は、長姉の美由希と共に家を出る。

 

 

「そういえば、2人共。昨日帰ってきてから、何かやり遂げた! みたいな雰囲気があるけど、何かあった?」

 

 

「え、えっと……」

 

 

「友達と一緒に始めた事を最後までやり遂げて」

 

 

 道中、先頭を走りながら美由希に聞かれて、どう答えるか返答に迷ったなのはを助ける様に、最後尾のルティシアが答える。

 

 

「そう! 他に、その途中で新しい友達が出来たんだよ」

 

 

 それに合わせて、そして嬉しそうになのはも続けた。

 

 

「へ~」

 

 

「今は……、ちょっとその子は新しい生活の準備中だけど、落ち着いたら呼んでも良いかな?」

 

 

「うん、もちろん! 恭ちゃんや、父さん母さんも大丈夫と思うよ」

 

 

 頷いた美由希に、なのはは笑顔を浮かべて……

 

 

「(早くその日が来たらいいな……)」

 

 

 青空へと思いを馳せる――。

 

 

 高校向かう美由希とは途中で別れて、2人は小学校へ。

 

 

「おはよう、2人共!」

 

 

「おはよう、なのはちゃん、ルティシアちゃん」

 

 

「おはよう! アリサちゃん、すずかちゃん」

 

 

「おはようございます。アリサ、すずか」

 

 

 教室に入るなり飛んできた挨拶。椅子に座って片手を上げているアリサと、同様に手を振っているすずか。

 

 

 挨拶を返して、席に荷物を置くと2人の元に駆け寄るなのは。

 

 

 少し前まで見せていた思い悩む姿。それが消えている事に友人達は気付き、やがて以前と同じ雰囲気で3人はお喋りに興じる。

 

 

 楽しそうな3人の姿を確認したルティシアは、鞄の中から筆記用具とノートを取り出すと雑然とした事を左手で書き始める。

 

 

「あれ? ルティシアちゃん、どうして左手で書いているの?」

 

 

「何かの時に備えて、利き手ではない方でも使えた方が便利と思いまして」

 

 

 すずかが近寄って来ていた事に気付いていたルティシアは、ノートから顔を上げないまま答える。

 

「何かの影響?」

 

 

「私はそこまで影響を受けやすいと思われているのでしょうか? 家族のみんなにも、何故かすぐにこれを受け入れられましたし」

 

 

 手を止めてすずかを見つめる。そのすずかはちょっと迷いつつも、考えを述べた。

 

 

「普段は淡々としていて、無駄な事はしないって雰囲気なのに、急に何か変わったことを始めたら、何かの影響を受けたって思うかも?」

 

 

「……そういうものでしょうか?」

 

 

「少なくとも、私はそう感じたかな。実験とか、なのはちゃんとか、私達関係以外で、ルティシアちゃんは余り積極的には動かないしね」

 

 

「指摘されると、確かにそういう気がします」

 

 

 身内関係以外だと、自主鍛練に戦闘関連が追加される位である。

 

 

「あ、それで話はかわるんだけど、来月のことで」

 

 

「来月……4日のはやての誕生日会ですか?」

 

 

「うんうん。去年は私とはやてちゃんだけだったから、今年はみんなで行きたいかなって」

 

 

「去年は姉さんが風邪で寝込んで私は看病でしたし、アリサは急用で行けなくなりましたしね」

 

 

 去年を思い出して話すルティシアに、すずかも頷いた。

 

 

「それで、アリサちゃんにはもう話はしてあるから」

 

 

「分かりました、姉さんには私から。体調管理も兼ねて」

 

 

「うん、お願いね」

 

 

「そうすると、はやての方も気になりますね。車椅子に、大量の食材などを積み込みそうです」

 

 

「あ、そうかも。去年は私が用意したけど、『来年はわたしが用意する!』と言っていたから」

 

 

 それを聞いてルティシアはため息をついた。

 

 

「車椅子の女の子が、1人暮らしと言うのはどうかと思うのですが……」

 

 

「私もそう思うけど、出来る事は自分でするってはやてちゃんも聞かないから……」

 

 

 すずかも表情を曇らせる。

 

 

       エ リ ク ス

「(自分への〈神聖治癒魔法〉が終われば、はやて用にチャージするべきでしょうか? しかし、むやみやたらに使うのも……)」

 

 

「で、あんたは何を考えているわけ?」

 

 

 思考に耽っていた間にアリサとなのはも寄ってきていた。

 

 

「アリサ、今日のテストは何でしたか?」

 

 

「1時間目の国語」

 

 

「ふぇ!?」

 

 

 

 声を上げたなのはに、3人の視線が集まる。

 

 

「なのは、忘れてたの?」

 

 

「き、聞いてないよ!?」

 

 

「なのはちゃん、授業中に言ってたよ?」

 

 

「え、え、ルティちゃんは? 昨日は勉強とかしていなかったよね?」

 

 

「むしろ、姉さんから説教されていましたが」

 

 

「あんた達何してるのよ……」

 

 

「ま、まだ時間があるから今の内に……!?」

 

 

 慌てて席に戻ろうとするなのはにも、ハッキリと聞こえてきた予鈴のチャイム。

 

 

「ふぇ~~~!」

 

 

 教室内になのはの悲鳴が響き渡って、姉妹の戻ってきた日常が始まる。

 




next


姉妹が戻ってきた日常を感じている頃


他方では……

「腹黒い者達のお茶会」
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