組み合わせられるものをいくつか組み合わせていった結果、この様な感じになりました。
もっとこういう感じで! という場合は遠慮なくメッセージを。
事件後はのんびりとしていた姉妹も、数日後には塾の無い日の夕方の鍛練を再開していた。
なのはは誘導弾を用いての集中力や継戦能力の向上を。空中に放った空き缶を目標に、一発の弾を連続して当てていく。
ルティシアは剣技を磨くと共に、牡羊座・双子座・乙女座・天秤座達とは瞑想及び心の鍛練を、その他の聖闘士達とは組み手を行っていた。
そんな、六月が差し迫ってきたある日。その日も鍛練の筈であったが……
「ルティちゃんどうしたのかな?」
三人のお気に入りの鍛練場所である山の麓。ユーノの張った結界の中、練習に使った空き缶を回収しながら心配そうになのはが言った。
人の姿に戻っていたユーノも、来た道――街の方を見ながら首を傾げている。
「ルティシアは、翠屋に寄ってから来るって言ってたんだよね、なのは?」
なのはとユーノが練習を始めてから、結構な時間が経過していた。陽は既に沈みかけている。
「うん。今日の練習の後で三人で食べようと思って、シュークリームを朝出かける前に頼んでおいたの。それで帰りにルティちゃんが、すぐに合流出来ますし自分が取りに行きますって」
「ルティシアの脚力なら確かにすぐだよね」
「ルティちゃんの事だから、多分お父さんかお母さんにチョコドリンクを出されたら、そのまま椅子に座って飲み始めそう……だけど」
なのはの脳裏に、幸せそうに飲んでいる妹の姿が浮かぶ……が。
「だけど、ルティちゃんは真面目で、無表情で淡々としているけど、約束事とか、家族や友達とのことは絶対に忘れないから。何かあったのかも……」
左手で持っていた杖型デバイス――レイジングハートを両手で握り締めているなのはを見て、ユーノは慌てて押し止める。
「待ってなのは。ルティシアは腕の治療を終えて万全の筈で……」
「〈神聖治療魔法〉を使っていたから、魔晶石の魔力は無いよね? それ用の魔力がチャージされたばかりだし」
「召喚獣とか……」
「ミストだっけ? 確か、せいせい? が難しいから、今は二個しか無いそうだよ?」
「生成だね。何かあったとしてもガンビットとか、赤い月の結界を使って連絡するとか……」
「ルティちゃん自身が取り込まれていたら使えないよね? ガンビットを外に置いていたとしても、操作出来るかは分からないし、そもそもルティちゃんはそういう時は黙っていそうだよ?」
「な、なのは? 何か目が怖いよ? 後は、黄金聖衣達の力とか……」
「強いけど、この間の相手とか、あの冥魔王という人達だとかなり苦しいよね?」
「えっと……」
据わった目をしているなのはに、次第にユーノがたじたじになっていく。
「(時の庭園で駆動炉に居たボク達の所に来た女性に、クロノが手も足も出なかったらしい少女。この二人だけでも危険なのに、もう一人……蘇生の力や情報に長けた冥魔王がいる)」
「ユーノ君? ルティちゃんを探しに行くよ~?」
「(もし、本当に何かあって危険を伴うものなら、なのはを連れて行ったらルティシアに……って、そもそも魔法の力を与えて危険に巻き込んだのもボク。あれ……なのはを止めても止めなくても、ボクはどちらかに攻撃される? でも、なのはを危険な所に連れていくよりは……)」
なのはに怒られてでも、ここは止め――
「ユーノ君? まさか反対するの? じゃ、オハナシしようか」
「そんなことしないよ? 一緒に探しに行こうか」
――られるわけもなく、あっさりとユーノは頷くのだった。
「(ルティシアなら言葉だけで、攻撃はしてこない……筈)」
という打算も働いていたが。
ユーノは忘れている。以前、攻撃されかけていた事を。
撃ち込まれかけていた、最も慈悲深いと呼ばれる真紅の衝撃の事を。
ユーノを待ち受けていた真紅か桜色の衝撃の未来を不憫に思ったのか、この時は運命の女神が彼に微笑んだ。
結界を消そうとした二人の元へ、街の方からふらつく足取りで登り坂を進んでくる一人の姿。
なのはの背後、ユーノにとっては正面からやってくる人物は、普段のその姿からは想像出来ない位に疲弊していた。
時の庭園の決戦以来……いや、それ以上の疲れた雰囲気を漂わせている。
夕陽に照らされながら、やがてはっきりとその姿が確認出来て――
何やら驚きの表情を浮かべたまま固まったユーノの視線に、気が付いたなのはが振り向くとそこにはふらふらとやってくる待ち人の姿があった。
「あ、ルティ……ちゃん?」
無事な姿に安堵して声をかけようとして、その姿にユーノの表情の意味を理解した。
その姿は自分と同じ、学校帰り時のままの白い聖祥小学校の制服――では無かった。
装飾がほとんど無い濃紺色のロングドレス風の衣装。
その上から、本格的な作りのフリルの付いた白いエプロンを身に付け。
そして、いつも通りのポニーテールをした頭部にはレース付きの白いカチューシャ。
「お待たせしてごめんなさい、姉さん、ユーノ。ちょっと……、色々あって遅くなりました」
二人の近くまで来たルティシアはそう言って頭を下げる。
「えと……色々あったのは分かるけど、何がどうなったのかな?」
「うん、ボクも気になるかな。何かあったのかもって心配していたから、無事だったことは良かったけど。……無事……で、良いのかな? その姿は」
困惑しながら二人に言われて、ルティシアは頭を上げた後に首を傾げて再び視線を下に――。
「ぁぁぁ……着替え直すのを忘れていました……」
自分の姿を確認してその場で崩れ落ちると、ドレスが汚れることは気にせず嘆きの声を上げる。
「気が付いてなかったの!?」
「何があったんだろう……」
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「う~ん、他の子達が今日は急に来られなくなったそうだ。困ったな。」
「恭也と忍さんが来るまではまだちょっと時間がかかりますし。どうしましょうか」
先程、翠屋にかかってきた電話は他のスタッフの休みを告げるものだった。
時間は、もうすぐ学校帰りの生徒達で賑わう時間になる。
二人でも出来なくは無いが、万が一にもお客様に何かあってはいけない。
そして、何とはなしに視線を嵐の前の店内に向けて、カウンター席で幸せそうにチョコドリンクを飲んでいる娘の所で止まる。
「ふむ……」
士朗の呟きを聞いて、視線を店内に向けた桃子も同じ一点で止めた。
「あなた」
「恭也と忍さんが来るまで、頼んでみようか。あれもあるし」
そう言って、士朗は厨房から離れて娘の元に歩いていった。
「ルティシア、ちょっといいかい?」
「父様? 何でしょう」
ドリンクを飲み終わると同時に話しかけてきた士朗に、ルティシアはそちらへと顔を向ける。
「シュークリームでしたら、少し遅くなりましたが今から届けます」
自分の席に置かれた箱を手に取る娘に、違うんだと士朗は答える。
「実は今日、他の子達が休みでね」
「はい」
「恭也と忍さんが来るまでは、まだちょっと時間がかかるんだ」
それで察したのか、ルティシアはまだ人影の少ない店内を見渡した。
「姉さんを余り待たせたら、話が変にこじれそうなのですが……。兄様と忍さんが来るまでで良ければ、お手伝いします。今から混む時間ですよね?」
「助かるよ。うん、一番忙しい時間だ」
ホッとしている士朗に、ルティシアはぎこちない笑みを浮かべる。それを見て士朗が驚くも、すぐに自身も柔らかな笑みを浮かべた。ただ、どこからかパシャッ! という小さな機械音がした。
「家族を助けるのは当たり前のことですから。気にしないで下さい、父様。……返せない程の恩がありますし」
「ん? 何か言ったかい?」
後半は、囁きに近い独白。
「いえ、この制服姿のままで大丈夫ですか?」
「ああ、奥にルティシア用のロッカーがあるから、それに着替えておいで」
……………………。
暫し見つめあう二人。
「あの、何故スタッフではない私のロッカーがあるのですか?」
「大丈夫、なのはのもあるから」
「いえ、そういう意味ではなく……」
「じゃ、二人が来るまでの間よろしく頼むよ」
ルティシアの持っていた箱を預かりながら去る士朗の背に、不思議そうな視線を向けていたルティシア。
奥のスタッフルームに向かうと、スタッフメンバーからやや離れた位置に、自分の名札の付いたロッカーが置かれていた。隣には確かになのはのものもある。
不思議には思うも、家族で手伝うことを考えるなら、おかしなことではないかもしれませんと思い直す。兄様もみゅー姉さんも手伝っていますし、とロッカーを開ける。
※ ※ ※
「父様、母様。衣装が違うような気がするのですが……」
いわゆるメイドの姿をした娘の姿に、何故か二人は満足そうに頷く。
桃子に至っては、写真に納めていた。
「制服以外でも、スカートの機会を増やしたらいいのに。せっかく可愛いのに普段はズボンばかりで……」
「何を言うんだ。滅多に身に付けないからこそ、その姿が良いんじゃないか」
「父様が何を言っているのか分かりません……。母様、ズボンは身を守るという意味では、スカートより優れていると思います」
何やら話し合っている二人に、躊躇いがちにルティシアが口を挟む。
「ルティシア、いいかしら? 練習で『いらっしゃいませ』って、言ってみてくれる?」
「い、いらっしゃいませ……?」
いつもの淡々とした口調にも思えたが、僅かに恥ずかしさや照れが垣間見えていた。
「何かいいな……」
「あ な た?」
何やら胸を押さえている士朗を、桃子が笑顔で見る。
「いや、何でもないぞ。……ほら、ルティシアお客様が来たぞ」
入ってきたのは数人の女子高生。にぎやかにお喋りしながら席に着いていく。
「何か色々と気になりますが、行ってきます」
人数分の水をトレイに乗せて席へ向かう娘に、女子高生達から可愛いー! という声が飛ぶ。
いらっしゃいませ、と言う前に矢継ぎ早に話しかけられて、困惑する姿に更に歓声が上がっている。
「預かった時はどうなるか心配だったが、杞憂に終わったな」
「そうですね、良い子に育ちました」
二人で言葉を交わし、疲れて帰ってきた娘から注文を聞いて次々と用意していった。
その後も、次々と増えていく若い女性達に、メイド萌えと言いながら入ってくる男性達の応対にルティシアは回り続けた。
男性陣については、厨房やカウンター越しに放たれる殺気で足早に去る者ばかりだったが。
そんな賑わう店内に、また一組入ってくる。
「い、いらっしゃいませ~……」
あちこちの席から向けられてくる視線を、出来るだけ気にしないようにしながらルティシアがドアの方に振り向いて――硬直する。
「あらあら、これは面白いモノを見ました」
「あはは、何やってるのかな?」
入ってきたのは中学生位の少女達。
プラチナブロンドの髪の少女が二人。一人は長く、一人は短く。
薄紫色のワンピース状の服と、同色の半袖にショートパンツ姿。
紫色の瞳の少女――アシェラと、ワインレッド色の瞳の少女――メイオルティス。
破壊の存在、“冥魔王”を名乗ったもの達。
「な、何故あなた達がここに……」
店内を巻き込まない様に外に誘導すべきか、ルティシアは考える。
「美味しいシュークリームと共に、紅茶が楽しめる場所があると聞きまして。戦場でもないからと開眼していましたが、おかげで良いものが見れました」
「あたしはアーちゃんに誘われただけだよ。日時の指定はされたけどね」
アシェラの方は余り変化は無いが、メイオルティスの方は悪戯めいた表情を浮かべている。
「お~い、お友達かな? 早く席にご案内してあげなさい」
「いえ、友達では……」
カウンターに居る士朗から声が飛び、それに慌てて否定しようとしたルティシアを遮りアシェラが口を開く。
「空いている席に案内されなければ、自分で勝手に好きな席に座りますが」
暗に含む意味を捉えて、ルティシアは諦める。
「……こちらへ、どうぞ」
案内された席に二人が座り備え付けのメニューを開くと、近くの席の生徒達からは「こっちの子達も可愛い~!」「レベルたけぇ!」という声が上がる。
「ご注文がお決まりになれば……」
「私はシュークリームとミルクティーを」
「じゃ、あたしはケーキセットで。アーちゃん半分こしよう」
「しばらく、お待ちください」
「そういえば、こういう場では明るい応対をするものと聞きましたが」
「まぁ、無理なんじゃない? 精神的な問題で」
「……努力はします。今後があれば」
アシェラとメイオルティスに背を向けて、注文をカウンターにいる士朗に伝えると、入口が新たに来店を知らせる。
来たのは四人で、見知ったメンバーだった。
待望の恭也と忍。
そして、その二人同様にルティシアに視線を向けているアリサとすずか。アリサに至ってはニヤニヤとした笑みを浮かべ、すずかも申し訳無さそうにはしているがどこか楽しんでいた。
「良いわ、あのデザイン。ナイスよ、すずか!」
「おかしいと思いましたが、やはりあなたでしたかアリサ!」
咄嗟にトレイを投げつけるのを堪えて、赤くなったルティシアが叫ぶ。
「あれは怒りと蓄積した恥ずかしさ、どっちだと思う? アーちゃん」
「さぁ? 私達が楽しめればどちらでも良いのではありませんか? それに、喜劇は続きます」
アシェラがそう言った店内では、アリサに手刀を振り下ろそうとしたルティシアを恭也が止め、帰ろうとした所を忍が抱き締めて奥に連れていく光景があった。
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「もしかして、その後もしばらく……?」
「はい、アリサやすずか、冥魔王達にあれこれ言われながら。姉さんと約束があるから、とようやく抜けてきました」
ガクリと両手と膝をついたルティシアに、ユーノがお疲れ様と声をかけている。
「……………」
何やら携帯を握り締めて沈黙しているなのは。
「姉さん? どうかしましたか? 遅くなったことについては、発端のアリサと、話を聞いて忍さんに伝えたすずか、実行した忍さんに文句を……」
「ずるい!」
「え?」
顔を上げるルティシアに突き付ける様に、開いた携帯電話を見せる。
そこには、知り合い達に見られながら赤くなって運ぶルティシアの画像があった。
「私も見たいし、ルティちゃんに言われたい!」
「姉さん? 何を言って……」
嫌な予感がしているルティシアの手を強引に掴んで立たせると、街の方へと坂道を走り始める。
「まだ、翠屋の時間に間に合うから!」
「私は、戻りたくは……。ユーノ、止めて下さい」
「キューキュー」
いつの間にかフェレット姿でなのはの肩にいるユーノは、無理と言わんばかりに首を横に振っている。
「いらっしゃいませ」から始まる一連の対応をされたい姉に、妹が店に放り込まれるのはこの後すぐの出来事だった。