魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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 番外編ネタの第二回となります。

 今回は「価値観について」。A’sに入る前に、それぞれの在り方を確認する回となります。


 そして、大惨事回
 
 



その46 こんな事になるとは思わなかった日

 学校から帰宅して、真っ直ぐ姉妹の部屋に入ってきたのは、濃紺色の髪をポニーテイルにして聖祥小学校の制服を着た少女――ルティシア。

 

 

 いつもはすぐに声をかけてくれるユーノは、つい先程フェレット姿でどこかに出かけていくのを、室内に設置してあるガンビットで確認している。

 

 

 背負っていた鞄を床に下ろしながら、送られてきたガンビットの映像にミスが無いか、ユーノの寝床であるバスケットの中を確認し、室内、家中の気配を探る。

 

 

「居ませんね。いつ帰ってくるかも分かりませんし、急ぎましょう」

 

 

 なのはは塾のため帰宅までまだ時間はあるが、これから行うあることの為に、天井に仕掛けていたガンビットを階段の方に移動させる。

 

 

「アリエス」

 

 

 ルティシアの呼びかけに応えて、身に付けていたネックレスから、黄金の輝きを放つ飾りが一つ外れる。

 

 

 小さな待機モードから、等身大のオブジェ形態の姿へと変化する牡羊座の黄金聖衣。

 

 

 預かった時よりは復元が進んでいるが、まだまだ完全とはいえない姿に過去の破壊具合が窺える。

 

 

「セイティーグで再生を促進するフィールドの力を付与されても、欠損部位が元通りになるにはまだ時間がかかりそうですね」

 

 

 それでも、以前はレオからしか受けられなかった指導が、最近は他の黄金聖衣に宿る戦士達……聖闘士達の魂からも学べられるようになったのは、大きな進歩だろう。

 

 

 そして、聖衣に遺されていた朧気な、“記憶”――

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 暗雲に包まれた世界の、破壊された都市。

 

 

 大地で対峙する二人。

 

 

 黒いシルエットに包まれた姿。顔らしき部分の目の辺りには赤い光点が二つ輝き、その背中には二対四枚の翼らしきものがある。

 

 

 その周囲に、七枚の縦に細長い物体を浮かべたその黒い影は、『こちら』へと片手を向ける。

 

 

『あはは、その程度? じゃあ、今度はこっちの番。避けないと……痛いよ?〈穿て、虚ろなる牙〉!』

 

 

 闇が凝縮し、顎を閉ざすように数条の闇が挟み込むように迫ってきた――

 

 

 二つの黒いシルエットと、青空の中で向かい合う。見下ろした『自分』の体は、既に満身創痍といったところだろうか。

 

 黒いシルエットの片方は先程と同じで、残るもう片方のスカートらしきものが、風に煽られて大きくはためいていた。

 

 

『うふふ、私達は貴方の言う世界の支配など望んでいませんよ?』

 

 

『そうだよ。ただ、嫌いなモノは壊して、壊すために力あるモノを探しているだけ。……あたし達のやり方でね』

 

 

 その言葉を合図に、浮かんでいた七枚の物体が一斉に光を放った――

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「……フェイト達の時は手助けをしてくれましたが、彼女達はいつか私達の敵になる」

 

 

 彼女達……冥魔は、魔族達を酷く嫌っていたが為に、今回手を貸してくれただけだろう。

 

 

 冥魔達の次の狙いが読めないが、この世界の「備えあれば憂いなし」という言葉の通り、有事への対抗策は増やしておいた方がいい。

 

 

 余りにも遠く次元を隔てている上に、相互の世界の干渉問題もあるため支援は厳しいが、冥魔の存在を本国に伝えることも視野に入れ始めている。

 

 

「まずは……」

 

 

 念のために放ったままにしている、サーチャー警戒用の一基はそのままにして、ルティシアは携帯している残りのガンビット二基を呼び出した。

 

 ルティシアの前に浮かんでいる二基の球状の胴体の左右から、翼のような形状のものが一対ずつ縦に展開し、次いでそれは横へと倒れる。

 

 

 その翼の両端から、それぞれを結ぶように光が線を描き、長方形に……さらに光は弧を描いて円へと変わり、円の内側がうっすらと黄緑色に染まる。

 

 

「これで、下にこぼれ落ちる事もありませんね」

 

 アリエスのオブジェが再び小型化し、ルティシアはそれを手に取ると円盤状の光を放っている部分の上にのせた。

 

 

「後は……」

 

 

 制服の左腕の部分を捲り上げて、その下の着込んでいる黒い戦闘下衣も上に引き上げる。

 

 

 右手が虚空から刀――愛刀の氷雨を引き抜くと、その刃を肌が露出した左腕に当て……

 

 

「!?」

 

 

 ……瞬間、世界が変質した。

 

 

「これは、けっか「そ こ ま で だ よ」……い……?」

 

 

 背後から、聞き慣れた声と強烈な威圧感と共に、首筋に何かを突き付けられる。

 

 

 チラリとそちらに視線を向けると、赤く丸い宝石の付いた杖。

 

 

「ね、姉さん?」

 

 

「剣 を 置 い て」

 

 

《put a sword on a floor》

 

 

 いつもと違う冷たい声と、首筋に当てられたレイジングハートからの音声に従って、虚空から取り出した鞘に刀を納めて床に置いた。

 

 

 背後からの威圧感は変わらず、首筋のレイジングハートも微動だにしない。

 

「まさか、姉さんに化けた冥魔王の誰かではありませんよね?」

 

 

「冥魔王で良いよ。冥魔王らしいやり方で、話を聞かせてもらうから」

 

 

 問いかけに、低い淡々とした口調で返ってくる。

 

 

「その場合は“冥砲王”ですね」

 

 

 言った瞬間に、頭部に走る痛み。やや、遅れて風切り音と打撃音が室内に響く。

 

 

「この状況でそういう事が言えるなんて、ある意味凄いよルティシア」

 

 

 頭を押さえてうずくまっている姿を見ながら、なのはの肩にいるユーノが呟いた。

 

 

 無論、「冥魔王が一人、“冥砲王”なのは」という台詞と共に、何かポーズをとるなのはの姿を思い浮かべている事など口にはしないユーノ。

 

 

「姉さん、頭を強打して馬鹿になったらどうするのですか?」

 

 

「その時は、常識を詰め直そうね」

 

 

 頭を押さえながらの涙目での抗議も、簡単に切って捨てられる。

 

 

「それでは、まるで私に常識が無いみたいではありませんか」

 

 

「無いよね?」

 

 

「即答ですか……。ユーノ?」

 

 

「家に帰ったら、自分の手を刀で斬ろうとした人が居れば、そう思われても仕方ないんじゃないかな」

 

 

 言われて、その場面を思い浮かべてみる。

 

 

「なるほど、確かに家族や友人がそういう事をしていれば、私も止めますね」

 

 

「分かったら、どうしてこういう事をしていたのか、教えてくれるよね?」

 

 

 左手に持ったレイジングハートの柄の部分で、自身の右手のひらを何度も叩きながら説明を求めるなのは。

 

 

 目は据わっており、普段の雰囲気は微塵も残っていなかった。

 

 

「その前に、一つ良いでしょうか?」

 

 

「うん」

 

 

「階段に設置していたガンビットが反応しなかったのですが、どこから入ってきたのですか?」

 

 

「窓から」

 

 

「え……」

 

 

 レイジングハートで窓を示すなのはに、ユーノは苦笑している。

 

 

「ユーノ君に結界を張ってもらったから」

 

 

「ボクは塾が休みだったなのはに呼ばれてね。丁度別の用件もあって合流したんだけど、急に嫌な予感がすると言ってね」

 

 

「後は、近くまで来たら結界を張って、飛行と高速移動ですか」

 

 

 納得したルティシアの眼前に、レイジングハートが突き付けられる。

 

「それで、ルティちゃんは階段にガンビットを設置してまで、何をしようとしていたのかな?」

 

 

「最近になって、聖衣に宿る戦士達の魂から色々と教われるようになったことは鍛練の時に話しましたが、その中に聖衣の修復の方法があったため、それを試してみようと思いまして」

 

 

「どうやるの?」

 

 

「ある闘気法を身に付けた戦士の血液を使うのです」

 

 

「…………ふーん」

 

 

 声のトーンがさらに下がった。

 

 

「私はその闘気法を身に付けていますし、さらに特殊な力を持つと言われる竜の血も流れています。よって、聖衣の修復に何か効果が出ないかなt」

 

 

 再びルティシアがうずくまる。

 

 

 遅れて重い打撃音が室内に響き渡り……、三人の間をフワリとした風が吹き抜けて、衣服等を揺らす。

 

 

 なのはの構えたレイジングハートは微動だにせず、その姿勢を維持している。

 

 

 その頭を押さえた姿を見ながら、ユーノは頭を左右に振った。

 

 

「ルティシア。聖衣の修復というだけなら、ボクも内容次第では賛成だけど、後半のそれは駄目だと思うよ。明らかに、キミのデータ取りの好奇心にしか思えないし……」

 

 

「……聖衣の修復。それにはきちんと意味があるのです」

 

 

 頭を押さえていた手を離して、ゆっくりと立ち上がる。元の形態に戻ったガンビットは虚空に消え、牡羊座の黄金聖衣はルティシアの周囲に浮かぶ。

 

 

 なのははその様子を静かに見つめ、ルティシアは静かに語り始める。

 

 

「聖衣と呼ばれるモノには命があります。……いえ、聖衣自体が生きた戦士そのものなのです。その聖衣を纏う事を認められた、その時代の十二人の戦士達と共に戦い続ける魂の戦士達」

 

 

 ルティシアの首元が輝き、残りの十一個の黄金聖衣達がルティシアの周囲に浮かんだ。

 

 

「傷付き倒れ、粉々に砕けても尚、彼らは世界の平和を護るためにセイティーグにまでやってきました。次なる戦いに、次代の戦士達の元に向かう為に」

 

 

「次代って、ルティシアは違うの?」

 

 

「私は違います。私は預かって、指導を受けているだけですから。私では……、彼らの力の全ては引き出せません。あくまでも、星の宿命を背負った戦士達だけです」

 

 

 ユーノの問いに首を横に振ると、再び聖衣達をネックレスに戻す。

 

 

「魔族、そしていつか私達の前に立つであろう冥魔。あの者達に対抗するために、そして次代の戦士達の為にも聖衣の修復を……」

 

 

 

「……いいかな?」

 

 

 遮って、今まで沈黙を保っていたなのはが口を開き、その声を聞いたユーノの体毛が、総毛立った。

 

 

「血はどれくらい使うのかな?」

 

 

「やや多め、ですね。よって、貧血気味にはなりますが……。命には関わらない量ですので」

 

 

「ルティちゃん」

 

 

 重くのしかかる様な威圧感がいや増して、ルティシアの口を塞いだ。

 

 

「それは、本当に今急いでやらないといけない事なのかな?」

 

 

「そ……備えあれば憂いなし、という言葉が……」

 

 

「それで、この間の様に自分を傷付けて、家族を心配させるの?」

 

 

「傷付けると言っても、あの時程ではありませんし……、血を流すのも、心配される様な命に別状は………っ!?」

 

 

 目の前から放たれる威圧感に気圧される。なのはに身長では勝っている筈のルティシアだが、今この瞬間は見下ろされているかの様な感覚に陥っていた。

 

 

「先月も、今月も言ったのにまだ分からないんだ? 鍛練とか修行中に、怪我をするのは仕方ないと思うよ。でもね、心配する人がいるのに、簡単に自分を傷付ける様な事をするのはちょっと違うと思うの。その戦士の人達がしていた修理は、本当に必要だからしていたと思うけど、ルティちゃんのは、本当に今必要なのかな?」

 

 

 一歩、また一歩となのはから離れる。やがて、窓辺に追い詰められる。

 

 

「何か起こってから後悔するよりは……」

 

 

 うつむいたなのはの表情は見えない。

 

 

「……最後に……見張りを用意していたのは、どうしてかな?」

 

 

「姉さん達に、見られない様に……です。誰かが帰宅して上がってきたら、治療魔法で止血しようかと」

 

 

「……つまり、見られたら駄目だと……、聖衣の修復は大事だけど、誰もいない時間を狙う位に何か言われる自覚もあったんだよね?」

 

 

 結界に包まれた世界で大気は震え、木々はざわめき、高町家を中心にして波紋が広がる様に花や草が揺れる。

 

 

「そうですね。血で部屋を汚さない様に細工をしたり、出血自体は魔法ですぐに治して見せるつもりはありませんでしたが、万が一にでも見られれば何か言われるということは分かっていました。……ただ、聖衣が修復し新たな力が得られる可能性があり、私自身は多少貧血になる程度で大丈夫と判断して――」

 

 

 ――その瞬間、世界が静寂に包まれた。ゆっくりとなのはが、表情を消し去った顔を上げたことにより……

 

 

 

「……少し、頭、冷やそうか」

 

 

《restrict rock》

 

 

 レイジングハートの音声と共に、ルティシアの両手両足を桜色の魔力の輪が宙に固定する。

 

 

「ね……姉さん?」

 

 

「言葉だけでは変わらない……、伝わらない。つまりは、こういう事だよね?」

 

 

 親友の言葉を使って語るなのはの足元から、桜色の魔法陣が現れる。

 

 

「姉さん! ここは結界内とはいえ、室内です。攻撃魔法を使うのは……」

 

 

「ユーノ君を信じているから」

 

 

 射撃モードのレイジングハートを構えるなのは。ルティシアが制止を求めても、なのははチラリと肩の上に視線を向けただけで止めるつもりは無いようだ。

 

 

「うわ、何か重い信頼が……」

 

 

 そのユーノは、いきなりの責任重大さに冷や汗をかいていたが。

 

 

「姉さん、常識を……!」

 

 

「って、ルティシアが言うと逆効果だからーー!?」

 

 

 二人のやりとりを聞きながら、なのはは笑みを浮かべた。

 

 

 暗笑を――。

 

 

「非常識には、非常識じゃないと駄目なんだよ」

 

 

「姉さ――」

 

 

《divine shooter. full power》

 

 

 ルティシアの呼びかけををかき消すように、五つの大きな光弾が現れると同時にルティシアに殺到する。

 

 

「……て、転移」

 

 

 光弾が直撃する刹那のタイミングで、ルティシアの姿が消える。

 

 

 標的を失った光弾は、そのままルティシアが束縛される前に、後ろ手に開けていた窓から飛び出していった。

 

 

「……どこに行ったのかな? 逃がさないよ、ルティちゃん」

 

 

 直撃する瞬間にその場から消えたのを見たなのはが、窓辺に近寄って何かに意識を傾け始めた。

 

 

 その間に、なのはの肩から飛び下りたユーノが、床に置かれたままの刀に視線を落とす。

 

 

「キミとなのはの間には、どうしても育ってきた環境の差がある。だから、今回のことも遅かれ早かれ、いつかは表面化していたと思う。でも、キミ達が一緒にいる限りは、避けられないことなんだ。二人のことで、ボクは間には立たない」

 

 

「見つけた。行くよ、ユーノ君」

 

 

「そもそも、立ちたくないから……」

 

 

 暗笑を浮かべたままのなのはを見て、ユーノは一人ごちた。

 

 

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 ルティシアの転移先は二ヶ所しかなく、今回は選択肢は無い。

 

 

 海鳴臨海公園の、拠点の前。

 

 

「分かっていました。私の行為が、姉さんに受け入れられないことは。あそこまでの怒りは予想出来ませんでしたが」

 

 

 キーワードを唱えて、自身が入るのは久しぶりとなる拠点の中へ。

 

 

 フェイトの性格なのか、中は荒れておらずきちんと整理されていた。

 

 

 入ってすぐのリビングに置かれたテーブルを横切りながら、ルティシアはその先の調理場に向かう。

 

 

「最初から、ここでやれば良かったですね。フェイト達が、プレシアさんの関係で本局に行くと姉さんが教えてくれたのですから」

 

 

 調理場から取り出したのは――包丁。

 

 

「たとえ自身が傷付いてでも、その先にある道を斬り拓く。これも、『誰がための爪牙たる』の一つ。今は無理でも、姉さんにもいつか分かってもらえる筈……」

 

 

 言って暫くしてから、ゆっくりと頭を左右に振る。

 

 

「……いえ、姉さんにはそんな日がこない方がいいですね。こういう考えが普通になることが、姉さんにはあってほしくありません。出来ることなら危険な戦いからも離れて、アリサやすずか、フェイトにはやて達と笑っていてほしい。でも、魔法という力で誰かを助けたいという姉さんの気持ちも分かります」

 

 

 包丁を顔の前まで持ち上げて、だからと呟く。

 

 

「せめて、この世界からだけでも魔族や冥魔を無くしましょう。いつかはクロノやリンディさん達と、ミッドにいる魔族達をアリシア姉様の代わりに……」

 

 

 決意を持って。

 

 

 ルティシアが先程と同じように、ガンビットを呼び出そうとして……

 

 

「……がまた何かやったらしいから、ちょっとなのはの所に行ってくる。アリシアは、ここでアルフと待ってて。何が起きても、ここなら多分大丈夫だから」

 

 

 そんな聞いたことのある声と共に、開く筈の無い扉が開いた。

 

 

「うん、分かった。けど、ワタシのことはお姉ちゃんって呼んでよ~、フェイト」

 

 

「にしても、また何やらかしたんだい? ルティシアは」

 

 

 入ってきたのは三人。

 

 黒いシンプルなワンピースを着た金髪ツインテールの少女――フェイト。

 

 

 やや低い身長で、同じような黒いワンピースだが、こちらにはフリル等が付けられ、金髪を結わずストレートにしているフェイトによく似た少女――アリシア。

 

 

 ラフな格好に身を包み、呆れたように言うのはオレンジ色の髪をした女性――アルフ。

 

 

「……え?」

 

 

 あり得ない出来事に、ルティシアは反応が遅れてしまう。

 

 

「あれ、フェイト誰かいるよ? 何か持ってるけど」

 

 

「ルティシア……あんた、何やってるんだい?」

 

「…………………」

 

 

 三者三様の反応だが、ルティシアは内心焦りを見せていた。

 

 

 つい先程まで自分を襲っていた威圧感が、目の前の人物からも放たれ始めていた。

 

 

「……事情があります」

 

 

「なのはとユーノから聞いた。ルティ、言いたいことはある?」

 

 

「……話を聞いてくれるのですか?」

 

 

 威圧感を放つ親友に、半信半疑で問いかけてみる。

 

 

「わたしは、システムからルティの事は聞いているから。ルティの考えも、理解する気はないけど、分かるから」

 

 

「システムは一体何を……って、サラッと何を言いました?」

 

 

「話をすることは大切。大体の事情も分かるからこそ、話をすれば伝わることもある」

 

 

 フェイトもまた、なのはの言葉を口にする。

 

 

 通じあっている二人に、立場を忘れて喜びを感じそうになるルティシア。

 

 

 だが……

 

 

「包丁を置いて、正座」

 

 

「え?」

 

 

 続けて床を指し示しながらフェイトが言ったことに、喜びが消えてしまう。

 

 

「聞こえなかった? ルティ、包丁を置いて正座」

 

 

「いえ、あの……話を聞いてくれるのですよね?」

 

 

「わたしは、聞くけど理解する気はないって言ったはず。ね、バルディッシュ?」

 

 

「yes sir」

 

 

 起動し、変形したバルディッシュを右手に持って床を指す。

 

 

「あ、アルフ……」

 

 

「無理無理。それに、あたしはフェイトの使い魔だよ?」

 

 

 ルティシアから視線を向けられたアルフは、ヒラヒラと右手を振って見せた。

 

 

「私は、姉さんやフェイト達とは争う気はないのですが……。外では、転移したことで姉さんが激怒でしょうし、こうなればより良い未来を得るための試練と割り切るしかありませんね」

 

 

 そう言うとルティシアは顔を天井に向ける。

 

 

「システム。主権限で、強制転移です」

 

 

『了解です、マスター。システム権限で、私を守るために強制転移を行います』

 

 

「それは微妙にニュアンスが違いませんk」

 

 

 システムからの返答内容に、ルティシアが何かを言い切るより早く、その姿が光に包まれ消えていく。

 

 

 フェイトと共に。

 

 

 ルティシアが消えた際に、持っていた包丁が調理場に落ちてにぎやかな音を立てた。

 

 

「ねぇ、アルフ」

 

 

 アリシアがアルフを見上げながら不思議そうな顔をする。

 

 

「フェイト達、何をするの?」

 

 

「フェイトが言っていただろう? オハナシだよ。仲の良い友達とね」

 

 

 ルティシアとフェイトが排出された先は、拠点から少し離れた木々に囲まれた場所だった。

 

 

 そして、公園内が既に結界に包まれていることに気が付く。

 

 

「三人を出す筈が、何故私まで……。あのシステムは、やはり問題が」

 

 

 枝から枝へと跳び移りながら、ルティシアは背後を見る。

 

 

 いつの間にかバリアジャケットを纏ったフェイトが、器用に枝を避けながら追撃してきていた。

 

 

「この結界は恐らくユーノ。ということは、あちらに転移すればまた少し時間が稼げます……ね!」

 

 

 高速移動の魔法で、一瞬で目の前に移動してきたフェイトが、ルティシアが枝から枝に移る間際にバルディッシュの刃を出さずに横殴りに振るう。

 

 

 柄の部分に手を当てて、制服を大きくはためかせながら前方に宙返りを決めると、そのまま近くの木の幹を蹴りながら勢いよく夕陽の方へと跳ぶ。

 

 

「フェイトの反射神経だと、私の今の動きを捉えている筈。そして、そのまま夕陽の輝きで目が眩み、追撃が止まる」

 

 

 予想通り追って来ないことを確認すると、転移先の座標を確認しながら木々の間をすり抜けて、外に飛び出す。

 

 

「足を止めるか、止めようとしてアルフが来ると思いましたが、予想が外れましたね。転……」

 

 

「やっと来た」

 

 

 そんな感情の込もらぬ声が聞こえるや否や、金色の輪が何重にもルティシアを縛り上げ、彼女が状況を認識するより早く、真上からの桜色の光の奔流が飲み込んでいった。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「……つまり、これはユーノではなくクロノ達の結界で、転移したとしてもユーノが待っていたと」

 

 

 正座の格好で縛られたルティシアがため息をついている。

 

 

 

 

「ルティちゃんの動きも、クロノ君の予想通りだったよ? 少しずれてはいたけど、飛び出してくる所まで」

 

 

「わたしが追いかければ夕陽を使って逃げるから、後は逃げた方向をなのはに念話で知らせて先回りしただけ」

 

 

 向けられているレイジングハートとバルディッシュが、夕陽を浴びて宝石の部分が輝きを放っている。

 

 

「管理局が、魔法の行使を認めて良いのですか……」

 

 

「悪いことに使うわけじゃないし、特別にって」

 

 

「それで良いのですか……」

 

 

「余り良くはないから、出来れば一回で終わってくれともクロノに言われてる。だから、話し合おうルティ」

 

 

「話し合う図に全く見えないのですが」

 

 

 縛られて正座させられた上に、デバイスを向けた状態で前後に立つなのはとフェイト。

 

 

 話し合う図というよりも、別の何かを連想させる。

 

 

「……ルティちゃんがうちに来る前は、私はいつも一人だった。お母さんやお父さんは翠屋で、お兄ちゃんやお姉ちゃんは学校で」

 

 

 夕陽が辺りを染め上げる中、なのはが静かに語り始めた。

 

 

「それに、お父さん達は剣の修行で時々怪我をしていたの。聞いても『心配ないよ、大丈夫』って言われるだけだった」

 

 

「……あ」

 

 

 なのはが激怒した理由。自分が言った言葉と過去の辛い体験からくる想い。

 

 

「ルティちゃんが来てくれて、一人で心配することはなくなったけど、そのルティちゃんはこっそりともっと酷いことをしようとしていたんだよ? ううん、多分ルティちゃんにとっては『普通』なんだよね」

 

 

 悲しそうに話す姉を、静かに見上げるルティシア。

 

 

「私の『普通』と、ルティちゃんやフェイトちゃん、ユーノ君やクロノ君達の『普通』はみんな違うんだよね。でも、それでもね、大事な人が怪我をするのは嫌で、それを見ているだけなのも嫌なの」

 

 

 ハッキリと自分の思いを伝える。

 

 

「だから……一人で傷付かないように、みんなが笑っていられるように、みんなで一緒に頑張ろう? みんなで助け合って、誰かを助けられるようになろう?」

 

 

 ルティシアの近くにしゃがんで、なのはが妹の顔を静かに見つめる。

 

 

「わたしも、今までアルフやルティ、なのは達に助けられてきた。そのおかげで、大事なものを取り戻すことが出来た」

 

 

 背後のフェイトもゆっくりと二人の元に歩いてくる。

 

 

 

「だから、今度はわたしが二人の力になる番。二人と一緒に、わたしも進んでいきたい。わたしがわたしであるために」

 

 

 正面と真横にいる大事な人達を何度も見つめ、ルティシアは……これまでの在り方からは変わろうと、拠点で決意したばかりの己の考えを変えようと思う。

 

 

「……分かりました。私も、一人で何かをしようと思わないように……」

 

「「でもね」」

 

 

 二人がそれぞれの空いている手で、ルティシアの肩を力強く掴む。

 

 

「ルティちゃんは、口ではいつも同意するけど」

 

 

「すぐに一人で危ないことをしようとするから」

 

 

「「今までの事も含めて、今日は完全に理解するまで、オハナシしようね?」」

 

 

「え」

 

 

 暗笑を浮かべた二人が異口同音に語る姿に、ルティシアは魔族との戦闘以上の恐怖を感じていた。

 

 

 その後、合流してきたユーノやアルフ、アリシアが見たものは――

 

 

 『一人で危険な何かをしない、命を粗末に扱うようなことをしない、意味があっても自分から怪我をする行いはしない』といった内容の話を、何度も言い聞かせる白と黒の少女と、ひたすら「ごめんなさい」と繰り返す縛られて正座をした少女の姿だった。

 

 

「せっかくフェイト達が来るというサプライズがあったのに、こんなことになるなんて……」

 

 

「ねぇアルフ、二人を止めなくていいの?」

 

 

「良いんじゃないかい? 仲の良い三人の話し合いってやつだよ」

 

 

「アルフ。話し合いというのはそれぞれが話を持ち出す事で、一方的に言われるのはいじ」

 

 

「「ルティ(ちゃん)?」」

 

 

 




 
 
 
 
 
 価値観の相違というものは本当に大きいものです。生活環境その他色々なものが異なると、理解し合うことは難しい事が多々あります。


 お互いに受け入れられる内容か、片方が譲歩するか、はたまた納得させるかはその場その時で違うでしょうが……。


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