魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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はやての口調、難しい。

おかしな部分があれば、教えて下さると助かります。
 
 



2章 A’s編
その48 運命の刻


 

 

 ホームルームを終えると、生徒達は帰りの準備を終えた者から、仲の良い友達と連れだって三々五々に帰っていく。

 

 その中には当然四人娘の姿もある。

 

 

「じゃあ、ルティシアちゃん。後のことはお願いね?」

 

 

「代わりに明日の片付けはあたし達でやるから、その子にも言っておいてね」

 

「居ない所で無茶はダメだよ?」

 

「分かりましたすずか、アリサ。しかし今日は、買い物の荷物持ちと簡単な準備程度しか出来ませんが。それと、姉さん? それははやてですか、私ですか?」

 

「あと! 間違っても、あんたは料理には手を出さないように!」

 

「料理は明日だと思いますが……。それに、私は当分の間料理禁止を言われていますので」

 

 ビシィッ! と、音が出そうな動きで指を差しながら話すアリサに、ルティシアは軽くため息をつきながら答える。

 

「がーっ! ため息つきたいのはこっちよ! 砂糖と天ぷら粉、水とお酢諸々を間違えるわ、大さじいっぱいの所に大瓶いっぱい入れかけるわ……」

 

「新しい味の発見になるかもしれません」

 

「新しい味の前に、死界発見するわ!」

 

「ま……まあまあ、アリサちゃん。とりあえず、ルティシアちゃん、はやてちゃんのことはお願いね? ……お料理以外で」

 

「すずか……あなたもですか」

 

 学校を出て、塾組の三人と別れたルティシアは急ぎ図書館へと向かう。

 

 怪しまれない程度の速度で――しかし呼吸を乱すことなく。通行する人々を避けながら駆けていく反動で、ポニーテールが動きに合わせて上下左右に揺れている。

 

 やがて見えてきた建物……はやてとの待ち合わせ場所である図書館。

 

 そこの出入口でよく見かけるネコに警戒しながら、いつも通り一定以上の距離を保ちつつ、建物内へと入っていく。

 

 鞄から借りていた本を取り出すと、入口に設置されたロッカーに鞄を預けて、本を持って中へ。

 

 カウンターで本を返却すると、閲覧用の席がある方に向かいながら辺りを見渡して、待ち合わせしている人物の姿を探し始める。

 

 目的の人物は、自分やすずかと一緒によく座る席にいた。

 

 その横には、赤い長髪の女の子が腰かけて本を読んでいた。

 

「はやて、お待たせしてごめんなさい」

 

「わたし達もさっき来たばかりやから、気にせんでええよ、ルティシアちゃん。ほら、メーアちゃん。きちんと挨拶」

 

 ルティシアに気が付いたはやてが、隣に座っている女の子の頭に手を置きながら話しかけた。

 

 メーアと呼ばれた女の子は、本から視線を外してルティシアの方を見ると軽く会釈する。

 

「……メーア……です」

 それだけ言って、再び本――騎士道について書かれたやや難しめの本を読み始める子に、はやても苦笑する。

 

「ごめんな、この子人見知りで」

 

「いえ、それは特に気にしませんが。はやてのお友達ですか?」

 

 他の利用者の邪魔にならないようにと、ルティシアも席に座る。

 

「いや、捨て子ちゅうかなんちゅうか……預かっとる子なんや」

 

 そう言いながら難しそうな顔をするはやてに、ルティシアもまた首を傾げる。

 

 

「捨て子と預かりには大きな差があるような……って、私も他人のことは言えませんね」

 

 

 後半は聞こえない様に小声で呟く。自分が高町家にお世話になった状況を思い出しながら。

 

 

「ん? なんか言うた? それでな、家の前で佇んでいたこの子を見つけて、少し前から一緒に暮らしとるんよ」

 

 

「ご両親や住んでいた所は分からないのですか?」

 

 

「それがさっぱり。ほんまはもう一人男の子がおったんやけど、この子を助けると思って数ヶ月だけ預かってほしい言われてな」

 

 

「それで一緒にいるのですか。はやてが何か事件に巻き込まれなければ良いのですが……」

 

 

「わたしのことは大丈夫、ありがとうな。それに、この子もあれこれ手伝ってくれるし、ほんま助かっとる。まあ、高い所は二人とも苦手やけどな」

 

 

 そう言って笑うと、はやては読んでいた本を閉じて、メーアにも声をかける。

 

 

「メーアちゃん、ルティシアちゃんも来たし、そろそろ買い出しに行こか? その本も借りる?」

 

 

「……ううん、いい」

 

 

 メーアが本を置かれていた棚に戻している間に、はやても読んでいた本を戻すために車イスを進める。

 

 

 メーアが使ったままにしている椅子を戻した、ルティシアは二人の様子を確認しながら入口の方に向かっていく。

 

 

 合流した三人は、ロッカーから荷物を取り出すと図書館を後にする。

 

 

「今日は力持ちなお姉ちゃんがいるから、たくさん買い込まんとあかんな! メーアちゃんは、何か食べたいもんある?」

 

 

「……特には。毎日はやてから貰ってる」

 

 

「それは毎日毎食のご飯や! ほら、アレが食べたいとかこれが良いとか、そんなん無い?」

 

 

「……はやてが作るものなら何でも。……好みの味付けされていて美味しい」

 

「力持ちという表現はあれですが、明日使う食材を忘れないで下さいね」

 

 

 メーアの歩く早さに合わせながら、ルティシアが車イスを押していく。

 

 

 図書館を出た際に、近くで丸くなっていたネコから距離をとりながら進む、ルティシア。

 

 

「ルティシアちゃん、まだネコダメなん? かわいいのに」

 

 

「別に、嫌いではありませんよ? 苦手なだけです」

 

 

「ネコタワー、いつかは見てみたいもんやな」

 

 

「いつかタイミングが合えば、見られるかもしれません」

 

 

「……ネコ……タワー?」

 

 

 そう言いながら通りを進んでいく三人の背中を、顔を上げたネコがジッと見つめていた。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「後……どれくらい……ですか……はやて」

 

 

 両手に、目一杯膨らんだビニール袋やマイバックを複数個持ったルティシア。ふらつきはしていないが、その歩みは普段より遅い。

 

 

「もうすぐや、見えてきとる」

 

 

 ルティシアの鞄を膝の上に乗せたはやてが、背後を振り返って答える。

 

 はやての隣を歩くメーアは、小さな袋だけを持ち、背後を振り返ることはしない。

 

 

「それにしても、それ全部持つとは……さすがは力持ちさんやな」

 

 

「普段は……どうしていり……のですか」

 

 

「余りにも重い時には送ってもろとる」

 

 

「今日も……それで……良かったのでは」

 

 

 シレッと言われたことに、持っていた袋の重みが増した感じを受ける。

 

「いや~、ほんま助かったわ。ありがとうな、そのまま台所までよろしくな?」

 

 

「はやて……聞こえていますか?」

 

 

 辿り着いた家、小走りで先に向かったメーアが開けた状態にしている玄関をはやてがくぐり、続いてルティシアがくぐる。

 

 

 二人が入ると、最後に玄関を押さえていたメーアが中へ。

 

 

「ありがとうな、ルティシアちゃん。重かったやろ? 冷たい飲み物出すから、ちょっと待ってな」

 

 

 台所に大量の袋を置いて、両手をついて荒い息をついているルティシアに、はやてが手を合わせてから冷蔵庫を開ける。

 

 

「飲み物は……いいですよ、はやて。どちらかと言えば、最後の最後に重みが増しましたが……」

 

 呼吸を整えながらルティシアが言うと、はやてが冷蔵庫から顔を離しながらルティシアの方に向く。その間に、隙間からメーアが飲み物を取り出し、はやてと自分、二人のコップに注いでいく。

 

 

「ん、大丈夫なん? それなら次も頼んで良さそうやな。……メーアちゃん、飲むのは手洗いうがいを済ませてからやで?」

 

 

「鬼ですか。でも、必要なら言ってください。いつも出来るわけではありませんが……」

 

 

「言ってみただけや、大丈夫。重いのは宅配してもらうし」

 

 

 さて、と言いながら買ってきたものを詰めていくはやて。一部は、ルティシアが場所を確認しながら詰める。

 

 

「こんなもんかな? 明日は、みんなの学校が終わりそうな頃に料理始めるから……」

 

 

「三人から、手伝えることは手伝うから一人でしないように、と」

 

 

「あはは、了解や。まぁ、メーアちゃんもいるから、ある程度はしとく」

 

 

「メーアさん、はやてをしっかり見張って下さいね?」

 

 

「……大丈夫、目を離さない」

 

 

 小さく首肯するメーアにお願いしますと告げて、置かれていた鞄を手に取る。

 

 

「では、今日はこれで帰りますね。また明日来ます」

 

 

「ありがとうな、ルティシアちゃん。また明日、楽しみにしとるで」

 

 

 二人に手を振ってから、家を出るルティシア。

 

 

 出てすぐの塀の上にネコが座り、こちらを見ている事に気が付く。

 

 

「図書館と同じ種類のネコでしょうか? よく似ていますが……。はやてが飼うと言わなかったら良いのですが」

 

 

 警戒しつつも、家路を走っていく。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 その日の深夜、日付が変わる頃に。

 

 

 一軒の家の二階の窓から光が溢れ、振動が家を揺らす。

 

 

 その家の表札には……『八神』と書かれていた。

 

 

「さあ、キミの願いを叶えてあげるよ」

 

 異変が落ち着いた家を見下ろしながら、少年は楽しそうに笑っていた。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 多くの住宅が立ち並ぶ通りを、四人娘を乗せた一台の車が進む。

 

 住宅地ということで速度を落として進む車は、やがて一軒の家の前でゆっくりと停車する。

 

「ここが、はやてちゃんのお家?」

 

「そうよ。……とは言っても、あたしもすずかがはやてを送った時の、一緒に行った一回だけだけどね」

 

「アリサちゃんとなのはちゃんは余り図書館に行かないから、はやてちゃんのお家に行く機会も無いよね」

 

「図書館には二人よりも通っていますが、はやての家に行ったのは私も昨日が初めてです」

 

 学校を終えた後に、一度家に帰った後に着替えと用意を済ませてきた。

 

 それからしばらく、迎えにきた月村家のメイド長ノエルが運転する車に乗り、四人はやての家を訪れていた。

 

 帰りの迎えにくる時間を確認した後、四人を降ろしたノエルは戻っていく。

 

『八神』と書かれた表札が出ている家のインターホンを、四人を代表してすずかが押している間……“それ”に気が付いたルティシアは家を凝視する。

 

「(中の気配が多い……? 全部で……4……6つ。その内2つははやてとメーアさんとして、後の四人は一体……?)」

 

『は~い!』

 

「すずかです。はやてちゃん、みんなで来たよ」

 

『お~、すずかちゃん。みんなも来てくれたんやな。鍵は開いとるから入ってきて~。せやから、みんな友達やから心配せんでもええって……(ブツン)』

 

 はやてからは返事が返ってきたが、インターホンの向こう側で、切れる前に誰かとやりとりをしている声が聞こえた。

 

 はやての家の事情を知っていて、この中では一番仲の良いすずかは一瞬首を傾げるも、門の内側へと入っていく。

 

 そのすずかに、ルティシアはそっと近寄った。

 

「すずか、はやてが最近一緒に暮らしている、メーアという子の事はご存知ですか?」

 

「うん。少し前に、はやてちゃんから『念願の家族が増えました!(仮やけど)』という内容のメールをもらったから。会うのは今日が初めてだけど、物静かで余り自己主張しない子で、ご飯のメニューを決めるのも大変って楽しそうに書かれてたよ。今のやりとりはその子なのかな?」

 

 

「かもしれませんね。(昨日のやりとりからすると、多分違いますね。ということは、すずかも知らない『誰か』ですか。友達でも情報は全てオープンにする必要はないとはいえ、二人の親密さも考えると、送る暇も無いほどの何かが起きた可能性もありますね)」

 

 ルティシアが思考を巡らせている間に、すずかによって玄関が開けられ――。

 

「あ」

 

「ぉぉーー!?」

 

 中で、出迎えるかのように座って待ち構えていたのは、蒼い大型犬。

 

 それを見たすずかが声を漏らし、それを聞いて隙間から覗きこんだアリサは喜びの声を上げる。

 

「はやてちゃん、いつの間に犬を飼い始めたんだろう……?」

 

「い、良い毛並み……モフりたい……! でもこの犬種、何かしら?」

 

 玄関に座ってこちらを見つめる大型犬に、早速二人は夢中になる。

 

 後から中に入ってきた姉妹も、二人に触れられている大型犬に気が付いた。

 

 二人の少女に撫でられて困惑した雰囲気の大型犬だが、後から入ってきた姉妹の方に顔を向けて……ルティシアとなのはの顔を交互に見つめ始める。

 

「わ~……アルフさんみたいだよね、ルティちゃん」

 

「そうですね。犬というよりは、狼に近いように思えます」

 

 普通の犬とは違う容姿や雰囲気に、二人が思い浮かべたのは、主思いのオレンジ色の狼。

 

 狼=アルフというイメージになっているため、一般的な狼とはまた別な存在であることに、二人は気が付いていない。

 

「みんなー? なかなか上がってこんけど、どうかしたん?」

 

 って来ない四人を不思議に思ったのか、奥から車イスに乗ったはやてが姿を見せた。

 

「みんなザフィーラに足止めされてたんやな。まあ、この手触りと毛並みやからしゃあないな」

 

 玄関を一目見て状況を把握したはやては、うんうんと大きく頷いている。

 

「はやてちゃん、この子どうしたの?」

 

 すずかは、アリサに抱きつかれて戸惑っているように見える、大型犬に視線を向けた。

 

 

「あ~……その子はザフィーラちゅう名前でな、昨日ちゅうか今朝方ちゅうか、え~……海外に住んでいるグレアムおじさん――私の保護者の所から来たんよ」

 

 

「確か、海外で忙しくしている方……だよね? 時々手紙のやりとりをしているっていう」

 

「せや。それでな、今回グレアムおじさんの所から、遅うなったけどわたしのためにって、よに……三人来てくれたんよ」

 

「そうなんだ。はやてちゃん、良かったね。もう一人ではないんだね」

 

 知り合ってから二年になるが、一人暮らしでも寂しくないと、いつも言っていたはやて。

 

 しかしすずかは、彼女が本当は寂しく思っていることに気が付いていた。

 

 図書館での語らい、時々すずかの家に招いたりもしていたが、家に帰れば一人になる。

 

 寂しさを一人で閉じ込めていたはやてが、その思いをしなくてもすむようになるのなら、すずかにとっても喜ばしいことである。

 

「でも、一人になってから長いんでしょ? それにしては、かなり時間がかかってない?」

 

 犬に抱き付きながら話を聞いていたアリサが、そんな疑問を口にした。

 

「それは……」

 

「――ごめんなさいね、この国の言葉を覚えるのに手間取ってしまって」

 

 柔らかな声と共に、奥からセミブロンドの女性が姿を見せた。

 

「あ、シャマル」

 

 はやてに名前を呼ばれた女性は小さく頷くと、四人の方に向きながら片頬に手を当てて、困ったように微笑んだ。

 

「この国の言葉は文法や語種、それに表記の仕方とか種類もたくさんあるでしょう? 地方によっても変わってくるから、読み書きも併せて覚えるだけで、もう大変でした」

 

「確かに複雑ではありますね。ひらがなにカタカナ、漢字。謙譲語や尊敬語といったものも数多い」

 

「うう、わたしも国語は苦手……」

 

 シャマルと呼ばれた女性が小さくため息をつくと、姉妹もそれぞれの経験から同意を示す。

 

 テストや宿題を思い出したなのはは、顔をしかめる始末。

 

 

「あ、ほらほらみんな上がって! 他のみんなも紹介したいし、残りの仕上げもしてほしいんや」

 

 話は後でと、パンパンと手を叩いたはやてがシャマルに押されて奥に移動を始めると、ザフィーラもゆっくりと腰を上げて後を追い始めた。

 

 四人も靴を脱いで揃えると、先に行った者達の後に続く。

 

「メーア、これはこっちで良いのか?」

 

 

「だーっ! メーア! お前も飾り付け手伝えよ!」

 

「……合っていますシグナムさん。ヴィータ、私は盛り付け作業がある。あなた達に任せたら、今からの大事なひとときが悲劇になる。お昼ご飯の時みたいに」

 

「昼のあれはシャマルだけだろ!」

 

「……良いから、口じゃなく手を動かして。今日ははやてが九歳になった大切な日。そして、あなた達のおかげで、良い思い出を作る最良の日にもなる。だから……」

 

「だから?」

 

「……早く手を動かして」

 

「お前に指図されるいわれはねーっ!」

 

「こら、ヴィータ! 主の命令だ。主が戻られる前に、少しでも進めるんだ」

 

 台所に面したリビングの中は、混沌とした戦場と化していた。

 

 シグナムと呼ばれた、高い位置の飾り付けをしているピンクの髪をポニーテールにした、長身の女性。凛々しく、どこか武人と思わせる雰囲気がある。

 

 足場を使って別の場所の飾り付けをしているのは、四人娘やはやてとも余り年格好が変わらない様に見える少女。赤い髪を左右で三つ編みにしたヴィータという名の少女は、手を止めては台所にいる少女に向かって怒鳴る。

 

 

 その相手、台所にいる赤い長髪の少女――メーアは、手を止めず振り向きもせず、言葉を返す。

 

「あかん……」

 

 その惨状を見て、思わずはやては頭を抱える。

 

 台所はまだしも、はやてが席を外した数分の間に、リビングは台風が吹き荒れたかのような状態となっていた。

 

 料理の盛り付けも、『頑張った』成果に相応しいものではあるが。

 

 その様子にシャマルは困ったように笑い、四人娘も唖然としていた。

 

「あ~……みんな、悪いけどそれぞれ手伝ってくれへん? まだ残っている料理と、リビング周りで」

 

 はやては数回頭を左右に振ると、現実と戦うために気合いを入れ直し、四人に手を合わせた。

 

「じゃあ、わたしは料理の方を手伝うよ」

 

「私もお料理かな」

 

 なのはとすずかが、そう言うと荷物を置き、台所に向かう。

 

 

「じゃ、あたし達は飾り付けと片付けね。あんたは台所禁止よ?」

 

「分かっています」

 

 リビングに二人が向かうと、先に居た二人が一瞬警戒の眼差しを向けてきた。

 

「何だ、お前達は?」

 

「ヴィータ! 主が仰っていたご友人達だろう」

 

 ヴィータからのいきなりな言葉に、すぐさまアリサのボルテージが上がりかけたが、シグナムの制止を受けて発しかけた言葉を堪えた。

 

 ヴィータの方も、プイッと顔を反らして作業に戻る。

 

 シグナムはリビングの二人と、三人で賑やかにお喋りしている台所の方に視線を向ける。

 

「シャマルも台所の方を頼む。ザフィーラも主の近くへ」

 

「ああ……ワンコが離れていく……」

 

 リビングの隅で丸くなっていたザフィーラが台所に向かうと、それにアリサが悲しそうに呟く。

 

「では、すまないが二人はこちらを手伝ってくれないか? 主の指示とはいえ、我々はこういったことは苦手でな」

 

「はい、はやてにも頼まれていますから。アリサも、いつまでも見ていないで、作業に入りましょう」

 

「……仕方ないわね。早く終わらせて、モフらせてもらうわ」

 

「どれだけ気に入ったのですか……私も後で触らせてもらいましょう」

 

「あんたね……って、犬は平気なの?」

 

「大型の、ハスキー犬は特にですが。それと、ネコも嫌いではありませんよ? タワーで苦手になっただけで」

 

「それにしては、うちに来ないわね。犬はいっぱいいるわよ?」

 

「犬は好きですが、犬タワーはちょっと……」

 

 喋りながらも、二人は片付けと飾り付けを始める。

 

 それから時間が経ち、リビングや台所のテーブルの上には、所狭しと様々な料理が並ぶ。

 

 リビングのテーブル周りにははやてと四人娘、ヴィータとザフィーラが集まり、台所のテーブルにシグナムとシャマル、メーアが座っている。

 

 それぞれの前に置かれたケーキ。ただ、置かれている種類は異なるが。

 

 はやて達=八神家の面々の前に置かれているのは、ホールで買われたイチゴのケーキをカットしたもの。はやての前にあるのは、やや大きめにカットされ蝋燭が九本立っている。

 

 四人娘の前には、あらかじめ聞いていた各自の好みのものが置かれている。

 

 はやて以外の八神家のメンバーは、自分の前に置かれたケーキに首を傾げていた。

 

「主、我々と彼女達で違うようですが」

 

「いや、それでええんや」

 

 代表して問いかけたシグナムに、はやてが笑みを向けると咳払いをする。

 

「え~……それでは準備終えた所で、わたしの九歳の誕生日と、家族の誕生日会を始めたいと思います!」

 

 はやての宣言に四人娘はすぐさま、それから遅れて戸惑い気味に拍手をする、はやて以外の八神家のメンバー。

 

「まずは……メンバー紹介やな! シグナムにシャマル、メーア」

 

 

 話を振られたシグナムは戸惑いつつ、シャマルは慌てながらも頭を下げて、メーアも静かに小さく頭を下げる。

 

「それにヴィータにザフィーラ」

 

 ヴィータは顔をプイと背けて、ザフィーラは尻尾を一振り。

 

 ヴィータの態度に、やはりムッとするアリサだったが、その後のザフィーラのそれを見てすぐに態度を和らげた。

 

「次は明かりを消して、蝋燭消しいこか! あ、みんなは打ち合わせ通りお願いな?」

 

 はやてのイタズラを思い付いたような顔に、頷いたのは四人娘。

 

 はやてが蝋燭に火を灯し始めると、ルティシアは席を立ってカーテンを閉め、すずかが明かりを消しに行く。

 

 薄暗くなり蝋燭の明かりだけとなった室内で、シグナムとヴィータが立ち上がりかけたが、すぐにまた腰を下ろした。

 

 静まりかえった室内。

 

 それを破ったのは、あの歌であった。

 

「「せーの、Happy Birthday to you!」」

 

 すずかとアリサが声を揃えて。

 

「「Happy Birthday to you」」

 

 続いたのはなのはと、やや硬いルティシアの声。

 

「「「「Happy Birthday dear はやて!」」」」

 

 四人娘から友達へ。

 

「Happy Birthday dear my family !」

 

 はやてから『家族』へ。

 

「Happy Birthday to you!!」

 

 最後は五人で。

 

 蝋燭の灯をはやてが一気に吹き消し、室内には割れんばかりの拍手。

 

 カーテンが開けられ、室内の照明も光を取り戻す。

 

「ではでは、晩御飯にしよか! 今夜はみんな、無礼講や!」

 

 それに合わせて、いただきます! と声を揃える。

 

 はやての周りでは、すぐにお喋りの華が咲く。

 

 仲良しのはやてとすずかがメインで喋り、それになのはとアリサが加わり、話を振られた時にはルティシアも答え、合間にぶっきらぼうな言葉を返したヴィータとアリサが舌戦を繰り広ると、他のものが二人を宥める。

 

 しかし剣呑といった様子はなく、あくまでも笑える範囲で。

 

 その横では、ケーキと肉のどちらから食べるか悩むザフィーラの姿もある。

 

 リビングのそんな光景を眺めながら、困惑している者が二人。

 

 シグナムとシャマル。ケーキの皿を手に取ってはいるものの、まだ食べ始めてはいない。

 

「我々はこのままでいいのだろうか?」

 

 シグナムがポツリと呟いた。

 

「闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士……ヴォルケンリッターたる我等が」

 

「でも、主のはやてちゃんは蒐集を望んでいないわ。私達に家族として一緒にいてほしいと命令……いえ、お願いしてきたのよ?」

 

 苦悩する守護騎士のリーダー“剣の騎士”シグナムに、“湖の騎士”シャマルが答える。

 

「今までの主とは全く違う主……か」

 

 闇の書。白紙のページで出来た書物。

 

 魔導師が持つ魔法を使うための器官、リンカーコアを集め――蒐集することで白紙は埋まっていく。全てのページが埋まった時、主には大いなる力が与えられるという、魔導書。

 

 蒐集……と言っても、過剰に集めれば命に関わるため、自分からリンカーコアを差し出す者いない。

 

 よって、襲撃し奪うことになるのだが……。

 

「大いなる力なんていらない、人様に迷惑をかけてまで欲しいものも無い……か」

 

 そんなことをせんでええから、家族として一緒にいてほしい。

 

 自分達の事を説明し、蒐集を命じるように進言した際、主である少女から言われたこと。

 

「難しいわ……」

 

「今までの主は、我々を道具の様に扱うだけだったからな。服や食事の世話を焼く主など、今まで居なかった」

 

 思念通話を始め、魔法そのものには反応を示していたため、そういったものに全く興味がないというわけでも無いようだが……。

 

「しばらくは様子見、か」

 

「そうね。今は……はやてちゃんのお願いを叶えないと」

 

 主が望まないなら蒐集は行わない、それが現在の彼女達が出した結論。

 

 ようやく食事を始めた二人やリビングの賑やかな様子を、ほくそ笑みながらジッと見つめる、赤い瞳があった……

 

 




 
 
「さあ、キミの願いを叶えてあげるよ」


 異変が落ち着いた家を見下ろしながら、少年は楽しそうに笑っていた。 
 
 
 
(作者):A’s編の一番の強敵ははやての口調……。

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