魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その50 狂思凶刃 前編

 圧倒的な強さを見せつけて、クラスマッチを二位を大きく引き離しての優勝で飾り、夏休みも間近に迫った七月のある日。

 

 

「特等、大当たり---っ!!」

 

 

 商店街にベルの賑やかな音と、それを半ば打ち消す様な係員の若い男の声が響き渡った。

 

 

 近くに居た通行人の人々が、引き当てた幸運な者を一目見ようと集まってきた。

 

 

「ウソ……?」

 

 

 引き当てた幸運な者……車椅子に乗った少女、はやてが呆然と呟く。

 

 

「ウソじゃねーって! 大当たりだぞ、はやて!」

 

 

「はやて、凄い」

 

 

 はやての左右に立つ赤い髪の二人の少女……左右を三つ編みにした少女は興奮しながら、ストレートに伸ばした少女は静かに、はやてを賞賛している。

 

 

 ヴィータのおやつを、メーアが買いに行った際に貰った一枚の福引券。

 

 

 手渡されたそれを使いに三人で早速訪れたのだが……

 

 

「え、これ夢やないん? ほんまに特等?」

 

 

 引き当てた事が信じられないはやての両頬を、左右から手を伸ばした二人の少女がつねる。

 

 

「いたっ! 夢やないんや……」

 

 

 ようやく実感したのか、喜びが溢れてきたはやてに大きな封筒を持った係員のお姉さんが近寄ってきた。

 

 

「はい、どうぞ。特等の温泉旅行六名様、十四日間ご招待!」

 

 

 差し出されたそれを受け取り、大事そうに胸に抱き締める。

 

 

「六名か……人数的にも丁度ええし、日数が長めやけどみんな揃っての初めての旅行やし、のんびりするにはええかもしれんな」

 

 

「……それにゆっくり出来るなら、はやても時間を気にせず散策が出来る」

 

 

「早く帰って準備しよう、はやて!」

 

 

「ちょ、ヴィータ! そんな急がんでも大丈夫やって……! すみません、ありがとうございます」

 

 

 いつも対称的な二人に苦笑しつつも、係員の二人にはやては深々と頭を下げる。

 

 

「ふふ、賑やかね。楽しんできてね?」

 

 

 はやての目線の高さに屈みながらにこやかに手を振るお姉さんに、はやても笑みを浮かべる。

 

 

「はい!」

 

 

 車椅子を走って押しそうなヴィータをメーアが咎め、いつもの言い合いをしながら三人が雑踏に消えていく。

 

 

 集まっていた見物人の人々も三々五々に散っていく。

 

 

「ふふ、そういう役も案外似合うんじゃなくて?」

 

 長い黒髪をいじりながらどこか妖艶な雰囲気を醸し出した係員のお姉さんが、隣に立つ青白い色の短髪をした男に話しかける。

 

 

 男はそれに睨むかのような視線で応える。

 

 

「あら、怖い怖い」

 

 

「バカめ……大体、何故こんな茶番を私がしなくてはならんのだ」

 

 

「他に出来る者がいないから仕方ないでしょう? 私だってやりたくないわ」

 

 

「その割には興にのっていた気がするがな」

 

 

「ふふ、するからには多生なりと楽しまないと」

 

 

 それに答える事をせず、男が宙を見上げる。

 

 

 男の額の、小さく縦に入った線が微かに震え始める。まるで、左右に開くかのように。

 

 

「合図があり次第、行動を開始する。貴様も遊び過ぎないようにな」

 

 

「はいはい、可愛い子達のお相手をしてあげればいいのね」

 

 

 クスクスと笑い声を上げる女に構わず、男の体が少しずつ浮かび上がっていく。

 

 

「永い……永劫にも思える光と闇の茶番劇。その幕をまた上げるとしよう。……あのお方に、あの者にまた会える日が来るまで。この役目が永遠に終わる時まで」

 

 

「あら結構感傷的ね。でも、私はこの世界の人間達に復讐するためにも復活して貰わないと困るわ。この世界は、余りにも多くの精霊達が失われているのだから」

 

 

 女の瞳には狂気の光が宿り、妖しく輝く。

 

 

 やがて、二人と抽選所がまとめて消え去っていくが、人々は一切騒ぎを起こさなかった。

 

 

 まるで、最初からそこには何も無かったかのように、路地裏が広がっていた。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 桜色の魔力の弾と金色の雷の矢が、お互いを相殺仕合う。

 

 

 空中には白と黒、二人の魔導師の姿。一方はゆっくり舞うような動きで、一方は疾風の様に駆け抜ける。

 

 

 その背にある濃紺と黒、二色のマントが二人の動きに、または風に煽られ夏の空にはためいていた。

 

 

「さすがはフェイトちゃん! さらに速く、射撃も鋭くなってる……!」

 

 

「なのはも、魔力のコントロールが格段に上手くなってる。並の魔法では、もうその防御は貫けない」

 

 

 模擬戦中の二人は実に楽しそうな雰囲気だった。

 

 

 取り合いでも、争うことでも無く、ただ純粋に互いの力を確かめ合い、そして高め合う。

 

 

 互いに満たされる時間。

 

 

 視線を交わし、同時に笑みを浮かべる。

 

「いくよ、レイジングハート!」

 

 

《all light !》

 

 

 左手に持った杖……射撃モードのレイジングハートを高々と掲げると、無数の桜色の小さな光球が生まれる。

 

 

 夜空に浮かぶ星の様に、弱く強く光を放つ。

 

 

「バルディッシュ、かわしたら一気にいくよ」

 

 

《yes sir !》

 

 

 三日月状の光の刃を放つバルディッシュを両手で持ち、腰だめに構える。

 

 

 その遥か下、地上でも四つの影がぶつかり合っていた。

 

 

 黒い戦闘下衣で覆われた身体に、部分的に深紅のプロテクターを身に付けたルティシア。

 

 

 元々使っていた装備の為に転移した時に基本となるサイズが合わなくなっていたが、特殊な加工故に拠点で何とか調節し続けた結果、まだ全てでは無いが徐々に使える部位が増えてきた。

 

 

 前回使用時の胸周り・腰周りの他に、両腕の指から肘まで、肩、足首から膝まで。

 

 

 聖衣の修復を終える迄に調整が終われば良いため、空いた時間に行う程度にしかしておらず、装甲が厚目の左手部分も今は右手と同じ程度になっている。

 

 

 ルティシアと背中合わせに立つアルフは、普段と変わらぬラフな格好をしていた。

 

 

「気のせいかもしれないけどさ」

 

 

「どうかしましたか、アルフ?」

 

 

 それぞれの前に立つ相手を見据えながら、背中越しに会話を交わす。

 

 

「あたしとあれの相性、悪くないかい?」

 

 

「そういう気はします」

 

 

 アルフの前、人型で仁王立ちし黄金の闘気を立ち上らせる黄金の聖衣。頭部の二本の角の内、片方が欠けている牡牛座の黄金聖衣――タウラス。

 

 

「逆にこちらは打ち合いですが」

 

 

「どっちもどっちだね……」

 

 

 ルティシアの前、最も多く纏っている黄金聖衣。黄金の闘気を放ちながら構えをとる、獅子座の黄金聖衣――レオ。

 

 

「これを期に、苦手な射撃魔法を練習しても良いのでは?」

 

 

「あたしはなのはと違って、殴る方が……好きなんだよ!」

 

 

 背中を合わせながら反転し、スイッチした相手へと。

 

 

 駆け出すと同時に、雷撃が二人の立っていた場所に突き刺さる。

 

 

 十メートルの距離を一気に詰めて、一際大きな打撃音と共に大気が震え、二つの衝撃地点から巻き起こった風が辺りを優しく薙いだ。

 

 

 二ヶ所で行われている戦いから少し離れた場所で、座り込んでいる二人の姿があった。

 

「みんな楽しそうだよね~」

 

 

「ほら、気をそらさないで」

 

 

「うう……」

 

 

 魔法の練習中のアリシアと、教師役を務めるユーノ。

 

 

「ユーノお兄ちゃん、ちょっとだけ休憩しない?」

 

 

 両手を合わせて頼むアリシアだが、ユーノは首を左右に振る。

 

 

「駄目だよ。さっきから休憩ばかりだし」

 

 

「え~」

 

 

「プレシアさんやリニスさんからも頼まれているしね。二人が見れない間はボクが頑張らないと」

 

 

「私は研究職に進む……!」

 

 

「頑張って。それで次は……」

 

 

 あらぬ方を向いて拳を握るアリシアをサラッと流しながら、続きの説明を始めるユーノ。

 

 

「鬼~、悪魔~、冥魔~!」

 

 

「それはなのは……って、ルティシアが言ってた」

 

 

 文句を言いながらも、ユーノの説明を受けて練習を再開するアリシア。

 

 水色の淡い光が生まれ、アリシアの金髪をサラサラと揺らす。

 

 

 近くで、遠くで、爆音が響き渡る。

 

 

 結界が解かれ、鍛練を終えた六人がいつもの山を下り始めていた。

 

 

「ひどいよなのは。こっちにまで飛ばしてくるなんて」

 

 

「ご、ごめんユーノ君。フェイトちゃんの鎌を避けるのに必死で、制御から外れちゃって」

 

 

 フェレット姿になり、いつも通りなのはの肩に乗ったユーノに、なのはが頭を下げる。

 

 

 途中、飛んできたなのはのシューターに狙われたユーノ。たまたま気が付いて防御魔法が間に合って事なきを得たが、もし直撃を受けていたり、アリシアが受けていれば非殺傷とはいえ気を失っていたかもしれなかった。

 

 

 それが分かっているため、なのはも素直に謝る。

 

 

「姉さん、私の方にも何度か飛んで来ていたのですが……」

 

 

「ごめんねルティちゃん。レボリューションが何故かそっちに行っちゃったね」

 

 

「わたしに来るかと思ったのに、真っ直ぐ下に向かって行ったから、何かあったのかと思ったよ」

 

 

「あ、あはは……」

 

 

 ルティシアとフェイトの話を、なのはは明後日の方を向いて笑って誤魔化す。

 

 

「あ、そういえば……なのは、ルティ、ユーノ」

 

 

「ふぇ? 何、フェイトちゃん?」

 

 

「今日泊まりにくる? リニスも今日は帰ってくるし、先週は私達が泊まったから」

 

 

「あ、うんうん! 行きたい!」

 

 

 フェイトからのお誘いになのはは喜色満面、二つ返事で頷いていた。

 

 

「ルティとユーノは?」

 

 

「私も特に問題ありません」

 

 

「ボクはやめておくよ」

 

 

 少し考えた後に頷いたルティシアと、苦笑しながら辞退を申し出るユーノ。

 

 

「え~、ユーノ君も行こうよ」

 

 

 不満そうななのはに、フェイトやアリシアも頷いている。

 

 

「さすがに女性ばかりの所は無理だよ。何かあったら、ルティシアに針を撃ち込まれるし……」

 

 

「針……?」

 

 

「どうしてルティお姉ちゃんに?」

 

 

 首を傾げているテスタロッサ姉妹。

 

 

「ボクも男だから、女性ばかりの所はちょっと……」

 

 

「そういえば、ユーノお兄ちゃんも男だったね。フェレットの姿ばかりだから忘れちゃってた」

 

 

「って、アリシアにはさっき人間の姿で説明したじゃないか!」

 

 

 あはは~と笑っているアリシアに、ツッコミを 入れるユーノ。

 

 

「よし、次の機会にはもっと厳しくいくね」

 

 

「あわわ、ユーノお兄ちゃんは充分男らしいよ」

 

 

 慌ててフォローするアリシアだが、ユーノはそっぽを向いて聞こえないふり。

 

 

 そんな二人のやりとりを聞きながら、フェイトは念話でリニスと連絡をとっていた。

 

 

 自然の山道から徐々に人工の道へと替わる頃に、フェイトは念話を終えた。

 

 

「二人が来ることは伝えておいたから、準備が出来たら呼んで。わたしも部屋の片付けをしてくる。アリシアが広げたものばかりだけど」

 

 

「うん! 後からになっちゃったけど、翠屋でお父さん達に伝えてくるね」

 

 

「先に聞いておくべきでしたね、携帯電話もあるのですし」

 

 

「ルティちゃん、メールを送っても返事が来ないってアリサちゃんが怒ってたよ?」

 

 

「ほぼ毎日顔を合わせているじゃないですか……。夏休みに入ったら、返信するようにします」

 

 

「……と、言ってるよアリサちゃん……送・信」

 

 

「姉さん、私の携帯が矢の催促みたいに振動しているのですが」

 

 

「どういう意味だっけ?」

 

 

「辞書を引いて下さい」

 

 

 二人のやりとりを聞きながら、フェイトがポツリと呟いた。

 

 

 

「わたしやアリシアも携帯電話を持った方がいい?」

 

 

「あ、二人が持つとアリサちゃんやすずかちゃんも喜ぶよ」

 

 

「そうですね。そういえば、はやても持ちたがっていましたか」

 

 

「今、はやてちゃん旅行中だっけ?」

 

 

「はい。温泉旅行が当たって家族旅行や、と喜んでいました」

 

 

「ねぇルティ、それずっと震えてない?」

 

 

「何通送られて来ているのでしょうか……。中身は見なくても分かりそうですが」

 

 

 未開封メールが、この短時間に30を越えている事に、ルティシアは深い溜め息をつく。

 

 

「今度、みんなで選ぼうね」

 

 

「うん。母さんに聞いておくね」

 

 

「お母さんならきっと大丈夫だよ。可愛いの選ぼう~っと!」

 

 

「あ、ルティシア」

 

 

 既に買うことが前提で皮算用を始めたアリシアを見つめていた一同、ユーノがルティシアを見る。

 

 

「クロノ経由でリンディさんがキミを呼んでいるみたい。すぐ終わるから来てほしいそうだよ?」

 

「リンディさんが、ですか?」

 

 

 ルティシアがリンディがいる場所を考えて首を傾げる。

 

 

「アースラは整備中ですし、リンディさんは時空管理局の本局ですよね?」

 

 

「うん」

 

 

 プレシアがいる場所故に、裁判の関係もありリンディと会うことも多く本局には度々訪れているフェイトが頷いている。

 

 

「キミが考えている事も分かるが、こちらにも考えがあるから出来れば来てほしいってクロノが」

 

 

「リンディさんやクロノでしたら大丈夫と思いますし、分かりました」

 

 

「ボクもクロノに呼ばれているから一緒に行くよ」

 

 

「あ、じゃあ私もいく~! 私用のデバイスもそろそろ完成らしいから」

 

 

「じゃあ、わたしの家から跳ぶ?」

 

 

「お願いします、フェイト」

 

 

 翠屋とフェイト達が暮らすマンションとの分かれ道までやってくる。

 

 

「じゃあ、翠屋の後でルティちゃんの荷物も持っていくね」

 

 

「すみません、姉さん」

 

 

「気にしなくて大丈夫だから。リンディさんやクロノ君、エイミィさんによろしくね」

 

 

「はい」

 

 

「あ、それならあたしがなのはと一緒に行くよ。マンションまで案内も出来るしね」

 

 

「そうだね。お願い、アルフ」

 

 

 ん、と頷いてなのはと共にアルフが翠屋への道を歩いていく。

 

 

 それを少しの間見送って、四人も歩き始める。

 

 

 見つめている視線に誰も気が付くことなく――

 

 

 その刻が迫っていた。 

 

 

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