魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その51 狂思凶刃 中編

「あっちに残っているのは四人だっけか?」

 

 

「ええ、そうよ。我等が神の復活を信じて、私達が帰還するまで国を守っているわ」

 

 

 通常とは異なる切り離された空間の中に浮かび、『その様子』をジッと見つめている一つの影。

 

 

 ただ声は二つ。高慢そうな女の声と、粘っこい男の声。

 

 

「我等が神……ねぇ」

 

 

「あら、何か?」

 

 

 疑わしそうな声音で愉しげな男に、女も笑みを含めた楽しそうな態度を取る。

 

 

「い~や、何でもねぇよ。にしても、難儀な世界だよな」

 

 

「馬鹿みたいに広大な世界、強大な旧勢力に日夜沸いて出る新たな実力者達……それに連なる勢力によって繰り広げられる利権・勢力争い。陰謀術数が跳梁跋扈する」

 

 

「統一なんて出来そうもない混沌とした世界。それでも、力を求め数多の世界に手を出すことを止める事はしねぇ。得るか、滅ぶかの二択でな」

 

 

「統一出来れば、きがねなくあらゆる次元の世界に手が出せるようになる。そりゃあ、必死になるわよね。今は帰還時を気にしながら行くか、闘争に敗れた者、ナ・カ・マが信頼出来る者しか跳べないもの」

 

 

 押し殺したかのような二つの含み笑いは、やがて哄笑へと変わる。

 

 

「ひゃーはっは、統一した、その瞬間から裏切りの日々が始まるだろうぜ!」

 

 

「オーホッホ、終わりの無い闘争の世界、そんなの解りきっている事じゃない。そんなことに無駄な時間を使うなら、有意義な活用をしないと」

 

 

「おいおい、俺達はナ・カ・マに信頼されて来てるんだぜ? その前にやることをやらねぇとなぁ」

 

 

 女をたしなめる様に言う男は、どこか胡散臭く……

 

 

「ええ、そうね。キ・タ・イには応えてあげないと、ね?」

 

 

 女もまた、悪戯めいた言葉で返す。

 

 

「……さて、本国を守っているのは四人。『こっち』に来てるのは八人だったよなぁ」

 

 

 暫しの間を置いて、男が今までのふざけていた口調から、真面目なそれに変わる。

 

 

「ええ。ただ内三人は倒され、一人は玩具の世界に潜入中、一人は鍵の近くで監視中よ」

 

 

 仲間らしき者が倒れたという内容でも、女の声音には特に変化は無い。まるで、どうでもいいことのように。

 

 

「まあ、倒れた中の二人はもう再生するがな。そして、我等がリーダーは遥か遠方の地で別行動中。……おや、困ったぞ? 俺達の頑張りを見る奴が居ないじゃないか」

 

 

 

「あらあら、残念だこと。でも結果があれば良いわね? 経過よりも」

 

 

「そうだな。我等が神の為に手段は選んでいられない。大事なのは結果だ」

 

 

 二人はどこか芝居がかったやりとりを行い…… 

 

     ※ ※ ※

 

 

「荷物はこれで全部かい?」

 

 

 家の中には入らずに外で待っていたアルフは、出てきたなのはから手提げ鞄を受け取る。

 

 

「はい。もう私とルティちゃんの着替えと、洗面道具だけにしました。後は、翠屋で買ったシュークリームです」

 

 

「てっきり、あれもこれもと詰め込んで、鞄がパンパンになるかと思ってたんだけどね~」

 

 

 並んでゆっくり歩きながら、予想が外れたよと話すアルフになのはは恥ずかしそうに笑う。

 

 

「あはは、フェイトちゃんからのお呼ばれに緊張しちゃって、それどころじゃなかったかも……」

 

 

 遊び道具とか携帯電話のカタログでも持っていこうと家に帰るまでは考えていたが、結局は着替えと洗面道具を入れるだけで他のモノにまで気が回らなかった。

 

 

「ルティちゃんのガンビットにゲームが入っていたから、遊び道具はそれとして……」

 

 

「ガンビットって武器じゃなかったっけ? 色々便利な機能もあるみたいだけど」

 

 

「はい、多機能らしく色々あるみたいで、その中にゲームもありました。サッカーとかドッジボールとか、複数人で遊べるボードゲームやパーティーゲームに……」

 

 

「何でそんなものが内蔵されて……ああ、いやあのAIを作った所ならあり得そうだね」

 

 

 なのはの話を聞いて訝しげな顔をするアルフだったが、知人(?)である某拠点のシステムを思い出して思わず納得した。

 

 

「あ、ルティちゃん用のスカートを持ってくるのを忘れてた……」

 

 

「ん、スカート?」

 

 

 着替えは入れたと言っていたような、とアルフが聞き返すとなのはは残念そうに首肯する。

 

 

「ルティちゃん、いつもズボンばかりだからたまにはスカートもいいかなって思いまして。私が言っても滅多に履いてくれないけど、フェイトちゃんやアリシアちゃんなら……と」

 

 

「ああ、確かにスカートは無かったね。ズボンとかそういう感じのしか」

 

 

「あれ? アルフさん家に入ったことありましたっけ?」

 

 

「あ……いやいや、外で会った時の話だよ!? なのはと同じ制服姿かズボン、戦闘着ばかりだからさ」

 

 

 首を傾げるなのはに、アルフは慌てて補足する。

 

 

「そういえば、ジュエルシード探しの時もそうでしたね」

 

 

 もちろん、アルフが見ていたのは高町家ではなく拠点の中である。何となくフェイトの着替え用に冗談半分で聞いてみたら、あのシステムは壁の一部をスライドさせて服を展示して見せた。

 

 

 誰が用意したものか、似たり寄ったりな服ばかりではあったが……。

 

 

「いつまであそこを秘密に出来るやら……」

 

 

「何か言いましたか、アルフさん?」

 

 

「何でもないよ。それにしても、何であたしには丁寧語なんだい? 普通でいいよ?」

 

 

 今まで二人きりになったことは勿論無いが、過去に数回話をした時もこの話し方をされて違和感……というよりはむず痒さを感じていた。

 

 

 不思議そうにアルフに言われたなのはは戸惑いの表情を見せる。

 

 

「む、難しいかも……美由希お姉ちゃんと同じ歳みたいに見えるから」

 

 

「そんなものかね~? フェイトの魔力節約のために、子供の姿にでもなってみようかな」

 

 

「あ、ユーノ君から聞きました。使い魔は普段から主人の魔力を消費し続けてるって」

 

 

「そうだよ。それにあたしとかリニスは消費する魔力も大きいらしいしね。フェイトも普段は学校で居ないから、節約も兼ねて考えるのもいいん……」

 

 

「? アルフさん?」

 

 

 急に足を止めたアルフの顔を怪訝そうな顔でなのはは見上げ、その警戒するような表情を見て慌てて周りを見渡す。

 

 

 その手には赤い宝石……待機モードのレイジングハートが握られている。

 

 

 待つこと暫し……。

 

 

 アルフが勢いよく背後に振り向き、なのはもそれに併せて振り返る。

 

 

 振り返った二人から数メートル離れた位置に一人の女性が立っていた。

 

 

 妖艶な雰囲気を纏わせたその女は、酷薄な笑みを浮かべて二人を見つめていた。

 

 

 その長い黒髪は、風も無いのに不自然に揺らめいている。

 

 

「何だい、あんたは?」

 

 

 警戒感も露にアルフが尋ねると、女はクスクスと楽しそうな笑い声を洩らす。

 

 

 それを聞いて、ますますアルフの表情は険しくなる。

 

 

「まあ、怖い。ちょっとあなた達に手伝ってほしいことがあるのよ。具体的には、ヒトダスケ?」

 

 

 からかう様な話し方に、なのはもまた警戒感に表情を引き締める。

 

 

「ヒトダスケって何でしょうか?」

 

 

「あらあら、可愛い顔が台無しよ? ヒトダスケっていうのは、あなた達の力である子を助けてほしいのよ」

 

 

 なのはの問いに女は楽しそうに答える。

 

 

 その黒い瞳に、狂気の光を灯して――

 

 

「あなた達のマナを使ってね!」

 

 

 周りが荒廃した世界に変わり、頭上に蒼い月が浮かぶ。

 

 

「月匣……だったね。ということは、あんたも魔族とやらかい!?」

 

 

 なのはを抱えて後方へと跳び、女から大きく距離をとるアルフ。

 

 

「ふふ、可愛い子に免じて教えてあげる。破壊神の円卓の騎士が一人、アーギルシャイア。覚えておいてね」

 

 

 両サイドに、深いスリットが入った黒いローブを纏い女……アーギルシャイアと名乗った女は一礼する。構えてもいない状態で、目に映る程の魔力が立ち上る。

 

 

「円卓の何とか……プレシアにとり憑いていた徒労男の仲間かい!!」

 

 

「仲間? ……ええ、そうよ。そう、あなた達だったのね」

 

 

 離れた位置で構えるアルフをアーギルシャイアは興味深げに見つめ、やがてクスクスと笑い出す。

 

 

「何だい!?」

 

 

 急に笑い出した女に、苛立たしげにアルフが怒鳴りつける。

 

 

「ふふ、ごめんなさいね。あの二人をあなた達二人だけで倒せる筈は無いから、他にも仲間……恐らくあの子達として……時期的に計算が合わないわね。こちらの一人を倒した、把握出来ていないものがまだいる? ということは、そのもの達も良いマナを持っていそうね……」

 

 

「何をゴチャゴチャ言ってんだい! あんた達にはさんざんあたし達を引っ掻き回してくれた恨みがあるからね! 全部ぶつけさせて貰うよ!」

 

 

 持っていた鞄をなのはに持たせると、アルフは耳元でそっと囁く。

 

 

「なのはは出来るだけ安全な所へ」

 

 

「えっ!? アルフさん、私も一緒に……」

 

 

 囁かれた一言になのはが言い返すも、アルフは小さく首を左右に振る。

 

 

「あんたはさっきの模擬戦で魔力をだいぶん消耗してるだろ? あたしも消耗してるけどさ、まだ戦えるだけの力は残ってる」

 

 

「大丈夫、まだまだ出来ます! ね、レイジングハート?」

 

 

《of course》

 

 

 疲れを見せることなく言い切るなのはと、持ち主同様にやる気を見せるデバイス。

 

 

 全く引く気の無い少女に、自分の主人の姿が重なって見えてアルフは軽く溜め息をつく。

 

 

「ルティシアやユーノも苦労していそうだね」

 

 

「どういう意味ですか、アルフさん?」

 

 

 笑顔の少女に、視線を合わせないように何でもないと答え、アーギルシャイアに向き直る。

 

 

「攻撃して来ないのは意外だね」

 

 

「あら、無抵抗な相手をいたぶるのもいいけど、抵抗するものを少しずつ無力化するのも楽しいわよ?」

 

 

 言葉通り、笑みすら浮かべ楽しそうに話す。

 

 

 子供が玩具で遊ぶかのように。

 

 

「やっぱりあの徒労男と同じで、悪趣味なんだよ!」

 

 

 アルフが殴りかかると同時に、なのははレイジングハートを高く掲げる。

 

 

「レイジングハート、セーットアーップ!」

 

 

《stand by ready. set up》

 

 

 溢れる桜色の光に包まれる中、着ていた衣服と持っていた鞄が消え……バリアジャケットと濃紺色のマントを身に纏う。

 

 突進してきたアルフを目の前にしても、アーギルシャイアはどこか余裕の表情を浮かべていた。

 

 

「せいっ!」

 

 

 その顔に右拳を叩き込み――

 

 

「――っな!?」

 

 

 アーギルシャイアの首元……いや、虚空から生えた水色の掌に受け止められる。

 

 

「〈ストーン〉」

 

 

 女が紡いだ言葉に合わせて現れた黄色の光が足下の大地に消えると同時に、驚愕の表情を浮かべていたアルフを、地面から吐き出された無数の石礫と共に大空へと吹き飛ばした。

 

 

 女は続けて、淡々と呪文を紡ぐ。

 

 

「〈ゲイル〉」

 

 

 緑色の光が現れると同時に弾けて、打ち上げられたアルフを幾つもの風の刃が襲いかかる。

 

 

「アルフさん! ディバインシューター、シュート!」

 

 

 アルフを助けようと、なのはが五発の桜色の光弾を魔女に放つ。

 

 

「あら、可愛いわ。〈アクア〉」

 

 

 クスクスと笑いながら、呟いた魔女の前に現れた青色の光球。

 

 

 五つの小さな青色の弾に分かれると、シューターへと真っ向からぶつかり合い……その全てが、シューターを貫いてなのはへと殺到した。

 

 

《protection》

 

 

 展開された魔力障壁が水の弾を受け止める。

 

 

「ほれほれ、もう一丁。〈ダーク〉」

 

 

「受けきれるかしら?〈アクア〉」

 

 

 

 男の声と共に先程の水色の手から闇の弾が、魔女からは水の弾が放たれる。

 

「れ、レイジング……!」

 

 

「避けるんだよ!」

 

 

 再度障壁を張ろうとしたなのはを抱え、風の刃から無理矢理脱したアルフが二種の光弾の射線から外れる。目標を失った光弾はそのまままっすぐ何処かに向かって飛んでいった。

 

 

「受け止めていれば、そのまま楽にオネンネ出来たかもしれねえのに」

 

 

「でも、良く出来ましたと言う所かしら?」

 

 

 魔女の周りを赤、青、黄、緑の四色の光が幾つも飛び交っていた。

 

 

「もう一人……居る」

 

 

「ああ、あの腕の持ち主だろうね」

 

 

 構えるアルフの後ろでレイジングハートを握り締めて、なのはが不安そうに呟いた。

 

 

 アルフはそれに同意しながら、状況がはっきり不利になったことを悟る。

 

 

 消耗した自分達に比べ、相手は力の片鱗も見せていないのだから……

 

 

「腕だけじゃないのなら、姿を見せたらどうだい?」

 

 

「冥土の土産ってか? 俺達なら魔界への土産かねぇ」

 

 

 腕から先が、空間から滲み出るかの様に現れる。

 

 

「き、気持ち悪い……かも」

 

 

 なのはが嫌悪感露に呟くと、それ……水色の人型をした軟体生物は笑うかの様にプルプルと震えた。

 

 

「そりゃ光栄だ。もっと負の感情を持てよ。それが俺様の力になるんだからな」

 

 

「あんたも円卓の騎士とやらかい?」

 

 

 なのはの視界に入れない様に庇いながら、アルフが問いかける。

 

 

「そう。俺様こそ、破壊神の円卓の騎士マゴス様だ。見知りおけ」

 

 

 軟体生物……マゴスが、見た目通りのまとわりつくようなしゃべり方で話すと、アーギルシャイアは四色の光をゆっくり旋回させながらまたクスクスと笑い出した。

 

 

「数の上では二対二で互角だけど結果は見えているわね。でも……」

 

 

 話の途中でアルフが右に動き、その後ろから桜色の光が吹き出す。

 

 

「撃ち抜いて! ディバイーーン!」

 

 

《buster!》

 

 

 放たれるのは桜色の光の奔流。二体の魔族を飲み込もうとする力。

 

 

「今からがお楽しみタイムよ!」

 

 

 赤と緑、二色の光球が瞳に狂気の光を宿したアーギルシャイアの前で重なり……

 

 

「炎よ風よ、一条の矢となりて打ち砕け! 〈ライトアロー〉」

 

 

 混じり合った光の矢が、桜色の光と両者の中央でぶつかり合った。

 

 魔力の粒子をあちこちに飛び散らかしながら、やがて光の矢が桜色の光の奔流を裂きながら進み始めた。

 

 

「う……うう……!」

 

 

「なのは! ……ぐっ!?」

 

 

 負けじと押し返そうとするなのはに加勢しようとしたアルフを、伸びてきた水色の腕が襲う。

 

 

 それから咄嗟に避けてしまうことで、なのはから距離を離してしまう。

 

 

「しまった!? なのは!!」

 

 

 体勢を立て直した時には、なのはは光の矢に貫かれる瞬間だった……

 

 

「ル……ルティちゃん……!」

 

 

 小さな呟きは、大きな爆発と閃光にかき消される。

 

 

「なのは---っ!」

 

 

 爆発が起きた場所に手を伸ばしながら、アルフが叫び……

 

 

 ややあって、爆発から生じた煙が収まったそこには………

 

 

「そんな……」

 

 

 何も残っていなかった。ただ、抉れた大地が残るのみ。

 

 

「あらあら」

 

 

 アーギルシャイアは楽しそうな声を弾ませていた。

 

 

 アルフはそれに怒りと憎悪の目を向けて……

 

 

「お仲間とは、お約束だねぇ~。どこの世界でも」

 

 

「可愛い子が増えて嬉しいわ」

 

 

 二体の魔族は空を見上げていた。

 

 

 アルフが慌ててそちらを見上げると、辛さと疲労、喜びが混ざった複雑な表情のなのはと。

 

 

「家族と、友達」

 

 

 黒いマントをはためかせ、黒いバリアジャケットに身を包み、ツインテールにした金色の髪をなびかせて。

 

 

「絶対に許さない」

 

 

 左手でなのはを支え、右手にバルディッシュを構えたフェイトが、静かに怒りを秘めた赤い瞳の眼で魔族を見下ろしていた。

 

 




 
 
 
(出典)

 アーギルシャイア、マゴス:ジルオール シリーズより
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