次元空間内に浮かぶ巨大な艦。特徴的な六方に伸びた種子型の外観と、一つの都市を内包し、行き交う他の艦が玩具に思えてしまう程の巨体。その艦こそ、次元災害を防ぎ次元犯罪を取り締まる時空管理局の本局である。
その本局を、リンディに呼ばれたルティシアが訪れていた。よく見れば、警戒のためか着ている服の襟元に、ブローチの様にガンビットが一基取り付けられていた。
共にやってきたユーノはクロノとどこかに向かい、アリシアも技術部で主にデバイスの研究と開発が行われている部所にいる。
「それにしても、思いきった手段に出ましたね」
なのは達の前以外では余り表情や感情を表に出さないルティシアが、ため息を一つついて、呆れた様に横を並んで通路を歩いているリンディに言った。
「あら、でもこの方が早くて確実でしょう? 」
リンディから呼び出され頼まれた内容、それは自身が信頼しているメンバーの中に怪しい者がいないか確認してほしいというものであった。
「それはそうですが、私のことは出来るだけ知られないようにして動くと思っていました」
「もちろん余り知られないように動くけど、通信機越しに一人ずつ……というのもねぇ~。アースラが整備中じゃなければそれでも良かったけど。それなら、管理局への勧誘中ということでサッと数人の確認だけして貰う方が早いでしょう? 本当は、疑いたくもないけれど……」
そう言って、今度はリンディがため息をつく。
「これからの事を考えるなら、早めに確認しておきたかったのよ」
「これから……ですか?」
ルティシアが視線を向ければ、窓から見える範囲や進行方向先にある小ホールにも、多くの管理局員や関連職員の姿があった。
「そう。多分、あなたも……いえ、なのはさんやフェイトさん達も巻き込む事になるわね」
足を止めてしまったルティシアを促すと、リンディは先に歩き始める。
「私はともかく、姉さんやフェイトを余り危険な目には合わせたくは無いのですが……。プレシアさんの為に働くフェイトは、事情が事情ですから止められないかもしれませんが、姉さんは『魔法』と出会って三ヶ月というだけの普通の子供なのですから」
「もちろんそれは分かっているわ。あなたが心配していることもね」
リンディは前回の事件の後処理等でも、あれこれ骨を折っている。今回も既に考えた結果の事だろうと思い直し、頭を下げる。
「……失礼しました、リンディ提督」
「良いわ。確かに管理局に来てほしいというのはあるけど、それよりも……」
そこで言葉を切ったリンディは足を止め、背後に振り向いた。付近に人が居ない事を確認してから、口を開いた。
「またあそこで事件が起こるらしいの。ロストロギア関係の……ね。アースラの整備もその為よ」
「ジュエルシードではなく、また別のものですか?」
「ええ。ジュエルシードは、失われた四つ以外は全て管理局で保管しているから……」
「いえ、ちょっと待って下さい」
ルティシアも素早く辺りを確認する。大勢の人が働く管理局故に、人が居ない時間は僅かであった。リンディと人が居ないスペースに移動すると、襟元のガンビットに手をやり自分達の声が周りに伝わりにくくする。きちんと発動したのを確かめてから、改めてルティシアは疑問を口にした。
「あの時、私や姉さんが持っていたものはユーノに、ユーノはリンディさんに全てお渡しした筈です。プレシアさんの杖も」
「クロノが確保してその中の物も確保したわ。でも、四つ足りなかった。プレシアさんに確認しても記憶に無いみたいで、仕方がないから報告書には次元震発生の際に失われたと記載したわ」
「虚数空間に消えたあの二体が持っていたのでしょうか?」
暫し考えた後、リンディは肩をすくめた。
「分からないわね。虚数空間の中を調べに行く訳にもいかないし。とりあえず、今は次に起こるらしい事件の事を考えましょう?」
「それは本当に起きるのでしょうか?」
「個人的だけど、確かな筋からの情報よ。それにあなたもクロノ達と聞いた筈よ? 『次のゲーム』って」
時の庭園の崩壊時、その場に現れた冥魔達は確かにそう言っていた。ルティシアがそれを思い出した事を、僅かな表情の変化から読み取ったリンディは、そのまま話を進める。
「彼女達が直接関与しているかまでは分からないけど、確実に何かは起きる。その証拠に、フェイトさんやなのはさんのデバイスの改良、アースラの整備及び武装の追加、アリシアさんのデバイスの用意を勧められたわ」
「前回のことを考えるなら、関与はしていると思いますが証拠は無いでしょうね。ただ、確実に魔族は関係していると思います」
「でしょうね。自分達がする事なら教えないでしょうし、直接動かずに何かをさせるなら魔族絡み、分かりやすくて良いわね。こちらを巻き込まずに、双方だけでしてくれるのが一番だけど」
そう言って深くため息をつくリンディに、平穏を望むルティシアも同意する。
「相互不干渉の協定とは言っていたけど、気付かれていないと判断したら平気で破っていそうよね」
「魔族は、自身の支配欲の他に他者との契約も尊います。もちろん個々によって違うでしょうが、冥魔との契約は上位の存在が結んだもの。そうそうは破らないでしょうね。……余程の事が無ければ」
「変な所でマジメね」
「冥魔の方は……少なくとも彼女達は積極的に守るつもりは無いと思います。その協定が結ばれた理由は分かりませんが、彼女達は無くすことを望んでいるようでしたしね」
「それはアシェラさんの様子からもよく分かったわ。今は代わりに魔族と戦うメンバー募集中といったところでしょうね。だからこそ、私達は備えておかないといけない。彼女達が完全に敵に回った時の為に」
提督としての顔に戻ると、移動を再開した。
「備え……」
リンディの後を歩きながら、ルティシアは思考を巡らす。自分が冥魔について知らないのは、何故なのだろうか? それとも、基礎と“社会勉強”が終わってから教わる予定だったのだろうか? と。
「後手だけど、こちらには魔族や冥魔に関する知識は無いわ。だから先に調べることにしたの」
リンディが足を止めた場所。
「管理局の誇る全ての知識の集積場、この無限書庫でね」
無限書庫と呼ばれるその部屋の中は無重力となっており、管理を受けている世界の書籍やデータが収められた超巨大データベースである。縦長の円筒形の部屋に置かれた膨大な数の本棚は、見るものを圧倒する。
データ的なものしか余り触れていないルティシアもまた、その果てしない書庫を見て驚きの表情を浮かべていた。
「エリ姉様やローラが見たら喜びそうですね」
研究や読書が好きな姉や唯一の妹がここに居れば、きっと四六時中ここに籠るだろうとこの光景を見て思っていた。
「量が多すぎて、未整理のものばかりなんだけどね」
「……それではいつになるか分からないのでは」
困ったように言うリンディに、周りを見渡しながらルティシアも困惑気味に返した。
速読してもどれくらいかかるのか……と考えていると、無重力にたゆたいながら上から降りてくる影があった。
「それで、探索が得意なボクが呼ばれたんだ」
「ユーノ。クロノに呼ばれた用事はここだったのですね」
ルティシアにユーノは大きく頷いてみせた。
「探索や調査が本業のスクライア一族のボクにとっては、むしろこの仕事は得意分野だよ。検索魔法も用意してきたしね」
「フェレットもどきの大きな見せ場……というところかな」
「そうボクの……って誰がフェレットもどきだ!」
同じ様に上から降りてきた黒衣の少年――クロノの言葉に、カチンときたユーノはすかさず抗議を行う……が、クロノは顔を背けて聞こえないふり。
「クロノも元気そうですね」
「ああ、君もな。それで母さ……艦長、二人の様子は?」
ユーノを無視したままルティシアと挨拶を交わしたクロノは、リンディに視線を向けた。
「レティもグレアム提督も大丈夫みたいよ。この後、技術部の方を確認してもらうわ」
レティ・ロウラン提督とギル・グレアム提督。共に、リンディの知人であり信頼出来る仲間でもある。
特にレティ提督は運用部に所属し、艦船や人員の配置などを取り仕切る立場の為、管理局内の多くを把握している。人事を担当している関係で、フェイトの嘱託魔導師試験の合否もこの女性が担当していたとリンディから説明を受けていた。
グレアム提督は、ハラオウン親子とは家族ぐるみの付き合いがあり、彼の使い魔の二人の女性はクロノの師でもあるらしい。艦隊指揮官や執務官長を歴任し、現在は現場を退いてはいるものの歴戦の勇士の通り名を知る者は多い。
「あのお二方は大丈夫とは思っていましたが、安心して助力を請えるのは助かりますね」
リンディの話を聞いて、クロノは安堵の表情を浮かべた。その表情を見て、ルティシアやユーノもクロノが二人に信頼を寄せている事が理解できた。
「後何人いるのか分かりませんが、事前に教えておいてもらわないと、私の魔法は使用出来ないことがありますよ……」
感知魔法自体の消費魔力量は少なく、最近は魔法の使用が無く魔晶石の魔力も回復していたとはいえ、確実に見分けられる魔法の対象は単体のみである。二人ならともかく、数が多い場合は前の事件後の枯渇時には無理であっただろう。
最も、フルチャージの今でも管理局員全員にかけるのは無理であるが……。
「今から向かう場所はそこまで人数は多くないから大丈夫。それに、その内の一人はリニスさんよ」
「デバイスの関係でなのはやフェイトも世話になる事もあるだろうし、出来れば早めに確認してほしい」
「……分かりました」
緊急時に備え、魔晶石の消耗は出来るだけ抑えておきたいルティシアだが、クロノの言う通りデバイス関係は確認した方が良いと判断し、了承した。
それを見て、今度はリンディがユーノに視線を向ける。
「まだ一時間ちょっとしか経っていないけど、任せても大丈夫そうかしら? 本来なら、チームを組んで年単位で行う事なんだけど……」
「はい、出来ると思います」
そう答えたユーノは、視線をクロノに。それを受けて頷きを返すと、クロノは服……常時身に付けているバリアジャケットの内側から、リンディに見せるつもりだった一冊の古い書物を取り出した。
中の紙も変色してしまっているその本をクロノから受け取ると、リンディは中身を軽く流し読みしてみる。
「相当に古いわね……。使われている文字も」
「異形のものが多く住む世界に迷いこんだ人物が、そこでしばらく過ごした後に、元の世界に戻り書き記したものです」
リンディが本を閉じると、ユーノが受け取りながら内容の説明をする。
「異形……?」
「魔界と呼ばれる世界と、そこに生きる魔族について」
「いきなり興味深い資料を引いたわね」
先を促すかの様なリンディの視線を受けると、ユーノの手から書物が浮かび上がる。
そして、ユーノが手をかざすことでひとりでにページが捲れていく。
「偶然その世界に迷いこんだ男が着いた先は、“国”と呼ばれる城。途方に暮れていた男は、その城を統治していた女性と出会い、そこが人ではない魔族と呼ばれる者達が住む魔界であることを知らされる」
「でも、その女性も魔族ということよね? わざわざ教えてくれるなんて……」
「はい、その女性も自分は魔族であると。そして、その世界について親切に教えてくれています。人に害を与える者が殆どであること、膨大な数の魔族が居り日夜魔族同士の抗争があること、男の様に人間が時々迷いこむことがあることを」
「その女性とやらが、例外的ということか。何か裏が無ければ……」
「魔族同士で争う……同じ……ね。人間も」
リンディとクロノの考察に頷くと、捲れていたページを途中でユーノは止めた。
「その話の中で気になることがあって、ある日男がその城の中で殺されそうになるんだ。『朦朧とした意識の中で自分は確かに聞いた。あの人が、同じ城内でよく見かける徒労徒労という仲間のそいつから、あの子の指示を破るつもり? と俺を守ってくれた声を。』これ、凄く思い当たらない?」
クロノとルティシア、リンディもまた思い当たる一人の人物。先の事件を引き起こした魔族。
思い当たると同時に、ルティシアは片手で額を押さえた。誰かに強く呼ばれた気がして――
「あいつか……。ということは、その女性もあいつが名乗っていた円卓の騎士とやらの仲間なのか?」
「仮にそうだとしたら、同じ仲間でも一枚岩じゃないという事よね」
「それに、人間が迷いこむという話も気になる。その話が本当なら、今でもそっちに行く可能性があるかもしれない。何とか出来れば……」
「それは人の手では難しい」
真剣な表情の二人に、横から抑揚無い声が。
「こちらから防ぐのは難しい。魔界から開けられる次元の穴を防ぐには、世界丸ごとを強固な結界で覆うしか術はない」
「ルティシア……?」
淡々と話す少女に三人の目が集まり、そしてすぐに気が付いた。その、深紅の瞳に。
「開けた穴は本来ならひとりでに閉じる。ただし、僅かな残滓が残る時がある。それは、落とし穴の様なもの」
ユーノとクロノが何かを言いかけるのを、リンディがそっと止める。
「つまり、その穴に落ちてしまうと……」
「魔界……と呼ばれる永久の闘争の力が込められた世界へ」
「込められた……?」
リンディに首肯する深紅の瞳の少女。
「封印の地『冥界』と、閉ざされし地『魔界』。どちらも、神々の力によって縛られた世界。そしてこの世界が、近年になって数多の次元世界に行き来を始めた事で、魔界の穴と繋がりやすくなってしまった。神々の力を受けにくい上位の魔族は、魔界の外ではその力が制限されるとしても他の世界に出て力を振るう術を持っていたし、神々の封印が弱まってきたことで下位のものも脱け出すようになってしまった」
「次元航行や転送技術が発展してきたことで、逆に力同士が引き合ってしまったのか」
クロノが呟く横で、ユーノはルティシアの話から検索のワードを修正し資料を探し始めていた。
「魔界以外では力を制限される上位の魔族達が、力を振るう為の力、それが――」
「クロノ君、大変!」
そんな声と共にエイミィが部屋に飛び込んできた。
それに反応して、ルティシアの瞳の色が深紅から濃紺へと変わっていき、ユーノも検索魔法の手を止め、リンディやクロノも血相を変えているエイミィに怪訝な顔を向けた。
「あ、リンディ艦長もこちらでしたか!」
「エイミィ、何かあったの?」
「無限書庫では静かにしろと言われているだろう」
息を切らしていたエイミィは、無重力で浮かびながらも何とか呼吸を整えて……。
「ついさっきフェイトちゃんから次元間通信が入って、なのはちゃんの家の近くで青い月の結界が張られていたそうです!」
「月の結界?」
それは? と不思議そうなクロノの隣で、それが何かを知っているユーノは頭を押さえているルティシアに視線を向ける。
「青……。闇の蒼月の月匣……。姉さん、フェイト、アルフ」
頭を押さえていた右手を顔の前に持ってくると、薬指にはめられた指輪の獅子の目が赤く輝いた。
「――転移」
囁く様な一言と共に、ルティシアの姿が消える。
「ルティシア! ここから直接向かったのか!?」
「さっきから様子がおかしい……。なのは達の事も気になるから、ボクも行きます!」
リンディは一つ頷くと、先程の書物を受け取り指示を出した。
「クロノ執務官、直ちに該当エリアへ! ユーノ君も、お願いね?」
「了解です。……行こう、ユーノ!」
「はい! ……うん、急ごう。四人が心配だ」
転送ポートへと向かう二人の背を、エイミィは不安そうに見送っていた。
そして、大勢の管理局員の間を縫うように駆け抜ける二人を見ている者は他にも居た。
「第二のゲーム、始まりだね」
「うふふ、今回も駒達が上手く動いてくれれば良いのですが」
周りの者と同じ制服を着た二人の少女は、楽しそうに笑みを浮かべていた。
「そうだね。でも、何よりも途中経過を楽しめて、最終的にあたしのモノになってくれないと」
「あちらが、こちらの想定通りのキャストを出してくれれば良いのですが。それに、メル? 私も微調整はしましたが、このゲームの大筋をセットしたのは貴女です。大丈夫ですか?」
どこか不安そうな表情の相方に、自信満々に大丈夫と返すとメル……メイオルティスは近くの自販機から飲み物を購入する。
「イレギュラーさえ無ければ、バッチリだよ? いつもいつも壊す事にはならないって」
購入した自販機から、小さな電子音と共に当たりという文字が表示され、もう一本同じ缶が出てきた。
それをアシェラに手渡しながら、二人の少年が去っていった方を楽しそうに見た。
「さて、この当たりは何を意味しているのかな?」
※ ※ ※
「ほらほら、どうしたのかしら? 動きが鈍くなってきたわよ?」
蒼い月が照らす中、激しく空中を飛び交いながら、魔女――円卓の騎士アーギルシャイアから飛ぶ挑発に、フェイトは無言でバルディッシュを握る手に力を込める。
参戦直後こそ速さで上回るフェイトが押していたが、アーギルシャイアが残していた青と黄、二色の光球を組み合わせた魔法を使ってきてから互角の勝負になっていた。
「スロウヘッジ……。あの魔法を受けてからスピードが上がらない」
距離を取りアーギルシャイアを見据えながら、フェイトは近くで荒い息をついているなのはと地上のアルフの様子を確認する。
「アルフもさっきから動きが鈍くなってる。決着を急いだ方が良い」
《photon lancer. get set》
フェイトの周りに金色の光球が四つ浮かぶ。
「可愛い子ちゃん、作戦は決まったのかしら?」
アーギルシャイアもまた、四色の光球を浮かべる。
「終わらせる」
「勇ましいこと。そういう子、好きよ?」
二人の視線がぶつかり合い――デバイスと右手を……振った。
「フォトンランサー」
「水よ、凍てつかせよ〈フリーズ〉」
フェイトの声に合わせて四本の雷の矢が真っ直ぐに飛び、アーギルシャイアの元を離れた青色の光球が氷を纏い、付近を凍てつかせ巨大な氷塊と化して宙を疾る。
氷塊に雷の矢が刺さると、そこからゆっくりヒビが入り、大きな岩が砕けるような音と共に氷霧を発生させながら粉々になった。
その合間に、フェイトは高速移動魔法を用いてアーギルシャイアの居た場所の背後に回り込んでいた。金色の光の刃を放つ鎌を振りかぶりながら――。
「もらっ……っ!?」
先程まで居た場所には魔女の姿は無く、氷霧で遮られた視界の中で辺りを見渡した。
「まずは弱った方から……いこうかしら?」
魔女の声はやや離れた位置の……なのはの近くから。
「なのは!」
「フェイトちゃん!」
自分の近くで高く右手を上げる魔女に、なのははレイジングハートを向ける。
「なのは、こっちに!」
アクセルシューターを放つよりも早く聞こえた声に、なのはは氷霧でシルエットだけが見えるフェイトの方へと移動する。
《flash move》
なのはの靴から生えた桜色の光翼が激しく羽ばたくと、フェイトの元へと即座に移動する。
「氷霧は私の姿を隠す為ではないのよね。本命はそ・れ」
頭上からの赤と緑の輝きが、氷霧を晴らし見上げたフェイトとなのはを照らし出した。
「炎よ風よ、一条の矢となりて打ち砕け! 〈ライトアロー〉」
再び、混ざりあった光の矢が二人に襲いかかってきた。
咄嗟に二人は、デバイスを持っていない片手ずつを頭上にかざした。
「防いでみせる!」
「レイジングハート、お願い!」
《round》
《shield》
二重の円形の盾が、光の矢を受け止める。
接触面から激しく魔力光を散らしながら、光の矢は苦しい顔で盾を維持する二人の魔力を削っていく。
防ぎきった頃には、矢に押されながら地面に降り立ったフェイトも肩で息をするようになっていた。
「フェイト! なのは!」
倒れそうな二人を抱き止めながら、アルフが駆け込んできた。
「さて、三人揃った所で仕上げといくか!」
「心地好い声を聞かせてね」
アルフと戦っていた水色の軟体男……円卓の騎士マゴスがその手から闇の炎を生み出し、アーギルシャイアは緑と黄の光球を重ねる。
「俺の呪いに蝕まれた身体で、どこまで逃げられるかなぁ? 蹂躙せよ魔界の炎〈フレイム〉」
「大地よ、大気よ、その怒りをここに示せ〈ライトニング〉」
真横から、台地を割って吹き上がりながら迫ってくる黒い炎。
頭上の重なった光球からは、轟音と共に曲線を描いて稲妻が落ちてくる。
二つの暴力的な力を避けようとしたところで、三人を包み込む様に無数の小さな雷の羽が現れる。
「ライトニングフェザー、〈
三人の背後からの抑揚がない声と共に、雷の羽はドーム型の結界へと変わり触れた二種の力を放った本人へと跳ね返す。
反射は予想していなかったのか、跳ね返ってきた自身の魔法を避けることも出来ず直撃する。
「ルティちゃん!」
「ルティ」
「ルティシア、助かったよ」
三人が振り返った背後には、紅い闘気を放ちながら片膝をついているルティシアが居た。
肩を大きく上下させて、その顔には脂汗が浮かんでいた。
その普段と全く違う様子に、三人は思わず息を呑んだ。
ルティシアは深紅の瞳の目で、魔法が直撃しても無事な姿を現した魔族達を睨み付けた。
「私から、これ以上大事な人を奪うなら――全て焼き尽くします」
ルティシアの首元で、黄金の輝きが悲しそうに煌めいていた。
(補足)
魔界について……新たに生まれてくる世界に対し、『積極的な関与をせず見守るべきだ』という神々と、『我々の手で統治するべきだ』という神々同士が争っていた時代。
その際、統治派の神々が生み出した者達が後に魔族と呼ばれる事になる。
争いは両陣営に甚大な被害をもたらしながら、痛み分けに近い状態でかろうじて守護派が勝ち、統治派の神々が自分達の眷族と共に引きこもる為に造った世界が魔界である。
だが、統治派の神々が傷を癒やす為に『眠り』につくと、守護派の中で過激な一派が魔界に呪いをかけた。
魔界から出ずに、その世界で争い続けるという呪いを。
統治派の中で特に力を持つ者達に対して、生き残った守護派の神々がその存在をかけて封印を施した。
その地を冥界と呼ぶ。
無限書庫司書長ユーノ・スクライア氏が後に発見した書物より一部抜粋