魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その54 狂思凶刃 後編

 蒼い月が照らす戦場。

 

 しかし、地表から放たれる光は……赤。異界の荒野と化した結界内部を、無数の炎の鳥が飛び交っていた。

 

 

 炎の鳥が狙うのは、二体の魔族。空を飛びながら迎撃を狙う妖艶な魔女と、動きは遅いものの最小限の動きで被害を抑えている人型をした水色の軟体生物。

 

 

「ちょっと……しつこいわね。『マゴス、そっちはどう?』」

 

 

 魔女――円卓の騎士アーギルシャイアは消しても消しても押し寄せて来る炎の鳥に辟易しながら、眼下で取り囲まれている同僚へと視線を落とす。

 

 

「『ああ、今の所問題無ぇが、延々繰り返されるとやべぇかもな』」

 

 

 その特徴的なゼリー状の体を活かし、人間には出来ない回避法を用いながら、円卓の騎士マゴスは闇の弾丸――〈ダーク〉の魔法で炎の鳥を撃ち墜としていた。

 

 

「『大体、あいつは何だ? どっかで見たような気ぃするが、あんだけ使って魔力が感じねぇぞ』」

 

 

「『多分、竜の守護者の所の子ね。あんなに幼い子が出てきたのは始めて見たけど、おそらく間違い無いと思うわ』」

 

 

「『この辺りは奴等の活動範囲とはかけ離れてるだろ』」

 

 

「『そこまでは知らないけど、ちょっと前にこの辺りの次元にも一人居たでしょ? 居なくなったけど』」

 

 

「『ん~? それは、お前やそれなりの数が中心になって発動した作戦の時か? 複数の大魔王や大貴族クラスの指示で、魔界の大部分が協力させられたやつ。いくつかの次元守護の奴らと、冥魔の連中とをぶつけるために』」

 

 

 風と土の精霊が起こした雷が、噴き上げた闇の炎が真紅の鳥を撃ち、呑み込んでいく。

 

 

「『ええ、その頃よ。時期からして、最終段階の他の次元守護側との協調攻撃策に参加するために離れたのでしょうね。あちらにとっては失敗、私達にとって成功の要になった、作戦に乗り気じゃなかった大貴族クラスを冥界への囮になるように仕向けたのはあなたが参加したグループでしょう?』」

 

 

「『おかげで邪魔な奴等も一掃出来たしな。糞な神々の封印が弱まって、冥界からちょこちょこ出てきていた冥魔の奴等も、そっちにかかりきりになってやがるし。次元守護の連中も、自分達のエリアを護るのが精一杯ときた』」

 

 

「『準備にも実行にも、莫大な時間と手間をかけたのよ、当然でしょ? 他の次元守護グループとはある程度の意志疎通しか出来ないようにしたり、冥界と事を構えたくない者達には伝わらないようにしたり』」

 

 

「『最初期に気が付いた俺らのトップが、止めようとして行方不明になってるがなぁ』」

 

 

「『ふふ、それも後少しで解決でしょ』」

 

 

「『まぁな、上手くいくかは知らねぇけどな。……頃合いだな仕掛けるぜ?』」

 

 

「『ええ。あれだけ炎を扱うのだから、あの子は火竜でしょうね。それ以外は使用に制限ある筈。その上で、さっきの雷の結界で多少消耗もしているわ』」

 

 

 群れる炎の鳥を掻い潜りながら地上にいる四人の娘を見下ろし、勝利を確信したアーギルシャイアは呪文を唱える。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

 黒い戦闘下衣姿のルティシアは、片膝をついたまま荒い呼吸を繰り返していた。ポニーテールに結われた濃紺の髪が大きく上下しているが、前髪部分はびっしり浮かんだ脂汗で顔に貼り付いていた。濃紺の瞳は、真紅に染まっていた。なのは達の知らない、元々の瞳の色に。

 

 

 高く掲げた右手からは数えきれぬ程の炎の鳥が生み出され、左手は体を支える様に地に向けられていた。

 

 

「ルティちゃん……? どうしたの、しっかりして!」

 

 

 いつもとまるで違う妹の様子に、なのはは何度もルティシアの肩を揺すって呼びかけていた。

 

 

 熱変化にも対応しているバリアジャケットのおかげとはいえ、そうでなければ余りの熱さに触れる事も出来なかったであろう。

 

 

 しかし、なのはのその必死の呼びかけにもルティシアはほとんど反応を示さない。ただ、何かに対する激しい怒りだけを発していた。

 

 

「これ以上、私から大事な人を奪わせませ……奪わせない」

 

 

「ルティちゃん、私達は大丈夫だから!」

 

 

 ルティシアが現れた時から漏らしている言葉と、不安そうに自分やなのは達を見るアルフの横で、フェイトはバルディッシュで身体を支えながら考えを巡らせていた。

 

 

 そして――。

 

 

「……分かった」

 

 

「フェイト、何か心当たりあるのかい!?」

 

 

 ポツリとフェイトが呟き、それにすぐさまアルフが反応した。

 

 

 それにフェイトは小さく頷く。

 

 

「バルディッシュ」

 

 

《scythe form. get set》

 

 

 変形し、金色の刃の鎌となったバルディッシュを構えるフェイトを、慌ててアルフが止めた。

 

 

「ダメだよ! 練習もそうだったし、さっきのでフェイトもかなり消耗してるんだよ!? なのはだって、バリアジャケットの維持位しか出来ない筈」

 

 

 止めようとするアルフにフェイトは静かに首を横に振った。

 

「わたしの予想通りなら、今回は特に負けるわけにはいかない」

 

 

「どういう意味だい、それは?」

 

 

 炎の鳥の対応に集中している魔族達の位置を確認し、なのは達を庇う様に前に立つフェイト。

 

 

「アルフも聞いた筈だけど、ルティは過去に長い間一人で居た時期があった」

 

 

「そういえば、あの変な機械がそんな事を……」

 

 

 ルティシアの秘密の拠点を守るシステム。以前、そんな話をフェイトとアルフは聞いていた。ルティシアが、この地に来る前の話を。

 

 

「多分、一人になったのには理由があると思う。。もしかしたら、あの魔族達が関係しているのかもしれないし、他にも何かあるかもしれない。それが……」

 

 

「奪わせない……か。あたし達が負けたら、より酷くなりそうだね」

 

 

 アルフに頷くと、遥か上空にいるアーギルシャイアに視線を向けた。かなりの距離が開いているというのに、魔女もまたフェイトに向けて挑発的な笑みを浮かべているように思える。

 

 

「アルフも疲れてると思うけど、二人のフォローを。わたし達で、二人を助ける」

 

 

「あいよ、けどフェイトも絶対無理しないでおくれよ?」

 

 

 無言で小さく頷くと、フェイトは金色の髪をなびかせながら、再び空へと舞い上がる。

 

 

 ルティシアが放つ炎の鳥は、フェイトを傷付ける事無く共に飛翔する。それを見て一瞬だけ微笑むと、加速し魔女への距離を一気に詰める。

 

 

 魔女の周囲には赤青緑黄の四色の光球が旋回し、迫る炎の鳥を撃墜していた。

 

 

 黒衣の少女と黒衣の魔女は、再び対峙する。

 

 

「ふふ……自分から来てくれる何て、嬉しいわ」

 

 

「あなた達の目的はなに?」

 

 

「さあ、何かしら?」

 

 

 フェイトの問いに、妖艶な笑みを浮かべて答える魔女。

 

 

 答えるつもりがないと判断したフェイトの意を汲んだかのように、周りで控えていた炎の鳥が一斉に襲いかかる。

 

 

「わたしが勝ったら、話を聴かせてもらう」

 

 

「あなたにはまだ早いわよ、可愛い子ちゃん。〈ストップ〉」

 

 

 口元に手を当ててクスクスと笑うアーギルシャイアの側の赤い光球が弾け、フェイトを含めて殺到していた炎の鳥全てが赤い輪で拘束される。

 

 

「バインド!?」

 

 

 もがくも、赤い輪は外れそうになく――その視界を緑と黄の光が満たす。

 

 

「下の可愛い子ちゃんのもそうだけど、その服は結構丈夫みたいね。私達の目的の為には、生きてさえいればいいの。だ・か・ら……」

 

 魔女はその瞳に狂気を宿し、二色の光を組み合わせる。重なった光は、大きく膨れ上がり……。

 

 

「私は命奪われし精霊達の代弁者、破壊神の円卓の騎士アーギルシャイア! 奪いし人間共、精霊達の悲しみと怒りの声を聞くがいい! 〈サンダーボルト〉!」

 

 

 人間サイズを越え、激しいスパークと共に膨れ上がった雷球は、空を黒く染め雷雲を発生させる。

 

 

 バインドを外そうともがくフェイトを見つつ、哄笑を上げる魔女は仕上げの魔力を解き放とうと両手を高く上げ――。

 

 

 その姿を下からの紅い光が染め上げる。数十匹の真紅の炎の竜によって――。

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「ではでは、ちょっくらちょいといくとするか」

 

 

 マゴスは固まっていた少女達の一人が舞い上がっていくのを見て、予定通りの行動を開始していた。まとわりつく炎の鳥を気にせず、一人だけが身構えている少女達の方へと少しずつ。身構えている者の後ろで隠れているであろう、標的に向かって。

 

 

 ほくそ笑みながらゆっくり近寄っていく。

 

 

 張りめぐされた雷の陣の中へ。

 

 

「なに!?」

 

 

 足下の大地を砕きながら現れた雷の円陣の中心で、マゴスは驚愕の声を上げた。

 

 

 慌てて少女達の方を見れば、バーカと言っている女と支えあっている残りの二人。

 

 

 仕掛けているのは――邪魔者。

 

 

 炎の鳥を止めて、その雷を放つ左手を高々と上げた。

 

 

「ゲインシューター!」

 

 

 円陣の中を、全て打ち砕かんとばかりに激しい雷撃が駆け巡る。

 

 

「姉さん、アルフごめんなさい……でも、離れて」

 

 

 その雷を保ったまま、ルティシアは苦し気な声で謝っていた。

 

 

「まだ止まれません……。何とも言えない、このモヤモヤした何かを出さないと……」

 

 

 濃紺と紅、目の色が目まぐるしく変わっていた。

 

 

「ルティちゃん……後で、フェイトちゃんの部屋でみんなで話そうね。それとも、リンディさんの所かな?」

 

 

「ま、リンディの所だろうね。あんたもフェイトもなのはも、無茶ばかりだから説教コースもあるかもね」

 

 

 なのはとアルフが自分から距離を離したのを確認すると、ルティシアの瞳は真紅に定まる。

 

 

 ゲインシューターの仕上げとして、左手を下ろすと雷陣が集束していく。

 

 

「潰れなさい」

 

 

 ゲインシューターの最終段階である雷陣の中でまだ動いている姿を確認すると、今度は右手を高く上げる。

 

 

 次に現れたのは火球。それは小さな家程の大きさになると、何かを生み出そうと蠢き始める。

 

 

 火球から生まれようとするのは、龍。

 

 

「守力至宝……焼き尽くされて灰塵となれ。百龍炎覇(ヒュドラファレ)!」

 

 

 火球から放たれた龍達の半数は雷陣内のマゴスへ、残りは大きな魔法を使おうとしているアーギルシャイアの元へ。

 

 

 雷陣内で大きな爆発音と共に、水色の破片が陣の外へと飛び散っていく。

 

 

 それを見た後に、上空で龍を食い止めようとするアーギルシャイアを見据え、虚空から鞘に入った刀を引き抜く。

 

 

 バインドが解けると同時に攻撃を仕掛けているフェイトに加勢するために、ルティシアも翔ぶ。

 

 

 紅い閃光となって真っ直ぐに、龍から必死に身を守りつつも笑みを浮かべるアーギルシャイアへと、ルティシアは居合いの要領で、非殺傷用の魔力調整を行った刀を振り抜いた。

 

 

 フェイトもまた、ルティシアとタイミングを合わせながらバルディッシュを振り抜く。

 

 

 これで終わりとばかりに――。

 

 

「オールアタック」

 

 

 静かな女の声と共に、衝撃波が巻き起こり龍を、少女達を引き裂いていく。

 

 

 なのは達の元に辿り着いたクロノとユーノが見上げた中で、金属が砕ける音と共に二色の金属の光が煌めいた。

 

 

 砕けた得物と共に墜ちていく二人の少女を、アーギルシャイアの横に唐突に現れた朱色のローブ姿の人物が見下ろしていた。

 

 

 左手には今振るった剣を持ち、目元まですっぽりと覆われているため顔は分からないが、左目に当たる部分には赤い光が灯っている。

 

 

「いつまでも遊ぶな。我らが主の為に、急がねばならんのだ」

 

 

 

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