魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その59 託された願い

『渡してから伝えるのもあれですが、条件……と言うよりは注意事項についてです』

 

 海鳴公園の林間部――そこにある一本の木の枝上に隠された、一件の小さな家。

 

 本国から異世界に派遣されたメンバーが、何らかのトラブルに巻き込まれる事も想定され、本国からの救援が来るまで最悪数年以上を生活出来る様に、そして重要物の保管用にも設計され作られた隠れ拠点。

 

 そこのセキュリティやライフライン等を統べる、総合管理システム。

 

 持ち主であるルティシアや、とあるきっかけによりここでの生活経験がある、フェイトやアルフは単なるシステムとだけ呼ぶが。

 

 そんな“彼女”(女性の音声を多用するため)が話を再開したのは、なのはとフェイトに拠点に保管されていた二つの魔宝石を渡して、すぐのことだった。

 

「普通は、手渡す前に伝えませんか?」

 

『私は普通ではありませんから』

 

 魔族との戦いで折れた、姉から授かった大切な愛刀をメンテナンスに出したルティシア。

 

 データで損傷具合を確認し、問題なく修復出来る事に心から安堵していた彼女は、しかしいつも通りの淡々とした調子でシステムに言うが、“彼女”もまたシレッとした調子で返す。

 

 この家の事をルティシアに聞いていたなのはと、キッチンから魔力の実と飲物を取り出していたフェイトも、頭上――音声が発せられている辺りを見上げた。

 

「あの、注意事項ってどういうものなのでしょうか?」

 

 話を聞きながらも、フェイトが手渡してきた飴玉サイズの実とジュースを受け取りながら、なのはが問いかけた。

 

『それぞれにありますが、まず共通しているところからお伝えします。まずは……』

 

 そう言ってシステムが語り始めた内容はこの様なものだった。

 

 各魔宝石の力は最初から開放されているわけでは無い。

 

 必要な時にバリアジャケットの上から使用する。

 

 バリアジャケットを着用せずに使用も出来るが、現時点では肉体への負担が大きすぎるため許可出来ない。

 

 デバイスに内蔵すれば膨大なエネルギー源になり、魔導師としての活動にも効果があること。

 

 元々は堕ちた神々や魔と闘う為のものであるため、使用する相手は良く見極めること。

 

『尚、現在は双方とも、基本型のみの使用制限とさせていただきます』

 

「基本型?」

 

 リビングの中央、ややキッチン寄りに置かれた楕円形のシンプルなデザインのテーブル。

 

 その中央からせり上がってきた青い液体が詰まった薬瓶と、特製の薬用クリームが入ったケースをルティシアに渡しながら、フェイトが訊ねた。

 

『そうです。魔宝石――つまりはナノハが手に取ったセントジュエル、フェイトのエンジェルシード。どちらも段階式の力がありますが、しばらくの間はその第一段階の力だけということになります。ナノハの場合は聖なる風――エアフォーム、フェイトは黒翼の天使――オルタナティブモードです』

 

「エアフォームと……」

 

「オルタナティブモード?」

 

 反芻して呟く少女達に、“彼女”も説明を続ける。

 

『説明しましょう。まず通称 戦 姫 (ウォープリンセス)……正式名称 聖 姫 (セント☆プリンセス)は……』

 

「ふぇ? な、何か可愛くなったかも……」

 

「うん。ウォーよりは可愛い……と思う」

 

『エンジェルも含めて、十年後やそれ以降もそう言えるかどうか……。ナノハでしたら、マジカルプリンセスとか、リリカルプリンセスでも良いかもしれませんが、さて置いて。第一段階では本来の聖姫、その前段階の強さとなります。体が慣れてくれば、やがて五つのフォームに変わる事が出来ます』

 

 攻撃に特化したフレイム。

 

 守りに特化したアクア。

 

 速さのゴールドに、治療のウッド。

 

 魔に侵された土地等を浄化するソイル。

 

『エアはバランス型で、これを基準に各フォームで能力が上下します。そのため、しばらくはフォームチェンジは行わず、エアに体を慣らして下さい。これだけでも、現在交戦中の円卓の騎士の、一部以外とは有利に闘えるでしょう』

 

 システムの話を聞いていたなのはと、薬をいくつか用意していたフェイトも、これには驚きを隠せなかった。

 

「そんなに……?」

 

「体への負担が大きいという理由が良く分かる」

 

「それだけ、大きな力ということです。ですので、最初は第一段階でも、さらに力を制限して使用する方が良いと思います。少しずつ力を上げていく、遠回りに感じるでしょうが確実にいきましょう」

 

 フェイトから手渡された薬瓶――回復薬を飲んだ後に、ケースの中のクリームを細かい傷痕に塗り込んでいたルティシアが、そう提案する。

 

「でも、余り知られない方が良いんだよね? ユーノ君の結界の中としても」

 

「闘う相手も、魔族みたいな存在を選ぶとしても、練習はどうすれば?」

 

『そうですね。信頼出来る特定の数人の前であれば大丈夫でしょうが、現在の時空管理局の様な、不特定多数……しかも、何が入り込んでいるかも分かっていない場所での練習は、避けた方が良いでしょう。練習場所については……』

 

 システムがそこまで語った時、ルティシアの身体がピクリと反応した。

 

 主人である少女のそんな動きを気にも止めず、システムは話を続ける。

 

『ここの二階にある鍛練室をご利用下さい。鍛練に必要な機能が充実していますし、僅かな時間でも充分な効果が得られるでしょう』

 

「へ~……。じゃあ、フェイトちゃんも一緒に……僅かな時間?」

 

 飲物を飲みながら素直に感心していたなのはだったが、何かが引っ掛かった。

 

『室内での一時間の鍛練は、外では一分にしかなりません。その為、ほんの僅かな時間でも、外で鍛練するよりは遥かに効率は上がりますし、合わせた訓練メニューもご提供出来ます。一分二分あれば』

 

「ルティちゃん、ちょっと聞きたいことが……っていない!?」

 

「え、いつの間に?」

 

 なのはが横を見てみれば、さっきまでそこに居た妹の姿は無く、近くには空っぽになった空き瓶とケースが置かれていた。

 

「あはは……、そうだったね。小さい頃は、二人きりでよくかくれんぼをしていたよね」

 

「な、なのは?」

 

 虚ろな笑いと共に一人喋り始めたなのはを、フェイトが怪訝そうに窺う。

 

「家の中に居る筈なのにそんな気がしないことが、な ん ども有ったけど……」

 

 なのはに伸ばそうとしたフェイトの手の動きが途中で止まった。親友の瞳から、ハイライトが消えたのを見て。

 

「でも、ルティちゃん」

 

 ゆっくりとした動きで向きを変え――。

 

「私からは逃げられないって、忘れたのかな?」

 

 ゆっくりと……不思議な程ゆっくりとした速さで、一段一段を踏み締める様に、小屋の入口から入って右に設置されている階段を上っていく。

 

「な、なのは!?」

 

『では、続いて天使の方についてです』

 

 姉妹や驚きの声を上げるフェイトを余所に、頭上からは通常通りのシステムの声が聞こえてきた。

 

「あなたは本当に気にしないね」

 

『それが私ですから。セントジュエルには、余り悪影響は与えない方がいいとは思いますが、あの程度なら問題無いでしょう。エンジェルですが――』

 

 四人分の魔力の実と回復薬を用意していたフェイトが漏らした声を、やはり軽くシステムは流す。

 

『こちらにはプリンセスの様なフォームチェンジは無く、そのままの状態で力を発揮することが出来ます。エアフォームよりも全体幅の能力の引き上げがあり、特化フォームには劣ってしまいます。ただ、そこは補助効果の使い方次第で埋められる範囲ですね。ただ、フレイムフォームでさらに特化……という型の場合は無理ですが』

 

「つまり、今のままの戦い方が出来る……で良い?」

 

『はい。天使化による補正や補助効果もありますから、持ち味を活かしつつ、さらにブレの無い安定した強さが天使の強味ですね』

 

「大きく変わらないのは良い。咄嗟の時に、迷わなくていいから」

 

『……フェイト』

 

 一人ごちたフェイトに、不意にシステムの話し方や雰囲気……らしきものが変わる。

 

 そして、フェイトには聞き覚えがある口調だった。

 

 以前、ジュエルシードを集めていた時、なのは達に協力を要請した日に――。

 

『フェイト、決して忘れないで。セントジュエルとエンジェルシード……今はまだなれなくても、セント☆プリンセスとガーディアンエンジェルの力を。常に考えて……何の為に振るい、誰に振るうのかを』

 

「システム? あなたはいったい……」

 

『誰もがハッピーエンドに辿り着けるわけじゃ無い。常に取捨選択の日々。誰かの幸せの為に誰かが不幸になる。何かを得るために、何かを犠牲にする。それは人間も、守護する者達も、変わらない――宿命』

 

 フェイトの問いには答えず、“彼女”は独白を続ける。

 

『それは魔族も、冥魔とて変わらない。生きる存在全てが完全ではなく、それぞれが欠けた――虚ろな何かを抱える。だからこそ、自らの欠けたものを埋められる何かを、皆求める。それが、人と神、竜、魔……種族を越えた時を、調和――理想と呼ぶ。それは、果てしなく難しい道』

 

 その独白を、何かを伝えようとしているシステムの話を、ただ静かにフェイトは耳を傾けていた。

 

『ミッドチルダ――管理局が目指したのはそんな世界。しかし、一部の者がそれを歪めてしまった。歪みを助長させる存在と手を組んだことが、悲劇を進ませてしまった。あなたのお母さんや、一部の者が変えようとしているのはそんな場所』

 

 話を聞いて脳裏に浮かぶのは母と、自分達を助けてくれた人々。

 

「母さん……リンディさん……クロノ」

 

『悲劇を、悲しみを減らしたいと願うのならば、決して一人では抱えないで。あなたには、共に歩む仲間がいる。それだけで、人はどこまでも強くなれる。ソウルは……魂はどこまでも輝き、燃える。人だけが持つ、一番の可能性という強さ』

 

「仲間……魂……」

 

『あなた達が常に共に在り力を合わせ続ける限り、必ず道は開ける筈。諦めず、最後まで希望は捨てないで。あなた達が持つ力は、希望そのものなのだから……』

 

「希望……」

 

 システムの話を深く心に刻み込む。決して忘れない様に……。

 

「あれ、フェイトちゃん? どうかしたの? ボーッとしていたけど」

 

「え……なのは……と、ルティ」

 

 不意にかけられた声に、慌ててそちらに振り向いた先にはなのはと、後ろ向きに腕を引っ張られているルティシアの姿があった。

 

「大丈夫ですか、フェイト? まさか、システムが何か?」

 

「あ、ううん……何でもない。エンジェルの話を聞いていただけ。むしろ、ルティが大丈夫?」

 

 訝しげなルティシアには首を振って否定を返し、大丈夫とは思うが逆にその姿を心配する。

 

「大丈夫というよりも、自分の場所の筈がアウェーの気がするのは、何故でしょうね」

 

「何となく気配を感じて追いかけたら、壁に隠し部屋って書かれていたんだよ」

 

 溜め息を吐くルティシアと、逆に楽しそうななのは。

 

 その二人を見て、フェイトも知らず笑みを浮かべていた。

 

「このシステム、やはり何か問題があると思うのですが……」

 

「え~、良い……機械……? だと思うけど」

 

「うん。彼女は、わたし達の事をいつも気にかけてくれてる」

 

 どこか恨めしげな目を頭上に向けるルティシアに、二人からはシステム擁護の声。

 

 それを聞いて、竜の少女はさらに溜め息を吐く。

 

「あ、フェイトちゃん。エンジェルの話も聞きたいな」

 

「うん、じゃ眠る時に話すね。システムから聞いた話も一緒に」

 

 少女達二人の楽しそうな様子を、“彼女”は微笑ましそうに見つめていた。

 

「それにしてもフェイト。 かなり手際良く薬品や飲物、管理局にいる四人分の薬品を用意しましたね」

 

「ここは慣れているから。使い勝手も良いし」

 

「へ~……その話もゆっくりと聞きたいな」

 

「「あ……」」

 

 それに“苦笑”を浮かべながら、“彼女”の意識は消えていった。

 

『マスター。必要と判断しましたので、予備のガンビットを用意しておきました』

 

「あ、ありがとうございます。今は四基以上は扱えませんが、今後を考えるとそうも言っていられませんしね。心・技・体を鍛え直さなくては」

 

 近くからせり上がってきた台座の上には四基のガンビット。

 

 なのはの視線を避ける様に、それを別空間となっている自身の武器収納スペースに仕舞う。

 

『それと聖衣ですが』

 

「はい」

 

『修復の方は順調に……いえ、想定よりも早すぎる速度で進んでいます』

 

「早すぎる……ですか?」

 

『これ以上の事は分かりません。非科学的な事は専門外なので』

 

「あなたの話は時々非科学的なものがあるような……」

 

『気のせいです。何かきっかけでもあれば、また変わってくるでしょうが』

 

「きっかけ……ですか。分かりました、何かあるのかもしれませんし様子を確認しておきます。まだ教わる事がありますので」

 

 システムの話で気になる部分はあるものの、それ以上の事は今は分かりそうに無いと判断し、今は様子を見るに留める。

 

 そんなルティシアに、かかる声が二つ。

 

「ルティちゃん?」

 

「ルティ?」

 

 以前の騒動を二人が忘れる筈も無く。

 

 

「分かっています」

 

『ああ、マスターの血では多少の効果しか無いかもしれません。完全に死した聖衣に、当時のシャインネル隊長が自身の血を使っております。今のマスターよりも、コスモに目覚めている状態で』

 

「隊長が……?」

 

 神竜族に最も近いと言われる種族の血なら、自身のよりは遥かに効果があった筈だ。

 

『さらに上となると、神の血を用いる位ですね』

 

「身近には居ません。それに、国を維持して下さっているセフィルス様や王女様方に何かあれば、セイティーグが危険になります」

 

 よって、そのプランには賛成出来なかった。

 

「別の何かを考えます。修復のペースが上がっているなら、血を使う必要も無いかもしれませんしね」

 

『現状はそれで良いかと。また何かあればお伝えしますので』

 

「分かりました」

 

『では、デバイスの修理が終わればまたお越し下さい。魔宝石を組み込む作業もありますので』

 

「「はい」」

 

『後、遮断していますが、先程からクロノという人物からひっきりなしに通信が入っておりますが、どうしますか?』

 

「「「あ」」」

 

 その後、戻った三人をクロノとリンディからのお説教が待っていたのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

「くすくす、彼女達に願いを託す……か。君らしいよ、『無限の願い』」

 とある公園を見下ろしながら。

 

「それがどんなに大きな悲しみをもたらそうとも、それがどんなに大きな苦しみをもたらそうとも、君は全ての悲しみを紡ぎ続ける。この世に生きる全ての者に希望を与える為に」

 

 ある一点だけを見つめて。

 

「僕は全ての悲しみを終わらせる。それがどんなに大きな悲しみをもたらそうとも、それがどんなに大きな苦しみをもたらそうとも、叶えられなかった願いに安らぎを与える為に」

 

 楽しそうに笑いながら話す少年。

 

「心を与えてくれた主を助けたい守護騎士、過去に仕えた主を取り戻したい闇の騎士、今の主との日々を取り戻したい闇の騎士。そして、虎視眈々と力を狙う者。君が願いを託した者達は、どんな道を選ぶかな?」

 

 

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