魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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(注):(おそらく)今回のみの、若干のキャラ崩壊表現があります。
 
 
 




その60 日常――ささやかな約束

 その日、聖祥小学校では終業式が行われ、子供達待望の夏休みへと突入した。

 

 夏休み中の予定について喋る子供達の姿があちこちで見かけられ、その中には六人の少女達の姿もあった。

 

「……んーっ! ようやく夏休みね!」

 

「あはは、アリサちゃん、ちょっと前までは暑そうだったのに、元気だよね」

 

「一年中という気もしますが」

 

「当然でしょ、すずか。今からが本番……って、ルティシア! こっそり何か言ったでしょう!?」

 

 夏休みということでテンションが上がっているアリサに、すずかは笑いながら、ルティシアがそれに隠れる様に呟いた。

 

 窓ガラス越しに注ぐ夏の太陽光は、卒業式を終えた後の教室を、容赦無く熱している。

 

「なのはは何か予定が決まってるの?」

 

 生徒の数が疎らになってきた教室内。下敷きで自身を扇いでいるなのはの隣の席で、荷物をまとめていたフェイトがその手を止めて、訊ねた。

 

「えーと……特に無いかな? でも今年は練習と、あの人達の事が気になるかなって。フェイトちゃんは?」

 

「わたしも。今クロノやユーノ達が調べているから、そのお手伝いが出来たら良いかなって考えてる。それに嘱託の件もあるから、こちらで何も無いようならリンディさんに聞いて、そっちも頑張ってみようかなって」

 

「そっか……。私は、魔法の事をみんなにヒミツにしているから……。フェイトちゃんのお手伝いも出来たら良いけど」

 

「大丈夫。それに今は、こっちで起きている事件の方が優先だから。何か手がかりでもあれば良いけど」

 

 少し落ち込んでいるなのはに、気にしないように伝えながら、フェイトは忘れ物が無いか机の中を確認していた。

 

「夏休みって長い間遊んで良いんだよね!? わ~、何しようかな」

 

 他のクラスメートと話していたアリシアが、五人の所に戻ってくるなりそんなテンションで、あれこれとやりたい事を脳内で挙げていっているようだ。

 

「う……うん。そうだけどね、アリシアちゃん。遊ぶだけじゃなくてね、夏休み中にもしゅくだ……」

 

「そうよ、アリシア! 夏という季節を思う存分楽しむための休みなのよ!」

 

 夏休みについての補足をしようとしたすずかを遮って、アリサが乗り出してきた。

 

 二人はグッと拳を握りあって――。

 

「なるほど! じゃあ、思う存分遊ばないと損だよね、アリサ!」

 

「その通りよ! しっかり有効利用しないと、来年まで待つことになるわ!」

 

「ご利用は計画的に、だね! 後悔しないように、プランを練らないと!」

 

 

「あ、アリサちゃん? アリシアちゃん? 二人ともしっかりして!?」

 

「アリシア……?」

 

「ふ、二人とも、テンション高いね……」

 

 段々赤くなって、文字通りのヒートアップを体現し始めた二人。

 

 すずかが慌てて止めようとするも、声は聞こえていない様だった。

 

 そんな二人を、扇いでも熱風が届く事にぐったりとしたなのはと、姉のそんな状態に呆然としてフェイトが見つめていた。

 

「暑すぎて、テンションが上がり過ぎたのですね。二人共、落ち着かないと倒れても知りませんよ?」

 

 姉の分の荷物もまとめながら、ルティシアは溜め息を吐いた。

 

「「あははハハハは……!? きゅー……」」

 

「あ、アリサちゃん、アリシアちゃん!?」

 

 肩を組んで高笑いをあげていた少女達は、そのまま倒れてしまった。

 

 真っ赤な顔で目を回している二人を、慌ててすずかが介抱する。

 

「やはり……」

 

「ルティシアちゃん、納得していないで手伝ってー!? なのはちゃんは……」

 

 倒れた二人を見て何故か頷いているルティシアに、すずかは悲鳴にも似た声を上げ……。

 

 いつもなら自分と一緒に助け起こしている筈の人物が、今回は来ていないことに気が付いてそちらを見れば――。

 

「バタンキュー……」

 

 机に突っ伏して目を回しているなのはの姿があった。

 

「って、なのはちゃんも!?」

 

「何か飲物買ってくる」

 

 この場を任せて、フェイトが教室を飛び出していく。

 

「今年の夏は、賑やかになりそうですね……」

 

「ルティシアちゃん、達観していないで手伝ってー!?」

 

 窓の外を見つめて一人ごちていたルティシアを、すずかが必死に呼びかけていた。

 

 三人を陽射しが当たらない場所へとルティシアとすずかが移動させ終わった頃に、スポーツ飲料の類のペットボトルを抱えたフェイトが戻り、三人の世話を焼くのだった。

 

 

 

 

 

「あ~……酷い目にあったわ」

 

「日本の夏は酷いって聞いたけど、本当に凄いんだね」

 

 とんだ一幕は有ったものの、六人揃っての下校。アリサとアリシアは並んで先頭を歩きながら、追加で買った冷たいジュースの缶を頬に当てていた。

 

「さっきのは夏だけの問題でも無いような気がするんだけど……」

 

「間違っていないと思いますよ、すずか。夏場にあそこまで熱狂したのは二人なのですから」

 

 最後尾を歩いているすずかは、責任を暑さに押し付けている二人に首を傾げ、倒れた三人の分の荷物も持ったルティシアはそんなすずかに同意を示す。

「ルティシアちゃんは平気? 炎天下の中を大荷物だけど……」

 

 すずかやフェイトも持とうとしたのだが、ルティシアが大丈夫ですからと、そのまま持ち運んでいた。

 

「これ位でしたら平気です。暑さも重さも」

 

 暑さは生まれが生まれな為に感じずに、重さも大したことは無かった。事実、いつかのはやての買い物の方が遥かに重かった。

 

「いいな~……ルティちゃん」

 

「なのは、大丈夫? ルティは代わりに駄目なものもあるから」

 

 足取りの重いなのはを支えながら、歩くフェイト。冷やしたハンカチをなのはに当てていたが、すぐに熱くなったため吹き出る汗を拭うのに使っていた。

 

「ルティシアの駄目なもの……なるほど! プールでも行く?」

 

「学校帰りの寄り道はどうかと思います」

 

 これは名案! とばかりのアリサの提案を、間髪置かずにルティシアが否定する。

 

 当然、それでアリサが収まる筈もなく――。

 

「あんたも四月に行ったでしょうが!」

 

「それに、同じ事を考える人で混雑していると思います。泳がずに温くなった水に浸かるだけなら出来るかもしれませんが、プールでの目的は果たせないかと」

 

「む~……」

 

 ルティシアが指摘したポイントへの反論を、熱に溶けた状態では思い付かず……結果唸るだけであった。

 

「くっ……何か思い付いたら呼び出してやるんだから……! 覚えてなさいよ!」

 

 一度足を止めてまで、ビシィッ! とルティシアに指を差しながら。

 

「アリサちゃん、それじゃ悪役だよ~……」

 

 どこかノリノリな親友に、すずかは律儀にツッコミを入れる。

 

「高笑いでも上げたら完璧ですね」

 

「これで勝ったと思わない事ね! おーっほっほっほ……!」

 

「また倒れますよ、アリサ」

 

 わざわざやり直すアリサに、ルティシアは溜め息を吐いた。

 

「ねえねえ、フェイト。私もアリサみたいにやった方が良い?」

 

「やめた方が良いと思う。狙撃した後に笑っていたら、位置が知られる」

 

「戦いの時じゃなくて普段の話なんだけど……」

 

「母さんやリニスが倒れるかもしれないから、やめて」

 

「え~……」

 

「え、やってみたかったの……?」

 

 心底残念そうなアリシアの様子に、フェイトの表情に困惑の色が広がる。

 

「とりあえず、今日はどうするのよ?」

 

「あ、じゃあ翠屋はどうかな?」

 

「さんせー!」

 

 温くなった飲物を一気に飲み干しながらのアリサの問いに、すずかが控え目に提案する。

 それにはすぐにアリシアが挙手をし、アリサも良いわねと賛意を示す。

 

 アリサの視線を受けたフェイトも頷いていた。

 

「わたしも賛成。なのはは、大丈夫?」

 

「ふぇー……」

 

「賛成、とのことです」

 

 なのはの代わりにルティシアが答え……、そしてアリサから悪戯めいた視線が向けられている事に気が付く。

 

「アリサ、どうかしましたか?」

 

「学校帰りの寄り道だけど、良いのかな~?」

 

「問題ありません」

 

 キッパリと言い切る。その欠片も迷わずに言い切った姿に、アリサの頬が引きつる。

 

「あんたね……さっきは渋ったでしょうが!?」

 

「少なくとも、プールと違って確実に目的が果たせますから」

 

「そんな事言ってるけどね……あんた、自分がプールが嫌で、チョコドリンクを飲みたいだけでしょう?」

 

「もちろんです」

 

 再度、キッパリと言い切った姿にアリサは地団駄を踏み、こちらも再びルティシアに指を差す。

 

「むきー! はっきり言ったわね!? 見てなさいよ、いつかその涼しい顔を苦痛に歪ませてやるんだから!」

 

「だから、アリサちゃん悪役みたいだってば~……」

 

「「おーっほっほっほ!」」

 

「アリシア、真似しなくて良いから」

 

「二人とも、辿り着く前に倒れますよ?」

 

 炎天下の中で、並んで高笑いを上げる少女達。止める方も徐々に疲れが溜まってきていた。

 

 暫し、間があって――。

 

「ねえねえ、フェイト」

 

 高笑いを止め真面目な顔で、アリシアがフェイトを呼んだ。

 

「何、アリシア?」

 

「やっぱり、私には似合わないと思うんだ」

 

「うん、分かってた」

 

 妹にはあっさり否定されたがそれを余り気にしていないアリシアは、自分だけの何かを……とぶつぶつと一人言を始めた。

 

「あ、みんなに相談があるんだけど」

 

 そんな中で、すずかが控え目にある事を告げる。

 

「何よ、すずか?」

 

「何でしょうか?」

 

 他の三人もすずかに注意を向けていた。

 

「あのね、来月の夏祭りに、はやてちゃんも誘ってみんなで行かないかなって」

 

 

     ※ ※ ※

 

 

「……うん……うん。じゃ、その日を楽しみにしとる。ありがとな、すずかちゃん。うん、また晩にメールする」

 

 通話を終えて、旅行前に購入したばかりの携帯電話を大事そうに撫でている、車椅子に乗った少女――はやて。

 

 浴衣姿のはやては、室内に置かれた和椅子の上でぐったりとしている、赤髪の娘の片割れの所へ。

 

 はやてが近寄っていくと、閉じていた目を開けノロノロとした動きで、はやての方へと顔を向けた。

 

「起こしてしもうたかな?」

 

「……寝てないから、大丈夫」

 

 申し訳なさそうなはやてに、赤髪の少女――メーアは首を横に振る。

 

「……すずかが、何か?」

 

「来月の夏祭りに、みんなで行かん? ってお誘い」

 

「……夏祭り?」

 

 首を傾げるメーアに、この街のイベントやと教える。

 

「土曜と日曜の二日あってな、特に日曜の花火が凄いんやで? この間、誕生日会に来てくれたメンバーに二人増えたそうで、その子達も一緒らしい」

 

 楽しみやなと言っているはやてに、メーアは固い口調で問いかけた。

 

「……はやて、それはいつ頃?」

 

「えっと……」

 

 室内の壁に掛けられたカレンダーを確認し――。

 

「今年は、二十七と二十八日やな」

 

「……そう」

 

 気落ちしたかの様に声が落ちたメーアを不思議に思うが、思ったよりも遠かったんかな? と思い直したはやては、少しだけ明るい声を出した。

 

「それにしても急やったな、メーアちゃん。疲労困憊やなんて。ヴィータとはしゃぎすぎたんかな?」

 

「……仲間との価値観の差による軋轢と、自分との戦い」

 

「ん? ごめん、聞こえへんかった。何やて?」

 

 息を吐くかのように小さくこぼした一言は、はやてには聞こえなかったようだ。

 

 聞かれても困るので良かったわけだが、それなのに言ってしまった自分は、思った以上に疲れていたようだと気を引き締める。

 

「……何でもない。ヴィータの体力が予想以上だった、と言っただけ。さすがは何とかのかんとか騎士」

 

「闇の書の守護騎士、な」

 

 メーアの大雑把な言い方に、はやてが苦笑しながら訂正する。ほんまは覚えてたんやろ? という言葉に頷かれ、こらー! とやや乱暴にその赤い髪の頭部を掻き乱す。

 

 そうして、二人で少しの間じゃれあった後、はやてが苦しそうな表情を浮かべる。

 

「……はやて?」

 

「やっぱり、あの闇の書云々という話はほんまなんやろか……? 他人様の魔力を奪って、とか……」

 

「……少なくとも、事実に足るとしか言えない」

 

 苦悩するはやてに、メーアも考え込みながらも答えた。

 

「どういう意味?」

 

「……少なくとも、真夜中に非常識な現れ方をしたこと。少なくとも、“こちら”の技術であれらの出来事は出来ない――」

 

 ――あの誕生日を迎える日の深夜。

 

 日付が変わると同時に、“目覚め”た一冊の本。

 

 明滅する光が部屋を照らし――幻想的とも言える光景の中、恐怖でメーアの後ろに隠れて震えていたはやて。

 

 やがて二人の前に浮かび上がると、何かが内側から飛び出すかの様に脈動を繰り返した後に、書を縛っていた鎖を弾き飛ばしながら開かれた。

 

 開かれた書は光を放ちながら自然に頁を捲り始め、突然に閉じられる――。

 

《anfang》

 

 ――起動、の一言と共に先程までよりも強い光を放つと、はやての胸元――リンカーコアがそれに共鳴するかの様に輝き始める。

 

「ひっ!?」

 

「……はやて、落ち着いて」

 

「お……落ち着けかて……!?」

 

 悲鳴を上げる少女の前で、今度は幾何学的な紋様が描かれる。

 

 そこから白い光が吹き上がり――。

 

 光が収まった後には、紫色の紋様――魔法陣

と、それを背後に片膝を着き、少女達の方に……否、主たるはやてに頭を下げる四つの人影があった――。

 

 

「――……私もはやても夢を見たわけじゃない。彼女達もここに居る。幻なんかじゃない。彼女達は主を護る守護騎士で、主がはやて。少なくとも、そこに偽りは無いと思う」

 

「せやかて……」

 

「……少なくとも、シグナムさんやヴィータは嘘はつけない。そんな性格でも無さそう」

 

「まぁ、シグナムは騎士道というか武士道な感じやけど……」

 

「……闇の書の蒐集云々は、どうでも良い」

 

「どうでもって……」

 

 シグナム達が聞いたら怒りそうな事を、平然と言ってのける事に困惑する。

 

「……大事なのは、はやてのこと。蒐集するしないで、はやてに悪い影響が出ないかどうか」

 

「メーアちゃん。他人様の力を奪って、私に良いことがあるとかやったら絶対に許さへんよ?」

 

 いつものほんわかした顔ではなく、本気で怒りを滲ませながら。

 

 そんなはやての顔を見ながら、メーアはどこか辛そうにする。

 

「……はやて、私の想定は別」

 

「別?」

 

「……例えば、今のまま放置すればはやてが危険……命に関わるとすれば?」

 

 メーアの指摘に、はやては言葉が詰まり、息を呑む。それでも、己の矜持と意思で言葉を紡ぐ。

 

「そ、それは……それでも他人様のはあかん!」

 

「……はやてはそう言うと思った」

 

「え……?」

 

 あっさりと頷かれ、拍子抜けするが――。

 

「……でも、私は嫌」

 すぐに強い否定が返ってくる。普段、はっきりと意思表示をしない少女の言葉。

 

「メーアちゃん……」

 

「はやてに拾われて、一緒に暮らし始めて、思い出す気も、覚える積もりも無かった私は、楽しさを知ってしまった。思い出してしまった……。そして、それが失われるのは、私は嫌。シグナム達も同じだと思う。助けられる道があるのに、見捨てるという選択肢は、無い」

 

 それは初めて見る姿。勢いで一気に……どこか迫力を持って話す姿に、はやては気圧された。

 

 はやての様子に気が付いた少女は、呼吸を調え普段の調子を取り戻した。

 

「……今のはあくまでも例え話」

 

「い、いや、えらく鬼気迫る感じやったけど……?」

 

 驚いたせいか、はやては心臓に手を当てていた。鼓動がかなり速いのを、懸命に落ち着かせようとする。

 

「……例え話だから。でも、それを仮定として、私なら別の手段を考える」

 

「まだ続けるん……って別の?」

 

「……他人様に迷惑をかけたら駄目なんだよね?」

 

「当たり前やろ? 迷惑をかけたらあかん……ってまさか……」

 

 驚きの表情を浮かべた少女に、小さな頷きが返される。

 

「……私なら、迷惑にならない相手を探して、借りたり貰う。誰の迷惑にもならないなら、文句は無いよね?」

 

 口を開閉させるも言葉が出ない少女に聞こえないように、メーアは瞑目しながら口の中で謝っていた。

 

 私はきっと、その夏祭りに生きて一緒に行くことは出来ないから……と。

 

 

 

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