魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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台詞で説明回……


長文会話が多くてすみません。
 
 



その62 未知を既知に その2

 

 

「何よりも、まずは情報を集める」

 

 クロノのその指示に従って、分担してロストロギア――闇の書についての情報収集が開始された。

 

 これまでにも、度々現れては災害をもたらした闇の書については、管理局の方にもデータとして保管されていた。ただ、そこにあるデータはあくまでも表面的なものでしかなく、クロノが求める様な詳細なものでは無かったのだ。

 

 では、どうするのか?

 

「情報は、ある所にはあるものだ。どんなものであれ、僅かな手がかりが」

 

「それで、貴方からすれば敵である私から、情報を得ようとするのは如何なものかと思いますが」

 

 クロノの前で、瞑目した少女――“冥智王”アシェラは溜め息を吐いた。

 

「あ、いたいた。リニスー、エスロいる?」

 

「ちょっと聞きたいことがあって」

 

 フェイトとアリシア、アルフは技術部の一室に向かった。アースラの改修が終えるまでの間、そこにいるエスロ――闇の書らしきものが写っていた画像を持ってきた人物に、コンタクトを取るためである。

 

「へー、便利な魔法だねぇ」

 

「スクライアの一族にとっては本業の一つですから」

 

「いつか、無限書庫勤めを勧められるかもしれないわ」

 

 ユーノは、クロノの知り合いで魔法や近接戦闘の師という二人の人物と共に、無限書庫に籠っている。クロノとしてみても、この無限書庫に一番期待をかけていた。

 

 

 ルティシアとなのはは現在管理局にはいない。別の手段で情報を調べるというルティシアに、何故かなのはが同行したからである。

 

「セイティーグとその関連世界には現れていないと思いますが、変に知識を持っている者に心当たりがあります」

 

「色々知っていそうだよね、システム。ルティちゃんが調べている間、私は鍛練室で練習してるね」

 

「気が付いたら、姉さんとフェイトに拠点が占有されている気がしますが……気のせいでしょうか?」

 

 エイミィは引き続き、アースラスタッフが借りている部屋に籠っていた。

 

 闇の書と関連がある人物達が現れないかを捜索しながら、それぞれから寄せられる情報をエイミィが整理して纏めていく。

 

 そして、クロノが情報源として考えたのが、目の前にいる人物である。

 

 アシェラとはお茶仲間らしい母――リンディに連絡を取り彼女の呼び出しを頼んだ。ただ、呼び出しに応じるに当たって場所の指定があった。

 

 それが――。

 

「その前に聞きたい。何故グレアム提督の部屋を指定した? 君は提督の事を知っているのか?」

 

 部屋に居るのは四人。テーブルを挟んで、応接のソファーに四者が向かい合って座っている。クロノと、一緒に来たリンディ、アシェラ、そして――ギル・グレアム提督。彼の私室である。

 

 

 彼もまた、11年前に起きた闇の書事件と関わりがあった。クロノもリンディもその事はもちろん知っている。クロノの父――リンディの夫であるクライド・ハラオウンが亡くなる原因となった当時の闇の書事件、グレアムはその指揮を執っていたのだ。

 部下で、かつ知人でもあったクライドを死なせた事で、彼はずっと自責の念に捕らわれていた。

 

 闇の書についての情報を得ようとした所でこの指定。やはり彼女は“関係”していると、クロノは確信を強めた。

 

「そうですね、知っていますよ。私達がここに足掛かりを築くために協力して貰いましたから」

 

「協力!? どういう事ですか、提督?」

 

 瞑目したまま湯気立つ紅茶を含みながらのアシェラの話を聞いて、クロノがグレアムに厳しい視線を向ける。

 

「彼女の事を知っているのですか?」

 

「……ああ、知ってるよ。人では無い、何かという事もな」

 

 内からの、何らかの決意が滲み出るような淡々とした口調だった。

 

「でしたら……」

 

「それに、協力ではない。取引だ」

 

「取引……ですか?」

 

「そうだ。闇の書の完全な封印、もしくは、二度とそれによる被害が出ない様にすることを条件に、な」

 

「闇の書の完全な封印……ですか?」

 

 怪訝そうなクロノに、アシェラが付け加える。

 

「封印も出来なくはありませんが、被害を出さない様にする、で手をうって貰いました」

 

「どう違う?」

 

「封印ではいつか解けてしまいます。私達としてはそれでも構いませんが」

 

「解けてまた被害が出ました、それではこっちも困るでしょう? だから、それ以外の方法を聞いていたのよ」

 

 リンディが緑茶に角砂糖を入れながら、クロノに説明する。

 

「それに、気になる話もあるしね」

 

「気になる……ですか?」

 

 リンディの視線を受けて、アシェラはティーカップをテーブルに下ろした。

 

「闇の書。正式名称は“夜天の魔導書”」

 

「夜天の魔導書?」

 

「そう。様々な技術を収集し記録、それを研究するための収集蓄積型のデバイスです。主と共に旅をする機能から、旅する魔導書とも呼ばれていたようですが。それらに加えて、復元機能を備えた魔導技術の資料本。それが、本来の夜天の魔導書」

 

 第一級捜索指定遺失物が、元はただの研究デバイス。クロノはその事実に内心驚きを隠せない……が、表情には出さずその先を促す。

 

「それが何故?」

 

「歴代の持ち主の中に、書の機能を改変することを思い付いた者が、複数いたからです。それが意図されたものか、偶発的なものか、結果としてそれらによって変化が起こりました」

 

 プログラムが改変されていく内に元の姿が失われ――。

 

 旅する機能が転生機能に。

 

 復元機能が無限再生機能へと。

 

「闇の書が破壊できなくなった訳か」

 

「持ち主以外によるデバイスシステムへのアクセスは受け付けず、無理矢理外部アクセスを行えば持ち主を取り込み転生を行う。その特性によって、今まで暴走を阻止出来なかった訳です。良く出来た物ですね」

 

「ほめなくて良いから続きを」

 

「拙速過ぎても駄目ですよ? ただ、破壊する事自体は過去にも成功しています。すぐに、次の書を扱う適性を持つ誰かの元へ転生しますが」

 

 アシェラはそこで一度言葉を区切ると、テーブルの上のカップのふちをなぞる様に触れた。

 

 カップの中から光が放たれ、中空に映像を浮かび上がらせる。そこに映っているのは茶色い外装の本――闇の書。

 

 本が開き、ページがゆっくりと捲られていく。

 

「ご存知かも知れませんが、書を完成させる為にはリンカーコア――魔力の源を蒐集すること。六六六ページ全てを埋める事が必要になります。この際の注意が、一つのリンカーコアから蒐集出来るのは一度きりという事です。蒐集は人間だけに限らず、他の生物であっても可能です」

 

「あれの目的はその為か」

 

「あれ? クロノどういう事?」

 

「実は……」

 

 短くまとめられた説明を聞いて、リンディは成程ねと答えて考え込む。

 

「それにしても変ね。書の守護騎士だけなら分かるけど、どうして魔族まで……」

 

「事情が複雑に絡み合っている。そういうことです」

 

「君はそれを把握していると?」

 

「続けます。リンディには話したのですが、書の魔力蒐集、これには副作用があります。一定期間蒐集が行われないと、主自身のリンカーコアを蝕み、命を奪うという効果が」

 

「なに?」

 

「以前、アシェラさんに聞いたの。闇の書を止めるには、主を確保すれば良いのかって」

 

 アシェラの話を聞いて、クロノが見たリンディの表情は沈痛そのものだった。

 

「力を得るために蒐集をした者も入れば、詳しい事情を知らずに始めた者も居るでしょう。ですが、中には死にたくないからやむを得ず始めた者も居たのです。例え完成しても、書のプログラムが壊れている為に結局は……。闇の書と言われる訳ですね」

 

 沈黙が室内に降りた。

 

「……だからこそ」

 

 ここまで静かに話を聞いていたグレアムが、何の表情も浮かべず口を開いた。

 

「今回でそれを終わらせたい。その為に手段は」

 

 

 内なる感情を浮かべない様にして、グレアムが言い切る。

「選ばない」

 

「グレアム……提督?」

 

 その様子に、何かを感じたクロノがその事について問う前に、アシェラが画像を切り替える。輪郭をぼかした人らしき姿が映っていた。

 

「今回の主である少女は、蒐集を望んではいません。それは守護騎士達にも伝えてありました」

 

「なに? 現に今、蒐集らしき行為が行われて、なのは達は魔力を奪われているんだが」

 

「その時、誰かが言っていませんでしたか? 襲う予定ではなかった、と」

 

 クロノの脳裏に浮かぶのはローブ姿の女。結局は彼女とも刃を交わしたが、仲間である他のメンバーとは終始言い合いをしていた。

 

「複雑な事情というのはここです。今回、守護騎士達が蒐集を始めたのは、主に指示されたからではありません。先程伝えた様に、禁止を命じていましたから」

 

「ということは……まさか」

 

 クロノに頷いて見せるアシェラ。クロノの表情も少し暗くなる。

 

「彼女の身体は、蒐集を行わなかった事で蝕まれ、命を落とす事になります。彼女と共に家族として暮らす事を望まれた騎士達は、本来ただの守護騎士“プログラム”にしか過ぎなかった騎士達は、急速に人間らしく成長し、変化していきました。その近くで潜んでいた者も一緒に。主の指示を破る、騎士としてこれ以上無い泥を被ってでも、主を助けたい。その一心で」

 

「待て。書を完成させても助からないみたいな事を言っていたが、守護騎士達には主を救う算段があるのか?」

 

「恐らくですが、無いでしょうね。書のプログラムが壊れていると言いましたが、それは守護騎士プログラムにも影響しています。記憶の欠如、それにより完成したらどうなるかを知らないのです。完成したら、主の少女が助かる――それだけを信じて」

 

 

 

「システム、魔族達はどうなのですか? 庭園のザハク達、あれらもジュエルシードを何かに使おうとしていましたし、今回の三体もそうです。蒐集をした所で、あの者達には関係ないのではありませんか?」

 

『そこです、マスター。魔族……と言っても前回と今回で関与していのは、一勢力の円卓の騎士ですが。かの者達の主人が書の中に封じられているのです』

 

 拠点の中で、システムから話を聞いていたルティシアは、それを聞いて今までの円卓の騎士達の言動を思い起こしていた。

 

『良くある魔族同士の争い。過去の書の主を利用して、その機能の一部を用いて封じたのです。円卓の騎士達の目的は、主人を取り戻す事。一部の過激なメンバーは、夜天の主を殺して取り戻そうとしましたが失敗に終わります。やがて、騎士達も分担を始めます。魔界で本拠地を守る者、その技術を知るために潜入する者、利用出来そうな者に取り憑く者』

 

 機械であるシステムが、まるで嘆く様に言葉を発する。

 

『ザハクは途中から諦めて、自らの力を増す事に傾いていましたが。ジュエルシードの事を知り、それを利用しようとしたのでしょうね。共に取り憑いていたサムスンは知識型の騎士でした。プレシア女史の知識からデバイスという物を知り、管理局に潜入していた者と情報を補いながら、夜天の書の知識を得ていった様です』

 

「そう簡単に得られるものなのですか? と、変に詳しいあなたに言っても無意味な気がしますが……。プレシアさんの知識が相当なものというのはフェイトやアリシアから聞いていますが、管理局のデータには余り書の事は書かれておらず、プレシア自身も書に詳しいとは思えないのですが」

 

『ラハブという円卓の騎士がいます。二つ名は“ひとつにするもの”。同化型の騎士で、違うのは身体を持っていない事。同化した者の知識や技術等を得る代わりに、その今までに得た知識や力を同化者にも与えます。厄介なのは、完全な同化のため判別がほぼ不可能な点や、状況によっては死者に同化して“蘇生”させる事。この者が、デバイスやそういった技術に詳しい知恵者に同化して、知識を得た可能性があります』

 

 言動を思い出しながらも、それを聞いてルティシアは溜め息を吐いた。

 

「識別不可能はかなり厄介ですね。私の使える術で駄目なら、専用の術を探さなくては……。ここにきて、魔法関連が次々来るとは思いませんでした」

 

『勉強頑張って下さい。ただ、ラハブは相当な変わり者でもありますから、主人の為とはいえ動いているかも分かりません。騎士としても、積極的な活動はしていませんから、戦力に数えられない事もあります』

 

「あなたが、表に出ていないらしい魔族側の情報に詳しい事に、疑問が浮かぶのですが?」

 

『乙女のヒミツです。では、肝心の闇の書の対処ですが』

 

「誤魔化しましたね?」

 サラッと話題を変えるシステムにルティシアが小声で呟くが、聞こえていてもいつも通りに“彼女”に流される。

 

『守護騎士達は現在の書の主を助けたい。円卓の騎士の“一部”は主人を手段を問わず助けたい。それとは別に、書の主も自分達の主も助けようとする者がいます』

 

「もしかして、それは……」

 

『想像通りかと。彼女が望むのはあくまでも理想。完成させたらどうなるかを、守護騎士同様知らない……いえ、知らされていないのです。彼女が動けばその分完成が早まりますから、完成させたい者には都合が良いですしね』

 

「では、止めないと……でも、止めれば」

 

『そう、書の主が死ぬのを待つだけです。それは、彼女や守護騎士が認めない結果。ゆえに、止まれません』

 

「八方塞がりですか。エリ姉様やローラが居れば良い案が浮かぶというのに……」

 

 思い浮かばない自身の不甲斐なさに、歯痒さを覚える。力だけではなく、幅広い知識を身に付けていく事をこれからの自身に課す事をルティシアは誓う。

 

『管理局としても書の悲劇を止めたいと想定し、かつ書の主人も助けるとして最も可能性が高いプランを提示します』

 

「プラン……あるのですか? 後、魔族の主人は良いのですか?」

 

『邪神を解放することになります。それは“私”も望みません』

 

「確かにそうですが、円卓の騎士全員が攻めて来ると、防ぎ切れないと思います」

 

『大丈夫です。少なくとも、魔界に残っている騎士達は動きません。保証します』

 

「いえ、ですから何故あなたが……」

 

『後、マスター』

 

「また、流しましたね? 何でしょうか?」

 

『確かに一人で出来るにこしたことはありませんが、絶対に必要というわけでもありません。出来ない事を補いあえるように、仲間が居るのですから。一人で、全部をする事はないのです』

 

 諭すように。

 

『それではプランですが、これには段階ごとに進める必要があります。まず……――』

 

 

 

「――……この様な手段をとることで、それぞれが望む結果になると思います」

 

 アシェラの挙げたプランに、一同が考え込む。

 

「確かに理想ではあるが……」

 

「でも、難しいわ。まず守護騎士達が協力してくれるかどうか……。話を聞いてくれるかどうかが」

 

「だが、私がとろうとした手段よりは遥かに良い。上手くいくなら、あの子も救われる」

 

「最上の結果を求めるのは難しいものです。しかし、だからこそ価値があるのでは?」

 

 悩む一同に、アシェラは話は終わりとばかりにソファーから立ち上がる。

 

「待て、君達が時の庭園で言っていた“次のゲーム”はこの件を指していたのでは無いのか? 君達、冥魔は何を企んでいる?」

 

 引き止めるクロノに、アシェラは瞑目したまま微笑んだ。

 

「うふふ、秘密です。ただ、こちらにも利点がありますよ? 言った筈です。“それぞれが望む結果に”、と。進めるかどうかは、貴方方次第ですが、時間はありませんよ」

 

 転移するのだろう、話しながら徐々に姿が揺らいでいくアシェラ。

 

「どうい……」

 

 立ち上がって追求しようとするクロノに、通信が入る。

 

『クロノ君、自然保護隊で調査していたフェイトちゃん達から連絡。現れたって!』

 

「くっ、これも掴んでいたのか!? 艦長、提督……?」

 

 アシェラが置いていたカップから映し出された画像には、五人に囲まれて幸せそうに笑っている、一人の少女の姿があった。

 

 







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