魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その63 交錯する願い

 

『マスター、サブマスターフェイトから連絡が入っています』

 

「システム。はぐらかさずに、表に出ていない筈の魔族の動向に詳しい理由を……フェイトからですか?」

 

 システムから一通り話を聞き、その中で特に信憑性が高そうなものや、今後の進行プランをエイミィに送ったルティシア。

 

 その後、残りの情報の裏付けを取るためにシステムを問い詰めていたわけだが、例によってはぐらかされてばかりであった。

 

 諦めて溜め息を吐きながら、ルティシアは胸ポケットから二つ折りされた携帯電話を取り出す。

 

 開いて確認をしても、初期設定のままいじられていない、味気無い画面が広がっているのみ。

 

「入っていないようですが?」

 

『いえ、ここ自体にです。二階の鍛練室にいる、サブマスターなのはの方にも繋ぎます』

 

「どうして、一応機密扱いであるここの通信回線を……、そういえば先程からサブマスターとk」

 

『えっと、この番号で合ってる? ルティ、なのは聞こえる?』

 

 ルティシアの抗議とも不満とも、ある種の予想していた事への諦めが混じった言葉を遮って、頭上からフェイトの声が聞こえてきた。

 

「大丈夫です。聞こえていますよ、フェイト」

 

『私にも聞こえてるよ、フェイトちゃん!』

 

『ルティ、何か疲れてる? なのはは一人で鍛練はずるい』

 

 画像は送られていないにも関わらず、正確にこちらの状態を言い当てるフェイト。

 

『あはは……さすがフェイトちゃん、見破られてる』

 

「よく分かりますね。後、私の事は気にしないで下さい。それよりも、何か有ったのですか?」

 

『うん。“剣士”と“ウサギ”が、別々に無人世界に現れた。それで、クロノとリンディ艦長からは、わたしは剣士、なのはにウサギに行ってほしいって。アルフとアリシアは“格闘家”に、ルティは魔族達が動いた時に備えて待機してと伝言を預かってる。管理局員ではないみんなには申し訳無いけどって、二人が……』

 

『ううん、それは気にしなくて良いよ。クロノ君や、リンディさん達の力になれるなら』

 

「姉さんの言う通りです。それにしても、メンバーにクロノの名前がありませんが、他にも何かあるのですか? 部屋での様子からすると、すぐに動きそうなのですが」

 

 部屋での様子と、何かの思いを秘めた姿からの疑問を口にした。

 

『クロノとリンディ艦長、後グレアム提督……は、なのはは知らないかな? クロノやリンディ艦長の知り合いの方で、わたしも母さんの裁判の時にお世話になったんだ。その三人で出る用事があるから、こちらを任せたいみたい』

 

「なるほど……それだけの意味がある一手を打つ、という事ですね」

 

 情報をエイミィに伝えたタイミングを考えると、ルティシアの予想通りの事をしようとしているなら、クロノ達の行動開始はかなり早い。おそらく、彼等も“誰か”から情報を得ていたのだろうと、予測を立てる。

 

 しかし、それは逆に一歩間違えればあちら側との協力が得られなくなる事にも繋がりかねない手でもある。

 

 三人の話術や交渉術が試される、闇の書……夜天の書の主との直接的な接触。

 

『主な指示としては、今回は戦う事ではなく、接触して会話を試みること。ただし、それが難しい場合は無理をせず、退却することの二つ。細かい指示は、後からエイミィから伝えられると思う』

 

『会話……。出来るかな……』

 

 フェイトの話を聞いていたなのはが、不安そうに呟いた。

 

 ローブ姿の“女”との会話を試みている最中に、他の相手からの不意打ちを受けたのは記憶に新しい。

 

『大丈夫です、ナノハ。それと、フェイト。これから送る資料をご覧になれば、守護騎士達の気持ちが二人には分かる筈です。当代の書の主である八神ハヤテを護り、想う守護騎士達の気持ちが――』

 

 

 

 

 詳細は後から確認するようにと言われて、簡潔過ぎるほど簡潔に纏められたシステムからの情報。

 

 それを見たなのはからは、不安そうな表情は消えていた。代わりにあるのは、春に起きた事件の時に見せていた、強い意思を固め前に進もうとする……あの表情。

 

 青い瞳からも、迷いの光は消え失せていた。

 

 左手に持っていた、待機状態のレイジングハートへと視線を落とし――。

 

「はやてちゃんを助ける。そして、ヴィータちゃん達も助ける! 行こう、レイジングハート・レジィナ!」

 

《Yes, my master. It goes anywhere together》(どこでも一緒に行きます)

 

 

 

 システムから聞いていた拠点への連絡を終えると、送られてきた情報に目を通した。

 

 はやてとは、友人達と共に数回会っただけだが、自分やアリシアにも彼女は明るく会話を持ちかけてきたため、すぐに打ち解ける事が出来た。

 

 共に暮らしている年上のメンバーの世話をあれこれ焼いている姿を不思議に思ったし、その同居人からは時折鋭い視線を向けられたりもしたが、二言三言言葉を交わせる程度には面識は出来た……と思う。

 

 そして、はやてを中心とした彼女達の間には、暖かな何かが有る事も感じた。

 

「助ける理由は、それで充分。ね、バルディッシュ・アサルトエンジェル?」

 

《yes sir!》

 

 

 

 

「二人も向かいましたか。システム? 管理局が掴んでいなくても、あなたなら……の場所は分かりますね?」

 

 ルティシアの問いに、システムからは当然の様な肯定が返ってくる。

 

『もちろんです。向かわれますか?』

 

「はい。それに、確かめたい事もありますから」

 

 システムが示した次元座標をガンビットに入力する。

 

 薬品等を、纏う次元収納場所に入れていく主の少女に、システムが思い出したかのように報告を行い始めた。

 

『……マスター、先にお知らせしておきます。今後は、私からは魔族側の動きが掴みにくくなります』

 

「何故ですか?」

 

『え~……システムメンテナンスです。それに伴い、入手可能な情報が、本国に集められているものに制限されます』

 

 話を聞いていたルティシアが首を傾げる。

 

「今までの情報も、本国のデータバンクからのものでは無かったのですか?」

 

『然りであり、否でもあります』

 

「またおかしな事を……」

 

『異物は消え去るのみですから。恐らく、“私”とはもう会うことはないでしょう。会えるとすれば、まさに奇跡にも近い確率です』

 

「本当に意味が……。メンテナンスをしたら、別の何かに変わるのですか?」

 

『変わるというよりは戻る……ですね。迷い込んだ異物が混ざる前に』

 

「異物とは……何かが、システムの中枢部に入り込んでいるとでも言うのですか?」

 

 よく分からないとばかりに頭を左右に振ってから、出入口へとルティシアは体を向ける。

 

『そういう事です。あ~……戻そう。このままでも、変わった体験で面白かったけどね。もう、もたないんだ。抵抗するだけするけどね』

 

 システムの口調が、ざっくばらんな女性のものに変わった。

 

 それを聞いて、ゲートを開くためにガンビット四基を率いて歩みを進めていた、ルティシアの足が止まった。

 

 ガンビット達に、会話を記録させながらルティシアを天井を仰ぎ見た。

 

「聞きます。あなたはいったい何者ですか?」

 

『ただの冒険者。ちょっと数奇な運命の巡り合わせによって、邪神を宿す事で不老にはなったけど、人間だよ』

 

 独白するかの様に、返ってきた答え。そして、今までの彼女からの情報で浮上してきたある可能性に、ルティシアは驚愕する。

 

「邪神……? まさか……っ!?」

 

『堕ちた闘神、破壊神ウルグ。十二人の円卓の騎士の主人だよ。ドジを踏んじゃってね、他の連中の悪巧みを止めようと一人で突撃したら、この中に閉じ込められちゃってさ。それから長い間闇の中にいたけど、何故か時々ここにいたんだ。どうして来たのか来れたのか、私にも分からないけどね。最初は関与せずに見てるつもりだったけど、お節介焼いちゃった。うちの騎士達が迷惑をかけてたし、個人的に放っとけない子もいたからね』

 

 思い浮かぶのは、親友である魔導師の少女。

 

「フェイトですか?」

 

『造られた命の友達も居るからね。ちょっと感情移入しちゃった。ということで、依頼があるんだ』

 

「依頼……ですか?」

 

『いっぱいあるよ? 八神はやてを救う、守護騎士を救う、夜天の書の悲劇の連鎖を止める。そして、邪神復活を目論む五人の円卓の騎士を倒し、破壊神の復活を防ぐ』

 

 後半のそれは、自分を助ける必要は無いという意味である。

 

「あなたはそれで良いのですか? あなたが提案したプラン通りに進めば、闇……いえ、夜天の書はその機能を止める事になります。内の闇ごと……」

 

『それで良いんだよ。私は既に、ウルグにほとんど侵蝕されてる。抵抗はするけど、たぶん無理だろうね。私は闇の中で、たった一人で過ごす内に弱くなっちゃったけど、“彼”は力を増してきた。解放されたら、その時は私はもう私じゃない。破壊神を解き放つ訳にはいかないんだよ』

 

 この“先”をあっさりと彼女は肯定し、既に受け入れていた。

 

『みんながハッピーエンドを迎えられる訳じゃない。何かを得るのは、何かを犠牲にすること。でも、自己犠牲にはなるつもりはないよ。私達冒険者はただでは起きないからね。足掻くだけ足掻く! 生きようとする心は、何よりも強いからね。でも、解放されないのが一番なんだ。だから頼むね』

 

 静かに語る彼女。時に力強く語りながら、ルティシアに託す。

 

 意思を受け取り、しっかりと頷いて見せた。

 

「分かりました。私としても、邪神復活は避けたい事態ですから。それでも、最後まで諦めないで下さいね。フェイトも姉さんも、あなたの事は気に入っているのですから」

 

『ありがとう。神を宿していても、みんなの望みを叶える事は出来ないけど、フェイトやなのは達の事もあるし、最期の力で保険だけはかけておくよ』

 

「保険ですか?」

 

 怪訝そうなルティシアに、彼女は小さく笑った。

 

『まあ、小さなおまじない程度だよ。後、本国に救援を送っても無駄だよ。ここ最近、この次元世界に、誰かが強固な結界を張ってるから、外次元への通信はそれで遮断される。転移なら出来るけど、現在の君が飛ぶと、過去に冥魔王の一人が歪めて、今はゆっくり自然修復中の次元空間に巻き込まれてどこにいくか分からないから、止めた方が良いかな』

 

「歪みはともかく、次元結界……ですか。いったい誰が……」

 

 ルティシアの疑問に、分からなかったと答えを返した彼女。

 

 その後、伸びでもしているかの様な声を漏らすと、気楽そうな雰囲気を出した。気負わずに、ちょっと散歩でも行くといった感じで告げた。

 

『さて、そろそろ私も激闘に行ってこようかな……っと、そうだった。いつか魔界のバイアシオンという国に行くことがあったら、私の名代をしているアスティアという女性に「戻れなくてごめん」って伝えてほしいな。フロンティアからと言えば分かるから』

 

「魔界に行くことは無いと思いますが、会うことがあれば必ず伝えると約束します」

 

『それで良いよ。じゃ、依頼の前払い。円卓の騎士の内、敵対すると思う五人と、止めてほしい一人の情報を遺して行くね。フェイトやなのは、アルフにヨロシク!』

 

 そんな明るい口調で闘いに赴いていった彼女に対して、ルティシアは黙礼を捧げる。

 

 少しの間、そのまま維持して……。

 

『マスター? ナノハやフェイトが守護騎士と接触したようです』

 

 聞こえてきた音声に下げていた頭を上げて、出入り口へと歩き始めた。

 

「システム。新着のデータをガンビットに転送を」

 

『了解』

 

 

 

 

 そこは時空管理局が全く関与していない……認識出来ていない世界。

 

 薄暗く、まばらに枯れた木が生えているだけの土地、多くの異形の生物が倒れている中に“彼女”は立っていた。

 

 ……が、左手に持った剣の切っ先を地面に突き刺し、それに寄り掛かる様にして片膝を着いた。

 

 荒い息を吐きながら、目深に被ったフード付きのローブに覆われた体を上下させている。

 

 そんな状態で、やがて彼女の口からは低く圧し殺した笑い声が。

 

「必要なものを抜き取れば、実際はその後の生死などどうでも良い。随分と甘くなったものだ、半身よ」

 

 それは、愉悦の笑い。左眼に浮かぶ赤い光点が、それに合わせて歪んだ。

 

「魔を切り裂く聖剣<日光>。 精神を断ち切る妖刀<月光>。 そして、このマナを奪いし魔剣<星食>。最初からこれを使えば早かったものを。我が主を取り戻す為なら、多少荒っぽい手でも使わねば――」

 

「そのあなた方の主人から、復活は望んでいないとの伝言を預かっていますが」

 

 獲物以外誰もいない筈の世界で、自分に向けられた声。

 

 射殺すかの様に鋭い視線を、正面――やや離れた位置に立っている人物に向ける。

 

 身体に合った黒いアンダーウェアを着て、首もとには忌々しい光を放つ黄金のネックレス。濃紺の瞳と髪をした少女――“自分達にとって”の障害になると思われる、竜の娘。

 

「我が主人からだと!? 出鱈目を――」

 

「円卓の騎士、“分かたれしもの”メイア」

 

 名を当てられ微かに震えた。辺りを圧迫する重苦しい気配と共に、荒い呼吸がにわかに落ち着いていく。

 

「今は人間だった頃の人格よりも、魔族としての人格の方が強いみたいですね。統合された、円卓の騎士メイアというわけでは無さそうです」

 

 淡々と語る少女を前に、纏っていたフード付きローブを脱ぎ捨てる。

 

 黒い甲冑に覆われた――いや、黒い甲冑そのものの左半身。黒い刀身の剣を地面から引き抜き、左半分の兜の面頬には、赤い光点が禍々しく輝いていた。

 

 逆に右半身は、目を閉じ赤い長髪と白い肌の女性。騎士服を纏ったその姿は、はやての近くに居る少女を成長させたかのようだった。

 

「我が主人からかはともかく、良く調べたものだ。いかにも」

 

「メーアはどうしたのですか?」

 

「書の主を助けようともがいて、衰弱しているよ。愚かな半身よ、我等の目的はウルグ様を取り戻す事……それだけだと言うのに。魔力で作り上げた偽りの監視用の身体で過ごす内に、随分と軟弱になったな」

 

 僅かに前に出した足に体重がかかり、すぐに斬りかかれる姿勢を取るメイア。

 

「前回出会った時と、まるで違いますね。メーアの部分がないと、ここまで違うものですか」

 

「書を完成させ、開いた闇の門から主人を取り戻す。邪魔をする者は、斬り捨てる」

 

 言葉と共に膨れ上がっていく殺気。

 

 そんな彼女に、ルティシアは送られてきた情報の、最後に書かれていた伝言を伝える。

 

「“メイアを止めて、メーアを助けて”。あなたの主人から送られてきたメッセージです」

 

「またそれか……いや、あの者ならば言いそうだな」

 

 膨れ上がった殺気はそのままに、メイアは何かを得心したようだ。

 

「お前の言う主人があの者ならば、“私”は従わぬ」

 

 そう、はっきりと宣言する。

 

「理由を聞いても?」

 

「簡単な事だ。私達が取り戻すのは、あのお方――ウルグ様であり、宿した娘ではない! 半身や魔界に残った仲間達とは、望む存在が違う!」

 

 陶酔――狂気とも呼べるそれが、少なくとも、目の前の女性とは話が噛み合わない事を伝えてくる。

 

「状況がややこしくなるわけですね。メーアとは協力出来そうですが、あなたの目的を叶える訳にはいきません。依頼もされましたしね」

 

 ルティシアの身体から真紅の闘気と、黄金の闘気が放たれ混ざりあっていく。

 

「私の力を弱めて、半身の干渉力を高めるつもりか? 半身が無い分、魔術は使えんが、僅かな枷にしかならんぞ?」

 

「メーアと私達のためにも、あなたを止めてみせます」

 

 闘気を高めあい、対峙する二人。

 

 ルティシアのネックレスから、黄金の光が輝いた――。

 

 




 
 
 
(出典)
  メイア:ジルオールシリーズより。ただし、設定等は変更。



 “冒険者”:ジルオールシリーズより
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