……が。
八月一日(月)
〔はやて〕
『今日から日記を付けることにした。
石田先生へのお土産を探しに訪れた旅館内の売店で、綺麗なノートを見つけた。購入して部屋に戻ってから、何に使おうか考えて、ふと壁に掛けられてたカレンダーが目に入る。そや、キリもええし、日記にでも使おうかな?
そんな経緯で書き始めてはみたものの、こんなん書くんは久し振り過ぎて、何を書こうか迷う。
読み返した時に、思い出せる内容がええんやろか? それやと、ええと……。
二週間程前に、買い物に行ったメーアが貰って帰った、一枚の福引券。
早速ヴィータを含めた三人で挑戦しに行き、まさかの特等! の、二週間温泉旅行が当たった!
家に帰ったらすぐに他の家族に報告! その後は、旅行に必要な物の準備に大わらわ……やったな。
微妙にあやふやなのは、正直なことを言う……書くと、その準備していた時のことは、はっきりとは覚えてないからやけどな。
今年に入ってから……特に誕生日前後からのわたしの運勢は鰻登りで、どこか現実離れしとったから……。
やたらと黒っぽい格好をした、ちょっと怪しい男の子からメーアを預かって、真夜中のあの忘れられない出会い、わたしの騎士達。
そして、念願の友人達みんなを招いての、誕生日パーティー。
どれも夢みたいな出来事で、今でも時々長い夢を見とるんちゃうやろか? と、思うことがある。
夢から醒めたら誰もおらんかった、とか。
もしそうなったら……わたしは堪えられるやろうか? あかん、一人の時間が長すぎたせいか、今の温もりが無くなることに堪えられそうにない。
あの男の子がメーアを引き取りに来たら、住む所を聞いて、会いに行けるなら行こうかな? ヴィータやみんなも反対せんやろうし。あの子ももう、我が八神ファミリーの一員やしな!』
「あら、はやてちゃん。どうかしたの?」
「あ、シャマル」
明日の帰宅を前に、増えた荷物の発送の手続きを終えたシャマルが部屋に戻ると、足の不自由な主である少女が、車イスの上の簡易テーブルの上で何かを書いている光景だった。
自分の方へと寄ってきたシャマルに、はやてはテーブルの上の物を手に取ると、開いていたページを閉じその表紙を見せる。
「それは、さっき買ったノート?」
はやてがお土産を買いに行った際、付き添いでシャマル(と背負われたメーア)も一緒であったため、今はやてが見せているノートにも当然見覚えがあった。
「そや。何かに使えへんかなと思てな。それで、丁度八月の初めやし日記でも付けてみよかなって」
「なるほど、それは良いですね」
「……日記?」
ここ最近の定番の場所となった寝椅子の上で、メーアが訝しげに呟いた。
「メーアは日記知らん?」
「……知らない」
「日記ちゅうのはな、一日にあったことを記していく……一日の記録帳みたいなものやな。こういうことがありました、みたいなことを書いていくんや」
「……つまり、交戦記録みたいなもの?」
「そんな例えをされると、一気に殺伐としたもんになるなぁ……。まぁ、そんなもん……かな? 日常がそういう人もおるかもしれんしな」
メーアの例えに苦笑を浮かべながら首肯する……も、やはり途中で首を傾げる。
二人の話を聞いていたシャマルが、ポンと手を叩いた。
「それなら、メーアちゃんも時々書いてみるとか?」
「……え?」
「名案や、シャマル! むしろ、メーアだけじゃなくてもええかもな」
驚きの表情でシャマルを見るメーアと、それを見て追い打ちをかけるようにはやてが同意を示す。
何度も頷いているはやてを止めようと、メーアが寝椅子から体を起こして手を伸ばすも、はやては車イスを動かして反対方向へと離れていってしまう。
「みんなが戻ったら、早速言うてみよう!」
「……はやて、私は無しの方向で……聞いてる?」
『旅館の部屋でこれを書いている時に、シャマルから素晴らしい案が!
みんなで書く方式にしてみよう! それがキッカケで、家族仲がさらに深まるかもしれん。
それに、明日は久し振りの我が家。何故かわたしへのお土産を探す言うて、わざわざ遊びに来た旅館で忙しくしとるみんなのために、美味しい物をたくさん作ろうかな?
お土産探しの気持ちも十分嬉しいけど、やっぱりみんな一緒に居ってくれる方が嬉しいんやけどなぁ……
明日も、わたしの大事な家族達と過ごせますように』
〔めーあ〕
『もじ、かけない』
八月二日(火)
〔はやて〕
『え~……今日は色々なことがありすぎて、逆に何を書こうか困る。
昨日のメーアの文も気になると言えば気になるんやけど……
あかん、多すぎるからちょっとずつ書き出してみよう。
まずは、グレアムおじさんに会えたこと! ロマンスグレーという感じの、渋いおじ様やった。
最初は、家族で会いに来てくれたんかと思うたんやけどな……一緒に居った、ニコニコ優しそうに笑うとったナイスバディな女性に、終始無言だったクールビューティな金髪美人。髪の長さ以外は良く似たお姉さんが二人に、生真面目そうな男の子。
この場合、お母さんがどっちか分からんけどな。
温かく、笑顔で家族を見守るポジションのお母さんか、他の三人とは少し年の離れた長女。
もしくは、普段は興味ないねとすましているけど、家族が危ないときには私の家族に手を出すな! 的な。
……どっちもアリやな。
後でこっそりグレアムおじさんに聞いたら、どちらも職場の同僚らしかった。恥ずかしいわぁ。
双子らしいお姉さん二人が娘みたいなものと紹介された。おじさん達との話の途中から、リーゼロッテさんは落ち着きを無くして、リーゼアリアさんに何度も注意されとったけど。なんか、退屈を嫌う猫みたいな感じの人という印象やな。
それで、笑顔とシリアスの切り替えが上手い女性と、名字が同じ男の子は親子らしかった。
今日訪れたのは、おじさんやハラオウンさん――女性と男の子達が働いている、時空管理局としてらしかった。男の子――クロノさんも、そこの執務官という結構偉い立場らしかった。まだ小さいのに凄いんやな
最初に、時空管理局はこういう所という説明を受けた後、本題に入った。
闇の書。
それを聞いた直後に、シャマルやザフィーラが体を浮かせかかったけど、それを押さえて話を聞くことに。
闇の書、本当は夜天の書という名前の魔法の本らしかった。
それについて書かれたプリントを手渡され、青い顔をしたシャマルと一緒に読みながら、クロノさんからの話を聞く。
話の途中に何度も難しい表現があったけど、その度にリンディさんや、おじさんが分かりやすく教えてくれた。
過去に何度も暴走している書を止めるために、現在の主であるわたしと、騎士のみんなの力を貸してほしいという話やった。
シャマルやザフィーラは信用できません! と言うとったけど、書が完成した時の記憶は全く無いらしかった。
クロノさんが言うには、書が暴走する原因となったのは、過去の主達にゃるプログラムの改変。それで、守護騎士達の記憶が消されているのかもしれないと憶測がなされた。騎士達を、蒐集するためだけの道具にするために。
それを聞いたとき、わたしはとても悲しくて、辛うてたまらんかった。大事な家族達が、そんな目にあわされていた事に。
シャマルやザフィーラからも、言葉を濁してはいたけど、否定はされんかった。』
「僕達は君を助けて、書の暴走も止めたい。だけど、これは非常に難しいことなんだ」
そう語るクロノに、リンディやグレアムも。質問に答えながら、はやてへと語り続ける。その顔に笑顔はなく、みんなが真剣な表情を浮かべて、それが冗談では無い事がはやてにも伝わってくる。
はやてがチラリと、何故か一人離れてキッチンの椅子に座るメーアを見ると、彼女もまた難しい表情を浮かべていた。
それがまた、はやてのこの件に対する重大性を募らせる。
彼女が別のことで悩んでいることなど、この時のはやてには知り得ぬことなのだから。
「はやてさんが今と変わらず、騎士のみなさんと暮らせるように、こちらとしても精一杯のことをさせてもらうつもりよ」
「せやけど、急にそんなことを言われても、わたしは……」
補足付きで説明されながらとはいえ、急すぎる話の展開に理解が追い付かず、戸惑いを見せるはやて。
それを見て、リンディとクロノは知らず知らずの内に力が入りすぎていた肩の力を抜いた。
大きく息を吐いてから、再びクロノが口を開く。
「正直、急ぎ過ぎていると僕も思う。本当ならもっと、時間をかけて話し合いをしていかなければいけないことだろう。しかし、それは出来なくなった」
「え、どうしてなんです?」
「書の事を知る第三者と、その者達による……蒐集が行われた」
「そんな!?」
「何だと!?」
クロノの話に反応したのは、闇の書の守護騎士達。あえて言葉をぼかしているが、蒐集されたのは魔導師だと暗に示していた。自分達は管理局とことを構えないように、魔導師を襲わないようにしている。
自分達の使える転移術で跳べる距離には限りがあるため、その範囲内で魔力を持ち、特に狂暴な生物ばかりを狙う。
全ては、はやてを管理局から守るために。
魔導師を襲えば、どんな形で管理局が関わってくるか分からなかったからだ。
野生生物も当然管理局と関わるリスクはあるが、管理外世界で――しかも狂暴な生物からの命に別状はない一時的な魔力低下のみなら、魔導師を襲うよりも遥かにそれはマシな筈だった。
よって、クロノが伝えた内容は寝耳に水のこと。
ただ一人。心当たりがあるのは、自分達に接触してきたあの人物のこと。集めてきたものと表して、これまでに数回魔力の込められた玉を手渡しに来たが……。
「グループの一人が言うには『それ』は事故だったらしいが、書の主が君である以上、その過激な連中が君にどういう接触をしてくるか分からない」
「待ってください。それはフードを被った、ちょっと怪しい人ですか?」
「そうだ。その過激な仲間を止めに来たのかどうかは知らないが、その場に現れた結果として、僕達とは戦闘状態になった」
それを聞いて、顔を見合わせたシャマルとザフィーラの顔からは、動揺の色は隠せない。避けたかった状況である管理局との戦闘状態。
「馬鹿な……それでは、我らのしてきたことは……」
「いえ、ザフィーラさん。少なくともお二人の様子を窺う限りでは、あなた方の預かり知らぬことというのは分かりました」
リンディのそれを聞いて、家族が関わっていないことに安堵し、ホッと息を吐いたはやて。
「だが、その過激な連中が何をするか分からないというのも事実だ。よって、書の主であるキミに協力してほしい」
そのはやての様子を確認した上で、そうクロノは告げた。
『――その時居なかったシグナムや、ヴィータ達が帰ってきてから改めて伝えますがと前置きをして、わたしはクロノさん達に協力する旨を伝えた。
わたしの大事な家族のみんなが、これ以上苦しまなくてもいいように。
その思いは、シグナムやフェイトちゃんから遅れて帰ってきたなのはちゃんと、ボロボロな状態のヴィータを見て決定的なモノになった。
長い間、みんなこういうことをして――させられてきたんかと思うと……
だから、わたしがみんなを助ける! と言うても、わたし一人ではなんも出来んのやけどな。
ルティシアちゃんやなのはちゃん、フェイトちゃん達も協力してくれるそうやし、みんなで力を合わせればきっとハッピーエンドに辿り着ける筈!
それにしても、みんな魔法使いとは。ルティシアちゃんは違う言うとったけど、他にアリシアちゃんも魔法使いらしい。
身近でこれだけ魔法使いさんが居ると、すずかちゃんやアリサちゃんにも特別な力があったりするんかな?
身近と言えば、もう一人発覚したけど……
指摘しても本人はシレッとしとるしなぁ。
雰囲気もそっくりで、結論を言うまでに、ちょっと遠回しな言い方をするのもそっくりなんやから……
うっし! 気合いを入れて、メーアともとことん話すで!
夕飯は素麺にして、周りを色とりどりにしてみた。
明日も、わたしの大事な家族達と共に過ごせますように』
〔シグナム〕
『主はやて、重ねて申し訳ありません。そして、必ずあなたを救ってみせます。
しかし、主はやてに指摘されるまで、メーアとあの騎士が同一とは分からなかったのですが』
〔シャマル〕
『はやてちゃん、黙っててごめんなさい。
普通の子供にしてはちょっとおかしい……位には』
〔ヴィータ〕
『はやて、ごめん。絶対助けるからな!
あたしはあの怪しいのと初めて会った時に違和感はあったぞ? いきなり馬鹿にされたしな……って書いてたら腹立ってきた!』
〔めーあ〕
『ばれた。あと、にっきじゃない』
八月三日 (水)
〔はやて〕
『今日は、蒐集活動についての確認と、第二回八神家家族会議を行った。
議題は、夜天の書共同作戦について。
早速クロノさん達から送られてきた資料を見ながら、みんなであれこれと意見を言い合う』
「四百ページ分の蒐集を行い、書の管制人格を起動すること。そして、残りのページを埋めて完成させたら、管制人格のあの子と一緒に、はやてちゃんが管理権限を確保すること……ね」
朝食を終えると、ソファーに全員で座り込む。
第一稿と書かれた人数分用意されたプリントを読みながら、シャマルがペンであれこれと、自分達に特に関係あることの書き込みを行っていく。
「ふむ……管理局を完全に信用するかどうかは別にしても、少なくとも我らに不利な条件は書かれていないな。主はやての状態如何では、アースラという艦船の医療室を使わせてもらえるようだ」
「管理局全てを信用する必要は無いだろう。当面のメンバーの見極めだけを行えばいい。巨大組織というのは一枚岩ではないものだ。横槍が入って、主が危険にさらされないように注意を払うべきだろう」
シグナムやザフィーラは、管理局をどこまで信用出来るかの線引きについても意見を交わす。
「蒐集は計画の関係管理局員も随行するって、あくまでもあたし達にだけだろ? メーアの仲間連中はどうしてるんだよ?」
「……私達が狙っていたのは、管理局が把握していない別次元の世界。見張ろうにも、彼ら程度では見張れない」
ヴィータの問いにメーアが疲れた声で答える。もっとも、疲れているのは本体の操作による消耗だけではなく……
「またそないなこと言うて、どうしてそういう表現ばかり好むんや」
「……一般人が急に大貴族の身内にされても、すぐに相応な言葉遣いや仕草が身に付く訳じゃない」
「何となく分かるけど、どういう例えや……うちはそんな大貴族やないよ?」
「はやて~、メーアにはそういうこと言っても無駄だって。あたしがはやてが寝た後に問い詰めても、気付いたら話題逸らされてた上に気付いたら寝てたんだぜ?」
「いや、ヴィータ。寝かし付かされてどうする」
『第一稿を読む限りでは、完成させた時にわたしが書の管理権限を得られるかどうかが要になるらしい。
リンディさんからも言われてたことやけど、一層頑張らなあかんな。
後、五人目の騎士がどういう子かも楽しみや!
大事な家族のみんなと、明日も共に過ごせますように』
〔シャマル〕
『今日は麻婆豆腐に挑戦してみました。
味見はしなかったけど……甘い麻婆豆腐も良いもの……よね? メーアちゃんは普通に食べてくれたのに。みんなからの視線が痛いわ……』
※ ※ ※
八月九日 (火)
〔シグナム〕
『主はやてがここ数日忙しくしているため、代わりに私が書こうと思う。
彼女――主はやてに、リインフォースと名付けられた五人目の騎士。
我らと同様に、彼女もまた主はやてを想う気持ちは強いのだが、作戦参加については余り積極的ではない。
もちろん、臆病風に吹かれてなのではなく、主を大事に想うが故に。
それは私達も同様なのだが、主が決めたのならそれを全力でサポートするべきではないだろうか?
そんな彼女に、主はやては根気強く語り続けている。
全力でと言えば、蒐集作業を共に行うフェイトテスタロッサと、バルディッシュのコンビはかなり手強そうだ。あちらもそう思っていたらしく、この一件が終われば手合わせをすることにした。
とても楽しみだ。
高町ルティシアも剣を扱うそうで、高町の家族もまた剣を使うそうだ。こちらもいつか拝見したいものだ。
メーア……メイアの方も剣だったな。
話を聞く限りでは、メーアについては随分複雑な状況になってるようだが、こちらからの協力は断られた。
彼女の仲間にはかなり強行な者達がいるらしく、テスタロッサ達や高町達を襲ったのがそうで、現在その者達はどこか別の次元世界で蒐集作業を行っているようだ。
メーアの元には、蒐集をした魔導球と言う物が送られてくる。正直、使うのは躊躇うが……
管理局側の艦、アースラの改修とテスト航行も無事終えたようだ。主はやてが検査に招かれ、私とシャマルが同伴したがやはり容態は芳しく無いようだ。
リンディ提督やクロノ執務官とも話をしたが、現状では完成時に主はやてがリインフォースと共に、管理権限を完全に掌握出来るかどうかにかかっているらしい。
管制人格であるリインフォースと、防衛プログラムからの承認。
得られぬと思われるそれ、一番の元凶である暴走しているプログラム――防衛プログラムを排出し、これを排除。核となる部分は、最後にアースラに搭載されたアルカンシエルで消滅させる。
主以外には触れられないため、他の者には出来ないプログラム改変を、どこまで出来るか……。
願わくば、皆が揃って無事に終われば良いが。
闇の騎士、どう動く?
リンディ提督から、場所はまだ検討中だが二十日頃を目処に、作戦を行うとの連絡を受けた。
時間は余り無いようだ。
シャマル、塩と砂糖だけは間違えないでくれ』