魔法少女リリカルなのは~竜の国の社会勉強録~   作:ショウマ

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その71        2激闘

 

 

 ミッドチルダの魔法を扱う魔導師達と違い、シグナム達――ベルカ式の魔法を使う者は騎士と呼ばれる。

 

 特に一対一での闘いに重きを置くベルカの騎士達は、その舞台では負けはないとまで言われる強さを持つ。

 

 その強さの内の一つが、ベルカの騎士の多くが扱うデバイス。

 

 アームド(武器型)デバイスという名の通り、武器としての性能を重視しており、その分なのは達が扱うミッド式のデバイスよりも魔法のサポート能力では劣る。

 

 その違いは、ベルカ式のデバイスの多くで採用されている、魔力の籠った弾薬――カートリッジを扱うこと。

 

 それを消費することで一時的だが多大な能力を得ることが出来る。

 

 純粋な火力アップや、あるいは……その外見を変化させたり――

 

「主はやての邪魔はさせん! レヴァンティン!」

 

《schlangeform!》

 

 シグナムが掲げた剣――レヴァンティンの柄からカートリッジが一つ排莢されて、その刀身が変型していく。

 

 刃を持つ鞭状の剣――連結刃へと。

 

 攻撃能力が皆無に等しいシャマルと、主の少女を護るために振るわれる刃の風が、迫る異形の存在――魔族達を次々と切り裂き、黒い塵へと還して行く。

 

「まずは雑魚から! 唸れ、アイゼン!」

 

《raketenhammer!》

 

 カートリッジを消費して、ヴィータの雄叫びと共にグラーフアイゼンのハンマーヘッドの片方から、魔力を推進剤の燃料に噴射――その名の通りロケットの様に吹き出しながら敵陣の只中に飛び込んで行く。

 

 横殴りの強打の一撃が、魔族達を吹っ飛ばしながら塵へと。

 

 そのまま、ハンマーを振り切った姿勢で動きを止めたヴィータに、四方八方から飛びかかる――あるいは、その仲間ごと魔法を放とうとする魔族達を……

 

「攻撃も、魔法もさせん!」

 

 ザフィーラが解き放った鋼の軛(くびき)が、地上や空にいる魔族達を刺し貫き、その動きを拘束していく。

 

 それを見据えて――剣の将に護られた夜天の王が、剣十字の杖を振り上げる。

 

 現れるのは、白い頂点に円を持つ正三角形――ベルカ式の魔法陣。

 

「何やゲームみたいやけど……わたし達の邪魔はさせんよ! な、リイン?」

 

『そうですね、我が主。私達が望むのは……この先です』

 

 はやての身体を、淡く白い魔力光が包む。

 

 はやての持つ魔力資質である“遠隔発生”と、リインフォースが持つ“広域攻撃”の能力が合わさって、魔法が解き放たれる……!

 

「そや。せやから……遠き地にて闇に沈め」

『デアボリック・エミッション!』

 

 はやてからは離れた位置にいる、軛に捕らわれた多くの者達をまとめて、黒い球体が飲み込んでいく……。

 

 やがて球体が消え去った跡には、広範囲に渡って抉られた荒野が残るのみ。

 

 それから逃れることが出来た者にも、魔力で生み出された無数の光の剣が襲いかかってゆく。

 

「スティンガーブレイド! ……みんな、固まりすぎず、広がりすぎない距離を! 誰かのフォローに回れる位置を保つんだ!」

 

 スティンガーショットとバインドも組み合わせながら、クロノが指示を飛ばす。

 

 

 

 ――おかしい。

 

 最初にそれを感じたのは、ルティシアだった。

 

 この場では、冥魔王達を外すと、魔族達に詳しいのは彼女だけの為、当然ではあるが……

 

 獅子座の黄金聖衣を纏って黄金の小宇宙( コ ス モ)を燃やし、純白のマントをひるがえしながら、次々と現れては群がる魔族達を光速拳で薙ぎ倒しながら、頭の中では疑問が浮かぶ。

 

 今の所は順調に……いや、簡単に倒せ過ぎていた。

 

 ちらりと上空に視線を向ければ――

 

 炎や雷、氷の(つぶて)に闇の弾丸が蒼い空を彩る。

 

 だが……届かない。

 

 彼女の――なのはの身体に害なすことなく、見た目のバリアジャケットとは別に、身体全体を覆う不可視の防御フィールドに阻まれて。

 

 一匹の魔族がそれを見て自棄を起こしたのか、火炎系の魔法を解き放つ。

 

 それを見た周囲の者達も、次々と同じ魔法を発動する……相乗効果で焼き尽くしてしまおうと。

 

 紅蓮が空を染める。

 

 殺った! 異形の面相に、ニヤリと狂笑を浮かべる魔族達の前で、やがて炎が引き始める。

 

 魔族達は普通の人間に比べ、桁違いの魔力を持つ。

 

 例え最下位の者でも、ルティシアの魔晶石よりも豊富な量を。

 

 バリアジャケットや、その周囲の防御フィールドは、本人の魔力に生成及び依存する。

 

 そして――

 

 人間如きに、魔族達の眼が驚愕に見開かれる。

 

 晴れ行く炎の中から、ひるがえる濃紺のマント。

 

 足下には桜色のミッド式魔法陣と、靴から生えた桜色の羽。

 

 露になる、傷一つ無い白いバリアジャケット。

 

 瞑目して、左手に構えたレイジングハートの先端には、取り巻く帯状魔法陣と桜色の光。

 

 元々多い魔力量を持っていたなのはに、今はレイジングハートに異界の力――聖 宝 石(セント★ジュエル)が組み込まれ、その力はいや増している。

 

 例え、今の様にクォータードライブでも……モードチェンジをしていなくても、あの時システムが語ったように動力源からの膨大な力は、魔導師としてのなのはの力になってくれている。

 

 右手を添えて、前方へとレイジングハートを向けたなのはの目が、ゆっくりと開かれる。

 

 何かを感じて後退りする魔族達を、緑光に輝く……魔力で編まれた鎖が縛り上げる。

 

 もがく魔族達が、ユーノのバインドを破るよりも早く――

 

「レイジングハート!」

 

《divine buster barrage》

 

 蒼空を切り裂いて、拡散しながら放たれた桜色の光の本流が、レイジングハートが定めた的を正確に射抜いていく。

 

 魔族とは対極にある力を源とする光の柱は、非殺傷設定であっても眼前の者達には致命的な一撃をもたらした。

 

 もう一方の蒼空でも、本来は相手から得る筈である絶望を、魔族達は自分達から感じていた。

 

 当たらない。

 

 放つ魔法の数々が、金色の疾風にかすりもしない。

 

 逆に、金色の光の尾を引きながら……黒いマントを靡かせる疾風が駆け抜ける度に、死神の鎌が自分達の存在を刈り獲っていく。

 

 そして、そちらに気を取られ過ぎると橙色の突風が、襲いかかってくる。

 

 大切な主人である少女から、魔の者とは対極にある力を両の拳に付与されて、疾風に足を止めてしまった者達に容赦無く叩き込んでいく。

 

 間近で仲間を襲った突風――アルフへ反撃しようとしても、既に彼女はその場を離脱した後。

 

 そこに残っていたのが小数であれば、そのまま彼女は攻撃を続けていただろう。

 

 しかし、ある程度の数が居るとすれば――

 

 空色の天使が、中空で白い翼を広げる。

 

 週に一回の日曜日、フェイトと共に母と会える時間。

 

 アルフやリニスも含めて、テスタロッサ家の水入らずの時間。

 

 ルティシアやなのはを一度誘ったことはあるが、せっかくの時間だからと二人は遠慮した。

 

 プレシアの勤労奉仕が終わった後に、姉妹が普通に家族で暮らせるようになったら、その時に改めて……と。

 

 今はまだ貴重なその時間を、邪魔したくないという二人からの心遣い。

 

 家族の楽しい団欒の時間、研究職に進むと言う割には少々……本当に少しばかり勉強を苦手とするアリシアに、プレシアから出された魔法の課題。

 

 普段の練習を指導出来ない分を、二人と縁がある姉妹とよく一緒に居るユーノに頼むことにはなってしまったが、快く引き受けてくれた上に教えることが上手い彼のおかげで、アリシアの魔法も上達してきた。

 

 プレシア達に成果を報告する度に誉められて、調子に乗った彼女が母達を越える技術者になると見栄を切ってしまい、大量の課題を出されて後悔してしまったのもつい最近の出来事である。

 

 課題とはいえ、母親と触れ合うアリシアを羨ましそうに見ていたフェイトにも、プレシアはきちんと課題を出した。

 

 優しく頭を撫でながら出された課題は、友人をたくさん作ること。

 

 その課題を聞いて、アリシアから羨ましそうに見られていたのを、アルフとリニスが並んで微笑ましく見守っていた。

 

 ――はやてさん達が、家族でずっと仲良く暮らすのを楽しみにしているのなら、それは私達も同じ! それが、どれほど待ち遠しい時間かも、良く分かってるから……

 

「だから……その邪魔はさせないよ!」

 

 アリシアのその叫びに、空色の甲冑という外見の巨人――天使ラミエルの顔、兜にある十字形の面貌の奥で、二つの光点が灯る。

 

 アルフの姿を見失った集団に、右手に持った長大なライフル銃は既に向けられていた。

 

 アリシアが構えた銃の引き金を引く指に力を込めると、天使の指も連動して動く。

 

「ラミエル! フォトンバレット……バーストォ!!」

 

 超長距離から放たれた、ラミエルの中で魔力が圧縮され赤色に変化した銃弾は、終ぞ気が付かれる事は無かった。

 

 瞬きする程の時間で集団の真ん中に着弾すると同時に、そこに込められた力を解放! 爆発と閃光が巻き起こる。

 

 射撃後は、持たされている甘く味付けされた魔力の実――黒いロングコート状のバリアジャケットのポケットの中に、纏った後から小袋ごと放り込んだそこから一粒取り出して、飴と同じそれを口に入れる。

 

 甘さが口の中に広がると、今使ったばかりの魔力が回復していく。

 

 アリシアの魔力量は、なのはやフェイトに比べるとかなり少ない。

 

 対してラミエルを用いた攻撃には、彼女の魔力をかなり消耗してしまう。

 

 変わったデバイスを使いたがった、彼女の自業自得ではあるのだが……。

 

 プレシアの記憶にあったこのデバイスを、リニスがかなりの改良を加えながら復元及び完成させたが、燃費効率はまだ多少難が残っていた。

 

 その点を、作製したリニスはもう少し時間があればと嘆いていたが、それでも初使用の時よりも……短期間でかなり楽にはなっている。

 

 口の中で舐めている間に回復していく量で、継戦出来る程に。

 

 アリシアがデバイスに仕込まれた仕掛けをいじると、他者からはアリシア――ラミエルの姿が見えにくくなる。

 

 リニス曰く、幻術の様な物らしい。

 

 よって、魔族達は緩急二種の風と不意を突く狙撃に、ただただ翻弄されることになる。

 

「フェイトとアリシアがやるというなら、あたしもやるだけだよ。それに何より、あたしはこいつらが嫌いだしね!」

 

「最後まで諦めない。必ず、道は開けるはず」

 

 

「――ライトニングプラズマ」

 

 閃光が走る。

 

 縦横無尽に、まるで獲物に爪を振りかざすかの様に光が駆け巡る……やがて、狩りの時を告げる獅子の声が鳴き止むと、獲物は一斉に物言わぬ塵へと変わる。

 

 おかしい……。

 

 幾度目かの疑問が、ルティシアの脳裏に浮かぶ。

 

 既に、かなりの数の下位魔族を倒している。

 

 そう……この場に居るほとんどの魔族は、中級が1:4程度に混じっている位で、ほとんどが下位魔族ばかりなのだ。

 

 円卓の騎士程の者達ならば、上位魔族で占められていてもおかしくは無い。

 

 彼等にとっても重要な筈のこの場面で、何故下位魔族を使うのか?

 

 拠点で、魔族について僅かばかり学んだなのはとフェイトはモードチェンジを温存し、執務官としての経験則からクロノも、違和感を感じている。

 

 飛びかかって来た魔族の一体に、足首から先を紅い闘気で輝かせながら回し蹴りを叩き込み、また一匹塵に変わる。

 

 なのはやフェイト達とはやや離れた空を見上げれば、異質に捻れた空間と化したそこで、異なる闇の勢力同士がぶつかっていた。

 

 メイオルティスとヴァシュタール、使役している三体を実体化させたビューネイと残る4人の円卓の騎士達。

 

「諦めて、私の糧になったらどうかな? ゴミをいくらぶつけても、そこにいる人間達にすら劣勢なんだしさ」

 

 七枚の盾の様な物を周囲に展開させて、その少女の見た目らしい声で――しかし物騒な内容を話しながら、メイオルティスは理解出来ないという仕草をする。

 

 それを見ても、額に第三の目を持つ蒼い魔人――円卓の筆頭騎士ヴァシュタールの表情には、何の感慨も浮かばない。

 

「元より、あの程度を戦力には数えていない。その程度、分からぬ貴様ではあるまい?」

 

「まあね。じゃ、やりたいことさっさとやっちゃえば? 手間暇かけて、何も出来ないまま終わっちゃうよ?」

 

「出来るのか、メイオルティス? 貴様程度に?」

 

 不敵な笑みで挑発するメイオルティスに、逆にヴァシュタールが侮蔑を含みながら問いかける。

 

 それを聞いて、メイオルティスの片眉が跳ね上がり、ワインレッド色の瞳がその物騒な輝きを増す。

 

「ねぇ、本気……で、言ってるんだよね? 筆頭くん?」

 

 不敵な笑みはそのままに、声のトーンが下がる。

 

「確認しないと分からない程に抜けたか? メイオ、それだから貴様はツメを誤り、大事な局面を落とすのだ」

 

「ふーん……良くわかったわ、ヴァシュタール。ウルグを復活させられず、絶望の余りよっぽど死にたがってたんだね」

 

 低く声音は静かだが、メイオルティスの周囲が視認できない位に歪む。

 

「我ら魔族と、貴様たち冥魔の間の協定があると知っていて尚、仕掛けてきた貴様も充分死にたがっていると、我には思えるがな」

 

「あは。二度と復活出来ない様に、輪廻転生も不可能な位……壊してあげる。それなら、違反を伝えることも出来ないでしょう?」

 

 メイオルティスの髪が、高まる魔力で波打ち始める。

 

「もう一度言う。出来るのか? 口だけなら、言えるぞ」

 

 ヴァシュタールが鼻で笑う――

 

「〈七色光弾( プレミアム)〉!!」

 

 間髪置かず、メイオルティスが怒声を上げると、彼女から放たれた一つ一つ色が違う七発の光弾が次々と、近くにある夜天の書を避けて魔人の身に襲いかかる。

 

 ビューネイと、彼女の相手をしている円卓の騎士達以外の、魔族を含めた他の者達は、その七発分の凄まじい轟音にそちらの方を見上げる。

 

 空間の歪みが収まり、メイオルティスの姿が正常に見える様になる。

 

「――へぇ」

 

 その彼女は、面白そうに目の前の光景を見つめていた。

 

 吹き飛んだ筈のヴァシュタールが、瞬時に再生した姿を。

 

 なのはやフェイト、はやてやクロノ達も、それを見て驚きに目を見開く。

 

 唯一リインフォースだけが、はやてにだけ聞こえる声で『まさか……』と、呟いていた。

 

「なるほどね。そんな小細工もしてたんだ?」

 

「言っただろう? 我らの用意は既に終わっている、と。そして、闇の門は間もなく開かれる」

 

 ヴァシュタールの声には感嘆は感じられず、ただ状況だけを淡々と語る。

 

「リイン?」

 

『分かりました、我が主。彼らは書の無限再生機能を利用しているようです。早急に権限を確保しなければ、何度でも再生してくるでしょう』

 

 管制人格であるリインフォースには、書の近くで交わされる二人が聞こえていた。

 

 主から問われた事に、書から感じる本当にごくごく僅かな違和感についての憶測を伝える。

 

 上の二人の会話も続く。

 

「でも、それは逆にあたしにとっても好都合かな」

 

「ほう?」

 

「キミ達がそれと繋がっているおかげで、あたしの手間を減らせるかも」

 

 あくまでも、強気に――好戦的な態度を崩さず、メイオルティスが告げる。

 

「ならば、貴様もウルグ様に捧げよう。時を操る冥刻王の力を、な」

 

 余裕の態度を崩さぬまま、ヴァシュタールも応じる。

 

「キミらしくない程、好戦的だね。ま、良いよ。本気で相手をしてあげる」

 

 メイオルティスの周囲に展開していた、七枚の盾に嵌め込まれている色の違う七つの宝玉が、それぞれの色の輝きを放つ。

 

「それならここは不便だ。場所を変える」

 

「場所? ふ~ん……何を、考えているのかな?」

 

 推し測る様なメイオルティスの視線にも、やはりヴァシュタールの表情には何の変化もない。

 

 殺気も全て、受け流す。

 

「書に何かあっては、貴様にも不都合な筈。破壊されてはたまらん、それだけだ」

 

「なるほどね。お互いの、手持ちのカードの探り合いか……ジョーカーはどちらにあるのかな?」

 

 そして……忽然と姿を消す七人の人では無い者達。――その場に書を残したまま。

 

「なっ!?」

 

 それを見たクロノが迫る魔族を倒しながら驚きの声を上げるが、どこか禍々しい漆黒の光を放ち始めた書は、確かに上空に残されていた。

 

「はやて、リインフォース! 面倒なやつらが居ない間にやっちゃえ!」

 

 次々と沸き出る魔族達を叩き伏せながら、ヴィータが叫ぶ。

 

『我が主、どうしますか? 何かの罠と思いますが……』

 

 リインフォースに問われたはやては、失敗すればどのみち後が無いことを思い出し、一言「やろ」と呟いた。

 

「罠は分かるけど、あの状態まできてるなら、わたし達はやらないとあかんやろ? 虎穴に入らずんば虎児を得ず、や! いくよ、リイン!」

 

『はい!』

 

 三対六枚の翼を広げ、杖を書に向ける。

 

 バインドが……閃光が……砲撃が……。

 

 はやての邪魔をしようとした魔族達を、仲間達全員がフォローしながら撃退していく。

 

「今……『アクセス』!」

 

 はやてとリインフォースが、書のシステムに介入を行う――

 

『あ……あああああああぁっ!?』

 

 直後、リインフォースの叫び声がはやてと守護騎士達に、思念として響き渡った。

 

 はやての身体から……いや、リインフォースから書と同じ漆黒の光が離れていき、それが書の中へと吸収されていく。

 

「はやてちゃん、リインフォース! 大丈夫!?」

 

 バランスを崩したはやてをシャマルが受け止める。

 

 その周囲に、仲間達が集まってくる。

 

「リイン、どないしたん!?」

 

『力を……奪われました。ユニゾンは維持できますが、戦闘力の大幅な低下は免れません』

 

 リインフォースからは、弱々しい声が返ってくる。

 

「一体、状況はどうなってる?」

 

「持ち主……主に戻っただけさ」

 

 クロノの問いに、楽しそうな少年の声が答えた。

 

「どこにいやがる!?」

 

 ヴィータがリインフォースの様子を見て、苛立たしげに辺りを見渡す。

 

 なのはは、ルティシアが不意に空を見上げたのに気が付く。、

 

「あ、ヴィータちゃん上! 書の所に、誰かいる!」

 

 いつの間にか、有象無象にいた魔族達が消えたその世界で、見上げた空には一人の少年が書の傍らに浮かんでいた。

 

 長めの黒髪に、地球では見かけない服装。

 

 黒で統一した服装に、顔などのそれ以外の白い肌が映えていた。

 

「リインフォースに何かしたのは、お前か?」

 

 レヴァンティンを空に向けて突き付け、静かに怒りを露にするシグナムに、少年はクスクスと笑みを浮かべる。

 

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。君は何者だ?」

 

 怒りで殴りかかろうとするシグナムや、アルフを制してクロノが誰何する。

 

「僕の名前はシャリ。他の世界では東方の博士と呼ばれたこともあったけど、今この場所では関係ないよね」

 

 なのはとフェイトに視線を向けられたルティシアは、静かに首を横に振る。

 

 シャリと名乗った少年はもう一度クスクスと笑った後に、芝居がかった大仰な一礼をして見せた。

 

「ふふふ、ようこそ! 魔王のための血の晩餐会へ! 新たな魔王の誕生を、キミ達に祝ってもらいたくてね」

 

「祝うだと!? そんなごたくはどうでもいい! リインフォースに何しやがった!?」

 

「言ったじゃないか。持ち主に戻っただけだって」

 

 ヴィータの怒声にも飄々とした態度を崩さず、シャリは身振り手振りを交えながら語り出す。

 

「僕は願いを叶えにきただけさ。そう……叶わなかった願いをね。それが、どんなに大きな悲しみをもたらそうとも、どんなに大きな苦しみをもたらそうとも。悲しみを終わらせるために、叶わなかった願いに安らぎを与えるために。それが、僕を動かす幾千万の意思。リインフォースだっけ? 君なら分かるんじゃないかな、この書にある叶わなかった願いの数々を」

 

『そ、それは……』

 

 代々の夜天の書の主たち。それぞれが何かを想い、そして――飲み込まれていった。

 

「魔王というのは元々そうである存在の他にもね、別の存在があるんだよ。それはね、太古の昔より……遥かな未来まで。平和なる時も……混乱の世にも。あらゆる場所、あらゆる時代に。争いの火ダネとなるもの……それが、君達人間が生きている限り永遠に続く感情だよ。その感情を“憎しみ”と呼び、やがて魔王と呼ばれる存在にもなりえるんだよ」

 

 異様な迫力に圧されるメンバーを見下ろし、シャリは笑いながら書に手をかざす。

 

「さあ、君達の願いを叶えてあげるよ。君達の憎しみを力に変えてあげる。破壊神と魔王の力でやりたいことをしたらいいよ」

 

 書から吹き上がる闇が漆黒の光を纏いながら、人の形へと変わっていく。

 

 漆黒の髪と若草色の衣服を身に付けた、女性の姿へと。

 

 







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